長い廊下を全力で駆け抜ける。
三階の端にあるアルベド様のお食事部屋に着いた時には息が荒れ、動悸も激しい。気温が低いので汗をかかなかったのは幸いだった。
扉を開ける前に、胸に手を当てる。と同時に視界がブラックアウトしたのは、強引に血流を操作したせいで脳に血が足りなくなったから。
肉体にダメージが残り寿命が縮む技であるが、乱れた呼吸と荒れ打つ鼓動は一瞬で収まった。アルベド様の前で息を荒げる無様を晒せるわけがない。
尤も、この程度のダメージならポーションや回復魔法で完全回復。減った寿命も元通り。
更に、色々な方々の厚意により、本人も知らない内に寿命は倍以上に伸びている。その方々の予定だと、倍掛けをあと10回は続ける事になっている。その方々は2倍を10回繰り返すと千倍を超えるのを知らないのかも知れない。
「失礼いたします」
恭しく扉を叩いてから入室する。
扉を開けた瞬間に気付いた。例え目が潰れていても、神々しい美の光に打たれれば必ずや察するものがあるだろう。アルベド様はそこにいらっしゃるだけで真なる美の光を世界に満たすのだ。
アルベド様は一人がけの椅子に浅く座り、脚を組んでいらした。肘掛けに頬杖をつき物憂げな、或いは気怠げな空気を醸し出している。
大股で出来る限り速く、しかし品よく美しい歩き方でもってアルベド様の御前に歩み寄り、跪く。
深く頭を垂れた。
「ただいまエ・ランテルより帝都へ帰還いたしました」
お言葉がなければ動きもない。
跪く直前に見えたアルベド様のお顔からは、如何なる感情も読み取れなかった。
ルプスレギナが言っていた通り、ご機嫌がよろしくないのは確かであるらしい。振り返れば、先だってナザリックにて退去の挨拶をした際も「顔も見たくない」と言われている。直後に冗談と取り消されたが、けして愉快なご気分ではなかったに違いない。
しかし、原因に心当たりがない。
退去の挨拶の前日、訪問の挨拶をした際はいつも通りのお優しいアルベド様だった。夜の間に何かがあったという事だろうか。
「顔を上げなさい」
「はっ」
見下ろすアルベドの美顔に険が走る。
男の胸ぐらを掴んで立たせ、力任せに左右へ開く。プチプチとシャツのボタンが弾け飛び、男の首筋から胸板までが露わになった。
「これは何?」
「これ、と申されましても」
「来なさい」
胸ぐらを掴んだまま部屋の隅まで歩き、大きな姿見の前に男を突き飛ばした。
アルベドは男の首筋を細い指で撫で、一点を指し示す。
白い肌に鮮やかな朱があった。
「これよ。キスマークね?」
キスマークは肌を強く吸うことによって現れる内出血だ。大別すれば傷の一つと言えなくもない。
レベルが上がって回復力も増してきたこの男なら、この程度の傷はすぐに消えるはず。それがあると言うことは、つけたばかりという事。
キスマークはマークと言うだけあって、マーキングの意味合いがある。つけた誰かが、これは自分のものだと自他に主張しているのだ。
「先ほどシャルティア様につけられたものです」
繕う事を知らない素直な男だ。女主人であるアルベド相手では尚更で、虚偽を口に出来ようはずがない。
しかしこの場この時ばかりは誤魔化すべきだった。
「シャルティアァ……?」
アルベドの眉間に皺が刻まれ、険が鋭くなる。
「どうしてシャルティアが出てくるのかしら?」
「帝都とエ・ランテル間をゲートの魔法で運んでいただきました。さきほどナザリックにお戻りになられました」
「そう、シャルティアね。この前もシャルティアを連れて私の前に現れたわよね?」
「はい、競争に負けたペナルティとしてナザリックを案内していただきました」
「一晩中シャルティアと一緒だったわけね」
「そうなります。シャルティア様と二人きりだった時間は短いものでしたが」
「シャルティア、シャルティア。シャルティアばかりじゃない。シャルティアと随分仲が良くなったのね?」
「……シャルティア様は私に様々なことを要求されますが、本日のように私からシャルティア様にお願いすることもございます。険悪な仲ではないのは確かかと」
「険悪と良い仲は大きな隔たりがあるわ。険悪ではない。それなら?」
「……私のお願いを聞いてくださるくらいには良好な仲であると思われます」
「ふっぅぅうううぅううん? 良好、ね。セックスするくらい良好な仲だものね」
「…………」
アルベドが胸を痛めるレベルで女心がわからず、シャルティアが愕然とするレベルで情緒を解さず、シクススがキレるレベルで空気を読まず、ソリュシャンとルプスレギナから「人の心がない」と認定される男であっても、今のアルベドが嫉妬をしているらしいことは察しがついた。
もう随分前のこと、アルベドはこの男がシャルティアを抱いたことについて酷く怒ったことがある。
嫉妬も多分にあったが、自分を差し置いてシャルティアに先に手を出したことが気に入らなかった。
今やアルベドも処女を卒業して自信と余裕を取り戻した。この男は自分の男であるが、シャルティアに貸し出すことに異論はない。サキュバスに貞操観念は存在しないのだ。
ソリュシャンがちゅぱちゅぱしているのも公認している。(尤も、公認されていることを当のソリュシャンは未だ知らない)
帝都にやってきた双子忍者に淫らな調教を施す事については自ら手を貸した。
そのアルベドが、今更シャルティアとの仲に嫉妬するのは意外だった。
怪訝な思いが顔に出た。アルベドは教えてやった。
「あなたがシャルティアとセックスするのはいいわ。あんまり貧相な女が相手だと私の格に傷がつくけど、そうでないならどこの誰としても構わない。だけど……」
美顔にはっきりと怒りが現れた。
「この前ナザリックに来たとき。私の前でシャルティアとプレイしてたわね!?」
男の顔がさっと青ざめる。
思い切り心当たりがあった。
「それは違います。けしてそのようなつもりはなく、アルベド様へのご挨拶を最優先した次第でございまして」
「どんなつもりだろうとしてた事に変わりはないわ。答えなさい。あの時、シャルティアとどんなプレイをしていたの?」
「……シャルティア様にはローターとバイブを装着した状態で、ナザリック内を移動しておりました」
「ローターとバイブ。私があなたにあげた道具ね。バイブをおまんこに入れて、ローターはクリトリスに当ててたのかしら?」
「いえ、バイブは肛門に挿入し、ローターは膣内に入れておりました」
アルベドの想像よりちょっとハイレベルだった。
「私があげた道具で、私の前で、あなたはシャルティアとプレイしてたわけね。この私の前で!!」
繰り返すが、サキュバスに貞操観念はない。
サキュバスとしてのアルベドは、自分の男がいつどこで誰と寝ていても構わないと思っている。自分の男が数多の女を惹きつけるのは、自分の格の高さを主張するも同然である。
女としてのアルベドは、微妙に違う主張をする。どこの誰と寝ても構わないと言えるのは、自分を最優先することが大前提。自分だけが特別であるからこそ、奔放な振る舞いを許容する。
しかし、自分があげた道具で、自分の前でプレイするのは、自分の存在を踏み台にして快感を得ようとする行為である。
踏み台、である。
自分は特別で一番でなければならないのに、踏み台である。
サキュバスとしてなら貪欲に快感を求める姿勢を素直に賞賛したことだろう。しかし、一人の女としては絶対に認められない。認めることなど出来はしない。
荒れ狂う嫉妬心は、自分の中にこのような感情が存在したのかと驚くほどだった。
「もう一度申し上げます。そのようなつもりは決して微塵も考えていませんでした。アルベド様にご挨拶する際はシャルティア様の存在を忘れていたほどです」
「それなら私ももう一度言ってあげるわ。そんなつもりはなくても、私の前でシャルティアとプレイしてたのは事実よ。あなたは私に好きとか愛してるとか色々言ってたけど本当かしら? 口先だけの言葉じゃなくて? 私の前でシャルティアとあんな事してたんですもの。シャルティアの方がいいんじゃないの?」
「違います! 私が真に愛を捧げているのはアルベド様だけで御座います!」
「口でなら何とでも言えるわ。アインズ様も言葉には行動を伴うべきだと仰っておられた。あなたの行動は言葉を裏切ってるのよ!」
アルベドは、ふと違和感を覚えた。
言葉は行動を伴わなければ意味がない。アインズ様がこの男を試した際に仰った言葉だ。
直後に生き返った男は、アインズ様のお言葉を引用してセバスに忠誠の大きさを語ってみせた。この男も聞いた言葉である、はずだ。
しかしあの時、この男はアインズ様のお言葉を聞いていたのだろうか。
束の間の疑問は、男の言葉にかき消された。
「……アルベド様は私の愛をお疑いなのですか?」
鏡越しにアルベドへ向けられた視線は、鋭いが脆い。
何故疑うのかと云う疑念と、わかって貰えないのかと云う不安と。
「聞いているのは私よ。あなたが私に言ってくれた言葉は本当なのかしら?」
信じたいが信じきれない。
今まで交わしてきた言葉と愛を危うくするほど、自分の前でシャルティアとプレイしていたのはショックだったのだ。
「…………私がアルベド様へ捧げる愛が本当であると証明せよ。そう仰るのですね?」
「最初からそう言っているわ」
「かしこまりました」
言葉を尽くしても意味がない。
アルベド様はアインズ様のお言葉を引用して、言葉は行動を伴うべきと仰った。
行動で示すべきなのだ。
男はゆっくりと振り向き、アルベドと相対する。
今日のアルベドは執務を終えた後だからか、常の白いドレスをまとっている。
アルベドが鋭い目で見据える中、男は右手を振り上げた。
「なっ!?」
右手が振り下ろされたのは、至近で見ていたアルベドにも見切れなかった。
今やモモンズ・ブレイドアーツの名を与えられたカタナテックの基本スキル「ブレッヒェン・ロンブス」を応用した起こりを悟らせない振り下ろし。
自分を害するわけがないと思い込んでいたアルベドの油断も大いにある。
結果、男の指は白いドレスの大きく開いた胸元に引っかけられ、勢いのままずり下げた。豊満な美乳がぷるんと揺れながらこぼれ出る。
アルベドは咄嗟に胸を隠そうとして、そのまま男へ向かって倒れてしまった。
胸を隠そうとした左の手首に、白いリボンが結びつけられている。
「アルベド様は、私のアルベド様への愛を示せと仰いました。愛と一言で申しましても様々な形が御座います。ですが、男が女へ、或いは女が男へ捧げる愛の源泉は古今変わらず唯一つ。それを行動でもって示そうと思います」
「私にこんな事をして……、どうするつもり?」
アルベドの手首に結ばれた白いレースのリボンは、アルベド自身がシークレットサキュバススキル・サキュバスクリエイトアイテムで創造したエンゲージリボン・ウィズサキュバスブレッシングである。
エンゲージリボンを結ばれた女は行動を封じられ、拘束を解くには男の精液が必要となる。
アルベド自身にも効果があるのは証明済みだった。
「おわかりになりませんか?」
ぐったりと寄りかかるアルベドを抱き上げ、足が向くのは大きなベッド。
天蓋から降りる紗をかき分けベッドに上り、丁重にアルベドを下ろす。
「私が創造したアイテムよ。自由を取り戻すには精液が必要になる。動けない私を犯すつもりね?」
「セックスを愛の行為とも呼びます。男女間の愛には愛欲が、つまりは性欲が絶対に必要です。シャルティア様とはその気になろうと意識しなければ出来ません。ですが、アルベド様とはそんな余裕がありません。お体に触れているだけで……こうなります」
力の抜けたアルベドの右手を取り、ズボンの上から自身の股間に触れさせた。
自分の体で欲情していることにアルベドの女が悦び優越感を刺激され、思考がピンク色に染まろうとしたところ、アルベドの理性は聞き捨てならない言葉を聞き逃さなかった。
「今……、何て言ったのかしら?」
「アルベド様のお体に触れているだけで」
「その前よ」
「シャルティア様と触れ合うだけではこうはなりません」
「その前よ!」
「男女間の愛についてでしょうか?」
「それよ。説明しなさい」
男は怪訝に首を傾げる。
サキュバスであるアルベド様ならとうにご承知であるはずの事だからだ。
アルベドの首から喉までを覆うネックガードのような装身具を外し、胸元を飾る蜘蛛の巣を模したネックレスを外し、疑問に答えた。
「先に申しました通り、男から女へ、或いは女から男への愛には、性欲が絶対に必要です。性欲があるからこそ相手を欲しいと思うのです。背理法を用いれば自明の事になります」
背理法とは、主張Aを否定することで矛盾を生じさせ、逆説的に主張Aが正しいことを示す証明法である。
「性欲を抱かないが憎からず想う相手。同性でも異性でも、人の形をとらない魔獣でも、非生物である絵画や彫像でも、なんでも構いません。それらが美しく可愛らしければ触れたいと思うことでしょう。良好な仲であれば抱き合いたいとも思うでしょう。戯れが許される仲ならば体に触れ合い、接吻まではあるかも知れません。ですが、それ以上はあり得ません。仲が進んでも親友まででしょう。性欲を抱けない相手を欲しいとお思いになりますか?」
「………………プラトニックラブは?」
「心に重きを置いた恋愛と仰いますか? 仮にそのようなものがあるにせよ、源泉が性欲なのは同じです。相手の体に触れるか否かが違うだけではありませんか? もしも、もっと崇高なものと仰るなら、それは男女間の愛とは全く違うものです。形無き物を信じる信仰の部類と愚考します」
「……性欲がなくても欲しいと思うことはあるでしょう?」
「金を求める者は幾らでもいます。ですが、金に欲情しているから欲しいわけではありません。それは金銭欲、すなわち所有欲です。男女間の愛からはかけ離れたものですよ。対象が金であれ男であれ女であれ、欲情もしていないのに欲しいのは……、そう言うことなのでしょう」
「…………」
受け答えしながら、するするとドレスを脱がせる。
アルベドの腰には一対の黒翼があるため、ドレスは上下で分かれている。
まずはスカート部。動けないアルベドは尻を持ち上げられないので、ゆっくりとずり下ろす。太股が丸見えのスカートなので、ストッキングのたぐいは着けていない。美しい脚が現れる。
ショーツはアルベドカラーの純白。割れ目の部分だけは透け感がある薄い生地で覆っているが、そこ以外はレースになって神秘的な下腹の淫紋がよく見える。淫紋が現れる前であったら髪同様の黒い陰毛が見えていたことだろう。
下着を脱がせるのは後回しにして、次はトップスに取りかかる。折角ずり下げたのだが、頭からでないと脱がせられない。
黒翼を踏まないようアルベドの体を跨ぎ、両腕を上にさせてから脱がせていく。
背の下になっている長い黒髪を抜けるのは少々時間が掛かった。
「……!」
アルベドの髪に注意を払っていたから気付かなかった。
白いドレスの上下を脱がされ純白のショーツ一枚になったアルベドは、虚ろな目で宙を見上げている。
美しい黄金の瞳は、涙に濡れていた。
アルベドが泣いているのに気付かないよう、頬を撫でるのに見せかけて目元を拭う。
拭う傍から涙が溢れてくる。
二度三度と繰り返し、ついには流れ始めてしまった。
(モモンガ様……。モモンガ様はアンデッド。肉を持たない骨のお体。肉を持たないモモンガ様は…………)
アンデッドであっても性欲はある。シャルティアがその代表だ。
しかし、肉を持たない骨の体だとどうなるか。性欲は肉欲と言うだけあって、肉あってのもの。
アルベドはアインズから、この世界に移転した直後に胸を揉まれている。アインズには性欲がないのではないかと思いつつあるが、その時の記憶が一縷の望みを繋いでいた。
完全に断ち切られた訳ではない。しかし、非常に薄い望み。アインズの行動はアルベドの期待を常に裏切ってきた。
仮に、考えたくもないが仮に、アインズに性欲がないとする。
そして男女間の愛には性欲が絶対に必要。
二つの前提から導き出される残酷な答えは、アインズからはアルベドが求める愛がけして与えられない、と云うことになってしまう。
自分は狂おしく愛しているのに、絶対に愛されない。
いや、大切にすると云う意味では愛してくれているのだろう。しかしそれは自分にだけ与えられる愛ではなく、ナザリックのシモベ全てに与えられる博愛だ。
自分にだけ注いで欲しい愛は、アインズの中に存在しない可能性が、ある。
可能性があるどころではない。非常に高い可能性だ。初めてアインズに触れられた一点を除いて、全てがその可能性を強固に肯定している。
絶対にそうと決まったわけではない。
しかし残念ながら、アルベドの頭脳は非常に聡明だった。
過去の言動から前提を抽出し、条件に照らし合わせて演繹的に導かれる結論は、アルベドの自我を砕きかねなかった。
▼
涙を流すアルベドは、少なくない衝撃を男に与えた。
我が愛しき女主人が虚ろな表情で涙を流し続けているのだ。
(アルベド様………………。私に抱かれるのが泣くほどお嫌なのですか!?)
アルベドとは何度もセックスをしてきている。
好きとか愛してるとか、愛の言葉を互いに交わしあった。
甚だ疑わしいと思っているが、アルベドの言葉を鵜呑みにすると、アルベドが産んだ女児は自分とアルベドとの間に出来た子供である、らしい。
わかってもらう為に強引に事を運んだのは確かだ。
しかし、お優しいアルベド様なら受け入れてくださると思っていた。
だと言うのに、まさか涙を流すほど嫌がられるとは!
事を終えた後、厳罰が下る可能性が非常に高い。
死を賜ることも考えられる。
いずれにせよ、アルベドと体を交えるのはこれが最後になってしまうだろう。
「どこへ行くの?」
「少々お待ちください」
動けないアルベドは、ベッドから下りた男の姿を目で追いかける。
天蓋の紗は捲れ上がったまま。男の姿が右へ左へと移動する。
戻ってきた男は、大きな台を持っていた。
ベッドテーブルである。
お食事部屋のベッドは同時に五人は眠れるスペシャルサイズ。端に置くのなら全く邪魔にならない。
男は、ベッドテーブルの上にコトリコトリと様々な物を並べ始めた。
清涼な冷水で満たされた水差し。
細いグラスを数脚。
赤い液体に満たされた数個の小瓶は回復ポーションか。
続いて置かれたのは、ピンク色の円錐。アルベドが創造して男に与えたアナルプラグである。
白くて太い棒が数本。アルベドも男から一つ貰っているそれらは、ディルドである。
ベッドテーブルの隣には白いタオルが山のように積まれた。
悲哀と絶望に心を食われて空虚になっていたアルベドは、さすがに顔を引きつらせた。
あれを全部自分に使われると、きっとスゴいことになる。
アナルプラグとディルドまでだったらわかるが、山のようなタオルはナニを拭くために用意したのか。そこまで必要になるほどの事をするのか、そこまで必要になるまですると言う事か。
十回は出来る男なのに数個のポーションと言うことは、十掛けることの個数になるのだろうか。
「私が持てる想いの限りを尽くして、アルベド様にお伝えいたします」
「……何を伝えるのかしら?」
「アルベド様への愛です」
「私への……愛。あなたは私を愛しているのね?」
「はい。あなたを愛しています」
欲しかった愛はけして得られないかも知れない。
しかし愛しい男は、自分へ直向きな愛を伝えようとしてくれる。
アルベドの自我は砕ける前に、この世への執着を見せた。
男が自分の体に覆い被さって、顔を寄せてきた。
手の平が頬を撫で、親指が下唇を撫でる。
顎を掴んで動かないように固定された。そんなことをされなくても、アルベドに顔を背けるつもりは全くない。
アルベドは赤と青の目に自分の顔が映るのを見て、それが自分の目しか映さなくなった時、唇で命を感じた。
月光蝶Gさんは毎回ユニーク&ユーモラスな感想を書いてくれる得難く有り難い読者です(間違いなく何人もの作者を救っていることでしょう)
中でも本話に書いてくれた感想は特に凄い
本作を本話まで読んでくれた人なら一読の価値ありです