「どうしてこうなった……!」
若旦那様は深くうなだれ、頭を抱えてしまいました。
お嬢様と神官は気不味そうに顔を見合わせます。若旦那様の苦悩の遠因となってしまった事に、些かながら思うところがあるようです。
吊るされている双子の片割れは、自分と姉妹の先行きに大きな不安を覚え、揺れる瞳で若旦那様を見詰めています。
この場にいる双子は一人だけなのです。もう一人は遠き彼の地へ連れ去られてしまったのでした。
■ □
「聞いた通りだ。このまま帰す訳には行かない。かと言って酷い扱いをするつもりもない。ソリュシャンとルプーから手荒な扱いを受けたようだが当然だな。王国の貴族だって屋敷に侵入されたら同じ事をするだろう。むしろ殺さなかっただけ偉い」
「侵入者の報を受け確認いたしましたところ、見覚えのある人間でしたのでデスナイトたちには手出しを控えるよう通達しました。呑気に屋敷の中に入ってきたところを私とルプーで捕らえた次第です」
「いきなり殺そうとした人が殺さなくて偉いってなんかあれっすね」
「ルプーうるさい。過ぎたことだ」
魔導国のデスナイトは、アインズとアインズに変身したパンドラズ・アクターがせっせとスキルで作り続けているアンデッドである。
蒼の薔薇フルメンバーなら討伐可能だが、二体以上になるとかなり厳しい。ティナとティアだけでは勝てる道理はどこにもない。逃げることすら出来ない。
なお、デスナイトの顔はかなりあれである。よって、お屋敷に配置されてるデスナイトは仮面を着けている。
「まあそんなわけで、まずはこれからのことを二人で話し合うといい。俺は帰ってきたばかりで一休みしたいんだ」
「監視とかつけないでいいんすか?」
「ルプーがしたいなら止めないが要らないだろ。もしも二人がこの部屋から出ているのを見つけたら潰していい。その後はナザリックに移送して然るべき処置をしてもらう」
「その前に私たちがじっくり罪の深さを教えて差し上げますわ♪」
「楽しそうだけど、二人にまんまと逃げられたら事の次第を帝国に報告する必要がある。それはアインズ様の顔に泥を塗るのも同然だ。俺もソリュシャンもルプーも、相当のお叱りを受ける。死んでも済まないと思うから、その時は覚悟するように」
「ちょっと待って欲しいっす! 逃げられるわけないじゃないっすか!」
「そうですわ! 仮に私たちが出し抜かれたとしても、敷地の中にも外にもデスナイトが警邏しています!」
食ってかかる二人に、男はにっこりと笑いかけた。
「二人ともいいかい? 失敗する可能性がないから失敗したときの事は考えない。それを手抜きの思考停止って言うんだ。仮に今回は絶対失敗しないとしても、失敗する可能性がある時に今までの悪癖が積み重なって事後策を考えないようになるかも知れない。そうならないために考えるんだよ。わかったかな?」
子供に言い聞かせるような語調で少々むっとした二人だったが、責任の重さは感じ取れた様子。
双子相手にお楽しみで浮かれていた二人が真剣な顔で頷いたのを見て、男は満足そうに頷き返し、ひとまず解散となりそうだったその時である。
頑丈で重厚な鉄扉がガギィン! と金属音を立てて勢いよく開き、壁にぶつかって跳ね返り蹴り開けた人物にぶつかろうとしたのをお付きの二人が体を張って止めた。
「どういうことだごるぁあああ!!」
未だ女になりきらぬ絶妙な美しさを憤怒に歪め、火を吐く勢いで怒鳴り込んできたのは鮮血の戦乙女。
「シャルティア様?」
「どうしてこんなところにいて私の出迎えに来ない! アウラは出迎えて私には迎えどころかこっちから探させるとは一体どういうつもりだ!!!」
シャルティアはシャルティア的に正当な怒りを訴えた。
過日、シャルティアはアウラから『この前顔を見に行ってやったら凄く歓迎されちゃったんだよね。私がドラゴンに乗って飛んでくるのを見つけたら屋敷の中から外に飛び出してきちゃって。私が来るのを今か今かとお待ちしてたとか言っちゃってさ。ドラゴンから降りる時もそんなの要らないのにわざわざエスコートしてくれちゃってまいっちゃったよ。シャルティアだってあのくらいの高さから飛び降りても平気でしょ? 私も平気なのにわざわざ受け止めて、中に入るまで手を引いてくれて。まあそんなことしてくれなくて良かったんだけど、あいつがどうしてもしたいって言うから仕方なく付き合ってあげてね。それでさあ(以下略』。
マウントをとられ、ぐぬぬと悔しい思いをさせられた。
アウラが歓迎されるなら自分も歓迎されて然るべき。
時間を作って帝都の屋敷を訪れてみれば、出迎えどころかいつもいるはずの部屋にも誰もいない。手近な部屋から探し始め、見つけたのは寝込んでいるミラと看病してるジュネ。
ミラを叩き起こして錬金工房にある隠し扉のこと聞きだし、二人を引き連れてここに至る。
「アウラ様がいらっしゃる時は空からですので見ればわかりますし、訪問する日時をある程度伝えてくださいます。ですがシャルティア様はゲートの魔法でいらっしゃるため、いらっしゃる予兆を掴めないのです。シャルティア様もいらっしゃる日時をお伝えくださるなら歓迎の準備をしてお待ちしておりますよ」
「むう……。でもお前もソリュシャンもルプーもいなくて、こいつらは部屋に引きこもってて誰もいないのは問題でありんす!」
「仰る通りでございます。心優しいシャルティア様からはご寛恕を頂けたとしても、アインズ様をお待たせしてしまったかも知れないと思うと血の気が引く思いでございます。アインズ様はお優しいお方ですから過度な叱責はなさいませんが、私どもの落ち度は一方ならぬものでございましょう。慚愧に耐えません。そのような事態になる前にシャルティア様から貴重なご指摘を頂けたことをまことに感謝しております」
「まあ? そこまで言うなら? たっぷりと感謝していいでありんすよ?」
「はい。ありがとう存じます」
上手い。或いは凄い。或いは汚い。
この場に居合わせた者たちがどう思ったかわからないが、怒り心頭だったシャルティアが得意そうな顔をして顎を上げているのが確かな事実。
特にルプスレギナは、おにーさんからおバカ認定されてしまったらこういう扱いになってしまうのかと複雑な思いでいた。
ちなみに、アウラが訪問日時を前もって伝えたことはない。
「それで、こいつらはなんでありんすか?」
吊されてる双子に注意が向いた。
お屋敷の若旦那様が代表して説明する。
二人は王国の冒険者。王国の王女の依頼で屋敷に侵入した。ソリュシャンとルプスレギナが捕らえ、一通りの尋問をしたところ。(尋問ではなく拷問であるとソリュシャンが注を入れる)
王国の王女はデミウルゴス様とアルベド様となにかしらの取引をしているため、王女の手駒である二人を処分してしまうと不測の事態が発生する可能性を否めない。
「人間だから殺さないってわけじゃないでありんすね?」
「私どもが報告する前に相談役殿が二人を処分しようとしたところを私とルプスレギナがお止めしました」
「思った以上に鋭い刃だったため、投擲されたナイフを掴み取るつもりが叩き落とすことしかできませんでした」
「私も手のひらを貫かれています。止めなければ確実に首を落としていたと断言できます」
「……ほーん」
なんだかシャルティア的ナザリックポイントを稼いだ様子。
説明は続く。
アルベド様とデミウルゴス様にご報告しようにも、お二方は大変に忙しく、つまらない些事で時間をとっていただくわけにはいかない。
よって二人の処遇をこの場で決し、王女の元へ帰すこととした。
しかし、このまま帰すわけにはいかない。然るべき処置を施す必要がある。
「相談役殿は恐怖で縛るのではなく、良い目を見せて自発的に協力させようとお考えのようです」
当てつけるようにソリュシャンが言う。
ルプスレギナも便乗してジト目を向ける。
シャルティアは左の手のひらを、右手の拳でポンと叩いた。
「わかりんした。つまり快楽墜ちさせるわけでありんすね!」
「えっ」
シャルティアは納得してしまったが、男が考えていたのは少し違う。
まずは肉体言語を伴わない理性的な言葉を用いたお話で理と利を説くことから始めようと思っていた。
ルプーの邪推通りなのは癪だが、多少はすることをしようとは考えていたのは確か。長年培った性技には自負がある。アルベド様は別として、シャルティア様にルプーに、ソリュシャンはちょっと違うとしても競うように求められることから、それなりの価値があるとも思っている。
しかしそれはあくまでおまけであり、メインのつもりではないのだ。
「丁度二人いるでありんす」
何が丁度なのかと問う間もなくシャルティアが話を進めていく。
「一人は私が躾てあげりんす。お前はもう一人を躾なんし。どっちがちゃんと躾られるか調教競争でありんす!」
「調教……競争……?」
オウム返しに呟いた。
理解を超えた事象を受け止めきれないのだ。
「競争でありんすから負けた方は罰が必要でありんすね。私が負けたら、一日だけお前を私のご主人様にしてあげりんす。代わりにお前が負けたら、週に一日は私の命令に従いなんし」
「週に一日?」
「週一でありんす。もちろんずーっと週一でありんす。来月も再来月も来年も再来年も、ずーーっとでありんすよぉ?」
これからずっと週に一日。以降の人生の七分の一を捧げよ。
計算を簡易にするため、あと700年生きるとすると、丸百年間をシャルティアに仕えると言うこと。
百年はざっと三万六千五百日(閏年は除外)。1日対36500日。あまりにも酷すぎるレートである。
「お待ちください! それでは私が不利すぎます!」
「守護者の私に命令する権利を賭けていんすよ? ルプーとソリュシャンはどう思いんすか?」
「恐れながら、相談役殿はアルベド様の相談役でございます。アルベド様にお伺いすることなく相談役殿の自由を縛るのは如何なものかと」
「私もルプスレギナと同じ意見でございます。たった一日とは言え守護者であるシャルティア様への命令権を賭けるのは如何にも軽佻な振る舞いであると愚考いたします」
「そんな重いものじゃありんせん。お遊びでありんす。もちろんこいつがアルベドの相談役なのは知ってるでありんすから、私の命令とアルベドの命令が重なった時はアルベドを優先していいでありんす。……その時は日をずらすだけでありんすから」
シャルティアは、くひと嗤った。
「期間は一ヶ月でどうでありんすか?」
「……一ヶ月も戻らなかったら確実に何かあったと思われる」
「遅くても半月後には王国に戻らないと他のメンバーが動き出す、かも知れない」
「ま、半月もあれば十分でありんしょう」
無茶な話に絶句している男を置き去りにして、シャルティアは双子を検分する。
年は多分十代後半。二十は越えてない。
体つきはほどほど。豊満なのがシャルティアの好みだが、しなやかな肢体はそれはそれで割といける。
顔はそれなり。ややきつさがある目付きがどんな風に蕩けるのかと想像して舌なめずり。
「こっちにしんす」
「ちょまっ……」
シャルティアは制止の声を聞かず、一方の鎖を引きちぎったかと思うとゲートの魔法を発動。
鎖を握ったまま暗い球形の扉に飛び込み、あっという間に姿を消してしまった。
▼ ▽ ▼
と言うような事があって、若旦那様はがっくりきているのでした。
「お前らもシャルティア様に言いくるめられてどうする!」
「お前ってなんですかその言い方は! それに言いくるめられたわけじゃありません!」
「シャルティア様が強引に話を進めちゃったんすよ!」
醜い上に意味のない言い争いでした。
三人とも意味がないことはわかっています。過ぎたことよりこれからのこと。シャルティア様に勝利するにはどうすればいいか相談し始めました。
「あの……、シャルティア様の調教スキルはSランクです」
「シャルティア様だけでなく私たちの同胞であるヴァンパイアブライドたちも協力することでしょう。私とミラを除いた47名が休むことなく責め続けることになると思われます」
調教スキルとはユグドラシルシステム的なスキルではなくて、個人技能の方のスキルを指します。
シャルティアの調教スキルがどれほどの物かというと、初な処女を処女のまま淫乱雌奴隷に変えてしまうほどなのです。
「でも数より質っすからね。おにーさんのテクなら問題ないっすよ」
「仕方ありませんわね。私たちも協力いたします。お兄様をシャルティア様に奪われるわけにはいきません」
「とりあえず、勝負がつくまでソリュシャンは俺の寝込みを襲うな」
「そんな!?」
「まず確認したい。お前はどっちだ?」
邪魔しないように言われただけなのに何故かショックを受けているソリュシャンお嬢様を無視して、若旦那様は吊されてる女に問いかけました。
「私はティア。シャルティア様に連れて行かれたのがティナ」
「ティア……。確かレズの方だったな。こっちを連れてかれるより良かったか」
「うん。シャルティア様すっごい綺麗。くんかくんかしたい。シャルティア様に調教されたら即墜ちする自信がある」
吊されているのに、ティアはうっすらと頬を染め、饒舌に語ります。
拘束されたままですが、命の危険はないらしいことを察したのと、香炉の煙が効いてきたのです。
「『お兄様』よりお嬢様や神官様にエロい調教されたら快楽墜ちする。間違いなくしちゃう。そっちの二人はシャルティア様と同じ吸血鬼? 吸血鬼でも平気。慣れてる」
「……蒼の薔薇のイビルアイは吸血鬼らしいな」
「それもラナーに聞いた? ラナーが本当に王国を裏切ってるぽくてショック」
「お兄様はお前のお兄様じゃなくて私のお兄様よ!」
「ソリュシャンのお兄様でもないだろ。お兄様って呼んでるだけで」
「そんな!?」
何故かショックを受けているソリュシャンお嬢様を無視して、若旦那様はティアの前に立ちました。
ティアは妖艶に笑って、若旦那様を見上げました。
「『お兄様』が私にエロいことする? してもいいけど、先に注意しておくことがある。私は元イジャニーヤの一員。閨事の訓練も受けてきた。ショタを食いまくってたティナほどじゃないけど結構自信ある。『お兄様』が私を落とすより、『お兄様』が私の体に夢中になるかも知れない」
イジャニーヤとは伝統的な暗殺集団の名前です。
この場にいる誰も知らないことですが、すでにナザリックから目を付けられており、近々取り込む予定になっています。
「……ちょっとこいつぶっ飛ばしていいっすか?」
「そーゆーの禁止だから。とりあえずソリュシャンとルプーは上に戻ってくれ。シャルティア様が仰ったように、上にいるのがメイドだけなのは不味い。用があったら呼ぶから」
二人は渋々と扉をくぐって階段を登りました。
残ったのは若旦那様と助手のヴァンパイアブライド二名。吊されているティア。
香炉は煙を吐き続けます。
「吊したままってのも、たまにはいいかな」
「そう? 自由にしてくれたら手や口でいっぱいしてあげられるのに」
「それは楽しみにとっておくよ。ティアが先に楽しんでからだ」
「期待してないけど楽しませてくれたら嬉しい」
若旦那様はにやりと笑いました。
「泣きながら愛してるって言わせてやろう」
甘い地獄は底が抜けたのかも知れません。
緊縛プレイと思ったけど若は興味なさそうだし一人で足りるしどうしようと考えたらシャルティアがいることに気付いた時はシャルティアが女神に思えました