崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話 作:アルテマ
「……おや、どうやら既にこちらにいらしていたようですね。
こちらが指定した時間より幾らか早い時間なのですが、少し待たせてしまいましたか?」
ギルガメッシュが救護室を退室して向かった応接間、ノックなしで入った先にはギルガメッシュを呼び出した人物たちが既に席に着き、スタッフが用意したのであろうお茶とお茶請けを口にしていた。
待ち人の1人である男は口にしていたカップをソーサーに置き、ポッドを手に取って自身ともう1人の待ち人のカップに中身を注ぎながら言う。
「問題ありませんよ。
本当はマスク・ド・ルカン役を演じた彼に挨拶でもと考えたのですが、どうやら私が出向くと色々とお邪魔なようでしたのでまた後にすることにし、スタッフの方にお願いして先に応接間に案内していただいたのです」
「そして教育者として若い男女の情交に乱入してピンクい空気をぶっ壊してやろうとしたところ、コトミネさんにアームクランチされてこのように縄で拘束されてしまったのは、空気を読めないのではなく、空気を読まないことに定評のあるジャガーマンだニャー!
いやぁ、ほんとズルいっすよあの強化解除全体宝具……最近流行りの対粛清防御も解除して相手にドーンっ!ってするんでしょ。 そりゃただの回避じゃ避けきれないっすわ……。
えーっとそれでですね、そろそろ反省したので縄を解いて欲しいなーなんてお姉さん思ったりしてるのだけどニャー? お茶もお菓子も最初に口にしたっきりだから、それも食べたいなーとか思っちゃたり?」
太い縄で両手両足を含めてソファの上で拘束されているジャガーマンはふざけたようにしつつも、若干困ったような笑みを浮かべて対面に座る天草四郎とギルガメッシュの事を見やる。
しかし視線を向けられた天草は目を合わせず、ギルガメッシュは1度視線こそあったがすぐに彼の視線はジャガーマンから外されて天草の方へと向けられる。
いつもなら穏やかな雰囲気で他人と接する天草の今の表情は、少しばかり表情筋が強張っていた。
「……どうやら、本当にお待たせしたようですね。
連絡していただければすぐにでも出向いたのですが」
「あ、スルー? もしかしてスルーされてます?
ソファの上でびっちりと雁字搦めに拘束されてる私は道端で寝転がる猫ならぬジャガーとして見てみぬ振りをされていますのかニャ?」
「いえいえ、呼び出したのはこちらなのですから、そのような急かす行為は厚かましいでしょう。
それに、スタッフの方がこのように紅茶とお茶請けを用意してくださったので、こちらをジャガーマン殿と楽しみながら待っていましたので、特に退屈を感じるようなことはありませんでしたよ」
「あれぇ、コトミネさんにいたっては事実を捻じ曲げていやしないですかニャ!?
私の記憶が正しければ拘束されてもう20分は経ってると思うんですけど、この部屋来たの30分前でしたよねぇ!? ネコ科ですけどジャガーは恨みを忘れたりはしないので早急に助けるのがおススメです!
え、猫は恨みや恩を忘れない動物の代表のうちに挙げられたりすることが多い? 細かいことは気にしない! 過去は捨て去り前を見るんだにゃ、若人たちよ!」
「それで、話とは?
先日の聖杯の件に関係することでしたら、既にお互いに決着がついたはずですが?」
「先日の件とは関係ありませんよ。
私がお聞きしたいのは、今回のヒーローショーを執り行ったその目的についてです」
「あ、私知ってるー。 こうやって露骨に私がスルーされてる時って、大概シリアスになるってジャガーマン知ってるー。 その場の空気を台無しにしてしまうからって省かれるギャグキャラの宿命ってやつ、悲しいんですニャー……。
じゃあもうしょうがないのでー、この前見かけたイモータル小太郎君が快く教えてくれた縄抜けチャレンジしてますー……ふぐぬっ……あ、関節外すとこからやっていいんだっけかニャ?……ふげっ!? ……あ、頭打った……」
ジャガーマンは自身が大人しくする選択肢を選ばなければならない天草のただならぬ雰囲気を感じ取り、静かに1人縄抜けを試みる。
ソファから何故か転げ落ちているジャガーマンには目もくれず、ギルガメッシュは丁度空いた天草の対面の位置となる場所へと腰掛けた。
「それはヒーローショー解説の依頼の際に話しませんでしたか?
リースXPひいてはホオジロザメに対する一般人の偏見を失くしていくために、その第一歩として今回のヒーローショーをするに至ったと」
「それは彼らの願いであり、目的でしょう?
私が聞きたいのは、貴方の目的ですよ」
新しいカップに注いだ紅茶をギルガメッシュに差し出しながら問う天草に、ギルガメッシュはさして反応を示すようなことはせず、天草の淹れた紅茶の香りを楽しみつつ返答をする。
「それはまた今更なような質問ですね。 僕はこれまでも彼らのことを思い行動したまでで、今回の件も彼らの願いを汲み取る形で協力をした訳なのですが?」
そう言ってカップを口につけて舌を湿らせるギルガメッシュ。 曖昧な言葉でのらりくらりと躱そうとしていると悟り、手で口を隠すようにして組んだ肘の支えの上で目を閉じ大きく息を吐いた。
なんとなく予想してはいた反応だったのかもしれないが、素直に答えないということは、こちらからある程度材料を提示しなければ回答を示すつもりはない姿勢に天草はほんの少し嘆息していたが、ギルガメッシュは気にすることなく、口内に満たす紅茶の甘みと苦み、香りを同時に楽しんでいる。
「……では質問を変えることにしましょう。
あの少年に渡した、マスク・ド・ルカンの仮面についてです」
「……」
ギルガメッシュは天草の言葉を聞き流している訳ではないが、天草の核心を突こうとする言葉の槍を受けても動じるようなことはない。 槍の穂先がまだ届いていないと悟った天草は、更に奥へ押し込もうと口を開く。
「あの仮面ですが、ショーの始まった序盤辺りは身体能力を上昇させる魔術礼装の一種かと思っていました。
加減をされていたとは言え、サーヴァントと渡り合う程に身体能力を上昇させる魔術礼装を用意するのは難しいですが、決して不可能ではない。
実際に神代の魔術師が戦闘の技術を持つプロとはいえ、魔力を持たない一般人をサーヴァントに致命傷を与えられるほどまでに強化した前例はある訳ですし、必要な素材も神秘で満ち溢れているこの世界では比較的揃えやすいのでしょう。
問題は、その仮面の装着者への負担……
間を空けた天草のその言葉に、カップを動かすギルガメッシュの手が止まった。
天草はそのまま畳みかけるように続ける。
「違和感を覚えたのは、マスク・ド・ルカンがブラックバードに最後の一撃を放ったあのハイジャンプからのキックです。 演出にしてはやや過激で演出過多だと感じました。
そしてショーの後に、あの少年が倒れたことと全身に激痛が走る症状を聞き、確信に至りました。
───あの仮面は、装着者の体に無理矢理魔力を流し、肉体を崩壊させるほどの過剰な身体強化を施す、文字通り呪いの仮面。
そうですよね、英雄王ギルガメッシュ」
確認ではなく、確信の言葉で以て締めくくる天草。
部屋の温度が更に冷え込むような錯覚をするほどの静寂の中、ギルガメッシュは暫しの間動きを止めて、残っていた紅茶を一気に煽ると、空になったカップをソーサーに置き、一呼吸置いてその問いに答えた。
「既にそこまでに至っているのでしたら、こちらとしても隠す必要はありませんか。
あの仮面の装着者が得る力とその代償については、アナタの述べた通りですよ。
参考にしたのはクー・フーリン〔オルタ〕さんがゲイ・ボルグの真名開放の投擲の際に、ルーン魔術によって崩壊する肉体を再生しながら、全力投擲を行い威力を高めていると言う点ですね。
あの仮面の場合は崩壊する肉体を瞬時に再生すると言うよりは、肉体が崩壊せぬように強化して繋ぎ止めていると言った方が正しいでしょうか。 最も、仮面を外した後の反動と強化の解除によって繋ぎ止めていた肉体の崩壊による激痛は免れませんが。
あぁでも、アフターケアはこちらでしっかりとしていきますのでご安心を」
なんでもないように、平坦な声で仮面の恐ろしい効果について答えるギルガメッシュ。
あの少年は仮面を着けた後に激痛で倒れ、現在救護室で療養中であるが、本人は急な動きで肉体がついてこれずに肉離れや筋肉痛を起こしてしまった程度にしか考えていないのだが、実際は体の筋肉等の内部組織は勿論のこと、魔術回路等もズタズタであり、少年が思っているよりも彼の外傷は深刻なものであるのだ。
天草がした問いはどちらかと言えば確認の意が強かったために、大袈裟に驚愕するようなことはなかったが、それでも彼の表情は険しいものであった。
しかし黙っていても話は進まないと、感傷は一時的に押し留める。
「……では、最初の質問に戻りましょう。
ギルガメッシュ、貴方の今回の目的は何なのです?
ただのヒーローショーであれほどの仮面を必要とする理由があるとは私には到底思えないのですよ。
仮に何か裏があるとして、貴方はあの少年に何をするつもりなのです?」
「ですから、彼らのためにやったことだと言ったでしょう。
もう少し付け加えるなら、彼らの願いに沿うものに合わせる形で、彼に自衛の力をつけていくためにもボクからちょっとしたおせっかいをしているだけですよ」
尚もぼかした言葉で煙に巻こうとするギルガメッシュに、天草は心中でどうしたものかと頭を抱えていた。
恐らく、嘘はついてはいない。 これまで聖職者として様々な人間の悩みや心中を聞いて見てきた彼の経験と啓示のスキルからも分かってはいる。
しかしギルガメッシュは嘘をついていないと言うことが分かっても、それ以上のことはギルガメッシュが嘘であれ本当であれ、口にしなければ判別すら出来ない。 ギルガメッシュ自身、天草の啓示スキルの事も把握しているがためにはっきりとした事は決して口にしようとしないのだ。
これ以上ギルガメッシュから話を引き出そうとするのは厳しいかと考えつつも、先の問答で大まかにでも事実を指摘出来ればあちらは正解を答えてくることを踏まえ、今ある材料でギルガメッシュの目的を推理すべきかと思い、口を開こうとした天草であったが、それよりも先にギルガメッシュが口を開いていた。
「でも少し不思議ですね。 アナタは聖人もどきとは言え聖職者と言う立場ではあります。 しかし1個人にそれほど執着するような性質でもありませんよね?
何か、彼について気になることでも?」
まさかあちらから問いを投げかけられるとはと天草は若干面食らうも、自身のことを考えれば当然の質問であるかと思い直す。
彼はその質問を受けて、視線をじっとテーブルの自身の紅茶の入ったカップを覗きこみ、数瞬してカップを取り口に付け、中身を全て飲み干しそっとソーサーへとカップを戻し、少し言いづらそうにしながら答える。
「まあ、全く気にならないと言えば嘘になります。 あの聖女の在り様をあそこまで変えてしまった彼と言う人間に興味はある。
ですが今、彼の人格については関係ありませんよ。 どちらかと言えば、これは私の問題でしょう。
私の願いについてはギルガメッシュ、貴方はよくご存知ですよね」
「ええもちろん。
【全人類の救済】でしたよね?」
ギルガメッシュは目の前にいる天草四郎と
ギルガメッシュは天草の願いを知っているために彼の要請を拒否し、それでも尚引き下がらない天草と彼は一戦交え、結局天草の要望が叶わない形でその戦闘は終わったのだが、ギルガメッシュと天草四郎の両名の彼らの活動において、一部一致している部分があり、お互いに援助や情報提供をするようなビジネス関係は構築されているため、そこそこ付き合いはあるのだ。
ギルガメッシュは敢えて天草が常々口にしている【世界の恒久的平和】と表現はせず、そしてどのようにして人類を救済する気でいるのかも口にしなかった。
お互いに目の前の人物とは違う世界ではあれど、思想が完全に対立している事で擬似聖杯の取り合いとなった。*1
相互理解が出来ないことは、2人ともわかり切っている。 それ故に、聖杯や願いについての話題は彼らの間ではかなりデリケートな問題であるのだ。
「私はその願いを叶えるためであれば、手段を選びません。 どんな非道なことであれ、他人から後ろ指を指されるような行為でも、必要であれば致し方ありません。
……ですが───」
「───確かに聞こえた少年の悲鳴を、聞かぬふりをするほどの人でなしにもなれない」
ここにいる天草四郎は、あるマスターとの絆を縁にこの世界へと現界している。
そのマスターと強い絆を結んではいるものの、それで天草の願いが変わっているのかと言えばそうではない。 寧ろ彼はこの倫理や法が崩壊し、神代の怪異たちと人々の死の蔓延する世界でなら、自身の願いを叶えるチャンスが多いとすら考えて、現界をした節さえある。
天草自身が口にしたように、彼は自身の願いのためであれば、現界の縁にし、絆を結んだマスターでさえ必要なのであれば殺すだろう。 それは彼のマスターですら理解している。
そんな非情な人物であると言われても致し方ない天草と、彼のマスターはとある約束を交わしていた。
とは言っても、それは彼のマスターが一方的に取り付けたお願いのようなものだ。 天草がそのマスターの願い通りにするかは天草次第でしかない。
だが天草自身利用した節があるとはいえ、絆を育んだマスターにも少なからず思うところがあり、マスターとのその約束を可能な限り守りたいとも思っているのだ。
様々な思惑はあれど、どうあれ天草はマスターである彼女との絆を辿ってこの世界にやってきたことに変わりはないのだから。
「……」
「私と貴方の思想は完全に対立する位置にある。 ですが、物事において最適な判断を下し、効率的な手段を用いるという合理主義的思考は、私と似通っている。
故にただの戯れや玩弄が目的であのような非人道的な行いをする筈がない。 貴方なりの考えがあるのでしょうが……
答えなさいギルガメッシュ。 あの少年に、いや、あの少年を
解答によっては、この場で再び敵対することも厭わないと視線で訴える天草。 仮面が装着者に凄まじい力を与えるのはギルガメッシュ自身が解説したとおりであり、それによってあの少年が人間から別の存在へと変質してしまう可能性があるのは明白である。
即ち、英雄か、怪物か、あるいは……
ギルガメッシュはその天草の視線から目を逸らさずに受け止め、少しだけ考え込むように目を閉じて、僅かな間の後にゆっくりと口を開いた。
「……この世界に現界して間もない頃なのですがね、急に視界が真っ暗になったんですよ」
「……?」
過去を思い起こすようにゆっくりと語り出したギルガメッシュを訝し気に見る天草であったが、ギルガメッシュは気にせずに、一見して今話している内容とは関係のないように思える話を続ける。
「何が起きたのかと顔に手を当ててみると、どうも上から落ちてきた本が視界を遮っていたのです。
普段はそんな落下物にぶつかってしまうようなヘマはしないのですが、その本を落としてきたのは
まあともあれ、そんなことされてしまえば視界を遮るそれを手に取って見てしまうじゃないですか。
運の悪いことに、視界を遮っていたページはその本の結末のシーンでして、不可抗力で見てしまったのですよ。
話の内容的には2人の男女の恋愛話のようだったのですが……終わり方は、はっきり言って気に入らなかった」
「気に入らなかった……?」
「ええ、とっても。 男性の方に全く選択肢がなく、何も出来ずに終わっている辺りが。
その男性の方に何があったのか知るためにも最初からその本を読み、その結末に至った理由を知ったのですが、構想そのものはともかく、やはり要所要所にも気に入らない点は多かったんですよね。
でも同時に、こうも思ったんですよ。 こちらで加筆修正して、せめて男性の方に多少他の選択肢が得られるようにすれば、それなりに見れる物語にはなる可能性があると。
……最も、本を落とした張本人はそうしてもらいたくてボクにその本をぶつけてきたのでしょうが」
「なるほど。 貴方の未来を見通す目で、彼の結末を見たと」
ギルガメッシュの話を聞き、今彼の話している内容はたとえ話のようであり、あの少年の行く末を本の物語に置き換えていることを天草は察する。
ギルガメッシュの未来だけでなく、隠された真実ですら見抜く、万象を見通す彼自身の精神性が宝具へと昇華した常時発動型宝具、【
この宝具の詳細を天草は知っているため、その少年の未来に起こる脅威が実際に差し迫っていることに懐疑的にはならない。
だが、天草は同時にギルガメッシュが意図的にこの常時発動型の宝具を制限している節が見られることも知っている。 たとえ話でこそ気になる点があって少年の未来を見たと言うのは読めるのだが、実際にギルガメッシュほどの人物が気になった点とは何なのか、今の天草には見当もつかなかった。
天草の問いに対し、ギルガメッシュは肯定も否定もせずに話を続ける。
「あの仮面は彼がこの世界に早く馴染めるようにという目的もあり渡しました。
神秘が大気に満ち溢れるこの世界において、それが人や動物に与える影響は大きい。
その神秘の恩恵を更に得られるように、彼の肉体を作り替える。 これがボクが彼にあの仮面を渡した理由ですよ。 来るべき時に、彼が戦える力を十分に振るえるように。
……まあ、苦肉の策なのですがね、これ。 彼への負担は相当大きいですし。
とは言え、アナタの懸念しているよなことを彼に強制していることはないのでご安心を」
そう締めくくったギルガメッシュの言になるほどと思いつつも、最後の締めくくりの言葉の“強制はしていない”という点に天草は引っ掛かりを、と言うよりは確信を得ている。
ギルガメッシュは強制こそしていないが、あの少年が人間を超越した存在へと至る可能性、その切っ掛けを拓いたことには違いはないのだ。
「貴方自身が直接介入してしまえば、あの少年の問題は解決すると思うのですが、彼に渡した仮面が苦肉の策であることと何か関係が?」
ギルガメッシュの強さをその身でしかと味わい知っているが故に、力技での対応もできそうであるのにわざわざ回りくどい策を取りあげている理由が分からず、天草は関係のありそうな点を挙げて聞いてみるも、それを聞いたギルガメッシュは見るからに眉間の皺を寄せて渋い顔をし、ものすごく嫌そうに嘆息しながらも天草の問いに答えた。
「ええ、概ねその通りです。
現状、僕はこれ以上の手助けや直接的な介入が出来ません。 ……いや、許されていないと言うべきでしょうか。 もしもそれらを強行しようとすれば、恐らく彼と彼女は殺される。
と言うか最悪、この世界が滅ぼされかねない」
あまりにもあっさりと告げられた、最悪の場合に訪れる結末にさしもの天草も表情も口も固まって少しの間動かなかった。
室内に静寂が訪れ、天草はただ視線をギルガメッシュに向けたまま硬直している。 あまりの事実に意識が別のところへと向いているという訳ではないのだが、その心中は穏やかではなく、ギルガメッシュに今の言葉を冗談であると撤回してくれることを祈っているようであった。
が、口を噤んで沈黙し続けるギルガメッシュに、天草の表情が苦渋のものへと変わる。
「……冗談……ではないようですね」
「これが冗談ならどれだけ良かったか。 自分の目的のためならばどんな手段でも用いて、手に入れたもののためならば、それ以外のものは気に食わなくなったらあっさりと切り捨てる。 あれはそう言う類ですよ。
……いえ、形はどうあれ1人をしっかりと愛しているあたり、どこぞのアバズレ女神よりかはマシですかね……まあ五十歩百歩ですねこの場合。
ああほんと、これだから女神ってのは度し難い」
「女神……元凶は神霊サーヴァントの類なのですか?」
「知らないのであれば、無理に知る必要もありませんよ。 ボクの口から言わなくても、アナタの願いのことを考えれば敵対であれ協調であれ、嫌でも知ることになるでしょうから。
とにかく、ボクが彼の問題に直接介入すれば、あの少年の命はない。 ボク以外の者でも、基本的には同様の扱いでしょう。 故にボクに出来ることは、彼が最後に絶望し、心が折れてしまわぬように力を得る手助けぐらいしかないのですよ。
……さて、こちらで答えられる内容はおおよそ答えたのですが、まだ聞きたいことがあるのでしたらどうぞ」
質問を促すギルガメッシュであったが、天草はそう多くの質問は出来ないことをなんとなく感じ取る。
それがどんな理由であるのかは分からないが、これ以上ギルガメッシュはその女神に余計な情報がいかないようにしたいと考えているのだろうとあたりをつけ、最も気になっている点について質問をするが、帰ってきた返答は期待したものとは違うものとなる。
「……貴方がこの場でその正体を伏せる程に強大ですか、その女神は」
「ボクとその女神が完全に敵対した場合、状況にもよりますが、基本的に勝敗がどうなろうとこの世界は戦闘の余波に耐えられずに滅びます。
ボクが本気になっても倒せるのかは未知数。 ……と言うか正直に言うと、かなり分が悪いです。
その上その女神が勝った場合、そいつは滅びた世界になど目もくれず、新しい世界を生み出しますよ。 事もなげに」
「……」
全ての英雄たちの原点となる武器を持つ、原初にして最古の英雄ギルガメッシュを以てしても勝てるか分からないどころか、敗色濃厚。 そう言われ天草は表情をますます険しいものへと変えていく。
天草が今助けようとした少年のことは勿論、彼の願いの障害になる可能性がある強大な存在を知り、どうしたものかと頭を悩ませてしまう。
ギルガメッシュの言葉から、天草はその女神と協調も敵対も、どちらの可能性もあることは天草自身も読み取っている。 だが、ギルガメッシュのこの態度からして、その女神について自身の口から語る気はないのだろう。
強大な存在であること以外に正体は不明。 手を付けようにも目の前の情報提供者は肝心な情報を話す気はない。 完全に八方ふさがりであった。
「ふむふむ、それならばジャガーにいい考えがある!」
天草がどうすべきかと頭を悩まし、ギルガメッシュもまた表情を無として固め、部屋全体が重苦しいような雰囲気に満たされていた中で、その場にそぐわないふざけたような口調でそんな言葉が紡がれた。
天草もギルガメッシュのそう口走った人物の方へと視線を向ける。 即ち、テーブル脇にて地面に縄で未だに雁字搦め状態のジャガーマンへと。
ジャガーマンは天草たちの視線を受けるや否や縄で縛られている状態のまま空中へと飛び上がって一回転し地面へと両足をつけると、ふんぬぅうっ!という女性がするにはやや野性味溢れすぎている掛け声と同時に力を込めて縄を引きちぎった。
ブチブチィ!と音を立てて縄の残骸が辺りに飛び散る中、その中心にいるジャガーマンはなんとも晴れやかな表情をしていた。
「あー、空気が美味い! もうこの部屋シリアス一辺倒に突入しかけてて空気が苦渋onlyで息苦しかったし、私自身空気になりかねなかったのでド派手に縄抜けをして空気を入れ替えましたー!
いやー、縄抜けの術って地味だけどホント便利だニャー。 縄で縛られた時に限らず色んな場面で使えそうなほど汎用性が高くてジャガービックリ。
今度小太郎君に会ったらお礼ついでに一緒に過ごす権利を進呈しようかニャー」
果たして今の脳筋脱出に縄抜けの術の要素があったのだろうか、そもそも力技での解決に汎用性もくそもないだろう、そしてぶっちゃけそんな権利を風魔小太郎が貰っても迷惑でしかないだろうなどなど、つっこみたい点はいくつもあるように思われるが、直前までに重苦しい雰囲気であっただけに天草はそんなことを指摘する気にもならなかった。
ギルガメッシュはと言えば特にジャガーマンの言動を気にするようなことはないようであり、ジャガーマンへと問いを投げかけた。
「ジャガーマン、アナタの言うそのいい考えとはなんでしょうか?」
「おっと、シリアスな雰囲気に見合ったセリフならスルーされないって言うのはまあ分かってはいたけど、基本礼儀正しいギル君に呼び捨てにされて私ちょっと複雑な気分!
……とまあ半分冗談はさておき、別に私難しいことを提案する訳じゃないからそこのパチモンシロウも聞いて欲しいです、はい。 と言うか、正直これ私が考えたというよりはあなたの考えたものだし」
「……私ですか? それは一体……?」
ジャガーマンの述べた内容に天草は心当たりがないようであり、ジャガーマンへと問いを投げかける。
平時ならジャガーマンが何を言いたいのか察したのかもしれないが、今の天草はジャガーマンの天草に対する割と酷い別称に対しても聞き流すくらいには思考が別の物へと囚われていた。
ジャガーマンはそれを知ってか知らずかは分からないが、どこか大袈裟に朗らかにしながら喋りだす。
「えー、会場で言ってたじゃん、マスク・ド・ルカンの師匠役をやりたいって。
いやー、今思えばそれも面白そうだなーって私も思ったんだニャー。 強大な悪と相対、あるいは相対する前にふっと現れて、主人公たちに試練を与える経歴不詳の謎多き師匠!
ヒロイン役もいいけれど、主人公たちにその技を教えて育てた師匠ポジもバトルものにはあると嬉しい配役だニャー!」
「……いえ、それはあのヒーローショーを見ていてつい零れた呟き程度の話であって、今回の件とは関係が」
「関係ありもありあり、大ありだニャー! だって今ギル君だって口にしていたように、ジャンヌちゃんの弟くんを鍛えるって言うのが目的で今回のヒーローショーに至ったのでしょう?
だったらその弟くんに必要なのは、ただのヒーローショーでの師匠役だけじゃなくて、あの子にいつか来るであろう試練の時までに、
特に気負うような素振りなんて見せず、なんでもないようにそう言い切ったジャガーマンに、天草は少し瞠目たようであり、ジャガーマンの方へと視線を向けて今の素直な所感を述べる。
「……あなたって偶に正鵠を得た発言をしますよね」
「ちょ、やめい! そう言う“普段は言動がアレだけど、たまにいいこと言うギャップが魅力的なキャラ”に贈るような発言はノーセンキュー!
私はそんな最近主人公ポジに多いように感じる王道系キャラなんかじゃなくて、古き良き伝統を受け継いだ近所の頼れるお姉さんポジヒロインだからー!」
天草の若干パチ扱いされたことに対する報復も含まれたような発言に、ジャガーマンは自身のキャラ性について訂正を強く行うも、1つ咳払いをして珍しく真面目な表情をしながら口にする。
「……それに、これは私の直感なんだけど、あの子の問題って力技で解決してもあまり良いことないような気がするんだよねー。 むしろ厄がありそうな気さえする。
そういう意味でも、あの子に私たちがするべきなのは降りかかる災いから守ることじゃなくて、立ちふさがる壁を乗り越えられるように導くことにあると思うの。 ギル君もその辺理解しているから雑に元凶にバビロントルネードアタックを仕掛けるようなことをしていないんでしょ? 半分くらいは」
「……いや、まさかアナタにそこまで見抜かれるとは。 野生の勘とは恐ろしいものですね」
「そこは女の勘は恐ろしいと言って欲しかったのですがニャー!?」
ギルガメッシュもまたジャガーマンの推察に驚いたようであり、素直な所感を述べるもジャガーマンは自身の扱いの雑さに憤慨する。 しかし彼女の扱いが雑なのは今に始まったことでもなく、そもそも自業自得な面もあるために誰もフォローしないのである。
それを自覚しているのか、してないのか分からないジャガーマンは色々と文句を言うが、そこに被せるようにギルガメッシュはジャガーマンを試すように問いを投げかける。
「しかし、導けば良いと随分簡単に口にしますね。 言うのは容易ですが、サーヴァントであるボクたちでもかなり骨が折れますよ? なにせ、アナタを遥かに超える神霊が一枚噛んでいるのですから」
どこか、何かを期待するようにして投げかけられた問いに、ジャガーマンは首を傾げた。 何故そんな事を聞いて来るのかが不明とばかりに。
「え、私は別にその辺は特に心配してないけどニャー」
「それはまた、なぜでしょうか?」
「だってここにいる全員が立場は違えど、誰かを導いてきた人たちでしょう?」
Q1.マスク・ド・ルカンの仮面の効果について
A.装着者の脳に洗脳を掛けて脳のリミッターを外部より無理矢理解除。 更に身体強化の魔術を掛けて身体能力を限界以上に引き上げる。
そんなことをすれば当然肉体への負担は大きく、身体組織はズタズタとなる。仮面の装着中はその肉体の崩壊を防ぐ意味も兼ねて肉体強化を魔術によってしているが、外した後はその魔術も解けて凄まじい反動が装着者を襲う。
喩えると、仮面によって無理矢理ドラゴンボールの界王拳を使わされるような状態へとなる。
外部から無理矢理リミッターを外させるあたり、リボーンの死ぬ気弾の方が近いかも。
作中で述べていたように、ギルガメッシュが弟くんにこの仮面を渡したのは、崩壊世界に満ちた神秘を深く馴染ませて、現状の弟くんの肉体を無理矢理作り替えるため。
残念だったね弟くん。 君、近いうちに恐らく本当に人間をやめるはめになるよ……
Q2.イタズラ好きなロクでなし?
A.
???「あー……私のことばれちゃった? と言うか、もしかして何も言わずに仕事押しつけたの怒ってるかな?」
Q3.今回の話はギルガメッシュの目的の説明回?
A.正確には、ギルガメッシュの
またまたギルガメッシュさん、嘘は言ってないけど隠し事はしてます詐欺スタイルを敢行中。
例えば、例の女神様との敵対した際の勝算とか。
Q4.弟くんを導く?
A.ちょっと先の話ですが、天草やジャガーマンを筆頭にヒーローショーでの師匠役を彼らは必死に集め、弟くんを(本人の知らぬまま)鍛えあげていきます。
次の話辺りで誰がくるのかおまけ程度に描写しようかな
Q5.ジャガーマンについて
A.マスターとの絆を縁に現界し、当初は東京駅を『ここは都会のジャングル! ジャングルとはこれ即ち私のテリトリー!迷宮の間違いでは、だと?どっちも似たようなものだこの愚か者めがー!』などと無茶苦茶な拡大解釈をかましてマスターを説得(?)して根城としていた。そこまでにしておけよ藤村
しかし諸事情で根城を捨て東京駅より脱出。マスター共々放浪の身となっていたところ、たまたま出会ったケツァル・コアトルにシルク・ドゥ・ルカンの事を聞き、マスターの保護とヒロインショーのヒロインになりたいがために子ギルの元を訪ねる。
尚、ヒロインショーの方については本文で述べた通りである。
ジャガーマン「ちなみに現在私がヒロインの崩壊世界シリーズを執筆してくれる方募集中です! 別に既存の崩壊世界シリーズ作者の人でも問題ナッシング。 特に何か含みがある訳では無いけど、私は狂化スキル持ちです! いや別にだから何って話とは思うでしょうが、狂化スキル持ちなんです!!」
Q6.天草四郎について
A.彼もまた彼のマスターとの絆を縁に現界。
マスターを守るために現界してはいるが、自身の宿願を捨てたと言う訳ではない。
マスターである女性はそれを理解しているし、それどころか彼女は天草の為ならば己が命を捧げることすら容認していると言う、まさかのサーヴァントではなくマスターがヤンデレスタイル。
現在はマスターとセミラミスと共に孤児院を営んでいる。 セミラミスとマスターに子どもたちを見てもらい、天草は外で金策を行っている。
次回はシリアスな閑話を挟み、その後他作者様とのコラボ話を投稿予定です。
しかし、私って本当にシリアス苦手なんだなーって……うーん、上手く書けたか不安だ……