※この作品はR-18です。

崩壊した世界で水着ジャンヌに弟にされるだけの話   作:アルテマ

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お久しぶりですみなさま、アルテマです。

ボックスガチャとか、短編小説書いてたりとか、仕事が繁忙期とか色々重なってこんなに投稿遅れちゃいました……



前回までのあらすじ


ジャガー「私にいい考えがある!」


オーナー(なんだろう、何故か怖気が……)


弟くん特訓計画 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」

 

 

 両脚に力を込めて地面を蹴り出し、全速力で疾走する。

 重労働を課せられている両足がエネルギーをよこせと心臓に要請し、心臓もまた供給が追い付かなくなってきている酸素を急いで取り込もうと肺を急かし、呼吸を荒くする。

 急激に稼働し熱を放つ肉体に汗が噴き出すが、それを鑑みて休む暇など今の僕にありはしなかった。 だって少しでも休もうとすれば、迫る脅威に対応が出来ない。

 

 

 現に今この時も何か嫌な直感を感じ取り、今すぐその場から離れろと叫んでいた。

 

 

「……ッ!」

 

 

 頭上より飛来してきた、雨の如き刃物の掃射を地面を強く蹴り上げ横飛びで近くの壁へと退避し難を逃れる。

 自身に迫っていた凶器が自身に突き刺さらなかったことに安心する暇もなく、壁を迂回するようにして飛んできた刃を視認し、咄嗟に身を捩ることで回避を試みる。

 胸の中心に迫っていた切っ先は僕が身に纏っている魔術礼装を少しばかり破るも、その鋭利な先端部が僕の体を傷つけることはなかった。

 

 

『よい反応です。

 遮蔽物へと退避した直後にやや油断していたのは減点ですが、奇襲に素早く対応して最小限の動きで回避したのは見事です。

 正直、今のを避けられるとは思ってもいませんでした』

 

 

「ひょっ、評価の詳細を述べるならっ、攻撃を止めてからにしてくれませんか!?」

 

 

 片耳に嵌めたイヤホンから聞こえてきた、教師然とした声音の意外と言わんばかりの賛辞は普段であれば素直に喜び礼を返すのだが、尚も続く全方位からの刃の嵐に悲鳴をあげるばかりで、礼を述べる余裕まではとてもなかった。

 しかしどうにも相手側からすると、今の僕にはまだ余裕があると見えたようであり

 

 

『どうやら、まだ返答をする程度の余裕はあるのですね。

 それでは黒鍵の数と同時攻撃方向を増やすとしましょう』

 

 

「いや、無理です! これ以上はホント厳しいです限界です!

 さっきから結構刃が体を掠めていますし、別方向からも飛んで来たら対応出来ません!!」

 

 

『限界と言うのものが本人にも分からぬと言うのは英霊であってもよくあることです。

 それを見極める手伝いをするために、私は今貴方に教導をしているのです。

 さあこれより飛来する黒鍵が増えますよ。 回避する際は黒鍵の飛来方向の見極めとタイミングを考えて行うように』

 

 

『さぁ少年よ、今こそ限界を超える時だ!

 若い時の苦労は買ってでもせよと言う言葉に従い、この地獄を乗り越えてあの赤い夕陽に向かって走り続けろ!

 キミの青春のためになるのならこのジャガー、一時の恨みは忘れてやろうではないか死ねニャオラァアアアア!!』

 

 

 

「いやぁぁぁああああ!!」

 

 

 僕の必死の嘆願は無慈悲な宣告と合わさってバッサリと切り捨てられ、どう聞いても根に持ってそうな声色の持ち主の声に反論する間もなく、再び迫ってきた黒鍵と追加で投入されたコンクリートの破片に悲鳴を上げながら、避け続ける。

 先ほどから同じことを繰り返し、攻撃を躱し続けていた僕だが、既にどれくらいの間そうしていたのか判別もつかない。

 全く以て勢いの衰えず、絶えることなく振り続ける物理的な雨を必死に躱しながら、何故こんなことになっているのか、どうしてこんなブートキャンプを超えた何かのようなことをしているのかについて、僕は今朝方にあった出来事について思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんビーム!!」

 

 

「開幕から酷い出落ちやめて!?」

 

 

 朝食後の紅茶を嗜んでいる中、不意打ちで放たれたパステルピンクの洗脳光線を椅子から転げ落ちるようにして避ける。

 カップを丁度ソーサーに置いていたので幸い紅茶を零すようなことはなかったが、静かに紅茶の香りと味を楽しんでいる中で雰囲気ぶち壊す凶行をやってのけた姉を名乗る不審者は僕がビームを避けたことに関して大変ご不満な様子であった。

 

 

「ちょっと酷いですよ弟くん! 久しぶりのお姉ちゃんビームを避けちゃうなんて、反抗期なんですか!?」

 

 

「いや反抗期じゃなくても誰が好き好んで洗脳ビーム受けたがる人がいるの!?

 と言うか仮に僕に当たったとして、一体何をするつもりだったのさ!?」

 

 

「それは勿論、弟くんをいっぱい可愛がるつもりでしたよ。

 そう、可愛い弟くんを見せてもらうために、いっぱい……♡」

 

 

「ど、どっちの意味での可愛がりなのかは置いておくとしても、そんな時間かかるようなことしてたらスケジュールずれ込むからやめてっていつも言ってるよね!?」

 

 

「弟くんを可愛がる以上に優先順位の高いスケジュールなんてありませんっ!!」

 

 

「えぇ……」

 

 

 朝からギラギラした目つきになっているジャンヌの熱弁に困惑のため息を零す僕。

 こうしてジャンヌが僕にビームを打っては僕は避け、ジャンヌに苦言を呈すのは今に始まった事じゃない。 毎日毎日、僕が食事中だろうが仕事中だろうが休憩中だろうがゲーム中だろうが入浴中だろうが、ジャンヌはお構いなしに洗脳しようとしてくる。

 当然僕はそれを素直に受け入れるようなことはせず、抵抗して逃げるようとするのだが逃走成功率はお察しである。

 

 

「あはは、今日もお2人は姉弟揃ってお元気ですね。

 ほんと、毎日見てて飽きないですよ」

 

 

 などと、今も僕を捕らえようと迫ってくるジャンヌから逃げる僕と言う構図を目にしながら、優雅に朝食を摂っているスポンサー殿は、そんなことを口にしていた。 食べている物は高級フレンチとかそう言ったものではなく、ハムエッグと言う庶民の朝食メニューだと言うのに、食事をする姿が気品に溢れすぎていて、その空間のみが高級レストランに見えてしまいそうになる。 それは僕とジャンヌの鬼ごっこをしている最中でも変わらずだった。

 

 

 普段食事をスポンサーであるギルさんと一緒にすることはあまりない。 朝食はジャンヌと2人っきりですることが殆どだ。

 食事に誘うのが殆ど向こうからと言うのも踏まえて、こうしてギルさんと食事を共にするときは大抵向こうが僕かジャンヌに用事があるということなのだが、この子ども愉悦王は僕がジャンヌに襲われている様子を食事中だろうが用事があろうがそれを後回しにして楽しむのである。

 

 

 現に今も上品にデザートのヨーグルトをスプーンで口に運び、必死でジャンヌの魔の手から逃れようとする僕を、彼はニコニコと楽しそうにこちらを見つめている。

 

 

「あの、当事者の僕としては笑っていられる状況ではないので助けて欲しいのですけど!」

 

 

「嫌です」

 

 

「即答!?」

 

 

「だってこんなに面白いものが近くにあって、見ないでいるのはもったいないではないですか。

 ボクは見たいテレビ番組は撮っておくだけでなく、放送時間中にも見ておきたい人なんです」

 

 

 一縷の望みで求めた助けもバッサリと断ち切られ、妙に俗っぽい喩えを返すギルさん。

 ……まさかとは思うが、僕への用事は二の次であって本当に僕がジャンヌに襲われているのを面白おかしく見物するのが目的なんじゃなかろうな……?

 

 

 疑惑の視線を向ける僕に気づいているのかいないのか、朝食を済まし食後のティータイムへと移行し始めたギルさんは言葉を続ける。

 

 

「さて、お2人ともそのままで良いですから聞いてください」

 

 

「え、このまま!? 普通止めませんか、と言うか僕が止めてほしいんですけど!?」

 

 

「本日のイルカショーは午前中のみですが、その後にあなた方に……と言うよりはオーナーさんにやっていただきたいことがあるのです」

 

 

「スルー!? ここに来てそんなスルースキルを発動させないでくださいよ!」

 

 

「弟くん、お姉ちゃんはオトウトニウムの充電がまだ足りていません!

 早急に充填しなければお姉ちゃんは死んじゃいます!」

 

 

「のわぁぁぁああああああ!?

 ちょ、ほんと勘弁してぇえええええ!!」

 

 

 遂にジャンヌに捕まってしまい、馬乗りしてくるジャンヌの両手を掴み抵抗するも、ジャンヌはサーヴァント。

力の均衡が崩れるのはあっという間である。

 そしてそんな僕の姿を見ても傍観どころか、見世物として楽しむギルさんは全く構わずに続ける。

 

 

「詳細は後ほど現地でお伝えしますので、午前中のショーが終了次第、指定した地点に向かってください。

 ……あぁそれと、アナタ1人でその場所に行ってくださいね。 お姉さんとの付き添いは今回は禁止です」

 

 

「え、えぇぇええええ!?」

 

 

 ここに来てギルさんに対して全く無反応だったジャンヌであったが、付き添い禁止の言葉が流石に聞き捨てならなかったのか、酷く驚き僕を押さえつけたまま……と言うか、強引に抱き着いて、そのままギルさんのところにまで詰め寄った。

 

 

「それはどういうことなんですかギルくん!?

 私から弟くんを引き離すだなんて酷すぎますよ!」 

 

 

「別に二度と会えなくなる訳でもないですよ。

 今回彼に頼みたいことは、アナタが一緒にいては意味がなくなってしまいますから。

 ショーの時も、必ずしも彼が壇上に上がっているとは限らないでしょう?」

 

 

「ショーは弟くんの願いのためにやっているのであって、本当はいつも一緒にいたいんですよ!

 嫌です嫌です嫌です嫌ですーー!! お姉ちゃん弟くんと片時も離れたくないですーー!!」

 

 

「……いやぁ、愛されてますね」

 

 

「あの、そんな意味深な笑みをこちらに向けないで欲しいのですけど……」

 

 

 僕を抱きしめる力を強め、首をにブンブンと横に振り回して駄々をこねるジャンヌを見て、外面はニコニコと爽やかな笑顔だが、内面は確実に愉悦前回なニヤニヤとした笑顔をこちらへと向けるギルさんに、なんとも反応に困る。 どちらにも。

 

 

 しかしジャンヌはこう見えて結構、というか、かなり頑固な性格をしているから1度こうなってしまうと梃子でも動かない。 それは今日までジャンヌと過ごしてきた日々からよく分かっている。 ジャンヌはこちらから譲歩しない限り、自分の意志を曲げるようなことはまずしない。

 

 

 ……とりあえず、ギルさんに対してこちらの意思表示くらいはしておこう。 気になる点もあることだし。

 

 

「別に僕自身は1人で行くことに特に反対とかするつもりはないですけど、どうしてこの場で事の詳細について伝えてくれないのですか?

 せめて何をさせようとしているのかくらい説明してくれてもいいじゃないですか」

 

 

「別に説明してもよいのですが、これを聞いたらきっとアナタのことですから逃げると思いまして」

 

 

 それを聞いて逃げ出さないと思っているのだろうか? 僕は訝しんだ。

 

 

「……すごい嫌な予感してきたので逃げてもいいですか?」

 

 

「その場合こちらの録音機のデータをSNSに流すことになりますがよろしいので───」

 

 

「行きます行きます行かせてくださいお願いします!!」

 

 

 逃げ場がそもそもなかったよ……(諦観)

 

 

 握られた弱みを突き付けられ、あっさりと駆け引きはこちらの完敗で終わってしまった。 あんなものがネット上に流れてしまったら僕の社会的生命は致命傷を負ってしまう……!

 と、致し方なくギルさんのお願いを通り越した脅迫を受け入れることにしたのだが、それに対してもまたジャンヌが酷くショックを受けたような声を上げる。

 

 

「えええええええええ!?

 そんな、弟くんもお姉ちゃんと離れ離れになることに賛成なんですか!?

 やっぱり弟くん反抗期なんですか!? いくら反抗期だからって、そんなのあんまりですよぉ!」

 

 

「いや、そんな大袈裟な……さっきギルさんも言ってたけど、ショーの時だっていつも一緒にいるって訳でもないんだから、ちょっとの辛抱だよジャンヌ」

 

 

「いーやーでーすー!! 今日の午後はずっと可愛い可愛い弟くんをいっぱい可愛がるって決めてるんですー!!」

 

 

「え、えぇ……僕としてはこの要請に応えないと社会的信用を失くして外に出歩けなくなっちゃうんだけども……」

 

 

 余程僕と離れるのが嫌なのか、尚も僕を抱きしめたまま幼児退行までしているジャンヌをどう説得すべきか分からずに困り果ててしまう。

 ……完全に余談だが、ジャンヌにこんなに駄々をこねるほどまでに思われていることは嬉しいと思ってしまった。 本当に余談であるのだが。

 

 

「まあまあ、落ち着いて。 この話はアナタにとってもそう悪くはありませんから」

 

 

 と、場が完全に硬直状態に陥っている中で助け舟を出したのはギルさんであった。

 ギルさんが涙目なジャンヌの傍に近寄ると、ジャンヌは弱弱しい声でギルさんへと問うた。

 

 

「なんですか、私にとっても悪くないって……。 弟くんと一緒にいられる以上に良いことなんてありませんよ……」

 

 

「それは重々承知してますし、それを踏まえてですね……あ、ちょっとオーナーさんの耳を塞いでいただけますか?」

 

 

「? はい、分かりました」

 

 

 何やら怪しい雰囲気のギルさんがジャンヌに僕の耳を塞ぐように指示を出したのを受け、ジャンヌは僕を後ろから抱きしめていた手を離し、そのままくるりと僕を回転させて正面から向き合う体勢へと変えてきた。

 

 

「え、ちょっと、いきなりなにをむぶっ!?」

 

 

 僕のジャンヌの意図を問う言葉は途中で中断を余儀なくされた。 なぜならば、ジャンヌは再び僕を抱きしめ、僕の頭を掴み胸の谷間へと押し込んできたから。

 

 

「あの、それで私にとっても悪い話ではないと言うのは……?」

 

 

「それはですね、実は彼にやっていただきたいことというのが──」

 

 

 強く僕の事を抱きしめるジャンヌとギルさんが何かの会話を始めているが、耳まですっぽりとジャンヌの胸に包まれてしまい、聞きとることが出来ない。

 よしんば聞きとれたとしても、まともに脳が処理をしてくれたかもわからなかった。

 

 

「ん、む、むぅぅううううう!」

 

 

 左右から押しつけられるもちもちした柔らかい感触と人肌の温もりを持つそれの母性からくる安心感から脱力すると同時に、性欲を煽るそれは力の抜けた僕の理性を浸食していく。

 抜け出そうにもサーヴァントであるジャンヌの拘束を押しのけるような筋力は僕にはなく、くぐもった声を漏らすことしか出来ない。

 辛うじて呼吸する道は出来ており、窒息することこそないが、呼吸するたびにジャンヌの胸の中の甘い香りが肺に満たされていき、ますます自身の中のやましい気持ちが膨れ上がっていってしまう。

 

 

「───と言う訳です。

 確かに一時的にアナタの弟である彼と離れる措置となってしまいますが、その分結果的にご一緒にいられる時間も確保できるという寸法です。

 それにボクの頼んだ用事が済んだ後であれば、彼を好きにしてもらって構いませんので」

 

 

「む、今のは聞き捨てなりませんね。

 弟くんはお姉ちゃんの弟くんなんです。 決して貴方の物ではないですよ」

 

 

「これは失礼。 そう言う意図で言ったつもりはなかったのですがね」

 

 

「……ハァ、分かりました。 非常に不服なのですが、弟くんのためにもなるのであれば私もある程度は我慢します……」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「あ、終わりましたよ弟くん。

 急にビックリしましたよね、ごめんなさい」

 

 

「あ……」

 

 

 いつの間にか話は終わっていたのか、ジャンヌは抱きしめたままではあるが、ひとまずは僕を胸の谷間から解放はしてくれた。 息苦しさはなくなったと言うのに、意図せずして名残惜しむような声が漏れ出てしまった。

 しまったと思いつつ、恐る恐る僕を見つめるジャンヌの顔を見やれば、色気の滲んだ怪しげな笑みを浮かべ、目の前にご馳走が現れたと言わんばかりに舌なめずりをしていた。

 

 

「おやおや……それではボクはこれで失礼します。

 用件は済みましたし、どうやらお邪魔虫のようですからね」

 

 

 ギルさんも僕の様子を察したのか、そそくさと部屋を出ていってしまう。 今すぐ引き留めなければこの後何をされるのかは分かりきっているのに、僕の体は全くもって動こうとはせず、そうこうしているうちにギルさんは部屋の外へと出て、後ろ手で扉を閉めていってしまった。

 

 

「ふふ、もう弟くんはしょうがないですねー。

 ……お姉ちゃんのおっぱいに包まれて、ムラムラしちゃったんですよね?」

 

 

「ッ……」

 

 

 部屋に僕とジャンヌしかいなくなった瞬間、ジャンヌはこしょこしょとかすれた声で僕の耳へと囁く。 吐息と共に伝わったその言葉に反論は出来ず、息が詰まったような声が漏れた。

 図星を誤魔化すように視線をジャンヌから背けるが、赤くなった顔を隠せているようには自分にも思えなかった。

 

 

「あ……♡」

 

 

 ジャンヌはそのまま僕をお姫様抱っこで持ち上げ、部屋にある大きめのソファへとそっと寝かした。

 先ほど漏れたものとは違う、呆然としたものと期待の入り混じった声がついつい出てしまった僕の上に覆いかぶさるように、ジャンヌもまたソファへと上がる。

 この状況で四人座ろうと余裕のある大きさのソファで僕たちがすることなど決まっているようなものだった。

 

 

「んふふ……ショーが始まるまで余裕はありますから、オトウトニウムの補給も兼ねてお姉ちゃんとい~っぱいイチャイチャラブラブしましょうね、弟くん♡」

 

 

「あ、う……」

 

 

 このまま流されてはいけないと、なけなしの残った理性がか細く叫んでいるが、体は一向に動こうとはしてくれず、ジャンヌを押しのけるべき手はソファへと投げ出されたままだ。 まるで肉体は流されることの何が悪いのだと訴えているようで、その叫びは理性よりも遥かに強く、魅力的だった。

 そうして理性と本能の争いなんてしてしまえば、迷っている間をジャンヌは待ってなどくれない。

 

 

「んっ……♡」

 

 

 唇と唇が重なり合ってしまえば、もうその争いの結果は無意味となる。 理性も本能も何もかもが蕩けるように崩れ落ち、ただただ目の前で目を閉じて体を押しつけ誘惑してくる彼女に堕ちていく。

 

 

 そうして流されるがまま、今日も僕はジャンヌお姉ちゃんに溺れてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局時間が許す限りジャンヌに溺れて絞られて、朝から激しく消耗したために眠ってしまっていたようで、僕が目覚めたのはギルさんに指定された時間の1時間程前であった。

 ジャンヌと体を重ねていた部屋のソファではなく、自室のベッドで寝かされていた僕はわざわざ僕たちの部屋にまで僕自身を運んでくれた人に、気遣いへの感謝とそもそもの原因であることへの文句などなど、複雑な感情を抱きつつもそそくさと着替え、指定された地点へと向かった。

 

 

「ここで合ってるはずだけど……」

 

 

 指定されたのはシルク・ドゥ・ルカンのスタジアムより、そこそこ歩いた場所にある廃墟だった。

 世界が崩壊して間もないころはこの廃墟には何人もの難民が身を寄せ合っていたのだが、シルク・ドゥ・ルカンの難民への援助の一環で住居の提供をするようになってからは、ここは住み着いていた人は勿論のこと、近づく人もほとんどいない区画となった。

 一応警備エリアの中に入っている区画なので、モンスターが住み着いているようなことはないのだが、未だ再建等の手は付けられていないのがこの廃墟だ。

 シルク・ドゥ・ルカンでも出入りは原則禁止であると通達しているし、今にも崩れそうな場所へとわざわざ向かう人もいないために、まず人が寄り付くような場所ではないのだが……

 

 

『指定した場所の廃墟にアナタも知っている方たちがいますので、その方たちから詳細を聞いてくださいね』

 

 

 そうギルさんに指示されたことを思い返し、キョロキョロと辺りを見回すも、見る限りでは待ち人どころか人っ子1人いるようには思えなかった。

 腕時計を確認しても指定の時間が間近であるのに対し、人の気配は全く感じられない。 首を傾げ、どうするべきかと悩み始めたころだった。

 

 

『誰もいないなーだなんて思っていたのか? 愚か者め! たとえ閑古鳥が鳴く廃墟だろうが、そこが人をさまよわせる迷宮(ラビリンス)ならば大自然の迷宮ジャングルと同義!

 であるならば、この都会のジャングルにおいて閑古鳥が鳴くのではなく、ジャガーが吠えるのは必然であるのだー!!』

 

 

「!?」

 

 

 どこからともなく聞こえてきた叫び声に驚愕し、声の主を探さんと辺りを見回す。

 無駄に陽気な声で場を引っかき回すのが如何にも得意そうな、意味不明なことを喚く何者かは瓦礫だらけで今にも崩れそうな廃墟を身軽に跳ねまわり、必死に視線だけでも追いつこうとするも捉えられるのは残像ばかりで全く追いつけない。

 

 

 そんな翻弄されっぱなしの僕を見て満足したのか、はたまた飽きたのかは分からないがやがてその影は僕の頭上を飛び越えて、空中で回転しながら全く危うげなく地面へと着地し、振り向きざまに叫ぶ。

 

 

「誰が呼んだか? 俺が呼んだぜ!

 呼ばれてなくても華麗に推参、ジャガーーマンッ!!」

 

 

 背後に爆発のセットが似合いそうなポーズを決める、ジャガーの着ぐるみパジャマのようなものを身に纏った女性。 呆気を取られる僕であったが、どう見てもみょうちきりんな不審者としか言いようのない彼女を僕は知っているし、一応知り合い程度の関係の相手である。

 

 

 ジャガーマンと名乗った彼女は、見た目と言動こそイロモノであるが、立派なサーヴァントである。 それも神霊サーヴァントと呼ばれる神としての力を一部ではあるが振るえる稀有なサーヴァントだ。

 本来はサーヴァントとしては現界が出来ない彼らが現実にサーヴァントとして現界出来ているのは、その力をサーヴァントの器に収められるレベルにまで下げているから、とのこと。

 その中でもジャガーマンさんは相性が良い人間を依代に神の力の一端を降ろし、サーヴァントとして現界している、孔明さんと同様の疑似サーヴァントであるのだ。

 

 

 端的に言ってしまうと、こんな見た目であるが実は凄いサーヴァントなのである。こんな見た目であるが。

 

 

「いま、私のジャガーセンサーがすっごい反応したんだけど、何か失礼なこと思わなかったかい少年?」

 

 

「い、いえ気のせいですよ気のせい!……あの、ジャガーマンさんがギルさんの言ってた、僕に頼みたいことの詳細を知っている方なのですか?」

 

 

 一見ふざけた調子でも、鋭い眼光で見られたような気がして急いで弁明して話を逸らすためにもこの場にいると言う待ち人が彼女であるかを確認する。

 しかし、返答が返ってきたのは彼女からではなく、僕の背後の廃墟の方からであった。

 

 

「ええ、その通りですよオーナーさん。

 厳密には、私も含めてなのですが」

 

 

 声のした方へと振り向けば、修道服に赤い外套を身に纏い、白髪の褐色肌でありながら日本人系の顔と言う目立つ出で立ちの青年が廃墟の陰から姿を現した。

 彼もまたジャガーマンさんと同様、見知ったサーヴァントであったので挨拶を返す。

 

 

「あなたもこちらにいらしていたのですね、天草さん。 いつもお世話になっております」

 

 

「ああ、これはご丁寧にありがとうございます。

 思えば最初の挨拶以降、こうして面と向かって会話をすることはなかったかもしれませんね」

 

 

 人当たりの良い笑みを浮かべて丁寧に返す彼の真名は、天草四郎時貞。

 ジャンヌと同様(最も、今のジャンヌはアーチャーであるのだが)、エクストラ枠であるルーラーのクラスで現界しているサーヴァントである。

 一見礼儀正しい方に見えるが、その実一癖も二癖もあるサーヴァントたちと比較しても、背負っている業や因縁は深く根強い。

 そしてその因縁は違う国、違う時代に生まれた者であるジャンヌともあるのだが……

 

 

「このパチモンシロウとジャンヌちゃんの因縁が知りたいのなら、【Fate/Apocrypha】のアニメか小説、漫画を見てみよう!

 ジャガー的には、加筆修正がされてボリュームの増した文庫版がオススメだぞ! さあ今すぐ書店へGOGOGO!」

 

 

「ステマどころかダイマ通り越してメタマーケティングするのはやめてください、ジャガーマン」

 

 

「メタじゃないしー、ここの世界観的に【Fate/Apocrypha】は勿論、超絶美人教師のヒロインがいる【Fate/stay night】があるのは全然不自然じゃないですー!

 はい? 美人教師との攻略ルートは存在しない? ゲーム内じゃなくてみんなの心の中にあるんだよ察しなさい!

 あと、少し前にSNSで出回っていた打ち出の小槌ネタに便乗して、タイガーをぜっちゃんに戻そうぜとかって考えた奴! よく分かってるな、今すぐ道場の裏に来たまえ! 死ぬほど可愛がってあげようじゃないか、文字通りな!」

 

 

 天草さんが物申したいのはそういうところなのではないだろうかと心中で思ったが、下手なことを口にするとこちらにも飛び火することを確信したので押し黙った。

 天草さんもまたジャガーマンさんに構っているといつまで経っても話が終わらないことをいい加減悟っているのか、それ以上ジャガーマンさんのメタ発言に苦言を呈すようなことはせず、ため息を1つ吐くだけに留めていた。

 

 

 僕の目の前にいる2人のサーヴァントは、先日行ったヒーローショーにおいて実況と解説役を引き受けてくれた方たちだ。

 この2人を起用したのはギルさんではあるが、名目上オーナーである僕は彼らに最低限挨拶を交わしてはいるため、知り合い程度ではあるが面識があった。

 その時は時間がおしていた……と言うよりは、同席していたジャンヌと天草さんを同じ部屋にいさせるのはあまり彼らのお互いの関係上よくないと思い、あまり多く話し合うようなことは出来なかった。

 

 

 ともあれ、ギルさんの言っていた通り僕の知る人がいたのであれば問題はない。

 これ以上脱線しないためにも、恐らくこの場で事情を知っており、唯一まともな説明をしてくれそうな天草さんへと話を振り、かじ取りをしようと僕は試みたのだが……

 

 

「話は戻しますけど天草さん。 結局僕がやるべきことってギルさんから何か聞いていますか?

 なにぶん、ギルさんの口から事の詳細を聞けていないので、僕はここで何をすべきなのかを把握していないんです」

 

 

「ああ、それはですね───」

 

 

「不意打ちのジャガー・パンチィィイイ!!」

 

 

「ほぁああああああああ!!?」

 

 

 説明をしようとしてくれた天草さんに割り込み、唐突に僕へと肉球付きの棍棒を振り下ろしてきたジャガーマンさん。

 あまりにも脈絡のなさすぎる奇襲に心底驚き、イルカショーの常連であり出禁である某青髭のような叫び声をあげながらも回避し、下手人へと抗議の声を上げた。

 

 

「な、何をするんですか急に!?」

 

 

「ええぃだまらっしゃい若造が!

 聞けばいつでも答えが返ってくるなどと思うなよゆとり世代め! もう尺が迫っている点も含めて説明などするつもりはない!

 貴様は今はただ、このジャガーの攻撃から逃れ続ければいい! それが貴様の今するべきことなのだ!」

 

 

 何故か奇襲をしてきた側から怒られると言う割と理不尽な事態に直面し、眩暈がする。 ああ、これはもう何を言ってもダメだと早々に悟り、助けを求めて天草さんの方へと向き直る。

 

 

「あ、天草さん! このランサーを名乗るバーサーカーをなんとかしてください!」

 

 

「無理です」

 

 

「即答!?」

 

 

 ノータイムで良い笑顔と共に帰ってきた返事に絶望する。 気のせいだとは思うのだが、今天草さんが浮かべていた笑みはギルさんのそれと似ていたような気がした。

 分かりやすく僕の絶望が表情に出ていたのか、見かねたようにジャガーマンさんの奇行について説明を始めた。

 

 

「一応フォローしますと、今のジャガーマンの行動はやりすぎなところもありますが、彼女の言ったことについて間違いはありません。

 貴方にしていただくことは至極単純です。 私とジャガーマンの攻撃を体(・)力(・)の(・)続(・)く(・)限(・)り(・)避(・)け(・)続(・)け(・)て(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)」

 

 

「……はい?」

 

 

 今からあなたに危害を加えますよと、言外どころかハッキリと口にされて呆然とし、間抜けな声が漏れた。

 そんなフリーズ状態の僕に天草さんは歩み寄ると、僕の耳に何かをセットした。

 

 

「こちらからの指示などに関しましては、このイヤホンを通して行いますので外れないように気をつけてください。

 ……さて、そろそろジャガーマンが待ちきれそうにありませんので、ぼちぼち始めていきましょう」

 

 

「ヌハハハハハハハ! 今宵の我がジャガー・パンチは血に飢えてるぜぇ! クケケケケケ!」

 

 

 若干血走った目で棍棒をブンブン振り回すジャガーマンさんに、修道服から十字架を模した作りの黒い剣、『黒鍵』を取り出す天草さんにようやく今自分がどういった事態に直面しているのか現実を受け入れ、同時に向こうが本気で僕に対して攻撃をしてくるのだと理解が出来た。

 しかし、理解が出来たからと言って納得がいくのかどうかは別の話である。 いったいどこにいきなり“今からあなたに攻撃するから避けてね”と言われて納得の出来る人間がいると言うのだ!

 

 

「い、いや、いやいやいやいやいや!

 ちょっと流石に説明端折り過ぎていて僕が今からすべきことっていうかされる仕打ちについてにしか把握できてないんですけど!

 せめて何が目的なのかくらいは答えてくださいよ!!」

 

 

「目的、ですか。

 そうですね……」

 

 

 天草さん顎に手を当てて少しだけ考え込む仕草をした後、すぐに手の平をポンと叩きこう口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローショーの演出指導及び訓練、ですかね」

 

 

「そうだぞ少年! これは紛うことなき演出指導!

 だから安心してこの訓練に臨むがいいぞ!

 それはそれとしてジャガーの恨みをその身で受けて死ねニャァアアアアアアア!!」

 

 

「こんな殺意マシマシの演出指導なんていやぁああああああ!!」

 

 

 あまりの仕打ちにあげた悲鳴は悲しきかな、足元で木っ端微塵に砕かれたアスファルトの破砕音で掻き消されてしまった。




姉「弟くんが傍にいなくて寂しいです……(弟くん人形を抱きしめながら)」



Q1.演出指導及び訓練?

A.当然建て前です。 ざっくり言えば弟くんを鍛えるためですが、本人は例の身体強化を施す仮面の副作用を勘違いしているので、必要以上に仮面に頼らぬようにとかっていう思惑もある。


Q2.天草とジャンヌ、引き会わせて大丈夫だったの?

A.監獄塔でも共闘はしていましたし、特に問題はないでしょう。
 そもそもこ(・)の(・)ジ(・)ャ(・)ン(・)ヌ(・)は天草と敵対することもないでしょうし。


Q3.ジャガーマンがうるせぇ

A.ジャガーマンなので……


Q4.ジャガーマンがメタい

A.ジャガーマンなので……


Q5.ジャガーマンが殺意濃すぎる

A.ジャガーマンなので……(詳細は次回の本文で語ると思います)

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