※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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一般、原作オーバーロード、「正義とはこのようなもので御座います」
https://syosetu.org/novel/277996/
本話の前にこんな事を話してました
内容はセバスを聞き役にした正義の解説です
いつか2話目を書くつもりではいるんです

なお、読まなくても全く問題ありません


いつぞやの責任

 突然だがエ・ランテルに戻っている。

 残念ながら帝国への左遷が解かれたわけではない。

 セバス様から「直接会って話したいことがある」との手紙をいただき、シャルティア様にゲートの魔法で連れて来て貰ったのだ。

 

 その際、シャルティア様にローターとバイブの返還を訴えたのだが、「お前の都合で階層守護者である私を働かせる報酬は?」とか「道具に頼るな!」とか「道具に頼って技を錆びつかせるつもりか?」とか「女が楽しむ道具をお前が持っていても宝の持ち腐れ」とか、正論のような屁理屈のような理屈を押し通されそうになったのを「それは道具ではなくアルベド様から下賜された聖具である」と反論したら、「代わりを貰え」とすげなく拒否されてしまった。

 なんとか取り戻したいが、しつこく食い下がってしまうとローターとバイブをティアの調教に使用したことが明るみになり、結果、間接的にアルベド様が調教競争に手を貸したことを知られてしまうかも知れない。それは割とかなり不味い。涙を飲んで諦めた。

 代わりに使用済みパンツを他にもくれるとか。ありがたいけども使用済みでない方が望ましい。勿論のこと自分で使用するわけではない。いつでもノーパンのミラとジュネに履かせるのだ。

 

 なお、シャルティア様から最近の様子を聞いたところ、以前より皆が優しくなったとか。

 シャルティア様のナザリックでの地位失墜を狙って先のナザリックツアーを行ったのだが、ナザリックの方々のお心は思った以上に広かったようだ。

 流石のナザリックである。

 

 

 

 

 

 

 セバス様の要件は、以前デミウルゴス様と交わした言葉についてだった。

 どうやら以前から考えていたようなのだが、中々切っ掛けが掴めなかったらしい。それがアインズ様が近々ご帰還為されると聞き、と言うことはデミウルゴス様もお戻りになると言うことで、今を逃せば次の機会がいつになるかわからないのでお手紙をくださったようである。

 偶然にも、こちらからセバス様にお伺いしたいことがあったので僥倖と言えた。こちらからの要望を、セバス様は快く聞いてくださった。後日、メモを作成して送ってくださるらしい。

 そのような話をしたおかげで、ナザリックにおけるセバス様の役割を察することが出来た。

 

 セバス様は、フットマンなのかバトラーなのかハウススチュワードなのかランドスチュワードなのか、疑問だったのだ。

 フットマンは主人の身の回りの世話をする従者である。ソリュシャンがソリュシャンお嬢様として初めてエ・ランテルや王都に入った際のセバス様の役割が、フットマンだったらしい。

 バトラーも主人の世話をする従者であるが、フットマンより格が高い。フットマンたちのリーダーであり、パントリーの主人でもある。パントリーの主人なのだから、主人の食事の世話を一手に担う。銀器を磨くのもバトラーの仕事だ。スプーンの光り具合を見ればバトラーの質がわかると云うもの。

 スチュワードとなると、バトラーより更に格が高い。スチュワードがいるとバトラーは置かないのが一般的だ。

 ハウススチュワードは文字通りに屋敷の長。ランドスチュワードは領地の長。どちらであっても主人の代理をすることすらある大変重要な役職だ。屋敷や領地の総監督と言ってよい。

 

 ただし、ナザリックにはアルベド様がいらっしゃる。この時点でランドスチュワードはあり得ない。ナザリックの維持管理や運営を、アインズ様に代わって行っていらっしゃるのはアルベド様なのだ。

 現在のセバス様は、アインズ様が留守をしているエ・ランテルの城を預かっている。城と言っても、元はエ・ランテル都市長の邸宅と貴賓館である。エ・ランテルにおける行政機関を置いている場所、と言う意味合いが強い。

 実質が何であろうと城は城で、セバス様がアインズ様の留守を守っている。

 これらから、セバス様はハウススチュワードであると察せられた。

 

 後日、再会した際にその通りであると肯定された。しかし同時にバトラーであるとも言われた。

 アルベド様がいらっしゃる時はバトラー。いらっしゃらない時はハウススチュワードなのかも知れない。

 

 ともあれ、セバス様との会談は有意義なものとなった。

 この後は、シャルティア様が迎えに来てくれるまで特に予定はない。

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルは三重の城壁に守られた城塞都市だ。

 外周部に軍事施設。

 内周部に市街区。麗しの秘薬を扱う店もこの区画にある。つまりは居住区や商業区などの生産区画。

 最内周部が行政区。どこの都市であれ最重要となる意志決定機関が集中している。エ・ランテルにおけるアインズ様の居城もこの区画にあり、アルベド様のお食事処であるお屋敷も存在する。

 

 エ・ランテルに戻ったらやりたいことが色々あった。

 市街区ではパン屋のウィットニーさんが気になっている。ちゃんと営業を続けているだろうか。実はウィットニーさんは伝説の凄腕シーフらしいので、冒険者に復帰してしまったのだろうか。

 冒険者とくれば、モモン様とナーベ様は今もエ・ランテルにいるはずである。

 モモン様の中身のパンドラズ・アクター様からのドイツ語講義はまだ途中だ。発音は様になってきたと思うのだが、上達するには実際に話すのが一番である。現状では、パンドラズ・アクター様としかドイツ語会話が出来ない。

 ナーベ様ことナーベラルは、先だって数日間を一緒に過ごすことが出来た。肉食系のルプスレギナや、比喩ではなく文字通りの肉食系のソリュシャンと比べたらナーベラルはとても奥床しく、艶やかな黒髪はとても良い。

 秘薬を扱うお店にも心惹かれる。エ・ランテルにいた頃は、最低でも週に一度は通って技術の研鑽に励んできた。あの頃より今の方が上達しているはずなので、上達度合いを確かめたくもある。

 

 そして、城の窓から見えるアルベド様のお食事処。主人不在の現状では、単なるメイド研修所になっているはずだ。

 叶うならば城から抜け出して、いっそ様子を見てくるだけでも良い。しかし、帝都にいるはずの己がエ・ランテルにいるのは不味い。今も魔法のマントを着用して正体を隠している。そんな格好で外を出歩いたら怪しいに決まっている。

 

 こうしてエ・ランテルと帝都での生活を比べてみると、エ・ランテルの方が遙かに自由だった。

 大体帝都の屋敷は場所が悪い。高級住宅地らしいが、それぞれの区画が広すぎるせいで市街に出るのも一苦労なのだ。その上、どこかへ出かける時は誰かしらが供回りでついてくる。身の危険を一人で跳ね退けられると信頼されていないがために心配されているのは、ありがたく思うと同時にいささか窮屈に思わなくもない。たまには一人で遊んだりしたいのである。

 ラナーに囚われていた頃は論外で、それ以前は衣食住に不自由しないにせよ路上暮らしで、更に遡って養父母といた頃はここに居るべきでないと強く感じ、物心ついてからは家を出ることばかり考えていた。

 それがいまやなんと贅沢になったことか。これも全てアルベド様のおかげである。これまで以上にアルベド様に尽くそうと決意を新たにした時、誰何の声が掛かった。

 

「ここで何をしているのですか? フードを上げて顔を見せなさい」

 

 聞き覚えのある声だ。

 振り向くと案の定、長い髪を丁寧に結い上げた知的な美女が、鋭い眼差しでこちらを見ていた。整った顔形以上に目に付くのは、大きく盛り上がったエプロンドレスの胸部である。

 

「その目は……、あなたはアルベド様の……」

「それ以上はご容赦を。私はここに居ないことになっていますので」

 

 正体を隠す魔法のマントを身に着けてフードを被っていても、目の光は隠せない。右が青、左が赤の異色光彩は滅多に居るものではない。

 彼女が、ユリ・アルファが知る青と赤の異色光彩は一人しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

「ここが私の部屋になります」

 

 ユリに連れてこられた部屋は広さはそこそこ。ベッドに机にチェストはどれも上質な出来だが、それ以外の調度がない。

 仕事の途中だったのか、机の上には幾枚もの文書が広げられている。

 

「どうぞ楽にしてください。私の部屋と言っても一時的に借り受けているだけですのでお気遣いなく」

「それでは失礼をして」

 

 魔法のマントを脱いでチェストに引っ掛けた。ついでに肩を回して軽く伸びをする。

 

「それで、帝国にいるはずのあなたがどうしてエ・ランテルにいるのですか? アルベド様のご命令でしょうか?」

「アルベド様のご命令ではありませんよ」

 

 今日の次第を簡単に説明した。

 セバス様に呼ばれ、以前デミウルゴス様と話した内容をお聞かせする。会談を終えた現在、シャルティア様が迎えに来てくれるまで時間が空いている。

 外へ出ようにも帝都にいるはずの自分がエ・ランテルを出歩くのはよろしくない。ユリも怪しいと思ったマント姿なら尚更だ。

 すべきことも出来ることも何もないが、何もしなくても退屈することはないので、時間が来るのを待とうと思っている。

 

「……まだ昼前です。シャルティア様の手が空くのは夜になってからではないでしょうか」

 

 シャルティア様はお仕事の前に迎えに来てくれて、再度迎えに来てくれるのはお仕事を終えた後である。

 セバス様との会談はそこそこの時間を要したが、丸一日掛かるものではなかった。

 

「ご心配なく。時間を潰すのは得意ですから。食事もナザリックで頂いたレーションがあります」

 

 十余年も囚われていたのは伊達ではない。その気になれば年単位の時間を苦もなく潰せる。

 食事についてはセバスから誘われたが、余人に姿を見られるわけにはいかないと丁重に辞退した。レーションは先のナザリックツアーのお土産である。

 

「そうでしたか。それでは少々あなたの時間をお借りしてもよろしいですね?」

 

 眼鏡の奥で、ユリの目がキラリと光った。両手を腰に当ててやや前傾姿勢になる。

 厳しい顔を突き出し私怒ってますアピールらしいが、そんな姿勢をされるとたわわに揺れる双丘に目が行ってしまう。

 

 涼しい顔をして頷いた男は、内心では少々焦っていた。

 責任の件である。ユリとセックスした責任を全く果たせていないのだ。

 ユリがセックスしたい時に相手をするのが己の責任であると思っているのだが、帝都に左遷されてしまったために一度も出来ていない。自分の意志で帝都にいるわけではないので不可抗力と言えなくもないが左遷されたのは己の所行故なので、ユリからそんなの関係ないと言われたらそれまでである。

 一方、ユリが言っていた責任とは何故か結婚についてだったので、こちらについてなら少々報告することがある。

 果たしてユリの話は、全く想像していない物だった。

 

「アーちゃんに何言ったの?」

「アーちゃん?」

 

 聞き覚えがない名前だ。ちゃん付けで呼んでいるのでユリとは親しい人物なのだろうが、ユリの交友関係を全く知らないため、見当がつかない。

 まさかアインズ様をアーちゃん呼ばわりしているわけではないだろう。

 

「アウラ様のことよ。アウラ様の創造主であられるぶくぶく茶釜様とボクの創造主であられるやまいこ様はお互いに気の置けない仲でいらっしゃったの。その縁でアウラ様とボクは親しくさせてもらってるのよ」

「そうだったのですか。アウラ様には大変お世話になっております。最近もアウラ様とお話することがありました。それについては、アインズ様がお戻りになったらアウラ様からご報告なさると思いますよ」

「そうなの?」

「そうなのです」

 

 思っていたのと違う意外な答えに、ユリは目を瞬かせた。

 

 先日、アウラ様に添削してもらった地図は絶賛修正中である。尤も、アウラ様の気を引くためにわざと間違えて書いた箇所ばかりで、根本から間違っていた部分はなかったようだ。

 その気になれば10分と掛からないで終わる。ただし、誰も字が読めなくなる。自分が時間をかけて丁寧な字を書くより、ソリュシャンとルプスレギナに清書して貰う方が早いし楽である。

 

「ってそうじゃなくて、アーちゃんに変なこと言ったでしょ?」

「変なことと言われても心当たりはありません。具体的にどのようなことでしょうか?」

「それは…………」

 

 言い淀むユリは、頬を赤くした。

 ユリが顔を赤らめる理由に、男の方はやはり見当がつかなかった。

 そもそも変なことがわからない。アウラ様との話は、比較的に真面目なお仕事の話ばかりだ。

 女性の体について話したことはあったが、全く変な話ではない。アウラ様に必要な至って真面目な話である。万が一にもこちらの話だとしても、口と前と後ろと三つの穴を経験済みなユリが恥じらうことでもないだろう。

 

「それは……だから……、変なことだよ!」

「ですから、変なこととは何のことでしょう?」

「だから…………!」

 

 空虚な掛け合いを繰り返す。話が進まないことに苛立ったユリは、覚悟を決めた。

 真っ赤な顔で男を睨んだ。

 

「アーちゃんにおまんこがどうのって言ったの君だろ!?」

「ええ、言いましたよ。アウラ様は興味があるご様子でしたし、いずれ必要となる知識です。ですが、どなたからも教えてもらわなかったようで、僭越ながら私から説明しました。それが何か?」

「なっ……なっ……なっ…………!」

 

 男はしれっと答えた。何が変なことか全く分かっていない様子で、顔色も表情も変わらなければ怪訝に首を傾げる始末。

 

 アーちゃんに変なことを吹き込んだどこかのどいつは見つけたらぶっ飛ばしてやると意気込んでいたユリなのだが、余りにもあっさりと一点の悪気も申し訳なさも感じさせずに答えられて、成敗するのが不当であるかのように錯覚してしまう。

 

「確かに、アウラ様のお体では出来ることも出来ません。それはあくまでも今のアウラ様にとってです。また、体は幼くても実年齢は私より上だそうで、精神の成熟度合いは成人と大差ないのではないでしょうか?」

「だからってアーちゃんにはまだ早いよ!」

「それを判断するのはユリさんなのですか?」

「うっ!? …………アーちゃんの近くにいる大人として当然、でしょ?」

「アウラ様の精神の成熟度合いは成人と大差ないと言ったばかりです。アウラ様ご自身が判断するべきです」

「でもアーちゃんはまだ…………うぅ……」

 

 ここでアーちゃんはまだ子供だと言ってしまうと、アウラの耳に入ったら間違いなくへそを曲げられる。まだまだ幼いと自覚があるから大人ぶりたいし子供扱いを嫌がるのだ。

 それにとっても腹立たしいことに、男の言葉に一理なくもない。だとしても、どうしてお前が教えるんだと言えなくもないが、教える者が他にいなかったと先回りされている。

 残念ながら、ユリではこの男を言い負かすことが出来そうになかった。

 

「母のように姉のようにアウラ様を見守りたい気持ちはわかりますが、アウラ様の人格を尊重すべきですよ」

 

 嘘である。そんな気持ちがこの男にわかるわけがない。しかし、ユリはそう思っているのではないかと推測することは出来た。ソリュシャンから無駄に押し付けられてきた各種小説を読んできた成果はここでも順調に活きている。

 

「……アーちゃんに変なことしてないよね?」

「これも先に言った通りですよ。アウラ様のお体では出来ることも出来ません」

 

 これも嘘である。不思議な青いキャンディーを舐めて大人の姿になったアウラとする事をしている。先日はアウラの小さな体でおっきくする訓練をして、指を入れたし口を使った。

 嘘なのだけど、本当はどうかは問題ではない。要はユリが納得するかどうかだ。

 ユリとはセックス出来ていないのにアウラとしていると聞いたら怒るに決まっているのだから。

 

 そして卑劣なことに、実は嘘は言ってない。

 アウラの小さな体では出来ることも出来ないと言ってるだけで、何もしていないとは言ってない。ましてやアウラが大人の姿になった時については言及もしていない。ユリが知らないであろう事をわざわざ教えてあげたりしないのだ。

 

「ところでユリさんのお時間はよろしいのでしょうか?」

「暇ってわけじゃないけど……、コホン。暇と言うわけではありませんが、急ぎの用事はありません。ですが、あなたの暇つぶしに付き合うほど時間を持て余しているわけでもありません」

「私のことは気になさらないでください。私は退屈しませんので。私からユリさんに話しておくべき事があるのです。よろしいでしょうか?」

「お聞きします。何でしょうか?」

「その前に、掛けても構いませんか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます」

「………………」

 

 ここまでずっと立ち話だった。

 来客を想定した部屋ではないので、応接セットはおろか、椅子は机と対になってる一脚しかない。

 ちょっぴり怒り気味だったユリが詰め寄ったため、男の立ち位置は机とは反対側のベッドに近い。

 だからと言って、女の部屋のベッドに腰を下ろすのはどうなのだろう。

 まさか隣に座るわけにはいかないし、自分だけ立っているのもあなたとは話したくないと意志表示しているようで決まりが悪い。

 仕方なしに、ベッドの隣に椅子を移動させた。

 

「ユリさんからの申し出についての話です」

「私からの申し出?」

「お忘れですか? ユリさんから、責任をとって結婚して欲しいと言われました。私の記憶違いでしょうか?」

「……忘れてないよ」

 

 ユリの顔が、アウラの話をした時よりも真剣なものになった。

 あんなことをされたのだ。忘れられるわけがない。

 この男は、責任とは可能な限り相手をする事とか呆けた事を言っていたが、そうではない。

 結婚したら結果として同じ事になるのかも知れないが、それは別の話だ。

 

「ユリさんからの申し出をアルベド様とアインズ様にもお話ししました」

「それ本当!? どうだった? 何か言われた?」

「結婚を認めない、とは仰られませんでしたよ」

「はああああぁぁああーーーーー…………………………!」

 

 いきなり出てきた上位者の名前に身を乗り出したユリは、悪くない返事を聞いて浮いた腰を落とした。深い深い安堵の息が勝手に漏れ出てくる。

 結婚における最大のハードルが、アインズ様とアルベド様に認めていただくことなのだ。それをクリアしたと言うのだから安堵の余りに力が抜けるし、難事をこなしてくれた事を嬉しく思うし、心の底から喜びがこみ上げてくる。

 

「但し、すぐに結婚と言うわけには行きません。実務的な理由として、近い内にアインズ様がご帰還されるそうです。私もユリさんも忙しくなるでしょう。また、アインズ様からお言葉を預かっております。『結婚のような重大事は簡単に結論を出して良いものではない。最低でも一年は熟慮せよ』との事でした」

「一年も考えてボクと結婚しないなんて言わないよね?」

「勿論言いませんよ。私がユリさんを迎えるのか、それともユリさんが私を迎えるのか、どのような形になるかはまだ考えておりませんが、ユリさんとの結婚を拒むつもりはありません」

「………………嬉しい!」

「うわっと」

 

 感極まったユリが、男に抱きついた。男をベッドに押し倒したようにも見えた。

 

 このように、古今東西を問わず男が女を騙す常套手段は結婚を匂わせる事である。

 男は去ろうとする女を逃さないよう結婚をちらつかせ、結婚を夢見る女はまんまと餌に釣られてしまう。

 尤も、この男は嘘を言ってるつもりはない。ユリだけと結婚すると言ってないだけだ。

 

 実のところ、であるが。

 アインズに結婚についての話をした時のこと。

 争う三姉妹をどうにかしろと言うアインズに、自分がどうにかして良いならば結婚なんて面倒くさそうなので誰ともしない、と言うつもりだった。

 もしもそんな事を言ってしまったら、アインズですら目を背ける惨劇が繰り広げられた事だろう。

 

 己の美貌と女としての魅力に多大な自負があるプレアデスの三姉妹だ。それが事もあろうか面倒だからヤダなどと言われようものなら女のプライドもプレアデスの名誉もナザリックの威光すら木っ端微塵だ。

 絶対に二度と何があろうとけっして生き返らないよう入念に男を殺し尽くしたら、三姉妹は疾く自裁しただろう。

 偉大なるアインズ様の前でプライドを打ち砕かれる恥辱の極致を晒して生きていけるほど図太い三姉妹ではないのだ。

 

 あの時のアインズは、この男に任せたら絶対にろくでもないことになるとの直感に従って男の言葉を遮ったわけだが、結果として超絶とも言えるファインプレーになっていた。

 

 現在でも面倒と思うのは変わらない。

 しかし、ティアの調教をする際、ソリュシャンの助力を得るために言質を与えてしまった。

 ソリュシャンだけと結婚するのは不公平なので、それならばと言う奴だ。

 そのソリュシャンはレイナースを第六夫人にしてみてはと言うくらいなのだから、反対はしないと思われる。今になっても第一から第五がどうなっているのかわからない。

 

 

 

 

 

 

「あっ、ごめん……」

 

 どんな体勢になっているか気付いたユリは顔を赤くした。

 男の人をベッドに押し倒している。誰が見てもユリから迫っている構図だ。

 慌てて起き上がろうとして、男の手が自分に伸びてくるのを見た。

 そんなつもりはないので、抱き締められたりするのはよろしくない。ベッドの外だったらキスくらいは。

 しかし男の手はユリに触れることなく元の位置に戻った。

 何だったんだろうと思うと同時に、頭が少しだけ軽くなったように感じた。

 はらりと視界に黒い物が流れる。何をされたのか瞬時に悟った。

 

「何するんだよ! この形にするの大変なんだぞ!」

 

 黒い物はユリの髪。

 男の手は、ユリの長い黒髪を結い上げる髪留めを奪ったのだ。

 

「ユリさんの髪は黒髪ロングと聞いたので、髪を解いてるところを見てみたかったんです。整えるのは私が手伝いますよ。慣れてますので」

「だからって一言あってもいいだろう?」

 

 いつもは夜会巻きに結い上げている髪が解かれると、長い髪が頬に触れたり視界を遮ったりと違和感がある。

 ベッドから起き上がるよりも流れる髪を掻き揚げようとして、今度こそ男の手がユリの体に伸びてきた。両手が使えないのであっさりと囚われ、コロンと上下が入れ替わった。

 

「なっなっ、なに、するんだ!」

「妻と夫がするべきことですよ」

「それって……!」

 

 いつぞや許してしまったことをもう一度。今でも鮮明に覚えている。忘れたことはない。

 結婚の話が出た直後で、妻と夫がする事と言われたら拒否しがたい。時間はないではないと言ってしまった。

 受け入れるための言い訳が勝手に頭を過ぎってる間に、ヘッドドレスと眼鏡を奪われた。

 

「眼鏡を外して髪を解いてるユリさんはとても新鮮です。お綺麗ですよ」

「まだ昼間で外は明るいんだよ!?」

「それが何か? 明るい時間に、しかも馬車の上で胸を触らせてくれたでしょう?」

「うっ…………」

 

 それを言われてしまうと、何も反論出来なかった。

 しかもあの時は、ユリの方から胸を触りたいかと持ちかけたのだ。

 

「今日はルプーがいませんし、ソリュシャンが覗いてるわけでもありません」

「…………」

 

 ソリュシャンは覗いてたとは思っていたが、実際にそうであると言われるのは恥ずかしくもあり、妹が何を考えているかわからず、かと言って今更問い詰めるのも機を逃した感があり、複雑な思いを抱かされた。

 それにルプスレギナは目の前で見ていた。首を外されて、口であんなことをさせられた。

 

「……乱暴なことしないって約束して」

「お約束します。ユリさんも同じ事を約束してもらえますか?」

「うっ…………、約束、するよ」

 

 これまた厳しい言葉である。

 馬車の上で胸を触られていた時、遠くに人影を見つけて反射的に男へ肘打ちを食らわせた。

 瀕死の重傷を負わせてしまい、それが前回に繋がってしまった。

 

 

 

 ユリに優しい笑みを向ける男は、内心で胸を撫で下ろしていた。

 セックスするのが責任なのに一度もしてないじゃないかとの追求は、これでかわせるはず。

 黒髪ロングでおっぱいが大きいユリに欲望を感じるのは当然として、それよりも責任回避のためにユリを抱かなくてはならないのだ。

 

 顔を赤らめるユリを見下ろし、シクススのメイド服より複雑そうなユリのメイド服はどうやって脱がせればいいのか考えた。

 とりあえずやりながら考えようと、まずは赤い唇を優しく奪った。




次で150
あまるの最後に2話使うとして、153話までに終わらないことが確定しました
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