崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話 作:アルテマ
更新が遅れたのはバレンタイン特別篇を書いていたからと言うのもあるのですが、先週の水曜日に私A型のインフルエンザに罹っちゃったんですよ。
本当はバレンタイン特別篇と一緒に設定集も投稿しようと思ったのですが、ちょっとそっちまで書く余裕がありませんでした……申し訳ない……
てなわけで今回はバレンタイン特別篇です。時系列については一切気にしない方向でお願いします。
本編終了後かもしれないし、そうじゃないかもしれないお話です。
それではどうぞ
「どうぞオーナー。ハッピーバレンタイン!」
「あ、ありがとうございます」
「ホワイトデーの3倍返し、期待してますからね」
「あ、あはは……了解です」
「もう、冗談ですよ。そんな引きつった笑み浮かべないでください。オーナーに物をねだったりしたら、ジャンヌさんが怖いんですもの。この後はジャンヌさんと?」
「ええ。実はさっき、すぐに部屋に来るように言われて……」
「あら、それはすみません。ではあまり引き留めてはいけませんね。それではまた明日」
最近ますますフランクな関係になってきたなと実感しつつ、手渡された箱を手に、受付の女性と別れる。
歩みを自室へと向けている中で、ふと手に持つ箱へと視線を向ける。丁寧にラッピングされた赤いリボンつきの箱には、右下の隅っこに草書体で【Happy Valentine!】と書かれている。
受付の人の几帳面さに感心しつつも、僕の心中はおおぴっらに今日がバレンタインデーであることを自覚させてしまうようなそのこだわりに、ほんの少しだけ恨みたい気分だった。
世界が崩壊する前において、日本におけるバレンタインデーとは基本的には【女性が好意のある男性に向けてチョコレートを贈る】日だ。今のこの世界において、政府や治安組織の機能していないここが日本であると断言はできないと思うが、住んでいる住人たちは殆どが日本人だ。
文明と文化は滅びかけたが、まだ生きている人々は確かにいて、どうにか立ち上がろうとして復興に励んでいるのだ。
……まあ、そんな中でバレンタインなんてイベントは不謹慎か場違いにも思われそうだが、世界が崩壊してから幾分が時がたった今、英霊たちの協力もあって復興の目途が立っているらしいし、こう言ったイベントが出来るのなら、多くの人たちの精神に余裕が出来てきたと言えるのだろう。
シルク・ドゥ・ルカンもそんな世間の流行に乗っかり、今日はバレンタインイベントを執り行った。
ショーを見に来てくれた人たちに先着でチョコレートを配ったり、イルカショー中にジャンヌがトスを上げたチョコ入りのボールをイルカに観客席へとドルフィンキックで蹴り入れて貰ったりと、無難なイベントやジャンヌにしか出来ないような特有のイベントも行った。
『はーいトス!リースお願い!』
『キュィイ!(特別意訳:任せて!)』
『わわっ……や、やった!ありがとうイルカさん!イルカのお姉さん!』
『ジャンヌ!どうか
『リース、今度はアタックです!』
『キュイッ!(特別意訳:くたばれ!)』
『おお、ジャンヌ!あなたのお慈悲が私目掛けて直進しtゴペギャノォオオオオオ!!?』
なんか会場にいつもいる常連さんにボールじゃなくてチョコそのものをイルカにトスして、スマッシュの勢いでぶつけさせてたりもしたけど、問題はなかった(震え声)。
一応イルカショーのオーナーとしてジャンヌに注意はしておいたが、個人的にはジャンヌにナイスと心の中で叫んでた。
ただ顔面にチョコが直撃して昏倒して尚、恍惚の笑みを浮かべているその常連さんには若干引いた。
特別イベントも大盛況で終えられ、スタッフさんたちの片づけを手伝った後に、ギルさん主催の打ち上げにも参加した。
今日のイベントでのスタッフさんたちを労うために行ったものだそうだが、美味しいものに目がないジャンヌはこの打ち上げには参加せず、一足先に部屋に戻っていた。
『ちょっと準備がありますので、先に部屋に戻ってます。弟君は打ち上げが終わったら、部屋に来てくださいね』
そう言って美しく微笑むジャンヌの口からは、若干涎が垂れていた。
その涎の理由は打ち上げの席に並んでいた食事へと向けていたものなのか、あるいはバレンタインと言う特別な日にかこつけて僕を(性的)に食べるための捕食者としての一面が現れたものだったのだろうか……
「いやいやいや、ないでしょ流石に……」
部屋へと戻る道すがら1人ごちる。普段人目を気にしている方で、こういった独り言はあまり呟かない方だと思うのだが、頭に巡っているどちらの方がマシなのかと言う葛藤のせいで人目を気にする余裕なんてなかった。
だって今日はバレンタインデーだ。そもそもバレンタインデーと言うのは某宗教の聖職者である聖ウァレンティヌスを由来とする記念日とされている筈だ。(諸説あるが)
生憎と僕は詳しくはないのだが、ああ見えてジャンヌは熱心なと言うか、史実から考えて狂信的な信徒であるのだ。
そんなジャンヌが普段あんなとは言え、彼女の信仰する宗教の聖職者が由来の記念日に色欲に塗れた爛れた夜を過ごそうだなんてとても考えられn
「いや普通に襲ってきそうなんですけど。そこは現実逃避するのやめようよ」
自分で自分の内心にセルフツッコミを入れて現実逃避をやめようと頭を振る。
だって今のジャンヌの霊基は水着を纏ったアーチャーであり、本人はバカンスモードを公言している。
ルーラーの霊基の時とは打って変わって浮かれ放題だし、何よりもバレンタインが愛の誓いの日であることを考えても
『今日はバレンタインです!愛の誓いの日なのです!つまり、お姉ちゃんが弟君をこうして愛してあげることには何も問題はないのです!だって、お姉ちゃんと弟君は相思相愛なんですから!!』
とベッドに押し倒されながら言われるのは想像に難くない。と言うかほぼ毎日姦計に及んでる時点で今更である。
いつも僕の方も流されて快楽に溺れてしまうのにも問題があるのかもしれないが、断っても向こうが洗脳を行うことで性行為を強要してくるのだからそこは勘弁してほしい。
……それにジャンヌの愛を拒否すると、いつもジャンヌは泣きそうな顔になってしまう。
絶対に本人に言うつもりはないけど、これが惚れた弱みと言うやつなのだろう。
とりあえずジャンヌの信奉する神様に謝っておこう。アーメン……あれ、十字って信徒じゃないと切ってはいけないんだっけ?
と、若干思考がおかしな方向に飛躍させながら歩いていたらあっという間に僕とジャンヌの自室にまでたどり着いてしまった。
……考えてたってしょうがない。今部屋に戻らないでいたところで、次の日にジャンヌに怒られるか泣かれるかは分からないが、その後で洗脳されて逆レイプコースは確定するんだ。逃げるなんて不可能なんだし。
それに、ジャンヌが僕の為に用意してくれたものならば受け取らなければ彼女にも悪いだろう。
なんだかんだ言って僕はジャンヌにべた惚れなんだななんて考えながら鼻で笑い、ドアノブに手をかける。
好意のある相手からのプレゼントなら、それがどんなものであっても喜ばしいことには変わりはないのだから。
(……あの涎の理由については前者の理由であることを願って、1/1スケールジャンヌ・ダルクチョコレートくらいまでであることを祈ろう。
チョコレートジャンヌ・ダルク盛りとかだったら全力で逃げよう。捕まるだろうけど)
と心中で格好のつかない願いを思いながらドアノブをひねり手前へと引く。
開け放たれたドアからは、甘い香りが漂ってくる。やはりと言うか何というべきか、彼女の準備と言うのはバレンタインに準ずるものだったのだろう。
しかし、その香りからはチョコレート特有のカカオの香りと言うよりは、何か陽だまりのような暖かさを感じられるような香りが濃いように感じた。
まあこれで恐らくはジャンヌ自身がチョコレート(意味深)になる展開はなくなったとは思うが、警戒は怠らないでおく。
「あ、おかえりなさい弟君!丁度準備も終わってところですよ!ナイスタイミングです!」
ドアの開く音を聞いたのか、ジャンヌはキッチンの入り口から顔を覗き、こちらへとぱたぱたと足音を立てて近づいてくる。
「打ち上げはどうでしたか?本当はお姉ちゃんも参加したかったのですが、こっちの準備に時間がかかりそうだったので抜け出しちゃいました。
……弟君?」
「え、あ、うん。楽しかったよ。
ところでジャンヌ、その格好は……?」
キッチンから出てきたジャンヌの格好に目を引かれて、少しジャンヌへの返答が遅れてしまった。
と言うのも、今ジャンヌが身に纏っているのはいつもの黒いビキニとパーカーの上から真っ白なエプロンを着用しており、料理の支度か何かをしていたのが伺えた。
「あ、これですか?これはですね、今日と言うバレンタインの日にちなんでお姉ちゃんから弟君に愛の籠ったプレゼントを贈ろうと、今日まで空いた時間に特訓していたお菓子作りの本番に先ほどまで挑んでいたのです!」
「そ、そうなんだ」
えっへん!と胸を張るジャンヌに対し、僕が予測していたバレンタインの贈り物群の中で最も無難な贈り物をジャンヌが用意していたことに逆に驚いてしまい、返事がどこか適当なものになってしまった。
「む、さては疑ってますね?お姉ちゃんは確かに少々不器用なところがありますが、ちゃんと練習すれば簡単なお菓子作りくらいは出来るんですよ!
それに今回は料理の出来る方に教えてもらって、その方から及第点は頂いたので問題ありません!
ほらほら、すぐに用意しますからテーブルについてください!さあさあさあ!」
「あ、ちょ、押さないで!自分で歩くから!」
僕の生返事が疑いからくるものだとジャンヌは思ったようで、証拠を見せんとばかりに僕の後ろに回ってダイニングへと押し込む。
それに抵抗しながらふと横目でキッチンへと視線を向けると、コンロの上にある揚げ物用の鍋に、開け放たれている電子レンジ、シンクで水に浸かっているボウルや泡だて器が目に映り、同時に自分が今朝見たダイニングの状況と違うことから、ジャンヌがお菓子作りを先ほどまで行っていたことが真実であることがよく分かった。
「はい、ここで待っててください。
すぐに持ってきますから」
抵抗空しくジャンヌに押されて椅子へとぐいっと押し込まれ、ジャンヌはキッチンへと戻っていった。
まあそもそも座ること自体に嫌がっていたとかはないので、おとなしく座って待つ。
(……でも手作りって、何を作ったんだろう……?)
ジャンヌの不器用さは前に一緒にオムライスを作った時はもとより、たまに一緒に料理をしたりすることがあるので良く知っている。
未だに包丁を持つ手に不安しかないし、揚げ物系なんて以ての外なのだが……まあ料理の出来る人に教わったと言っていたし、油の扱いもそこで教えて貰ったのだろうか?
「はい、お待たせしました弟君。ハッピーバレンタイン!」
「……!」
程なくしてキッチンから出てきたジャンヌが僕の座るテーブルの前に置いたそれは濃い目のきつね色をしており、渦巻き状に刻まれた2つの円形状の間には生クリームがたっぷりと挟み込まれ、円形の半分を占めるチョコレートと全体に雪のように散りばめられている粉砂糖たちがその円形のお菓子を化粧しているようであった。
「これ、フレンチクルーラーだよね?いつの間にこんなお店で出すようなお菓子作れるようになってたの?」
お皿に綺麗に盛り付けられた数個のフレンチクルーラーを指さし、ジャンヌに問う。
お菓子作りは殆どしたことがない僕なので断言は出来ないのだが、お菓子は分量をキッチリと計りとらなければそもそも作ることさえ出来ないと聞いたことがある。
そんな繊細なものをジャンヌが知らない間に作れるようになっていたことに驚いていた。
「料理初心者でも簡単に出来て本格的なお菓子を作りたいってタマモキャットさんに聞いたら、フレンチクルーラーを勧められたんです。
それからキャットさんに時間があるときにテレビ電話で教えて貰っていたんです」
『たとえ聖女であろうがなかろうが、愛する者を持つもの同士協力するのも吝かではないゾ。
だがキャットはあの台所の抑止力な赤マントのように優しくはない!
数々の女どもを堕としてきた女難持ちの饒舌な口から発される丁寧な言葉遣いなど我はしない!
バーサーカーの如く、直接体に叩き込むようにして教えてやるのだワン!
ーーーさあ、ついて来れるか?
……ちなみにシュークリームの生地と同じ材料でもフレンチクルーラーは作れるのだ。
シュークリームの皮が膨らむのに失敗したら急いで油で揚げるが良い!
料理に失敗しても、材料を無駄にしないことは猫だろうが狐だろうが基本なのだワン!』
ジャンヌは少しだけ恥ずかしそうに頬を掻いてそう言った。
ジャンヌの知り合いのタマモキャットさんと言えば、三笠の院長先生のところのサーヴァントのことだろう。
彼女にも向こうの孤児院での仕事があるだろうに、ジャンヌのために時間を割いてくれたのだろう。
今度会う時には人参かゴールデン猫缶をもっていこう。
……あと、妙に某ブラウニーな弓兵さんに対抗してスパルタ教育させようとする割にはキッチンの豆知識を教えてくれるんですね……それと、そのついて来られるかはアサシンの方になりませんかね?
「えへへ……やっぱりバレンタインと言う記念日なのですから、大好きな人に贈るプレゼントは普段はあげない特別なものじゃなきゃ、お姉ちゃんの弟君への愛が伝わりにくいですからね。
特別な日には特別な贈り物を!です。
弟君のためにたくさん作りましたから、遠慮しなくていいですよ。
お姉ちゃんの愛が詰まった一品ですので、いっぱい食べてくださいね!」
どこか照れながらも輝かんばかりの笑顔でそう言うジャンヌを見て、僕はこの部屋に戻ってくるまでにジャンヌからのバレンタインの贈り物に対してビクビク恐れていた自分を恥じた。
僕はここに来るまでにジャンヌの事をあろう事か何をしでかすか分からないと言わんばかりに疑い、彼女の真心の篭った愛情に泥を塗ってしまった。
そうだ、僕は何を恐れていたのだろう。ジャンヌが僕に対する普段の行動や態度はどうあれ、根底は僕への愛であると散々公言してきていたじゃないか。
そんなジャンヌが、バレンタインと言う特別な日を尊重しない筈が無いんだ。
今日がバレンタインだからこそ、ジャンヌは不器用である事を自覚しながらもキャットさんにお菓子作りを教えてもらい、僕にサプライズプレゼントをするようにして先んじて用意したのだろう。
ジャンヌの僕を思う気持ちに涙が出そうになるが、今は我慢する。
ジャンヌの事を疑ってしまった今の僕に出来る謝罪は、このジャンヌの愛情が詰まったフレンチクルーラーを味わって食べることだろう。
「……ありがとう、ジャンヌ。すごい嬉しいよ。
それじゃあいただきます」
感謝の後に手と手を合わせ、早速一口。
外側のサクッとした食感に歯を突き立てた直後、内部のフワフワの生地が崩れて間に挟まれていた生クリームが舌の上へと躍り出る。
控え目な甘さの生地とコクのある甘さの生クリームが調和し合い、そこにチョコレートのちょっとしたほろ苦さと甘さが加わり、それぞれ違った甘さの3拍子が文字通り口の中を蕩けさせるような味わいを楽しませてくれる。
そして口の中で溶けて消えてしまったその甘さを求め、再びかぶりつく。
それを無心で繰り返しているうちに、あっという間に1つフレンチクルーラーは無くなってしまった。
「ど、どうですか?美味しいですか弟君……?」
ゴクリ、とフレンチクルーラーを飲み込んですぐにジャンヌは不安そうにそう問いかけてきた。
前にも似たようなことはあったとは思うけどそこには僕がいたし、多少なりともサポートをした。
でも今回ジャンヌは経験者から教わっていたとは言え、最初から最後までジャンヌ1人の手でキッチンに立って料理をして作ったものを、僕が食べると言うのは初めてだ。だからこそ、己の手だけで作ったものが口に合ったのかどうか前よりも不安が大きいのだろう。
それが好きな人に対してなら猶更だ。僕も同じようなことを最近は感じることが多い。だって好きな人には、美味しいものを食べて欲しいから。
「うん、すごい美味しいよ。生地は綺麗に揚がってるし、生クリームも甘いだけじゃなくて濃い感じと言うか……コクがあるって言うのかな?
僕はお菓子作りってしたことないからよく分からないけど、これ生クリームに何か入れてる?」
「!はい、そうなんです!生クリームに卵黄を入れると美味しいとキャットさんに教えて貰ったんです!」
僕の感想を聞いて嬉しそうにしてそう言うジャンヌ。
隠し味や工夫した点を見つけてもらえるのは嬉しいと言うのをネット上の話と自分の経験から知っていたので、既製品のフレンチクルーラーとは違った点について聞いたのだが、合っていたようだ。
「……ねぇ、ジャンヌも一緒に食べない?」
せっかくだからと思い、その場で立って僕の事をじっと見つめているジャンヌを誘い、隣の席の椅子を少し引く。
もしかしたら味見等で既に食べたのかもしれないが、この2人だけの空間で1人だけ立たせておいて自分だけ食べると言うのは落ち着かないし、何よりも一緒に食べた方が良い。
「いいんですか?
さっきも言いましたけど、それは弟君のために作ったのですよ?」
「だってこう言うのは一緒に食べた方が美味しいよ」
「はい、そういう事でしたら。
……ふふ、実は一緒に食べたかったので、とても嬉しいお誘いでしたよ弟君。弟君はエスパーなんですかね?」
「いや、僕が一緒に食べたかっただけだよ」
微笑みながら隣の席に着くジャンヌの軽い冗談に本心を口に零しながら、再びフレンチクルーラーに手を付けようとするも、そこに待ったとばかりにジャンヌの手が遮るように現れた。
何事かとジャンヌへと視線を向けると、ジャンヌはくすりとわらって手に取ったフレンチクルーラーを僕へと差し出してきた。
「はい弟君、アーン♡」
……ああ、いつものがやりたかったのね。
ジャンヌは食事の際は必ずこうして僕に食べさせたがる。(と言うかほぼ強要)
僕は普通に食べたいし、恥ずかしいから普段なら断るのだけども
「はむっ……もきゅもきゅ」
差し出されたフレンチクルーラーに軽くかぶりつき、生クリームがはみ出さないように気をつける。
うん、やっぱり甘いだけじゃなくて、濃い甘さであってそれでいてしつこくない。
そんな普段の僕ならしない珍しい対応にジャンヌは少し驚いていた。
「あ、あれ?今日はまた随分と素直ですね……?
いつもなら恥ずかしいと言って顔を赤くして、1人で食べられると嫌がりますのに」
「恥ずかしいけど……ジャンヌが僕に想いのこもったバレンタインの贈り物をしてくれたのが嬉しかったから、これくらいには応えたいと言うか……まあ、今日くらいはね?
別に今も嫌々やっている訳でもないから」
「……そうですか、それなら良かった。
はい、それではもうこのまま、全部お姉ちゃんが食べさせてあげますね」
「それは一緒に食べると言う主旨から離れてしまってないかな……?
いやまあジャンヌがそれでいいのならいいけど」
結局、そんな調子のままジャンヌにフレンチクルーラーを食べさせてもらった。
味自体は変わってない筈なんだけど、ちょっと甘さが増したような気がした。
「御馳走でした。美味しかったよ」
「お粗末様でした。弟君のお口に合ったのなら、お姉ちゃん頑張った甲斐がありました」
手を合わせて礼を言う僕にジャンヌもまた返答しながら、空になった皿を下げる。
シンクにお皿を置き、程なくして戻ってきたジャンヌにもう一度お礼を言う。
「本当にありがとうジャンヌ。バレンタインでこんなに嬉しい贈り物を貰ったのは初めてだよ」
「も、もう!そんなに褒めたってなにも出ませんよ?」
「褒めれば来年も美味しいお菓子作ってくれるんでしょ?」
「あ、調子に乗っちゃって!それは弟君のホワイトデーのお返しの品にもよりますね。
3倍返しですよ3倍返し!」
「ははは、了解。ジャンヌのお眼鏡に叶う物を用意すると約束するよ」
軽い冗談を交えながら談笑し、時間を過ごす。
話題は今日のバレンタインでのイベントのこととか、他の人たちが今日どういう感じにバレンタインを過ごしているのかとか、明日の休みをどうやって過ごそうかとか、そんな他愛もない話。
だけどそんな何気ないひと時でも、ただジャンヌと一緒にいられるだけで幸せということ。
今日のジャンヌの思いの詰まったバレンタインの贈り物と献身が、それを再び認識させてくれたと思う。
「……さて、では移動しましょうか」
と、唐突にここでジャンヌが席から立ち上がりながらそう言った。
しかし時刻は既に19時を過ぎており、この後仕事関係でもプライベート関係でもどこかに行く予定はなかったはずである。
「?この後どこか行く予定あったっけ?」
「実は別の部屋にチョコレートフォンデュの用意がしてあるんです。今日の夕飯はチョコ尽くしですよ弟君!」
嬉しそうに手を合わせてそう言うジャンヌ。ジャンヌは美味しいものであればどんなものであれ目がないのだが、やはり女の子な面から甘いものの方が好きなのだろうか?
しかしチョコレートフォンデュか……甘いものは好きだけど、僕はもうフレンチクルーラーを食べた後だ。そんなに食べられるだろうか?
「んー僕フレンチクルーラーで結構もうお腹いっぱいなんだけど……」
「大丈夫ですよ!チョコレートフォンデュなんですから自分の食べたいだけ食べればいいのですし、弟君が食べきれなくてもお姉ちゃんが全て食べきってみせます!」
「そういうことならいいけど……うーん胃が甘ったるいことになりそうだなぁ」
「歯磨きもしっかりしないとですね。さ、行きましょう!」
「あ、もう、別に引っ張らなくても逃げないよ」
ジャンヌに腕を引っ張られ、それに合わせるようにして足を動かしジャンヌにされるがままについて行く。
まあジャンヌの言う通り、フォンデュ系はそもそもからして用意した料理が余る前提な所があるし、多少残ったとしても冷蔵庫に入れておけば問題ないだろう。
と言うか、ジャンヌがいる時点で余るとは思えないけどね。僕は僕が食べられるだけ、食べればいいだろう。
……今思えば、これはフラグだったのかもしれないな……
「……」
「どうしましたか弟君?こんな玄関で棒立ちしていないで、早く席についてチョコレートフォンデュ食べましょうよ」
「……ねぇジャンヌ?確認なんだけど、僕の視線の先にあるあのチョコレートが噴水の如く出ているやつが、チョコレートフォンデュの為に用意したやつ?」
案内された部屋の奥に見えたのは、傍目から見ても普通の大きさではないチョコレートフォンデュのチョコレートタワー。
外観自体は店先でありそうなものなのだが、明らかに大きさが普通のものよりも大きい。それこそチョコの貯まる部分は
「ええそうですよ。ギルくんに頼んだら2つ返事で用意してくれました!」
『僕って自分が愉しむためなら労力を惜しまないんですよねー』
ジャンヌの返答と共に脳裏に何を考えているのかイマイチつかめないスポンサーの良い笑顔が再生される。
おのれちびっこ愉悦部員めぇ……
「……へ、へー……じゃあもう1つ聞いていい?
見る限り、チョコレートフォンデュに必要な肝心のパンとか果物とかマシュマロとかが見当たらないんだけど……」
「あら、そうですか?すみません、うっかり用意し忘れちゃったみたいですね。
でも大丈夫ですよ」
ジャンヌはあざとく腕を後頭部に回して照れるように笑ったかと思えば、急に目を閉じて間を空けた後、ハイライトを失くした目でこう言ってきた。
「パンがなければ弟君を食べればいいじゃない」
弟君はその場から逃げ出そうとした!
しかし回り込まれてしまった!
「は、はなせー!僕にこんなプレイは早すぎるんだ!
汝は竜じゃなくて、汝はチョコとか冤罪剣の所業を軽く越してるわ!
と言うか全身チョコ塗れで犯されるなんて業が深い事をバレンタインに出来るかぁ!」
全身に走った嫌な予感が確信に変わった瞬間に部屋から飛び出そうとするも、ジャンヌに後ろから抱き着かれて拘束されてしまい、身動きがとれなくなる。
おのれ孔明の罠だったか!
と言うか素でこういうことをしてくるあたりやはりジャンヌは上げてから落とす天賦の才の持ち主なのだろうか……
「大丈夫ですよ弟君。
お姉ちゃんが責任持って弟君の全身を味わい尽くしてあげますから♡」
「返して!僕がさっき流しかけた涙を返して!
バレンタインだからこそ静謐な夜を過ごそうとしてくれているんだなとか思って見直していた僕の涙を返して!」
「それとこれとは話が別と言うやつです。
お姉ちゃんから弟君にバレンタインのお菓子はあげましたが、まだ私は弟君から貰ってないので」
「まさかのチョコレート強制徴収!?
やめろー!僕は今日はもう静かに過ごすって誓ってるんだ!
普段からして身が持ちそうにないのに、記念日までこんなんじゃ身体も精神も休まらない!
今日はもう僕は絶対に静夜を過ごすんだ!性夜はもうこりごりなんだ!離して!離してよジャンヌ!HA☆NA☆SE!」
「あ、もう暴れないでくださいよ弟君。
しょうがないですねー、これは1度無力化しませんと」
ジャンヌは弟君にディープキスをしてきた!
「んむぅ!?んっ、ふっ……」
不意打ちの為に弟君は対応出来ない!
弟君は恍惚となってしまった!
「あっ、ひあっ……♡」
「んっ……ぷはっ、ふふふ、すっかり大人しくなっちゃいましたね弟君。
それでは念には念をいれて……お姉ちゃんビーム♡ばんばばぁん♡」
ジャンヌはお姉ちゃんビームを3連射してきた!
弟君は恍惚として避けられない!
弟君は洗脳された!
弟君はジャンヌの事を姉と誤認してしまう!
弟君はもう姉の事しか考えられず、体が熱くなり力が抜けてしまう!
弟君はジャンヌに発情してしまった!
「ひ、あ……♡うあ……♡」
「これでよしっと。
大丈夫ですよ弟君は何もしなくて。
ただじーっとして、お姉ちゃんに食べられるだけでいいんですよー♡
あ、でも時々可愛い反応してくれるとお姉ちゃんはとっても嬉しいです。料理にはスパイスが必要ですからね」
ジャンヌは弟君にそう微笑みかけてお姫様抱っこをし、部屋の奥へと進む。
立ち止まった彼女の真下には、チョコレートのプールが広がっていた。
「ふふふ……♡今夜も長い夜になりそうですね、弟君♡
それじゃ、いただきます♡」
ゆっくりとチョコレートのプールへと浸からせられる弟君が感じたのは濃いチョコレートの香りと、捕食者の笑みを浮かべる姉の姿。
彼の意識はそこで途切れてしまった……
残念!弟君はジャンヌに食べられてしまった!(意味深)
弟君「……」ゲッソリ
姉を名乗る不審者「ん~いい朝ですね~。心なしかスッキリした気分です!」テカテカ
やっぱり台無しにしちゃうスタイル
Q1.>>HA☆NA☆SE!の元ネタ
A.『遊☆戯☆王』のアニメオリジナルのドーマ編より抜粋
主人公が主人公にあるまじきオーバーキルをしていたところを止めようとしたヒロインに対して『離せ!』と言った際のイントネーションやシチュが特殊だったのでネタにされて『HA☆NA☆SE!』となったと思われる。
遊戯王のアニメを知らない人でも、『ドロー!モンスターカード!』とか言って敵のライフが0なのに尚も追撃する動画を見たって人はいるのでは?ニコニコ動画の最も投稿日が古い動画でも『ドロー!モンスターカード!』の動画名でありますし。
それとこの本文で使用した『HA☆NA☆SE!』や『ドロー!モンスターカード!(途中からカード確認してない)』の出た回はこのセリフ以外にも
『何勘違いしてるんだ?まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!』
『もうやめて遊戯!とっくに羽蛾のライフは0よ!もう勝負はついたのよ!』
等汎用性の高いネタ発言が多い回だったと思う。
Q2.終盤辺りのRPG風っぽいの何?
A.私の趣味ですが何か?
RPG風のR-18表現は結構好き。気が向いたらジャンヌVS弟君をRPG風でやるかも
但し、弟君負け確定の模様
次回辺りはいよいよ本小説でも他の崩壊世界シリーズの方とコラボしますよーお楽しみにねー