崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話 作:アルテマ
ボックスガチャイベとかプロトマーリンとか色々あって投稿が遅れました……申し訳ない。
そんな訳で今回は番外コラボなので、本編ではなくこちらの章に投稿です。 あるいはお茶濁しとも言う。
時系列も世界が崩壊してから1年後ほどの視点より、です。
それではどうぞ
夜の帳が落ちて月が空へと昇り、地上へと仄かな月光を降り注ぐ。
暗い闇を照らすその静謐な光は人が歴史を紡ぐ時よりも前から存在し、人々の生活の営みを見守ってきたものだ。
そのため古来より月は神秘的なものとして信仰され、各神話においても月の女神の存在は信じられてきた程である。
時代が流れ、科学文明が発展し、人間は暗い夜を照らす手段を得て活動する時間を確保できるようになり、月の光はかつてほど崇拝されるようなものではなくなってしまったが、それももうかつての話。
この崩壊した世界では、建築物の再建等の復興は進んでこそいるが、外敵のせいで思うようにその作業は進んではいない。
今も稼働している街灯なんて殆どないし、新しく設置しても外敵や戦闘に巻き込まれて壊れてしまうなんてのはよくあることだ。
そんな中で周期こそあれど暗い夜を照らしてくれる月の存在に改めて感謝し、中には信仰を捧げる者すらいるほど、この崩壊した世界においては畏敬の念を向けられているのだ。
「……向けられてるって聞いてたんだけどなぁ」
月の光を跳ね除けて、自身の存在を主張するようにネオンの光が放たれている街の中で、その眩しさに耐えきれずに片手でその光を遮りながら呟くも、その光に集まった道行く人々の雑踏にその呟きは飲まれ消えていった。
世界が崩壊してから1年以上が過ぎ、とっくに
僕は今日、ジャンヌと共に用事があってこの街に来ていたのだが、ジャンヌは別件でも用事があると言って、あの女神サマとお出かけしており、珍しく今は僕1人なのである。
結局、あの姉弟喧嘩の後もジャンヌは僕にいつもべったり状態なので、逆にいないと物足りないと言うか……いや、正直に言うと寂しいのだが、ジャンヌにもジャンヌの都合があるのだから、あまりこちらから何かを強要するのは……
「おーいオーナー君、どうしたー?
そんな道の真ん中でぼーっとしてたら危ないぞ」
ジャンヌに対してどんどん溺れていってしまっていることを自覚してしまうような思考をしていた中、前方より声をかけられてハッとし、そう言えば厳密に言えば僕は今1人ではないことを思い出して、声の発生源の方へと視線を向けた。
「ああいえ、ちょっと考え事してました。
すみません、田中さん」
「あー、そうなのか?
まあそう言う時もあるときはあるけど、ここは人通りが多いから俺からはぐれないようにしてくれよ」
小走りで追いついてきた僕に何か納得したような顔をした後にそう言って、彼は振り向かせていた顔を戻して前へと進みだしたので、そのすぐ後を置いていかれぬようについていく。
崩壊したこの世界で、眠らない街へと変貌しつつあるこの街の名は池袋。
僕の前を歩く【田中 康夫】さんとそのサーヴァントが拠点にし、何でも屋を営んでいる街である。
僕と田中さんの出会いは、これまでにシルク・ドゥ・ルカンに訪れて知り合い、付き合いがある人たちとは全く違った出会い方をしている。
その出会い方は縁の巡り合わせなんかではなく、あの女神サマとの僕とジャンヌの関係を考えるなら、女神
正直な話、僕たちに色々と都合してくれたことを含んでも、僕はあの女神サマは苦手だ。
ジャンヌと僕をこの世界で引き会わせてくれたことは感謝しているし、恩人とも言える人なのだから嫌いだなんて口にすることは出来ない。
それでも僕に施しを与えると同時に、苦行をも僕へと与えてきた存在に折り合いをつけることは出来ても、尊敬の念や友好と言った感情を向けることは出来なかった。
あの女神サマに逆らえない今でも、僕には女神サマが何を考えているのかは分かっていても、そのために何をしでかすのか全く予想がつかない。
だから僕はそんな女神サマを従えているマスターたる人物も、頭のネジがぶっ飛んだか元々ない人間なのだと思っていたのだが……
「なぁ、オーナー君。 どうしてさっきから黙りこくっているんだ? 体調悪いのか?」
僕のことを心配するように問う目の前の人物は至って普通の人物で、少なくとも知人を気遣うことの出来る、どこにでもいるような普通の人だ。
この人とはそれなりに付き合いが長いが、少なくともあんな過激思考の女神サマを従えるような人物には、僕には見えなかった。
……まあ、正直女神サマの方が立場が上のように見えて仕方がないが、なんだかんだ手綱は握っているから従えている立場ではあるのだろう。
「……あ、すみません、ちょっと考え事をしてて。
田中さんに出会う前は、田中さんって(色んな意味で)すごい人なのかなって僕は思っていたんですけど、今思うとずっと普通の人なんだなーって」
「それ、いまいち褒めてるのか貶しているのか分からないんだが、どっちの意味合いで言ってる?」
「あ……も、勿論前者の意味でですよ!
ほら、こんな世紀末な世の中ですし、周りは血の気が多い殺伐としている人とか、誰かを貶めるような策謀が渦巻いている中で、前の世界の普通の人たちのように振る舞うのってすごい難しい事だと思いますし!」
「お、おう……いや、体に神造兵器埋め込まれてる奴が普通ってのもおかしな話だと思うけどな……」
「いやいやいや普通ですよ普通、このご時世体の半分くらい機械とか、五感を複数人で共有してるとか、自分を帝王だと思い込んでいる格闘家とかゴロゴロいますから! 神造兵器体に埋まってるくらい普通ですって普通!
ぶっちゃけおかしいのはあそこで何か集団で踊ってる清姫たちですから!
……いや、ホントなんですかアレ?」
失言をしてしまったと焦り、必死にした弁明のために指さした先では野外ステージ用の壇上の上で、数十人の清姫たちがコスプレのような丈の短い着物を着用し、3列ほどの横の列を為して日本舞踊のような何かを踊っている光景であった。
よく見れば野外ステージの客席には『きよひーサイコー』と刻まれた扇子とサイリウムを持ち、清姫たちにエールを送る人々がいた。
正直もう夜なので近所迷惑になりかねないかと思うのだが。 まあ、清姫たちは踊っているだけで声を出している訳では無く、客席の人々も大声を張り上げていないのが幸いか。
そんなことを考えて固まっていると、指さした先のものの正体を知っているのか田中さんは答えてくれた。
「あぁ、あれ? あれはちょっと前に結成されたアイドルグループ【
「き、きーよーひー、ふぉーてぃーえいと???」
「理由は知らんけど、クラスは問わず清姫たちが48人同じ愛を持つもの同士でいつの間にか出来たアイドルグループらしい。
それなりに人気なんだけど、センターを決める選挙権はKYH48に所属する清姫のマスターたちにしかないから、選挙は全員1票の引き分けの泥沼なんだと。
最終的にはマスターとサーヴァントのセンター選出大戦が始まって、ステージは阿鼻叫喚の地獄絵図になってるんだとか」
「へ、へー……(妙に詳しいなこの人)」
正直あまり興味のないアイドル特有(?)の内戦めいた話を耳に入れつつ、視線を再び件のKYH48へと向ける。
ステージに上がっている清姫と、客席のファンの人たちはとても生き生きとした表情をしていて、それを少しだけ嬉しく思いつつしみじみとした思いに浸っていたのだが、その僕の視線を別の意味で捉えたのか田中さんはこう聞いてきた。
「気になるんだったら、今度のコンサートのチケットでも取っておくけど?」
「いえ、遠慮しておきます。
僕はそれほど興味がある訳ではないですし……あとジャンヌが怖いので」
「あ……(察し)
よ、よし、それじゃあそろそろ行こうか」
間髪入れずに答えた僕の返答に田中さんはそう言って閉口し、気まずいのか黙ってそのまま前へと歩みを早める。
僕としては冗談めかして言ったことなのだが、後から考えてみると割と真剣にジャンヌに浮気認定されかねない事案なのでは?
……まあ断ったし、大丈夫だと思うのだが
「あ、ついたよオーナー君」
それからさきほどのKYH48から話題を逸らし、雑談をしつつ池袋の大通りから外れた裏路地を進み、街灯の光が大通りよりも控え目になってきた場所では、何かの店先から路地を歩く人にしきりに声をかけていた。
……と言うか、裏路地に入った辺りの雰囲気や店の名前からして既に嫌な予感がしていたのだが、田中さんがついたと言って立ち止まった視線の先の店が、どうにも高級感溢れる竜宮城のような作りをしたそれに嫌な予感は増していくばかりであった。
いやそんな筈はないと心中で自分の懸念を否定し、一体何の店なのかを把握しているであろう田中さんへと問いかけた。
「……あの、ここって何の店なんですか?
僕にはここがクラブとかキャバクラとかそう言う風俗店に見えてしょうがないんですが、違いますよね?」
「いや、違うぞ」
「そ、そうですか。 まあそうですよね……」
「ここはソープランドだ」
「帰らせていただきます!」
全力で回れ右して元来た道を戻ろうとしたのだが、すかさず襟首を掴まれてしまった。
「ウェイトウェイト!
落ち着くんだオーナー君! 俺の話を最後まで聞いてくれ!」
「嫌です帰ります帰るんですー!
誰が好き好んで死ににいくんですか、今日はただの接待って聞いていたからついてきたんですけど!?」
ジタバタと暴れて抜け出そうとするも、逃がすつもりがないのか僕の襟首と肩をガッシリと掴んでいる田中さんは僕を説得しようと言葉を投げかけてくる。
「大丈夫、今日のこれは間違いなく接待だ。
オーナー君のシルク・ドゥ・ルカンと俺の何でも屋の関係が末永く続くようにもてなすものだから、今回の料金は経費としてしっかりと落とす」
「いや僕が心配している点そこじゃないんですが。
と言うか、あなたのとこの何でも屋は経理とかいないでしょうに」
「いや、領収書のあて名はシルク・ドゥ・ルカンにする予定だけど」
「何勝手にウチのとこに接待費請求しようとしてるんですかアンタ!?」
そもそも接待する側とされる側が違っていたことに対して言葉遣いが荒いツッコミが口から漏れ出てしまう。
いや、立場を考えれば接待すべきなのは
『性風俗の接待? それはまた、地雷原に飛び込むどころか崖下に飛び込むような所業をアナタがなぜ……いえ、まあいいですよ。
何事も経験ですし、ボクも面白そうなものが見れ……おっと、何でもありませんよ』
HAHAHAと、どう見ても酒の肴にする気満々で許可をだしそうな子どもスポンサーの笑顔が脳裏で再現されるが、いやいや今は関係ないだろうと頭を振り、ため息を1つ吐いてジタバタするのをやめて田中さんの方へと向き直る。
「……と言うか何でよりにもよって性風俗なんて利用しようとしているんですか。
女神サマにバレたらただじゃ済まないですよ」
あの女神サマの嫉妬深さは僕でも重々理解しているのだ。 かの女神が嫉妬してどんな事態を引き起こすのかは、マスターでありその寵愛を一心に受けている田中さんが知らない筈がないのだが……
「ん、ああそこは大丈夫。
レオから直々に許可を得てはいるから」
「……はい?」
今、この人は何と言ったのだ?
あの嫉妬深い女神サマが、好いているマスターが性風俗に行くことを許可した?
いや、そんなことがあり得る筈がない。 だってたった1人の愛する者のためならば世界を破壊し創造することに、それまで生きてきた生命を何の感慨もなく消し飛ばすことも厭わない女神サマが、浮気同然とも言える行為を許可しただなんて、うちのジャンヌが『いい加減そろそろ姉弟離れしましょうよ弟くん』と呆れたように発言するようなものだ。 そんなことは絶対にあり得ない。
……自分で言いだした手前だが、実際に想像したら死にたくなった。 もしもこの想像が現実になったら発狂する自信がある。
嫌な想像を振り払い、忘れようと田中さんへと確認するように問いかけた。
「……あの、それ嘘ですよね? 仮に本当であると信じるとして、どんな言いくるめ方したんですか?」
「そう言う反応になるとは思ってた。
まあ君の言う通りなんだけど、『SEXのテクニックを上げてレオもしっかりと気持ち良くしてあげたい』って言ったら拍子抜けするほどあっさり許可貰えた」
「はぁ、で本音は?」
「偶には優しい女の子に癒されたい」
「ア、ハイ」
死んだ魚のような目つきと感情が死にかけの声音で告げられた切実な訴えに全てを察した僕は、もうそれ以上追及する気にはなれなかった。
「……あの、それなら僕をここに連れてきた理由はなんです?」
田中さんが女神サマの許可を貰えた理由には懐疑的になるが(と言うか何か裏があるとしか思えない)、とりあえずそのことは横に置いておき、僕をここに連れてきた理由を問う。
田中さんがここに来た理由はともかくとして、肝心の女神サマの許可が取れたと言うのなら僕を伴ってここに来る理由はないと思うのだが……
「いやだって、俺こう言う店来るの初めてだから、1人だとなんか不安だし、道ずれが欲しかったと言うか……」
「ちょっと何言ってるのか分かりませんね夜遅いので帰ります」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!アアアアアアアア!(発狂)」
何故かもじもじと両手の指先を触れ合いさせながら恥ずかし気に言う田中さんに早口でピシャリとそう言った後に回れ右して帰ろうとしたのだが、後ろから伝わった衝撃にタタラを踏みそうになってしまった。
「ぐおぁ!? 腰にひっつかないでくださいよ!
どんだけ必死なんですか、別に1人でもいけるでしょ童貞じゃあるまいし!?」
「経験はあっても殆ど逆レなんだよぉ! ほぼ相手に襲われて限界まで絞られて、経験豊富だなんて言えねぇ!
こう言う点において共感してもらえる年の近い知人ってオーナー君くらいしかいないんだよぉ! オーナー君も分かるだろ!?」
「うぐぅ!」
もの凄い形相で必死に訴えかけてくる田中さんに文句を言うも、最後の言葉を聞いて二の句が告げなくなってしまう。 この場合、反論が出来ないというよりは自身のコンプレックスに近しい点を追及されてしまったことによる図星なのだが。
と言うのも、僕とジャンヌはそれなりに長い付き合いがあり、お互いの関係を進展させたり、見直すような経験も数多くしてきたが、未だに夜でのそう言った行為はジャンヌがリード……と言うか上位でやるのが殆どだ。
僕自身それに不満はないし、ジャンヌは僕のそう言ったことをされている時の反応が気に入っているようだし、僕もジャンヌに愛されていることを実感しているシーンの1つでもある。
けれど、時々ジャンヌに負担をかけてばかりで、本当はジャンヌも僕にリードしてもらいたかったりするのでは?と不安に思うことがある。 自分ばかりが快楽の虜になって、相手の事を思いやれてないのではと考えてしまうのだ。
しかし自分がリードをしようにも、自身に女性を悦ばせるようなテクニックが全くない。 ジャンヌ以外にそう言った女性との付き合い方を知らなかったことはともかくとして、これまでジャンヌに主導権を譲り続けた(そもそも譲る権利すらなかったのだが)ツケが積もり積もって重ね上がった結果が今の現状であるのだが、当然の結果でもある。
そう言った意味では田中さんが言っていた通り、SEXのテクニックの練習の場としてソープに訪れると言うのも一理あるとは思うのだが……
「……田中さん、そう自棄になる必要もないです。 性行為の技術はパートナーと少しづつ磨いていけばいいですし、あの女神サマにだって事情を話せばそう無下にはしないですよきっと」
「そんなこと言って、本当はもう面倒だからさっさと帰りたいのが本音でしょオーナー君」
「ソ、ソソソソソンナコトナイデスヨー」
ジト目で告げられた言葉に、あからさまに図星ですと言っているようなワザとらしい反応を返し、どうにか諦めてくれないかなと心中で思う。 いくら田中さんが女神サマの許可を得ているとは言っても、僕は今日ジャンヌには田中さんとご飯を食べてくるとしか伝えていない。 流石に許可もなしにこう言った店に入るのは憚られた。
じゃあそれを田中さんに伝えれば? とは思うだろうが、それもなんだが違うような気がした。
こう言った性風俗を利用するのはパートナーである女性に不誠実であると言われるのは必至だとは思うのだが、僕が思うに田中さんは女神サマに対して改善してもらいたい点があると思ってはいても、不満なんて言うのは欠片も抱いていないと思うのだ。
本人が素直ではないから女神サマに面と向かって言うようなことはないだろうが、田中さんはあの女神サマを愛しているのだと思う。 先ほど述べていた癒しが欲しいと言うのも本音ではあるのだろうが、かと言って性行為のテクニックを上げたいと言うのが建前というのではなく、パートナーへの思いやりから来ているであろうこちらもまた本音ではあるのだろう。
ツンデレとヤンデレのカップリングなんて、ありそうであまり聞かないカップリングだななんて考えつつも、僕を懐柔しようとする田中さんと舌戦を繰り広げる。
数分後、短時間沈黙していた田中さんが僕が折れないことを察したのか、ため息を零した。
「……分かった。 オーナー君がそこまで言うなら、この店に入るのはやめよう」
やや項垂れてそういう田中さんに、ホッと胸をなでおろす。 田中さんの願望も分からなくはないが、何もソープでなければその欲求が叶わないと言う訳ではない筈だ。
それが僕の行動で叶うとはとても思えないけれど、田中さんの楽しみにしていたであろう予定を潰してしまったのだから、空いてしまった予定の穴埋めも兼ねて彼に付き合うべきだろう。
「分かってくれましたか、良かったです。
ソープには付き合えませんけど、折角ですしどこかでご飯を食べて帰りましょう。
そこで愚痴くらいは聞きますから」
項垂れる田中さんへと片手を差し伸べて、努めて優しい声音でそう告げた僕に、田中さんは差し出された片手を軽く見やったのちに静かに手を上げて、僕の手を掴む。
顔を上げた田中さんは晴れやかな笑みを浮かべていた。
「ああ、そうかオーナー君。 ありがとう、君は優しいな……。
それじゃあ早速、あの男の娘ヘルスに行こう」
「ちょっと何言ってるのか分からない」
唐突に180°回転した田中さんの視線の先には、またもこの裏路地に溶け込んでいるかのような怪しげなショッキングピンクのネオンを放つ、【逆説】とそれはそれは業の深そうな店名の書かれた看板が鎮座している店が。
当然の如くR-18な店へと田中さんは僕の手を逃がさぬように捕らえたまま、足に力を込めて抵抗する僕をズルズルと引きずって突き進んでいく。
「最近俺は気づいたんだ! 可愛ければもう男でもなんでもいいんだ!
俺の荒んだ心を癒せるのならば、このアナルを捧げることに躊躇はない!
恋をしたら男も女も無機物も有機物も関係ないんだ!!」
「なんでこんな意味不明な暴走するのこの人!?
正気に戻ってくださいよ田中さん!」
ギャースカ騒ぎながら道を行く僕たちに気づいたのか、男の娘ヘルスの店先で客引きをしていた店員らしきサーヴァント、ウサ耳セイバーなアストルフォさんが満面の笑みを浮かべ、片手を上げて僕たちを招こうと声をかけてきた。
「ヘーイ、そこのアナルチェリーボーイズ。 ボクと一緒に新しい世界を体験してみない?
そこの元気なお兄さんも大歓迎だけど、女装が似合いそうな可愛いキミもどう?
今ならマゾの資質を高められる、女装メスイキコースのサービス中だよー!」
「絶対に嫌だぁぁあああ!!」
何故かこちらへと視線を向けてかなりアブノーマルな性癖を開発しようとか言われ、無意識にお尻の穴が締まった。 湧き出る恐怖とか羞恥とか色々入り混じった感情から、かなり必死な悲鳴を上げていた。
と言うか初対面でアナルが未通か見抜くとかどういうことなんだ。 もう手慣れていそうな雰囲気を醸し出すこの時点で大分恐怖である。
正に前門の虎後門の狼。 どちらにいこうと僕が折檻を受けることになるであろうことは明白。
なんだこれ地獄かね? と言うかお願い助けてゴッフ所長。
しかし現実は無常であり、どこからそんな力が沸いて来るのか必死に地面へと錨を下ろす僕を、知るかとばかりに引きずる田中さん。
迫りくる肛門の危機にこれはもうダメだと諦め、若干涙目になりながら叫ぶ。
……あー後門の狼が肛門に襲い来るとか上手いなぁって? 何言わせてんの馬鹿なの!?
「あーもう、分かりましたソープの方に付き合います! 付き合いますから、落ち着いてください!
僕はまだそこまでアブノーマルな性癖の開拓をしたくないです!」
どちらを選ぼうと同じ結果になるのなら、まだ被害が少なそうな方を選ぶのが理であると考えて前者の選択肢、即ち当初の予定通り、ソープランドの方へと付き合うことを決意する。
えーいけずー、と頬を膨らませるアストルフォさんから視線を逸らし、軽く会釈してさっさと引き返す。
先ほどまで僕を引っ張っていた田中さんであるが、僕がソープランドに付き合うことを了承するや否やガッシリと僕の腕を掴んで離そうとしなかった手を離し、若干乱れていたコートを着直していた。
「ふぅ、全く。 余計な手間をかけさせないでくれ」
「いやそれ僕の台詞なんですが……」
先ほどの暴走などなかったかのようにケロッとした様子で言う田中さんに苦言を呈すが、言われた本人は全く気にかける様子がない。
……まあ性風俗だからと言って、必ずしも性行為をしなければならないなんて規則もない筈だ。 とりあえず、付き合うだけ付き合って、何をしてきたのか経緯も含めて話した後に全力で謝ろう。
謝ってタダで許してもらえるとはとても思えないけども
心中でこの後にすべきことについて考える傍らで、既に田中さんは意気揚々と両開きの扉に手を掛けていた。
「まあ細かいことは気にしない。
それじゃ、日々の疲れを癒しにレッツらゴー!」
「───マスター。 いらっしゃいませ」
「」
「え、あの田中さん、どうして急に扉閉めたんですか?
今店の中の人、何か言ってませんでしたか?」
「オーナー君、この先は地獄だった。
今日はもう諦めて、あの男の娘ヘルスへと行こう」
「いや、だから嫌ですよ! どうしたんですかいきなり!?」
「……中を見れば分かる」
「は、はぁ……」
「───いらっしゃいませ、弟くん♡」
「」
自分でも今死んだ目をしているであろうこと自覚しながら、そっと扉を閉める。
振り向けば、僕と同様死んだ目をした田中さんが、忠告するように告げる。
「おい、その先は地獄だぞ」
「……そうですね」
「よし、じゃあ俺たちがこれからすべきことは分かるな」
「はい」
「「全力でこの場から逃げよう」」
先ほどまで全く以て意見や主張の合わなかった僕たちであったが、この瞬間だけは心が通じ合っていた。
しかしそこに喜びを感じるようなことはない、と言うよりも喜んでいる場合じゃないと言うべきか。
ただお互いに分かっていたのは、このままこの場で留まればあの捕食者たちに捕まるだけであり、そして捕まったが最後、恐ろしい罰が下されるであろうことだけ。
故に逃走。 今日の予定など全て放り投げ、目的地もなくただただ逃げる。
先ほどまで謝罪がどうのなどと思っていたことは、さきほど扉を開けた先で目にした笑顔を見た瞬間に立ち消えていた。
だが、愛の重いあのコンビが、逃走なんてものを許す筈もなかった。
「え……」
果たしてそう間の抜けたような声を漏らしたのはどちらだったのか、それとも僕も田中さんも同時にそう口にしていたのか。
逃げようと振り向いた先に広がっていた景色はこの場所に来るまでに歩いていた薄暗い裏通りではなく、さきほど扉を開けた先でちらりと見えた、高級そうなシャンデリアが照らしている独創的なデザインの床と壁の模様と花の装飾が施されたテーブル席の群。
一体何が起きたのかと、隣にいる田中さんに問いかけるように視線を向けるも、向こうも全く僕と同じことを考えていたようであり、視線がかち合うだけで終わってしまう。
「どこに行くおつもりですか?」
「入ってすぐに出ていっちゃうなんて、お姉ちゃん悲しいなぁ」
戸惑う僕らの背後から囁かれた吐息混じりの声と首に巻き付くように回された両手の感触を認識した途端、体がビクリと震えて凍り付いたように硬直してしまう。
隣にいる田中さんもまた似たような状態に陥っており、冷や汗をダラダラと流していた。
ああ、これはもうダメだなと諦観めいた思いを抱き始めたころ、ふと視界に花弁が横切っていき、次いで甘い香りが漂ってきた。
どこか見覚えのあるそれに、花弁の飛んできた方向へと見やれば、これまたどこかで見た覚えのある白を基調としたローブに身を包んだ、優し気な好青年が笑みを浮かべてこちらを見ていた。
(いや、すまないね。
キミたちに何か恨みがある筈もないのだけど、私は彼女に逆らうことが出来ないんだ。
私を処する術式付きで
などと言いつつ、それはそれとして面白いものが見れそうだからと半分くらいは率先して彼女たちに協力していたりする私なのであった、まる)
脳内に直接テレパシーを送り、最後に笑みを保ったままサムズアップをして花をまき散らしどこかへと消える青年。
彼が先ほどの現象を引き起こした下手人であることを確信した僕たちは、無駄に演出の凝っている退場をした花弁散る跡地に向けて吠えていた。
「あんのロクでなしがぁあああああああああ!!」
「おのれグランドクソ野郎ォォォォォオオオオオオオオオ!!」
あいつ今度会ったら100発はぶん殴ろう
そう心に強く誓い、この後起こるであろう惨劇から現実逃避する僕と田中さんであった。
女神「ようこそマスター、運命に愛された者たちの理想郷、【Affection of Avalon】へ」
姉「どうか心ゆくまでお楽しみくださいね、弟くん♡」
何でも屋「」
弟「」
と言う訳で、崩壊シリーズの元となった作品、KEY(ドS)さま執筆の『~ 崩壊世界シリーズ ~ モテない男の元にアルトリア・ランサー(ヤンヤン)が来るというテンプレチックなドロドロイチャイチャするだけの話 不定期』とのコラボでした。
KEY(ドS)さん、コラボ許可及び校正ありがとうございました。
Q1.コラボ先について
A.『~ 崩壊世界シリーズ ~ モテない男の元にアルトリア・ランサー(ヤンヤン)が来るというテンプレチックなドロドロイチャイチャするだけの話 不定期』の主人公とヒロインに出張していただきました。URはこちら↓
https://syosetu.org/novel/149568/
・田中 康夫
上記作品の主人公であり、崩壊世界誕生の切っ掛けとなった女神に愛された男。
一見してどこにでもいそうな普通の学生(恐らく高校生くらいだと思われる)であるのだが、自分たちの居場所に良さそうな場所がなければ自分で作ればいいじゃない!の精神で何でも屋を営み始め、後ろ盾とか色々手回しをする辺り絶対普通じゃない。
上記で記した通り、池袋において何でも屋を営んでいるのだが、毎度毎度発情した女神さまに逆レされて絞られまくっており、愛されすぎて腹上死しないか心配である。
・レオ
上記作品のヒロイン、ランサー・アルトリア。……に見せかけて、FGO第一部6章において猛威を振るった女神ロンゴミニアドの力に匹敵、あるいは凌駕する力を振るう女神。
崩壊世界を作り出した元凶であり、その目的はただただマスターと共に愛し合いたいからであり、モンスターや他のサーヴァントたちの現界はあくまで副次的なものだとか。
知っての通りヤンデレであり、その愛と独占欲は重い。
マスター以外のものは基本的にはゴミクズくらいにしか思っておらず、不快に感じたら速攻で聖槍を抜錨し、相手を存在から抹消する。
ただし、自身の愛情のあり方に賛同する者や、似たような愛をパートナーへと向ける者たちには支援等をしたりと贔屓をしてたりする。
Q2.弟くんたちと田中さんとの関係について
A.レオさんとの関係についてはここでは割愛。
田中さんと弟くんの出会いは、レオさんとの関係の設定を考えると出会うのは必然だったのですが、初めの挨拶は至って普通のもので終わり、年齢も近いことから比較的仲良くなるのも早かった。
本文の時系列時点で、一緒に何かしらの依頼を手伝ったり、イルカショーの手伝いをしたりと、それくらいの友人関係にはなっている。
Q3.
A.本文でも述べましたが、清姫オンリーで構成されたアイドルグループ。
発足理由は清姫と契約しているとあるマスターたちが、『俺のきよひーは最カワなんだ!!(集中線)』と互いに言い合い争い勃発。
戦闘では全く決着がつきそうにないので、仕方なくダンスバトルに発展した結果、次次とそのダンスバトルに多くの清姫たちが参戦。
気づけばアイドルグループとして活動していたとかなんとか。
ちなみに田中さんが妙に詳しかったのは何でも屋さんだから、情報はしっかりと網羅しているためです。 決して自身も興味を持ってコンサートのチケット買ってレオさんにばれたとか、そんなことはナイヨ!
Q4.男の娘ヘルスについて
A.男の娘や性別不明サーヴァントたちが務める性風俗。
店の名は【逆説】であるのだが、果たして誰が店長なのか……
Q5.マーリンが本文で初めて出たけど、弟くん殺意湧きすぎじゃね?
A.ある一件より、弟くんはマーリンに対してのみ当たりが強くなりました。
レオさんと同様に一応感謝はしてはいるのだが、それはそれとして“ほんとこいつはロクデナシだな”とか思ってる。
と言う訳で番外コラボ、これで終わりにも見えますが、一応終わりは次のお話を予定しております。
今別の短編小説も書いているのですが、なるべくこっち優先するので気長にお待ち下さいな。