崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話 作:アルテマ
最近投稿が安定しないなぁ……と言うかやっぱ10000文字って多いよなぁ、上手くまとめられるようになりたい……
「……そろそろかな」
「もう、まだ待ち合わせの時間の15分前よあなた。
そんなにそわそわして急かすようなのはよくないわ」
「ああいや、そんなつもりはないんだ。
ただシルク・ドゥ・ルカンからここまではそれなりの距離があるし、何か事故でもあったりしたら大変だと思ってさ」
「そこは心配いらないと思うわ。
交通手段はわたしたちが前に利用したタクシーを勧めたから、少なくとも遅れるようなことはない筈よ」
(……むしろそのタクシーが問題あるように感じるんだよなぁ。
オーナー君、ちょっと体力なさそうだし)
ホテルタウン【オーシャン・ビヨンド】。その入口に位置する場所で、1人の男性と少女が設置されたベンチに腰掛けていた。
天気は快晴。朝陽は上り切り、太陽があと2時間ほどで真上へと差し掛かる時間帯であるので地面は程よく暖められており、冷えこんでいるようなことはない。程よい気温と雲一つない空は正にお出かけ日和と言えるだろう。
このベンチに腰掛けている2人は、そんなお出かけ日和な日に前もってデートの予定を入れていたカップル……いや、既に将来を約束し合った夫婦である。
男性の名は
そして妻である少女はライダーのサーヴァント、マリー・アントワネット。誰もが一度は名の聞いたことのある、18世紀の儚いフランス王妃。
彼らは直接出会ってからまだ1年も満たないが、周りから見ればそれはそれは仲睦まじい夫婦であり、今はホテルタウン【オーシャン・ビヨンド】にて、カウンセリングの仕事をしている。
この世界において精神を病んでいる者は多く、彼らは中々まとまった休みをとれずにいた中で、上司にあたる人物から働かせすぎたと謝罪の後にお詫びとして急遽休日を取らされたのだ。
さて、そんな休日を得られた彼らであるが、今日のデートはただのデートではなく、彼らの知人たちも交えたダブルデートであるため、その知人たちを迎えるためにこうして朝からホテルタウンの入口で待ち合わせをしているのだ。
「しかしダブルデートねぇ……マリーが提案したこれ、そもそもの主旨は彼らにデートがどんなものであるのかを直接教えるって話だったけど……」
「だったけど、なにかしら?」
「彼らの事を考えての提案であるのは本当だけど、ダブルデートをしてみたかったってのもあるでしょ?」
「正解よあなた。
前から気になってはいたのだけど、中々相手のペアが見つからなくて困っていたから、ちょうど良かったわ。えぇと、渡りに船って言うのかしら?」
「それで合ってるよ。
でも初めてのデートがダブルデートってのは、彼らにはハードルが少しばかり高いんじゃないか?」
「ふふ、それなら大丈夫よ。
ジャンヌとあのオーナーさんはお似合いのカップル……いえ、姉弟ですもの。きっと楽しんでくれると思うわ」
(マリーはあの2人を姉弟認定するのか……いや、まあ愛の形は人それぞれではあると思うが)
そんな談笑をしながら時を過ごしている彼らの視線の先にて、黒い形状の何かが目に入った。
「あら、もしかしてジャンヌたちが乗ってるタクシーはあれかしら?」
「……あー、そうだなぁ。
そう、彼らの視線の先にいる黒い形状もといタクシーは何故か空中へと飛びたっており、彼らの近くのホテルタウン入口へと向けてミサイルの如く突っ込んできたのだ。
このままではそのタクシーは地面へと衝突した後に大破爆発四散もかくやという勢いであったのだが、信じられないことにそのタクシーは前輪から地面へと着地した瞬間に衝撃を殺すようにしてハンドルが切られ、スピードと後輪が落ちると同時に鮮やかにホテルタウンの入口へとタクシーは横付けされていた。
「モンスターの群れに囲まれたときはどうしたものかと思ったが、お遊びで付けた外付けのブースターが役に立つとはな……C4の爆発も利用して空へとぶっ飛んでいく様はさながらハリウッドのカースタントだったな。
何よりもモンスターを振り切り、華麗に着地をした上に到着予定時間よりも早く到着した私のドラテクが素晴らしい……また世界を縮めてしまった……」
運転席の空いてる窓から自画自賛をしているアルトリア〔オルタ〕の姿と特徴的な車の外観で、待ち人が来たことを彼らは確信した。
そして確信通り、彼らの待ち人はそのタクシーの後部座席より降車する。
「ありがとうございました。
スリリングでとっても刺激的でしたよ~」
「こちらこそ、ご利用ありがとうございました。それでは」
「おいご主人様。こんどのブースターは外付けの使い捨てではなく、このタクシーに直接搭載するぞ」
「おっ、そうだな。帰って整備所のエジソンとテスラ煽っとけば今日中には作ってくれるんじゃねぇか」
そんな会話をしながらタクシーに乗る2人はエンジンをけたたましく響かせ、道に黒い焼け焦げた跡を作りながら颯爽と立ち去った。
その場に残っているのはベンチに座る武田夫妻と、タクシーから降りたジャンヌ・ダルクとその隣で立ち尽くしている少年だけ。
「あ、マリー!おーい!
ほら、弟君行きましょう!」
「……」
ジャンヌはマリーの姿を見つけると笑顔で手を振り、立ち尽くしていた少年の手を取り小走りでベンチに座る彼らへと向かう。
引っ張られている少年は全く無抵抗でジャンヌへとついていっていた。
「ジャンヌ、お久しぶりね!」
「ええマリー、お久しぶりです!
電話口で会話をするよりも、やはりこうして直接会う方が良いですよね!」
「そうね、あなたとのおしゃべりはどんな場でも楽しいものだけれども、こうして直接顔を合わせる方が楽しくて素敵なことだと私も思うわ。
今日のダブルデート、たくさん楽しみましょうね!」
「ええ!私今日がとっても楽しみで夜更かししそうになっちゃったんですけど、弟君抱き枕でどうにか寝つけました!」
「もうっ、ジャンヌったら悪い子ね~」
小走りで近づいてきたジャンヌに対し、マリーもまたベンチから立ち上がって小走りで駆けていくと、彼女たちはお互いに抱き合いながら久しぶりに会えたことに対する喜びと、今日のダブルデートへの期待に胸を膨らませていることを口にする。
彼女たちが抱き合ったことに面食らいかけた広海であったが、マリーの性格からして仲の良い友人への挨拶のようなものだろうと納得し、女性同士の会話に今割り込むのはどうかと考え、ジャンヌの横で俯いたままの少年へと声を掛けた。
「やあ久しぶり。大体1ヶ月半ぶりくらいかな?」
「……」
「いやそれにしても驚いたよ、急にデートについて聞いてくるなんて。
それがまさかダブルデートにまで発展するとは俺も思わなかったけど、なんだかんだ言って俺も楽しみなんだ。
そっちも変に気を遣わないで、楽しんでほしいな」
「……」
「……オーナー君、大丈夫か?」
話しかけても返答どころか反応1つ返さない少年に、広海はどこか体調でも悪いのかと少年の肩に手を置き、屈んで少年の顔を覗き込もうとしたところで、少年は俯いていた顔を上げて開口一番にこう口にした。
「帰ろう。帰れば、また来られるから」
「OK。落ち着け、落ち着くんだ」
死んだ魚のような目で告げられたその少年の言葉で、広海は何が合ったのかを大まかに察した。
彼自身、あの頭のネジが飛んでるとしか思えない現代版クレイジータクシーを利用したことがあるので気持ちはよく分かるのだ。広海はその言葉通りのクレイジーとしか言いようのないドライビングに耐えることが出来たが、この虚無を瞳に映す少年に耐える事は出来なかったのだろう。
そんな少年の言葉が聞こえていたのか、楽しそうに会話していたジャンヌとマリーが何事かと会話に混ざってくる。
「えー、弟君まだ着いたばかりですよ?
なんでそんな事言っちゃうんですかー」
「そうよジャンヌの弟さん。これから楽しい時間が始まるのだから、そんな悲しい事は言わないで。
このホテルタウンはとっても楽しい所がいっぱいあるんだから」
「いや2人とも、彼このホテルタウンに不満があるとかじゃないから。
と言うかまだ入口前な上にデート始まってすらいないよ」
「帰ろう。帰れば、また来られるから」
「そしてオーナー君もFGOのマイルームのサーヴァントたちみたいな設定されたセリフ繰り返してないで現実に帰って来てくれ!
大丈夫だオーナー君!君の思っていることは間違ってないから!この倫理とか法とかナニソレ状態と言う世界から見ても、あのタクシーは割とおかしい方だから!」
少年の瞳が悲しいほどに虚無を宿している理由を何か勘違いしているような女性陣と、壊れた喋るぬいぐるみのような様相を呈している少年に広海はフォローへと回らざるを得なかった。
広海の言葉を聞き、瞳に感情が戻り始める少年。少年はあのタクシーの中で常に速度180km/hの世界を体験させられた挙句、モンスターに追われたり囲まれたり、その包囲から逃れるために後部座席からも見えた無骨なブースターと爆風を利用した超加速を味わらされ、タクシーの運転手に告げられた安全で快適なとは一体なんなのだろうか?
いや、そもそも安全と快適とは何なのだろうか?自分の知っている安全と快適と全然違う、いやでも僕以外はみんな楽しそうだもしや自分がおかしいのか?
と若干哲学的で懐疑的な思考回路へとなっていたために、自分を支持してくれている人がいると言うのは現実逃避していた彼を現実へと立ち直らせる言葉だったのだ。
だがしかし、現実とは割と残酷なのである。
「それに弟君、行きも帰りもオルタクシーを料金前払いで予約しているので今から帰ったらその払ったお金が勿体ないですよ」
「いやぁぁあああああああ!!帰りたくなぃいいいいいい!!」
「お、オーナー君!?落ち着け!落ち着くんだ!」
「まあ!そう思ってくれるなんて、わたしとっても嬉しいわ!」
「違うよマリー、違うよ!彼が帰りたくない理由はホテルタウン一切関わってないから!」
崩れ落ちて両手を地面へと何度も叩きつけながら叫ぶ少年の声は悲痛に満ちており、それを何故か別の意味で捉えて喜ぶマリー。
まだダブルデートは始まってすらないのに、前途多難すぎると広海は頭を抱えたくなった。
尚、この後広海氏の必死の精神分析によりオーナー君は正気に戻りました。
どうもみなさんこんにちは。シルク・ドゥ・ルカンのオーナーです。
自分の中で安全と快適と言う言葉の意味がゲシュタルト崩壊しそうな出来事に遭いましたが、私は元気です。
とりあえず客を客とも思わないあのタクシーは絶許。正直帰りもあれに乗らなくてはいけないと考えると、今から憂鬱です……
「あー……うん、まあオーナー君、そう気を落とすことないさ。
ジャンヌから聞いたけど、モンスターに囲まれて正面突破なんて事態はあのタクシーでもそうそうない。
帰りは行きの時よりはマシのはずさ」
軽く俯きながら歩く僕の感情を読み取ってか、右隣で励ましの言葉を掛けるのは今日のダブルデートの相手ペアの武田広海さん。あの頭のおかしいタクシーの同じ経験者であるからか、僕がどんな目にあったのか察してくれているのだろう。
相手側から気遣わられて、内心しまったと思う。
今日はせっかく向こうが提案し、時間を作ってくれたダブルデートの日。それなのに初っ端からこんな空気を悪くしてしまってどうするんだ。
「……そう、ですね。とりあえず、今は帰りの事は考えないでおきます」
「ああ、それがいい。せっかくお互いに楽しい時間を過ごせそうなんだから、楽しめる時は楽しまないと損だ。
……ところで君のジャンヌに聞きたい事があるのだけど、いいかな?」
「はい?なんでしょうかマリーの夫さん?」
「どうしてルーラーの霊基での第一再臨の霊衣を着ているんだ?
確か平時での霊基はアーチャーだと聞いたのだけど」
僕の左隣で腕を絡めて密着しているジャンヌの今の姿は、彼女が外に出る際やイルカショーの演出で纏うルーラーの第一再臨の簡易霊衣であった。
最近ではショー以外だと専ら気分によって着用すると言う出番の少ないものとなっていたのだが、今回のダブルデートにあたって僕からジャンヌにその簡易霊衣を着るようにお願いしたのだ。
だって考えても見て欲しい。ジャンヌの今の霊基は水着を纏うアーチャー。
つまり普段着用しているのは水着なのである。当然であるが。
しかし分かっているとは思うが水着で外出なんてすればその奇異さとジャンヌの見た目から注目させる事は必至だ。
第一再臨のビキニ+パーカーと第三再臨の聖女コスみたいなのなんてその筆頭だ。露出は際どいわ目立つわで外出時に着るには論外。
かと言って第二再臨の競泳水着+パーカーも、イルカショーでのジャンヌの衣装な面があり、目立ってしまわないかと不安。
霊体化させることも考えたのだが、ジャンヌが出来うる限り僕の近くで触れ合いたいと駄々をこねたのと、デート中に相手が霊体化すると言うのは本末転倒であろうと、この案は取り下げた。
そんな訳でジャンヌの押し入れならぬ、霊基の隅にあった簡易霊衣を着用して貰ったと言う訳だ。目立つ事に変わりはないが、水着よりは幾分がマシであろう。
その旨を武田さんたちに説明すると、真っ先にそれに異を唱えたのは武田さんの右隣で腕を絡めて歩くアントワネットさんだった。
「あら、つまりジャンヌにはよそ行きのものどころか、普通の服装すら持っていないのかしら?」
「えっと、そうですね」
「ダメよそんなの!女の子にとって服は必需品であって、たくさんあって困る事はなくとも、無いのは死活問題なのよ!」
珍しくお怒り気味のアントワネットさんに痛い所を突かれてたじろぐ。
僕は世界が崩壊する前から服には無頓着であり、安い服や古着を適当に買って着ていたからおしゃれに関するスキルはほぼないに等しいけれども、ジャンヌに余所行きのような服がどこか物々しい鎧装束しかないと言うのはよろしくないとは薄々思ってはいたのだ。
しかし色々と忙しかった件に加えて、ジャンヌ自身そこまで服にこだわりがなかったようであり、今日この日までこの問題は放置されていたのだ。
ジャンヌが身なりに気を遣っていないということは一切ない。彼女は毎日清潔であるように心がけているし、その心がけのままに行動している。……と言うかサーヴァントは1度霊体化した後に霊体化を解くと、髪とかは元に戻るらしいし(らしいと言うのはジャンヌが霊体化しているところを僕は見たことがないので、知識として知っているだけだから)
しかしまあ、ジャンヌだって1人の女性であることに変わりはないのだから、おしゃれが出来るのであればしておくに越したことはないと思う。
「あの、それじゃあ先にジャンヌの服を買いに行きたいと思うんですけど、案内頼めますか?」
「あら、素早い判断ね。でしたらその案内役はわたしが精一杯努めさせていただくわ。
と言うよりも、わたしも今日は先にジャンヌの服を見繕うのが最善だと思うの」
「俺も別にそれで問題ないよ。流石にデートで鎧装束ってのはどうかと思うしね」
「弟君がそう言うのでしたら、私はそれで構いませんよ。
それに、私もたまには違う服を着てみたいと思っていましたし」
どこか目がギラついているようなアントワネットさんが気になるが、全員の賛同は得られたので、とりあえずの目的を服屋へと設定して向かう事にした。
しかし女性と共に服屋へと行くと大抵女性側の買い物は長くなり、男性側は退屈してしまうと言うのは実話は勿論小説やゲームでもありがちな表現である。
普段のジャンヌとは違う服装が見れるというのには期待している所はあるが、もしかしたら思ったよりも時間を取られたり疲れたりするかもしれないな。……まあ、その辺は気にかけて行動しよう。
なんて思っていたのだが、この程度の心がけでは足りなかったことを痛感するのはすぐのことであった。
「やっぱりジャンヌは色んな服が似合うけど、白や紺色の服が似合っているわね。ジャンヌらしさが出ると言うべきなのかしら?」
「そ、そうですか?私服装については疎くて、そう言うのはよく分からないのですが……」
「わたしがしっかりレクチャーするから大丈夫よ!おしゃれは楽しいものですし、好きな人に自分のいろんな姿を見てもらって褒められるのは嬉しいものよ。
ね、ジャンヌの弟さん?このジャンヌのコーディネートも素敵よね?」
「え、あ、はい。
えっと、すごい似合ってると思います」
「そうでしょう?それじゃあこれも買いましょう」
試着室前でジャンヌが着ていた服を買い物かごへと入れるアントワネットさん。
その買い物かごには既に限界一杯まで詰められた服が積まれ、似たような状態の買い物かごが隣に1つ。これ全てがアントワネットさんの見繕ったジャンヌの服である。
「……あの、武田さん」
「今更苗字で呼ばなくていいさ、広海でいいよオーナー君。
そして言いたいことは分かるけど諦めてくれ。
こうなるとマリーは中々意志を曲げてはくれないんだ」
僕の視線で何が言いたいのか理解したらしい広海さんの返答は何とも無慈悲であり、このままアントワネットさんの気が済むまでジャンヌの着せ替えショーを見ていろと言うことなのだろう。
覚悟していたつもりが、まさかこんなに大変なことだとは思わなかったなぁ……
アントワネットさんの案内で、ホテルタウンのショッピングエリアの服飾店へと入店した。
アントワネットさんのお気に入りだと言うこの店の商品は見た感じ女性ものが殆どであり、カジュアルなものから高級感のあるドレスのようなものもあり、幅広い服を取り扱っているようだ。素人目でみても、それも品質が良いものだと思ったのが入店直後の僕の印象だ。
そして入店してアントワネットさんは服を幾つも引っ張り出し、ジャンヌと共に試着室へと行くと次々にジャンヌに服を着せては合うと思ったものは買い物カゴへと入れていった。
最初はジャンヌが色んな服を着て、可愛かったり、綺麗だったり、そのことを口にしたりし、いつもとは違う印象を受けたりしていいなーとか考えてはいたが、時間が経つにつれて疲労は溜まっていき、広海さんも同じような状態だった。
時刻もそれなりの時間が経ち、既に太陽は真上を通り過ぎた時間だ。
昼時と言う事もあり、そろそろ昼食を取りたいと思っていたのだが、どうもアントワネットさんはこうなってしまうと止めるのは難しいそうだ。
……まあジャンヌに外に出られるような私服が無いという問題を解決して欲しくて僕が提案したことなのだから、こうなったらとことんまで付き合うのがいいのかな、と考えたときだった。
ぐぎゅる〜
と、そんな可愛らしい空腹を訴える音が周囲に響く。
性格と状況、音の発生限を考慮して試着室の方へと目を向けると、恥ずかしそうに顔を赤らめているジャンヌの姿があった。
「……あの、大変お恥ずかしいのですけど、その……私、お腹すいちゃって……おしゃれというのはこんなに大変なものだったのですね……」
「あ、あら?そんなに時間が経ってたのかしら?
ごめんなさいジャンヌ。こんなに長い時間無理矢理つき合わせちゃって……」
「そんなことありませんよ。マリーが私の事を思ってのことだとはよく分かっていますし、私も色んな姿を弟君に見せることが出来て良かったと思っています」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいわ。
じゃあ最後に、この場で着ていく一着だけ選ぶのに付き合ってもらえるかしら?
その後に昼食にしましょう。2人もそれでいいかしら?」
「あ、はい。ジャンヌとアントワネットさんが良ければ僕はそれで……」
「ああ、俺もそれで構わないよ」
「……なんか、着せ替えショー想定より早く終わりましたね」
「君のお姉さんの腹ペコ体質に感謝しないといけないな」
「広海さんまで勘弁してくださいよ……」
確認の言葉に了承の言葉を返し、ジャンヌとアントワネットさんの後ろをついて歩く傍らでデートプランの次へのステップへと行くことがあっさりと決められたことに安堵し、広海さんと小声で話し合う。
ジャンヌの色んな姿を見れて嬉しかったのは事実だが、あまり同じ場所で長居するのもデートと言う目的を考えると良くないのかもしれないし、ジャンヌのあの腹の鳴き声はファインプレーだったとしか言えない。
アントワネットさんの行く先について行くこと数十秒。目的のエリアへと到着したようであり、僕の方へと振り返る。
「それじゃあ、最後の服はジャンヌの弟さんに決めてもらいましょうか。
このコーナーから、好きな服を選んでちょうだい」
それが予想だにしない提案だったために、僕は少し返答に戸惑い遅れてしまう。
「え……あの、僕正直おしゃれがよく分からないので、ジャンヌに似合う服をコーディネート出来る自信がないので、その辺はアントワネットさんに一任したいのですけど……」
「もう、別にアントワネットさんだなんて、そこまで他人行儀に呼ぶ必要はないわ。
普通にマリーさんでよろしくてよ?
それにこのコーナーに限って言えば、おしゃれが分かってなくても問題ないわ。どちらかと言えば、あなたがジャンヌに着て欲しい服がどれなのかと言うのが重要ね」
「は、はぁ……そう言うことならば、了解です」
言われるがまま、何気なく近くにあった服をレールから引っ張り出してみる。
【ゴスロリセット】←取り出した服
ゴスロリとはゴシック&ロリータの略であり、いわば少女的かつ暗黒や神秘のあるゴシック精神的なファッションの融合。なんとご丁寧に頭につけるボンネットやストラップシューズまでセットについている。
……そして僕は何も言わずにそっとその服をレールへと戻し、ため息を吐きながら目を閉じて片手で眉間を抑える。
「?弟君、どうしてすぐに服をレールに戻したんですか?」
「いや、ごめんちょっと幻覚が見えた。
だからリテイクさせて。次は大丈夫だから多分」
「そうね、ロリータ系の服はジャンヌの場合はもう少し工夫がいると思うわ。
でもゴスロリ服を着るジャンヌはちょっと気になるわね……」
(……あ、このコーナーって確か……)
アントワネットさん、もといマリーさんが何か言っているが恐らく彼女も同じ幻覚を見ていたのだろう。
何か急に周囲をきょろきょろ見回す広海さんも気になったが、今はこの幻覚から逃れるのが先決だ。
大丈夫だ。多分さっきのは僕が取り出した服がたまたま変な服であっただけであって、僕の趣味とかそんなのではないのだ。断じてないのだ。
今度こそ、割とまともな服が出てくるはずだと信じ、手をレールへと突っ込んで掴んだものを引き抜く。
【ナース服】←取り出した服
病気の患者を治そうとする志の高い人が着る服。相手に清潔感や安心感を与えるが、普段着として扱う者はごく一部の者のみ。何故か丈が短めであり、白いニーソックスがセットされている。
幻覚か?
イヤ……幻覚じゃない……!
……イヤ……幻覚か?また幻覚なのか!?
イヤ……何だこれは!?また幻覚なのか!?
「……マリーさん。どうやらこの一帯のエリアの服にはコスプレショップ帰りの客が持ち込んだ商品が紛れているようです」
「いやオーナー君、ここはこの店のコスプレ服コーナーだから特に配置は間違ってない」
「コスプレコーナー!?」
ナース服を手に取ったまま半ば現実逃避で言ったその言葉は広海さんの無慈悲な宣告で即座に否定された。
現実逃避しかかっていた意識は無理矢理引き戻され、
「と言うか何で見た目普通の服飾店にコスプレコーナーなんてあるんですか!?
服飾店とコスプレ専門店は全然訳が違うでしょ!?」
「いや、それを俺に言われても困るんだけどなぁ……」
「そんなに困惑するようなことかしら?
可愛い服や綺麗な服がたくさんあるし、わたしも気に入っているのよ。
そのナース服だって、ジャンヌによく似合っているとわたしは思うわ」
ツッコミを入れる僕に対してマリーさんはそう言い、ついジャンヌのナース服姿を頭で想像してしまう。
想像の中で白の似合うジャンヌが純白のナース服を身に纏い、白いニーソックスとの絶対領域を魅せながら聴診器片手に僕へと微笑みを向けて……
『弟君、診察のお時間ですよー♡』
「……い、いやいやいや似合ってる似合ってないの話は置いておいて、今選んでるのってこの後すぐ着る服なんですよね!?
隣にナース服着たジャンヌとか目立ちすぎですし、変な目立ち方をしたくないっていう目的が成層圏まで飛んじゃってますよ!」
「でもオーナーさんもナース服着たジャンヌを見たいでしょう?」
「見たいです。……ハッ!?」
「だそうですよジャンヌさん」
「ちょっとこれ買ってきますね!」
「あああああああ待ってお願い待って!
2000QPあげるから待って!!」
マリーさんの巧みな発言誘導によってついうっかり漏れた僕の本音を受けて悪ノリで揶揄う広海さんと、僕の持っていたナース服をがっしり掴んでレジへと向かおうとするジャンヌ。
収拾がつかない状況へとなりかける中でどうにかジャンヌの背中を掴んで命乞いの如く待ったをかける僕。
始まったばかりのダブルデートが早くも先行きが不安になってきた瞬間であった。
尚、この後ジャンヌは先ほど購入を決定した服の中からデート中に着用する服を選ぶ代わりに、コスプレコーナーでナース服以外にも商品を幾つか買うことで話は決着がついた。
話がついた後にマリーさんがジャンヌに何か耳打ちしていたことも含めて、今後何か僕の性癖がねじ曲がりそうなイベントが起きそうな気がしてならなかった。
お姉ちゃん「もう、弟君もこう言うのが好きなら言ってくれればいいのに」
弟君「……」←反論したいが見たい気持ちもあるので黙りこくっている
マリー「やっぱり姉弟仲は良いのね~、あなたもそう思うでしょ?」
広海「ごめんノーコメントで」
Q.1タクシーって前払いできるの?
A.最近のタクシーってキャッシュレスの使えるそうですし、オルタクシーは目的地が予め場所を指定されれば予約の前払いOKってしました。
Q.2おいまだ一軒しか回れてねーぞ
A.店1つ1つでギャグかますと文字数多くなる弊害