UAとか数字があっても読者の実在を確信できず確信できないという事は幾ら書いても(とても長くなるので以下略
『あなたの顔は無くなってしまったけれど、わたしがずっと覚えているわ』
▼ ▼
慈愛に溢れた清い声で目を覚ました。
目を開けば高い天井。ベッドの上に立っても手は届かない。
壁には幾つもの窓が落ち着いた色彩のカーテンで彩られる。朝日に照らされ仄かな明かりが強まりつつある。子供の手すら入らない通風孔一つではない。
ベッドの上には自分以外に、可愛らしい双子の幼女が寝息を立てて夢の中に。
自分の顔を撫でれば滑らかな肌。鼻も唇もちゃんと付いている。
夢だった。
アルベド様に拾われて以降どころか、ここ数年で最悪の夢見である。
呪縛から解き放たれたと思っても、あの女は思い出すものじゃないと改めて認識した。
▼ ▼ ▼
最近はなんだかんだと忙しかったが、Yes ロリィタ Go タッチ! プロジェクトが頓挫してしまったので妙に時間が出来てしまった。
こんな時はアルベド様のご尊顔を拝謁して心を癒そうとお食事部屋に向かうのだが、残念なことにいらっしゃらない。今日はお食事日ではないし、アルベド様がどの時間に休憩なさるかも把握していない。把握していたところで、アルベド様がいらっしゃるかどうかは別の話だ。
お食事部屋の隣の部屋、ソフィーの部屋にはいらっしゃるかも知れない。ソフィーは間違いなくいるだろう。しかし、残念な事にドアの鍵を持ってない。持っていたとしても、アルベド様のお許しがなければ入ることが出来ない。
覗き見してしまおうかとの誘惑を払いのけるのに1時間掛かった。正確に言うと誘惑に打ち勝ったのではなく、掃除に来たシクススに追い払われた。
こんな時はいつものように書斎に籠もって思索に耽る。
数学事典で得た知識を頭の中であれこれいじくり回す。多種多様な計算式を組み合わせてから極限まで無駄を削り、導いた数式を用いて皇城の構造計算。外力に弱そうな箇所を幾つも見つける。魔法的な加護がないと攻められた時にそこから崩れると皇帝に進言しようと考え、後のジルクニフが今のは予告か善意か浪費を狙った罠なのかと胃痛の種を与えられることになる。
数字いじりに飽きたら神聖語の時間。神聖語は文字の種類が多ければ文法の構造にも癖がある。
「象は鼻が長い」は文法的に正しいか否か。正しい場合は「象」と「鼻」のどちらが主語であるか考察する。「は」と「が」はどちらも主語マーカーとして用いられるのだ。
こちらは一瞬で飽きた。奥深いテーマかも知れないが神聖語学者になりたいわけではない。きちんと意味が通じる神聖語を操れれば十分である。
代わりに、記憶の宮殿に収めた神聖語もとい日本語辞書をめくる。
幾ページもめくらない内に手が止まった。日本語を知るに連れて疑問が深くなってきた単語があったのだ。
若旦那様の思索中は、メイドたちは立ち入り厳禁。元より書斎はお屋敷の三階にあり、立ち入れる者は限られている。
その限られた者たちは、手が空いてると書斎に集まって若旦那様の鑑賞を始める。置物にしても価値がある男なのだ。
鑑賞しているのはこっそりトロトロを狙うソリュシャン。ソリュシャンがトロトロしちゃった時に回復してあげるルプスレギナ。ソリュシャンの専従メイドであるシェーダ。若旦那様の部下であるミラと、ミラがお仕事をしてると暇になるジュネ。
最近はそこへカルカが加わった。どう言う訳か、最近のお嬢様は当たりがだいぶ柔らかい。一応カルカの専従となってる双子幼女は、他のメイドたちの仕事を増やしている。子供にじっとしていろとは酷な話だ。
女たちがぺちゃくちゃお喋りしていても、とち狂ったナーベラルが隣でドラゴン・ライトニングを使っても、思索に耽っている若旦那様は無反応。だからソリュシャンにトロトロされるのである。
話をしているのはもっぱらソリュシャンとルプスレギナで、カルカは生々しい内容に顔を赤らめる。
話が一段落すると、若旦那様に近寄ってじっくり鑑賞。
今なら大丈夫かしら、とソリュシャンが若旦那様の手に触れようとした時、
「愛ってなんだろう……」
「私がお兄様へ向ける想いのことですわ!」
誰に向けるでもなく呟かれた言葉に、ソリュシャンは目を輝かせた。
心があらぬ所へ飛んでる若旦那様はソリュシャンを見もせずに、
「違う」
「!?」
否定の言葉に全身が固まった。
お兄様と言えど私がお兄様に抱く想いを否定するなんて許せない!
ソリュシャンが烈火の如く言い返そうとしたのを、プークスクスと嘲笑が遮った。
「ソーちゃんのは愛じゃなくて食欲っすからね! 愛って言うのは、私がおにーさんを想う気持ちのことっすよ♡」
「違う」
「!?」
間髪入れずにルプスレギナも否定。
ピキリとコメカミに青筋を浮かばせたルプスレギナが、これはぶっ飛ばしても無罪だけどこの前みたいにされたら、と逡巡していたらオーホッホと哄笑が轟いた。
「ルプー姉様のお気持ちは愛ではなく性欲ではなくて?」
「あ゛?」
睨み合う美女姉妹。これでも二人は仲良しである。
「それでは……、私が旦那様を想う気持ちでしょうか?」
睨み合う美女姉妹は凶相のままカルカに顔を向けた。
二人から睨まれているのに、カルカの表情は夢を見ているように恍惚としている。
現世に戻ってきたらしい若旦那様は、ゆっくりとカルカに振り向いた。
見られているカルカは、頬をバラ色に染めている。
若旦那様は机の上からペンを取り、手近な紙へ何やら書き付けた。
「2」を縦に二つ重ねた記号の下に小さく「x」と書く。全ての線が繋がっている上に直線ばかりではなく湾曲したり波打っている方が多いので、ペンの試し書きにしか見えない。
「読んでみろ」
「え…………」
困惑するカルカ。
ソリュシャンが若旦那様からペンを奪い取り、珍妙な記号に罰点を付けて隣に「愛」と書いた。
「…………読んでみろ」
「申し訳ございません。私には、読めません」
「神聖語の話だ。わかりもしない事に口を出すな」
「……はい。申し訳、ございません……」
涙ぐむカルカを、性悪姉妹はザマァと笑っている。
若旦那様は怒ったわけでも不快に感じたわけでもないのだが、そんなことを解説してやるほど優しい姉妹ではないのである。
ソリュシャン、ルプスレギナ、カルカと続いて、姉妹の視線はシェーダに飛んだ。
「私は若旦那様にそのような想いを抱いておりません」
「えー、ホントっすかぁ?」
「お兄様はシェーダに手を出していないわ。シェーダはお兄様の愛を知らないのよ」
シェーダがお屋敷に来てからは、若旦那様の行動原理を良く知らないこともあってそうなのだが、お屋敷に来る前の時点でそんな事になっている。
ソリュシャンは知らないが、ルプスレギナはシェーダがおにーさんと痴話喧嘩らしきものをしていたのを盗み聞きしている。
若旦那様的にはシェーダの黒髪と大きなおっぱいはかなりポイントが高かったりするのは余談である。
「マイスターがお持ちの技術は私では到底届かない高みに達しております。卑賤なこの身としましては尊敬せざるを得ません。ですが、私が愛し、忠誠を捧げているのはシャルティア様でございます。マイスターに抱く思いは先ほど申し上げました通りに尊敬と、遙かな高みにいらっしゃいますことへの羨望と、シャルティア様も感心なさっていらっしゃいます整ったお顔とお体はとても好ましいと思っておりますので、この気持ちを名付けるとするならば適当な言葉は」
「あー、ストップストップ! ジュネの気持ちはわかったっすから次に行くっす」
ルプスレギナは初対面の時からちょっぴりジュネが苦手である。
いつの間にか順番に告白することになっていた。
最後はミラである。
一同の視線が集まったミラは黒い眼球に光る赤い目を頻りに泳がせて、最後は若旦那様へ真剣な顔を向けた。
吸血鬼の青ざめた肌が紅潮している。
「私は……、ご主人様を愛しています!」
その愛がどんな愛なのかという話なのだが、ミラの頭からは綺麗に抜けていた。
俯瞰すればマッチポンプになるのだが、ミラはご主人様には命を救われ、シャルティア様の考えに物申して自分たちの扱いを良くするよう進言していただき、その果てにアインズ様からお褒めの言葉を授かった。色々と良い思いしてわからされもして、今やご主人様のために死ぬことこそが正しい命の使い方と決めている。
あくまでも部下であってご主人様とは身分差があるためにわきまえているが、ソリュシャンやルプスレギナよりガチである。
ミラをしばらく眺めていた若旦那様は、鷹揚に頷いた。
「……うん、そうだな。ミラの愛が一番近い」
「どういうことですか!!」
「どういうことっすか!!」
「そんな事より」
「「そんなこと!?!?」」
若旦那様の中ではもう終わった話である。
「会議室に何か落ちてたか?」
「いえ、ご主人様の仰るとおり、何も落ちておりませんでした」
「だろうな」
今朝方、起きて間もない時間にナザリックにいるお骨の方からメッセージの魔法があった。内容はアウラ様からのご質問であり、昨夜使った会議室に何か落ちてなかったか、と言うものだった。
散らばった地図を拾い集めた際に隅から隅まで確認している。何も落ちてはいなかった。忘れ物か落とし物であれば屋敷の敷地内全てを捜索させますと申し出たが、会議室に何もないならそれでいいとのこと。
一応ミラに、会議室をもう一度確認せよと命令していた。やはり何もなかったようだ。
忘れ物が大切なものであれば続けてのメッセージがあるだろうに、それきりだった。解決したか、なくしても構わない物なのだろう。
今朝は悪夢で目を覚ましたが、アウラ様からの伝言を受け取れたのなら悪いばかりではなかった。
「ふう…………、おっと」
再び思索に耽ろうとする若旦那様を、ぐるるるピキピキと唸る美女姉妹が許さない。
「何だ?」
「何だ? じゃありません! どういう事ですか!!」
「そうっすよ! 私の愛がダメでミラの愛が良いのはどういう了見すか!!」
若旦那様の中では終わった話だけども、美女姉妹にとっては訳の分からないダメ出しをされただけ。
カルカもぐすぐすしており、喜んでいるのは顔が緩むのを堪えているミラだけである。
「そうだな。カルカにとってはわからない言語の話だから聞いてるだけでいい。ソリュシャンとルプーは、ついでにシェーダとミラとジュネもアインズ様を愛してるな?」
一々答えるまでもない当然の問いかけに、一同は声を揃えて言うまでもないと胸を張った。
「アインズ様も皆を愛してる。アインズ様御自身がナザリックにいる者全てが美しいと仰っておられた」
かつて、若旦那様がナザリックの玉座の間にて大演説を奮った時の話である。ルプスレギナとソリュシャンはその耳で聞いており、聞いていなかったシェーダとミラとジュネは驚きに目を瞬かせ、言葉の意味が心に染み入ると歓喜の涙を浮かせた。場所が場所であればアインズ様賛歌を合唱していたことだろう。
「ここで問題が一つ。皆がアインズ様へ向ける愛と、アインズ様が皆へ向ける愛は同じだと思うか?」
「それは…………」
ソリュシャンは言葉に詰まり、ルプスレギナにも難しすぎたようで口をぱくぱくしているが声が出ない。
「どちらの愛も本質は同じだが向きが違う。神聖語における伝統的な愛は上から下へ、あるいは下から上への二種類だけだった。前者が慈愛・博愛、後者を敬愛と言う」
ナザリックのシモベたちがアインズへ向ける愛が敬愛。
アインズがナザリックのシモベたちへ向ける愛が慈愛、あるいは博愛となる。
「対等な者同士だと愛とは言わないんだ。ここに照らし合わせると、ミラからの愛は俺へは敬愛となる。だから近いと言ったんだ」
「はい! 私はご主人様を敬愛しております!」
ここぞとばかりにミラが売り込む。
対して、ルプスレギナとソリュシャンはもにゃっていた。
しかし、聞き流して良いことではなかった。
「お兄様は私を愛していると何度も仰ってくださったではありませんか! それは全部嘘と言うことですか!?」
「ちょっとちょっとソーちゃん! おにーさんにそんな事言っても通じないってわかってるっすよね? とりあえずどーいう事か解説して欲しいんすけど?」
「まだまとまらない。だから愛ってなんだろうって言ったじゃないか」
「わかるとこだけでいいっすから」
「うーん……。愛を辞書で引くと色々書いてあったが、その通りには使われてないらしいんだ。俺には神聖語を使った経験が圧倒的に不足してるから推測がかなり混じる。それでもいいか?」
「いいっすよ。でも簡単によろしくっす!」
若旦那様が語るところによると、悩んでいる主因はソリュシャンから押し付けられてきた課題図書での「愛」の使われ方と、辞書に書いてある「愛」の内容と、ソリュシャンたちが口にする「愛」の意味に齟齬があるからであるらしい。
ソリュシャンからロマンチックな言葉を学ぶために課された数多のロマンス小説は、ざっくり分けると二系統あった。
一つは著者も登場人物も神聖語の話者。
もう一つは、著者は神聖語の話者でも登場人物は違う。もしくは著者が神聖語の話者ではなく、他言語で書かれた著作を神聖語に訳したもの。
これらは登場人物の名前によって分類することが出来た。
「神聖語以外の話者は、異性に想いを告白するときに「あなたを愛してる」と言う。しかし、神聖語の話者はそんな言葉を口にしない。少なくとも俺は一度も読んだことがない」
「それじゃどんな風に告白するんすか?」
「「好きです」と言う。ここから、神聖語では異性への想いに「愛」を使わないことが察せられる」
「「好き」は私たちが知ってる通りの意味でよろしいのですね? それでは「愛」はどんな意味になるのですか?」
「単に「愛」と言うと、大事にする、って意味になるみたいだな」
話がずれるので男は話さなかったが、神聖語が使われている国すなわち日本では、かつて兜に「愛」の字を掲げた戦国武将がいたらしい。
その愛が意味するものは諸説あるらしいが、男女間の情愛を意味するものではないのは確かだ。
「「氷の女王に憧れて」に好きと愛の違いが書いてあった。花が好きだから摘んで持って帰る。花を愛してるから水を遣る。これが好きと愛の違いなんだろうな」
「……確かにそれらしい話ではありますね」
この分け方だと、ソリュシャンの想いは「好き」になる。隙あらばトロトロしたがるのだから、持って帰るより直接的だ。
「今のはソリュシャンから押し付けられた本に書いてあったんだぞ。まさか読んでないんじゃないだろうな。俺がいったい何冊読まされたと思ってる!」
「あれはお兄様が神聖語を習得するために用意したものですもの」
嘘である。とりあえず恋愛小説に属する本を片っ端から押し付けたに過ぎない。
成果は出ているようないないような。言葉は覚えさせたが、価値観を変えるまでには至らなかった。
「……まだある。「汝の愛が汝を救う」。この愛が何を意味するかわかるか?」
二人は首を左右に振った。
「あなたが私を信じる心、だ。愛は多義語過ぎるんだよ。文脈によって意味が違いすぎる。それが神聖語なんだ」
「普通に使ってるっすけどね」
「お兄様の言葉はちゃんと理解できていますわよ?」
「……俺やカルカが話す言葉はソリュシャンたちには神聖語に聞こえる。反対にソリュシャンたちが話す神聖語は、カルカにも難なく理解出来るよう言葉に魔法が掛かっている、らしい。俺はどっちの言葉もわかるから、どの意味でその言葉を使ったのか気になる時もある」
「そんなの決まっておりますわ♡」
「おにーさんは考えすぎっす。私の愛をちゃんと受け取んなきゃダメっすよ♡」
正直な所を言えば、ソリュシャンやルプスレギナたちに語ったり語られたりした愛はどうでもいいとまでは言わないが、ルプスレギナが言ったように細かいところまでは気にしていない。
重要なのはアルベド様である。
アルベド様にも愛を語ったし語られもした。好きと言ったし言われもしたので、二人の交わした愛は男女間の愛情を意味するのは間違いないと思うのだが、斯様に多様な意味を持つ愛をどんなおつもりで使って、どんな意味で受け取ってくださったのかとても気になる。
しかし、そんな細かい話をアルベド様にお窺い出来るわけがない。
察する、つまりは忖度。そして行動で示すしかないだろう。
「二人とも後にしてくれ。後でゆっくり受け取るから……っ!? ミラ、ドア、静かに開けろ!」
「かしこまりました!」
ミラがドアへ駆け寄り、静かにドアノブを回してゆっくりと引いた。
顔だけ廊下に出して左右を見回し、
「何もございません」
「…………あれ? 気のせいだったかな?」
ミラではなく、男自身が廊下に飛び出ていれば、得も言われぬ芳しい残り香を嗅ぎ取ったかも知れない。
生憎、ソリュシャンとルプスレギナに絡み付かれて身動きがとれなかった。
「相談役殿は書斎におりませんでしたでしょうか?」
「いいのよ、大した用事じゃなかったし。私のことは伝えなくていいわ。戻るわ。お掃除ご苦労様」
「はい、ありがとう存じます!」
▼ ▼ ▼ ▼
一方その頃、プルプルして俯いているアウラは、ドヤ顔のシャルティアに肩を組まれていた。
本作を書く前からオバロ二次なら使おうと思ってたエピソードです
一般版でやろうとも思いましたが多分書かないので以下にあらすじ供養
ガチートオリ主(管理者権限で色々盛り盛りした運営側でレベル100万くらい)が原作開始千年前に転移
千年間ですっかりやさぐれた所へナザリック登場
ナザリックの悪逆非道に興味ないけどモモンガさん発見して挨拶に
モモンガさんとは打ち解けても、こいつを敵に回すと厄介と判断したアルベド以下が敵意と嫌悪を上面で隠して接待
恒久的な友好のために一番有効なのは、
タイトル「アルベド、お嫁に行く」
タイトルでオチがつき過ぎてますね
万一書いてみたい方がいましたら是非どうぞ