※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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リラックス出来るお薬です

 鞘を弾いた左手が腰を叩いたのは懐のショートカタナブレイドを取り出すためだ。

 抜刀のために体を開き、飛び出たショートカタナブレイドを宙で掴むと構え直すことなく投擲。導線を引かれたかのように軌道はぶれず、目指すのは胸。肋骨と肋骨の細い隙間を狙い、心臓破壊によって速やかな死を与えるべく空を滑る。

 抜刀されたカタナブレイドは振りかぶらない。

 咎人が頭を垂れていればムッシュー・ド・パリに山田浅右衛門を驚嘆させる斬首を可能とするが、生憎吊されているため腕が邪魔となる。故に斬撃ではなく刺突。

 人体は関節を起点に動くので弧の動きに対して直線の動きは呆れるほど遅い。石を投げるのに、腕を振るのと手で押し出す飛距離を比べれば一目瞭然となる。よって、刺突とは突進技になる。

 前傾となり、重力によって倒れるのを逆らわずその場で転んだような姿勢を、倒れきる前に滑るように進めた右足で力の全てを突進力に変換。狙いは喉笛の更に奥。第三頸椎と第四頸椎の隙間はあばらの隙間より更に狭い。切断が完了すれば心臓破壊が成った時よりも僅かな余命を与えることとなる。

 

 瞬きの内に絶命となったはずが、直後に響いた金属音はショートカタナブレイドが床に落ちた音。

 

「あっぶな~~~っ!」

「いきなり殺そうとするなんて、どういうおつもりですか?」 

 

 

 ショートカタナブレイドは、後ろから飛び出てきたルプスレギナに叩き落とされた。

 カタナブレイドによる刺突は、ソリュシャンが伸ばした手を貫き、そこで止まってしまった。

 

「それはこっちの台詞だ。こいつらは侵入者だろう。しかも魔導国と敵対している王国の冒険者。処刑してなんの問題がある」

「問題ありまくりっすよ!」

「ルプーの言う通りです。どのような目的を持って進入したのか聞き取らなければなりません」

「それは二人がしたんだろう? だったら……」

 

 床に落ちたショートカタナブレイドを踏みつけると、くるくると回りながら跳ね上がる。過たず柄を掴み取り、再度の投擲をしようとしたところでルプスレギナに取り上げられた。

 ソリュシャンの手を貫くカタナブレイドの方は、押しても引いてもびくともしない。

 

「それは私たちの報告を聞いてからにしてください。これが侵入したのは…………、お兄様?」

 

 男は両耳を塞いだ。

 これぞ何を言われても聞く耳もたない聞か猿の構え。聞か猿をマスターしたモンキーはいつか国宝になることが約束されているのは余談である。

 

「ちゃんと聞くっすよ」

「ちっ!」

 

 ちゃんと聞かせるべく、ルプスレギナが男の手を押さえつけた。

 

「いいですか? これらがわざわざ帝都に来たのは……」

「あーあー聞こえない聞こえない! 俺はソリュシャンが何言ってるのか全然聞こえ、むぐぁっ! ……ん゛ーーん゛ーー!!」

 

 ソリュシャンに口を押さえられているのに往生際悪く、体をよじって何事かを喚き続ける。

 

「何がそんなにお嫌なのか存じませんが、屋敷の責任者としてきちんと聞いていただきます。話はそれからになさってください。この者たちが侵入してきたのは、王国の王女の依頼で密かにお兄様と連絡をとるためだったようです。王国の王女、ラナーと言いましたが、お兄様はまさか王国側と連絡を取り合っていたわけではありませんよね?」

 

 愛しのお兄様であるが、もしも王国と連絡を密にしているとなればアルベド様やアインズ様に報告せざるを得ない。その結果、お兄様には厳罰が下る可能性が非常に高い。死を賜ることも考えられる。そうなる前に何とかお兄様を連れ出して、と。ソリュシャンは平静を装いながら、頭の中は目まぐるしく計算を重ねている。

 

「もしかしてもしかするんすか?」

 

 がっくりと力が抜け、うなだれてしまったおにーさんを、ルプスレギナはまさかとの思いでいた。

 雑魚な双子が生きてると不味いから殺そうとした。筋は通っている。もしも魔導国に対して利敵行為を行っていたなら許されるものではないが、命だけは助けてもらうよう嘆願するつもりだ。助命を恩に着せてこれからは好きな時に好きなプレイをしようと目論んでいるルプスレギナの脳はピンクだった。

 

「その名前だけは聞きたくなかった…………」

 

 アルベド様の所有となり、ラナーの名を聞くことはあったが気配は遠かった。

 それがまさか、帝都で聞くことになるとは思いも寄らないとはまさにこのこと。

 

「ルプー、離せ」

「えっと……」

「もう殺そうとしないから」

 

 そうではなく、裏切りの可能性が絶無と言い切れないから拘束しているのだが、この場から逃げ出すことは不可能であり、再三言われて離してしまった。

 

「どっちがどっちだかわかんないが、蒼の薔薇のティアとティナだな。一人はレズで一人はショタコンらしい。ラナーの依頼内容も見当が付く」

「一通り聞き出しましたが、折角ですのでお聞かせください」

「ああ」

 

 男は大きな溜息を吐いてから話し始めた。

 

「王国にもアインズ様の訃報は伝わっているはずだ。王国の貴族は馬鹿だから、「魔導国恐るるに足らず。この機にエ・ランテルを取り戻してくれよう」と考えてる。その内襲撃があっても不思議じゃない」

「いやそれ、……バカすぎじゃないっすか?」

 

 例えアインズがいなかろうと、アインズを支える守護者達がいる。王国貴族は守護者の存在を知らないとしても、先の戦争でアインズが率いたアンデッドの軍勢の一部も一部、デスナイトが数体いるだけで王国は亡ぶ。

 

「甘い。甘すぎる。最悪を想定しろ。王国にはアダマンタイトですら石ころに変える大魔法が掛かってるんだ。想像しうる最悪のバカの斜め上を想定しても足りないくらいだ」

「そこまで頭が回りませんと、魔導国の力を取り込めば世界征服が出来るとでも考えていそうですわね」

「それだ。俺はそこまで思いつかなかったが、王国の連中ならそれくらい考えても不思議はない。そのくらいバカな王国だが、王女だけは違う。アインズ様の死は狂言であると見抜いたはずだ。アインズ様が聖王国を平定した次は王国の番だとわかっている。次の戦争を起こさないために、王国の出身であり、アルベド様へ言葉を届けられる俺に目を付けたんだろう」

「概ねその通りです」

「しかし、そんなわけがない。ソリュシャンとルプーは聞いてなかったか? デミウルゴス様が王都を襲撃したゲヘナ作戦、と言ったかな。あれを主導したのはラナーだ」

「!?」

 

 驚愕したのは吊されている二人。

 ソリュシャンとルプスレギナは納得した様子だ。

 

「そーいえばあの時、人間の何とか言う騎士は傷つけるなって厳命が出てたっすよね?」

「あれは王女からの要請だった。そう言うことですか?」

「なんとか、ね。クライムのことだな。そのあたりの詳細は高度に政治的、魔導国の戦略に関わることだからまだ周知出来ないんだろう。下手に外で口にされると計画が崩れるからな。そーいうわけで、ラナーが戦争を防ぐためにこいつらを遣わしたってのは真っ赤な嘘だ。王国の冒険者は国家に属する訳じゃないから王族だろうと命令できない。だけど戦争を防ぐために、とか言われたら多少の無理は背負うだろう。こいつらは物の見事に騙されたわけだ」

「何のために騙したのですか?」

「戦争を防ぐためとか言っても意味ないっすよね? おにーさんはどーするつもりっすか?」

「俺にそんな権限はないし、アルベド様のお耳に入れるのも馬鹿らしい。ラナーはこいつらを俺の前に立たせたかっただけだ」

「何のために?」

「…………」

「おにーさんのところに来ただけで目的達成?」

「…………」

 

 あなたが何処にいるか知っていますよ。

 

「それはアルベド様が判断すべき事柄だ」

「お兄様はご存知なのですよね?」

「知ってるなら教えてくれていいじゃないっすか!」

 

 男は美女姉妹の目を見た。

 睨みはしない涼やかな目付き。

 

「お前ら馬鹿か? ソリュシャンとルプーは知る必要がないと言ったのに伝わらなかったのか?」

「なっ……」

 

 きつい言葉に激昂しかかったのは一瞬のこと。

 赤い目から噴き出す炎に炙られ、青い目からの凍てつく冷気に晒され鎮火した。

 

「そう言うわけだ。ちっ……、クライムと乳繰りあってりゃいいものを。それで足りなきゃザナックが生きてるだろうが。…………さっき言ったようにラナーはアルベド様とデミウルゴス様と何かしらの取引をしている。おおよそは推測できても詳細は聞いていないから迂闊な事が出来ない。ラナーの駒であるこいつらを勝手に処分するわけにもいかない」

「さっきはいきなり殺そうとしたじゃないっすか!」

「何も聞いてないんだから侵入者を処分しようとするのは当然だろう?」

「……おにーさんって頭いいのに時々ほんとーーーーにバカっすね」

「お兄様は自分が何をしようとしたのかおわかりでないのですか?」

「何のことだ?」

 

 男は全く分かっていない様子。

 ソリュシャンとルプスレギナは顔を見合わせた。

 言ってやった。

 

「お兄様がそこまで推測していることをアルベド様が承知していらっしゃらないとでもお思いなのですか?」

「!?!?!?!」

 

 男は目と口で三つの丸を作ると、その場に膝を突いた。上半身は倒れ、両腕も突く。

 横から見ればorzである。

 

「おにーさんて…………アルベド様をおバカって思ってないっすよね?」

「ぐハアァッっッッ!!!!」

 

 ルプスレギナが止めを刺した。

 男は血を吐き、痙攣し始めた。ストレスが閾値を越え、胃壁が破れたのである。

 

 ルプスレギナは慌てて回復魔法を掛けた。

 

 

 

 ▼ ▽ ▼

 

 

 

「アインズ様の戦略に傷をつけるわけに行かない。具体的にラナーに何をさせているかまでは知らないからラナーの駒を処分することも出来ない」

「いきなり殺そうとした方が言う台詞ではありませんね」

「……知らなかった。ソリュシャンとルプーからの報告が遅れた、ってするつもりだった」

「おにーさんサイテーっすよ! マジでホントに!」

 

 つまりは罪のなすり付けを企んでいたのだ。

 

「それじゃこのまま帰すんすか? 知っちゃいけないことを喋っちゃったと思うんすけど」

「言っておきますが、私もルプーも記憶を操作する魔法は使えません。そのようなアイテムもありません」

「わざと聞かせたんだよ。折角ここまで来たのに手ぶらじゃ可愛そうだろう?」

「……ここで見聞きした事は誰にも話さない。墓まで持って行く」

「王国にも戻らない。ここを出たらその足で南方国家に向かう」

 

 吊された二人が口を開き、三者の視線が注がれる。

 ソリュシャンとルプスレギナが散々楽しんだ後、ルプスレギナから回復魔法を受けていたが、長時間吊されていたために肩が外れ、肘関節も伸びきっている。二人は肩と肘から響く重い痛みを堪え、懸命に顔を上げた。

 どのように楽しまれたものか、王国が誇るアダマンタイト冒険者の顔には怯えがあった。

 

「アインズ様は言葉には行動が伴わなければならないと仰っていた。行動があるから言葉を信じられる。しかし行動の前に言葉を信じることは出来ない。言葉は言葉で何とでも言えるからな。それに、王国に戻らないって言うならラナーの駒を潰すのと一緒だ。それだったら穴掘って埋めるね。まあ、ソリュシャンとルプーが痛めつけてなければ適当な事言って帰したかも知れないけど」

「お兄様は屋敷の責任者ですが、まずはアルベド様にご報告なさっては如何でしょうか?」

「うーん……。アルベド様は只でさえお忙しい。つまらない些事でお時間をとって頂くわけにはいかない」

 

 それに加えて、お子がいらっしゃる。手が掛からないお子であるようだが、時間は幾らあっても足りないのは間違いない。

 そのお子様は、日に日に大きくなっていらっしゃる。一歳児スタートだったはずが、この前お会いしたときは三歳児くらいになっていた。次は屋敷の双子幼女くらいになっているかも知れない。時空が狂っているのだろうか。

 

「おにーさんが裁定するってことっすね。あ、裁定とサイテーを掛けたわけじゃないから笑うとこじゃないっすよ? おにーさんがサイテーなのは変わんないっすけど」

「それでしたら私たちにお任せください。野に放ってもナザリックをけして裏切らないようじっくりと躾てさしあげますわ♪」

「却下」

 

 二人の躾を想像し、青ざめた双子だったが直後に希望の糸が垂れてきた。

 

「痛めつけて取り込んでも効果がない。俺だったら絶対に寝首を掻く」

「それはお兄様だけが特別なんです!」

「そうっすよ!」

 

 ソリュシャンが全身トロトロしても酷い目にあったの一言で終わらせ、ルプスレギナが丹念に身体中の骨を折っても回復した途端に平常モードに戻ってしまう。勿論、どちらの場合でも苦鳴一つ漏らさない。

 

「拷問は結構効果があるんすよ? マーレ様が六本指とかいう連中を痛めつけて」

「違うわ。六本じゃなくて八本よ」

「人の手は五本指じゃないか?」

 

 答えを知ってる双子は口を挟もうにも挟めない。

 

「組織名なんですから手の指とは無関係です。私は王都に潜入していたんですよ? 八本が正解です」

「えーー、でもどっかで六なんとかって聞いたと思ったんすけどねー」

「わかった。六も八も五より大きくて偶数だ。五と関係する数字で五以上の偶数は十。十本指だろう」

「………………王都の犯罪組織は八本指」

「六は八本指に所属する警備部門の六腕」

 

 尤もらしいが大間違いな結論に、溜まらず口を挟んだ。

 

「やっぱり私が正解でした」

「それじゃ八本でいいっすよ。マーレ様が八本を痛めつけて支配下に置いたっす。拷問はちゃんと効くっすから」

「だからそれじゃダメなんだって。例えばアインズ様と敵対してるアインズ様と同等の力を持つ存在Bがいるとする。ソリュシャンとルプーは存在Bの手に落ちた。酷い拷問を受けて苦しんで、アインズ様を裏ぎ……りはしないだろうけど、苦しみ続けるくらいだったら存在Bのお使いをした方がましと考える」

「前提が気に食いませんが続けてください」

「そんな折にアインズ様とお会いすることが出来た。二人はあっさりと存在Bを見限るだろう?」

「当たり前じゃないっすか。でもって内部情報とか全部報告するっすね!」

「仮にアインズ様とお会いできなくても、最低限のお使いをするだけで積極的に存在Bに協力しないだろう?」

「それも当然のことです。アインズ様と敵対と言うだけで許せませんのに利敵行為など……!」

「そう言うことだ。痛めつけて従わせることは出来るだろうが、裏切りの芽は摘みきれない。裏切りがないにせよ、熱心に働くこともない。むしろ再度の拷問を恐れて失敗を避けることだけに注力するようになる」

「……そーいうのはわかるのにどーして女心とかわかんないんすかね?」

「小説に書いてあった」

「「あー」」

 

 すごく投げやりな返事に男はいきり立った。

 コキュートス様が愛読なさっていると初っ端から権威を振りかざし、GMDH(グレートモンドダウンヒル)の魅力を語った。

 長くなりそうだったので、ソリュシャンとルプスレギナは白旗を揚げ、男の言葉を全肯定した。

 

「つまり、痛めつけるのではなく、良い目を見せればいいと言うことですね。…………やはりお兄様はサイテーです」

「人間じゃないっすよね。淫魔か淫獣っすよ」

 

 男は二人の言葉に反論したくなったが、話が進まなくなるのでぐっと堪えた。

 ひとまず肩と肘が現在進行形で痛みつつある双子に回復魔法を掛けるようルプスレギナに言付け、ソリュシャンには血塗れの床と壁を掃除するよう言っておく。

 自分は地下室から出て階段を上り、工房へ。

 目当ての品を持って戻ってくると、床と壁が綺麗になっていた。注意すれば血臭が僅かに感じ取れる程度で、悪臭は全く嗅ぎ取れない。

 

「お兄様が作ったローションを工夫しました」

 

 老廃物を吸収分解する魔法のローションは、適度に薄めると汚れを綺麗に溶かしてくれる魔法の洗剤に生まれ変わるのだ。

 ルプスレギナも回復魔法を掛けてやったらしい。双子の顔色が幾分よくなっている。

 

 男はとってきた物の蓋を開け、火を点けてから蓋を閉めた。

 ややあって、薄い煙が立ち上り始めた。

 男が持ってきたのは香炉だった。

 

「王国にいた頃は直に吸ったり水に溶いて飲んだりしたけど帝国産のは質が悪くてね。色々試したらこうするのが一番だった」

 

 帝都の裏市場で見つけた黒粉である。

 黒粉を精製し、薬効成分に香を混ぜて焚いているのだ。

 

「中毒性も副作用もない。精神に安寧をもたらす良薬だ。何故か帝国だと禁制らしいが」

 

 王国や法国でも禁制の品である。

 

 ソリュシャンとルプスレギナは、男の言葉を全く信じていなかった。

 確かにこの男にとっては中毒性も副作用もないだろう。現に常用している気配はない。しかし、ルプスレギナが精神は化け物認定した男だ。異常な精神でもって、黒粉への渇望を断ち切っているに違いない。

 

「まずは二人にリラックスしてもらって、話はそれからだな。ルプー、鎖を下ろしてくれ。外さなくていいから、せめて足が着けるくらいに」

 

 血塗れの地獄は遠ざかった。

 代わりに、底の見えない甘い地獄が口を開いた。




当初、R18Gはこの二人に担当してもらうつもりでしたが、いつか書くかも知れない別作に譲ることにしました
書こうと思ってる原作とターゲットとタイトルまで決まってるんですが書くかどうか未定
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