「おまたせ~紗夜ー」
濡れた赤茶色の髪をバスタオルで吹きながら、今井リサはバスルームを出た。部屋中を徘徊していた氷川紗夜は、ハッとして立ち止まった。
「いや~スッキリしたー」
リサは部屋の中央のシングルベッドに腰を下ろす。
「紗夜。どうしたの?ほらここ」
隣のスペースをぽんぽんと叩き、立ち尽して見詰めてくる紗夜を座るよう促す。
「ですが今井さん、その…」
紗夜はしかし、そこへ腰掛けることを躊躇った。
「いいから、ほらっ」
紗夜の手を引き、半ば強引に座らせる。
「ん」
それからリサは、紗夜に背中を向けた。
「?――今井さん?」
リサは無言だ。ああ、と紗夜は察する。
「まったく。手間のかかる人ですね」
紗夜はリサが首にかけるバスタオルを手に取ると、彼女の頭を拭いてやった。
「ちゃんと乾かさないと。風を引いてしまいますよ」
「あははー。そしたら紗夜が看病してくれる?」
「体調管理はしっかりしてください。湊さんにも叱られますよ」
「んー」
リサは目を閉じる。
「聞いてるんですか?――まったく」
部屋の浴室に備え付けられていたバスタオル。材質はウールだろうか、厚みがある。リサの洋紅色の髪を、その白が包む。
「――――終わりましたよ、今井さん」
紗夜はバスタオルを手に立ち上がると、浴室の戸を開けて入って行った。しばらくとせずに、ドライヤーを片手に出てくる。枕元のコンセントにプラグを差し込むと、再びリサと向き合った。
「今井さん、何をボーっとしているのです。後ろを向いてください」
「いや、その…それはあたし、自分でやるつもりだったんだけどな」
紗夜は面食らった様子で、上体を少しだけ仰け反らせた。それから咳払いを一つ。
「いいですから。ほら」
紗夜に促され、リサは彼女に背を向けた。紗夜はドライヤーの電源を入れると、リサの髪を掬い熱風に当てた。
髪を乾かし終え、紗夜がホッと吐息を吐く。それから、しばらくリサの髪を見詰めた。
「――――紗夜...?」
ドライヤーをかけ終えたというのに無言のままでいる紗夜を不思議がり、リサが振り返る。紗夜の惚けた視線が、揺れる赤茶色の髪を追った。
「ははーん」
リサがニヤリと口角を吊り上げる。その声に、紗夜がはっと我に返る。
「紗夜~」
「な、何ですか?今井さん」
リサが紗夜の瞳を覗き込む。気圧された紗夜は自身の腰の後ろに手をつき、少しのけぞった。
「ねえ紗夜」
リサが詰め寄る。紗夜は更に大きくのけぞる。限界を迎えた紗夜がベッドに倒れ込む。その上に、リサが覆い被さった。紗夜は顔ごと目を逸らす。ねえ、とリサが声をかけた。
「紗夜?こっち向いて?」
おそるおそる、紗夜が視線を向ける。刹那、リサが唇を重ねた。
リサの唇は温かく湿っていた。突然のことに動揺を隠せなかった紗夜だったが、その温もりにだんだんと平静を取り戻す。シーツの上に投げ出された紗夜の掌をリサが握る。紗夜はゆっくりと瞼を下ろすと、リサの手を握り返した。ゆっくりと、リサが顔を話す。吐息が紗夜の鼻の頭をくすぐった。恍惚の表情で、紗夜はリサを見詰めた。
<紗夜――かわいすぎる,,,ッ!>
二人は再び口づけを交わす。リサの舌先が紗夜の唇をなめる。握る手に力がこもる。紗夜の動悸が服の上からでも伝わってくる。リサは舌先を、更に奥へとねじ込んだ。紗夜は一瞬息を詰まらせるも、リサに応えるように自身の舌を絡ませる。二人の熱い吐息が漏れる。握られた左の手を紗夜が解き、リサの頭に添えた。二人は時を忘れて互いを貪り合った。やがてリサが頭を離す。左手の指の間をさらってゆく髪を眺める紗夜を、リサが見詰める。それに気付き、紗夜も見詰め返す。言葉は交わさなかった。
コツンと二人の額が触れ合い、紅潮した紗夜の熱がリサに伝わる。見詰め合ったまま、リサが紗夜の脇下に手を添える。ピクリと反応する紗夜に愛おしさすら感じる。そのまま腰まで、そっと撫でるように腕を下ろす。骨盤のあたりを掴むと、紗夜は眉を動かした。微かに吐息が漏れる。その様子を見たリサは、指先を腰の内側へと這わせる。紗夜の吐息が次第に強くなる。上着とズボンの間、その隙間に見える肌に指の腹を当てる。臍の下、紗夜が身をよじらせた。吐息はついに、はっきりと聞こえるほどに鮮明なものとなる。
紗夜の蕩けた顔を、リサは今一度観察した。目尻は下がり、口は半開きだ。額には薄っすらと汗が滲んでいる。腹部に当てた指を動かすと、その動きに呼応するように紗夜は目を強く閉じて、小さく顔を仰け反らせた。
〈そろそろ…いいかな〉
頃合いと見たリサは、指先を紗夜の下腹部へとなぞらせた。ズボンの口に引っ掛け、下着の中へと一気に滑り込ませる。紗夜は右手の人差し指を口に当てて軽く噛むと、小さく呻いた。
リサの指先が秘部に触れる。温かく湿っている。
「今井っ…さん………っ」
紗夜が突然、リサの頬に両手を添えた。今度は紗夜からキスをする。手をリサの後頭部へ回し、抱くようにして彼女を貪る。
「ちょ、紗夜…ストップ!」
いきなりのことに驚いたリサは、少し強引に、紗夜から離れた。紗夜の顔の両脇に手を置き、彼女を見据えたまま息を整える。リサもまた、少し息が上がってきている。紗夜はしかし、そんな様子のリサにはお構いなしに再び彼女の頭を抱え、口づけをする。リサが体勢を崩す。紗夜はリサの肩に手をやると、体を起こして押し倒した。二人の位置が逆転した。
「紗夜…………?」
紅潮した頬を照れ隠すように掻きながら、リサは覆い被さってくる紗夜を上目遣いに見上げた。
「今井さん、すみません。もう――我慢できません」
「紗夜、待っ――ンッ」
開きかけたリサの口に、紗夜の舌が侵入する。紗夜はそのまま、リサのパジャマ上着の裾に手を入れた。脇腹のあたりまで服を捲り上げる。紗夜の手がリサの胸に触れると、リサは甘い声を漏らした。完全に二人の形成は逆転している。紗夜は唇を離すと、リサの胸を優しく撫であげた。リサが紗夜の背中に手を伸ばし、パジャマを強く握った。紗夜の肩に顔をうずめ、声を抑えようとする。そんなリサの耳を紗夜は舌先で転がした。
「ン゙ン――」
リサの手に一層力がこもる。紗夜が耳たぶを甘噛みすると、リサは全身を震わせた。
リサの目尻に涙が浮かぶ。紗夜は顔を上げてリサを眺めると、彼女の下半身へと手を伸ばした。
「いま、――駄目ッ――」
ズボンに手をかけると紗夜は、膝のあたりまで下着ごと下ろした。リサの秘部が、橙色の灯りの下に晒される。一筋の糸がしっとりと垂れた。紗夜はリサの潤んだ瞳から視線を外さないまま、彼女の秘部に触れた。
「今井さん…濡れてますよ」
リサからの返答はない。彼女自身、既にそれどころではないのだ。一方、状況が変わり主導権を握った紗夜は少し落ち着きを取り戻していた。
紗夜の中指が侵入すると、リサは大きく息を乱した。その口を紗夜が塞ぐ。指で肉壁をなぞりながら、リサと舌を絡ませる。リサはしかしそれどころではない様子だ。頬を紅潮させ、紗夜にされるがままにある。
紗夜が顔を離す。
「さよぉぉ」
蕩けた表情のリサの頬に手を添え、親指で口を弄る。同時にリサの中に挿れた指の動きを速める。
リサの様子を見て紗夜も興奮状態にあるらしい。リサが激しく喘いでいるのを尻目に見つつも、紗夜の手が止まることはない。
「ン゙ン゙ッ!!――ッ!」
全身を痙攣させながらリサは果てた。
「すみません…今井さん」
紗夜は右手を額に押し当て俯きながら、ベッドの上で脱力するリサに謝罪した。
「また我を忘れて――」
「ま、まあ紗夜、そんなに落ち噛まなくても――あたしは大丈夫だし」
「いえ、それもそうですが。…それ以上に、自分を抑えきれなかったことが情けなくて」
「でもほら、最初に誘ったのはあたしだし。仕方がないよ」
「気を遣わせてしまってすみません」
紗夜は溜息を吐いた。
「ねえ紗夜、こっち向いて」
リサの言葉に紗夜が振り向く。その唇に、リサはキスをした。
「紗夜のそんな部分もあたしは好きだよ」
「今井…さん」
えへへ、とリサが照れ笑いする。
「さ。もう寝よ、紗夜」
おいで。掛け布団を捲ると、リサは隣に紗夜を誘った。紗夜は少し躊躇ったように目を伏せたが、すぐに顔を上げてリサの隣に寝転んだ。
「おやすみ、紗夜」
「おやすみなさい」
枕元のスイッチをいじり、消灯する。
「――――今井さん、私も好きですよ」
しばらくの時間が流れると、紗夜は暗闇の中でポツリと呟いた。返事はなかった。しかしリサの動悸が速くなったことを、紗夜は少しだけ感じ取っていた。