崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話 作:アルテマ
えー今回は予告通りこうして掃除屋のあるメンバーのお話を書かせていただいたのですが、先に言わせてください。
本編でこいつら関わらせると弟君の苦悩がマッハになるのでほぼ確実に出ません。
いや自分でもここまでやっといて何言ってんのって感じなんですけど、そもそもからしてこの小説は最近の傾向がどうあれ、弟君と水着ジャンヌのイチャラブをメインの題材にしているので、こいつらと引き合わせると色々と不味いです。
じゃあなんで投稿したのって言われると、せっかく掃除屋の設定をなんかそれだけで小説一本書けそうなほど設定考えたのに、そのまま打ち捨てるのは勿体ないなーなんて考えて、投稿を決意しました。
別小説として投稿することも考えましたが、これ以上掃除屋関連のお話を書く気力を割けないんですよね。ぶっちゃけ書いてて辛い。
結論としましてはですね、今回の話無理して読まなくて本編で絡むことはほぼほぼないのでご安心を
総文字数12000文字超えている点も踏まえて、それでも良ければ本文へとお進みください……
……あ、宣言すると次回はしっかりと本編でジャンヌとシリアスなしでイチャつかせるから安心してね!
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
か細い常夜灯だけが光源の廊下を、その男は息も切らせて走っていた。
この世界が崩壊した中で闇夜を照らす光の多くは途絶えたために、外光は月明り以外は殆どない。その月明りも今夜は新月であり、仄かな光で夜を照らすこともない。
暗闇で包まれているその空間はその男にとっては今差し迫っている恐怖を際立たせ、一刻も早く逃げ出さねばと足にかける力も強くなっていた。
謎の襲撃の始まりは館内の明かりが一斉に切れたことであった。
その男はいつもの通りにサーヴァントを奪われた元マスターを手慰みに拷問にかけ、拉致してきた女性を幹部の者たちと凌辱し、世界が崩壊する前までは考えられなかった酒池肉林の悦に浸り終え、自身が選ばれた人間なのだとその享楽の味を思い出しながら就寝しようとしていた。
多くの人々が苦痛にあえぐ中で、自分はこうして弱者を甚振る地位にある強者であると考えていると、男のその愉悦の甘露は深くなる思いであった。
明かりが一斉に切れた直後に、一台のトラックが館内へと突っ込み大爆発を起こすまでは。
停電したことに加えて、トラックが館内へと衝突して爆発するということに、館内は就寝していたものたちも飛び起き阿鼻叫喚の様相を呈していた。
男は何事かと、トラックの衝突した場所へと駆けだす。数分でたどり着いたその場所は使われていない倉庫であり、部屋の中は散らばったコンクリートの破片と炎上するトラックがあるのみであった。
男は1つ舌打ちし、部屋を後にする。大方酔っぱらいのドライバーがうっかり運転をミスしたのだろうとあたりをつけ、適当なものに処理を丸投げしてしまおうと考えたのだ。
「……?」
しかし、そこでふと男は違和感を覚える。先ほどまで嫌になる程に響いていたざわめきの一切が立ち消えていた。それこそ、館内にいた人間がほぼ同時に消えたかのようであった。
エントランスホールで立ち止まるそんな男の足元に、彼の頭上から何かが落ちてきた。まるで詰まった砂袋のような音を立てたそれを、反射的に視線を向けた。
向けてしまった。
「ヒッ……!」
それは人間だった。ただし、それが誰かを判別することは出来なかった。
何故ならその者の頭部は切断され、落ちた衝撃で残った胴体もグチャグチャに弾けていたから。
頭部の切断面から噴き出すように溢れる血が、男の足元を赤く染める。崩壊した世界において人間の死体などいくつも見てきた男であったが、その男の死体は無作為に弱者を虐げてきた報い、自分の未来を宣告しているように思えてしまった。
たじろき死体から後ずさった男は不意にエントランスホールの上へと視線を向ける。
くりぬいたような吹き抜けのある三階の手摺の向こう側に、誰かがいた。
「ひ、ヒィイ!!」
それを認識した瞬間に男は逃げ出すように反転して駆け出した。理性的にも本能的にも、よく認識できなかった誰かが下手人であることは明白だった。
背後から足音が響いてくるのを耳にしつつ、男は逃走劇を繰り広げ冒頭へと至った。
足元しか見えない中、脳内の拠点内地図を必死に思い出しながら走り目的の部屋へとたどり着いたその男は、扉を蹴破る勢いで開く。
扉が開いた瞬間、一気に部屋全域が怪し気な明かりで満ちる。
その部屋は四隅全域がろうそくの火によって照らし出され、壁には幾何学的というより、異郷の呪いめいた文字のようなものがびっしりと刻まれて、部屋の中央もまた似たような奇妙な文字列により、魔法陣のようなものを円形のサークルが形成されていた。
その男にとってこの部屋がどういった部屋であるかは詳細は知らされてはいない。ただ、
胡散臭い男ではあったが支援を無償でしてくれていた人物であり、薄気味が悪かったものの貰えるものなら貰っておこうとし、今日この日まで放置していたのだ。
男はその部屋の異様な雰囲気に充てられて、一歩足を引いてしまう。1度は部屋の内装を確認したというのに、その時は気持ち悪い部屋だなくらいにしか思わなかったと言うのに、まるでその部屋は名状しがたい何かを求めて誘っているようであると感じ、言いようのない恐怖からまた一歩足を引いていた。
しかし後方から聞こえてくる足音が耳に入った瞬間、ひっと詰まったような声を出して自分が通ってきた廊下の先を見る。
暗闇であるために視界に映るものなどありはしないのだが、その暗闇の先からコツコツと響く足音は確かに聴覚が感知し、遅くも早くもない一定のリズムは段々とその音を大きくしていた。
その足音は男にとっては恐怖を煽る死神の足音と言うよりは、自身の命のタイムリミットを機械的に淡々と刻むものにしか聞こえなかった。
気味の悪い異様な空間か、確実な死の暗闇か、男が選んだのは前者であった。
部屋に飛び込むようにして入った男はすぐに中央の魔法陣に置いてある銀のダガーを手に取り、その傍にあった毒々しい紫色の水晶を魔法陣の中央に叩きつけた。
瞬間、バラバラに砕け散った水晶の破片は淡く光って砕け、欠片も残らず空気に溶けた。
すると魔法陣が怪しく紫色に光り出し、もやのような光が零れだし魔法陣の中央真上へと吸い込まれていくようにして集まり出し、小さな黒い球体のようなものが生まれた。
それは光を吸収するたびに大きくなっていき、遂には男の身長の2倍の大きさに迫る大きさにまで巨大化した。
男はその異常な光景に、何か自分は取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと後悔を抱きかけ、見上げる程の大きさとなったそれに恐怖する。
扉が勢い良く文字通りに蹴破られたのはそのタイミングだった。
扉が中央をへこませて地面へと倒れ伏せたその後ろには、黒い外套を着こみ、ルビーのような深紅の髪をバックに黒いくちばしのデザインをした鳥のような仮面をつけた人物が、足を中段に振り上げて立っていた。
「ひ、ヒィィイ!」
その仮面の人物が生身で、それも一撃で鉄製の扉を蹴破ってきたことを意味する光景に男は恥も外聞もなく情けない悲鳴を上げ、尻餅をついて硬直する。
本来なら多くの人の目に留まるであろう美しい紅髪はあまりの恐怖に失禁するその男には、目の前の仮面の人物の紅い髪がこれまで殺してきた者たちの返り血で汚れた色にしか映らず、自分もその色を染める一端となってしまう未来を幻視してしまった。
奇声染みた声を上げるその男と、その近くで渦巻く黒色の縦に伸びた楕円形の何かを目にしたその仮面の人物は素早くH&K USP拳銃を片手で構え男へと向け、躊躇いなく引き金を引いた。
パンッと乾いた音が響き、男は怯んだように両手を交差して目を閉じて襲い来るであろう痛みに備えた。
しかし一向に何かが伝わってくるようなことはなく、恐る恐る目を開けて交差する腕の隙間から前を覗き込むと、黒く太い幹のようなものが視線を遮るように存在していた。
視線をその幹の根元の方へと向けると、そこには優に人2人分の大きさを超える、黒い何かがいた。
2本足で直立し、2本の腕と頭らしきものがあることまでは辛うじて人型と言えるかもしれない。しかし、恐らくは背面と思われる方から見ても、全身が真っ黒であり、直立したまま床にまで届くであろう腕の長さと凶器染みた鋭いかぎ爪を見て、目の前の生物が人間であるだなんて考える者はまずいない。率直に言って男の前にいる生物は異形の怪物であるとしか言いようのない姿だった。
「ヒ、ヒィ……!」
ただでさえ人間が惨殺される場を目の当たりにし、命の危機から逃れようと必死になっていた中で、そんなものを目の前で直視したその男が正気など保てる筈もなく、生存のために働かせていた思考も発狂状態に陥り、その男は手に持った銀のダガーの切っ先を扉の先へとつき立てる。即ち、仮面の人物へと
「こ、殺せ!そこのやつをコロセェェェエエエエエ!」
その発狂した男にとって幸いだったのは、混乱した思考がたたき出した発狂の方向性が他人への強い殺意を向けることであったことだろう。
説明するまでもないが、男の目の前にたつその異形の怪物は男が持つ純銀のダガーと魔力の詰まった水晶によって召喚された生物であり、ダガーを手に持つその男に従属している。
男が異形の怪物を目にして気絶でもしていた場合、水晶から供給された魔力が切れた瞬間にその怪物は男を餌として巣に持ち帰っていただろう。
正気を保てていれば、目の前の生物は自分が召喚したものであると男は判断することが出来たであろうが、精神が酷く不安定な状態だったその男に正気を保てと言う方が無理な話であり、だからこそ無我夢中でその異形の怪物に命令を下せたことが幸いだったのだ。
男の命令を受けて異形の怪物は大きく足を踏み出し、仮面の人物へと駆けていく。
天井にまで迫る大きさの巨体が人間では出せないような重い足音を立てて迫りくる中で、仮面の人物は続けざまに3発銃弾を撃つ。
3発とも寸分違わず怪物に命中するも、その分厚い皮膚に阻まれてしまい弾かれてしまう。怪物は銃弾を受けて少し怯んだ程度であり、有効打とは言えるものではなかった。
「ヒ、ヒハハハハ!いいぞいいぞ!コロセ!コロセェェエエ!」
相手の持つ武器が効かないと見るや否や口角を露骨に三日月に吊りあげ狂喜する。今のその男にとって何故あの怪物が自分の言うことを聞くのか皆目見当もつかないが、どうでもよかった。
やはり自分は選ばれた人間であり、周りの人間は全て自分の踏み台でしかない。選ばれた人間なのだからこそ、自分はこうして生きていてかつ、あの不気味な仮面の侵入者に鉄槌を与える力を手に入れたのだ!
そんな都合の良い解釈をし、一層その狂気の表情を歪ませてダガーを掲げた。
「……」
仮面の人物はUSP拳銃が効かないことを確認した後、特に何か大きな反応を示す素振りもせず、そして躊躇いもせずに銃を床に投げ捨て左腕の掌を受け止めるが如く怪物へと翳した。それは人1人殺す事など訳ないであろう鋭いかぎ爪を防ぐには、余りにも心もとない盾だった。
「イケ!ヤレェエ!!」
怪物と仮面の人物の距離がかぎつめの射程距離にまで詰められ、引き絞られた腕から放たれた刺突を目にした瞬間に男は勝利を確信し、喝采染みた声を上げた。
あんなものに耐えられる人間がいる筈がない。あいつが死ねば自分は助かるという万感の思いから口から零れた言葉だった。
だからこそ、その男は仮面の人物が小さく何かつぶやいていたのを聞きとることが出来なかった。
「……は?」
怪物が放ったかぎ爪による刺突は、肘の部分が伸ばされることなく曲がった状態で止まっていた。カタカタと力が込められて揺れている怪物のかぎ爪は、銀色のドームに阻まれて停止していた。
男はそのあり得ない光景に呆然とした声を漏らす。その銀色のドームの正体を特有の金属光沢を放っていることから水銀であるとは分かった。
しかし何故水銀なんかで、男から見ても見せかけではないと分かるあの怪物の腕を止められるのかが理解が出来ずにいたのだ。
その衝撃は発狂していた彼が一周回って正気に立ち返る程に理解不能な光景だった。
怪物が力を更に込め、強引にその水銀の盾を貫通できないかともがいている中、仮面の人物は何か呟く。怪物の唸り声が響く中であったが、今度は男にもその呟きが聞こえてきた。
「起動」
やや低めの中性的な声の主がそう呟くと、右手に淡い光を放ちながら何かが虚空より姿を現した。
神秘が満ちたことにより、魔術と言うオカルトの烙印を刻まれていたそれは、世界が崩壊する前よりも認知され近しい存在となった。だから男にとっても仮面の人物が虚空から何かを出したことにさして驚くようなことはなかった。原理は理解してはいないが、幾らか見慣れてはいた。
男の目についたのは仮面の人物の呼び出したものそのものだった。
男はその右手に握られているものが最初、拳銃であると分からなかった。
その拳銃は銃身が14インチもの長さであり、その奇抜なフォルムが何よりもそれが拳銃として見えなくさせており、引き金と撃鉄を目に入れてようやく、手に収まっているそれが拳銃であると把握できる代物であった。
シリンダーも見当たらないシンプルな構造のそれは木製のグリップとも相まって、先ほどのUSP拳銃が精密機器とすれば、その拳銃は観賞用の骨董品のようにしか見えなかった。
もしもここにその拳銃の正体について知っている者がいたのなら、そして更に拳銃について知識の豊富なものがいれば驚愕していたことだろう。
その拳銃は本来はスポーツ拳銃であるのだが、銃身が狩猟用ライフルの大口径弾を使用できるように交換され、まるで無理矢理実戦で使用できるように魔改造されているようだと。
そして崩壊した世界に現界したサーヴァントたちの由来となった作品について知っている者たちもまた驚愕するであろう。
その拳銃とそれから放たれる魔弾は、ある世界で誰よりも平和を願っていながら血に塗れた道を進み、機械としてあろうとしながら感情を捨てきれず、それでいて家族よりも世界を選んでしまう、悲しい正義の味方の象徴と言える武器であったのだから。
仮面の人物は右手に持つ拳銃、トンプソンセンター・コンテンダーを構える。銃口の先にあるのは怪物の頭部。
怪物は向けられた銃口の奥の暗闇に潜む何かを見据え、ここまで大した反応を示していなかった頭部の顔らしき部分が焦燥したような動きを見せる。
本能的に向けられている武器が自らの命を脅かすものであるとし、急いで距離を取ろうとするも、引き金に指が掛けられている時点でのその判断は致命的に遅すぎた。
先ほどのUSPの銃声が風船の割れたような可愛らしい音に思えるほどの轟音が部屋を揺らす。
ハンドキャノンクラスの拳銃から放たれるマグナム弾よりも遥かに威力が高い弾丸が、音速を超えた速度で怪物へと向けられる。
人に向けて撃つのには余りに過剰なその弾丸の威力は、人類に対して猛威を振るう怪物にも遺憾なく発揮された。
怪物の頭部に直撃し、貫通した弾丸が天井へと突き刺さる。流れるようにして、怪物は断末魔の叫びをあげることもせず、どさりと音を立ててうつぶせに地面へと倒れ込んだ。
「……は?」
ただ1発の銃弾を受け、あっさりと倒れてしまった怪物。男の生を明日へと繋げる可能性の存在は、人類の脅威と言える存在としては呆気ない終わり方に、先ほどもした間の抜けた声が漏れてしまう。
男は未だに自身の歪な希望が倒れてしまったことが信じられず、怪物を見上げていた視線を恐る恐る下へと下げていく。
倒れ伏し、光を映さぬうつろな目らしきものを向ける怪物と視線があった。
「……ヒッ……!?」
男は今日だけで何度出したか分からいない程の引きつった声を漏らしてしまう。今日だけでもう何度男は異常と言える光景を見て、その度にそれに恐怖しその感情が表に出てしまう。彼の目の前の怪物のその惨状もまた、誰が見ても普通ではない状態であった。
間違いなく頭部を撃ち抜かれたその怪物からは、一切血液や肉片のような生命体でならあるであろう中身が不自然な程に部屋に残ってはいなかった。それこそ、頭部を撃ち抜かれた事実などなかったと言える程に。
しかしその怪物は人類が理解を、あるいは理解そのものが不可能である可能性のあるブラックボックス。中身はスカスカの側だけの存在かもしれない。
だが肝心の銃弾によって撃ち抜かれた怪物の頭部、その部位に一切傷がないのはどう考えても常軌を逸していた。
銃創が瞬時に再生されたのではない。白い怪物の頭部はまるで1度風穴を開けられた後に、滅茶苦茶に皮膚どころか肉体までも縫合したような、そんな有様だった。
それはまるで、気狂いな子どもがぬいぐるみの中身を切り裂き、遊び半分で無理矢理つなぎ合わせた様相であり……
「ヒ、ヒィィイイ!?」
その惨状を生み出した元凶に対し、男の恐怖が再び湧き上がってしまうのは必然であった。
1度は運良く持ち直しかけた正気は、再び狂気へと反転し彼の精神は落ちるところにまで落ちていく。
「ば、化け物!化け物め!私が何をしたというのだ!?強者が弱者を虐げて何が悪い!?」
化け物を嗾け、にも関わらず嗾けた化け物を殺した存在であるから目の前のあれは化け物。
そんな酷く身勝手な主張をヒステリックに叫ぶ男に、仮面の人物は目もくれずに床に打ち捨てられたUSPを拾う。コンテンダーはそれが現れた時と同様に、いつの間にか虚空へと消え失せていた。
興味がないと言わんばかりのその態度に、男は激昂し更に言葉を重ねる。
「この世界が壊れる前だろうが、壊れた後だろうが、誰もがやってきた事だろう!?当たり前の事だろう!?私は強者だ!選ばれた者なんだ!なら弱者をどう扱おうが私の勝手だろう!?それを貴様よくも———」
男のその子供の言い訳レベルの正当化の言葉は、それ以上続くことはなかった。
その声を塗りつぶすようにして銃声が幾つも鳴り響き、男は全身を貫かれたような痛みに叫ぶことも出来ず、血達磨となり果てたのだから。
10回程の銃声の後、残ったのは手に持つUSPの銃弾を撃ち切った仮面の人物と、銃弾によって赤く血に染まり、蜂の巣にされた男の無様なもの言わぬ遺体のみ。
全身から血を流し、自身の血溜まりの中心で溺れるようにして倒れるそれは、人間と言うよりは虫の遺骸のようであった。
「ふむ、随分と念入りな仕事ぶりだ。銃でトドメを刺すのなら、そんな男程度なら1発で十分であったろうに。何か個人的な恨みでも?」
「……アーチャー」
仮面の人物の後ろにいつの間にか現れたそのアーチャーと呼ばれた浅黒い肌に赤い外套を纏ったその男は、どこか他人事のように遺体の惨状から仮面の人物の行った内容をそう評し、効率的ではないその行動に疑問をぶつける。
彼は仮面の人物とお互いにこの仕事を始めてそれなりの間行動を共にしてはいたが、今日のような目立つ仕事は初めてであり、かつ仮面の人物がこれまでの仕事でも明らかに不必要な攻撃と言うことをしてこなかったからが故の疑問であった。
「別に他意はない。ボスからの命令だ。アレは葛城財団と人間同盟に強いパイプがあった。行ってきた所業も外道下劣そのものだ。連中の見せしめにはちょうどいい」
場合によっては皮肉にも近いその疑問を、なんでもないように答える仮面の人物。抑揚もなく仮面の下では表情も見えないために、何を考えているのかも読めない。
「……君はボスから命令されれば、友人にさえ手をかけるのかね?」
「その質問に意味はない。……そんな友人はみんな死んだ」
これもまた、迷う素振りもなく淡々と答えた。ただ、後半の言葉には悔恨と皮肉の入り混じったようなそんな声音だった。
「それで?こんなところで世間話をしに来た訳でもないだろ?」
「そうだな。では報告を先に済ませよう。この屋敷にいる一般人及びマスターとサーヴァントは保護し、現在アサシンの分体数人が車で護送中だ。併行して捕縛した幹部や構成員も車で護送中。残った分体は現在は他に繋がっている組織はないかと屋敷の物品を漁っている最中だ。それもそう時間がかかる訳ではないようだが……フッ、まるで火事場泥棒のようだな」
「アサシン、いるか?」
「……ここに。我が主よ」
アーチャーの皮肉を聞き流し、アサシンと呼ぶと黒い霧が生じてそこから湧くようにして、髑髏の仮面を装着し長いポニーテイルの青髪とベリーダンス風の服装を纏った女性が現れ、膝立ちで面を下げた。
「分体の幾つかでこの部屋の物品をかき集めろ。それから、そこのデカいやつも運搬してくれ。FHA関連のパイプもあったのかもしれない。後者に関しては用意してある偽装トラックを使っても無理なら無理で構わない」
「御意。……かかれ」
間髪入れずに答え、彼女がそう言った途端に彼女の背後から次々と人が現れ、部屋の中を忙しなく動き始める。 彼らは1人1人身長や体格等に違いがあるが、共通して同じような髑髏の仮面を纏っており、誰もが慣れたような手つきで言われた指示をこなしていた。
「指示も澱みなく行えてきた。随分とこの仕事にも慣れてきたな、マスター」
「本職にそう言われるのならそうなんだろうな。全く嬉しくないが」
「ふむ、その皮肉もまた私を意識してのことだろうか?仕事のやり方を参考にするように、私の思考や行動を意識しようとするのには感心するが、言動まで似せる必要はないさ」
「別に意識などしていない。いつもとなりに鬱陶しい皮肉屋がいるせいで皮肉癖が移っただけだ」
「それは失礼」
全く悪びれることなくそう言うアーチャーに仮面の人物は舌打ちをしそうになるも、片耳に装着しているイヤホンから無線が入ったために、アーチャーへの皮肉のお返しをしようとしてた口を噤み、彼に周りの警戒をするようにハンドサインで示した後に無線へと応答する。
『そろそろ始末はついただろう【パローマ】。報告を聞こうじゃないか』
「……相変わらず私の仕事の終わるタイミングを見図るのが上手いですね、【ボス】」
あきれた様子で無線相手の【ボス】と呼ばれた存在に返答する仮面の人物こと、【パローマ】。
この者たちの所属する組織の組員は全員が名前を捨てている、もしくは既に失くしている。故に任務中は勿論のこと、彼らは特殊な任務を除いて常にお互いのことをコードネーム、あるいは細分化された部隊の番号で呼び合う。
その中でも【ボス】と呼ばれた者は【パローマ】の所属している組織を、その名の通り総括している頭目である。
そんな人物と連絡を直接取り合っている辺り、パローマは組織内で高い地位にいるのかと言われればそうではない。そもそも、パローマは組織に入ってからまだ日が浅い。だと言うのに、ボスは頻繁にパローマに直接仕事の指示と報告を受け持っている。
その真意を未だにパローマ自身も見いだせてはいなかったが、自分の能力を正確に把握し任務の終了する時間を確信した形で問うている辺り、何か自身に思うところがあるのだろう程度にしか分からなかった。
「マスターとサーヴァント含めた民間人の保護、抹殺対象の始末と幹部連中の捕縛は共に完了しました。現在は証拠品の調査と押収をアサシンたちに命じております。……それと抹殺対象ですが、死に際にファントム*1のうちの1体を召喚及び、使役をしておりました。対象は葛城財団のパイプが太かったので、そちらの可能性も否めませんが、FHAの例の神父が関わっている可能性が高いです」
『ほう……そうかそうか。しかし災難だったなパローマ。【ガルシア】の尻拭いのために駆り出された先で、面倒な相手の処理もしなけはならないとはな』
無線越しに聞こえてきた、意外と言うよりは何か思わぬ幸運に巡りあったかのような感嘆の声を漏らすボスにパローマは何か嫌な予感がしつつも、今回の予定にない仕事が回ってきた元凶の名前が出たことに乗じて、愚痴を漏らすように返答をする。
「本当にそう思うならそのガルシアに仕事くらいはキッチリとこなすように言って貰えないですかね。そもそも、今回みたいな任務の場合、【ハント】の方が適任でしょうに」
『ハントは葛城財団の連中相手に楽しんでいる最中だ。連中のような色欲に塗れた猿共相手の方が、あのトリガーハッピーの指は軽くなる』
「……で、件のガルシアは?」
『取り逃がした対象のナーサリー・ライムに思うところがあったらしくてな。今は情報収集に徹している。なんでも、あの【アルカナ】に逃げ込んだそうだ。無軌道な凶行を起こしかねない危険分子として排除の命が
「サーヴァント就職組織、【アルカナ】。我々とは違う方向性の狂人集団組織ですか」
パローマはつい先日目を通した様々な組織の規模、理念、危険度などの詳細が書かれた資料の中に、【アルカナ】と言う組織があったの思い出す。
サーヴァント就職組織、【アルカナ】。現状収集できている情報を見ている限り、メンバーの1人1人の個性が強すぎる上、非人道的なことも平気で行う、一般市民からも気味悪がられている狂人集団。
自分たちの立場のことを差し引いても、あまり良い印象をパローマは抱かなかった。
そんな組織に、危険分子とまで言われた存在が逃げ込んで問題はないのかとパローマは考えるが、ボスの声はどこまでも楽しそうに、愉快そうな声でこう続けた。
『ああ、そう知られているな。だが我々にはちょうど良い隠れ蓑だ。奴らと我々とでは本質が違うが、見る者からすれば同じようなものらしい。メンバーのハンドルを握り切れないことが原因かは知らんが時々事後処理が杜撰な点に関しては目に余る。が、カモフラージュとして機能して貰うならそれでいい。そも我々のルールに抵触しないのであれば警告だけで済ませる。もしも利害が一致するのであれば、その時は共同戦線を張ってもいい』
「……彼らは一般市民の目からは勿論、我々がターゲットとしている組織からも狂人集団の認定をされている、歪な組織ですが?」
『
「あなたなら、彼らを正しく扱えると?」
『違うな。
世間で露骨に狂人の集まりであるとする組織に対してまで、嫌悪を示すどころか利用しようとするその在り方に、パローマはどこか達観したような様子でボスの言葉を受け止めていた。
最初の頃はボスの他人とは決定的に違う価値観や在り方に戸惑い、畏怖の感情を抱いていた。だが、こう何度も問答をしていると、この方ならまあそう言った事を言うのだろうなと達観に似たような感情を得てしまう。
最もパローマからボスに対する畏怖の念が消えた訳ではないが、同時にパローマは思うのだ。
この方ならば、この壊れた世界に蔓延る悪意の塊を全て燃やし尽くせるのではないかと
『ああそれと、予定変更だ。そこの屋敷は爆破しろ』
そんなことを考えていた時に、無線から聞こえてきたついででやってこいと言わんばかりの無茶ぶりに一瞬固まり、嫌な予感が的中してしまったことにパローマは内心毒づく。
このボスからの無茶ぶりもまた、パローマはいい加減慣れてしまいそうだったが、慣れていることと平気なことでは全く訳が違うことを実感していた。
「……それも狼煙としてですか?」
『幸いにも、
一方的に切られた無線から意識を切り離し、余計に増えた仕事に頭を痛めつつ指示を出す。
「アーチャー、ボスからの命令だ。この屋敷を爆破する」
「それはまた急な話だ。私の宝具の火力を利用したオーダーなのだろうが、どのように爆破をするのかね?」
「いつも通り。ボスからの命令なら、分かりやすくという点が守られていれば、あとは何でもいい」
「全くいい加減な命令だことだ……まあ、任されたのなら仕事はキッチリとこなすさ」
ため息をつきながら、屋敷の見取り図を取り出すアーチャー。この屋敷内のどこに爆発物を設置するのが最も効率よく破壊が可能なのかを確かめているのだろう。
彼が生前と死後含めてみてきた地獄の光景、その光景の再現を再びさせようとしている。アーチャーの過去の一端を知っているパローマは、それを強要させていることに大きな負い目を感じている。
彼を自分のエゴに巻き込んでいるが故に、パローマの口は自然と口が動き出していた。
「……アーチャー、私は」
「その先の言葉を続ける必要はない」
しかしパローマの紡ごうとした言葉は、相手であるアーチャー自身に遮られた。
彼は見取り図をしまい、パローマの仮面越しに見える目を真っ直ぐに見つめていた。
「君にはもう、この道しか残っていないのだろう。ならば我々は君の剣となり、地獄の果てまで付き合う。あの日から決めたことだ。その道を進む先輩としても、君を放っておくことは出来ない。……そら今だって、君の仮面が剥がれそうになっているではないか」
「……黙れこの女たらしが。さっさと仕事してこい」
「おやおや手厳しいな……では君が怒りださないうちに仕事を済ませてこよう。設置が終わり次第念話を発信する。その後で合流しよう」
ニヒルに笑って霊体化するアーチャーを、仮面越しでも分かりやすく恨めしいような視線を向けるパローマ。
自身の纏っている仮面に触れながら、パローマはやはりあのアーチャーは嫌いだと内心で呟く。いつもいつも自分の言うことを遮って、さも何を言おうとしているのか分かっているような態度で、自分が欲していたのかもしれない言葉を投げかけてくるのだから。
「……アサシン」
パローマは未だに自身の傍で傅くアサシンを呼んだ。パローマ自身はただ呼んだだけのつもりであると思ってのことだったのだが、アサシンの返答は思いもよらない、それでいて分かっていたのかもしれないものだった。
「アーチャーの言葉に虚偽はありませぬ。元より、我らの主はあなた以外にはあり得ません」
「……そうか」
パローマはそれ以上の言葉を紡ぐことはなく、1度アサシンの事を一瞥した後に歩き出した。
既にパローマに出来ることは何もない。アサシンたちに任せた仕事も完了していた。もうパローマたちはこの場所に留まる理由など無かった。
(きっと私は地獄に堕ちるのだろう。血に塗れたこの道のどこかで、惨たらしく野垂れ死ぬのだろう)
それで構わない。
元より、既に自分の価値をこの道でしか見出せないのだから。
冷たい決意を胸に秘め、光の灯らぬ瞳に決意と同様の静かな色を宿らせて、血で染まる床を踏みしめて光の差さない扉へと歩む。
振り返ることは、決してなかった。
そろそろ始めようか。欲に塗れてつけ上がり、権力に座した愚か者どもの掃除を
力を手に入れて人から神にでもなったつもりだったか?
違うな、全く違う
貴様らは人であることを捨て畜生へとなり果てたのだ。貴様らは自ら人権保障の署名用紙を破り捨てたのだ
金を手に入れたい?弱者を踏みにじりたい?本能のままに生きたい?
それは自由だ存分にやりたまえ。その代わり我々も自由にやらせてもらう
自身の業には責任を持ちたまえ。欲に囚われた畜生相手に我々は一切容赦しない
その時は何度も、何度も、何度でも、嫌になる程に、死が救いであると思えるほどに、叩き潰してあげようじゃないか
忘れるな。我々は貴様らを、そして君たちを、いつでも見ているぞ
掃除屋(この呼び名は正式名称ではない。厳密にはこの組織に名前はない)
危険度:?
・理念は秩序の維持と言うよりは、崩壊した世界における悪性の切除。それ以外に目的はない。その悪性あるいはその成りかけの判別は、全てボスの判断に依るもの
・メンバー全員が本来の名前を失っている、あるいは捨てている。実力の高い者はコードネームを与えられるが、いずれにせよ彼らには本名がない。特殊な任務を除いて常にお互いのことをコードネーム、あるいは細分化された部隊の番号で呼び合う。
・メンバーの全員がそれぞれ違う特徴の仮面と黒い外套を見に纏っている。
・サーヴァントはビジネスパートナー。ただし、コードネーム持ちの多くはサーヴァントと契約はしていない。
・組織規模、活動範囲共に不明。
・ボス及びコードネーム持ちのほぼ全員が先天的後天的問わず、掃除屋にしか身を置けない狂人。
・サーヴァントが引き起こした戦闘や事故等の隠蔽や事後処理も担っている。
【パローマ】について
・掃除屋に入ってから日の浅い新人であるが、コードネーム持ちである実力者。
本文においてパローマが使用した能力は、掃除屋の特有の技術である『□□□□』を現界及び人間に埋め込むことによって発動することができる能力。ただし、パローマは本来の力のすべてを引き出せている訳では無い。故に掃除屋の中でも比較的まともである。
・ある事件の当事者となり、それをきっかけに掃除屋に加入。使役するサーヴァントはエミヤ(アーチャー)と百貌のハサン。
・コードネーム持ちではあるが、そのコードネーム持ちの中でもパローマは弱い部類。狂っていることを自覚してはいるが、前述したようにパローマはまともな方である。
【ボス】
・掃除屋を指揮するリーダー。それ以外に知られている情報は少なく、コードネーム持ち以外は顔を見たことすらない存在。
崩壊した世に蔓延る悪意をひたすらに潰すことに執着しているが、その行動原理は不明。
サーヴァント就職組織【アルカナ】
出典は下記の駆けよ獣様の執筆小説『崩壊世界ヲ狂愛シキ騎士ノ残骸ト』より。掃除屋の名前を使用して頂けたので、こちらでも少し話に出させていただきました。
https://syosetu.org/novel/205502/
以下作者のつぶやき
……辛い。マジで辛い。今回のお話は本編と一切関係ものとして扱って欲しいって思うくらいには自分何やってんだ状態。くあー、次回は絶対本編でジャンヌとオリ主いちゃつかせてやるわ。
2021/6/13
掃除屋の設定について、追記しました↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=262434&uid=61478