初めて会った時、原作知識もあってか苦手だと思ったのは致し方ない事だと、私は思っている。視線で、焼き殺されるような、そんな気分だった。
そう、今考えればあの時の私の判断は正しかったのだろう。その証拠に私は今、まさに焼き殺されようとしている。
「やめ……て、くださ……!…………んっ……」
「何故、わしがお前の願いを聞かにゃァならん?」
嫌だと思うのに、怖いと思うのに、私の体は刺激に反応している。拒絶の筈の言葉が、甘く響く。
どうしてこうなったのか、常人よりも熱い体に翻弄されながら思い返す。どこで、私は間違えたのか……と。
それでもその問いに正確な答えなんて、誰も与えてくれはしない。恥辱の中で、唾液に塗れた唇を開き、冀う。
「……っ……もっ……ゆるし……!奥、やめっ!」
乱れた吐息、媚を含んだ喘ぎ。聞くに耐えない自らのそれを、私は慌てて掌で抑え込む。
それと同時に擦れ合う肉が生み出す凄まじい愉悦が、皮膚のあちこちに散らされる。焦点すら定かではない視界に恍惚の光が明滅する。
「……あっ……!はっ!やぁ!そんな……奥っ……壊れちゃ……!」
「甘い声の拒絶は強請りの範疇じゃと、何度教えれば覚えるかのォ?」
深部を熱い昂りで突かれ、必死に唇を噛んで耐えた挙句に漏れた声は淫らに掠れている。いつもこうやって、男は私を意のままにしようとして来るのだ。
それでも犯されながら、愉悦に塗れた喘ぎを発している自分が信じられない。違う筈、こんなのは私じゃないと頭を振って、けれども湧き上がる疼きを切り離そうと理性で足掻く。
それでも私を抑え込む腕はビクともしない。更には、ぴっちりとハマった太いもので、熟れ切った場所を縦横無尽に暴かれて、身体は快楽を貪るだけの器に成り果てていく。
苦しくて、辛くて、情けなくて……。なのに、熟れて火照った粘膜は、より深い快楽を貪ろうと勝手に蠢き、埋め込まれたものを締め付けていく。
折り重なるように押しかかられて、炎のように熱い吐息が耳朶を嬲る。肌をぞくぞくと撫でさすっていく低音が、僅かに上擦り、男の限界が近い事がわかる。
快感と紙一重の圧迫感が身の内を満たし、奔放に蠢くものが一気に質量を増していく。それに伴いドクドクと乱れ打つ自分の心音が五月蝿い。
……いっそ止まってしまえと祈るように願うのは、きっと本心。高まる動悸は、そう遠くない未来、願いを叶えてくれる気がした。
この男と初対面のあの時、私はおつるさんの影に隠れて、ただ怯えていた。そんな私におつるさんは優しく笑って、大丈夫だよと言ってくれたのを覚えている。
それから海軍に復帰したと言うゼファー先生に、他の人達に混ざって訓練して貰う他に、個別で剣を習いながらおつるさんの事務の手伝いをしていた。
14歳で始めたそれに慣れるのには時間がかかったけど、慣れたかなって頃にはゼファー先生が海軍を完全に辞めてしまった。それからは私も完全に事務方として働くようになり、15歳の春、もう少しで16歳になるって頃に三大将の事務も必要に応じて、手伝うようになったのだったと思い出す。
恐怖感の強い人から順に仕事は真面目で、恐怖感の無い相手はサボり過ぎで……。それでも仕事だからとそれぞれの元へ書類を届けたりしながら、必要事項をこなして行った。
そのおかげか16歳になった頃には大将達からの視線も攻撃的なものでは無くなっていた。事務の仕事の速度と正確さ、更には潜入任務の成功率の高さが買われて私の肩書きが自然と変わって行った。
肩書きが変われば、大将達の討伐任務に同伴する事も増えていく。身を守る事と、仲間を守る事、遠くから攻撃する事に関してのみ能力を発揮する私を青雉と黄猿はいいんじゃないかと、認めてくれていた。
前線に出るだけが戦いじゃないし、基本は事務なのだからそれでいいと。けれど、赤犬だけはそれを軟弱だと言って眉を顰めていたし、海賊に捕まった人を海賊ごと殺してしまうしで、中々打ち解ける事は出来なかった。
でも、それでも、私がいる時の方がやり過ぎないらしくて、センゴクさんに言われて組まされる事が多かった。それに何故か……とは言えおつるさんの庇護にいるからだろうけど、大将達は率先して私を庇ってくれていたのだから、文句なんて言える筈もない。
それと、天夜叉を含む七武海の人達と共闘する時等は、赤犬が1番警戒心が強くて、絶対に私と七武海の人達が近くで接触しないようにしてくれていた。それに私はいつもお礼を言っては、頭を下げる事を繰り返す。
「庇って頂いて、ありがとうございます」
「おつるさんが、ナミに何かあれば悲しむけんのォ。ナミの為じゃ無い」
「それでも、助かってます」
そう、七武海から守って貰うようになって、何となく打ち解けた気がしていて、赤犬も私を名で呼んでくれていた。おつるさんの名前にずっと守られてきたし、赤犬は直接的に守ってくれていた。
なのに……18歳になったあの日、多分、あの日から何かが変わったのだと思う。誕生日なのに赤犬との任務で、その帰りに目の前で子供が海賊に拐われて行くのを見て、私は咄嗟に飛び出していた。
子供を庇って戦い、多勢に無勢で囚われて、子供だけはと守っていた時に私はそいつらにあわや犯られると言う所で、赤犬が現れた。それにより意識が私から離れた隙に子供を抱えて離れたのは、子供や私ごと赤犬な焼き尽くすとずっと見て来て知っていたから。
それなのに赤犬は私と子供を焼き殺さず、珍しい事に私の姿を見て動揺して、正義のコートを貸してくれた。それから視線を逸らして、無事かと、聞いてくれたのだ。
それが本当に嬉しくて、ホッとして……苦手に思ってたのが嘘みたいに私の心は打ち解けた。殺されるか叱られると思っていたのに、心配して労ってくれて……子供も無事だった事もあり、それからは平和に仲良く過ごすようになったのだ。
時には昼食を共にしたり、クリマタクトの改良についてベガパンクと話していれば、助言をくれたりもした。それなのに、どうして……?
「考え事とは、余裕じゃのォ……。なら、もう少し加減せんでもいいか」
「待って……やっ……ぁっ!」
体は何度も絶頂を迎えていて、既に全身が性感帯と化している。嫌がって逃げようとすると、鎖の音が聞こえて身動きが取れなくなる。
それを利用しての行為。私のトラウマは、鎖の音で蘇るらしい。
打ち解けて、仲良くなりつつあっても父と娘か、良くしても親しい上官と部下の距離感だったと私は認識してるし、周りも4年かけて打ち解けた私達を何処か微笑ましそうに見ていた。そんな日々の中で、そう……劇的に変わったのはあの時だ。
おつるさんが誰か恋人は居ないのかと聞いてきて、居ないと答えたら困った様子で大量の写真を渡されたのだった。お見合い写真らしくて、断りきれなくて困ってると言われれば、誰かにフリでもして貰うしか無いかと考えてしまったのだ。
どうしてその時、同期の誰かとかを頼らなかったのか。そうしていたらこんな事にはならなかったのでは無いだろうか。
過ぎた事はどうにもならないけど、それにより三大将の誰かとって事にすれば、三大将に来る見合い話も消えるしと言う事になった。それは1石2鳥だと言う話になり、三大将と私とおつるさんで話し合いの席を設けた筈だ。
……それが、悲劇の幕開けとも知らずに。
その席で少し話をしていたら、赤犬が馬鹿馬鹿しいと言って、突然私を抱き上げた。そして、おつるさんにこのまま嫁に貰うと宣言した赤犬により、連れ去られて今に至る。
おつるさんは止めようとしてくれたし、私も部屋に軟禁されていては堪らないので抵抗を試みたけど、かなう筈も無く……こうして抱かれ続けている。
私は海軍では病気療養中とされているらしく、赤犬が仕事に行ってる間の他は、ただ、こうして抱かれ続けている。救いも助けも、期待は出来ない。
「たい、しょ……もっ……やぁ!」
「何処か嫌なんじゃか。ぐちょぐちょにして咥えこんどるのがわからんか。見てみィ……離そうとせんのはナミの方じゃろう」
これを言われると、見て肯定するまで赤犬はピストン運動を辞めなくなる。でも、そんな事をされれば見る事も難しいし、声を出すのさえもつらくなる。
分かっていて、やっているのだ。この人は。
「ど、して……?」
繰り返し問い掛けてきた。それに赤犬が答える事は無くて……。
私を1晩中抱き潰して、翌朝には平然と仕事に向かう。たまに何もしないで、隣で寝てる事もあるけど、基本的にはほぼ毎晩で……精神的にも肉体的にも、もう限界を超えている。
ただ、意識が途切れる寸前に、たまに聞こえる自嘲的な言葉が……私の心を壊さずにいるのかも知れない。それも、妄想とかなのかもしれないけれど。
アーロンと居た頃のように、心を凍らせれば良いのだろうか。そうすれば……苦しそうに謝る赤犬を、気にする事も無くなるのだろうか。
「他に、繋ぎ止める方法がわからん。赦せとは言わん、せめて……名を……」
だから私は赤犬の名を呼ばない。私は、こんなやり方間違ってると思うし、心も体も、もう無理だと思うから。
恐らくこういった生活になり、そろそろ半年近い。そう思いながら鎖で繋がれた状態で家の中を歩いていたら、庭から音が聞こえて来て、そこに懐かしい顔をした幻が見えた。
「やだ、幻まで見えるとか……私、もう……っ!」
壊れてるのだろうと思った時、幻聴まで聞こえて泣き崩れた。だって、声は記憶の中のそれと少しも変わってなかったから。
「ナミ、か?連絡が途絶えたから心配して来てみたら……何が起きてるんだ!ここは海軍の本拠地だろう!こんな、こんな事が許されるのかっ」
それから温もりまで感じて、私は幻と分かっていて縋り付く。泣きながら、手を伸ばす。
「シャンクスっ!助けて、もう……やだ、助けて……!」
「……その為に来た。動くなよ、ナミ」
首の輪が壊されて、鎖ごと落ちる。その音に反応して体が震えると、シャンクスが優しく抱きしめてから、私に囁く。
「瞳を閉じて、身を任せろ。その間に助け出してやる」
ふわりと抱き上げられて、漸く本物だと理解する。シャンクスにしがみついた私に、苦笑する気配を感じて、その直後にシャンクスは動き出した。
震える体を抑える事も出来なくて、ただ守られながら移動する。到着した先に待っていたのは、懐かしい皆で……。
「……ナミ、か?随分と、美人になったな」
「……お頭、誰にやられた?」
先の言葉はヤソップが、後の言葉はベックが、それにシャンクスが低く笑う。
「俺も驚いた。相手は赤犬だ」
そう言って当然のように船医に私を預けると、シャンクスはこれから丁度戦争に向かう所だから、大人しくしてろよ。なんて言って笑った。
筋肉が落ち過ぎて、ろくに動けない私を船医は即座に気付いてくれて、哀しそうに労る。取り敢えず何かが宿ったりはしてないと言って、海兵になった私を厭わずに抱き締めてくれる。
私は壊れた涙腺の為に、ただ無言で涙を流し続けるしか出来なかった。薄れゆく意識の中で、必ず守ると言って貰えた事がどれ程嬉しいか、そして……哀しいか、きっと彼等は知らない。
後に頂上戦争と呼ばれたそれに、頃合を見て戦争を止めに入る筈だった男がそれよりも大分早く参戦したのは、可愛い娘の敵討だと言われている。赤犬と赤髪の決闘で赤犬が、その娘を愛し過ぎてどうしたら良いのか分からなくなったのだと、そう叫んだ事で頂上戦争は別名愛憎戦争と呼ばれる事となった。
その赤髪の娘が赤犬の元に戻ったのか、赤髪が守り続けたのかは、記録に残されていない。ただ、赤犬が愛した赤髪の娘は、向日葵のような笑顔を持つ太陽のような美少女であったらしい。