崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話 作:アルテマ
どこかで、声が聞こえたような気がした。
「……?」
光を感じて、その瞼の裏にまで伝わってくる眩しさを受けて意識が目覚める。強い浮遊感のようなものを感じながら瞬きをしつつ、瞼をゆっくりと開ける。光の正体は天井で横長に設置されて部屋全体を白く照らしている蛍光灯だった。
しかし、自分の記憶を漁っても、その近未来めいた五角形の形状の蛍光灯を含めて、そんなものを使用している部屋に覚えはなく、その事実を受け止めた僕は横になっていた体勢から飛び起きるようにして硬い床に地につけて立ち上がる。
「……ここは……?」
自分が現在いる部屋は確かに見覚えのない部屋だった。ただ、この簡素としか言えない部屋の事を僕は知っている。
矛盾している表現かもしれないが、そうとしか言いようがないのだ。だってこの部屋の存在は、現界してきたジャンヌたちと違って、まずこの世界に存在し得るとは思えない場所。
僕が液晶画面越しに彼女たちを見てきたその場所を、僕は見てきたから
それはカルデアのマイルームと、ユーザーたちが読んでいた場所。
正式名称は分からないが、少なくともこの部屋がカルデアのマスターやサーヴァントたちにあてがわれている部屋の間取りと全く同じであるという点は間違いなかった。
下がぽっかりと空いている簡素なベッドと近くの壁に据え付けられているモニターや観葉植物、円形の小さなテーブルとそれに見合う大きさの椅子、3枚扉のクローゼット。
どれもこれも僕が見たことのある置物や間取り、家具の設置されたその部屋だった。
「どうして、僕はここに……?」
そんな疑問を口にするも、返ってくる返事などありはしなかった。だが、何故自分がこの場所にいるのか全く見当がつかないのだから、つい口からそんな言葉がこぼれてしまうのは許してほしいというものだ。
「……ん?あれ?先に進めない……?」
とりあえず、ここから脱出すべきか助けを待つべきかじっとしているべきなのかもわからないが、僕がここにいる理由は何かないかと、ベッドの方へと足を向けたて調べようとしたところ、数歩歩いた先で何か見えない壁に阻まれたかのように体がぶつかってしまい、その先に進むことが出来なかった。
仕方がないと思い今度は反対方向の、バスルームやトイレと思わしき部屋を調べようとするも、その扉の前でまたも見えない壁に阻まれてしまった。
ならばいっそのことこの部屋から出ていってしまおうと半ばヤケクソな考えで部屋の出入り口へと向かうも、案の定見えない壁に阻まれて部屋から出ることすら叶わなかった。
「んー……ここまで手掛かりなしか……まいったなぁ……」
お手上げとばかりに、唯一動ける範囲内に置いてある家具の小さな椅子へと腰かける。 魔術礼装の起動も現状出来ないために、魔術か化学、そのどちらによって形成されたのかどうかは分からない謎の障壁に対してこちらからとれるアクションもない。
今の僕に出来ることと言えば、こうして座りながら部屋の内装を見回すことくらいしかなかった。最も、それも手掛かりを求めて行ったその行動も、これと言って大きくおかしな点や気になることが分からず、数分で飽きてしまったが。
「……!」
どうすれば良いのかと考えあぐねているところに、外から規則的な足音が聞こえてきた。その足音の正体が僕をここに連れてきた元凶なのか、それとも助けに来た存在なのか区別がつかない状態で、とりあえず警戒をするに越したことはないと考えて椅子から立ち上がる。
あれから多少ジャンヌ監修で齧った構えを取り、出入り口の方を睨む。
段々と大きくなっていく足音がピタリと、僕の部屋の前で止まる。
誰が来るのかと更に警戒し身構える中で、聞こえてきた声は良く知っている声だった。
『マスター、おりますか?中に入ってもよろしいでしょうか?』
それは間違いなく、僕の姉であると常々名乗っているジャンヌ・ダルクその人の声だ。ただ、その声音には少し違和感があった。
その声は普段のそれよりも、何か自分を少しだけ抑えているような、そんな声。だけど、僕はその声も知っているように思えて……
『……あの、マスター?いないのですか?』
「あ、ごめん!入ってきて大丈夫だよ」
『あ、良かった、在室しておりましたのですね。では失礼します」
少し思考が固まり、返事をすることを忘れてしまっていた。やや慌てて警戒と構えの体勢を解き、扉の外で未だに律儀に待ち声を掛けるジャンヌに中に入ることを許可すると、ジャンヌは自動扉のロックを解除した。
横にスライドして開いた先にいたジャンヌの姿は、これまた普段は見覚えのない姿であった。
肩を大胆に晒しながら、両手と両足、胴体を包んでいるのは輝かしい銀の鎧装束とそれを際立たせるような白い衣服。
頭に装着している銀の特徴的な兜こそたまに見ることのあったものだが、その兜をしていた頃には結われていた後ろ髪の三つ編みは、なすがままに解かれていた。
そのジャンヌの姿は彼女の霊基がルーラーであるときの、所謂第三再臨の開放によって切り替わった際の姿だった。
『……あの、どうかしましたか?私の事をじっとみつめて……も、もしかして何か変なところがあるのでしょうか……?』
「え!?い、いやいやいや変なとこなんてどこにもないよ!ただ、普段あまり見ないような服装だったから……それ、ルーラーの時の第三再臨の時の霊衣だよね?」
『……?確かにこれは第三再臨の際の霊衣ではありますが、霊基の強化が完了してからはほとんどこの姿ではありませんか。それにルーラーの時って……現状のカルデアにはオルタとリリィを除いて、私自身の霊基はルーラーしか登録されていませんよ』
「え……?」
彼女からの返答は全て身に覚えのない回答であった。
霊基の強化なんて僕はジャンヌにした覚えはないし、そもそも彼女の霊基はルーラーではなくアーチャーの筈だ。
簡易霊衣でルーラーの第一再臨の服装こそすれど、霊基そのものに変化はなかった筈だ。
「……ねぇジャンヌ。カルデアでジャンヌが召喚されたのっていつだったけ?」
『?フランスの特異点の修復をしている最中の時ですが……」
「ジャンヌの霊基の最終再臨が行われたのはいくつめの特異点の時?」
『第四特異点のロンドンの時ですが……あの、マスター?』
「……そっか、じゃあ最後の質問。水着はどうしたの?」
『水着……?ま、まさかマスター、ジルの持ってた私のファンクラブだとかの会報誌を読んだのですか!?あ、あれはですね、別に私が望んでやった訳ではなくてですね!?その、ちょっと落ち込んでいるときにアンさんとマタ・ハリさんに言いくるめられて撮影した写真がなぜか流出してしまって、別に私は不特定多数の人にあの水着姿を発信したかったとかそんなことは―――』
……ああ、そういうことか。
目の前のジャンヌがどういった存在であるのかを確かめるためにした質問に対し、最後の質問に対してだけ彼女は何か慌てたように顔を赤らめて弁明をしていた。
弁明の内容からして、僕が指している水着というのがセイバーのジル・ド・レェのバレンタインのお返しでもらったジャンヌファンクラブの会報誌のことを指していると思っているのだろうが、正直今はどうでも良かった。
これが夢なのか、それとも僕が別世界にでも飛ばされ憑依でもしたのかは全く分からない。ただ1つだけ確信したことがある。
部屋の内装から察してこそいたが、今僕はあのカルデアにいる。
それも多分、僕が実際に人理修復に挑み、様々な英雄たちをサーヴァントとして召喚し、共にいくつもの特異点の修正へと赴いたカルデア。
その人理修復の道行の道中、過去の世界に、カルデア唯一のマスターとしてここにいる。
信じられないような内容ではあるが、僕がルーラーのジャンヌ・ダルクを召喚した時期や、最終再臨の終了した時期は、彼女の僕の質問に対する回答の時期と一致している。
水着についての心当たりに自身の別霊基の発言はないのなら、今は少なくともfgoの作中時間における2017年の夏よりは前の時期なのだろう。
「……」
ふと自分の両手を眼前に持ち上げてみる。
腕の長さや手の平の大きさに違和感を覚えるようなことはなかったが、果たしてその感覚が正しいのかさえこの状況では分からなかった。
せめて鏡か何かで今の自分の姿を見ることが出来れば、今自分がどういった状態なのか確認が出来るのだが、この移動範囲の限られた状態ではそれも叶わない。
……まあ、現状の自分の正体について考えても仕方がない。
ジャンヌがここに訪ねてきたということは、恐らく
当然、僕自身に用事があるとは思えないし、その用事がここから抜け出す手がかりになるとも思えない。
ならばその用事を聞き対応するなりやんわりとあしらうなりしてから、現状打破のための行動をとった方がよいだろうと思い、今も顔を真っ赤にして何やら高速詠唱しているジャンヌへと割り込む形で話しかける。
「ああごめんジャンヌ。こっちの話だからさ、今は気にしないで。ところでここを訪ねてきたってことは、何か用事があったんじゃないの?」
『そもそも、ジルからファンクラブ設立したなんて話一言も聞いてなくて……って、え?……何を言っているのですか、マスター?食堂で夕食を共にした後、渡すものがあるから部屋に来て欲しいと言ったのはマスターではないですか』
「え!?……そ、そうだっけ?」
『……あの、大丈夫ですかマスター?まさか、どこか体調が悪いのでは?』
まずい。早くもボロが出てきた。僕が人類最後のマスターではないという事は勘付かれてはいないし、ジャンヌは僕の事を心配するように見つめているだけだが、それもこのままでは時間の問題のような気がした。
「あーうん、そうだった。ごめん、忘れているつもりは無かったんだけど、ちょっと考え事しててさ。別に体の調子はいつも通りだから、そんな心配しなくて大丈夫だよ」
『……マスターがそう言うのでしたら良いのですが……くれぐれも体調管理には気を遣ってくださいね。ここ最近は夜遅くまでシュミレーターで種火とQPの確保に勤しんでいるようですし……』
「善処するよ。それで、えーっと渡すものだよね?ちょっと待っててねすぐに出すから」
適当に誤魔化し、それっぽい動作をするようにクローゼットの方へと向かうも、内心でしまったとつぶやく。
先ほど部屋の探索をしようとした際に、このクローゼットも開こうとしたのだが、クローゼットの取っ手部分に触れる前に件の見えない障壁に阻まれてしまったのは確認済なのだ。
しかしここまでの動作でクローゼットに渡すものがあると彼女に対して行動で示しておきながら不自然な撤回は出来ないし、何より目に見える範囲に人様に渡すようなものは見当たらず、物をしまっておく場所なんてこの部屋ではクローゼット以外には考えらない。
もういっそのことジャンヌに、『渡したいものはこのクローゼットにあるんだ。開けてみて』なんて言って開けさせて方がいいのかもしれないなんて考えつつ、取っ手に手を掛けた。
「……?」
一瞬逡巡するも、すぐに違和感の正体に気づく。先ほどまで確かにクローゼットの前で阻んでいた壁が消失し、取っ手に手を掛けることが出来ている。
一体どういうことなのだろうかと考えてしまうが、すぐにその思考を脇へとどけた。今はこれ以上ジャンヌの前で不審な行動はとるべきではないとし、クローゼットを横へと開いた。
クローゼットの中身は驚くほど閑散としていて、クローゼットが仕事のし甲斐がないとばかりに嘆く声が聞こえてくるように感じるほど空間が空いている。
だからこそ、その空間の1番手前にポツンと置かれていたものの存在に真っ先に目が惹かれた。
「……!」
……ああ、そうか。
そう言えば彼女にこれを捧げたのはそれぐらいの時期だったっけ。
シュミレーターで種火やQPを貯め込んでいると言うジャンヌの言からも、そんな時期にジャンヌに渡したものなんてこれ以外には考えられない。
そっとクローゼットの暗闇の中を照らしていたそれを持ちあげる。
魔術界的に貴重な物であるということもあったけど、カルデアにおけるこれは個人的に大切な人に贈る感謝の気持ちだと思っているから。
『え……あの、マスターそれって……』
「これをジャンヌに渡したかったんだ。受け取ってくれるかな?」
驚きを隠せない様子でいるジャンヌに間髪入れずに手に持っている聖杯を差し出す。
そう、聖杯だ。
当然、万能の願望器としての聖杯ではなく、
この聖杯にはどんな願いでも叶う万能の願望器としての機能はないが、潤沢な魔力リソースである点からサーヴァントの霊基の強化の幅を更に広げることが出来る。
しかし万能の願望器ではなくとも聖杯は聖杯。
その数は限られているため、fgoのユーザーたちは各々が限られた好きなサーヴァントへと聖杯を捧げていた。
聖杯を捧げる理由は様々だったか、主に強いサーヴァントの更なる強化か、あるいは好きなサーヴァントだったからというのが理由の大半を占めていた。
僕の場合は後者の理由に近いが、厳密に言えば少し違う。
『あの、でも、それは数が少ない貴重なものですよね……?私ではなく、もっと他に相応しい方がいるのでは……?』
謙虚な態度で返すその疑問は、何とも彼女らしいと思えた。
ジャンヌ・ダルクと言う英雄は知名度を考えれば、とてつもなく名高い英雄だと言うのに彼女は全くそこに鼻をかけない。
聖女であるがゆえに清貧を心がけ、だからこそこの聖杯を受け取るのもどこか遠慮をしているのかもしれない。
でも、それでも僕は
「ジャンヌに受け取って欲しいんだ。数が少ない貴重なものだからこそ、使える数が限られているからこそ、ジャンヌに受け取って欲しい。……ここまでの旅路まで進むことが出来たのは、ジャンヌの力がなかったら難しかった。だから、こういった形で感謝を伝えたかったんだ」
この言葉は、紛れもない僕自身の本心からの言葉だった。
数の限られた聖杯を多くの英雄の中から1人を選んで捧げると言う行為は、程度や様々な理由があれど、その英雄を特別扱いするという事だ。
その特別扱いするという行為は、僕にはどうしても共に戦ってきた英雄への感謝の表れとしか考えられなかった。
……それに僕には、彼女への感謝を示す方法がこれ以外には考えられなかった。
『で、ですが、ここまでの旅を支えてきたのは私だけではありませんよ!他の英霊の方々は当然のこと、ここのカルデアのスタッフの皆さんも、必死にマスターを支えていました。この人理修復の旅路でマスターを支えたのは、私だけではないのですよ!?』
「……うん。それは分かってるよ。この場所に来るまでに沢山の人に助けられて、支えられて、ここまで来れたのはよく分かってる。この身の力なんてたかが知れているし、そういった人たちの支えがなかったら、とっくのとうにこの人理修復の旅路は途絶えていたと思う。カルデアのスタッフの人たちやサーヴァントたちに、感謝をしていない訳では決してないんだ」
『でしたら、尚更「―――だけど」』
「この旅路の中で、ずっとここまで導いてくれたのは、あなただったから。支えるのではなくて、前に立って道を示してくれたのは他でもないジャンヌだったから」
息を呑む音が、彼女から聞こえた。今僕はどんな顔をしているのか、自分でも分からない。
そもそも、今の自分の姿を正しく認識が出来ないていないような気がする。
だから今述べているこの言葉も、僕自身の言葉ではなく、人類最後のマスターの心情が言葉としてただ紡がれているだけなのかもしれない。
「フランスでも、ローマでも、オケアノスでも、ロンドンでも、アメリカでも、キャメロットでも、いつもジャンヌが前に立っていてくれて、その旗で守ってくれていた。ジャンヌはそうやって、手を引っ張ってくれたんだ。それが何よりも嬉しくて、頼もしかったんだ」
それでも、この言葉が僕のものでも、彼のものでも、どちらでも良かった。
きっと、彼女に感謝を伝えたいという思いは同じだと思うから。
手に持つ聖杯を彼女へと差し出す。彼女は一目聖杯へと視線を落とし、すぐにこちらへと視線を戻す。
その視線には未だに困惑と遠慮が含まれたものであり、
1つ深呼吸し、間を置いて言葉の続きを紡ぐ。
「ありがとう。ここまでの旅の道を照らしてくれて、これまでずっと守ってくれて、導いてくれてありがとう。それから―――」
―――これからもよろしく
そう告げようとした口を噤み、思いを閉じ込めた。
その言葉だけは、今の僕が言って良い言葉ではない。
それは人理修復の旅をこれからも続ける
既に結末を知ってしまっている
『―――』
彼女は目を見開き、僕の事を見つめてくる。……きっと彼女の瞳に映っているのは、人類最後のマスターの筈だ。
それでも、せめて言葉だけでも、伝えておきたかった。
『……マスター』
彼女は僕の差し出した聖杯を握る手を両手で優しく包み込んだ。その手の手袋越しの温かな体温が伝わってくる。
『私からも、あなたに感謝を。あなたからの特別な思いを賜わるが出来たことを、心から嬉しく思います。……あなたとお会いできて、本当に良かったです』
その言葉を最後に、視界が外側から燃え上がるように白に浸食されていく。虫食いのように広がっていくそれと、同時に浮き上がっていく意識と感覚に戸惑うも、それでも最後まで彼女のことを見つめていた。
『ありがとう、マスター』
最後に視界に映っていた彼女の微笑みは、神聖な聖女としてのものではなく、素朴な村娘のするような彼女の内面が現れていたように思えた。
「……んぅ……?」
肌につく若干の違和感が意識を目覚めさせ、ゆっくりと被っていた布団から起き上がる。ぼんやりとした意識の中で枕元に置いてあるスマートフォンに手を伸ばし、ロック画面へと目を向けるとそこには13:36の数値を示す画面が無機質に浮かび上がっていた。
「……あー……うん、そうだったなぁ……」
昨日、いや今朝方まで繰り広げられていた情事を思い出して頭を抱える。薬で敏感にされていたとは言え、あんなに恥ずかしげもなく懇願し、その上自分の本性に近いものをさらけ出してしまったのだ。おまけに洗脳されていないというのに、自分でお姉ちゃんだなんて呼んでしまって……
(いやいやいや、あれ薬で相当追い詰められてたし、洗脳と似たようなものだからセーフセーフ。ノーカンノーカン)
心中でそんな言い訳をしつつ、今の自分の状態を確認する。どこか気怠い感覚はあるが、動くことに大きな支障はないだろう。また昨日全裸のままで気絶してしまったはずだが、既に僕はいつもの魔術礼装を着せられていた。
目を覚ました場所がベッドであることと、服を着せられていることから、気絶した後の介抱をジャンヌがしてくれたのだろう。
「……さっきのは、夢……?」
彼女のことを想起して、ふとさきほどまで認識していた光景を思い出す。似たような経験を最近したばかりではあったが、今回の見たそれは前のものとは違い、記憶の切れ端ではなく全く身に覚えのない場面の会話。
こうして眠りから覚めたことから妄想が生み出した良くできたフィクションと言うのは簡単だが、目覚めた今でも何をしていたのか、そして夢の中であろうと伝わってきた感覚を覚えている中で、ただの夢であると断じることは出来なかった。
「あ、起きていたのですね。おはようございます、弟君」
入口のほうから声を聞いてそちらへと視線を向けると、ジャンヌがこちらへと歩み寄ってくるのが見えた。そう言えば、起き抜けで彼女の顔を真っ先にみなかったのは初めてのことかもしれない。
「おはようジャンヌ。ベッドにいないからどこにいるのかと思ったよ」
「弟君よりはやく起きてしまったので、シャワーを浴びてました。昨日は浴室を結構汚してしまいましたし、一応確認も兼ねて」
ジャンヌの髪や頬が若干熱っぽく上気しており、直前までシャワーを浴びていたことが見て取れた。浴室を汚してしまったその理由と、ジャンヌのその姿に色気を感じて気まずく思い目を逸らしてしまう。
「あ、その……」
「ん~?どうしたんですか?」
僕のそんな様子から何を感じ取ったのかを理解したジャンヌが、揶揄うように僕の顔を覗き込んでくる。彼女が近くにいることが感じられる体温からも認識できて、心臓の鼓動の音がはっきりと上がっていくのを感じる。
「えいっ、ぎゅーっ♡」
「うわっ!?」
ジャンヌは僕に滑り込むようにして僕に抱き着いてベッドへと押し倒してきた。競泳水着越しの胸が僕の胸板でむにゅりとして形が変わるのを感じて、動悸が更に激しくなる。
「えへへ、弟君はあったかいですね。お姉ちゃんは弟君にこうしてぎゅ~っと抱き着くのが大好きなんです♡」
耳元でジャンヌの吐息と共に囁く声が聞こえてくる。
伝わってくる体温も相まって、自分の顔が赤くなっていくのを自覚する。このまま抱き着かれてはまたいつものように性行為にまで発展しそうだと思い、朝からスイッチが入ってしまっているジャンヌをどうにか言いくるめて引き剥がそうと思った時だった。
「……ふふふ、ずっと、ずーっと一緒にいますよ。お姉ちゃんはどんな時でも、弟君の味方ですから」
「……!」
「もしも悲しいことや辛いことがあったのなら、お姉ちゃんが弟君を癒してあげます。お姉ちゃんは、弟を守るものなんですから。だからいっぱい甘えていいんです。お姉ちゃんはどんな弟君でも受け入れますから……」
「……」
優しく告げられたその言葉は、僕が昨日無様に晒してしまった弱い姿を知ったからの言葉なのだろう。慰めるように頭を優しく撫でてくる彼女を感じながら、目の前のジャンヌについて思う。
確かに、夏の魔力を受けて彼女は色々と暴走してしまった。洗脳してきたりだとか、僕の事ばかり優先してきたりとか、本当に呆れてしまうくらいには。
それでも、こうやって誰かのことを慈しんでいる姿はルーラーの時と比べても本質的なところは同じなのだろう。
こうやって人の心の柔らかい部分を突いて好意を刷り込む行為は、ある種洗脳と言っていいのかもしれない。もしかしたら、彼女はそれを狙ってこうして優しい言葉を掛けているのかもしれない。
それでもその言葉が、その思いが、その献身が、喩え彼女の策略であったとしても僕にとっては嬉しかった。
僕は尚も頭を撫でつけるジャンヌの肩を優しく持ち上げ、ベッドの上に座る形で上体をお互いに起こした。疑問符を浮かべているジャンヌのことを真っ直ぐに見つめて言葉を紡ぐ。
「……ありがとう、ジャンヌ。……それと、昨日はごめんね」
「……?どうして謝るのですか?」
「ほら、昨日の一件は、僕がジャンヌに掛けた言葉が原因だったと思うから。……気にしてたんだよね、その見た目のこと」
「……確かに、その通りではありますけど、それは別に謝ることのほどでは……寧ろ、昨日のことを考えると謝らないといけないのは私の方で―――」
「それでも、発端は僕だから。……それとね、今更なんだけどさ……」
「―――その霊衣、すごい似合っていると思う」
「……………………ッ!?」
普段であれば絶対に言わないような賛美の言葉をジャンヌへと送る。……こんな思いが、言葉が、彼女に対する感謝になるとは思えない。
けれど、平時はどこか恥ずかしくて言えない言葉を、今ならば言えるようなそんな気がして、気づけば口に出していたのだ。
自然に浮かんだ微笑みと共に口から出ていた言葉を受けて、ポカンとした表情をした後に、一気に顔を赤くして僕から距離を取り、両手で顔を隠していた。
「な、ななななななな!?そ、そういう不意打ちはズルいですよ!?わ、私にも心の準備というものがですね!?」
「素直に思ったことを口にしただけなのに……まあ、今の慌てる姿も可愛いけど。ちょっと新鮮かも」
「か、かわっ!?」
ジャンヌが慌てる姿を見て、意地悪をしてみたいという仄かな嗜虐心が湧き上がってついつい揶揄うような言葉を続けてしまう。 本心でもある感想を受けて、ジャンヌは更に顔を赤くしていた。
普段は絶対見ないようなオーバーなリアクションを見て、何となく普段から僕の事を揶揄っている節のある彼女の気持ちが分かったような気がした。
……ただ、少し予想外なことがあったとすれば
「あ、あわわわわわ‥…あ、あ、あ」
「……?ジャンヌ?」
「姉ビィィィィィィム!!」
「うぉお!?あぶなぁあ!」
このジャンヌの照れ隠しはなんとも恐ろしすぎる反撃であったことであろう
唐突にジャンヌの指から放たれたパステルカラーの波動をベッドから飛び降りることで回避する。未だに片手は顔の前で隠されている赤い顔のジャンヌは、顔を隠している手が片手になっていたことでその羞恥と不満げな表情が入り混じったそれが見て取れた。
「あ!なんで避けちゃうんですか弟君!お姉ちゃんの愛を拒否するんですか!?」
「そりゃ避けるよ!どこの世界に照れ隠しで洗脳してくる人がいるのさ!?」
「べ、別に照れてなんかいないですし、これは洗脳じゃないです!ちょっと弟君を素直で可愛い弟君に変えちゃうだけです!」
「それを洗脳っていうんだけど!?」
ああ、ほんと誰かこの姉を名乗る不審者をなんとかして!
「文句は後で聞きますから、今は黙ってお姉ちゃんの愛を受け取ってください!」
「問答無用なの!?」
「弟君に拒否権はないんです!お姉ちゃんは絶対なんですよ!!姉ビーム!!」
「しゅ、【瞬間強化】ぁああ!!」
迫りくる姉ビームを魔術礼装を起動し、脚力を上げて避ける。その脚力のまま出入り口の扉に突進して蹴破る。脚力のみでなく、身体全体が強化されているからこそ出来た芸当ではある。つくづく良くできた礼装であると思うが、そんな関心する時間が惜しいとばかりにすぐに廊下を走り出す。
蹴り出し先ほどまでいた場所に波動がぶつかり四散するのを振り返りながら確認しつつ、彼女もまた部屋から飛び出してきたのを見た。
「コラ!どこに逃げるんですか弟君!今素直にお姉ちゃんの愛を受ければ、3時間お姉ちゃんの抱き枕になるだけで許してあげますよ!」
「それ前に同じこと言って結局襲ってきたよね!?今回も絶対それ襲ってくるよねってうぉお!?【緊急回避】ぃい!!」
容赦なく姉ビームを乱発してくるジャンヌの攻撃を、魔術礼装の機能を駆使してどうにか避ける。ああやっぱりまた勘違いをしていた。見直した直後でこんなことしてくるんだからほんとこの姉を名乗る不審者には困る。
僕が一般人でしかないことを全く考慮せずに、とにかく自分を姉だと洗脳して言い聞かせてくるジャンヌに心中で僕は叫んでいた。
やっぱこの姉バーサーカーでしょ(断言)
弟君「関係が3歩進んで2歩下がったような感覚で大変遺憾です」
お姉ちゃんですよ♡「では今夜もお姉ちゃんの愛をたっぷり注ぎましょう!そうすれば、もっと仲良くなれること間違いなし!」
やっぱり台無しにするスタイル
すまねぇプレビュー見ようとして投稿しちゃったから後書きは投稿後の直書きなのぜ
それにしてもなんで俺こんな長々とシリアス書いてたんだろうな?どちらかと言えば水着ジャンヌとのイチャラブコメディを想定していたのにどうしてこうなったし
Q.1前話の後書きは一体……?
A.今はまだ語るときではない(V兄様は働いてね)
Q.2じゃあ前半のくだりは何?
A.今はまだ(ry (質問コーナー雑でゴメンネ!)