その報告を受けた時、私は耳を疑った。でも、その報告が真実ならば、対応をしない訳にもいかないけれども、ここに居る訓練生では太刀打ち出来ない。
無論、私にだって太刀打ちは出来ないけど、それでも私だけならば生きて帰る事が可能だと思うから……。私は決意を持って指示を出す。
「総員、マリンフォードへ帰還せよ!私はこの情報が真実か確認後、真実ならば対応してから帰還する。3日経って帰らなければ、死んだとして処理して欲しい」
「そんな、大佐!?」
「……君達を守りながらでは戦えない。実力不足ですまないが、1人で行かせて欲しい。私には、民間人を見捨てる事も、君達を死地に送る事も出来はしない」
誰も、失いたくない。縁あって私の訓練生になったのだから。
泣かないで欲しい。まだ死ぬと決まったものでもないのだから。
「……援軍、連れて来ます!大佐の為なら中将達は動いてくれます!」
「ありがとう。まずはその為にも、無事に帰還するように」
「何も……!自分達は何も出来ないんですか!?」
「……なら、頼もうか。北の海岸にて半日待機せよ!島民そちらに誘導する。無事に逃がせ」
何もさせずに帰還させようと思ったけど、そんな事をしたら心に傷を残しそうだし、民間人の逃げる足となる程度ならばこの子達にも出来るだろうと判断した。そんな私の言葉に泣きながら船を動かし始めた訓練生を見てから、私は船縁を蹴って見えている島へと移動する。
きっとこういう時の為に、月歩は存在しているのだと思うから。島に到着すれば、人の焼ける臭いがする。
燃え上がる町の中で、生きている人達が集まっている場所を覇気で確認する。逃げる事さえ許されずに、同じマークの衣服を身に付けた男達に囲まれて、選ばれた者が拷問のようにいたぶられ、それが死ぬ迄は次の被害者は出ないと言う残酷なゲームに、無理矢理参加させられている事が分かる。
……いい、趣味だ事。
そう思ったのが早かったか、それとも、クリマタクトから雷撃を放ったのが早かったか。もしもこの男達が本当に〝白髭〟のクルーだったとしても、私は戦う事を厭わない。
違うだろうと、分かっている。でも、最悪の時は私は白髭相手でも戦いぬこうと決めて手を出した。
白髭ならば、確実に私は殺されるだろう。それでも、罪無き民間人が犠牲になるよりはずっと良い。
偽物ならば、何も問題は無い。1人くらい生け捕りにしておきたいけど、無理ならば海賊は皆殺しにしても問題は無い筈だから。
「……逃げなさい。北の海岸には、船が用意されてる。そちらにはコイツらの手は回ってないわ」
「貴女は……?」
「見ての通り……女海兵よ。大丈夫、ここは任せて」
笑いかければ安心したような顔をしてくれる。それにホッとしたのは私の方で、まだ彼等の心は死んで等居なかったと少しだけ気持ちが楽になった。
私の言葉を受けて島民は立ち上がり、支え合いながら逃げて行く。雷だけでは沈まなかった男達がギラついた視線で私を射抜くけど、私を威圧する事は出来ない。
……ベルメールさんの殺気の方が威力高いし、ガープさんの拳骨より攻撃力も弱い。おつるさんのように読めない攻撃もしてこないし、シャンクスのような速度もない。
こんなのが、白髭海賊団?
笑わせてくれる。こんな下衆な事をしないから、彼等は伝説なのだと言うのに。
短剣を引き抜き、そっと胸に抱く。海軍に所属する人で、私がこれで戦うことを知るのはゼファー先生だけ。
そしてここには、海兵は私だけ。……ベック、使うね。
人を殺す事、その命を背負う事、それをこれ迄せずに来られたのは守られてきたから。でもね……私はコイツらを許せない。
嬲り殺しにされた人達の遺体が転がっている。原型を留めていないようなご遺体もある中で、これらを生かして捕らえるなんて選択肢は私の中に存在しない。
せめて……苦しませないようにするから……許してね。人を苦しめて殺したのだから、1思いに逝けるだけでも、感謝してくれる筈よね。
人体の急所のみを狙い、剃と月歩を用いて確実に1撃でその命を奪って行く。正義の白いマントが赤く染まり、その内黒くその色を変えようという頃に、その場に残るのはリーダーたる男1人となった。
それに向かい短剣を構えたその時、斬撃が飛んでくるのを感じて私はその場を移動する。その直後、私の居た位置を抜けて男にそれが直撃した。
男の左腕が中を舞い、直後に絶叫が響く。見事に肩から切断されたそれは、腕の良い医者ならば簡単に繋げられるだろうという程に見事な切断面となっている。
続いて次々と飛んでくる攻撃は、私の位置を通過する形で必ず放たれて、私が躱す度に男が絶叫を上げつつ体の1部を失っていく。犯人はと思って見聞色の覇気で調べて、体から力が抜けそうになる。
……ホンモノは、ご立腹らしい。
「……私を巻き込むの、辞めて貰えませんか?白髭海賊団の皆様」
「全ての攻撃を躱しといて良く言うよぃ」
「手加減した覚えはねェんだがなァ」
「躱す時の動きが舞うように美しいと感心していたんだが……声も、美しいね」
不死鳥マルコを筆頭に、サッチ、イゾウと続いたその言葉は言葉とは裏腹に楽しそうで……ならばやはり偽物を消しに来たのかと納得する。ついでに少し、見慣れない女海兵で遊んでみようとでも言うのか。
……かなわないと、1瞬で悟る。そして、言葉を発する事無く私をずっと睨むように見詰めている男の存在が、覇気には慣れているのに、身を竦ませる。
……この感覚は、覚えがある。遠過ぎて恐怖さえ抱けないこれは、情けなくもなるけど懐かしくもある。
「流石は、王の1人……ですね」
「弱目にしていたが、俺の覇気を受けながら俺の息子達の攻撃を躱し続けるとは……大したもんだな、小娘」
「躱す事は、得意なので。それよりも……ソレは、引渡して頂いても?」
五体満足では決してない、両腕を失い、身体中に裂傷を受けて、それでも尚生きているリーダーを顎で示せば白髭は笑った。だから私はそれを連れて帰還して、それに罪を贖わせようと思い手荷物からロープと応急処置のセットを取り出した。
そして、それを縛り上げてそのまま応急処置をしようとした瞬間、それ迄の比では無い覇気を白髭がぶつけて来るから……私の意識は暗転した。それでもその刹那、短剣を足に戻す事だけは忘れなかった自分を賞賛したい。
それ位には、強過ぎる覇気だった。倒れる私を抱きとめたのは、多分白髭本人だったと思う。
意識を取り戻した時、私は体がおかしい事に気付く。体が……熱い……っ!
覚えのありすぎる感覚に、アーロンに使われて居たスマイル印の製品だと分かる。寝ている間に、打たれたのね……!
飲んだ程度では既に効果なんて私には出ない。血管に直接打ち込まれたとしか考えられない程の効果に、頭がクラクラする。
「起きたか」
「白髭……?」
「海賊に囚われた海兵が、どうなるかは……分かるな?」
「……っ!なぜ、あなたほどの、人が……!」
睨み付けてみても白髭は楽しそうに笑うばかりで、当然ながら気圧されてはくれない。それどころか大きなその指先で私の顎を掴むと、顔を覗き込んでくる。
「……血に濡れて舞うように人を殺しながら、涙を流さずに泣いている姿に唆られた。だが」
そこで言葉を切った白髭は私の唇と自らの唇を重ねて、私の反応を確かめ始める。それに対して、たかだかキス如きで……体から力が抜ける。
「ンゥ……やっ……!」
「……体格差があるからな。少々、薬を使わせてもらった。普通ならば抵抗する所か自分から求める筈の物を使ったつもりだが……睨み付けて来た上に、嫌がるとはな」
「や!いや……!さわら……ない、でっ!」
必死に抵抗してみても、元々力でなんてかなう筈もない。その上今は薬まで使われているから、いつもより力が入らない。
簡単に脱がされて、そして、押し込まれる指により私は悲鳴を上げる。痛みは、無い。
でも、多分普通の男のそれよりも太いだろう指が埋め込まれて、経験の全くない体が何事も無く受け入れられる筈も無い。そんな私に白髭の声が降って来る。
「……初めて、だったか。そいつァ、悪かったな。打った薬は鎮痛剤効果もあるから、痛みはねェだろ?」
「くっ……!もう、辞めて!海軍と、せんそ、うでもっした……あぁあアああァ!」
突然指が二本に増やされて、私は予期せぬそれに体を震わせる事しか出来ない。悲鳴が自分から迸り、情けなくて泣きたくなる。
突然のそれに私は思わず脳裏に浮かんだ人達に、救いを求めてしまう。手が、指が、空を切る。
「ゃ……たす、け……おつ、るさ……!しゃん……く……す……」
その瞬間指が引き抜かれて、ホッと息を吐いた直後文字通り身を引き裂くような激痛が身体中を駆け抜けた。1瞬呼吸さえ出来なくなり、痛みと呼吸困難により意識が飛かける。
「ナミ、呼吸しろ!息を止めるな!」
どうして、名前を……?
私、教えてない。それに、どうしてこんなに必死なの?
「ナミ!俺を見ろ……!」
白髭は、どうして、私を……?
その直後に白髭が私の鳩尾を軽く押して来たと思ったら、突然酸素が体内に押し入ってきて咳込む。そんな私を心配そうに見つめながら、白髭がゆっくりと唇を動かす。
「悪かった。年甲斐も無く妬いた。……ナミ、俺にお前ェを殺させるなよ」
「なに、言って……」
「俺のモノになれ。ナミ。拒めば……まずは赤髪の小僧から、沈める事になる」
「白髭!?」
「ナミ、お前ェ次第だ」
その瞳を見れば本気だと言っていて、どうしてそんな事にと体が震える。だけど私は、シャンクスに傷付いても、死んでも欲しくはない。
戦えば、エースの居るべき場所であるこの白髭海賊団か、シャンクスやベックのいる赤髪海賊団が……損傷し、下手をすれば死んだり崩壊したりするかもしれない。ともすれば両方が……。
それならば、私は迷う事なんて何も無い。白髭が私を襲う理由も、どうでもいい。
「私を、どうぞ、好きにしてください」
「ナミ?」
「お望みの、ままに」
「……守る為ならば、か。強い意志が宿った瞳だな。本当に甘ェよ、ナミは……だが俺はそんなナミの甘さに、付け入るぞ」
そう言って白髭は私の中に自身を最後まで埋込み、私の中に何度となくその熱を放つ。それが連日続けば体も慣れて、痛みは感じ無くなる。
心も、凍り付いたように動かなくなる。なのに、体だけが白髭のそれに反応してしまう。
それが浅ましく思えて、穢らわしく思えて、1人になると自然と涙が落ちる。それでも白髭からのそれは、終わる事は無い。
抵抗しない私に、白髭は時折「流石はお優しい海兵さんだな」と笑うけれど、私は海兵としては間違った選択をしたとわかってるのよ。だって、四皇が勝手に潰し合うのを、阻止してるのだから……。
「ナミ……俺は体だけで満足するつもりはねェぞ」
突然向けられた白髭の言葉の意味が分からなくて、私は首を傾げる。そんな私に、白髭は毎夜体を好きに扱いながら他愛ない事を問い掛けてくる。
好きな食べ物、暇な時の過ごし方、好きな本の種類、好きな花、好きな音楽、そして……どんな人が好きなのかと、それに私が戸惑いながらも答えれば、私に用意される物はそれを反映した物になった。物で釣って、私の心を壊さないようにしているのかな。
そんな風に思える程、白髭は私に気を使う時がある。でも、私は望んでこうなっているから、そんな事してもらわなくても良いのに……。
そう頭では思ってるし考えてるのに、私の体は訳もなく1人になると涙を流す。そして、白髭はそんな私に悲しそうな顔をしては、理由を聞いてくるけど訳なんて何も無いから答えられない。
女は壊れかけた多くの物をその胸に抱いて、壊さぬように涙を流す。それを男は拒絶と絶望だと考えて、隠されていると女の小さな体に想いをぶつける。
それが2人の距離を開き、すれ違わせているとも気付かぬままに。女が壊れるのが先か、男が気付き改めるのが先か。
その答えは、この話を目撃した貴方の心次第。