崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話 作:アルテマ
今回のお話はnibiiroさんとサイキライカさんにご迷惑をおかけしつつも協力してもらい完成しました。
ご協力ありがとうございました。
これは余談なんだけど、頭良さそうな会話考えるって大変だね……
それではどうぞ
『お互いに水かけがヒートアップし、ついうっかり宝具を具現化して勝負をしていたら、気づけば本格的にショーを始めていました』
―――などと、意味不明な供述をし、被告人である2人からは反省の色が窺えませんでした。
『反省はしています。後悔はしていません。次からは気をつけます』
―――と検察側に語るも、その言には具体性と一貫性が欠けており、再犯の可能性は高いと言わざるをえないと判断。
そして被告人のうちの1人の保護者である者はこれらの犯行を止めようとはせず、逆にそれを増長させ煽るかのような行動をした模様。
『俺はマリーの夫であると同時にファンの1人だし、マリーのショーを止めるとかあり得ない。
反省はしていない。後悔もしていない。次も絶対やる」
―――などと述べ、この保護者も監督不行き届きと言うよりは共犯に近しい立場であることは明白である。
また、こちらも反省の色がない事から情状酌量の余地はないとし、重罪の判決は免れないと思われ―――
「……で、私の与り知らぬところであんな騒ぎになっていたと」
「このたびはご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません!
この通り、彼女らに悪気はありませんので何卒平にご容赦を!」
ホテルタウンの社長直々に呼び出しを食らい、ホテルタウンの中央にそびえたつ高層ホテルへと向かい1人通された応接室にて、深々と頭を下げていた。
ジャンヌとマリーさんの唐突に始まったイルカとガラスの馬のショーが終わった後、観客たちが各々興奮冷めぬまま解散していく中で、広海さん経由で僕はこのホテルタウンの社長さんに来るように言われた。
それを耳にした瞬間に、やはりかと思ったと同時に胃痛が加速。気分は完全に校長先生に呼ばれ、尚且つ呼ばれる心当たりのある事をやらかした子どもの気分であった。
とりあえずその要請に応じ社長のいるホテルへと向かう旨を伝えると、既に日が傾きかけているちょうど良い時間でもあったために、全員でホテルへと向かうことになった。
今日は泊まりで来ているので、社長のいるホテルが僕たちの泊まるホテルであり、マリーさんと広海さんもそのホテルで暮らしているそうなので、行き先は一緒であった。
ジャンヌたちは僕たちの泊まる部屋へとひと足先に向かい、僕はその場で分かれて呼び出されたホテルの部屋へと向かい、応接室として使われているらしい部屋へとホテルマンに案内され、既に中で待っていた社長とそのサーヴァントと出会い、冒頭の説明と謝罪をする場面へと至ったのだ。
冒頭の説明だとジャンヌたちがショーを始めた理由が端折りすぎているのでもう少し詳しく説明すると、あのサーヴァントの身体能力を用いて行われていた水遊びが白熱しすぎてしまい、何事かと野次馬が集まってきた。
彼らはジャンヌたちの水遊びをショーと勘違いし盛り上がる。歓声を浴びたジャンヌたちは興が乗ってしまい、ファンサービスのようなものの一環で宝具を用いたショーを始めたらこれが野次馬たちに大うけし、それを見た他のプールのお客さんたちも群集心理が働いてぞろぞろと集まってしまい、終止がつかなくなってしまったと言うのが事の顛末である。
「私はあなたたちの事を存じておりますし、広海君から人柄などについても聞いてはいますので、休暇中に羽目を外したいと言う気持ちは分かりますが……流石にここまで大騒ぎとなるとこちらでもフォローがしにくいですね」
「すみません!本当にすみません!」
眉間に少し皺を寄せて難しそうな顔をしているこのホテルタウン、オーシャン・ビヨンドの社長である女性、真壁 樹里氏の今にもため息でもついてしまいそうな言葉を聞き、若干素が出て謝罪の言葉が平謝りのような崩れた言葉遣いになってしまう。
申し訳ない気持ちと慰謝料とか請求されるのだろうかと言う不安からビクつく僕に、彼女はフッと笑ってそれまでの重たげな声と堅苦しい敬語は一転、朗らかな声音で語り掛ける。
「冗談よ冗談。そこまで深刻な問題が発生した訳じゃないし、別に怒ってもいないから安心してちょうだい」
「え……し、しかし……」
「実はね、広海君から報告自体は受けていたの。
既に始まった後ではあったけれど、それでもある程度の根回しは出来たから大事には至らなかったわ」
茶目っ気にそう言う真壁さんに面食らいつつ、ふざけつつもやる事はやっていたのか広海さん、と心中で感心する。
ともあれ、僕が考えていた最悪の展開というのはないと言うのが分かり、強張っていた体から緊張が抜けて解れる。
休暇中に始末書と戦うなんて言う事態にはならなくて良かった……
しかし、だとするとこの場に僕が1人呼び出しをされた理由が分からなかった。勿論、今回の件が大事に至らなかったとは言え、咎めない理由がないと言うわけではないのだろうが……
「まあこの場にあなたを呼んだのはホテルタウンの経営者としても、個人的にも興味があるからと言うのもあるのだけれどね、用があるのは彼の方なのよ」
真壁さんが後ろに控える長身の男性を指してそう言うと、その男性は一歩前に出て此方へと手を差し伸べた。
「知っているとは思うが自己紹介を。
このホテルタウンの社長を勤める真壁樹里をマスターとするサーヴァント、
諸葛孔明もといエルメロイⅡ世だ。
よろしく頼む」
「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
先ほどまで不安で怯えていただけに、気を抜いた瞬間に訪れた厳格な者と言えるであろう人から握手を求められ、若干挙動不審になりつつもどうにか応じる。
身長差があるために見上げながらの握手となる中、エルメロイⅡ世の鋭い目が僕のことを探るようにじっと見つめていたことに気づく。
「……やはりか……」
「……あの、何か……?」
「いや、失礼した。
少々確認したいことがあったのだが、それも済んだ。
気にしないで欲しい」
彼はそう言って手を離し、一歩下がる。
確認したいことは済んだと言ってはいたが、僕を見る目は未だに探るようなものに見えた。
(……そう言えば、この人には【鑑識眼】のスキルがあったよな……)
【鑑識眼】は、諸葛孔明の疑似サーヴァントである彼が持つスキルの1つである。
しかしこのスキルは諸葛孔明ではなく、エルメロイⅡ世に起因するスキルだ。
これは彼が時計塔において、ロードとして数多くの生徒の能力を見出し、方向性を定めた技術がサーヴァントのスキルとして昇華したものである。
彼の指導を受けた門下生たちは優秀な魔術師として成長していることを証明するように、【鑑識眼】スキルのランクはAである。
具体的なスキルの効果は、対象となる人間が将来的にどのような有用性を獲得するかを見定めると言ったような内容だったとは思うが、それに伴って対象とある程度の会話や観察を行い、得手不得手などを理解する必要があるともマテリアルにあったと思う。
(ここまでの短い会話で、それをやってのけた?
……いや、考えすぎだよね……)
そもそも僕は彼の生徒ではないし、今日会ったばかりの人間に将来性を見出すようなことを出会い頭にする必要も義理もない筈だ。
そう納得し、彼に向き直り問う。
「それで、僕に対する用事というのは?」
「あぁそれはだな、さっきの話を掘り起こすようで悪いが、今回の騒ぎについての説教のようなものだ。
君は若いし経験も浅いだろうから仕方がないのかもしれないが、仮にも1つの団体を担うオーナーであるのなら、もう少し自身の立場と言うものを自覚して、それに見合った責任と行動を伴うべきだ」
「うっ……」
やや間のあいた後の容赦ない説教に息が詰まる。
オーナーとしての責務を全う出来ていないといつも自責の念に囚われてはいたが、こうして他人に実際に指摘されると心にくるものがあった。
「今回こそ、私のマスターは君に対して強く責任の追及こそしていないが、今後他所で同じような事態になり、そこの管理者が同じように咎めないとは限らない。
寧ろ、ここぞとばかりに弱味を握り、それを盾に君たちに不利な交渉をふっかけてくるだろう。
……今この世界には、前とは考えられない程に悪意を持つ利己主義な人間は多い。
そう言った者たちは弱者から搾取をすることに躊躇いなどしない。まして君のような経験が浅く若いが上の立場の者が一度でも弱みを見せれば、ハイエナの如く肉の一片も余さず食らい尽くさんとばかりに群がってくるだろう。
そうなれば君だけの問題で済む話ではなくなってしまう」
「……はい、すみません……」
ぐうの音も出ない言葉に僕は反論など出来る筈もなく、今回の一件に自身の危機管理への責任が適当であったことを深く反省し、再び謝罪をしてその言葉を受け入れることしか僕には出来なかった。
……自覚していたつもりでも、こうして人を見る目が確かな者から厳しく指摘される辺り、自覚も行動も責任も足りていなかったのだろう。それで迷惑を被るのが僕だけならよくとも、ジャンヌやシルク・ドゥ・ルカンのスタッフたちにも迷惑をかけてしまうのはオーナーとしては致命的な問題だ。
若干意気消沈しつつも、今後はしっかりしなくてはいけないなと考えたところで真壁さんがその場の空気を変えるようにパンと手を叩く。
「はい、暗いお話も説教もおしまい。
君も今日はもう疲れたことでしょう?広海君とマリーちゃん、それから君のお姉さんも呼んでレストランでディナーにでも行きましょう。私がご馳走するわ」
「え、あの……真壁様のご相伴に預かってもよろしいのでしょうか?」
「あら、私のようなおばさんと夕食をするのは嫌だったかしら?」
「いえ決してそう言う訳では!」
「ならいいじゃない。私、色んな子の恋愛模様を聞くのが好きなのよねー。
広海君とマリーちゃんが直接イチャついているところを見たりしてはいるのだけど、君と君のお姉さんとの関係も気になっているのよ」
「あの、私とジャンヌは別に姉弟関係と言う訳ではないのですが……」
「あらそうなの?まあ別に姉弟関係であろうがなかろうが、恋愛の話は私大歓迎よ?
あ、そうそう。私に対してはそんな変に畏まる必要はないわよ。もっと普通に、リラックスして接して貰って構わないわ」
「で、ですが、今実際にあなたのサーヴァントから私にオーナーとしての責任の自覚のなさを指摘されたばかりですし、今この場でこのホテルタウンの社長である真壁様に礼節に欠ける行動はとても……」
「いいのいいの!君は若いし、そもそも私は気にしていないわ。でなければこんな気軽に食事になんて誘わないもの。
それとも、年上の人間としてあなたに『堅苦しくするな』だなんて命令しないといけないかしら?」
「うっ……分かりました、真壁さん」
僕は結局そのまま押し切られる形で真壁さんに対する態度を軟化し改める。
失礼があってはならないと気を張っていたので、この申し出はありがたかったが、同時に本当にこれでいいのかと思う不安な気持ちもあった。
しかし向こうの願いでもあるし、慇懃無礼に思われては元も子がないと不安を飲み込む。
真壁さんは僕の返答によろしいと言うかのように2回ほど頷くと、孔明さんの方へと向き直る。
「それじゃあ早速あの子たちと合流しましょうか。
孔明、あなたはどうする?」
「私は遠慮しておこう。
まだやり残した仕事があるのでね」
「あらそう?まあ分かったわ。
ほら、行きましょう弟君?」
「その呼び方はやめてください。
ジャンヌが過剰反応するので」
広海さんが僕の事をどんな風に話しているのかを何となく察しながら、部屋を出ていく真壁さんについていく。
外に出て部屋の扉を閉めていた際、部屋に残っている孔明さんはじっとこちらをみつめており、何とはなしに彼のやり残した仕事とは何だったのか気になったが、真壁さんに呼ばれてしまいそれを確かめることは出来なかった。
……あ、まさかジャンヌたちの奇天烈ショーの始末書か!?
「……」
応接室に残ったサーヴァント、諸葛孔明は自身のマスターと客人の少年が部屋を出ていくのを見届け部屋の鍵を閉めた後、一息置いてパチンッと指を鳴らした。
瞬間、部屋が仄かな明かりに包まれすぐに消失した。
一見して何も大きな変化が見えないが、現在の応接室内の音は外部には聞こえない状態となっている。
「この応接室にあらかじめ設置してある結界を起動した。
私が結界を解除するか、貴様が結界を破壊でもしない限りは会話が聞かれることはない」
「……へえ」
孔明以外に誰もいる筈のない空間において、彼以外の声が響くと同時に部屋の一角に黄金の歪みが現れ、そこから小柄な少年が姿を現す。
緑の生地に黒、白、灰色のラインが施されているズボンに青いシャツと白のパーカーを身に付けたその少年は出で立ちこそどこにでもいそうな育ち盛りの小学生と言えるが、オーラの如く放たれるカリスマと威容はその少年が年相応の者ではないことをありありと示していた。
「参考までにお聞きしたいのですが、いつからお気づきに?」
「白々しい。貴様があの少年がこの応接室にやってきてからすぐに、これ見よがしに私にだけ感知されるように気配を晒していたのは分かっている。
ご丁寧に、侵入者へと害を加える罠のみを一時的に停止し、感知する結界のみをわざとらしく踏み抜いてな」
孔明は少年の見た目に戸惑うことも、少年の放つオーラに気後れをすることもせずに、警戒を隠さない鋭い目つきを少年へと向ける。
その視線を受けても少年もまた動じることはなく、微笑みながら言葉を返す。
「ふふ、そこまで把握しているのですか。
流石にあなたに対しては少々お遊びが過ぎましたね。
しかしまあ、いくらあなたが大人の僕と因縁があるとは言え、少し警戒をしすぎでは?」
「貴様が私の事をどう評価しているのかは知らんが、少なくとも私は英雄王ギルガメッシュを侮ったことは一度もない。
たとえそれが名君と呼ばれ愛された幼少期であろうが、賢王と呼ばれ称えられた壮年期であろうが、
見た目に不釣り合いな王としてのオーラを放つ少年、英雄王ギルガメッシュに対し、常人であれば跪きあがめてしまいたくなるようなカリスマを直に受けて尚……いや、だからこそ強く見据える孔明。
警戒を隠さない不敬ともとれる孔明の姿にギルガメッシュは苦笑する。
「これは嫌われたとはまた違うのでしょうが、複雑な気持ちですね……。
もしかして、そちらのカルデアでの僕とあなた、あるいはアレキサンダー君とそれほど関係が良好ではなかったのでしょうか?」
「1つの組織の目的に各々が賛同し、自らの意志で所属をしていたカルデアの時と今とでは訳が違う。
現に私はこのホテルタウンの社長のサーヴァントであり、貴様はシルク・ドゥ・ルカンにおける実質的な
その孔明の指摘を得て、ここまで柔和な態度と笑顔を保っていた少年、ギルガメッシュは少しだけ意外そうな表情を見せた。
「あなたがその考えに至るだろうことは分かってはいましたが、まさかこんなに早いとは思いませんでした。
気づくとしても、もう少し彼と交流を経てからだと思っていたのですが、あなたの鑑識眼の力の認識が甘かったようですね」
「別にあの少年の得手不得手、将来性を全て見据えた訳ではない。
だが、事前に聞いていた性格や先ほどのやり取りを見る限りではあの少年には経営者としての才はない。交渉術や経営学について学べばある程度は出来る人間にはなるだろうが、それだけだ。
現時点での彼にはそう言った能力すらない。であるならば、彼に変わって支配をしている者がいることは分かる。
そしてその候補の筆頭がここに現れたのなら、実権を握り支配しているのはスポンサーである自分だと、貴様自身で最後の証明をしたようなものだぞ」
既にこの部屋から退出したシルク・ドゥ・ルカンのオーナーは孔明が鑑識眼で己の才を見定めた可能性を想定し、すぐさま否定してはいたが実のところ彼の懸念はそう的外れと言う訳ではなかった。
鑑識眼はエルメロイ2世としての他人の将来を見定める目利きの能力が、諸葛孔明の疑似サーヴァントになった折にスキルとして昇華したもの。言い換えれば、彼の人を見る目利きはスキルと言う枠組みにのみに収まったものではなく、彼自身の技術によるもの。
ゲームのステータスよろしく、条件を満たさなければ情報が見えてこないなどということはなく、僅かな情報からでも断片的に読み取ることが出来る。
鑑識眼が他社の将来性を見定める用途にのみにしか使えない訳ではないという事も含めて、シルク・ドゥ・ルカンのオーナーの少年も少し考えれば思い当たることではあるのだが、直前まで別件の事に気を取られていた彼には無理がある話であった。
問い詰めるような眼差しの孔明の視線を受けても、ギルガメッシュは先ほどの意外そうな表情から笑顔にまた戻っただけであった。
しかし次いで放たれたギルガメッシュの言に孔明は眉をまた顰めることになる。
「でもそれ、少し誤解があります」
「なに?」
「確かにシルク・ドゥ・ルカンにおける権利や多くの利益を得ているのは僕です。
でも、その利益の使い道や活動方針は彼の意志を尊重しておりますし、何よりも子どもたちに笑顔でいて欲しいという願いは彼のものです。
そもそも、別段彼も僕も本当の管理者を隠しているような意図はありません。
僕はただ彼の願いや思いを尊重して、彼の願いに沿って動いているだけです。
……まあ、今回の訪問は僕の私情も含まれているのですが、彼の為にも動いてはいるのでそこは大目に見ていただければなと」
人の好さそうな微笑みを浮かべそう言うギルガメッシュに対し、孔明の目は相変わらず鋭いままであった。
そんな孔明の眼前に黄金の波紋が現れた。前触れなく現れたそれに一瞬孔明は身構えるが、黄金の波紋から身を出しているそれは何かの書類のようであり、害意がないことが分かるとその書類の表紙の題を見て眉を顰めると、ペラペラと紙束を指で滑らせていく。
程なくして、孔明は書類のほぼ全容を読み終える。軍師のサーヴァントであり、魔術世界における最大勢力時計塔にて教鞭を取っていた彼にとって、速読など他愛もないものである。
書類を全て読み終え、滑らせる指を止めた孔明の表情は、先ほどと変わらぬ眉間に青筋を寄せたものではあるが、警戒ではなく訝し気なものであった。
「……これは一体なんだ?」
「何って、そこに書かれていることのままですよ。
シルク・ドゥ・ルカンとオーシャン・ビヨンドの支援の提案書です。
大まかにはこちらからは資金などの援助を、そちらからは生活物資等のルートを融通してもらいたいと言った内容となっています。
他にも避難民の受け入れ強化とそのための施設拡充等ありますが、当然要請をするこちら側からも先ほどのものとは別枠で支援を―――」
「内容に関してではない。
目を通した限りでは真っ当な支援と取引内容であり、裏のあるようなものには思えない。
書類に隠蔽や幻惑の魔術の痕跡も見当たらない。ならばこれ自体には信用はある。
だが、現時点でシルク・ドゥ・ルカンがこのような支援と取引をこのオーシャン・ビヨンドとでする理由はなんだ?」
孔明は情報が錯綜しているこの崩壊した世界で、様々な情報やその断片から情報の精査を行っている。
その中にはシルク・ドゥ・ルカンについての情報も多くあり、シルク・ドゥ・ルカンの拠点である江東区沿岸沿い周辺の地域は安全性が確立されており、生活物資についても余裕があるとは言えないが、困窮している訳ではないことを把握している。金銭面に関してはそれこそ他組織に援助するくらいには余裕がある。
つまりはシルク・ドゥ・ルカンはほぼほぼ自組織のみでの活動が可能であり、今回ギルガメッシュが提案している取引はシルク・ドゥ・ルカン視点では決して必須と言う訳ではない。
「……互いの利益の為だとか、そちらのホテルタウンでの活動に感銘を覚えたと言えば納得しますか?」
「愚問だな」
「ですよね。
では、こちらの目的について説明しましょうか。
1つは葛城財団に対する力の誇示……と言うよりは当てつけです。
オーシャン・ビヨンドは先日葛城財団に支援案の対談をされてますよね?」
「既に把握していたのか……それに、当てつけとはそう言うことか。
オーシャン・ビヨンドは先日葛城財団から支援の提案をされたが、支援を受ける条件が『ホテルタウンに所属するサーヴァントの譲渡』だった。
当然そんな条件を受け入れる訳などなく、私のマスターは葛城財団の人間を全て出禁としたよ。
わざわざ隠蔽の魔術まで契約書に施していたあたり、悪意しかないのは明白だったからな。
そして貴様の提案している支援案と葛城財団の提示した支援案、この2つは支援を受ける条件を除けば、ほぼ同一のものだ」
表の姿では町の再建や宗教団体への寄付をしているが、裏での活動は悪い噂が一般市民の間でも絶えない程に黒い葛城財団。
支援の代わりにジャンヌの身柄をシルク・ドゥ・ルカンに要請し、拒否された後も彼らのジャンヌを奪おうとしつこく襲撃を繰り返している。
今でこそ周辺のパトロールや警備の増員をする事で事前対策をしたおかげか頻度は減っているが、それでもなくなった訳ではない。
そして葛城財団はシルク・ドゥ・ルカンだけに留まらず、サーヴァントの多く所属している組織団体に手を伸ばし、恐喝、詐欺、暴力、洗脳問わずあらゆる手段でサーヴァント、それも主に女性のサーヴァントを得ようとしており、その矛先はオーシャン・ビヨンドでも向けられていたのだ。
「支援の内容をあちらの内容と似たり寄ったりにしたのは、僕たちにはそちらと張り合う程の力があると言う警告も含めてはいますが……まあ、聞く耳を持たないでしょう。
ですがそれはそれとして、今回のような当てつけをして彼らを焚き付けます。それで大きな動きがあれば、こちらの手札で相応の報復をさせていただく予定です。
いい加減あの組織には温厚な僕でも辟易としているんですよね。
……ほんと、なんなんでしょうかねアレは……」
最後に小さく漏らした呟きには、普段から紳士的な態度を崩さない彼には珍しく嫌悪の感情が込められており、人を惹き付ける紅顔の美少年の表情はギルガメッシュの苛立ちを示すように僅かに歪んでいた。
苛立ちの対象が誰なのか漠然と察した孔明ではあったが、今は関係がないと脇に置く。
「だが、それだけではこの支援案を我々に提案した理由としては弱い。
ただの当てつけが目的であるのなら、支援先が必ずしも我々である必要はない。
そちらの基準で選んだ数ある支援先候補の組織団体のうちの1つがこのオーシャン・ビヨンドであったと言うなら、
ただこの提案書を提出し、その説明をするのに貴様自身が出張る必要などない。あの少年には荷が重いだろうが、そちら側に適任の人材がいないなんてことはないだろう」
孔明の問いを受け、ギルガメッシュは僅かに零していた黒い感情をすぐに引っ込め、問題を解いた教え子を褒めるかのようにして茶化す。
「うん、やはりあなたは優秀な方だ。それこそ、彼にはあなたの講義を受けてもらいたいくらいですよ」
「御託はいらない。早急に回答をしてもらいたい」
「おっと、それは失礼しました。それでは本命についてお答えしましょう。
一月ほど前、あなたたちオーシャン・ビヨンドは三笠の孤児院と交流会を行いましたよね?
僕たちもその恩恵にあやかりたいと言うのが、今回の支援の目的です」
「……」
回答の部分が心ばかりか強調されたギルガメッシュのその言葉に対し、孔明は大きな反応を起こすようなことはしなかった。
強いていうならば表情が少し強張った程度であり、ギルガメッシュの心中が推し量れないことを示しているようであった。
そしてその反応をギルガメッシュは面白くなさそうに不機嫌な表情で表していた。
「無反応は寂しいですね。ドラマとかでしたら、あなたは訝し気に目的を問う場面ですよ」
オーシャン・ビヨンドと横須賀の三笠の孤児院は多くの子どもたちの世話をしている施設同士、交流会を開こうと企画し決行したのが一月前である。
情報の精度が崩壊前よりも低くとも、名の知れた施設同士での交流会の実施は一月もたてばそれなりに広がる。そもそも、交流会の実施の事実はオーシャン・ビヨンドや三笠の孤児院において積極的に情報が流布されているのだ。
ゆえにギルガメッシュが交流会について知っていることは別段おかしなことではないのだが……
ギルガメッシュが期待したような反応を取らなかった孔明は、掴み所のないその態度にやや苛立たしげにして口を開く。
「劇をしたいのなら、私を役者として起用するな。あいにくとこちらの世界でも私は多忙で、誰かの用意した舞台で踊っている余裕などない。
……その様子なら、我々オーシャン・ビヨンドと彼らとで交流会を行った真意を知っているのだろう?」
「ええ。葛城財団やFHA、人神教、そして最近急激に頭角を現してきたガイアマックスと人類保障戦線、これらの強い武力を持つ外部組織に対し、対外的な関係を見せつけることによる抑止力の示威ですよね。
勿論、互いの施設の子どもたち同士での交流がただの隠れ蓑と言う訳でなく、そちらもまた本題であったのは重々承知しておりますが」
葛城財団、FHA、人神教、これらの組織の理念や思想は違えど、基本的な方針はサーヴァントの排斥。
そして東京において最近現れたサーヴァントとマスターを構成員とした武装勢力、ガイアマックスと人類保障戦線。
この2組織は互いにぶつかり合い、構成員同士の抗争は日夜絶えないと言う。
掲げる思想が真っ向から対立しているような組織であるため衝突は必然であったのだが、それに巻き込まれる一般人や2組織の理念に賛同しない組織はたまったものではない。
これらの組織に対抗するために、オーシャン・ビヨンドと三笠の孤児院は交流会を開き、互いに繋がりがあると他組織に大々的に宣言し、片方の施設に手を出せば、もう片方の施設が黙ってないぞと警告したのだ。
他にも要因はあるが、どちらの施設も数多くのサーヴァントとマスターを内包しているからこそ出来る抑止力の構築であった。
「一応聞くが、恩恵にあやかりたいとなると、シルク・ドゥ・ルカンもオーシャン・ビヨンドと三笠の間に入り、外部組織への抑止力を得たいと言うことだろうか?
そうだとするなら、そちらは葛城財団に対して余程辟易としているようだな」
「概ねその解釈でよろしいです。
ただ葛城財団に対してもそうですが、僕たちとしては将来更に争いが激化する2組織への布石と言うのが大きいですね。
まあ僕にとってはどちらの組織も……おっと」
「……それは貴様の見た未来の話か?」
「ふふ、さてどうでしょう?
少なくとも今は気にしないでよろしいですよ。
ともあれ、そう言った協力関係の輪に入りたいとするのであれば、団体の代表自ら出向くと言うのが筋でしょう?」
ついうっかり零してしまったと言わんばかりのその態度はわざとらしく、故意に呟いた言葉であることは明白であった。
だが暗にこれ以上自身の見た未来について語るつもりはないと言うギルガメッシュに、孔明は追及は無駄であることを理解し視線を手元の書類へと落とす。
「……援助だけならまだしも、この件は私の一存で決めることなどできん。
私のマスターは勿論、三笠の代表とも話し合わなくてはならん」
「ええ、それは勿論です。
寧ろこちらは恩恵にあやかる身なのですから、僕たちの事はその後で構いませんよ。
こちらの方でも、後日三笠の方にお邪魔して支援の話をしていきたいと思ってはおりますが、そちらからも連絡をしていただくと話がスムーズに進みますので、大変ありがたいです。
ああ、勿論そちらへの援助はすぐにでも始めさせていただきますよ。
……さて、それでは僕はこれでお暇させていただきますね。色よい返事をお待ちしております」
踵を返し、この場に現れた時と同様の黄金の波紋を呼び出し、背を向けてこの場から立ち去ろうとするギルガメッシュに孔明が待ったをかけた。
「……聞きたいことがある」
「おや、なんでしょうか?
僕が
去り際に呼び止められても、ギルガメッシュは柔和な微笑みを一切崩さずに、しかし威厳は一切損なわずに孔明へと向き直る。
外面では品行方正ではあっても、油断すれば圧倒されてしまいそうな王威の中で、孔明はギルガメッシュを射抜くような視線で絶対にはぐらかせないと訴えながら問う。
「貴様が今回ここに訪れた私情と我々との関係構築、あの少年にやたらと肩を入れる理由も私にはハッキリとは分からない。
だが貴様は協力関係の構築のために、代表自らが出向くと言うのが筋と言ったな。
道理ではあるが、やはり私には英雄王ギルガメッシュが自ら立ち上がり、話を通す理由としては些か大袈裟に感じられる。
……今回のこの支援の目的、先ほど貴様自身が述べた内容が全てだとは思えん。
神秘と魔力が満ち溢れ、伝説上の生物や怪物たちが跋扈し、果ては信仰が薄れ力の弱まった神々までもが現界し、神話復権を狙わんとする混沌としたこの崩壊世界で、貴様は何を見て何をしようとしているのだ?
―――英雄王ギルガメッシュ」
―――貴様は誰の味方だ?
「……うーん、困りましたねぇ。
その質問はちょっと回答がしにくいです。
僕が神の味方をしない事はそちらもご存知でしょうが、さりてと人間の味方かと言われれば、そうであると安易に肯定する事も出来ない。
さて、なんと答えれば良いか……」
孔明の問いを受け、一瞬ギルガメッシュの表情は固まるも、次いでどこか嬉しそうな表情を見せた。
だがそれも一瞬で、それから困ったように首を傾げるギルガメッシュ。
わざとらしくうんうん唸り、頭を抱えて迷う素振りを繰り返した後、片手で両目を覆いながら口を開いた。
「そうですね……では、僕がいつの僕であろうと『英雄王ギルガメッシュであることに変わりはない』。
あなたの英雄王ギルガメッシュに対する評価に見合った、
―――
そう告げた幼き英雄王の指の隙間から覗かせた
子ギルとエルメロイ2世は前から会話させてみたかったので、よっしゃやったろうとしたらこの始末である。
ジャンヌとのイチャイチャはどこ……?ここ……?
Q1.孔明さん警戒しすぎじゃね?
A.ほぼ別人といえど、自分の仕える王を真っ向から叩き潰した相手を警戒しない筈がない
Q2.三笠の孤児院との交流会って?
A.詳細は下記リンクのサイキライカ様執筆の崩壊世界シリーズをチェック!
https://syosetu.org/novel/201143/
Q3.文字ゴチャゴチャしすぎだから簡潔に今回の対談を3行でまとめろ
A.まとめるとこんな↓
子どもスポンサー「三笠の孤児院と協定を結んだんですよね?じゃあ僕らもその話に乗せてくださいよ。葛城財団へのの当てつけも兼ねて支援もしますので」
過労軍死「マスターと三笠と相談して決める。(こいつは何が目的なんだ?)」
Q4.子ギルの最後の返答について
A.
ポイントは、彼の指す『
……それはそれとして、自分の趣味を楽しむこともありますが、その辺も含めてこんなセリフを言わせました。
この外部組織への抑止力を目的に集まった組織団体にカッコイイ名前をつけたい