休みは休めなんて、意味のわからないナゾナゾのような言葉を向けられて、私はここ半年程、休みになる度に海へと1人漕ぎ出していた。そうして海図や地図を描いて過ごすのが、私の休日の過ごし方となっている。
でも、そろそろマリンフォードから休みの日の内に帰れる近海は描き尽くしてしまった。さて……今後はどうしたら良いかしらと思い、有休の全てを注ぎ込んで1人でのんびり航海してみようかと画策してみた訳よ。
必要な情報をメモしながら進んで、有休全てを旅に費やして、その先の休みになる度にそれを海図に起こす。それをやっていれば、暫く休みの日を潰せるわよねと小さく笑う。
宝玉としての執筆活動は、仕事の合間の休憩時間で充分どうにかなるから……つまり、何もしてない事が耐えられないのよね。何もしてないと、思い出したくもない事が思い出されてしまって、叫びたくなる時がある。
そんな事になれば、おつるさんが気にしてしまう。だから、何かしていたいのよ。
だからこそ、休みなんかいらないのに。ずっと仕事をしていたら、何も考えなくて済むから。
それを分かってておつるさん達は休めと言うから、結果がこれである。私は大切な誰かを傷付ける事を望んだ事なんて、1度もないのよ。
そんな訳で有休全てを使って旅行に行くと言った私に、おつるさんは休日とは……なんて言い出したので、楽しんできますと言い置いて逃げ出して来た。それが悪かったのかな……?
本当なら関わりたくは無かったけど、愚かにも白髭海賊団の旗のある島で暴れる男達を見付けてしまった。それならば白髭海賊団が動く筈だし、私は休みであってと思うけど……。
目の前で被害者が出ているのを黙って見ている事が出来なかった為に、自らその渦中に飛び込んでしまったのだ。白髭の縄張りは、大半が戦う力を持たない人達の島で……悲鳴と呻き声の谺響するそれを、見殺しには出来なかった。
同じロックス海賊団に所属していたのに、こんなにも違うものかと他の四皇を脳裏に描きながら、襲ってくる阿呆な海賊を始末して行く。クリマタクトで感電させて意識を奪うけど、致命傷は与えてないから後で落ち着いたら縛り上げなきゃ。
そう思った時銃声が聞こえて来て、慌ててそれを躱すとそれにより代わりに撃たれた海賊と、私を狙っていた海賊が仲間を切るなんて事態になり、1気に2人が片付いた。……偶然だとは、思いにくいわね。
「助力、感謝します!残りは2~3百人だとは思います」
私の言葉に銃を使う謎の人物は、無言のまま加勢してくれる。明らかに私を避けて行く銃弾に、最初のは試して見ただけかと理解すれば、共に戦う事に何ら不満はない。
暫く共闘した後、動く者の気配が消えたのを確認する。そうして私は紐を用意して、生きている……感電している人達を縛りあげようと歩き出す。
そこで腕を掴まれて視線を向ければ、私はそこに来て漸く誰と共闘していたのかを知る。思わず声を出してしまったのは、この場合不可抗力だろう。
「……!?貴方は」
「おや、俺を知っていたのか。まァ悪いとは思うが、この島を襲ったヤツらについては、全員息の根を止める事が必要でね。縛るのはやめて貰えないか」
付け足すように、無駄な行為になると言われれば、頷く他に選択肢はない。白髭海賊団は、こういう所がシビアだ。
でも、私は人の死ぬ瞬間を極力見たくなくて、それなら後はお任せしますと言ってその場去ろうとした。なのに、腕を掴まれたまま離して貰えず、それどころか引き寄せられるとそのまま胸に閉じ込められてしまう。
何を考えているのかと視線を向けると、間近に見える美しい顔が優雅に微笑む。そして、小馬鹿にした様子で唇を動かした。
「……人の死ぬ所を見たくないってところかい?」
「だったら何?」
「甘いな。戦いに身を置いていて、それは許されねェ甘さだ」
……分かってる。でも、悪人でも、更生する事はあるもの。
産まれた瞬間から悪人な訳じゃない。事情や理由があって、罪を重ねてる人もいるのよ。
昔は悪い事してたけど、今は村人を守る立場になった……。そんな人も沢山居るし、生きる為に、他の選択肢を持たない人もいるのよ!
そう思ってキッと強く睨み付けると、イゾウさんは優し気な顔で笑う。それにより、睨む事さえできなくなった時、言葉が降って来た。
「なら、見なくていい。その綺麗な心は、そのままで居るといいさ」
どう言う意味かと聞こうとした直後に、腹部に衝撃を感じて、そのまま私の意識は暗転する。何がどうしてそうなったのかさえ、分からないままに。
意識を取り戻すと、知らない部屋に居た。身体を動かすと左手がおかしくて視線を向ける。
海楼石だろうと思われる手錠が左手首に付けられていて、その先には鎖が繋がっている。ただ、現在位置が明らかにベッドの上であり、大きな怪我はしてなかったとはいえ、治療された跡を見れば安全の為の対処だろうと理解した。
この世界では、正体不明な相手に対して、このような対応をするのは自衛の為にも仕方の無い行為だろうと分かるから。でも、私は能力者じゃ無いから効果無いんだけどね。
そう思って髪留めを外すと、手首にある手錠を外す為に指先を動かす。海楼石の手錠でも、鍵穴があるのならば私に外せない物はない。
当たりの感触に、良しと思ってそこを刺激すれば落ちる手錠。それにより開放された手首には、跡も残っては居ない。
「見事なもんだね」
「……目的は?」
「おや、会話を楽しむ余力もないのかい?」
「ありませんね。海賊であるのは分かっていますが、民間人を攫うタイプとは……驚きました」
内心の動揺を隠す為に即座に返した言葉は、揶揄うような言葉により無駄だと言われているような気がしてしまう。それでもキッと睨むように見据えれば、イゾウさんは民間人?と言って鼻で笑った。
それが、妙に癪に障る。まだ、私が誰なのかを知られては居ない筈だと言うのもあるから、余計に。
そんな私の苛立ちを軽く笑って躱す様子に、敵わないと痛感させられる。格が、違う……!
シャンクス程遠くないけど、ベックやヤソップを敵に回したような感覚に背筋に冷たいものが走る。勝てる筈が、無い。
「海兵さんを世間では、民間人とは呼ばねェと思うが?それに、平じゃねェだろ」
「何故、海兵だと?」
「質問に質問で返すのは、良くねェな。……だがまァ……白髭海賊団の隊長に対してその質問は、愚問に該当しないかい?」
揶揄うような笑みに、今はもう拘束なんてされてないのに逃げ道が見つけられない。有休使ってるから、暫くは私が帰らなくても誰も気にしないだろうと考えたら、助けも期待出来ないわ。
正義のマントはしてないし、スーツ姿でも無い。普段は内勤で私を海兵だと知るのは、マリンフォードに住む人達が精々の筈なのに。
「……そうね。でも、私の階級までは調べられなかったって事でしょ」
「将校なのは間違いないと、判明している。正義を背負うお前さんを見てるからね」
「見てる?」
「……珍しいタイプだと思ったから、記憶に残った。息をするように自然に、弱者を庇い戦う姿は美しかったよ。だが……調べても情報が中々出て来ない上に、海軍本部から出るのも僅かな機会で、移動も海軍本部から半日の範囲内と来れば……会話をするのは無理かと思っていたがね」
だとするならば、今回有休使って遠くまでなんてしたのが仇になった。おつるさん、ごめんなさい……!
私に何かあれば、責任を感じるだろう。そして何よりも、傷付き悲しむだろうとおつるさんを思い、故郷にいる家族を想う。
「それで、私をどうするの?人質にはなり得な「俺の女になるか、白髭海賊団の手札になるか、どちらが良いか選ばせてやるよ」」
重ねて告げられた言葉に、動きが止まる。どうしたら、いいの?
でも、まだ大丈夫。私の価値を知られてはいない筈よ。
徹底した情報管理の元、宝玉である事も、サイクロンの発生に気付ける事も隠されてる。私は戦えない海兵でしかない。
「……だ、から、私は人質にはなり得ないのよ。単なる海兵の1人だもの」
「海兵の1人でしかないのならば、隠して守ったりしねェだろうさ。そうだろう?」
そう言ってゆったりとした足取りで近付くと、私の顎に長い指を這わせてグイッと上向かされる。強制的に合わせられた視線に、瞳が揺れそうになるのを抑え込めばふっと笑われた。
「……本当に、いい女だな。〝宝玉〟さん。ウチのサッチを助けてくれて、感謝してるさね」
「なん、の……はな「調べはついてる。エースの姉でもあるね?」」
体が震える。どうしたらいいのか分からない。
どうやって調べたのよ!?
でも、そうよ。落ち着いて私。
エースの姉だと知ってるなら、それを理由に開放されるかも。まだ、エースの為にも海軍を辞める訳にはいかない。
「そうよ。流石は白髭海賊団ね」
「それで、どちらを選ぶ?」
「あらヤダ。どちらも選ばないわよ。エースの姉であり、恩人である私に、何かをするとは思えないもの」
「甘いな……。エースは可愛い弟だが……俺は、お前さんが欲しくてチャンスを狙ってたんだぜ?」
「え?」
意味が分からずにその顔を凝視したら、その隙に服が引き裂かれる。何事かと思いながらも咄嗟に逃げようとしたら、簡単に組み敷かれ海賊らしい笑顔を向けられてしまう。
「やっと手にしたんだ。このまま部屋から逃がすつもりはねェさね。……1生、な」
引き裂かれた布が宙に舞うのを見ながら、抑え込まれる身体は何も反応出来ない。その状態で、耳元に囁かれる言葉を脳が認識する事を拒む。
でも、これは現実で……。こんな事なら、どこかで1度経験しとくんだったと思っても遅い。
初めてだから怖いとか、そんな甘い事言ってられないのは分かってる。海賊に捕らえられた海兵の末路は、女ならばこうなるのはわかりきっていた。
「……それが、白髭海賊団の隊長として、誇りを穢さぬ行為だと言うのであれば……どうぞ、お好きに」
言葉と同時に瞳を閉ざせば、胸や腰を撫でていた手が動きを止めた。抵抗するつもりはないと言うのに、いったい……?
「クッ……ははっ!」
「え?」
笑い声に驚いて眼を開けば眩しい物を見るような顔でイゾウさんが私を見て、壊れ物を扱うように優しく頬を撫でて来た。そして、言う。
「思ってたのより、数倍……俺好みだ。優しくしてやる」
「え?」
「誇りを穢さぬかと問われれば、親父は怒るかもなとしか答えられねェ。だが……男が欲しかった女を前に、尻込み出来るか。……こんないい女、誰にも見せたく無くなったよ」
それから当然のように重ねられようとした唇を躱せば、イゾウさんは面白そうにその唇を歪めて必死で抵抗する私を簡単に抑え込む。目的が明らかなそれの途中、私がまっさらである事に気付いたイゾウさんが恍惚とした笑みを浮かべるのを見て、声を失った。
何故執拗に私を求めるのか。私が何をしたと言うのかと叫ぶように言葉を音にしたら、自身を埋め込む為に指を押し込んだ状態でイゾウさんは苦笑した。
「少なくとも、単なる慰みの為じゃねェさ。……今は何も考えず、俺に可愛がられたらいいさね」
そう言って始まった狂宴の刻。逃れる術を持たぬ女は、男の言葉の意味を理解できないままにその身を切り裂かれ、部屋に監禁される。
逃げ出そうとする度に増える枷に、それでも諦める事を良しとしない崇高な精神が、相手を刺激していく。どれ程追い詰められても、攻撃しようとしない女の甘さに男は寧ろ傷付きながらも、手放せる筈もないと拘束を強めてしまうのだ。
風切羽を切り取られた鳥を鳥籠に閉じ込める人間のような残酷さで、男は求めていた女の身体を手に入れる。悲しげに歌う小鳥と、男が心を通わせ幸福に進む道へと進めたかは……皆様のご想像次第。
誤字修正しましたー。