海軍に所属するようになってから、原作を読んでいた頃には知らなかった事実をいくつも知る事となった。赤を慕う緑の存在とか、黄色が実は中立だとか、青を支持する人達は読者から人気のある人達に多いとか。
そんな他愛ないけど重要な事も、入隊して初めて知る事。中将の三割ほどが色のついた二つ名を持ち、それを持つ者だけが大将候補であるという事実。
それと同時に、悪人と言われたり思われていた海賊が哀れな人達でしかない事もあり、逆に……読んでいた時は善人だと思っていた相手が……悪人だと知ってしまった事もある。そうよ、相手は海賊なんだわ。
どれ程よく書かれていても、それは主人公から見たら……ってだけの事。それを失念していた私に、非があるんだから、海賊を責める権利も失望する権利もない。
「見事なもんだったが……相手が悪かったな。それと……海賊相手にするには、甘過ぎる性格が災いしたな」
「……私は、実力不足で負けたのよ」
思考の世界に逃げてみても、現状は変わらない。緊急連絡を受けて来てみたら、男達が切り殺されて怯えてる女性と子供達が居た。
だから……その人達を保護して、男達が切り殺されてるのを、私は見捨てたのだ。避難誘導の後で戻ってみれば、生存者はなし。
その犯人は……赤髪海賊団だった。過去にもエレジアを滅ぼした事があるとは聞いていたけど……それでも、何か理由があったんだと思っていたのよ。
なのに、実際は村人を斬り殺して回る。仲間達も撃ち殺したり、感電させたり、撲殺したりしてた。
勝手に信頼してたから、この絶望も私の勝手。信頼なんか、勝手にしてた側が悪いのよ。
そんな事指摘されるまでもなく分かってるけど、身動きを封じられて顎を掴まれてる現状なのに、可愛く怯える事さえ私にはできない。全力で戦ってはみたんだけど、相手にならなかった。
隻腕の相手に、そちらから攻めるなんてできなくて、右側からのみ挑んだ私が悪い。悪いけど……この痛み、骨が逝ってるわ。
明らかに足の痛みがそうだと告げている。でも、それを気付かれる気は無い。
本当に、無様ね。ここまで圧倒的な実力差があればこそ、恐怖を抱く事さえできやしないわ。
「いい腕だとは思うが、まだ若いな」
「剣も抜かなかったクセに、良く言うわ」
「……俺の左側に来た時、攻撃して来なかった甘い海兵さんに怪我させたくなくてな」
妙に優しい声と、慈しむような眼差し。これだけなら、信じて絆されてしまいそう。
でも、それが事実なら、どうして……島民を傷付けるなんて選択ができたのよ!
「そんな事を言えるならどうして……この島の人達を襲ったの?」
「……あ!?……まさか、知らないのか」
驚きを隠さないその様子に、何かあるのかと見詰めてしまう。でも、真っ直ぐにその瞳を見ていたら、何故か少し目元が赤くなっていく。
鎧袖一触で私を倒し、眼光炯炯としていた姿からは想像がつかない程に何かに狼狽える。それが不思議で瞬きを繰り返せば、小さくない舌打ちと共に声が降って来た。
「……海賊に負けた時点で、戦利品である自覚はあるだろうな」
「ほぇ?……ああ、一応はあるわよ」
唐突な話題変化に脳内は混乱する。それでもなんとか取り繕って言葉を返したけど、赤髪のシャンクスは私に追い打ちを掛けてくるから、冷静な声と顔を意識して維持するのが精一杯。
「なら、取り敢えず持ち帰るか」
「お断りよ」
運ばれるのだとしたら、折れてる事がバレてしまう。でも、歩けと言われてもそれは流石に不可能だと思うのよね。
バレない為にはどうしたものかと素直に悩んでいるのに、言葉は勝手に出て行く。それを受けて赤髪のシャンクスは笑った。
その私が知っている情報とは大きく異なる大人な姿に戸惑う隙をつくように、伸ばされた腕で抱き上げられてしまう。そうして動いた事で痛みが来て、思わず声が出そうになるのを耐えていたら、短い髪をひとつに束ねた男が姿を見せて眉を寄せる。
「おい、お頭」
「あ?どうした?」
「……何が〝怪我させない程度に打ち据える〟なんだよ。折れてんだろ、その足」
「は!?痛がる素振り見せなかったぞ!?」
「……海賊に弱味見せるかよ、海兵が。それも女だぞ。……良いから、医務室に運んでくれ。治るまで手は出すなよ」
「お待ちください。……治るまで、帰れないって事ですか?」
二人の会話により、折れてるのはバレたとわかったし、拷問を受けるのも覚悟はしたけど……死んで帰れないのと、生きているのに帰らないのでは違って来ると慌てて声を出した。そんな私の様子に、なぜか懐かしそうな顔をしてその人は赤髪のシャンクスから私を奪うようにして医務室に運び込んだ。
そのまま治療をされているけど、返事は貰えていない。やはり、帰らせて貰えないのだろうか。
「……海兵さんと同じ年頃の子供がいて、懐かしかったのもあり手を貸してるが……悪い、守ってやれるのは、そう多くない」
「どういう意味で「死なないようにしてやるのが精一杯だが、だからこそ、どうしても死にたくなったら言え」」
最後まで言う前に重ねられた言葉の意味を知ったのは、その日の夜。治療を終えて寝場所として案内されたのが誰かの私室と気付いた時には、ベッドに押し倒されていた。
肩と二の腕を押さえられて、赤髪のシャンクスの顔が目の前にある現実。……捕まったと言う事は、そういう事になってもおかしくは無い。
この状態で、甲板や牢、倉庫で輪姦されないだけでも感謝すべき案件。……頭では、分かってるのに。
「……初めてか」
身体が震えて、頭から血の気が引く。抑えられないそれらが、私の答えなのかも知れない。
答えたくなんてないし、この身体は初めてでも、精神的には違う……はず。覚えてないけど。
ても、知ってる。痛くて、気持ち悪くて、おぞましい行為だという事だけは。
首筋に舌が這う事で、寒気がするし鳥肌もの。なのに、身体は何故か敏感に反応してしまう。
「……っ……ぁ…………!!」
抑えきれない声が出て、だからこそ余計に赤髪のシャンクスを睨んでしまう。……負けたくない。
海兵になったのは、海賊が憎かったのも強い理由。ベルメールさんのようになりたかったし、おつるさんみたいになりたいと願ったのは嘘じゃないけど、やっぱり海賊は……嫌い。
「海兵らしい、可愛い反応だな。……平和や平等なんてものが存在すると、平和ボケしてる海兵のお嬢ちゃんは本気で思ってるのか?」
「……その平和を壊してるのは、海賊じゃない!あんた達が、なんの罪も無い人達を殺して、犯して、連れ去って、売って……!そうやって、苦しめてるっ!!破壊する側の人間に、そんな事言う権利無いわよっ!!」
「…………悪かった」
脳裏に、殺された村人が読んでいた時には死んだベルメールさんが、どちらにしても傷だらけになったゲンさんが浮かぶ。怒りと憎しみが、我が身を焼く勢いになって目の前にいた赤髪のシャンクスを睨みながら吼えたのに……返って来たのは謝罪。
少し驚いて気が抜けたら、何故か恍惚とした笑みを浮かべられていて……背筋を冷たいものが走り抜けた。危険信号が点滅してるのが分かるのに、逃げ場がない現実。
ベッドに抑え込まれて、欲望にギラつく双眸と共に恍惚としか言えない笑みを讃えた雄が、目の前にある獲物を逃がすはずはない。それでも、ただ黙って食われるつもりは無いと冷たく睨めば、突然肩を震わせながら笑い出す。
「まさか、覇王色持ちの海兵さんだとはな……。名前は、ナミだったか?」
「……そう、よ」
覇王色なんて知らない。けど、名前は合ってるからと頷けば直後に襲いかかって来る強過ぎる覇気。
意識が遠のきそうになるのを奥歯を噛み締めながら耐えれば、楽しそうに笑いながら衣服が引き裂かれた。……海賊の、男。
幾度と無く刃を交えて来た数多の彼等と、立場の括りで見れば同じそれ。なのに、勝ち目が見いだせない。
「先生……ごめんなさい……」
脳裏に浮かぶのは、自分を大切にしろと言いながら殴り飛ばして来たゼファー先生の心配そうな顔。元の顔が怖すぎて、心配してても怒ってると勘違いされやすいのは、義父であるゲンさんと同じ。
だからこそ、祖父のように思い慕ってきた。祖母のように思い慕っているおつるさんも、今回の事は嘆くだろうと思えば、切なくなるばかり。
「海賊を、人間扱いするお人好しだから……こんな事になるんだ。それも……海賊を憎む〝王〟でありながら、その甘さとは……同じ〝王〟から見たら、甘美な獲物でしかねェよ」
言い返す事もできない。指が、唇が、舌が……私の肌を這い回る。
必死に声を抑えていると、髪に口付け耳朶を甘噛みされ、宥め透かすように言葉が紡がれる。責めるばかりの声が脳裏に響く中で、それは甘美な誘惑。
「俺の首に腕を回せ。そうしたら……酷くしないでやる」
「そんな……の……」
「抵抗するなら……甲板で、可愛がってやってもいいんだが?……海賊に捕まった未経験の女海兵が、始めては見られながら甲板で……その後は全員が満足する迄交代で輪姦しされて死ぬか生き延びるか……試してみるか?」
「…………っ!なら、殺しなさい!」
「ああ、分かった……殺してやるよ」
その言葉と同時に押し込まれたのは、無駄に元気で熱い塊。先端が入っただけでギチッと身体が悲鳴を上げ、道を塞ごうと締め付ける。
その瞬間、乳首を舐められビクリと身体が反応したと思ったら、一気に腰を進められてしまう。その勢いで突き上げられれば、悲鳴以外の何も喉を震わせる事は出来なかった。
「初めてで俺の全てを根本まで飲み込めるとか……スゲェな。……望み通り、ナミ大佐が死ぬ迄、毎日使わせてもらおう」
「なに、言って……」
「殺して欲しいんだろ?ヤリ殺してやるよ。それでも、想定外に名器だから……俺専用にして、飼ってやるって言ってるだけだ」
「やっ……いやっ!」
「なんだ?輪姦されてるのを世界に配信されながら死ぬのが望みか?死んだ後まで、その映像を残されて、捕まった女海兵の末路と楽しまれ続けたいって言うなら、叶えてやる」
ギロリと睨んだのは、間違いなく涙で濡れた瞳だったはず。それでも、睨むのを辞められず、静かに舌を噛もうとした時、顎を掴まれてしまう。
そうなれば口を閉じる事はもうできない。真っ直ぐに品定めするような視線が私に向けられ、その状態で腰が動き始めれば、痛みに耐えるしか道は無いのだ。
死にたくなったら言えと言ってくれていたから、縋れば殺してくれるだろうか。動かない己の足を恨めしく思いながら、逃げる算段を検討する。
辱めを受けて生き恥を晒されるくらいなら、潔く散るわ。私にも、譲れないものはあるのよ。
そのままずっと痛みが続けば良かったのに、どちらの身体の出した物だか分からない粘液で滑りが良くなれば、卑猥な水音が響き、同時に痛みでは無いものが駆け抜け始める。顎を押さえられたままでは、舌を噛むのは勿論声を抑えるのも困難。
グッと喉に力を入れて呼吸さえ止める勢いで耐えれば、突然ぶつけられる覇気により力が抜けてしまう。力を入れられなくなってしまえば、声を抑える事も逃げる事もなにもできはしない。
「やっ……ああぁっ!!」
「可愛く鳴くもんだな……そうしてろ。大切にしてやる」
「べるめ……さん……!ノジ……コ……!」
無意識で呼んでしまうのは、愛しい家族の名前。二人がいれば勝てたかと言われたら寧ろ勝てなくなったのは間違いないのに、何かあると無意識に助けを求めてしまう。
そんな自分に絶望しながら意識を飛ばしたのは、体力の限界突破をしたのは勿論、ぶつけられた覇気が原因だろう。そのまま高熱を出したらしい私が意識をしっかりと取り戻したのは、七日ほど経過してからだった。
「……意識、戻ったか」
「せん、い……さん?」
「ああ、悪いな。骨折もしてるのに無理させられて、心と身体が悲鳴あげたようだ」
心底すまなさそうに言葉を紡がれる。それを聞きながら、縋るように、祈るように言葉を口にした。
だって、愛しい人達に知られたくない。悲しませたくないし、この身体をこれ以上傷付けられないもの。
「……ころして……」
「あ?」
「しまをほろぼして、おんなをはずかしめるだけの、かいぞくに、かいへいであるわたしが、つかまっては、ぐんのじょうそうぶにも、ふりえきとなるわ」
実際は、私が囚われたとなればおつるさんとガープさんが飛び出してくるだろう。話を聞けば、海軍が動かなくてもゼファー先生が助けに来てくれるかもしれない。
青と黄色辺りは助けようと動くかもしれないし、ヒナとスモーカーは勝てもしないのに挑むだろう。だから……ごめんなさい。
ベルメールさん、ノジコ、私は……。そこまで思って目を伏せた時、ドアが開く音が聞こえた。
「あの島は、海賊達の根城になってたんだ。あの村にいたのは、海賊に拐われたか、元々住んでいた女と、それが産まされた子供。そして、医者等の役立つ存在。だからこそ、海賊を根絶やしにして帰りたいやつは帰って、ただの村人は好きにできるようにして来ただけだ」
「え?」
告げられた言葉と、バツが悪そうに姿を見せた先日の強姦魔に驚きを隠せない。そんな私を見て、それから船医さんを見た。
宥めるように、優しく紡がれる言葉。それに船医さんは嫌そうな顔をする。
「……殺す事は許さねェ。そもそも船医が人殺しちゃ……駄目だろうが」
「ウタと同じ程度の歳頃の子供相手に、心と身体壊して殺しそうになったのは、お頭だろうが」
その会話から、昔いた誰かの子供の名前がウタと言うらしい事を知る。……あれ?
その名前は、聞き覚えがある。最近人気の出て来た電伝虫で活動してる歌手で……そうよ、動向を注意するようにって言われてる観察対象。
赤髪海賊団関連だったからなのね。そう思えば、なんだか納得できてしまった。
海軍の公式発表がいつも正しい訳じゃない。それを分かってたつもりなのに、私は間違えたんだわ。
「ごめんなさい」
「え?」
「かいぞくに苦しめられてるひとたちを助けてくれたのに、かんちがいして……こうげきしたわ」
実際に見たとは言ってもそれは断片。背景を知れば、それは赤髪海賊団に非は無かった。
戦う事、傷付ける事を罪だと言うなら、それは海軍とて同じ。この世界では、剣よりペンの方が威力が高いなんて事は無いから、剣の強さが全てに勝ってしまう。
「……お人好し、だな」
「かいへいは、きほんてきに、どちらかにふりわけられてるのよ。かれつか、おひとよしか」
「……もう少し休んでろ。回復しないと、俺が楽しめねェからな」
そう言って消えて行った赤髪のシャンクスは、それから回復するまで本当に手を出して来なかった。けれども、回復して来た私は、その優しさと甘さに触れて油断してしまったのだ。
赤髪のクルーと会話をして笑ってしまった直後、背後から腕を回され部屋に連れ込まれ犯されたと思ったら、部屋から出して貰えなくなった。赤髪のシャンクス以外には基本的に会わせて貰えない日々の中、ただベッドに繋がれる日々が続き逃げる事を必死に考えるのに……戦闘中と宴を除くと基本的に傍から離れないから、それもできない。
だからと戦闘中に窓から海に飛び込んだら、体力の尽きていた私は泳げずに沈んで行く。それならそれで良いと思ったのに、意識を取り戻したら……心配そうにする赤髪のシャンクスがいて、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。
敵なのに甘過ぎる女を気に入り、けれども伝え方を知らない男がその心や生命を喪わせる前に伝えられるのか。垣間見える優しさと、ただ穴として使われる日々と、大切な人達の元へと心だけでも帰ろうとする女。
二人の運命が交わるのがいつになるのか、それはこのお話を目にしたあなたのお心次第。その交わった運命の先で、幸福になるのかも……皆様の心にかかっている。