訓練生を引き連れての演習も今日で最後だからと、帰ったらおつるさんと食べる為に買ったお菓子を手に、少し気持ちは浮足立つ。小さな島々に向かい変わった事はありませんか?と聞きながら船を動かす訓練をするのが今回の大まかな仕事。
私が外に出る仕事なんてのはこれの時位なものだから、特にこれ迄問題なんて起きなかった。たまに起きても案外シャンクス達に鍛えてもらった影響で、何とかなって来たのもある。
巡るのは小さな島々なので、各島に村や町が1~3しか無いから巡るのに時間もかからない。今いるこの島は、農村1つと港町が1つあるだけと言う所。
当然港町に船を停めてるので港町の方から話を聞いて、今農村も話を聞き終えた所。最近日照りが続いていて農作物が枯れそうだと嘆かれたので、クリマタクトで雨を降らせてとりあえず今日のところは凌いでもらった。
流石に天候その物を自由には出来ないから。そのついでに井戸を掘って、水汲みを楽にするよう指示を出して、私は呑気に怪我人も出なくて良かったわねとか言いながら訓練生と港町に戻っていた。
その時……港町から破壊音が聞こえて来て、嫌な予感に苛まれながら私は全力で駆け出した。訓練生をその場に残して。
何が起きたのかと剃で移動して、阿鼻叫喚の巷と化した港町の情景に1瞬言葉を失う。震源地はどうやら酒場のようで、私を見付けた町の人達が助けを求めて群がって来た。
視線を向ければ海軍船までの道は、今の所騒動の余波も向かっていないと分かり、急いでメモに緊急保護を命じる旨を記して町長に渡す。最悪の場合、これでおつるさんが動いてくれるだろう。
「これを見せれば海軍船にて、皆様を保護する筈です。船にも海兵がおりますので、そちらに避難してください。荷物は最小限で、命あっての物種ですから、急いで!」
そう、言いたくもなる。暴れてる人間の姿を見てしまったのだから。
真っ赤な菊を思わせる独特なあの姿は、1度見たら忘れられそうもない。老人と女子供には手を貸すよう男達に言いながら、船へと移動させる。
漸く追い付いてきた訓練生達にも簡単に説明して、急いで避難誘導を開始させる。訓練生では彼等に対抗出来る筈も無い。
「……交渉で済めば良いけど、無理なら私が相手をするから、あなた達は民間人の保護を優先して。私の事は待たなくていい」
「見覚えのない海賊団ですが……」
訓練生が言うのもわかる。私も18歳になったから早ければ何処かの1団は動き出すのも居ると思ってたけど、まさか最初に出くわすのが1番会いたくなかった海賊団とは思わなかった。
「最悪の世代……ルーキーよ。厄介な相手だから、急いで!民間人の保護を第一に考えなさい!」
そう言った瞬間、刃物が回転するような音を聞いて咄嗟にクリマタクトに覇気を纏わせて受ける。クリマタクトはそれ故に無事だけど、強過ぎる力に私の腕が悲鳴を上げた。
腕が痺れて力が抜けそうになる。クリマタクトを落とさずにいられるだけで奇跡に近い。
流石はキッド海賊団船長の片腕。……強い、わね。
ルフィの所で考えるならば、立場としてはゾロに該当するだろう。そんな相手に私1人かと、小さく舌打ちしたくなる程。
でも、庇うべき相手がいて、護るべき相手がいて、私に引き下がるとか、逃げるなんてそんな選択肢ある筈も無い。キラーを武器ごと弾いて距離を取れば、拍手が聞こえた。
「……へェ、女海兵と思って甘く見てたが、マトモなのもいるんじゃねェか」
「……ユースタス・キャプテン・キッド。懸賞金7800万ベリーよね?」
まだ、億にも届く前。私の知らない時の彼等。
とは言え彼等に関しては、その見た目の他何も知らないのだけど。多くの視線が自分に突き刺さっているのを感じる。
近くにはまだ民間人が残ってる。ここで踏ん張らないで何処で踏ん張るってのよ!
「お前、何者だ?正義背負ってんだから、将校なんだろ」
「何者って言われても……」
「俺達も〝敵〟の情報は集めてるが、お前みたいな将校の情報は入ってねェから聞いたんだ」
その言葉に成程と思う。そりゃ無いでしょうよ、私内勤と訓練生の引率しかしないもの。
たまにおつるさん達の付き添いするけど、そんな時はオマケだから名前表に出ないし。そんな事を思いながら、余裕を醸し出す為にクスリと笑ってみせる。
「……情報収集が苦手なのね。流石は、野蛮で凶悪性の高さが売りの海賊団ね」
「言うじゃねェか」
怒りを隠そうともしない真っ赤な菊男に、クリマタクトを構えて対峙する。まだ、近くに子供が2人居る、まだ、私に意識を向けさせる必要がある。
平然と攻撃して来るキッドに、それをひょいひょいと躱しながら子供の様子を探る。動かないその気配に、更に探れば片方が足に怪我をしているらしいと気付く。
まだ訓練生は、他の避難者を連れて行き戻ってないし、場合によっては気付かれないかも知れない。これは、不味いわね。
その時能力を発動されて鉄扇と鉄笛がそれに反応するのを押さえた間に、私は拘束された。しまったと思っても遅いし、腕力ではどうしたってかなわない。
「やっ……」
抑え込んでるキッドの手が私のお尻を撫でるから、つい抵抗する声を出せばクックッと笑われる。それが悔しくて睨み付ければ、キッドの顔が近付いてきて……唇に触れそうなその距離で言葉を告げて来る。
「なんだ、随分初心な反応するじゃねェか、まるで未経験の……」
そこまで言ってキッドは言葉を辞めて、私を凝視して来る。それに対して嫌だと、見ないでと心から思う。
……こんな形で辱められる位なら、舌噛んでやる。そう思っていたらキッドは楽しそうに笑い……私に当身を食らわせてきた。
咄嗟に対応出来なくて、モロに受けてしまえばカハッと言う自分の呼吸音を聞きながら、意識が暗転するのを止める事ができなかった。私の意識が浮上した時には、どうやら船の上にいるらしいと言う事と、それなりに上質なベッドにいる事が分かる。
海軍船のベッドは応急処置がしやすいようにと、体を痛めないギリギリの硬さにされている。心臓マッサージを行う際、ベッドが柔らかければその効果を見込めない為だ。
即ち疲労回復等の目的で考えれば、質の悪いベッドを使用してるという事になる。私のベッドは板ではなく畳を使って貰って、薄いマットレス使うくらいならと布団を使っていたから高さのある布団で寝てる感覚だったけど、普通はそうじゃない。
あぁ、畳ベッドの上に布団で寝てたのよ。こう説明したら早かったわね。
そのベッドを見たおつるさんが異様な反応を示して、おつるさんもお揃いのベッドを使用している。その為現在1部の女性海兵の中では、この畳ベッドが密かなブームなのよね。
さて、そんな事はどうでも良くて、今私は明らかに海軍船よりは随分上等なベッドに私は寝かされている。てっきり牢にでも繋がれてるのかと思ったけど、繋がれてる様子さえない。
体を起こしてみれば、成程船長室かと思う。自らの手配書が貼り付けられているのを見れば、ルフィ達もやってたなと知識的な物だけど思い出す。
本棚があるのを見れば、どうやらルフィとは違ってキッドと言う男はちゃんと船長やってるらしいと知る。航海術の入門編、中級編、上級編と銘打って発売した私の本がその中にあるのを見れば、何も知らずに任せてるルフィとの違いを痛感する。
その他にも何冊か私の本が並んでいて……妙に恥ずかしくなる。とりあえず早く帰らなきゃとベッドを降りた瞬間、ベッドの周りに設置されていたらしいセンサーに引っ掛かったようでけたたましい音が鳴り響く。
五月蝿い!
本来ならば即座に飛び出すところだけど、武器が1つ残らず綺麗に奪われているのだからそうも行かない。鉄扇は兎も角、鉄笛や流星錘まで武器と判断したのは流石だと思う。
着衣の乱れも無く、目的は不明。当身も下手ではないらしく、痛みが無い。
意識を取り戻した時、下手な奴がやった当身だと痛みが残るのだ。当身をやり慣れてるってどうなのよと少し思うけど、それ以前に……本当に五月蝿い。
それがドアが開くと同時に静まり、そこに赤い菊……キッドが姿を見せた。私の様子を見て、キッドは面白そうに笑った。
「人形みたいな女だな。……どうして自分から外に飛び出さなかった?」
「……私に、話でもあるのだろうと思ったからよ」
「頭は、悪くねェらしいな」
満足そうにキッドは嗤うと無造作に私に近付き、ベッドにドカリと腰を降ろした。それから1歩離れようと足を動かすと、手首を掴まれてそれを阻害される。
「……名前を、確認したい」
「教える代わりに、私の荷物を返してくれるならね」
「あァ、あの変わった武器か。殺傷能力があんのは海楼石の短剣だけじゃねェか」
「……返すか、返さないかだけで良いのよ。余計な事言わないで」
互いに睨み合い、そしてキッドが折れた。返してやるからと言われて名を告げると、何故か掴んでいた手首をそのまま引っ張られてしまう。
強い力に対応出来なくてその体に向かい倒れ込めば、その動きを利用されてベッドに仰向けで落とされ、その上にキッドが覆いかぶさるようにして来る。何を……?と思った私にキッドは唇を歪めた。
「この状態で状況把握出来ない女ってのも、珍しいな」
その言葉に漸く理解が追い付いて逃げようとするけど、怪力かと言いたくなる程に動かない。私だってそれなりに鍛えてるのにっ!
そんな私を嘲笑うようにキッドは首に噛み付いてきて、その痛みに、急所である首故に体が勝手に反応する。それをさも愉快だと言わんばかりにキッドは笑い、首から耳へと唇を這わせながら移動してくる。
「俺のモノになれ。〝宝玉〟それなら、大切にしてやるし、今後は女子供には極力手を出さないでやる」
「……断ったら?」
耳元で囁かれるそれに、頷けるような話でもないから無駄と知りながら問い掛ける。恐らくは、私の事を調べたのだろう。
調べて、知ったのだろう。内勤だけで大佐になった事と、それが宝玉であるが故の事なのだと。
「繋いで、犯して、孕ませてやる。それでも俺のモノだと認めないなら……お前の目の前で、女子供を八つ裂きにしてやるよ。……どうする?お優しい、女海兵サン?」
「受け入れたとしても、変わらない気がするのは……どうしてかしらね?」
「……受け入れたら、扱いが良くなるだろ。女子供も安全になる。違うか?」
キッドの言葉に、私はそっと眼を伏せる。仕方ない。
……ごめんね、ナミちゃん。この体、傷付けるわ。
覚悟を決めて舌を噛もうとした時、キッドが唇をこじ開けて指を押し込んで来た。想定外の出来事に戸惑いながらも噎せていたら、キッドが低い声を響かせた。
「誰が、死ぬ事を許した?捕まった女海兵らしい扱いをしてやっても、構わねェんだぞ。舌を噛めなくする方法はいくらでもある。……分かるだろ?」
キッドの言葉に、体が震える。でも、どうして私にそんな執着するのか分からない。
気に入ったのかな、ナミちゃんの体可愛いから。だとしても中身は、こんなんなんだけど。
「最後に聞いてやる。答えろ。首を振れば良いだけだ。簡単だろ。……ナミ、俺のモノになるか?」
その問いに、脳内はフル活動する。恐らくは死のうとすれば、死なせないようにして、慰み物にされる。
生きて拒めば、恥辱を与えつつ私の心を折る為に無意味に人を傷付けるだろう。それなら……体だけ、好きにさせれば良い。
隙をつきやすくもなる。だから……私は静かに首を縦に振る。
それにキッドは嬉しそうに笑うと指を引き抜き、その手で私の服を脱がし始める。今だけは、耐えて……後で隙を見て逃げ出せば……。
「あァ、そうだナミ。もしも逃げ出したら、連れ戻した後で……俺に何をされるか考えてみろよ?……俺は、生涯逃がしてやるつもりはねェし、逃げても取り戻すつもりだ」
心を、読まれたのかと思う程に的確に、キッドは確信を突いてくる。そして、終わる事の無い軟禁生活が始まった。
少女の心が砕けるのが早いか、はたまた男が愛を求め懇願するが早いか。それは後の歴史家にでも聞かなくては、分かりそうもない。