魔導国の王様であられるアインズ様は魔皇ヤルダバオト討伐を目指して、聖王国の使節団と共に旅立ちました。
しかしその数日後のことです。アインズ様はナザリックにてヤルダバオトに扮しているデミウルゴスと密談をしておりました。
これは一体どうしたことでしょう。旅立ったアインズ様は何者なのでしょうか。何故かナザリックにいたアインズ様はデミウルゴスとどのような言葉を交わしたのでしょうか。
事の始まりは、使節団訪問の直前にコキュートスがこんなことを言ったからです。
『アインズ様ガ開眼為サレタラウンドムーンキリングテックヲ越エル剣術ノ秘技。ドウカコノコキュートスメニ御教授願エマセヌデショウカ。伏シテオ願イ申シ上ゲマスル!』
守護者一同非難轟々でありました。
これから聖王国攻略に向けて大切な時期なのに何を言うか。アインズ様にお願いとは図々しいにも程がある。アインズ様にお願いするのだから伏してお願いするのは当たり前、等々。
肝心のアインズ様は何がなにやらさっぱりでありました。支配者ロールで勿体ぶって、いったい何の話だ、と聞いてみると、アルベドから答えがありました。
自身の相談役からアインズ様がラウンドムーンキリングテックなる剣術を越えたとの話を聞き、それをコキュートスに話してしまったがためにコキュートスは思いを抑えられなかったのではないかとのこと。
アインズ様は何やら嫌な予感を抱えたままその場を散会。コキュートスには兎も角後でな、と言い含めておきました。
(私だアインズだ。待て。口を開くなメッセージがあったことを気取られるな。近くに誰かいるか? 人気がない場所へ行け。……移動したか? 周りから見えないところだな? よし、今そっちに行く)
転移の魔法で帝都のお屋敷へ。
「アインズ様が私を呼び止めてお話されたことをアルベド様がお気に為されました。モモン様のことであればアルベド様の注意を引かないだろうと考えた次第であります。その時の話がコキュートス様に伝わるとは思ってもみないことでありました。アルベド様は剣術に興味をお持ちでないと判断しておりました」
アインズ様は思わず額を打ちました。
この男にこっそり弱気を吐露してしまった時のカバーストーリーが巡り巡って自分のところに刺さってしまったようなのです。
「ラウンドムーンキリングテックを越える剣術は我が胸中にございます。如何でしょう。いっそ帝都にお越しになられては? アインズ様としてではございません。モモン様としてでございます。ナザリックの方々には、アインズではなくモモンとして帝都の様子を見聞する必要があったとすれば納得してくださるでしょう。その際はアインズ様の役をパンドラズ・アクター様が担うことになりますので、情報交換を密にする必要がございます。無論、アインズ様のお手間を省くために私も尽力させていただきます。どうやら私は情報の整理を得手としていることに気付きましたところでございまして。魔導国の民へは、アインズ様が不在の今こそモモンとして帝国との誼を結ぶとお話になればよろしいかと。魔導国の中枢に事あった際、帝国は魔導国の民を受け入れるとする約束を結ぶ、と言うことにすればモモン様不在の不安を未来への期待がかき消すことでございましょう」
アインズ様、半信半疑です。
嘘は言わない男と信頼はしているのですが、自分を帝都に招きたいがために甘言を弄しているのではないかと疑問が出てきたのです。
「ここでメイド長をしているシクススたちは役目とは言えアインズ様のお側から離れていることに、言葉にはしませんが寂しさや辛さを感じているようなのです。私の我が儘になりますが、皆の心をお慰めいただければ幸いでございます」
裏も素直に話す男です。
裏を話さずもっとわかりにくい形で陰謀を進められたらと思うとぞっとするのですが、アルベドの手綱を誤らなければ問題ないことでしょう。
パンドラズ・アクター扮するアインズが聖王国の使節団と旅だった後のことです。アインズ様はモモンとして帝国をもう一度見ておきたいとデミウルゴスに相談しました。
デミウルゴスは出来る男です。わかる男です。モモンが魔導国を離れられるのはこの機を除いて他になしとわかっています。魔導国と帝国は蜜月の関係にありますが、それはアインズ様たちが持つ武力を恐れてのことと重々承知の上であります。そのアインズ様と友好の中にも緊張状態にあるモモンの耳には少し違ったものが聞こえてくるのではとも推測しております。
それを実際に見聞きすることが重要なのだとアインズ様が仰るのならデミウルゴスは至極尤もなことでありますと頷く以外にありませんし、デミウルゴス自身もその通りだとは思っております。しかしそうすると、ヤルダバオトとアインズ様がダンスるのが少し先延ばしになってしまいまして、そこが残念なのです。
パンドラズ・アクターと協力して私に相応しい最高の舞台を整えよ!
デミウルゴスは感激しました。
アインズ様は自分でハードルを上げちゃったかなと思わなくもなかったのですが、デミウルゴスを言いくるめるのに他の言い方が思いつきませんでした。
アインズ様は漆黒の英雄モモンとして、美姫ナーベを伴い帝国の帝都へ向かうことになりました。
▼
アンデッド馬が引く馬車なら一晩で帝国に着くが、モモンとナーベが使うわけにはいかない。モモンはいつものようにハムスケに乗り、ナーベは徒歩。
自分は騎乗してるのにナーベを歩かせることに大変抵抗を覚えたモモンは、無理矢理にでもナーベをハムスケに乗せて自分が走ることにした。モモンの中身は体力無限のアインズ様なのである。ナーベの心境を考慮に入れなければ、これが一番早く帝国に着くのだ。
それでもさすがに一晩で到着とはいかない。
一日目の夜は宿場の宿を使い、二日目の夜は野営した。
食事をとらないモモンではあるが、暗くなれば火をおこす。
夜空の下で焚き火を見つめていると、今やアンデッドの身であるアインズにも不思議な郷愁を抱かせた。
乾ききらない小枝が時々パチリと爆ぜて火の粉を散らす。遠くで野鳥が鳴いている。獣もモンスターも近隣にはいない。ナーベラルがウサ耳を着けて周囲を警戒していた。
「私が火を見ている。お前も休んだらどうだ?」
ハムスケはおなかいっぱいになった後、横倒しになってござるござると寝言を言っている。
並外れた体力を持っていても無限大ではないナーベラルである。アインズ様に火の番をさせて自分が寝るわけにはいかない、とナーベラルが思っているのはわかっているアインズだ。厳しい旅でもなし。固持するなら無理を言って休ませるのは止めておこうと考えていた。
ナーベラルはウサ耳を仕舞うと、居住まいを正してモモンに向き直った。
「アイン、モモンさま、ん」
(アインモモンサマン…………、くっ)
妙に韻を踏んでいる。モモンの心にツボってしまった。
もしもモモンに呼吸が必要であったら、盛大に吹き出していたかも知れない。
モモンの心が平静を取り戻そうと大変になっているのに、ナーベラルの顔は真剣そのものであった。
「お許しいただきたいことがございます」
「………………なんだ?」
感情抑制が働かなかったので、アインモモンサマンが尾を引いている。何とか平静な言葉を絞り出した。
「結婚をでございます」
「結婚!? 誰が!? 誰と!?」
今度こそ感情抑制が働いた。
ナーベラルの口から結婚と言う言葉が飛び出すとは、それこそ想像だにしたことがない。アインズの頭部から発した不可視の光は青天の霹靂だったのかも知れない。
「ナーベが、でございます。私はモモンさ……んのパートナーを勤めておりますが下衆な上に口さがない愚者共はモモンさ……んと私の仲を勘ぐることがあるやも知れぬと。私のせいでモモンさ……んのお名前に傷がつくのは許せません。ですが私が結婚をすればモモンさ……んとの仲をそのような目で見られることがなくなるかと思いますので私が結婚をすれば全ての問題が解決すると考えた次第でございます」
「……………………誰と結婚するのだ?」
「それは……」
出てきた名前はアルベドの相談役。
過日、人間への当たりが強すぎるナーベを矯正しようとあの男に任せたことを思い出す。問題は無事に解決したわけだが、その時に必要以上の事があったのだろうか。
「……そいつが好きなのか?」
「まさか! …………はっ!? 申し訳ございません! 失礼いたしました! そのような感情は抱いておりません。ただ、偽装の結婚をするのなら適当な男がその者しかございませんので…………」
「ふーむ……」
人間を見ればシデムシだ、タデムシだ、ガガンボだ、オケラだ、ミミズクは鳥類なので多分言ってない。兎も角悪口雑言が飛び出すナーベラルである。そのナーベラルが偽装とは言え人間の男と結婚。
これはもしかしたら、自分の知らないところでナーベラルは素晴らしい成長を遂げたのかも知れない。
「よかろう。ただし、本人とアルベドの意向を確認してからだ」
「はっ、かしこまりました。ありがとうございます!」
ナーベラルはモモンからは見えないところで堅く拳を握り、小さく振った。
▼
モモンとナーベとハムスケの漆黒の一団は無事に帝都に到着。
漆黒は魔導国所属の冒険者なので、当然のように魔導国の公館となっているお屋敷へ。
上から下まで、それはもう大歓迎された。
帝都に入っての諸々はお屋敷の若旦那様がそつなくこなす。
皇城にもモモン受け入れの文書を送る。社交云々などは全てパス。モモン様はそんなの面倒でやってられないのである。第一時間がない。それでも一度は皇帝に謁見しなければならない。そのあたりは適当にうまくやれと守護者統括の相談役に命じておく。
モモンたちは簡単にカルカを紹介された。
ナーベの顔が強ばるも、モモンは対外的の意味をきちんと把握。視野狭窄に陥っているプレアデスとは違うのだ。まあ適当にうまく使えと言っておく。
カルカからは聖王国をお願いしますと熱心に頭を下げられた。そこはアインズに任せておけば問題ないと答えておく。
カルカを退室させ、お屋敷の三階にある応接間にはモモンとプレアデスの三姉妹と男だけが残った。全員ナザリックメンバーである。
「さて……」
早速本題を切り出そうとしたモモンだが、ナーベから眼力光線が飛んできた。
(モモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話を)
モモン様は無視できなかった。
「ナーベラルがナーベとしてお前と結婚をと言っている。どうだ? 不服か? 何か問題はあるか? アルベドの考えも聞いておかねばとも思っているが」
ソリュシャンとルプスレギナがナーベラルを見る目が、信じられないモノを見るような目になった。絶対の信頼を寄せていた者から急所を刺された時の目だ。
「何の問題もございません。光栄であります。かねて、アルベド様へもナーベラルからの話を伝えております」
正式に守護者統括の相談役になった際、プレアデスへ敬称をつける必要はないと言われていた。
モモンへ答えた通り、きちんと結婚の話をアルベド様へ伝えている。アルベド様は何も仰らなかった。と言うことは、よい、と言うことである。細かいことで上位者に手間を掛けてはいけないのだ。
その時のアルベドは続けて飛び出てくる話に驚くばかりで可も不可も判断していなかったわけであるが、そんな事情は誰も知る由がない。
「ふむ、私の知らないところで話が進んでいたのか。まあ、よい。お前たちの結婚を」
ナーベラルが無表情ながらに口角を上げ、両手を握ってガッツポーズをとろうとしたその時、待ったが掛かった。
「お待ちください。アルベド様の相談役殿は私の遠縁として知られております。私とは長く一つ屋根の下で暮らしておりました。結婚するのなら私以上の適任はいないと存じます」
ソリュシャンが名乗り出た。
「お待ちください。ナーベラルはドッペルゲンガー。ソリュシャンはショゴスです。ですが私はワーウルフです。その者と結婚をして子をなせる可能性があるのは私だけです」
ルプスレギナも名乗り出た。
モモンは混乱している。
「ついで、と申し上げるのはいささか心苦しいのですが、ユリさんからも結婚をとのお話をいただきました。ユリさんが何を思ってそのように仰られたのかはわかりかねるのですが、おそらくは孤児院のことが関係しているのではと推察しております。ユリさんはアインズ様から子供たちの教育機関の運営を仰せつかったとか。そこでのユリさんは孤児たちの母となりましょう。母となるならば未婚であるよりも既婚であった方が子供たちの心に寄り添えると判断したのではないでしょうか」
ユリからの話も出てきた。
モモンは更に混乱した。
(おい、誰を選ぶんだ?)
どうしてこんなことになっているのか質す余裕はなかった。
何でもいいから雲行きが妖しくなってきたこの空気を何とかして欲しかった。
モモンの混乱を余所に、場が緊張しきった。
モモン様は重婚否定派なのだろうか。モモンとしての言葉であるのでアインズ様のお考えは違うのだろうか。
一人、全く緊張も気負いもない男は、モモンの言葉に言葉を返した。
「それではナーベラルを」
ナーベラルは今度こそガッツポーズ。
ソリュシャンとルプスレギナは凍り付いた。
「…………私が持ってきた話だからと言ってナーベラルを選ぶことはないんだぞ?」
ナーベラルの顔に緊張が走る。
ソリュシャンとルプスレギナは微かな光を見た。
「そういうわけではございません」
ナーベラルの顔に笑みが戻り、ソリュシャンとルプスレギナは死んだ。
「黒髪ロングですので」
そして、全てが台無しになった。
ナーベラルは黒髪のロングヘアを一つに括ってポニーテールにしている。この男の女主人であるアルベドも艶やかな長い黒髪を誇っている。
「…………ユリも黒髪ロングだぞ」
「そうなのですか? 結い上げているところしか見たことがありませんでした」
今度はナーベラルの顔が死に、ソリュシャンは美しく微笑んでルプスレギナも朗らかに笑っている。
ぷっ……。
ふと、小さな破裂音らしき音が漏れた。
聴覚が優れたナーベラルにしか聞こえない音。噴き出した音。笑いを堪えられなかった音。
「今笑ったのは誰?」
モモンではない。モモンとこそこそ話していた男でもない。
ナーベラルの二人の姉妹が優雅な笑みを浮かべている。
「ナーベラルの気のせいでは? モモン様の前ではしたなく笑うなんて出来ません」
「ソリュシャンの言う通りでしょう。それともナーベラルには笑われるような何かがあったという事ですか?」
「もしかしたらナーベラルは、黒髪にしか取り柄がないと思われていることを笑われたと思ったのかも知れませんね」
「髪は女の命と言いますが、それだけと思われるのはさすがに……、ねえ?」
「私がそのように思われたら恥ずかしくて恥ずかしくて」
「とてもではありませんが結婚なんて大それた事は口に出来ません」
ドS姉妹であった。
ナーベラルが握った拳はプルプルと震え、静止した。ナーベラルが二人の姉妹を見る目は冷え切っていた。
「私たちの姉妹の絆もこれまでですね」
ヤバい! マズい! とか思うより先に、怖い! と感じるモモンであった。
もしもアインズであったら、つまらない諍いをするなと一喝した。ここがナザリックであったら、常にまとう支配者の威厳でもってそもそもそんな言葉を言わせない。
しかし、今のアインズはモモンである。ナザリックから遠く離れた帝都のお屋敷で、支配者ロールの重荷は肩から下ろしている。
自分は渦中にない。端で見ているだけだ。それなのに死の支配者すら凍えさすこの空気はいったいなんなのか。
このままでは血の雨が降りかねない。
どうしてこうなっているのか全くさっぱりわからないが、一刻も早くなんとかしなければならないことだけはわかっている。
隣に立ってる男を肘で小突いた。
(おい! どうにかしろ!)
その瞬間、モモンに天啓が降りてきた。
人間の男であった過去が未来を囁いたのだ。
このままでは絶対にろくでもないことになる。何が何でも避けなければならない。
「私がどうにかしてよいのですか? それなら」
「待て!!」
モモンの一喝に男は待った。
三姉妹を包む殺伐とした空気も霧散した。
「そのような重大事は簡単に答を出して良いものではない。せめて最低でも一年はじっくり考えてから結論を出せ」
先送りである!
先送りとは馬鹿にしたものではない。
先送りすることによって時間的余裕を得られ、腰を据えて問題に取りかかることが出来るのだ。
尤もモモンとしては、自分がいないところでなら何でもいいと思っていたりする。当然である。どうして自分が修羅場に巻き込まれなければならないのか。
「そうは仰いますが、一年経っても結論が変わらないのでしたら今であっても同じではないでしょうか?」
「全然違うぞそれは。それは、あれだ。一年経っても結論が変わらないのなら、その結論には一年分の重みがあるという事だ。それに結論が変わる可能性がないとは言えまい。時間の重みを軽視するな」
「仰るとおりでございます。感服いたしました」
三姉妹が互いを見る目から剣呑な気配が消え去った。
代わりに、男を見る目に鋭いものが混じる。見られている男は何も感じていないようではあるが。
このくらい図太くなければナーベラルと結婚なんて無理だろう。モモンは変なところで感心した。
帝都に来た本題は切り出せてもいないのに、酷く疲れたような気がした。
アンケート思い出しました
アルベドのお腹が大きくなるかどうか、R18Gはあってもいいか、セバスにSEKKYOUしていいか、の三点です
その内頑張ってアンケート設置します
でも忘れるかも知れません
アルベドのお腹は大きく
-
なる
-
ならない
-
任せる