「滞在中はこちらの部屋でお過ごしください。部屋にあるものは自由に使っていただいて構いません。ご用命の際は手近なメイドにお声掛けください。イビルアイ様もご存知のように今は少々慌ただししく、私は所用を片付けなければなりません。また後ほど参ります」
白い女を連れた男が退室するなりイビルアイは窓を開けた。鍵は掛かっていなかった。三つある窓の全てが問題なく開く。
窓に掛かる緋色のカーテンはどのような材質で作られているものか、陽の光を全く通さない。全部のカーテンを引いて閉めると部屋の中は真っ暗になった。程なくして魔法の明かりが仄かに灯る。
カーテンを開けてからドアを開いた。
「御用がございますでしょうか?」
「……いや、何でもない」
ドアを開けた廊下にはメイドが二人立っていた。
イビルアイはドアを閉めて部屋に戻る。
メイドは見た目通りの只のメイドで強さを全く感じない。彼女らを突破するのは容易いことだろう。
たとえドアが使えなくても窓がある。飛行の魔法を使えるイビルアイなので、事あらば窓から逃げればよい。
(ここは敵地だ。あいつらが宿に行ってくれて良かった)
人間とは違う亜人やアンデッドが数多暮らすエ・ランテルだ。この屋敷は人間たちと魔導国中枢との橋渡しとなる場所であるらしいが、信頼は出来ない。魔導国は王国と緊張状態にあり、屋敷の主は魔導国宰相閣下の相談役であるらしいのだ。
かつて王都で対峙した異形のメイドもいる。相性が良くて辛くも勝利を収めたが次はどうなるかわからない。少なくとも、魔皇ヤルダバオトがいないのは確かだ。
彼の魔皇を思い出すと恐怖に震える。その魔皇を倒したのが魔導王。異形のメイドは魔導王に忠誠を捧げているようなので、この屋敷で問題を起こすとは考えたくない。
男が連れていた白いドレスの女を思い出す。
血の気の失せた白い肌。赤い唇から除く氷柱のような牙。黒い眼球に輝く赤い目。どう見ても吸血鬼だ。
吸血鬼をどう思っているのか危険だとは思わないのか。それともあの吸血鬼だけが特別なのか。
▼
「エントマさんの本当の顔、ですか?」
「そうだ。少女の顔をしているがあれは仮面だとお前は知っているのか?」
夜が更けてから、男が白い吸血鬼を伴って再訪した。
日中は白いドレスをまとっていた吸血鬼は、今着ている服は服なのだろうか。仲間のティアとティナも胸当てを外すとすごい格好になるので指摘できないのが何とも歯がゆい。
「それはイビルアイ様がご指摘して良いことではないでしょう。鏡を見ることをお勧めします」
「うっ……」
イビルアイは額に宝石を嵌め込んだ白い仮面をいつも被っている。一人がけのソファに身を預け、男と相対している今も着けている。
「エントマさんがどのようなつもりで仮面を被っているのか聞いたことはありません。仮面を外したところを見たことはありません。エントマさんと顔を合わせたのは今日が初めてなんです」
「仮面の下がどんな顔か気にならないのか?」
「女性が隠していることをわざわざ暴く趣味はありませんよ」
「うっ……」
イビルアイは視線を彷徨わせるが、幸いにも仮面のおかげで動揺を悟られることはなかった、はずだ。しかし、せっかく取り戻した平常心は次の一矢で失われた。
「イビルアイ様が仮面を着けているのは吸血鬼であることを隠すためでしょうか?」
「誰から聞いた!?」
イビルアイはソファを蹴倒す勢いで立ち上がった。絶対に秘さなければならない事なのだ。
吸血鬼はアンデッドである。アンデッドは人類の敵とされている。王国が誇るアダマンタイト冒険者である蒼の薔薇に吸血鬼がいて良い道理はない。
「ティアから」
「ティア!? まさかティアが話したのか!?」
イビルアイは惰性で蒼の薔薇にいるわけではない。他のメンバーとは固い絆がある確信しているからこそ蒼の薔薇の一員でいる。それを裏切られたのだとしたら。
「ティアから、イビルアイ様は蒼の薔薇に加入してから全く身長が伸びていないと聞きました」
「…………は?」
「成人しても背が低い者はいます。ですが、イビルアイ様の御髪の艶からお若いのではと察しました。若いのに成長しない。それと夕食をお誘いしなかったことに不快を感じていらっしゃらないご様子。何か召し上がったようにも思えません」
「……昼に食べすぎたせいだ」
「イビルアイ様を言い負かしたいわけではありませんので、そう仰るのならそうなのでしょう。それが先程イビルアイ様ご自身がお認めになったこととどう関係するのかわかりかねますが」
「くっ……!」
「続けますと、若いままで年を取らない。食事を必要としない。そのような種族がどれほどあるのか存知ませんが、すぐ傍に同じ特性を持つ者がおりますので」
男の後ろに立つ女吸血鬼が頭を下げた。
男の指図を受けて、女吸血鬼がワゴンを二人が挟むテーブルの傍に運んでくる。茶器や酒器が載ったワゴンだ。吸血鬼であるイビルアイは手を付けていない。
男はワゴンからティーカップを一つ取る。カップをテーブルに置き、その中に小さなグラスを入れた。グラスはガラスが分厚く、かなり底上げされている。
そこへ湯を注ぎ、少し待ってから湯の中に指を入れて、
「あちっ」
「ご主人様、私が取り出します」
女吸血鬼が湯の中のグラスを取り出し、ワゴンに備えてあった布巾で水気を拭き取ってからテーブルに置く。
「ペニーグラスというグラスです。別名を一舐めグラス。見ての通り、ほんの一舐め程度しか入りません」
吸血鬼の前に、温めた空のグラスを出す。何を意味するのか分からないイビルアイではない。そんな事は望んでいないと鋭く睨みつけたつもりだが、仮面を着けている。
「ミラ、爪を出せ」
「かしこまりました」
ミラと呼ばれた女吸血鬼が跪き、右手を差し出して人差し指を伸ばす。細い指に雪のような白い爪が光るのは、輝くほど鋭く尖っているからである。
イビルアイの目の前で男がミラの爪に触れ、ややあって赤い血が滲んできた。
ぽたりぽたりとグラスに落ちる。
温められたグラスは血の匂いを撒き散らし、仮面を通してイビルアイの鼻孔をくすぐった。
「私に血の味はわかりませんが、吸血鬼の方々にはとても良い評価を頂いております。イビルアイ様へは食事を振る舞えないのですから、せめて私の血をご賞味ください」
吸血鬼として二半世紀を生きるイビルアイだ。血を啜った事は何度もあるし、白い喉に牙を突き立てたことだって数え切れない。しかし、今となっては昔のこと。ラキュースが率いる蒼の薔薇に敗れて自身が蒼の薔薇の一員となってからは断っている。仲間たちを捕食するようでどうしても気が進まなかった。
戦闘で人血を見ても浴びても、吸血への誘惑は完全に断ち切れていた、はずだった。それなのに、仮面に隠れたイビルアイの目は鮮血を湛えたグラスに釘付けになっている。
「そうじゃないだろう」
男の言葉に、イビルアイは弾かれたように顔を上げる。
男が差し出した指をミラがハンカチで拭おうとしているところだった。
「ですが、その……ご主人様の血は……」
「イビルアイ様の前で、吸血鬼であるお前が、俺の血は不味くて飲めないとでも言うつもりか?」
「とんでもありません! 全くの反対でございます! ご主人様の血はとても香り高く芳醇で魂にすら染み込む至高の美味でございますから私めが舐め取ってしまうのは余りにも勿体ないことでございまして」
「早くしろ。垂れる」
「………………はい」
ミラが血に濡れた指を唇へ運ぶのを、イビルアイは目を皿のようにして見つめた。
ミラへ唐突に訪れた試練である。
たった一舐めで至福の世界に旅立ちかねない血液なのだ。前例が何度もあるので間違いない。色々と成長した今ならば昏倒まではしないはずである。
しかし、至福に酔いしれてしまうのは確実だ。その瞬間を狙って万が一にもイビルアイがご主人様へ危害を加えようとしたら護衛としての務めを果たせる自信がない。しかし、ご主人様は血を舐めとれと仰せである。
「はふぅ…………」
赤い唇が閉じられた。しばらくして、引き抜かれた指と唇とで銀色の糸を引く。
ミラはうっとりと目を瞑り、自身の唾液で濡れたご主人様の指を拭うのも忘れて豊かな胸を両手で押さえる。
イビルアイは喉を鳴らした。反射的に尋ねていた。
「……美味いのか?」
「美味いか、ですって?」
何が気に障ったのか、ミラは目を釣り上げて立ち上がる。
「それは太陽は東から登るのかと聞くのと同じです。美味なのは当然ですがそれだけではありません。もしもご主人様の血を指して美味と呼ぶのなら、この世にあるありとあらゆる料理は泥をこねているのと同じです。ご主人様の血をそのような次元で語ってはいけません。味覚を幾つも超越した超次元における味覚が存在するのなら美味と呼んでも良いのでしょう」
「だそうで」
「はっ!? 申し訳ございません!」
イビルアイはその場に跪くミラから視線を外し、再びテーブルの上へ。
「折角温めたグラスが冷えてしまいます。どうぞお飲みください」
「……そこまで言うなら」
仮面をずらし、小さなグラスを手に取る。
仮面の下には細い顎と形の良い赤い唇が覗く。グラスに唇が触れ、赤い舌が赤い血を舐め取った。
イビルアイの手から離れたグラスは、テーブルに落ちる前にミラが受け止めた。
舌に触れると同時に感じた強い酩酊感が不快にならなかったのは、それ以上に強い陶酔感があったからだ。
美味と呼ぶなら確かに美味だろう。濃厚な旨味がある。舌触りはなめらか。僅かに感じる甘みは吸血鬼独特の味覚によるものか。それだけで全身で感じるほどのものがあるとは思えない。これは確かに、味覚を超越している。血を嗜む吸血鬼の超感覚でしか味わえない至高の美味。
あえて難を言うならば、強すぎる。たった一口で忘我の域に至ってしまうのだから、続けて飲んでしまったらどうなってしまうかわからない怖さがある。
体中に力が漲ってくるようでいて心地よい酩酊感が続き、久しく忘れていた満腹感はこれなのだと教えてくる。如何に美味だろうとこれ以上飲めそうにない。
「なっ!? 何をしてる!?」
ミラ曰く、味覚を超越した至高の美味は時間感覚をも狂わせたらしい。イビルアイが至福の世界から現世に戻ってくると、ソファの向きが変わっていた。
眼の前に男が片膝をつき、立てた膝の上にイビルアイの右足を乗せて靴を脱がせに掛かっている。
「先ほどマッサージを行いますと申しましたらイビルアイ様はご了承くださいましたのでその準備をしております」
「そ、そんな事を言ったのか?」
「はい。吸血鬼であるイビルアイ様は睡眠が不要なのでしょう? それでもベッドに横たわれば心身が休まるはずです。その一助となれるようマッサージを申し出ました」
イビルアイには聞いた覚えも答えた記憶も全くない。
成り行きに混乱している最中にも靴が脱がされ、細い足を包む黒いストッキングを脱がされようとしている。
待てと言おうとした時、横に片付けられたテーブルの上に白い仮面が置かれているのを見た。イビルアイが着けていた仮面だ。と言うことは、今は素顔を晒している。
仮面を着けるか男を止めるか、それよりも重要なことに気が付いた。
「ま、待て! そこからだと、その……スカートの中が見える!?」
二半世紀を生きた吸血鬼にして女以前の少女であるイビルアイだって女の子である。男の人にパンツを見られるのは恥ずかしいのだ。
「それなら私は目隠しをしましょう」
ミラが持つ白いハンカチを目に巻き付け、男はイビルアイのストッキングを脱がせた。
▼
アインズ様からスペシャルオーダーが下っていた。
イビルアイを部屋に案内した直後、男は事の次第を書面に書き起こしルプスレギナに持たせて城へ走らせた。
事が自分の権限内で収まることなら兎も角、イビルアイの望みはモモン様と会うことである。アインズ様にお伺いを立てなければならない。
イビルアイはエントマの仇敵であるらしいので処分するのか、それともアルベド様の恩人として持て成すのか。
処分する際は王国の冒険者がエ・ランテルで消息を絶つ際に生じる問題点を上げ、それぞれの解決策も記す。持て成すのであれば当方で判断。もしもモモン様としてお会いなさるのならば場を整える。
ルプスレギナが持ってきたアインズ様のお言葉は「うまくやれ」であった。
アインズ様は面倒になってしまったのだ!
聖王国を属国化したばかりで内政がとても忙しいのである。イビルアイがどうのこうのとか面倒で相手をしていられない。
エントマのことを思えばどうにかしてやりたいがその後が面倒そうである。
モモンとして会うつもりもない。忙しいのだから更なる面倒事は絶対いやなのである。なお、モモンはトブの大森林に出張中。春になってモンスターが活発化してきたのを様子見に行っている、と言うことになっている。
アルベドの危険が払われたと言うのはコメントに困るしアインズ自身の責がないでもないような気がするが恩を感じるならお前の方でうまいことやれ、である。
スペシャルオーダーを受けた男が下した結論は、いい声で鳴かせて泣かせてメッタメタにしてから猟奇的な意味でグッチョグチョにしてやればいいと宣うソリュシャンとルプスレギナの意見を却下して、魔導国に取り込むことだった。
石ころ冒険者であろうと王国では大きな存在であるらしい。それを魔導国の所属とすれば、王国が失った力がそのまま魔導国の力となる。適度に持て成せばアルベド様の危険を払った恩を返せる。一石三鳥である。
具体的な策として、ティアとティナに出来なかったことをするつもりだ。理と利を解いてイビルアイの判断で魔導国へ鞍替えさせるのである。しかしながら現在、国家間の関係とエントマとの因縁で大分警戒されてるようである。
第一段階として、警戒を解くことから始めなければならない。血は大層美味しかったようなので、続いてのマッサージで体をほぐしてもらうのだ。
▽
足の裏を揉みほぐされているイビルアイは、難しい顔で男を見下ろした。
そんなところを触られればくすぐったいはずだが、しっかりと力が入っているのでくすぐったさの代わりに不快にはならない程度の鈍い痛みと心地よさがある。
男の手が離れれば触れていた箇所へ血が駆け巡り、吸血鬼の冷たい体が温まってきたような気がする。強い刺激からの開放感も心地よい。
「痛くはありませんか?」
「少し。だがこれくらいなら問題ない」
「かしこまりました。今の強さで続けていきます」
右足の次は左足。続いてふくらはぎに移った。細い足首を大きな手が包み、膝裏まで滑る。ここまでは問題ない。
男の手が膝を越えると、イビルアイは太ももを閉じた。
「脚を開いていただけませんか?」
「……本当に見えないんだろうな?」
幼さがある少女の声。イビルアイが着けていた仮面はマジックアイテムで着用者の声を歪ませる効果があった。
今は素顔を晒して、声も本当の声である。
「目隠しがなければイビルアイ様のお顔を拝見できるのですが、生憎見えません」
「さっき見ただろうが」
どこかのお姫様と言われたら頷けてしまう整った顔だ。それなのに仮面を着けていたのは、白い肌と鋭い牙を隠すため。綺麗な顔だろうと一目で吸血鬼とわかってしまう。
男の方とて見えないのは幸いだ。高慢チキな金髪ロリを視界に収めるのは精神衛生にとても悪いのである。
「見えないならいい」
男は目の前に跪いている。太ももを開くとスカートの奥が見えてしまう位置。
真っ赤な外套の下は黒いワンピースレオタードである。スカート部分は膝より大分上なのだ。普段はストッキングを履いて防御力は十分だが脱がされている。
血に酔って思考がいささか雑になってる自覚があるイビルアイでも見られてしまうのは恥ずかしい。見えないなら一先ず大丈夫と判断して太ももを開いた。両膝に男の手が乗せられた。
「あっ!」
薄く開いた太ももを、ぐいと大きく開かされた。暗かったスカートの内側の一番奥まで光が差し込む。男が跪いていなくても、対面に座っていたら見えてしまう大股開き。
(大丈夫だまだ慌てる時間じゃない安心するんだキーノ、私はイビルアイだろう! あいつは目隠ししてる。絶対見えないはずなんだ。仮に見えても着替えたばかりだ!)
目をぐるぐるさせてるイビルアイとは対象的に、男は冷静に「黒か」と口中で呟いた。
目隠しに用いているのは薄手の白いハンカチである。遠くは見えないのでイビルアイの顔が見えないのは本当だ。けども近くのものは白く霞むがちゃんと見える。
イビルアイは黒いショーツを履いていた。衣服は黒。ストッキングも黒。黒が好きなようである。
幼い容姿とは裏腹に、意外と布地面積が小さい。生地も薄いようだ。
下着の効果とは秘部の保護の他に防寒がある。吸血鬼であるイビルアイに暑さ寒さは関係ないので、小さな下着で事足りるのだろう。
小さなパンツに惑わされることなく、男はマッサージを続ける。
両太ももを上から掴み、ゆっくりと進める。薄い肉付きながらも柔らかい肉が手で圧され、小さく波打つ。男の手はスカートの中に隠れ、根本付近までたどり着くと進んだときと同じ速度でゆっくりと戻る。
緊張に体を強張らせていたイビルアイだったが、同じことが何度も繰り返されれば慣れてくる。それに気付いてか、スカートの中に潜る男の手が少しずつ終点を深くしてくる。ほとんど脚の付け根にまで来るようになり、さするだけだったのが揉むようになる。
「太ももの下部に移ります。浅く座っていただけませんか?」
言われた通り、ソファの縁に尻を乗せて足を伸ばす。男は両手の親指と人差し指で作った輪でイビルアイの太ももを包み、膝から脚の付け根までを圧していく。
脚の付け根から戻ってくる時は、体が引き伸ばされるように感じた。
下半身を男に触られるのは初めてのイビルアイなので、大いに緊張し大いに警戒したが、男を見続ける内に自身のはしたなさを恥じた。
目隠ししている男の口は固く結ばれ、真剣そのものだ。よくよく見れば、額にうっすらと汗が滲んでいる。大した作業量ではないのに汗ばむほどのことかと思うが、十ある指の一本一本が繊細に力加減を変えている。体力より神経を使う作業なのだろう。
つま先から生じた熱が体が駆け上ってくる。温浴と似ているようで明らかに違う。男が触れている箇所を越えて、更に上ってきている。
「脚を上げていただきます。大丈夫とは思いますが、滑らないよう念の為に肘掛けを掴んでいただけますか?」
「こうか?」
脚は何度も上げているがソファから滑り落ちるほどではない。内心で首を傾げるが、イビルアイは素直に肘掛けを掴んだ。男は真剣にマッサージをしているのだから、今更疑うことはない。
事実、他心なく真剣にマッサージをしているのだ。ちゃんとしたマッサージなのだから、揉んだりさすったりだけでは足りないのである。
「なななっ!!」
男はイビルアイの両膝裏に手を入れると、そのまま上へ持ち上げたのだ。
膝の高さはイビルアイの目線の位置にまで届き、尚も押される。膝頭が肩に触れた。
「さすがに体が柔らかいですね。太ももとふくらはぎを伸ばしていきます。もしも苦しかったり痛みを感じるようでしたら仰ってください」
「だ、だいじょうぶだが、これは……!」
「大丈夫でしたら続けても問題ありませんね。膝を伸ばしていくので、ミラ。イビルアイ様の足首を持て。ゆっくりと上げるんだ」
「かしこまりました」
彫像と化していたミラがイビルアイの足首を持って膝を伸ばす。
イビルアイはつま先を真上にしているのはいいが、その下が大問題だ。
両足を上げているのでスカートが完全にめくれている。ソファに浅く座っているため、股間を前に突き出している姿勢だ。
男には見えていないとわかっても恥ずかしい姿勢で、同性であるミラには下着が見られてしまっている。
抜け出そうとほんの一瞬だけ力が入ってしまったが、ミラの方が力が強いらしくびくともしない。
「うっ……!」
その一瞬後には男の手が脚に触れた。
脚の付け根に近い太ももの下部を掴み、強く押しながら滑っていく。
膝裏まで来るとぐいぐい押して、イビルアイは脚の筋が伸ばされるのを感じた。姿勢はあれでも、本当にちゃんとしたマッサージであるらしい。
「苦しくはありませんか?」
「だ……だいじょうぶ、だ……」
足首を押さえる女をちらと見上げる。
ミラは目を閉じて足首を掴んでいる。顔にはこれと言った感情を上らせていない。他意はなく、本当にマッサージの補助であるらしい。
ティアが見ればあれな忍び装束を脱ぎ捨て仲間に入ってくるであろう光景は、本当にマッサージなのだ。
「うぅ……」
男の手が太ももの裏を往復する。
上に行くときはいいが、下に来ると太ももの内側へ回っている親指がパンツに近付く。
さっきと同じように終点が段々と深くなり、股間に触られるのをイビルアイが覚悟すると、親指はひょいと避けた。
肩透かしである。
気が抜けたのはほんの一瞬、男の手は上に戻ることなく一番下まで滑っていった。
「お、おい!」
「何か?」
「い、いや……、さっき……」
イビルアイが思わず声を荒らげた時には、太ももから膝の方へ戻っていた。
「だ……、だから!」
「何でしょう? 何かご不快でしょうか?」
「不快なわけじゃ……。もういい!」
「それでしたら続けさせていただきます」
「ひぅっ……」
男の手がまたも一番下まで来る。
イビルアイはソファに浅く座って両足を高く上げ、股間を突き出している。
その状態で太ももの裏を一番下まで触られると、尻まで来るのだ。生尻を触られた。
淀みなく動き続ける内の一瞬だったが、確かに尻を触られた。
尻を直に触るというのは、何と言うかあれと言うか、一言で言っていやらしいことだ。
だと言うのに男の態度に下賤なものはない。真剣な表情で太ももを揉みほぐしている。それなのに、「いやらしいことをするな」と言ってしまったら自分のほうが意識していると白状するも同然だ。ティアとティナとは違うのだ。いやらしい女になってしまうつもりは毛頭ない。
自分さえ変に意識しなければ極々真っ当なマッサージなのだ。
平常心平常心と唱えているイビルアイは、太ももを揉みほぐす手が一番下で揉まれるところを考えないようにしていた。
「ひゃあっ!?」
今度こそ親指が脚の付け根に触れる。秘部を覆うショーツの縁に触れている。
男の両手は蠢き続け、太ももを揉まれると同時に親指は上下に動き始めた。
「動かないでください。おかしなところを触ってしまいます」
「おおおおかし!? だってそこは、そこは……」
「ですから触れないように気を付けています。あまり使わない箇所なのでしょう。大分凝っていますよ?」
「……そうなのか?」
「はい。普段使わない部分は意識しないとわかりにくいものです。じっくりほぐしますので、これまで通り気を楽にしてください」
「…………わかった」
飛行の魔法が使えるイビルアイである。走るより飛んだ方がずっと速い。
そのため、凝っている部分は股関節だと思った。真摯なマッサージが続いているし、おかしな所に触れないよう気を付けている、らしい。近付いても触れられていないのは確かだ。
おかしな所を意識しているのは自分だけ。
一方、真面目にマッサージを続けている男が意識したのは女性器であった。
イビルアイは世紀を超える処女なのだ。一人遊びなぞ夢想したこともない堅物である。
今でこそ仲間を手に入れたイビルアイだが、かつては一国を滅ぼし国堕としと恐れられた吸血鬼である。モモン様が現れるまで男とは無縁の吸血鬼生だった。
顔さえ晒せば吸血鬼であろうと言いよる男はあったろうが、幸か不幸かそんな事にはなってない。なったとしても、顔だけ見て言い寄る男をイビルアイが相手をするかどうかは別問題。
「ふぅ……ふぅ…………はぁ……」
ショーツの縁に触れた親指は、薄布を避けて肌へと直に触れた。
性器周りの柔らかい肉だ。太い親指に頼りなく押し込まれ、弄ばれている。
もしも親指だけが動いているのだったら、平常心のために自己暗示を掛けているイビルアイでもいやらしい事だと気付けたかも知れない。しかし、親指以外の四本の指も太ももをしっかりと揉んでいる。
五本の指が連動することなく一本一本独立して動くマッサージは、この男にしか出来ない。
(あそこに触らないようにしてるし、普通のマッサージ、のはずだ。だが体が……、変な気分だ。マッサージとはこういうものなのか? この体にそんなものの効果があるとは思わなかったが……。本当に見えてないよな? 見えてたら私のあそこが……!)
太ももをさすっていた時と同じで、親指が触れる範囲は徐々に広がっていく。
触っているのはあくまで周囲の柔肉だが、ショーツに隠れた割れ目の下から上までを撫でている。
上下の範囲が広がるなら左右もそうで、親指と親指の感覚が狭まってきた。揉みほぐしているのは脚の付け根ではなく、陰唇と言って良い。
それに釣られてショーツも内側へ追いやられている。
イビルアイは、はぁと熱い息を吐いて肘掛けをぎゅっと握った。
二半世紀を超える生で、イビルアイの女は生きるために切り離され心の奥底に沈殿していた。
それがモモンに救われたことで女であることを思い出す。今や男の手でかき回され、体がはっきりと思い出した。
単なるマッサージだと思い込もうとしているイビルアイは気付かない。心より先に体が気付いた。
「あぁ…………。まだ、続ける、のか?」
「少しずつほぐれているのがわかりますよ。もう少しです」
「…………っ!」
親指は狭まりショーツは内側に追いやられ、未成熟な性器を覆うだけとなった。
ミラに足首を掴まれ吊るされたような姿勢のせいで、少しずつ尻が前に滑っていく。そのせいでショーツが引っ張られ、割れ目に食い込んだ。
イビルアイの体感では、大切な部分を紐で隠しているようなもの。
「ふぅ」
「ひゃぁぁあ! いいいいいきをするな!!」
「無茶言わないでください」
吸血鬼と違って人間は呼吸しないと死んでしまうのだ。
男が吐いた温かい息が敏感になってしまった内股をくすぐったと、イビルアイが言えるわけがない。
「もういい! ここまでだ! マッサージはここまででいい!」
「まだ脚だけなのですが、よろしいのでしょうか?」
「私がいいと言ったらいいんだ! 早く離せ!」
「かしこまりました。続きは明日にいたしましょう。ミラ、離せ」
「はっ」
男は命令を間違えた。離せではなく下ろせと言うべきだった。
高く持ち上げていたイビルアイの足首をミラが離すと、重力に従って二本の足は下がっていった。
イビルアイの目の前に跪いていた男の肩に太ももがぶつかる。
「おっと」
「!?」
大陰唇をほぐしていた親指が左右に引かれ、ショーツの向こうで幼い割れ目がくぱあと開かれた。
ショーツと言っても押しやられ引っ張られ、ほとんど紐になってしまった薄布である。白いハンカチ越しに、男の目に潤んだ肉色が映った。
事態はまだ止まらない。
男の肩にぶつかった太ももは膝が曲がって、両足で男の背を打った。見ようによっては、イビルアイが太ももで男の顔を挟み、自身の股間へ押し付けているようでもあった。
背を打たれた男の顔は前に進み、くぱあとなってしまったイビルアイの内側へ唇が触れた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
細い太ももにぎゅっと力が入る。
男の口が空気を求めて反射的に開く。赤い唇が赤い肉に触れ、イビルアイは咄嗟に男を引き剥がした。
かつてなく息が荒い。
「ハンカチを外してよろしいでしょうか?」
「駄目だ! 私は寝る! 私がベッドに入ってから外せ!」
「……仰せの通りに」
どたばたと慌ただしいイビルアイの気配を感じながら、男は唇を舐めた。
微かにイビルアイの味がした。
さくっと終わらせる予定だったイビルアイですが属性過多(こじらせ金髪ロリ吸血鬼+あるふぁ)なので勿体ないと思い、あれとこれとそれもと思ったら遅くなりました
()内のあるふぁは3〜5くらいあるんじゃなかろうか
癒やし枠でいてもらおうと思ったエントマについてアンケートです
基本的に一話先は闇なので書いてる本人にもどうなるかさっぱりわかんないですね!
エントマは
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可愛いので癒やし枠
-
きっとぴゅあなので癒やし枠
-
肉食なので(性的に)食べに来る
-
可愛いので(性的に)食べられる
-
まかせる