「そのような次第となり、パンドラズ・アクター様は私に勝利を授けて下さいました」
「ふぅん。あ、そこはもっと強く! 優しくされるとくすぐったいわ」
「失礼いたしました。こうでしょうか?」
「そう、それでいいわ。んっ……、いい感じよ」
「光栄です」
ティアティナが王都に戻された翌日である。
本日はお食事日ではないのだが、アルベドは王都のお屋敷のお食事部屋を訪れていた。
実を言えば、お屋敷へは週一どころか毎日訪れている。ただし、お食事部屋に顔を出すわけではない。
ナザリックはブラックかも知れないがホワイトな職場を目指しており、守護者統括にも休まなければならない時間が決められている。アルベドはその時間と睡眠時間をあてて娘の元に通っていた。
まだまだ幼い娘である。叶うならばずっと傍にいてやりたい。
娘の面倒を見つつ、娘が眠っている間は気晴らしや一休みするためにお食事部屋へのドアを開く。その時にこの男がいるかどうかは半々だ。今日は偶然顔を合わせた。となれば、アルベドの時間が許す限り傍に侍りたいと思うのは美神の信徒として当然である。
アルベドは休憩時間中にお屋敷を訪れているため、本格的にお食事をする時間はない。現在は男から提案を受けてマッサージをさせている最中である。
性的なマッサージではなくて、リラックスできて血流をよくするためのマッサージ。体のこりほぐしでもないので、以前のように「凝ってないですね」なんて無粋な言葉は出てこないようだ。
「それで?」
「それで、とは?」
「競争だったのでしょう? どうせシャルティアのことだから、負けた方にペナルティがあるんじゃない?」
「ご推察の通りです」
「勝ったあなたはぁっ!? くぅ~~~~~~~~~っっ! ……こ、これが、いたきもちいい、なの……、ね」
「申し訳ございません! 痛みましたでしょうか?」
「痛かったわけじゃないわ。いたきもちいい、よ。続けて」
「かしこまりました」
アルベドは椅子に座り、机の上に置いたクッションに両腕を乗せて腕枕とし、男へ背中を向けている。
本日のドレスはアルベドカラーの白いバックレスドレス。ストラップが首裏を通るホルターネックで、長い髪はリボンで緩く結わえてあるため、肩から尻の始まりまで肌を露わにしている。
シミもくすみも掠り傷もない滑らかな背中。輝く肌はシルクかセリカか白磁か真珠か。否、例える必要はどこにもない。アルベドの肌である。
「私が勝利した結果、制限がございますがシャルティア様への一日命令権を手に入れました。」
「シャルティアが勝っていたらどうなっていたのかしら?」
「賭けたものは同じです。しかし、レートがシャルティア様の3万に対して私は1でございました」
「…………まぁ、いいわ。勝ったあなたはシャルティアに何をさせるつもりなの?」
「ナザリックを案内していただくつもりでございます」
「今更?」
「少し工夫を凝らせていただきます」
残念ながら、始めに考えていたのとは違う形になってしまった。
それと言うのも昨日、シャルティアに釘を刺されたからだ。
『アインズ様がお戻りになったら私も色々忙しくなるでありんすからアインズ様がお戻りになったら無効でありんす!』
アインズ様のご計画を遊びで遅らせるわけにはいかない。正論である。シャルティアはシャルティアなのにここぞと言うときは危機を回避する知恵が働くようだ。
当初の予定では、シャルティアの許容範囲内でアインズ様の許容範囲から一番遠いところを選ぶつもりだった。
具体的には赤ちゃんプレイ。
シャルティアに赤ちゃんキャップと涎掛けにベビー服、おむつに見立てたふんわりドロワを履かせて「ばぶう、おっぱい欲しいでちゅー」とかやってるところをアインズ様に目撃していただき、「シャルティアはもうダメかもわからん」と思っていただくつもりだった。
アルベド様を侮辱した報復である。
しかし、この手が使えなくなった上に時間制限まで設けられてしまった。
仕方ないので、一週間後に権利を行使する予定である。
「その際はご挨拶にお伺いするつもりでございます」
「執務中よ。あなたの相手をしてる時間はないわ」
「承知しております。せめてお目通りだけはお許し願えないでしょうか?」
「それくらいなら、いいでしょう」
「ありがとうございます」
「……ええ」
アルベドはクッションに身を任せ、ふうと甘い息を吐く。
マッサージが心地よい。リラックスするためのマッサージと言うだけあって、体の力が抜けていく。ともすれば眠ってしまいそう。
「アルベド様、そろそろよろしいでしょうか?」
「いつでもいいわ」
「それでは、失礼いたします」
断ってから、黒髪を結わえるリボンをほどく。
長い髪が波のように広がって、艶めかしい背中を隠す。マッサージは首筋から肩や背中をさすったり指で圧したりしていたのだが、隠れてしまっては何も出来なくなる。しかしマッサージは次のための準備であったため、背中が隠れてもよいのだ。
どちらでも良いのなら、アルベド様の漆黒に輝く御髪を見ていたい男である。
床の上に膝立ちしていたのを、今度は椅子を持って来た。アルベドが座る椅子の直ぐ後ろに並べる。どちらも背もたれがなく、座面の高さも同じだ。
次にアルベドがもたれる机から板を引き出す。高さはアルベドの太股より少し上で、その上に繊細な細工が施されている小瓶を二つ並べた。小瓶と言えど、ポーション用のものより容量がある。どちらも保存の魔法が掛かっている。
男が真後ろに座った時、アルベドは薄目を開いた。
リボンに続いて、ストラップも外された。
▽ ▽
ドレスのフロントは乳房を帯状の生地が覆っているだけ。ストラップを外せば生地がはらりと落ちて、上半身は裸となった。
アルベドは机にもたれて体を前に倒している。乳房はやや下を向いて、重そうに垂れ下がっているのはまさにたわわな果実の女王。
男はアルベドの真後ろに座り、背中から抱きしめるように回された手は柔らかな乳肉にそっと触れた。
「んぅ……、遠慮しなくていいわ。必要な事なのだし、この前もしたんだから。乱暴にしてもいいのよ?」
「アルベド様にそのような……、大それた事を……」
「ふふ、抵抗できない私をあなたが無茶苦茶にするの。そんな事を想像したこともあるわ」
「……考えるだけと実際に行動するのとでは違います」
「そういうことにしておくわ。さあ、始めなさい。時間は有限よ」
「仰る通りでございます」
「んっ……、ふぅ……。知ってるかしら? わたし、あなたにおっぱい触られるの、好きなの♡」
手の平には到底収まりきらない大きな乳房を、根本から包むように触れ、親指は脇に添える。
そのままゆっくりと力を入れれば柔肉に指が沈み、頼りなく形を変えた。
アルベド様のお体は爪先から髪の毛一筋に至るまで、あらゆる部分の手触りが極上で、中でもおっぱいは特に素晴らしい。
しっとりと指に吸いつき、温かく滑らかで、官能的な柔らかさは言葉に尽くせず、何もかもを受け入れてくれる愛に溢れている。
ちょっと食傷気味なソリュシャンのおっぱいとは違って、触っているだけで劣情を催し、下半身に熱が溜まってくる。しかし、今はそのような時ではない。我慢して胸を揉まなければならないのだ。
「あんっ……、もう。あなたがいやらしい触り方するからエッチな声が出ちゃうじゃない」
「ご不快でなければこのまま続けさせていただきたいです」
「好きって言ったばかりでしょう? イヤなわけがないわ」
我慢しているのはアルベドも同じ。頬を染め、唇を舐め回しながら熱い息を吐いている。
サキュバスらしい淫靡な表情は、頬を腕枕に預けた上に髪で隠れているため、後ろからでは見えなかった。
根本から絞るように、時には揉まずにさすり、下乳だけでなく上乳も同じように揉み、横乳まで丁寧に。
バストトップには未だ触れない。
それなのに、乳房の先端は宝石のように赤く光っている。
「そろそろ良いと思いますので」
「一々断らなくていいわ」
「それでは」
乳房を包んでいた手指が、そのまま先端へ滑っていった。手指は乳房を潰すようにして、レッドピンクの乳輪に触れるか触れないか、強く押した。
弾けそうなほど膨らんだ乳首が本当に弾けてしまったようだ。乳揉みで立たせてしまった乳首から、温かみのある白い液体がピューッと噴き出た。
「……っ。はぁ……、出てる。わたしのおっぱい……」
たわわな乳房から滴る至高の母乳は、乳房の真下に置いた瓶へ入っていった。透明な壁を乳白色の液体が伝っていき、底まで着くと広がり続け、溜まり始めた。
二人はエッチなことをしているのではない。
乳搾りをしているのだ。マッサージは母乳の出をよくするためのものだった。
アルベドの娘であるソフィーは早くも乳離れしてしまった。
母乳が必要なくなっても、アルベドのおっぱいからは母乳が出続けている。必要ないなら絞って流してしまえばよいのだが、それを捨てるなんてとんでもない! 天に唾する愚考である。
必要ないのでしたら、と言うことで男が搾乳を提案し、このようなことになっている。
アルベドに時間があったら直飲みしていたかも知れない。
左右の乳房をリズムよく絞る。ピューピューとアルベドミルクが瓶に溜まっていく。
「あんっ」
母乳を絞るときは根本から先端に掛けて揉み下ろす。乳輪で止まることがあれば、乳首を押し潰すことも。
乳首に触れてからさらにこねたり転がしたりはしないで、すぐに乳房の方へ戻っていく。それでも刺激は十分で、アルベドの乳首は痛々しいほど膨らんでいた。咥え易くなるために勃起している。
「アルベド様の母乳が良く出ています」
「あなたの絞り方が上手だからよ。乳首をきゅってされても痛くないわ。気持ちいいくらい」
「……ありがとうございます」
「私のおっぱいミルクをどうするつもりなの? どうしようとあなたにあげるんだから好きにしていいけれど」
「瓶には保存の魔法が掛かっていますので長期保管が可能です。少しずつ消費しようと思っています」
「消費って、飲むつもり?」
「はい。他には栄養たっぷりですので、加工してその効果を高められないかとも考えております」
「飲みたいならいつでも飲ませてあげるのに」
「光栄です。ですが、いつまでもと言うわけには行きませんので」
「……そうね」
今でこそ母乳が出るアルベドだが、それは出産して間がないからだ。いずれは止まってしまう。そうなったら至高の母乳を飲むことが出来なくなる。その時に備えて、と男は考えていた。
乳牛のように妊娠させっぱなしなんて出来るわけがない。
会話が止まっても乳搾りは続いている。
時折アルベドがくすぐったそうな吐息を漏らすだけで、男は言葉少なくアルベドの乳房を揉みしだく。
出が良いこともあって、瓶には順調に溜まっていく。
どちらの瓶も容量の半分を超え、そのあたりで出が悪くなってきた。
下乳、上乳、横乳と再度のマッサージを行ってから絞ってみると、最初のようにピューッと噴き出し、それが最後となった。
乳首に付着したミルクがぽたりと落ちて、
「終わりました」
アルベドへ静かに声を掛ける。返事は返ってこない。すぅすぅと静かな吐息だけがある。
(アルベド様はお疲れなのだな。少しでも休んでいただこう)
マッサージでリラックスし、乳搾りをされて気持ちよくなったアルベドは、最中に眠ってしまったらしい。うっとりと目を閉じて、健やかな寝息を立てている。
男はポケットからハンカチを取り出し、アルベドの乳首をちょんちょんと拭う。僅かに濡れたハンカチを鼻に当て、すんすんと嗅いでからポケットに仕舞う。
ドレスのストラップを留め、大きな乳房をきちんと隠す。母乳が溜まった瓶に蓋をして、机から引き出した板を戻す。
少し考え、眠るアルベドの体を机から起こして膝裏へ腕を差し込み、もう一方の手で背中を支え、抱き上げた。
十数歩歩き、アルベドを下ろしたのはベッドの上。眠るなら机にもたれるよりベッドに横になった方が疲れがとれる。
長い髪が乱れないよう丁重に整え、体の下にならないよう二つに分けてからベッドに寝かせた。
▼ ▼ ▼
美神の寝姿を、じっと見る。
「アルベド様……、なんとお美しい。これまでの私は暗く閉ざされた生を送っておりました。今の私があるのはアルベド様の慈悲故でございます。アルベド様はまさに万物を照らしていらっしゃいます。アルベド様がいらっしゃったからこそ世界の隅々にまで光が行き届くのです。あなたは私の光です。あなたは私の全てです。私の血肉も命も心も魂も、全てがあなたのもの。長くお側に、などと埒外な世迷い言は申しません。ですが、あなたを愛することをお許しください。私の愛はあなたです」
眠っているアルベドには聞こえないはずだが、瞼がピクピクと震え、長い睫毛が揺れた。
起こしてはまずいと、男は静かにベッドから離れた。
男が離れたのを察知して、アルベドは薄目を開いた。
足側のベッドの紗を上げて、動き回っているのが見えた。
アルベドは、寝たふりをしていたのだ。乳搾りが気持ちよかったのは確かでも、それで眠ってしまうほど疲れてはいない。
寝たふりをしていたのは、目的があったから。
(嬉しいけど……恥ずかしいわ……。それにしたって、私もあなたが好きだからあなたの子供を産んだのよ? なのに埒外な世迷い言だなんて。私の気持ちがわかってないわけじゃないでしょうね? だったら許さない……、って言いたいけど……、私の愛はあなただなんて……♡ もう! キュンキュン来ちゃったじゃない! 本当にわかってないのかしら? 抵抗できない私を無茶苦茶にって言ったばかりでしょう? チャンスよ? チャンスなのよ? 私は寝ちゃって抵抗できないの。いっぱいいっぱい乱暴なことをして好きなようにしても起きないのよ?)
アルベドは、睡眠姦を仕掛けたのだ。
しかし、仕掛けると言ってもアルベドに出来るのは精々寝たふり。
ここで男へ、無抵抗な私を犯しなさい、と言ってしまうと趣旨が違ってしまう。
眠っている自分を遠慮なく容赦なく犯してもらうのが好いのであって、乱暴なハードプレイはちょっと違うのだ。サキュバス的こだわりである。
基本的には寝たふり。
時々薄目を開けて男の様子を窺う。
動き回って何をしているのかと思ったら、ベッドの向こうに背が高い書見台のようなものと、その上に大きな板を立てかけた。
イーゼルとキャンパスではないかと察しがついた。
アルベドが察したとおり、書見台を改造したイーゼルと、木枠に丈夫な布を張ったキャンパスである。言うまでもなく絵を描く道具。
アルベドが寝てしまったので、お姿を拝見しながら描き写そうと考えたのだ。
以前、ナザリックで大演説をした際に告白したとおり、絵筆を握ったことはない。握れる環境ではなかった。
しかし、手先は器用な男である。注意して目にした物は記憶の宮殿に保管するため、形を捉えるのも得意である。
字は物凄く下手を通り越して文字と認識出来ない域にまで堕ちているが、レイナースへ贈った仮面を作ったりディルドを作ったり、加えてお屋敷のお食事部屋の隣にあるシークレットルーム改めソフィーの部屋に飾られている絵を描いたりもした。絵の出来はアルベドの御眼鏡に適うほど。
その気になりさえすればナザリック最古図書館の司書長並の美麗な文字を書けるのだが、諸事情により出来ていない。
文字とは記号でありシンボルである。形の特徴さえ捉えていれば意味が通じる。
例えば「ツ」と「シ」と「ミ」と「三」は、どれも「ー」を並べたもの。「ー」を平行に三本並べて角度を変えれば区別が付く。重要なのは文字が意味するところであって、形ではない。
と言うことを早々に察した男は、文字を崩すようになった。基本的にほとんどの文字が一筆書き。画数が8以上ある漢字は略字を作成してやっぱり一筆書き。
言うなれば、秒速千キロでぶっ飛ばせるのを、わざわざ時速30キロで安全運転なんてしてられないのと同じである。目的地に着きさえすればいいのに、ノロノロ走ってたら焦れったくてもどかしくてストレスフル極まりない。ただし、同乗出来るのはソリュシャンとルプスレギナだけ。
その二人が他の方々をきちんと目的地まで案内してくれる。
見方を変えれば、二人がいるから容赦なく字が崩れていったとも言えた。責任転嫁甚だしいが、二人がダメ出しを続けていたら読める字に留まっていたかも知れない。
対して絵とは形が重要である。
□を乱暴に描いて○になったら、誰も□と認識できない。□は□と描くから□なのだ。
目はよい男である。アインズ様が剣を振る姿を1mm単位、0.1秒単位で把握出来る。
手先も器用だ。過去の経験で育まれた器用さは、細い髪の毛を半分に裂いて更に半分に裂くことが出来る。百分の一ミリ単位の精密動作が可能。
しかしそれらが合わさっても絵心はない男。
更に工夫がある。
まず四角い枠を作る。そこへ縦横に任意の本数の糸を張る。縦3、横2だとして、6個の升目が出来る。
それを覗けば、6分割した風景が見える。キャンバスにも枠と同じ比率で縦横の線を引き、目に見える風景とそれぞれを対応させる。
分割線を横切る輪郭を注意して絵を描けば、なんとかそれなりのものが出来上がるのだ。
「これではアルベド様を千分の一も伝えられない。どこかがおかしい。どこがおかしい?」
九割九分九厘仕上がってる絵である。
お屋敷においてプライベートとか何それな若旦那様なので、ソリュシャンもルプスレギナもアルベド様の絵を描いているのは知っていた。
ルプスレギナは思わぬ出来に感嘆したのだが、からかってやろうと思って、「下手っすねー」っと言ってしまったら、「情熱の滾りに任せてアルベド様のお姿を写そうとしたのに汚してしまった俺に生きる価値はない。生きていてはいけない。この罪、我が命で償わなければ」とか言って身投げしようとしたので慌てて止めたことがある。
やらかしたルプスレギナを横目にしたソリュシャンは、「とても良い出来だと存じます」と言ってしまったが最後。「アルベド様のお美しさを万分の一も伝えられないのに良い出来だと? お前には目がついていないのか? 頭についてるそれは節穴かガラス玉か? 見えはしても正しく認識できないのか? ……病気だとしたら重病だ」と始まり、長々と説教される羽目になった。
アルベド様が関わることに口を出すとろくな事にならないと再認識した二人である。
幸いなことに、筆を握るのは偶にのことで、握っても短時間。放っておけば害はない。
「わかった。ここが0.12ミリ膨らんでる。角度も一分と……57秒か? 55にも見えるが……、うーん」
ちなみに角度の一分は一度の60分の1。一秒は一分の60分の1、つまり1度の3,600分の1である。
(細かすぎでしょう!?)
眠っているはずのアルベドの指摘は尤もだった。
なお、男が脳内でキャンパスに区切った升目は、等間隔に縦線が500、横線は1,200の白銀比で60万分割されている。
絵を描くと言うよりも、ほとんどパズルの間違い探しである。
「さっきより良くなった。他のお姿も描いてみたいが、アルベド様のお姿の絵を途中で止めるわけにはいかない」
この調子だと永遠に完成しないと思われた。こだわりが強く、納期がないとこうなってしまうのだ。
「少し喉が乾いたな。飲み物は……、アルベド様の母乳が、ある、な」
男の喉がゴクリと鳴った。
(そうよあなたのために出したのよ。早く飲みなさい!)
アルベドの母乳は、ただの母乳ではない。滋味豊かにして栄養たっぷりで、と言うのは以前の話。
ソフィーがおっぱいを卒業して、この男におっぱいを飲ませた翌々日、おっぱいが出なくなっていた。
ドレスを濡らさないための乳首パッドが不要となり手間のかかる乳搾りが要らなくなって一安心なアルベドだった。ちなみに乳搾りは風呂で行い、おっぱいみるくはシャワーの湯と共に流れていった。
であるならば、今し方絞られていた母乳は何なのか。
経産婦となったサキュバスが獲得できるシークレットサキュバススキル「サキュバスおっぱいミルク」であった。
スキルの使用によって任意に母乳を分泌できるのだ。使用できるのは一日一回のみ。片乳で約200ccの母乳を絞れる。
サキュバスおっぱいミルクがただの母乳であるわけがない。サキュバス的効果を秘めている。
一飲みすればギンギンになってしまう。時間経過で治まったりしない。出さない限りギンギンのままだ。
「楽しみは貪るものではないとドラゴニオも言ってたな。止めておこう」
(……ドラゴニオって誰よ!)
超長編ダークカタナテックジェノサイドノワール小説「グレート・モンド・ダウンヒル」の主人公デスク・ドラゴニオの事である。
ドラゴニオは性根が腐っており、少々見所のある剣客がいると耳を落とし鼻を削いでけして消えない屈辱を刻んでから野に放ち、復讐の刃を研がせるのだ。
▽ ▽ ▽ ▽
睡眠姦を願っていたアルベドは、愛欲よりも呆れが勝ってしまった。
そうこうしている内に時間が流れ、男は画材を片付けてアルベドに声を掛ける。
「アルベド様、もうじきお時間になります」
薄目を開いて男の姿を捉えたアルベドは、起きあがらずに右手を上げて、手の平を上に。中指だけを何度か折り曲げた。
「うわっ!」
手招きされた男が手の届く距離に近付くなり、胸ぐらを掴んでベッドに押し倒す。
と同時にサキュバススキル「脱衣」を発動。物理法則を超越して男のズボンを脱がし、うなだれた逸物を一撫でして強制勃起。
「んっ!」
パンツを履いてないアルベドだ。上に乗って即挿入。
「うっ! うおっ!? うぐっ……。くはっ! うっ…………」
自身の絶頂と引き替えに射精を強いる「サクリファイス・イグゾースト」を腰を振る度に発動して五連発。
「戻るわ」
力尽きた男を放置して、アルベドはソフィーの部屋へと姿を消した。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
戻ってこない若旦那様を発見したのはシクススだった。
若旦那様はアルベド様のベッドで大の字に横たわり、下半身丸出しのまま寝息を立てている。
ビビビビビン! と落雷の如き往復ビンタを決めて、文字通りに叩き起こした。
「どうしてアルベド様のお部屋でそんな姿で寝ているんですか! 今日は外せない用事があると言っていましたよね!」
猛るシクススに感謝を伝え、大急ぎでご飯とお風呂。それでも回復しきらない体力をルプスレギナの魔法で回復してもらう。
奇跡そのものである高位の回復魔法が、ここではエナジードリンクと同レベルである。これぞナザリッククォリティ!
帝国貴族や皇帝からの誘いは外せない用事になり得ない。なんだったらドタキャンしても構わない。
ソリュシャンやルプスレギナとの約束は、破ると後でうるさいから優先はするものの、絶対ではない。
外せないと言うのだから、それ以上のこと。
「やっほー。来たよ。相談したいことってなに?」
夕日の残光すら消えた暗い空を背景に、降り立ったのは美貌の幼いダークエルフ。
階層守護者であるアウラ様にお越し願ったのだ。万難を排して最優先しなければならない。
「ようこそお出でくださいました、アウラ様。私めの言葉をお聞きいただき、感謝の念に堪えません。お食事はお済みでしょうか? アウラ様のお口に合うかわかりませんが、心を尽くして用意させていただきます」
「んー……。ちょっとお腹空いてるかな? でも簡単でいいよ。お肉とか重いのなしで」
「かしこまりました。すぐに用意いたします」
お屋敷三階の会議室に二人が着くと同時に、幾つもの丸い蓋を乗せたワゴンをシクススが運んできた。
ワゴンを受け取って室内に運んだ男は、自分について回っていたミラへ言付けた。
「アウラ様と内密なお話がある。誰であろうと絶対入れるな。緊急時だろうと俺が許可する前にドアを開けるな。ソリュシャン、ルプスレギナ、ミラ、ジュネの四名へ厳命する。待ってるからソリュシャンたちに伝えてこい」
「かしこまりました!」
ミラ以外の三名もお屋敷の三階にいる。さして待たされることなく、アウラがフルーツたっぷりクレープを半分も食べない内に戻ってきた。
「随分厳重じゃん。そんな凄い話があるの?」
ドアを閉めて鍵を下ろした会議室にて、アウラは立ちながらワゴンの上に乗ったあれこれを摘まんでいる。
アウラの嗜好に合わせ、フルーツを使ったクレープが主である。
フルーツはナザリックからの供給されたもの。クレープ生地はそうも行かず、お屋敷で焼いたもの。出来ればパンにしたかったのだが、お屋敷付きのパン職人にアウラ様を唸らせる腕前はない。
エ・ランテルのウィットニーさんのパンが恋しい。ウィットニーさんが魔導国の上質な小麦を使ってパンを焼けば、ロイヤルスイートのレストランで出しても通用する逸品が出来るはずだ。ウィットニーさんは職人気質なので大枚をはたいても来てくれないだろうが。風の噂によると、エ・ランテルの冒険者組合でトラップ回避講座を開いて盛況だとか。是非にも本業に立ち返って欲しい。
「準備いたしますので少々お待ちください」
「食べてるからゆっくりでいいよ」
アウラは、座面の高い椅子に座り、床まで届かない足をぶらぶらさせながら男の作業を遠巻きに眺める。男は、会議室用の大きな机にひたすら紙を並べている。
クレープを二つ食べ終え、唇に残るクリームをペロリと一舐め。緑と青の目に好奇と、少しだけ真剣な光が宿った。
「へぇ……。これなら入ってくるなって言ってもいいかな」
男が並べている無数の紙。
それは魔導国を中心とした精度の高い地図だった。
ハーメルンユーザーには絵の練習した人が多いのではと推測