望まぬ行為が終わり、ドフラミンゴが去って行くのを眺める。意味のわからない言葉を残して酒を手に姿を消したドフラミンゴを、私はぼうっと見送っていた。
漸く開放されたと理解して、私は覇気を解除して膝から崩れ落ちた。もう、体力が……意識が……。
意識を取り戻した時には、外は明るくて……早く帰らなければと船を動かし始める。なんと表現したら良いのかわからない出会いと別れを終えて、私は限界を超えているだろう体を更に酷使していた。
膝が笑う上に腰に力が入らない。苦しくて、痛くて、泣きそうになるけど……そんな事してる場合じゃないのだ。
私には、泣いてる時間も無いし、何より……そんな資格は無い。早く帰って、皆を助けなくちゃ。
宝石と現金を1纏めにして、顔を上げる。アーロンとこの体調で向き合うのは多少では無く不安はあるけど、そんな事言っていられない。
船を進めながらシャワーを浴びると、気持ちを引き締める。同時に慣れない匂いを敏感に感じ取って、ここ数日の出来事が走馬灯のように呼び起こされる。
なんだって私が狙われたのか、今もってわからない。やはり、可愛い見た目のナミちゃんの肉体である事が原因だろうかと……良過ぎる容姿に振り回される悲劇を痛感していた。
シャワーを終えて表に出ると、順調にコノミ諸島へ向かっているのが確認出来て身支度を整える。その時何故かクローゼットの中から麝香の香りがして、中を漁ればいつ置いたのか香袋があった。
少し呆れながらもアーロンに隠すなと言われている肩を露出する為に、麝香の香りの染み込んだそれに着替える。肩に包帯を巻かずに、露出する姿になった時私は漸く気付いた。
これを、あの2人には見られているのだと。風呂に入れる時、包帯を外さなかったとは考えられない。
鷹の目には、余計な事をシャンクス達に言わないようにと祈るように願う。ドフラミンゴには、余計な手出しをしないでくれと祈るように願っていた。
島の周りをゆっくりと動いて行けば、ゴザの村が壊滅しているのが見えて息を呑む。煙の立ち上るそれを見て、無力を痛感する。
どちらにしても、私はココヤシ村の他に守れる所等ありはしないのだから、この結果はどうあっても変えられない。分かってるのよ、私には……どうにもできない事なんだって……!
でも、苦しい。でも、悔しい。
それらを全て押し殺して、深呼吸してそれを逃がす。喪えない大切な人達を守る為なら、他の人は切り捨てる覚悟は、もう出来てるのだから。
けれどもアーロンパークからいつもなら誰かが迎えに来るのに、今日は来ない。体調を考えればそれは有難い事なのに、何故か不安になる。
……いったい、何が起きているの?
ゴザの村が消えても、それだけでこれ程島の空気が変わる筈はない。船を泊めて、その先一直線上にある自宅へと帰れば、2人の姿が見当たらなくて、いつもどちらかは家か蜜柑畑にいるのにそれがないからと慌てて駆け出した。
村に皆集まってるの?
それとも、まさか、アーロンパークに乗り込んでしまったの!?
村の中も人の姿が見当たらなくて、全身に脂汗が滲む。胃液が逆流し、手足が小刻みに震え、動悸が激しくなる。
皆の安否が分からないが故のストレス性症状だとわかる。でも、だからといってどうにも出来ない。
震える身体で、必死になってアーロンパークを目指した私は、到着したその場所で悪趣味なその門が消失している事に驚きつつも、門のあった筈の場所から中に入る。建物は存在してるけど、噎せ返るような血の臭いに吐き気さえして来そうな程。
切り刻まれて、それでも生きていると分かる呻き声が微かに聞こえれば、寧ろ死んでいた方が彼らの為では無いかと言いたくなるような惨状に、膝から崩れ落ちそうになる。それでも私の姿を確認した魚人達が数人、声をかけてきたから何とか立っているという現状。
「かえっ……た、のか……ナミ」
「……何があったの?」
「とつぜ、ん、しゅうげき、され……た。今、アーロンさ……が、なか、で……」
こうなってしまえば、魚人達がいなくなれば終わりじゃない。彼等を簡単に切り刻める相手の望む事次第で、私の未来は変わる。
……交渉が通じる相手なら良いけど、違うならアーロンよりも強い相手を私は……殺さなければならない。そうしなければ、村の人達が助からない。
その時妙な事に気付く。……待って、この切断面……剣じゃ、ない?
落ち着け、私。そう思って魚人の傍に膝をつくと、静かに問い掛ける。
今は少しでも情報が欲しい。戦うにしろ、逃がすにしろ、情報はあって邪魔にはならないもの。
「……村に人の姿が無かったけど、そっちは?」
「そんな、の……!知らねェよ!ナミは、かんぶだ、ろっ!はや……く、アーロン、さ…………を……」
そう言って意識を失った魚人から視線を建物に移す。アーロンを助ける義理はないけど、アーロンと違い交渉が出来ない相手だと困るのは確かで……。
震える身体を叱責して立ち上がり、建物に足を向けた時バサリと音が聞こえて影が降る。その巨大な影と匂いを、私はまだ身に纏っていて……。
「なにが、目的なの?ドフラミンゴ」
「目的なんざひとつだ。ナミ、俺と契約しようじゃねェか」
「な、にを……」
声が震えて、上擦りそうになる。でも、今ここで弱味は見せられない。
強くドフラミンゴを睨み上げて、余裕があるように見せる為に表情を無くす。皆を守れるのは、私だけなのよ。
「コイツらは監獄に送り、諸島は
「契約期間は何時まで?」
強気に言葉を言い放ってみるけど、怖い。……ふるえるな、私!
だって、やっと解放できる筈だったのに。皆に、生きて貰える筈だったのに……!
「その気高さが、本気にさせるんだよ。いつも、誰かを守ろうとする時だけ、ナミは強いな」
「巫山戯てないで、質問に答えなさい。契約する気がないなら、お話はここまでよ。さようなら」
そう言って立ち去ろうとした私の背後から、声が追い掛けてくる。それは、終わりのない、希望のない契約。
「ナミが俺のモノでいる限り、護ってやる。ただし、俺のモノをやめた場合……この諸島は消滅する」
ドフラミンゴは好条件だろうと笑い、そのまま村人達は避難させてあると言われてしまえば膝をついて頭を垂れる他の選択肢なんて、私には無かった。そして……無言のまま私をドレスローザへと連行したドフラミンゴは、当然のように命じてくる。
ドフラミンゴは分かっているのだ。私が、逆らう筈もないという事を。
「俺の事は、ドフィと呼べ」
「は、い……分かりました……」
「敬語は使うな。そして……この国からは出るな」
国内なら、好きにしていいと……そういう事?
どうして、そんな自由を?
私に何を求めているのか分からなくて呆然と見上げるけど、ドフラミンゴの顔からその答えは得られない。震える声が音にできたのは、ただ1つの単語だけ。
「くに、から?」
「あァ、そうだ。それさえ守るなら、俺に抵抗したきゃしても構わねェ。無駄に足掻くナミも、俺は可愛いと思ってるからな」
その言葉に震えると、ドフラミンゴは舌打ちしてから私をベッドへと押し倒した。咄嗟に嫌だと叫べばドフラミンゴは楽しそうに笑い、その内辞めないでと言わせてやると言いながら服を切り裂く。
抵抗してもいいと言ったけど、辞めてやると言われた訳じゃない。つまりは、国から出なければ私を自由に扱えると言う事なのだろう。
なら、抵抗するだけ無駄じゃない。皆も無事なんだし、もう……休んでも、許されるかな……?
でも、そんな気弱な事を考えても、休める筈もないと知ってるし、受け入れるしかないのだろう。だけど体格差もあるし、好きな相手という訳でもないのよ。
「本当に昔から……家族が絡むと弱いな……だが、逃がすつもりはねェ。ナミは、俺のものだ」
伸ばされた手に恐怖を感じて、思わず叫べば、唇から大切な人の名前が迸る。脳裏で優しく笑うそれに、泣きそうになる自分を自覚してしまう。
「や……いやぁぁぁ!たすけ、て、シャンクスッ!ベックッ!」
その瞬間、絞められた首。苦しくて、何も声を出せなくなった私の顔を覗き込むようにして、ドフラミンゴは薄く笑う。
その直後解放され咳き込む私に、ドフラミンゴは楽しそうな笑みを浮かべた。その刹那、身体が勝手に動き始める。
今度は何をと思った時、ドフラミンゴが残酷に囁く。残酷に、選べと命じるそれは、けれども本当は選択肢なんて与えられていない。
「裸で国中を歩いて来るか、俺の前で足を広げて可愛がってくれとせがむか……選ばせてやる」
「なっ……!?」
「それとも、村がどうなっても……構わないのか?」
その言葉に心が軋む。キッとドフラミンゴを睨み付ければ、愉悦に富んだ笑を浮かべたドフラミンゴの視線が私に向けられているのを確認してしまう。
……本気、だわ。なら……。
迷いはもう無い。ここまで来たのだから、皆は私が死んでもその事を知らずに生きていられる。
「当然だが、ナミが死んだらあの村の奴等は全員……売りに出すぞ。奴隷としてな」
「なんですって!?」
「……これ迄、ナミ1人を犠牲にしていた奴等だ。奴隷に落されて何の問題がある?」
「巫山戯ないで!!そんな事、許さない!……皆はずっと、奴隷だったわ!私を犠牲になんかしてない!」
離れられないように糸を出していたのだろう。ドフラミンゴに掴みかかるのは、問題なく行えた。
皆には、手を出させない。誰も、傷つけさせないわ。
「私がここに来た時点で契約は完了してる。契約は守るんじゃないの?」
「……ナミ、俺は海賊だぜ?それに、契約書はまだ、交わしていない。……違うか?」
「卑怯、よ」
「海賊相手に何言ってる。ナミも海賊なんだろ?」
そう言いながら髪を掴み身動きを封じてから、そっと顔を覗き込んで来た。そしてニンマリと笑うと、頭を無理にドフラミンゴのそれの目の前に動かされる。
「契約書は、俺の心ひとつだ。まずは、奉仕してみせろ。……やり方は、教えた筈だ」
逆らう選択肢は無い。そっと股間にある膨らみに手を伸ばして、手で熱く脈打つそれを扱く。
大き過ぎるそれは、恐らく口でするよりその方が全体をカバーできるのもあるし、それ以上の事は極力したくないのが現実だった。でも、それを許してくれる筈もなく、ドフラミンゴは胸で奉仕しろと言い出す。
素直に従えば即座に肥大化するそれに、なんでいつまでも盛ってんのよと本気で思う。まだ、本調子になってる筈もない私とは、随分な違いだわ。
「咥えろ」
「……っ!」
「フッフッフッフッフッ!なんだナミ、契約書は交わさなくて良いのか?」
「咥えるわよ!」
そう言った瞬間、髪を強く引っ張られて無理に上を向かされれば声も出せない。これでも恐らく力加減はされてるのだろう。
「御奉仕、したいのはナミだろ?言い方を考えろ」
そう言われて離されれば、言える言葉は限られる。泣きたくなる気持ちを抑え込んで、無機質に言葉を紡ぐ。
「……陛下に、御奉仕「違う」」
「え?」
「ドフィ、だ。他の呼び方は許してない」
「……ドフィに、御奉仕させてください」
「そうか、ナミが望むなら構わねェが、するからには、ちゃんと飲めよ?」
どうやら甲板で飲むわけないと言った事を、根に持ってるらしい。なんて小さいのかしら。
内心で悪態つきながら、そっと咥え込めばドフラミンゴはそれだけで苦しそうな声を出した。どうやら、ナミちゃんの顔にドフラミンゴは弱いらしい。
胸と口で奉仕して、放出されたそれを望み通り飲んで見せればドフラミンゴがフッと笑って、再び先程の問い掛けをして来た。どうやら忘れてはくれなかったらしい。
「さて、俺に奉仕出来て嬉しかっただろう。次は俺の質問に答える番だ。……そのままの姿で、国を歩くか、俺に可愛がってとせがむかだ」
「先に、契約書を……そうじゃなきゃ、何もしない!」
私の言葉にドフラミンゴは良いだろうと笑ってサラサラと紙に文字を書く。その手が、私のそれと良く似ている。
「そう、驚く事もねェだろ。俺の文字が汚いと直したのはナミだ」
「え?」
「知らないのは、分かってる。ほら、コレでいいだろ」
寄越されたそれを見て頷けば、ペンを渡される。他の取り方をできるような言葉遊びも見受けられないし、正式な書き方だわ。
それに名を書けばドフラミンゴが小さく笑った。その顔が妙に優しく見えて、なんだか不思議な気持ちになる。
「さて、約束だったな。……選べ。ナミ」
残酷に紡がれるその命令に、私は自ら足を広げる。裸で外に出たとして、その後……ドフラミンゴに犯されない保証は無い。
なら、誘う方がマシだと思えた。私は、皆を死なせられない……!
「……どうした、ナミ。足を広げたりして……?」
白々しくもそんな言葉を口にするドフラミンゴを睨めば、何故か恍惚の笑みを浮かべられてしまう。心を落ち着けて、言葉を音にするしか、選択肢は無い。
「……ドフィ……。お願い、私を、可愛がって……?」
思ってもいない、望んでもいない、そんな言葉を口にして震える身体。そんな私をドフラミンゴはそっと抱き寄せると、耳元で囁く。
「ナミの、望むままに」
本当に望むままにと言うならば、お願いだから触らないでと思う。けど、その願いが叶う事は有り得ない。
望まぬ快楽と、贅沢を与えられる日々。自由にしていいと言いながら、自分以外を見る事をドフラミンゴは許そうとしない。
心に無いと分かっている言葉を口にさせ、自由と束縛を使い分け、身体を快楽で縛り、そうして漸く男は女が消えないと、離れていかないのだと確信する。疲れ果てて、涙を滲ませて眠るその姿を見なければ、喪うかも知れないと怯える様には、既に悪のカリスマと呼ばれる覇王の面影は無い。
どれ程心身共に縛ろうとも、どれ程傷付けようとも、ただ傍にいて欲しいと身体ばかりが大きく育った男は願ってやまないのだ。自分以外何も見えなくなればいいと、傲慢にも本気で願う男に女は憐憫の視線を向けてしまう。
強くて脆い男の心と、儚くも強い女の心が向き合い支え合えるかは、このお話を目撃した、あなたのお心次第。ただ、ほんの少しだけかけ違っていたら有り得た未来の断片が、ここにも存在しているというだけのお話。