マントにくるまったままだと何も出来ない。
互いの背に回した腕は動かせないし、足も自由にならない。
頭を持ち上げて何とかキスを交わすだけ。それだって一苦労。
代わりに近い距離を強制される。
「結婚の相手にナーベラルと言ったのは髪のことだけじゃないよ」
「わ、わかってるわ」
「本当に?」
「本当よ」
「それなら他に好きなところはどこだと思う?」
「えっ!?」
言葉が熱い吐息と共に耳朶を犯す。
「どこがって……、その……顔?」
「顔はもちろん大好きだよ。とても綺麗だ。美姫と呼ばれてるのは言葉だけの事じゃない。本当に綺麗だからさ」
「っ…………。ほ、他にどこが、好きなの?」
「耳の形も」
「やっ……、かまないで……んっ……」
形がよいと言われた耳を甘噛みされ、ちろりと温かい舌が這う。
「声だって好きだよ。もっと聞かせてくれ」
「聞かせろって……、何を言えばいいの?」
「ナーベラルが言われたいことを」
「言われたいことって…………、そんな……」
「そんな?」
「そんな恥ずかしいこと、言えない……」
こもる熱が高くなってきた。
ナーベラルが熱を発しているらしい。
好奇心に駆られ、マントを外した。
「あっ!」
外気にさらされ、熱が冬の空気へ逃げていく。
暗かった視界に光が射し込み、ナーベラルの顔があらわになった。
ナーベラルは咄嗟に顔を背ける。手で顔を覆いたかったが、腕はマントに絡まって動かせない。
ナーベラルは顔を赤くしていた。
「こっちを見て」
動かない。
二度三度と促され、潤んだ瞳が前を向く。
自分の目が相手の目に映る距離。
ナーベラルは痺れたように動けなくなって、
「うわっと!」
気力を振り絞り、ハンモックから飛び降りた。
「早く昼食を取りましょう!」
まだ早いが早すぎることもない。
昼食はサンドイッチなので、準備はバスケットの蓋を開くだけ。
お湯は沸いているので飲み物の用意くらいなら料理スキルがないナーベラルにも出来る。
早く昼食を終えて次の行動に移るのだ。
▼
男が立てた予定としては、ゆっくりと昼食をとったら近隣を歩いて散策するつもりでいた。
ナーベラルはソリュシャンやルプスレギナとは違うのだ。
ナーベラルは、一日の半分を全裸でいる淫乱スライムや、頭を撫でてやればスイッチが入る発情狼とは、本当に違うのだ。
そのため、今日はナーベラルの前戯に12時間掛ける予定である。
前戯とは性的な接触に限らない。
一緒に歩くのもそうだし、食事もそうだ。他愛ない言葉の応酬に幾度ものキス。
馬車に戻ったらキスより一歩進んだ行為。
互いの気持ちを高め合うこと全てが前戯なのだ。
メインは夜である。
ところが、早くもナーベラルのスイッチが入ってしまった。その気になったと言う奴だ。
ナーベラルは、ずっと美姫ナーベとして行動してきた。側には必ずモモンがいる。アインズ様かパンドラズ・アクター様がいると言うことだ。
仰ぎ見る上位者の側ではしたないことが出来ようものか。考えたことすらない。
意識して我慢してきたわけではないのだが、結果としてはそうなっている。
日々発散してるソリュシャンやルプスレギナとは違って、ずっと禁欲してきたようなもの。
知らないなら知らないままだろうが、ナーベラルは知っている。
禁欲期間中も心の深いところでくすぶっていた熾火が、言葉とキスと抱擁で、激しい炎を噴き出し始めた。
キスだけでは我慢できない。
抱き締められるのは心地いいが、飢えにも等しい次への期待を駆り立てる。
ならばいっそと言いたいところ、外ではイヤだった。
外ではイヤだけれど、馬車の中なら。
悪路を走っても揺れも音も伝わらないナザリック製の豪華な馬車。中には大きなベッドがあった。
ここに来るまでの道程で、男とキスをしながら何度もベッドへ視線を向けていた。
ナーベラルが言葉少なく熱心に食べるので、男もそれに倣って食べ始める。サンドイッチがいっぱい詰まっていたバスケットはあっという間に空になった。
食べ終えれば火の後始末。
後片付けはミラとジュネにやらせればと思っていた男だが、ナーベラルが率先して取りかかった。長い冒険者ライフで身に付いたのかも知れない。
簡易テーブルは簡単に畳める。湯を沸かすのに使った道具一式は空になったバスケットの中へ。ハンモックは木々に結んだロープを解いて丸めれば片付け完了。
まとめた荷物は、広げたときの大きさに反して意外なほど軽かった。流石はナザリック製アイテムは高機能である。
バスケットはナーベラルが、ハンモックとテーブルは男が持って、馬車へ向けて歩き始めた。
ところが、道のりを半分ほど終えたところでナーベラルが立ち止まった。
「わお」
表情が消えたナーベラルの頭から、ウサギの耳がぴょこんと生えた。
「少し待ってて」
待つ。
ナーベラルが先に行く。
森の静寂をぶち壊す爆発音。
「お待たせ」
戻ってきたナーベラルは、ミラとジュネを連れていた。
二人とも煤けている。文字通り、顔に黒い煤がついている。
これは突っ込んではいけないところだろうと珍しく空気を読み、男は何も言わなかった。
▼
馬車に戻ったナーベラルは、先ほどまで見せていた恥じらいはどこかに消えてしまったようで標準装備の仏頂面。せっかく高めたボルテージがゼロになっていた。
誰がスイッチをオフにしたんだとは問うまでもなく二人のヴァンパイアブライドである。外で、裸で、女同士で、あんなことをするなんてナーベラルの経験にも知識にも想像の中にもない。
はしたない。ナザリックのシモベとして常識を疑う。更に主人の待機命令中だった。言語道断である。
なお、姉のルプスレギナは外でしたことがある。アルベド様の命令とは言え、ソリュシャンにあんなことやこんなことをされたこともある。ナーベラルはそのことを知らない。
ヴァンパイアブライドたちの睦み合いをこの男に見せてしまったら、きっとおかしな事になる。今日は自分の時間なのだから断固として許容できない。この男だって「今日の私はナーベラルさんのためだけにあります」と言っていた。そこへおかしな横やりを入れられたらたまらない。
そんな目で見られるのは自分だけでいいのだ。
しかしいざ目にしたところで、ナーベラルが思うようになった可能性はない。
ミラの裸は見慣れているし、見慣れてなかったとしても女の裸を見ただけで欲情する男ではない。禁欲が三日も続いていたならともかく、昨日はアルベド様がいらっしゃった。
何はともあれ、雰囲気がぶち壊されたのは確かである。ナーベラルは男が隣に座っても、ツーンとそっぽを向いていた。
このようなとき、何とかしなければならないのは男の仕事。
ずっと監禁生活だったので女性経験は豊富なようであまりない男だが、ソリュシャンからの課題図書で色々と学んできている。
「さっきのナーベラルは頭にウサギの耳が生えてたね」
「……ラビッツ・イヤーと言う魔法よ。効果は……別にいいわよね」
小さな音を聞き取る魔法である。ナーベラルのウサ耳は変な声を捉えていた。
「ウサギと言えば、ナザリックの最古図書館で読んだ本にバニーガールと言う職業があると書いてあったよ」
「そんな職業があるの?」
「具体的に何をするかまでは知らない。ウサギを模したバニースーツを身に着けるものみたいだね」
嘘である。本当は知っている。知っているのだが、ナーベラルには絶対出来ない仕事内容であるため知らない振りをした。この世界にはない職業なので知らなくても問題ない。
「こう言っては誤解を招きそうだけど、ウサギの耳をつけたナーベラルはとても可愛かった。ナーベラルは綺麗な顔立ちでスタイルも整ってるから余計に新鮮だったよ」
クールな美女に可愛いウサ耳。ギャップ萌えである。
ナーベラルにウサ耳が生えていたらピョコンと立ったかも知れない。
「………………見たいの?」
「見たい!」
「うっ」
間髪入れずに返ってきた。
ものの弾みで言ってしまった言葉だが、ぱああっと輝かんばかりの笑顔を裏切るのは心苦しい。
「…………ラビッツ・フッツ」
ラビッツ・フッツは、幸運値を上昇させる魔法である。ナーベラルの手がウサギのようなもふもふハンドになった。
「バニー・テール」
バニー・テールは、モンスターの敵対値を下げる魔法である。ナーベラルのお尻に、丸くて真っ白な尻尾が生えた。
「………………ラビッツ・イヤー」
「おおお!?」
ラビッツ・イヤーはウサ耳を生やして周囲の物音を聞き取りやすくする魔法。
三つある兎さん魔法を女性が発動すると、不思議な魔法の効果によって衣装が変化するのだ。
ナーベラルはバニーガールになった!
頭にはウサ耳に白いヘッドドレス。首には真っ赤なリボン。漆黒のバニースーツは肩出しのビスチェとレオタードを一体化させたような形で、胸元も脇も丸見えである。下部はハイレッグでカッティングが鋭く、腰骨の上まで見せている。相対的に股間部の面積が少なくなり、ナーベラルが普段履きしているパンツより切れ込みと食い込みが激しい。
しなやかな脚は、なんと網タイツ。
靴の意匠や紳士服然とした付け袖も見事だが、胸元と股間の切れ込みに目が行くのはあらゆる男の性である。
しかし、至福の眼福は短かった。言葉をなくして見入ってる内に、ナーベラルは元の姿に戻ってしまった。
「ああ~~~~…………」
「何よ、そんな残念そうな顔しないで。魔法の効果で一時的に姿が変わっただけなんだから仕方ないでしょう」
「一時的……。ずっとさっきの姿でいることは出来ない?」
「永続する魔法ではないわ」
「そっかぁ……」
がっくりとうなだれた。
バニースーツ姿のナーベラルは、とても良かったのだ。
とても気分が盛り上がっただけに落胆は激しい。
とても残念だが、そう言うものであるなら仕方ない。
いつまでもうじうじしてはいられない。今日はナーベラルを持て成す日なのだ。
シャキッと気分を入れ替えて顔を上げたところ、ナーベラルが顔を赤くしていた。
怒っているのだろうか。
「………………そんなにバニースーツが良かったの?」
「ええ、とても。だけど無い物ねだりをしても仕方ないからね」
「………………、………………、………………立って」
頬を紅潮させているナーベラルは真顔だ。
言われたとおりに立ち上がる。
「向こうに行って。目をつむって。壁を向いてて」
今度も言われたとおりに。
ややあって、静かな馬車の中で衣擦れの音が聞こえてきた。
「……いいわ」
「お、お、お!!」
振り向くと、そこにはバニースーツをまとったナーベラルがいた。
先とは違って魔法は使ってないはずである。
であるなら答えは一つ。
ナーベラルは、バニースーツを持っていた。
男がナーベラルを喜ばせようと思っていたように、ナーベラルも男を喜ばせたかったのだ。
喜んでもらえると嬉しくなる。win-winである。
■
話はユグドラシル時代にさかのぼる。
ナーベラルたちNPCが所有するアイテムは、言うまでもなく至高の御方々、プレイヤーたちが持たせたものだ。
ナザリックが異世界に転移してから、所有物は増えたり減ったりしているが、至高の御方々に持たせていただいたアイテムをシモベたちが廃棄するわけがない。
先に見せたとおり、ナーベラルは三つの兎さん魔法を修得したことでバニーガールに変身することが出来る。それはそれでとても良いものであったが、待ったが掛かった。
もっと素晴らしいバニースーツがあるのではないだろうか。いや絶対にある。デザインしてよホワイトブリムさん! とシャルティアの創造主がこれでもかとおねだりした。
そうして出来上がったバニースーツはナーベラルに持たされたものの、これまで一度も装備されたことがない。ナーベラルの創造主は弐式炎雷。卑怯の代名詞とも言える忍者であるが、弐式炎雷は違う。派手な忍術を駆使するわけでなく、隠密に特化したガチでストロングスタイルのTHE・NINJAだったのだ。
そんな弐式炎雷がナーベラルにバニースーツを着せるわけがない。
しかし出来てしまったものはしょうがない。一応はナーベラルに持たせたが、着用されたことは一度もなかった。ずっと異空間収容ボックスことインベントリの片隅に入ったままでいた。
もしかしたら、着用してしまうとユグドラシルの倫理コードに引っかかったのかも知れないが、今となっては誰も知りようがないことであった。
▼
新ナーベラルのバニースーツは、大体の構造は先のものと一緒だが、細部が違った。
頭部のウサ耳は魔法で出来たものから柔らかな素材に変わり、中程で緩く折れ曲がっている。ヘッドドレスはより繊細な作りに。首を飾るのは真っ赤なリボンから、従属を示しているのか首輪のような黒いチョーカー。
立体縫製で支えていた胸部は肩紐で吊すようになっている。要所に白いフリルとリボンがついて、強調すべき部分を強調している。ついているのはバストトップとガーターベルト。胸の谷間を黒い紐が飾っている。
ビスチェとレオタードを組み合わせたバニースーツと言うよりも、乳房を包むブラジャーと腰を締めるウエストニッパーにガーターベルトを合わせたスリーインワン。股間を覆うパンツも一体だからオール・イン・ワンだろうか。
脚を包むのは、片足は網タイツ。片足は黒いストッキング。どちらもガーターつきで吊している。
アインズ・ウール・ゴウンのデザイナーことホワイトブリムデザインのバニースーツ姿のナーベラルを見て、男の顔は輝いてはいなかった。ナーベラルに身じろぎさせるほど真剣な顔である。
(せ、せっかく着てあげたのにその顔はなに!? すごく恥ずかしいのに、恥ずかしいのを我慢して着てあげたのに!)
ナーベラルの顔の朱が、羞恥から怒りに変わっていく。
それを知ってか知らずか、男はおもむろに歩き出した。
所在なく腕を組んで胸を隠すナーベラルを素通りし、馬車内の一番前へ。
御者台に通じる窓をノックした。
「何用でございましょうか?」
窓が開き、ミラが顔を出す。
「どこか静かな場所で停めてくれ。まだ時間が早いから、次の目的地には五……、六時間後に着けばいい。それまでは中に入ってこないように。自由にしてていいよ。最低でも四時間は声を掛けないから」
二人が使っていた赤い敷布と綺麗なタオルを数枚、窓越しに手渡す。聞かずとも、さっきの二人が何をしていたか察している男である。
「マイスター。後ほど私にご指導のほどよろしくお願いいたします」
「今日の俺はナーベラルのためにいる。明日以降に聞くよ」
言うことを言って窓を閉めた。内側から鍵を掛ける。馬車の出入り口にも施錠する。
馬車の窓には全てカーテンが閉められ、魔法の明かりが仄かに照らしている。
馬車内の半分を占めるのは中央には大きなベッド。二人が横たわっても十分以上の余裕がある大きさ。
「ナーベラルはバニースーツがどんな意味を持ってるか知ってるかい?」
「し……知らないわ」
真剣な顔に気圧され、ナーベラルは後ずさった。広いと言っても馬車の中。数歩で壁際に追いつめられた。
「あ……」
壁に手を突かれ、閉じこめられた。
男の顔が迫ってくる。
「最古図書館で読んだ書物には、兎は多産の象徴とあった。それは王国や帝国でも変わらない。その兎を模したスーツがどんな意味を持っているか」
頬を撫でられ、顎に指を掛けられた。
くいと持ち上げられ、視線を合わさせられる。
「バニースーツを着てる女性は兎と同じ。発情してるって意味があるそうだよ」
「なっ……! わ、わたっ、わたしは、そんなつもりじゃ……。見たいて、言ったから……」
「発情はしていない?」
「ひゃっ!?」
壁に突いた手が下りて、ナーベラルの腰に回ってきた。
ぐいと抱き寄せられ、下半身が密着する。
視線を逸らすことが出来ない。ハンモックの上では何とか湧いてきた気力は枯れてしまったらしい。体の力が抜けきって、男の腕から逃れる術はどこにもなかった。
「俺は、してる。ナーベラルがとても綺麗だ。今のナーベラルに欲情しないわけがないだろう?」
「あ……う……」
囁き声が胸を打つ。
激しい動悸を聞かれてしまいそうで、だけども撥ね除けることは出来そうになくて。
「わたしも……、してる……」
ナーベラルは正直に答えざるを得なかった。
「何をしてるって?」
「だから! ………………はつじょう」
「発情してる? 抱かれたい?」
「……抱いて欲し、あっ……ちゅっ……」
吐息が唇を舐め、唇同士が掠る距離で言葉を交わしていた。
ナーベラルが言い終わる前に、唇が塞がれた。
ルプスレギナは発情狼で、男に迫るときはそんな気分になっているのだから、ちょっと触られただけで準備万端になってしまう。
しかしそれは、ルプスレギナだけが責められるものではなかった。
大淫魔を満足させるべく、成長してきた男なのだ。
形而上の快楽を与えるイデアルタッチなるパッシブスキルを修得している。
そんな男がそんな気分で迫ってきたら。
「あ……だめ……、もっと……んんっ……」
頬を撫で、腰に回っていた手が下がっていく。
二人の距離が離れないように、ナーベラルからも強く抱き締めた。
アンケートのアルベド首位は当然として、帝国のチョロインが次点は意外
シェーダ最下位は当然でもゼロは残念、今後に期待
とりあえずはアルベド、ソリュシャンで、その他投票は一体何なんだ、何を求められているのだ
私事になりますが、せっかくスマホ入手したので原神を入れてみました
2日合わせてプレイ時間10分。いつかそのうちまたやろうと思います
優先して欲しいのは
-
アルベド
-
シャルティア
-
アウラ
-
ユリ
-
ルプスレギナ
-
シクスス
-
シェーダ
-
カルカ
-
帝国のチョロイン
-
その他