崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話 作:アルテマ
いやあ、もうほんとSSFならぬ、SSJ
「それ、トース!」
ジャンヌのアンダースローで投げられたビーチボールを水中から飛び出したイルカがヒレで水面へと叩き付けた。
そのまま水中へと落ちていくと思われたボールは、落下地点真下の水中より現れた別のイルカが鼻先でボールを突き、スパイクを決めてきたイルカの方へとトスを返した。
曲線を描いて飛ぶボールを難なく捉え、そのまま同じ要領でトスを返し、それを更にトスで返すと言うイルカ同士の見事なラリーが始まる。
水上を描くボールのアーチの軌道に観客から歓声があがり、会場は爆発的な盛況を見せた。
「すごいすごい! イルカさんすごーい!」
「イルカ同士のみでボールのラリーなんて、賢いイルカたちなんだな」
「Coooooooooooool! イルカたちが飛び交う中でも、最高にCoolですぞジャンヌゥゥゥウウウウウ!!」
一部狂気に塗れた者もいるが、概ね高評価の様子のイルカショー。 会場が歓声と熱気で包まれている中で、観客席からは見えない舞台の裏で1人、ボルテージの上がっていく会場には不釣り合いの負のオーラを放つ男がいた。
「……帰りたい」
そうつぶやいた彼の切実な思いが詰まった呟きは会場内で満ちている歓声で掻き消された。 そもそも、帰る家はこのイルカショーをやっているスタジアムの近くの事務所であるため、逃げ場はほぼ皆無なのである。
瞳に虚無を宿す少年は何故こんなことになっているのだろうかと、空の流れる雲を見つめながら事の発端となった日の事を思い出していた。
「まず、子どもと言うのは分かりやすい善悪の構図の中の善となる者たちに魅力を感じるものです。
そこでですね、リースXPをヒーローショーのヒーローポジションに立たせるのです」
リースXPに触れながらそう言うギルさんの意見には確かに一理ある。 子どもたちに複雑な心理描写を見せたところで、その全てを理解しろと言うのは酷なものだし、何よりその理解を強制されようものならただ苦痛なだけだ。 対象があくまで子ども相手であるのなら、分かりやすい善悪の構図を組んだ方が良い。
そしてその分かりやすい善の方の役にリースXPをたたせろと言うことなのだろう。
「あの、それってつまりジャンヌのイルカたちの傍らにリースXPにも出てきてもらうってことですよね?
んー……確かに、イルカたちをもホオジロザメは食べるらしいですし、そこを利用して悪役ポジから改心して正義の味方になったみたいなバックボーンを……って、これだと結局サメ=悪しきものと認めることに……」
顎に手を当ててリースXPの為の舞台を整えるために頭を回転させるが、ギルさんが考え込む僕に対してバッサリと告げる。
「何か勘違いしているようですが、リースXPとあなたのお姉さんを並べるつもりはありませんよ。
僕はあくまで
ヒロインショーの方でしたら、イルカたちでもう間に合っているでしょう」
「本当でしたら、シロナガスクジラのスクルージも会場に呼んであげたいのですけど、流石にあのスタジアムはスクルージには狭いので……」
「ああ、それでしたら、スタジアムの外にそのスクルージさんと触れられる場を作りましょうか。
ショーに参加させるのは難しくとも、それくらいでしたら可能でしょう」
「本当ですかギル君! それでしたら是非ともお願いいたします!」
……何か別件で僕の胃が荒れそうな案件が出されそうな気がしたが、今はスルーをして、ギルさんの口にしたことを頭の中で再び反芻して聞き直す。
「あの、ジャンヌの演目のキュア☆ドルフィンが出る方をヒロインショーとしているのでしょうけど、ヒーローショーとなると、このヒーロー役にあたる人は誰がやるんです?
男でその手の演目をこなせる人いましたっけ?」
「いるじゃないですか、ここに適任の人が。 と言うかもう実際にヒーロー役として登壇してますよね?」
「………………」
そのギルさんの言葉を聞いた瞬間、先ほどから感じていた悪寒が強くなった気がした。 もう殆ど、このヒーロー役を求められている人物が誰なのかを理解していたのだが、半ば現実逃避するようにして頭の中で現在この部屋にいる人間たちにギルさんの言の条件と一致している人物を検索する。
ジャンヌ→ヒロイン役なので、ヒーローではない
ギルさん→見た目は子どもであり、ヒーローとして登壇をした話は聞いたことがない。 と言うか、そういうのやる人じゃない
僕→脅されてヒーロー役として登壇した経験アリ
「……まさかとは思いますけど、僕をヒーローショーに出すとかではないですよね?」
「なんだ、自覚あるじゃないですか。 個人的にはもう少し現実逃避気味の素振りを見せるのかと思ったのですが、マスク・ド・ルカン?」
「今となっては忘れたい記憶なんですけどそれ!?
と言うかそう言うってことはもうそれヒーロー役やれってことじゃないですかヤダー!!」
そう、何を隠そう僕は一度この子どもスポンサーに唐突に前振りもなく会場でヒーロー役をしてこいと脅され、ジャンヌ含めたヒーロー&ヒロイン入り混じるヒロインショーにおいてヒーロー役、『マスク・ド・ルカン』をやらされた事がある。
あの時は脅しの内容が内容なだけに逆らえずにヤケクソ気味だったことと、心強い味方(あるいは道連れ)の助けにより、どうにか無事に役目を果たせたのだが、その味方の方はシルク・ドゥ・ルカンのスタッフではないためにここにはいない。 つまり、この提案が通るとなるとその時は今度は僕1人でなんとかしなければならないのだ。
「そんなに嫌がらなくても……イルカショーでもアシスタント役でガンドを撃ったりしてるし、何より一度経験はされているじゃないですか」
「アシスタント役とヒーロー役とじゃ注目の度合いが全然ちがうじゃないですか! ただでさえアシスタント役の方でもいっぱいいっぱいなのに……そ、それにあの時は院長先生も一緒に出てくれたから何とかなっただけですし、僕1人が注目される中でヒーロー役をやるとか絶対無理ですよ!
と言うかそもそも、僕なんて出たところで需要ないですよ!」
「そう言うと思ってましたので、実はマスク・ド・ルカンが登壇した日のうちに観客の皆さんからアンケートを取っておきましたが概ね好評でしたよ」
「うそでしょスポンサー!?」
「本当です。 こちらがその際のアンケートの回答です」
そう言いながら黄金に輝く宝物庫から渡されたアンケート用紙の束を掴み、マスク・ド・ルカンに関するアンケートの記入欄のみに目を向けて紙束をペラペラとめくっていく。
・マスク・ド・ルカンかっこよかった!
・イルカショーには男の子も来ているし、女の子を対象としたものだけでなく、男の子の好きそうなヒーロー役を出すのは良いアイデアだと思います。
・おと……マスク・ド・ルカンと一緒にヒロインショーを今後もやっていきたいです!
・どうせならマスク・ザ・ミカサと一緒にダブルヒーローやるとかいいと思う
・おのれ神聖なる聖女の隣に立つなど、誰の許しを得てそこに立っているのだこの匹夫めがぁぁあああああ!!!
・ちくわ大明神
「ね、好評でしょう?」
「どこが???」
確かに見た感じ半分は好評だったけど、残り半分は嫉妬に狂う者と身内の回答だったために頭が痛くなるばかりである。 と言うか最後の誰?
「まあ半分ほどおふざけの意見はありましても、出て欲しくない等の意見はありませんでしたし、特に問題はないですよ」
「いやあります! めっちゃ問題ありますよ! ヒーロー役の当人がやりたくないんですからそこは僕の意見も尊重して欲しいのですけど!」
「じゃあまた弟君と一緒にステージでヒーローショーができるんですね! お姉ちゃんとっても嬉しいです!」
「やめて! 外堀を埋めるかのようにさもステージ出演が確定しているみたいな発言やめて!
やらないからね!? 絶対やらないからね!?」
僕がヒーロー役を務めることが決まったかのような流れに逆らい、強固な姿勢で拒否を続けるも、何やらイイ笑顔を浮かべながらギルさんが宝物庫から何かを取り出した。
「……? ……あ、ちょっまっ!」
彼が手に取ったものであるその長く黒い棒状のものには見覚えがあり、すぐにその正体が分かったのだが既にその時にはギルさんの持つ機械の再生ボタンが押されてしまっていた。
『あぅぅうううう♡うぅ、んへぁぁぁああああああ♡ダメぇ、もうイっちゃう♡イッっちゃううううぅううう♡』
「」
「あ、これ昨日弟君とエッチした時の録音ですか?」
「ええまあ、今日も今日とて楽しんでるんだなーと思いまして」
ジャンヌとギルさんが何やら話していたが、思考がフリーズしてそれに伴って体も硬直していたために全く動けずにいた。 そしてその間も、ギルさんの持つ録音機から僕の痴態が響きわたっていた。
『はぁ……はぁ……♡お、ねえちゃん……まだ、まだ足りないよぉ……♡お願い、もっと……もっとしてぇ……♡』
「」
「あれ、弟君が固まってしまいましたよ? おーい、弟くーん?」
「恐らくあなたがいる場で再生をされるとは思ってもいなかったのでしょう。
とりあえず、動き出すまで再生し続けましょうか」
『わぷっ♡ あ、あぅう……えへ、えへ♡ おっぱい、お姉ちゃんのおっぱい♡好き♡ふわふわで、あったかくて好きぃ……♡』
「」
『んぅうう♡そんな急にふともも動かさないでぇ♡まだ、まだ敏かんぁぁああああ♡でちゃう♡またでちゃうぅうううううう♡んぁああああああ♡』
「」
『あ……あぅ……んへぁ……♡ き、もちいい……♡えへ、えへへ♡しゅき♡お姉ちゃんだいしゅきぃ……♡」
「あ、今のところもう一度再生してもらえますか? 音を大きめにして」
「ええ、いいですよ」
『お姉ちゃんだいしゅきぃ……♡』
「ん~~もう1回! もう少し前から今度は大音量でお願いします!」
「了解です」
『しゅき♡お姉ちゃんだいしゅ「ヒーロー役是非ともやらせてくださいお願いしますっ!!!」
この時ほど勢いよく、吐血もかくやという感じで命乞いをしたのは初めてだったと思う。
「帰りたい……」
イルカショーも終わり際、不定期のヒロインショー、今回はヒーローショーとなる時間が近づきつつある中、ぽつりと呟く。
結局、昨日に決まったばかりのヒーローショーの案をぶっつけ本番でやるということになり、練習もリハーサルも全くしていない正真正銘のぶっつけ本番であることに文句を言いたいところだったのだが、向こうが何とかすると言って無理矢理練習はさせてもらえなかった。
まあそもそも、脅しのネタを握られている時点で僕に文句や不満を言う権利なんてない訳だけども……
「まあまあそう言わずに。 これもリースXPのためですから」
「あそぼ」
と、舞台裏の通路奥から僕を脅してきた張本人が現れた。 その後ろにはリースXPもふよふよと空中で泳ぐかのように追従しており、彼の目には黒いサングラスがかけられていた。
リースXPもとい、ホオジロザメの恐怖を煽る点の1つである特徴的な瞳を隠すための措置としてギルさんが提案したものであるのだが、多少効果は見受けられるがこれではまだまだ焼け石に水であろう。
「……本当に大丈夫ですかね? 確かにサングラスのおかげで、ちょっとファンシーっぽさは出たような気はしますけど……」
「それはもうあなたの手腕にかかってるとしか言えませんよ、マスク・ド・ルカン」
「うぅ、本番直前なのにプレッシャーを掛けないでくださいよ……」
「少なくとも、リースXPの良いところを他の人たちに伝えたいという思いから始めたことでしょう?
なら、そのためにもあなたには是非とも頑張って貰わないと。
言い出しっぺの法則と言うのもありますしね」
「人の弱みを握って脅してきた人が言うと説得力皆無ですよギルさん……と言うかそのセリフは脅しの前に言って欲しかったです……」
「ははは、まあそれはさておき、こちらをどうぞ。
前回のマスク・ド・ルカンを演じてもらった際は既存の適当な仮面を使用してもらいましたが、今回は事前にこちらで作成しておきましたので」
(ああやっぱりこの人、今回たまたまリースXPの問題の解決に便乗する形でヒーローショーをやることになっただけで、どっちにしても僕にマスク・ド・ルカンをやらせるつもりだったんだな)
口に出すとなんとなく面倒なことになりそうなので心中だけでそう思いつつ、手渡された仮面を受け取ろうとして、手を止めた。
「? どうかしましたか?」
「……あの、気のせいかもしれないんですけど、なんかその仮面から禍々しいような、何かしらの気配を感じるのですけど……なんですかそれ?」
見た目はサメを模したような仮面で、ニチアサヒーローと言うよりはアメコミのヴィランにでもいそうだと感じたが、そこは立ち回りとかでどうにかなりそうではある。
しかし問題はその仮面から発される何かの気配だ。 禍々しいだなんて評したが、実際のところは目に見える程視覚化されていると言う訳じゃない。 ただ、どうも似たような気配を感じたことがあるような気がしてならなかったのだ。
「ああ、何となく感じられるのですかね? 心配しなくても、あなたに害がある訳ではありませんよ。
仮面のデザインはこちらでしましたが、外注で魔術に長けたサーヴァントの方たちに、アドリブでもヒーロー役を十全にこなせるようにする洗の……いえ、暗示を装着者にかけるものです」
「今洗脳っていいました? 洗脳って言いましたよね!? 思いっきり害あるかじゃないですか!
と言うか洗脳も暗示も似たようなものじゃないですか!? もう呪いの仮面じゃないですか!?」
「失礼な。 暗示には強制力はありませんよ。 本人が強く拒絶すれば暗示は効果を発揮しませんし、魔術による暗示もまた自己防衛等はできますし」
「じゃあその仮面をつけても強く拒絶すれば効果は発揮しないんです?」
「ええそうですね。 対魔力のスキルがAランクほどあれば」
「ほぼ洗脳じゃないですか!? その仮面はムジュラの仮面か石仮面か何かですか!?」
しれっととんでもない呪われた仮面を装着させようとしてきたギルさんに対し戦慄が走る。
どうも僕がギルさんの持つ仮面から感じていた気配は、いつもジャンヌにされていた光線と似たような波動か何かをしていたからなのだろう。
「まあまあ、別に今あなたの挙げた呪いの仮面のように装着者を乗っ取ったり、吸血鬼にしたりはしないので安心してください。
派手なスタントアクションをやってもらう関係上、最低限のサーヴァント並に身体能力の底上げをされますが、それと暗示だけですよ」
「いや十分曰く付きなんですけど! 自己解除できない暗示と身体能力の底上げとか完全に呪いの仮面の一種じゃないですか!?
僕はまだ人間をやめるつもりはないんですけど!?」
「あ、ほら、そろそろヒーローショーが始まりそうですよ」
「聞いて!?」
僕の悲痛な訴えとツッコミが受け入られることはなく、ギルさんの指さす会場の方を見れば確かにイルカショーは終盤であり、自分の出番はもうすぐだと言うことが見受けられた。
しかしここまで来てなんだが、もう僕の頭の中はこの場からの逃走しか考えられなかった。
いやだって誰がこんな得体の知れない暗示をかけてくる呪いの仮面をつけたいと思うのだ? この場からの逃走は一般人である僕にとっては至って普通の選択だろう。
「まあもう諦めてこの仮面をつけてくださいよ。
お客さんは待ってますし、他に出来る方もいませんから……あれ?」
「すみません唐突に帰りたくなったので帰りますぉああ!?」
ノータイムで逃走を図るも、走り出して数瞬で両足を黄金の鎖で捕らえられてしまった。
足を無理矢理止められて倒れそうになったところに、更に黄金の鎖で僕の片手を縛って地面に頭を打ち付けないようにする辺り、この鎖を用いた捕縛者の余裕さが見て取れた。
「HAHAHA、何を言っているんですか今は勤務時間ですよ。
まだまだ若いんですから、働ける時に働かないと」
「有給を!もう半年は働いているから有給をとらせてください!」
「残念ながら、あなたは建前上オーナーですので有給を取得することはできません。
さあもう観念して、この仮面をつけてお客さんには男の子のロマンを、そして僕には愉悦……いえ、エンタメを提供するのです」
「最後思いっきり本音漏れてるしぃ!
や、やめてぇ! のわぁぁあああああああ!!?」
「ヌァーッハッハッハッハッハ!」
時は少し遡り、スタジアムの方ではイルカショーは終わり子どもたちがイルカたちと触れ合うコーナーへと移行し、子どもたちが思い思いにイルカたちと戯れた後に、唐突にスタジアム全体に偉そうな叫び声がこだまする。
「この会場は俺たち、【暗黒カリブ海賊団】団長【ブラックバード】が占拠した!!
また来てやったぜぇキュア☆ドルフィンさんよぉ!」
声のした方向へと会場の者たちが視線を向けると、如何にも海賊と言った風貌の男が高笑いを挙げながらスタジアムの中央にたつジャンヌを見下していた。
ちなみに、演じているのはかつてカリブの海に君臨した、世界で最も有名と言っても過言ではない大海賊の船長、【エドワード・ティーチ】、通称黒ひげである。
そんな彼の後ろには全身黒いスーツで身を包んだ、所謂やられ役の雑魚戦闘員たちが控えていた。
『突然だが説明しよう! 【暗黒カリブ海賊団】とはこのシルク・ドゥ・ルカンにおけるイルカのお姉さんことジャンヌちゃんの裏の姿、キュア☆ドルフィンの友達であるイルカたちを捕らえ、高値で売り飛ばそうとして毎度この会場に来ては、逆にキュア☆ドルフィンとその仲間たちにフルボッコにされてしまう典型的な悪役であーる!
何度やられても立ち上がり、目的を遂行しようとするガッツは会場のちびっ子たちも見習うがいいぞ!』
と、スタジアムのスピーカーになにやら気の抜けそうなシリアス感のない声が響き、会場の中で今回初めてシルク・ドゥ・ルカンを訪れた人たちは“ああ、そういう演目か”と安心をする。
と同時に、この声の主はどこから見ているのだろうかと辺りを見回せば、観客席の上部に設置されているガラス張りのエリアに、固定マイクを前にして座っている2人の男女がいることに気づく。
会場の視線が自分たちに向かったことに気づいたその2人は各々挨拶をする。
『はい、と言う訳で今回のヒロインショー実況をさせていただきますのは、先日この会場で大活躍をしたと言うキュア☆サンバことククルんに話を聞き、こりゃかつてヒロインも務めたこの私も行かねばと意気揚々とヒロインショーのオーディションを受けるも敢え無く玉砕、寧ろ実況の方が向いているだろうと雑に仕事を押しつけられた森のジャガー、ジャガーマンことジャガ村がお送りしまぁーす!
解説はこの方ー!』
『コトミネです。 よろしくお願いします』
『おおっと、画面の前のそこのキミ! 今コトミネって聞いて麻婆の方を思い浮かべたでしょう? いつも事後処理に追われてそうな外道神父じゃねって思ったでしょう?
残念ながら言峰は言峰でも、シロウ・コトミネの方のコトミネでしたー!
実際2巻が出るまで、騙されている人は多かったよねぇ……。
だがしかし士郎判定に定評のあるこのタイガーもといジャガー、初対面でもすぐに気づいて士郎を騙る偽物として断罪してやったニャー! この私のジャガー・アイを欺こうなんぞ百年早いわぁ!』
『……バビロニアでの話はもうよいでしょう。 あの件は私だけでなく、風魔小太郎殿にもトラウマを刻む出来事でしたが、既に過ぎたことです。
……まあ、人違いの件を引き合いに出されつつ、無理矢理拉致されてあの聖女のヒロインショーの解説をやらされる羽目になるとは思いもしませんでしたが……
ともあれ、こうして仕事を任された以上は職務をしっかりと全うさせていただきます』
なにやらやる気に差のある2人の実況と解説であったが、解説の方は少なくとも任されたことはきちんとこなす気質のようであり、特に心配することはないだろう。
さて、そんな実況解説たちのやり取りに区切りがついたころを見計らって会場の中央にたつジャンヌがビシッとスタジアムの天井部にたつ黒ひげを指さす。
「また懲りずにきましたね、ブラックバード! いい加減に改心し、ちゃんと仕事に就きなさい!
宝具の船を運送業とかで用いるとか!」
「ゲハハハハ! 生粋の海賊である俺様にまともな職につけとは片腹痛いぜぇ、キュア☆ドルフィン!
こちとら略奪が仕事だっつうの! そんで今日も今日とて仕事をしに、お前のイルカたちを奪いに出向いたって訳よぉ!」
※余計な補足かもしれないが、このブラックバードこと黒ひげの本業はジャンヌの勧めた海上運送である事をここに記しておく。
『おおっと、ぶっちゃけ中の人である黒ひげ本人の本音も思いっきり出ているような気もするが、ブラックバード強気なセリフだニャー!
だがしかし、いつもは会場のちびっ子たちを卑怯にも人質にするブラックバード、今回は誰一人として人質を得ていないぞ!』
実況のジャガーマンが言う通り、いつもの演目ではブラックバードはイルカたちに触れ合って油断していた(と言う設定の)子どもたちを人質にとり、ジャンヌがキュア☆ドルフィンへと変身するのを防いでいたのだが、既に子どもたちは全員観客席に戻っており、ブラックバードはスタジアムの上にて部下を後ろへと控えさせているだけだ。
今回のショーが初見の人間はともかく、常連である客もブラックバードの行動に訝しげである。
しかしそんな実況や観客の考えていることなど分かっているとばかりに、ブラックバードは不敵に笑う。
「そいつは無駄な心配ってなぁ。 今回は人質を取るまでもねぇってことよ。
見ろ、この会場の観客席をよぉ! 見事に戦闘に不向きで消極的なサーヴァントしかいないぜ。
つまり、今回観客の中からヒロインを爆誕させる戦法は使えねぇのさ!」
黒ひげもとい、ブラックバードの言う通り、このシルク・ドゥ・ルカンのヒロインショーにおいて、観客席の中から女性サーヴァントを招き、キュア☆ドルフィンことジャンヌと共にヒロインに変身して悪役ポジの者たちと戦うと言うのが目玉の1つであるのだ。
しかし今日の観客席にサーヴァントはいるにはいるのだが……
「確かに見ている限りじゃあ、観客席に女性サーヴァントはいないねぇ……。
ほら、いい機会だしアンタ行ってくれば? キュア☆デルセンとかいいと思う」
「とうとう辛うじて存在していた人間としての思考回路も腐り落ちたか。
俺はペンよりも重いものは持てない三流サーヴァントだと公言しているのをもう忘れたのか?
唐突にイルカショーなんぞ見に行こうだなどと曰った時は槍でも降るのかと思ったが、今更女子力とやらをアピールしても、貴様の女子力など生まれる前に捨ててきたと言わんばかりの体たらくでは、砂糖でも詰まったその辺のスイーツ女子(笑)とか言う奴らと同じレベルにもなれんぞ。
その辺の幼児でも考えられそうな残念なネーミングセンスもさることながら、我がマスターの知能指数はゴリラ以下だったか。
……あぁ、流石にこれは失礼だったな、ゴリラに」
「やっぱアンタいっぺんどっかの樹海にでも埋めた方が良い気がしてきたわ」
見た目は年端もいかないが、中身は成熟し他人に対して毒を吐きまくる作家サーヴァントことアンデルセンと、マスターらしき女性はアンデルセンの吐く毒に苛つき互いに罵り合い言い争っていた。
「へー、このショーこんなことやってるんだ。
せっかくだしジナ……ガネーシャ様も出てみたら?」
「うーん、それはいいかな。 ボクもニチアサヒロインは好きだけど、なりたいとは思わないし、スタンスとしては見る専って感じっス」
「そっか、残念。
あーあ、こんなことなら用事があるって言ってたアシュヴァッターマンはともかく、留守を任せているカルナとアルジュナも連れてくれば良かったかなぁ。 そしたら【2人はクシャトリヤ マハーバーラタ】とかで参戦できたんじゃないかな。
……語呂悪いなこれ。【2人はカルジュナ マハーバーラタ】の方がいいかな?」
「……そんな物騒すぎるニチアサヒロインもといヒーローはボク的にはどうかと思うなぁ。
加減ミスってこの辺一帯隕石が落ちたような光景になりそうっス」
象の被り物のようなものを身につけている少女のサーヴァント、ガネーシャはマスターらしき高校生くらいの少年の提案を面倒くさそうに断りを入れている。
「おおジャンヌ! 我が聖処女よ! あなたの危機とあらばこのジル・ド・レェ、どこであろうと馳せ参じ、我が命に代えてでも貴方の為に戦いましょうぞ!
さあ、血の芸術で彩られた最高にCOOLなショーを始めまごふぁああああ!?」
何やら目の飛び出ている毒々しい色の衣装を身につけた男のサーヴァント、キャスターのジル・ド・レェは手元の禍々しい本を開き何かをしようとしていたが、その前に唐突に地面から現れたイルカがドルフィンキックでスタジアムの外へとぶっ飛ばしていた。
『スタッフの方お仕事お疲れ様ですニャー。
はい、では実況を再開して、確かにブラックバードの言う通り、この会場の観客席にいるサーヴァントたちは全員ショーの主役として戦う役割を担うことに消極的。
これはキュア☆ドルフィン危うし! ブラックバードの策略と言えるのか微妙な策により、いつもなら2人以上で戦うところを、今回は1人で戦わなければならないようだー!
……あれ、もしやこれ、私の出番? キュア☆ジャガー登場回だったりするパターン? ニチアサで第1話で誕生したヒロインのピンチに駆けつけるヒロイン的な回だったりするのかニャ!?』
『あなたの出番ではないので座りましょうか。
しかしブラックバードの策が偶然だったのか否だったのかはともかく、これで彼女は1人でブラックバードとその取り巻き達と戦わなければならなくなった。
彼女は一騎当千の力の持ち主とは言え、それはブラックバードとて同じ。 数の上でも不利なことを考えると、少々厳しい戦いになるやもしれませんね』
椅子から立ち上がり、放っておけばガラスをぶち破って登場しそうだったジャガーマンを宥めるシロウ・コトミネもとい天草四郎。
解説もしっかりと、ヒロインがピンチであることを強調するように伝えるあたり、自身で口にしていた通り与えられた仕事はしっかりとこなすつもりのようだ。
そんなジャガーマンと天草の実況と解説を受け、偉そうにわざとらしい大きな笑い声を上げる。
「ぐぁっははははは! 運も実力のうちってなぁ!
今日は好戦的なサーヴァントは勿論のこと、変なノリで壇上にあがりそうな奴らがいねぇからな、本当についてるぜぇ!
……いやほんといなくてよかったでござる……拙者守備範囲はそこそこ広いと思ってはいますが、いくらなんでもリアルで【キュア☆ゴリラ】とか【2人はステゴロ マックスヒート】なんて、ギャグ展開だとしてもノーサンキューですぞ……。
っと、気を取り直して……キュア☆ドルフィンよぉ、今日がお前の年貢の納め時ってやつだぜぇ!
おらお前ら、囲んで叩いて倒しちまえ!」
「イーッ!!」
「くっ……どうすれば……」
黒ひげの掛け声を受け、スタジアムの上より飛び降りジャンヌを取り囲む下っ端戦闘員たち。
隙間を埋めるように立ち並ぶ戦闘員たちにどう動くべきかとでも言いたげに、ジャンヌは歯噛みをする。
悔し気なジャンヌの姿に気を良くしたようであるブラックバードは、勝利を確信したように笑う。
「ヌアーッハッハッハッハ! キュア☆ドルフィン破れたりぃ!
これでお前のイルカを高値で売って、その資金を基に規模を拡張して、暗黒カリブ海賊団ここにありと世界中に宣言させてもらうぜぇ!
さぁいけぇ、お前ら!」
「イーッ!!」
遂にブラックバードの一斉攻撃命令が下り、合図を受けた瞬間ジャンヌを囲っていた戦闘員たちは誰一人タイミングをズラすことなくジャンヌへととびかかる。
変身をしていない状態で身構えるも、険しい表情を見せるジャンヌに会場の観客たちがハラハラしている中、それは唐突に起こった。
「イーッ!?」
「な、なんだぁ!?」
ジャンヌへととびかかった戦闘員たちであったが、目標へと向かう前に彼らは弾かれ、スタジアムの水中へと落ちていく。
とびかかった戦闘員たちは何が起きたのか把握していない様子だったが、スタジアムの上に未だに見下ろしている黒ひげの目には、ジャンヌを守るようにして動いている竜巻が映っていた。
その竜巻はジャンヌの周りをぐるりと回ると、破裂するようにして霧散した。 形を崩した竜巻がそよ風となり観客席へと吹いたと同時に、竜巻の跡より誰かが姿を現した。
「……」
竜巻の中から現れた、白い制服のような服装の上に紫のマント、そしてサメを模したような仮面を身に纏った小柄な少年はジャンヌとブラックバードの間に立ち、スタジアムの上のブラックバードを仮面越しに睨みつける。
その傍らには少年の優に倍以上の大きさであろう、ホオジロザメが空中に佇んでいた。
急展開もさることながら、視界に現れた海のハンターとも言える存在に観客たちは少しざわめく。
そこには少し恐怖のような感情も含まれてはいたが、パニックを起こすと言うほどのものではなかった。
と言うのも、そのホオジロザメことリースXPの目にはサングラスがかけられており、その無機質な瞳がスタジアムの観客には見えなかった為である。
どうやら彼らのリースXPの対策の1つは効果があったようだ。 だが、本番はここからである。
「てめぇ、一体何モンだ!?」
ブラックバードの苛立たし気な問いかけに、向けられる怒りの感情を真正面から受け止めているその仮面の少年は仮面越しに静かに、しかしはっきりとした声で応えた。
「……
───愛と希望、そして絆を紡ぐ戦士たちの味方である!」
マントを翻し、傍にいるサメと共にポーズを決めた仮面の少年【マスク・ド・ルカン】の登場に、スタジアムの観客席に歓声が上がった。
黒☆歴☆史☆確☆定 (誰のとは言わないけど)
Q1.マスク・ド・ルカンって?
A.サイキライカ様とのコラボ回の際に、弟君が変身したヒーローの名。
詳しくは下記リンクの【崩壊世界でタマモキャットと懇ろになった件について】を参照してください。
ちなみに、ヴィランとして登場しているブラックバードこと黒ひげも、こちらの作品からの出典です。
https://syosetu.org/novel/201143/
Q2.会場にいたサーヴァントたちについて
A.アンデルセンの主従はちょっとしたゲストです。
ガネーシャの主従は、掲示板ネタのコテハン【引きこもりのこたつさん】の中の人。
キャスジルは常連です。なんでこいつ出禁にならないのか不明。
Q3.実況と解説の面子について
A.カニファンが好きなので……
Q4.その仮面最早魔術礼装の一種では?
A.神代の魔術師も多く現界してかつ魔術の触媒も潤沢みたいだし、まあこれくらいは楽勝でしょ(適当)