ウィスキーピークにて、私は集めた金品を
油断していたわ、この程度の奴らなら考え事してても大丈夫だと思っていた。油断なんか出来る実力を持ってる筈もないのに……。
内心で自分に舌打ちしながら敵に視線を向ければそれは鷹の目で……私は呼吸を止めてその姿を凝視する。冷や汗が流れる。
なんで、こんな所に居るのよ。今頃とっくにシャンクスの所に到着してる頃でしょう!?
「数日ぶりだが、久しく感じるな。その後どうだ」
掛けられた声に体が震えそうになる。でも、まだルフィ達に助けを求めるだけ無駄だもの。
自力でどうにかしないと……誰も、巻き込めない。震えるな、私。
「特に変わりはない……と言いたい所だけど、今は正式に仲間と呼べる人達がいるわ」
「そうか……。それで肩のそれが変わったのか」
その言葉で、やはりあの時見られていたのかと溜息を落とす。そんな私を鷹の目は興味深そうに見ていて、殺気も感じない事から何か話があるのだろうと、攻撃態勢をといてけれどもいつでも逃げられるようにと、警戒だけはしながら対峙する。
そんな私に鷹の目は何かを投げて寄こした。 それを咄嗟に受け取ると視線で開けてみろと言われるので、手の中に収まった小さな袋を開けてみる。
中からは小さな携帯型の羽ペンが出て来て、よく見ればインク補充形だと分かる。それに夢中になっていたら声をかけられて、思わず笑顔で頷いてしまった。
「気に入ったか」
「うん!」
その瞬間、僅かにあった筈の距離がゼロになり当然のように塞がれた唇は、抵抗の声をも奪い尽くす。必死で足掻いてみても、世界一の剣豪に筋力でかなう筈も無くて、そのまま抱き上げられると棺桶にしか見えない船へと連行される。
「いやっ!離して!」
「……あの日は随分酷く扱った。反省も後悔もしてはいないが、詫びはしたいと思い考えたが、宝石は動きを阻害しそうだとか、売って金にでもされそうだと思ってな」
「お詫びだって言うなら受け取るわ。でも、それならこんな誘拐紛いな事しないで!私は……!「誘拐では無い。ナミは、俺のモノだ。迎えに来た事を誘拐とは呼ばぬ」」
何を、言ってるの?
私はミホークさんのものなんかじゃないのに……!
「違うわ!私はルフィのもっ!」
その瞬間、ミホークさんは私の腹部に拳を1撃入れて来て、当身だとわかった時には私の意識は深く沈んでしまっていた。意識が戻った時には、船内に1人取り残されていて……ルフィは、皆はどうしただろうかと不安になる。
私は今、どこに居るのかな。船の中なのは分かるけど、早く、帰らなきゃ。
寝かされていたベッドから降りてドアに手を伸ばす。そこで船内に誰も居ないって事は、甲板に居るのかと気付けばどうしたものかと逡巡してしまう。
だからと言ってベッドで寝たフリとか、無意味な上に危険な事は出来ないけれど。深呼吸してドアノブに触れた瞬間、ドアが勝手に開いて目の前にミホークさんが現れる。
「何をしている。ドアの前に居られては邪魔だ」
「あ……。うん、ごめん」
「分かればいい」
そう言って中に入って来たミホークさんは濡れていて、雨に降られたらしいと気付く。……でも、この風……。
「ミホークさん、すぐに移動しないと不味いわ!サイクロンが来る!」
「何方へ?」
「2時へ真っ直ぐ!それが1番安全な方角よ!」
「分かった」
着替える為に帰って来た所だろうに着替えを辞めて即座に動いてくれるミホークさんは、妙に慣れてる雰囲気の為に私は小さく笑ってしまう。サイクロンをやり過ごして、先に使えと言われたので言葉に甘えてシャワーを借りて、用意されていた服を着れば明らかに大きい。
でも、文句を言える状態でもないので着たけど、下着が無いので少し考えてしまう。目の前にあったハンドタオルで胸を押さえるように縛り、その上から着ているのはミホークさんのシャツだろう物。
下は未使用っぽいボクサーパンツのみ。……シャツの丈がそれなりにあるから、これでも何とかなるわよね。
そう思って出ればミホークさんが私と入れ替わりでシャワーを浴びに行き、私はそれを見送った。とりあえず着ていた物を洗って干したら、その内乾くだろう。
だからそうしたら……隙を見て逃げ出そう。何時までもここに居るつもりは無いわ。
現在位置が分からないから、海に飛び込んだりはしないけど……早く帰らなきゃ。放置していたら、ルフィ達が漂流しちゃうのは間違いないもの。
甲板に出て、海を見詰めていたら背後から腕が伸びて来て私の腰を強く引くので1瞬叫びそうになる。それくらい私は今、海に魅せられていた。
「ナミ……」
「ミホーク、さん……」
今更、体が、声が、震える。シャンクスの友人だからと勝手に気を抜いて、勝手に信頼していただけなのに、その信頼が破壊された事で私は怯えている。
体が、ミホークさんを覚えている。布越しに伝わる熱が、私の肌を粟立たせる。
「離して、ください。私に、触らないで」
「何を言っている。ナミは、俺のモノだ」
「違うわ!私はルフィのものよ!どうして連れ去ったりしたの!?私を帰して!」
その瞬間無言で唇を塞がれ、船内に連れ込まれてしまう。抵抗しても離して貰えない唇が、悲鳴も何もかもを奪い尽くそうとしてくる。
そのままベッドに落とされると、手品かと問いたくなるような速度でボタンを外されて、ただ縛ってあるだけのタオルを簡単に解いてしまう。嫌がって暴れる私を苦もなく押さえ付けて、ミホークさんは満足そうに頷いた。
「やはり、美しいな」
体が、ビクリと揺れる。こ、わい……。
ガタガタと体が震えて、脳内に助けてくれそうな人達の後ろ姿が見える。ルフィ、シャンクス、ゾロ、ベック、サンジ君……!
「嫌っ!離してぇ!!」
火事場の馬鹿力でミホークさんから逃げ出してドアノブに手を伸ばしたところで捕まり、ベッドへと戻されると鷹を思わせるその瞳に貫かれるような勢いで睨まれる。触れられたく、ない……。
抵抗する私を、嫌がりルフィ達の名を呼ぶ私を平然と組み敷いて、ミホークさんは私と繋がる。望まぬ快楽に心がすり減り、強制的な運動で体力が失われて行く。
「や……ぁ……!」
「ナミ、もう、離しはせぬ。抵抗するならば、鎖に繋ぎ……その体だけでも繋ぎ止める」
「んぅ……!ぁァァァ!」
「逃がしてやろうかと思ったが、僅かな期間離れただけでナミは変わった。この先ナミを変えるのは、全て俺でありたい」
ミホークさんは私に口先だけの愛を騙り、私はただ、体のみを求められて翻弄される。早く帰らなければと思うのに、力でも技術でもかなわなくて、ただベッドで淫らに鳴く事しか許されてはいない。
衰弱して行く私を哀れに思ったのか、ある時からミホークさんは私をあまり抱かなくなって、代わりにやりたい事を聞いてきた。皆の元へ帰りたいとか、シャンクス達に会いたいだとか言わなければ、ミホークさんは優しくしてくれて、何でかな……泣きたくなる。
もう1度、信じてみたくなるのよ。でも、心中を支配するのはいつもルフィの事で、ルフィはどうしているだろうかと窓の外へ視線を向ける。
「俺の元に居るのならば、なんでも与えてやる。ナミ、逃げようとはするな」
「……どうして?私には、なんの価値もないのに」
「ナミは、美しい」
そっか、ナミちゃんの体が欲しいのか。そう思ったら何だか妙に納得出来てしまって、でも、胸が苦しい。
優しくされて、私はまたどこかで夢を見てしまったのだと気付く。ある訳ないのに、ミホークさんが〝私〟を即ち〝ナミ〟を求めてくれてるんじゃないかって……。
実際は違った訳で、でも、私にそれを悲しむ権利は無い。……例えば、私がルフィを好きなので無ければ、ミホークさんに酷いと言えだだろうか。
そう考えて、言えない事に気付く。この体の初めてを奪われた時は、ルフィをそういう意味で好きではなかったけど、勝手に信頼したのは私の勝手だからと責められなかったんだから。
だからこそ、結局は……同じ事だろうと私は思ってしまうのだ。なのに、どうしてかな、胸が苦しい。
「ナミ……」
「ミホークさん」
呼ばれて振り向けば目的地だと言われる。漫画で何度も見たその城が、微かに霞んで見えた。
私はミホークさんを見る事無く、蠢く多くの気配に内心ゲンナリする。それを表に出せる程、素直に生きる事に慣れてないから無理だけど……。
「……どうしても、帰しては貰えませんか?」
「ナミの帰る場所は、ここだ。次に間違えればまた、縛り上げるぞ」
言葉に釣られるように振り向けば、その瞳から本気の色と狂気を感じ取り、私は顔を俯かせる。震える私をとう思ったのか、ミホークさんは優しげに私を抱き寄せて、妙な事を言わねば大切にすると言って城へと連れて行く。
……いっそ何も考えられなくしてくれたら、こんなに胸が痛む事は無いのだろうか。ルフィを想い、涙する事も無いのだろうか。
ミホークさんの、その言動に期待しそうになる愚かな自分を呪いながら、私は静かに足を進める。二度と出る事の叶わぬ、王宮と言う名の牢獄へ。
1度壊したものを修復するのは難しい。それでも微かに開く未来への希望は存在する。
果たしてそれに気が付いて、互いの心に寄り添う未来がやって来るのか。それは、この物語を読んだ方のお心次第。
何か1つ、掛け違っていたならば有り得た、これも1つの未来の形。可能性の1つの形。