取り乱した私を落ち着けてくれたシャンクスは、ドフィやミホークの言葉に首を傾げると、当然のように言葉を紡ぐ。その声が王のそれであるのが妙な胸騒ぎとなり、胸が痛い程に脈打つ。
「二人共何言ってんだ?俺は……このままナミを連れ去るつもりだったんだぜ?」
「シャンクス!?冗談辞めてよ!」
思わず口を挟んだ私をシャンクスは真っ直ぐに見詰めてくる。そして、真剣な顔で、私に問い掛けてきた。
「本気で……冗談だと思うのか」
背中をゾクリとしたものが走り、思わず暴れれば私を抱く腕に力が入って簡単に動きを封じられる。やだ、私はルフィの所に……!
「離して!私に触らないで!……私はルフィのものよ!」
「……ナミは、俺のものだ。誰が何と言おうとな」
その言葉に文句を言うより早く容赦の無い覇王色の覇気が放たれて、呼吸さえままならなくなる。でも、私、は……。
脳裏に浮かぶルフィが明るく笑う。私は、ルフィの所へ、帰りたい……。
「悪いな、天夜叉、鷹の目、ナミは俺が引受ける。邪魔するなら、殺してでも連れ帰るつもりだ」
「……どうやら本気のようだな、赤髪」
「あァ、手放すつもりはねェよ」
ミホークの返事にシャンクスもまた言葉を返す。それに続きドフィが舌打ち混じりに言葉を向ければ、シャンクスは可笑しそうに笑う。
「今は退いてやるが、ナミを苦しめるなよ、赤髪」
「善処するさ」
そんな会話を聞いたような気がする。そう、気がする……のだ。
ハッと気が付いた時には見覚えのある船室にいて、表からは怒号が聞こえて来る。……まさか、ここ、シャンクスの部屋?
いや、そうとしか思えないんだけど……。問題はどうしてこんな事になったのか……って所よね。
シャンクスとはミホークが同席してくれた話合いで仲直り出来たと思うのに、どうしてこんな事……。でも、震えてばかりも居られないからとベッドから降りようとしたら、手首や足首に何かが繋がっているのが見えた。
「何……これ?」
鎖特有の音はしないけど、シャンクスが繋いだのだとしたら……ただの紐である筈がない。それでも僅かな可能性にかけて、短剣で切ろうとしたのに切れないからやはりと思う。
海楼石よりも強い紐って何よ……。そう思いながら身体の向きを変えると、首にもその紐があるのだと気付く。
解こうとしても切ろうとしても無駄なそれには、鍵穴が無い。どうしようかと考えながら、歩ける範囲を確認していく。
そんな時ドアが開かれてシャンクスが姿を見せるけど、いつも通りなのが逆に怖い。なんで、罪悪感の1つさえ抱いてないのよ。
「ナミ、何か食うか?」
「いらない。私を早くルフィの所に帰して!」
「ナミの〝帰る〟場所は、俺の所だ」
その声に、言葉に、本気の色を感じ取れば怯えてしまうのも無理は無いと思う。だって、どうしたって私がシャンクスに勝てる筈無い。
紐で繋がれてるこれだって、実力差を考えたら無意味の筈。それくらい勝ち目の無い相手なのは、ちゃんとわかってるのよ。
「ナミ、いい子にしてろ」
「……っ!なら!」
「ん?」
「なら、ルフィの所に行かせて。私が居ないとあの船先に進め「ナミが俺の船に戻り、これから先もずっといると言うなら……これから起きる戦争に俺が全力で参戦してやる。……勿論、傘下も含めてだ」」
「え……?」
呆然とシャンクスを見詰めると、シャンクスはそっと私の頬に触れる。その指先が、掌が、妙に熱い。
シャンクスは、結局私の何を求めてるんだろう。今、飢えた獣のような顔で、何を望んでいるんだろう……?
「シャンクスが望むのは、私の身体だけなの?それなら、好きにしたら良いわ。……もう、抵抗しない。その代わり、エースの事、約束は守って」
「……ナミ……?」
シャンクスは私が幼い頃から変わらずに、ずっと優しかったけど……今求められてるのが肉体だけだと言うのなら、私はもう、心を揺らさずに済む。ルフィだけを、真っ直ぐに想っていられるわ。
求められているのが肉体だけなら、私は寧ろ安心していられるわ。もう、私を本当の意味で想ってくれていたシャンクスは居ないのだと理解出来るもの。
「ナミ、何言ってるんだ」
「え?」
「俺はナミの全てを俺のものだと言ってる」
「シャンクス?」
聞いてはいけないと、警鐘が鳴ってる気がして、身体が震える。惑わせるように、その色香を最大限に出しながら……シャンクスは私と視線を合わせて来た。
「ナミの心がルフィにあり、変えられないと言うから……身体から落とすつもりなだけだ。俺はナミの全てを求めている」
意味を分かりたくなくて見詰めると、シャンクスは困ったような顔で私を見て突然強く抱き締めて来た。でも、逃げようとしたら逃げられる隙間を残されていて、シャンクスの気持ちが分からない。
ただ、その隙間が、傷付けたいと願っている訳じゃないと伝えて来る。愛しているのだと、伝えて来るのだ。
卑怯だと思う。私がシャンクスを嫌えないのをわかってて、こんな事してるんだ。
「シャンクスは、狡い……」
「あァ、そうだな」
「シャンクスの、考えが、分からない」
「そうか?分かりたくないだけじゃねェのか?ルフィを裏切らない為に」
シャンクスは残酷にもそんな事を言って、強い敵を前にした時のような顔で私に笑いかける。そんな顔されても、私はそんなに、強くない……!
ルフィ……!助けて……!
「シャンクス……!」
「……分からないと言うなら教えてやる。俺はただ、ナミを愛してるだけだ」
「なら、私をルフィの所へかえ「ナミ!」」
言葉が、続けられなくなった。名を呼ぶと同時に、深く、強く、重ねられた唇が哀しみと怒りを伝えて来る。
そこで思い出す。帰る場所はシャンクスの元だけだと、そう言われたのを。
だけど、私の愛する人も、帰る場所もルフィでしかなくて……。何よりも私は、ルフィを裏切りたくない。
「んっ……ゃ……ぁ!」
「ナミ……ナミ……」
縋るように、キスの隙間に重ねられる声。そのままベッドに沈められて、緊張で固くなる身体に気付いたのか、シャンクスはそっと唇を離す。
「ナミ……愛してる。俺の元に帰って来い。俺の女としてでも良い。クルーとして居たいならそれでもいい。……抵抗するなら、捕虜として扱う。どれを選んでもいいが、逃がすつもりはねェ」
「シャンクス!私、行かないと、ルフィのと「次に、ルフィの名や〝元仲間〟の名を、選ぶ前に呼んだら……捕虜として扱う。……海賊が捕虜となった女海賊に何をするか、知らない訳も無いよな?」」
抗議しようとシャンクスを見た瞬間、声が出なくなった。その瞳に宿る狂気が、本気だと告げていたから。
震えそうになる自分の身体を強く抱き締めつつ俯いたら、シャンクスの手が頭を撫でて来た。それにより視線を上げると、優しく笑うシャンクスがいて……。
「ナミが、答えを出したら俺も動く。それ迄はここで大人しくしてろ。部屋の中なら自由に歩けるようになってる。シャワーもトイレも使える。……欲しい物や必要な物も揃えてやるから……考えろ。お前は馬鹿じゃねェだろ」
その言葉に息を飲むと、シャンクスは海賊の顔で笑った。選択肢を与えてなんて居ないのだと、わかる。
エースを助ける為に、この部屋に繋がれるか。それとも比較的自由を得て、エースも助けられる代わりに、ルフィを裏切るか。
与えられた選択肢はその二つだけ。シャンクスが去った部屋の中で、勝手に落ちる涙に情けなさが増す。
シャンクスの女として居た場合、ルフィの彼女では無くなる。シャンクスのクルーとして居た場合、麦藁の1味では無くなってしまう。
「……っ!!」
助けを求めるようにルフィを呼びそうになって、そうなったら待ってるのは繋がれる日々だと気付き息を、声を飲み込む。けど、早く答えを出さないと、エースが……!
「……ベック、助けて……!」
他に頼れる人が思い浮かばなかった。シャンクスの副官だもの、シャンクスを裏切れる筈も無いと言うのに。
なのに、私はベックを呼んでいた。その次の瞬間、シャンクスの部屋のドアが粉砕されて、ベックが入って来る。
「……ベック?」
「助けに来た。まだ、怪我は無いな。……逃がしてやる」
「させると、思うのか?」
優しくベックが笑った直後にシャンクスが部屋に入って来て、ベックに軽く問掛ける。それにベックは振り向くと、迷い無く銃口を向けた。
「俺が、脅しで使わねェのは知ってるな。お頭」
「ベック……お前……」
「ナミを泣かせるな。苦しめるなら、アンタ相手でも俺は退くつもりはねェ」
その刹那、シャンクスから放たれたのは覇王色の覇気。それに息苦しさを覚えたけど、倒れる訳にはいかない。
だめ、よ!2人を戦わせられない……!
「辞めて!私、シャンクスのものになる!だから、辞めて……お願い!」
「……どっちだ?両方でも、俺は構わねェし、いずれは両方にするつもりだが」
シャンクスの声が妙に優しい。でも、それが怖い。
「……それは、少しだけ待って。まだ、纏まらないの。シャンクスのものになれば、エースを助けてくれて、ベックとも仲直りするんでしょ!?」
「仲直りって、ナミお前……」
呆れたような声でベックが言うけど、私はどちらも失えない。大切なのよ!
頼ってしまった事で喧嘩してるなら、もう頼らない。甘えたりしないから、大切な人同士で、傷付け合わないで……!
「私、選べない。皆、違う形で愛してる。比べるなんて出来ないよ……!もう、甘えない、から……許して……」
耐えられなくて泣き出した私にベックが手を伸ばしてくれたけど、それより早く抱き締めてくれたのはシャンクスで……。そっと外された紐により、シャンクスが私の言葉を受け入れてくれた証だと気付く。
「ナミ……今夜は、拒むなよ」
「なん、で!?私、まだ……!」
「俺の女なら、当然だろ。俺のクルーだとしても、船長命令だ。……諦めろ」
震える私をシャンクスはそっと撫でて、そして、怯えていた私は直後に襲って来た覇気により意識が遠のくと、怒るベックの声と破壊音が微かに聞こえた気がした。そして目覚めた私は何故かベックの部屋にいて、慌てて部屋を飛び出したらベックが大怪我をして医務室に……縛り付けられていた。
猛獣みたいになってるベックと海賊の顔して傍に座ってたシャンクスを殴り、仲直りしなさいと叫ぶと空気が明らかに弛緩した。それにホッと息を吐き出したら、ベックが苦しそうに声を震わせる。
「……この、馬鹿ナミが……!何故意識を取り戻したその瞬間に、そのまま逃げ出さなかった!?」
「大怪我してるベックに言われたくないわ。……怪我は、酷いの?」
「ナミを庇えない現実よりは、ずっと軽い。助けられなくて、力不足で……すまない」
「ベック?」
ベックが泣きそうに見えて手を伸ばした直後に、シャンクスに拐われるようにしてベックの部屋に連れ込まれる。
ベッドに投げ落とされて、シャンクス越しに見える扉が開いたままだと気付く。
「シャンクス!?」
「俺より、ベックが良いのか」
「何言ってんの!?そんな話じゃないわ!ねぇ、抵抗しないって、約束したんだから、シャンクスも約束守って……もう、辱めたりしないって、約束したじゃない」
私の言葉にシャンクスは扉を閉めてくれたけど、その場で残酷な言葉を向けて来る。暗く笑いながら。
「ナミ、自分から脱いで、俺を誘ってみろ」
その言葉に私は震える指で服と下着を脱いでいく。それをシャンクスはただ見つめ、そして首を傾げた。
「それで?どう誘ってくれるつもりだ?」
「シャンクス……」
「ベックの部屋で、ベックのベッドで、俺を誘う……面白い罰になるな」
「どういう、こと?」
「分からなくていい。俺の部屋が直るまで、ナミはここで俺に抱かれる事になる。……ナミの意思でな」
誘ってみろと言われても、ルフィにだってした事ないのに、どうしたら良いんだろう。困ったわ。
「シャンクス……抱いて」
「…………今回は、それで許してやる。妙な破壊力があるしな」
よく分からなくて首を傾げると、シャンクスは足を広げろと命じてきたので、おずおずとそれに従うと、違うと言ってありえない程に大きく、高く割り開かれる。それに悲鳴を上げるとシャンクスは、これが足を開くって事だと言う。
つまりは、今後は言われたら自分でこの姿になれと言われたと言う事で……。そんなの……!
「む、り……」
「ん?」
「恥ずかしくて、むり。ゆるして……」
「お前、男煽る天才か」
泣きそうな情けない顔になってる自覚はあるけど、煽ってはいない。寧ろ情けない顔で、呆れて辞めてくれるんじゃないかなって、期待してたのに。
シャンクスはそのまま私の弱い所に吸い付いてきて、声を押し殺す私の足を肩に乗せる。そうして自由になった手で、ひくつき濡れているその場所に指を差込み刺激して来た。
「やっ……そんな、の、やぁ!!」
「なんだ、前座無しで痛い思いしたいのか」
「も、じゅうぶ、だ……から!」
「服を脱いだだけで、確かに濡れてたもんな?」
意地悪く笑ったシャンクスは、今夜は虐めないでやると言って熱い楔を押し込んで来る。それに歓喜して震える身体の、なんとあさましい事か。
喘ぐばかりの私に、シャンクスは何故か嬉しそうに笑う。私に触れるその手が優しい。
「あっ……シャンクス!そこ、やだぁ!」
「分かってる。ここがイイんだろ。乱れたベッドはそのままで、ベックに部屋を返してやろうな」
「や、だぁ!シャンクス、やめ……!」
「ナミは何も考えず、俺を求めて腰振ってろ」
命じられるそれに従うように、悲鳴を上げながら従う身体。それを疎ましく思いつつも、どうする事も出来ずに1筋の涙が零れ落ちるのを自覚した。
こうして私は、この日からシャンクスの女となった。力不足でクルーとは名乗れないと嘆いたのが効いたのか、両方と言われる事は無くて……それに安堵しつつ身を差し出し続ける日々。
エースを助ける事は出来て、でも、シャンクスは私を解放しない。2年の修行期間の間に、逃げ出せないかなと考えるけど、3日と開けずに身体を求められていてはそんな体力はない。
「ナミ……俺を見ろよ」
「シャンクス……」
シャンクスは私に触れる度、その瞳に狂気を強く宿していく。このまま私が消えてしまえば、きっとそれが1番いいだろうと、悲鳴にも似た声を上げながら、私は今宵もシャンクスに命じられるままに腰をふる。
抱けば抱く程に遠ざかる心を見てしまい、けれども抱かずには居られない。求めるものが遠過ぎて、傷付ける選択肢しか見付けられない男と、その男を大切に想うが故に余計に心を離れさせる女の話。
いつかこの2人が、互いを傷付けぬ愛の形に辿り着けるかは、このお話を目にした貴方様のお心次第。今宵もまた、女の嬌声が悲しく響く。