蒼の薔薇一行がエ・ランテルの大きなお屋敷を訪れてから六日目。蒼の薔薇のリーダーであるラキュースはグランドツーリングよりリターンした。
生と死が混沌と入り乱れ過去と現在と未来を駆け巡り己自身と深く向き合った果てに三千世界の命運を決する大いなる旅路であった。ラキュースは世界を食い尽くす艱難辛苦を平らげて現世に帰還したのだ!
千年後にも真の英雄ここにありと讃えられ得る偉業である。
ラキュースは窓を開け朝の清涼な空気を胸いっぱいに吸い込む。平和な街並みを見下ろして人々の安寧を守れた満足感に柔らかく微笑んだ。誰にも知られぬ旅であったがそれで良い。人々に称賛されたくて旅立ったわけでは無いのだから。
雲一つない青空を見上げ、虹色ではないことに安堵する。
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虹色の空を貫かんばかりに聳え立つ高貴な月桂樹の樹冠に住み暮らす宇宙大魔道士から悟りを授けてもらうためにラキュースはただ一人で神樹を登り始めるが『一人きりとは酷いなぁ』と左腕に封じられた邪竜がからかい混じりに顔を出してきたのを無視したのが悪かったのか地上へ向けてドラゴンブレスを吐いたために666匹のドラゴンと無限のナメクジたちとの戦争に巻き込まれてしまった。
ドラゴンの一薙ぎで一億匹のナメクジは昇天するがその間にも無限のナメクジは無限に増殖した末に一兆匹のナメクジがフュージョンしたアルティメットナメクジとなってドラゴンを圧倒する。
『くくく、平和主義のラキュースちゃんはどうするんだ?』「あなたは黙っていて!」
旅の道連れは封印竜だけではない。彼女こそラキュースの中に眠る影のラキュース略して影羅が体の支配を奪おうとするのを必死に抗い争いの原因は目玉焼きに掛けるのは塩とソースのどちらかであるかに端を発していると突き止めたラキュースはマヨネーズを提案。無限のナメクジも6666匹に増えたドラゴンもこれには感動。争いは終わった。ラキュースはマヨネーズ神の称号を与えられ平和の象徴ナメクジドラゴン女王として世界を統べることを望まれたが自分には成さなければならないことがあると孤独な旅を続ける。
ついにたどり着いた月面世界では月の宮に美酒と美食が振る舞われるがラキュースは誘惑を断ち切り旅を続けようとしたのだがラキュースから分離した影羅が酒池肉林に溺れ美男を侍らせエッチなことになりそうだったところを許せないラキュースは封印剣を開放し天地神明に誓って影羅を討伐せんと進撃した。
影羅はもう一人のラキュースである。ラキュースと影羅の戦いは一進一退。千年手になりそうなところを『僕が力を貸してあげるよ!』と奮い立った邪竜が影羅に攻撃を始め天秤が傾き影羅は地に倒れ伏す。
『くっ、殺せ!』『一思いにやっちゃいなよ!』「いいえ、影羅はもう一人の私。倒すのではなく受け入れなくてはならないのよ」『ふん、あまちゃんが』『これは計算違いだったなぁ』
和解しそうだったラキュースと影羅に邪竜が襲いかかる。封印から解き放たれた邪竜はアルティメットナメクジに匹敵する強敵となってラキュースの前に立ちはだかった。しかしラキュースは影羅と一つになった。パーフェクトラキュースの前に敵はない。封印するしかなかった邪竜をラキュースは退治することが出来たのだ。
『あなたなら次の位階にたどり着けるでしょう』光の船から降りてきた美しい方がラキュースを寿ぐ。『しかしあなたにはまだ現世ですべき事があります。為すべきを為すためにお帰りなさい』
赤い光と青い光に包まれラキュースはエ・ランテルに帰還した。
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「あ、今日は起きてる」
「ガガーランはまだ寝てる。二人共飲み過ぎ」
「ずっと部屋にこもってるって聞いた」
「もしかして毎日飲んでた?」
「……………………え?」
振り返れば懐かしい顔。ティアとティナが呆れ顔でドアから顔を覗かせていた。
「もらった酒が空になってる!」
「空!? 私は全然飲んでないのに!」
「え? え? ……もしかして私、ずっとエ・ランテルにいた?」
「エ・ランテルどころか宿から出てない」
「むしろ部屋から出てない」
「旅立ったはずじゃ……」
「「誰が?」」
「……私?」
ティアとティナは思わしげな顔を見合わせた。
「「大丈夫?」」
ラキュースは大丈夫と答えようとしたのだが脚がもつれた。
ここ数日、食事もろくに取らず最低限の水分しか取っていない。体が弱っている。旅立ったのはラキュースの心だけで肉体はエ・ランテルの黄金の輝き亭の一室で飲んだくれて惰眠を貪っていた。トリップしていたとも言う。
お屋敷の若旦那様の忠告を無視して、ガガーランと一緒に星々を内包した魔酒をストレートで飲んでしまったのだ。
それでもラキュースは現世に戻ってくることが出来た。しかし、ラキュースより酒量が多かったガガーランは未だ眠ったままでいる。たった二匙で常人の精神を彼岸に連れ去る魔酒である。常人とは比較にならないほど頑健な肉体を誇るガガーランであっても許容量を超えてしまった。
ラキュースは極々軽い食事を取ってから自身に治癒魔法を掛けて体調を戻し、眠り続けるガガーランにも魔法を掛けるが血色が多少良くなる程度で目覚める気配はなし。
原因はお土産に貰った酒に間違いない。元凶から話を聞くことにした。
ティアとティナも依頼の中間報告とかで同行するようだ。
ひとまず入念に身を清め、準備が整った頃には日が傾き始めていた。
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「あー、やあっと来てくれたっすねぇ……」
ラキュースたちを出迎えた赤毛の神官は疲れ果てているように見えた。
ルプスレギナと親しいか人間観察に優れていれば、苛立ちを抑えつけて疲弊していると気付いたかも知れない。
「あのちびっ子を早く連れ帰ってくんないすかねぇ」
「ホントあいつ無理」
「え、エントマ……さん?」
かつて対峙したことがある悪魔メイド改めエントマと言う名らしき少女が続く。
「ヤルダバオトに支配されてお前たちと戦った記憶はあるし、あいつに言われたことも覚えてる。でもそう言うのと関係なくてあいつ無理ぃ!」
「お嬢様はカンカンになっちゃって部屋から出てこなくなっちゃったんすよ。どーにかしてくんないっすかね? あんのちびっ子の仲間なんすよね?」
「そうだけど……。イビルアイが何か失礼を?」
ハハハとルプスレギナが乾いた声で笑う。
エントマは笑うどころではないようだ。愛らしい顔をしたまま静かに怒気を撒き散らす。
「見たら一発でわかるっすよ」
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子供には優しい男である。マーレ君には肩車をして、ネムちゃんには抱っこ。では、大人か子供で分けると子供に分類されるイビルアイにはどうなるか。
ルプスレギナの先導でイビルアイの客室にたどり着いたラキュースたちは、静かに開けたドアの隙間から答えを目にしてしまった。
イビルアイの甲高い声が響いた。
「お前なんてモモン様がいなかったら顔がいいだけの雑魚なんだからな!」
「仰る通りです」
「馬が喋るな!」
「ヒヒーン!」
「突っ込むだけの種馬を走らせてやるんだ。ありがたく思え!」
「ヒヒーン!」
「それ行け全力だ! 雑魚でも走ってみせろ! このザコ、ザ〜〜コ!」
仮面を外して清楚なキャミワンピに身を包んだイビルアイは、四つん這いにさせたお屋敷の若旦那様の上に馬乗りになっていた。
満面の笑みである。
鬼気迫る狂気じみた笑みである。
腕を振り上げ、男の尻をパチンと叩いた。
ソリュシャンとルプスレギナの策略が失敗したのだ。
イビルアイはただでさえ妹の仇である。
それを自分たちの男が接待しているのは甚だしく不快であった。どうにかすべきと考えた。
接待の内容をミラから聞き取り盗み見た二人。如何にアルベド様へ貢献したとは言え、あんなちびっ子には贅沢が過ぎるというもの。
彼の男には既に深い関係にある自分たちがいると知らしめ、仮面で顔を隠したちびっ子吸血鬼には不遜過ぎる想いを断ち切らせるのだ。
途中までは上手くいった。
ソリュシャンとの情交を見せつけられたイビルアイは、翌日から男への態度を硬化。男が声を掛けても返事すらしなくなった。
しかし最大にして唯一の誤算は、美神の信徒はその程度でアルベド様への貢献を軽んじなかった事である。
声掛けに全く反応しなくなったイビルアイだが、唯一モモン様の話題については食いついてきた。
男がモモン様を敬う心に偽りはなく、モモン様談義にはイビルアイも男の裏切りを忘れて言葉を返す。
そこでイビルアイの歓心を買おうと、男が口にした話題が悪かったのだ。
『モモン様はいつもハムスケさんに騎乗していらっしゃいますね。イビルアイ様は馬に乗った経験がおありですか?』
『昔、少し、な。今はフライの魔法がある。馬は不要だ』
『それなら昔を思い出してみませんか?』
『ふん。吸血鬼を乗せたがる馬がいるか』
『いなくもないでしょうが、イビルアイ様が吸血鬼であることを周囲に知らせるわけにはいきませんね』
『それならお前が馬代わりになってみるか?』
『……イビルアイ様がお望みでしたらどうぞ』
『えっ』
それが思いの外楽しかったのだ。
自分を裏切った男を痛めつけるのは復讐の暗い喜びが心を癒やす。
美貌の男を自分に跪かせて好き勝手にするのは倒錯的な嗜虐心を大いに満たす。
昨日から始まった屋内騎乗を、今日は朝から行っていた。
何でも言うことを聞いてしまう男はイビルアイをとてもとても調子に乗らせてしまって、食事の際などは、
『座って食事をとる馬がいるか!』
若旦那様に四つん這いのまま犬食いをさせていた。
惨めな男の姿に、イビルアイは全身を駆け巡る恍惚とした悦びに堕ちてしまった。
一方、事を盗み見たソリュシャンたちは憤死しそうになった。
あんな小娘相手に何をしているのですかと訴えるのだが、当の男は子供がすることだからと取り合わない。
人並みの自尊心を持っていない男である。イビルアイのことは女になりかけかと思っていたがどうやら子供心が大きかったようなので、それ相応の対応をしているに過ぎない。
アルベド様の危険を払ったのだ。子供の我儘に付き合うくらい大した事ではないと考えている。
「ほらほら走れ! 走れザコ馬!」
子供扱いされようとも、男の背に跨ったイビルアイの足は床に届く。
膝で畳んで床から足を浮かすならまだしも、急加速するために床を蹴ったり、男を頑張らせようと前に伸ばして爪先で男の頬をつつくのは誰をも絶句させた。
イビルアイ命名種馬ザコ号は窓際を走り、壁に突き当たって方向転換した。開かれたドアを向いた。イビルアイと、ラキュースの目が合った。空間が氷結した。
コキュートスの守護階層ですらもっと温かみがあると思われた。
「イビルアイ!!」
イビルアイは素早かった。
男の背から飛び降りるなり床に足をつけず飛行の魔法を発動。
そのまま宙を飛んで窓から外へ飛び出した。
咄嗟にラキュースが窓に駆け寄って外を眺めるも、イビルアイの姿はどこにもなかった。
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うちのイビルアイがとんだご迷惑を、いえ子供のすることですから。平身低頭のラキュースの謝罪をあっさりいなし、それでも頭を上げないラキュースを散々宥めてようやく本題が始まった。
「必ず十倍に割って飲んでくださいと申し上げたでしょう」
魔酒によって遠い世界に旅立ってしまったガガーランについてである。
それを言われるとラキュースは弱い。忠告は覚えていたので、大ぶりのジョッキになみなみと注いだガガーランに注意はしたのだが、酒豪であるガガーランは取り合わない。反対に自分もストレートで飲むことになってしまった。
とても美味しくて夢見るような体験であったのは確かだが、夢を見たまま目覚めないのは困るのだ。
「飲みすぎて起きなくなったと言われても対処法は知りません。飲料は口に出来るのですね? でしたら栄養のある飲み物を飲ませて経過を見るしかないでしょう」
「そちらの神官様に回復魔法を掛けていただくことは出来ませんか?」
「してもいいっすけど酔い覚ましには効果ないっすよ? 特にあれはきついっすから」
アルコールへの耐性を失わせて泥酔した上ではあるが、100レベルの守護者統括を一発で昏倒させた魔酒である。常人であれば二匙で廃人になった末、緩やかな死を迎える。
また、肉体の損傷は回復魔法やポーションでどうにかなっても、精神の損傷はどうにもならない。アインズ様であれば精神に干渉する魔法でもってなんとかしてくださるかも知れないが、このような些事でお手を煩わせられるわけがない。
同じ酒を飲んでも現世に帰ってきたラキュースと言う例がある以上、ガガーランについては様子見となった。
「ウィットニーさんはパン屋に戻るつもりらしい」
「むしろ戻りたいと言ってた」
ティアとティナは若旦那様からの依頼の中間報告である。
「それならどうして冒険者に講習なんてしてるんだ?」
「本業はあくまでパン屋。だけどシーフとしての技術を腐らすのは勿体ない」
「伝説レベルのシーフだから当然。自分の技術を受け継いでくれる者がいたら憂いなくパン屋に戻るって」
「つまり後継者探しか?」
「そういう事」
「そんなわけで」
「「ウィットニーさんに弟子入りしました」」
「弟子入り!? そんなの聞いてないわよ!」
「何度も話した」
「リーダーが寝てただけ」
ティアとティナは忍者である。シーフとは近しい職業だ。二人がシーフの技術を身につけるのは不可能ではない。
とは言っても、師事するのはティアとティナを驚嘆させる伝説のシーフである。アダマンタイト冒険者であるティアとティナをして、伝説レベルの技術を身につけるのは生半な事ではないだろう。
簡単に終わりそうにない長期の依頼になりそうだった。
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「ミラだけが頼りよ。私はもうあのチビの顔を見たくないわ。ミラだってお兄様があんな目にあってるのは不快でしょう?」
「はい。ですが上手く行くでしょうか?」
「上手く行かせるのよ。仕込みは私とルプーでしてあるわ。お心が広いお兄様でも、あれならきっと」
「今夜、ご主人様が血を振る舞う時に仕掛けます。もしもイビルアイが暴れた際には私一人では抑えきれないと思われますので、ソリュシャン様にお願いいたします」
「ルプーもいるから問題ないわ。エントマは相性が悪かっただけなのよ。頼んだわよ」
「はい、仰せ仕りました」
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ラキュースたちは窓から飛び去ったイビルアイをお説教すべく待ち続け、お屋敷で夕食をとった。
日はとうに落ち、夜が深まってきてもイビルアイが帰ってくる気配はない。近くでこちらを見張っているのかも知れなかった。
ルプスレギナは一行に泊まっていくことを進めたが、それではイビルアイ様が帰ってこれないと若旦那様がやんわりと拒否をする。
ラキュースたちもそこまで甘えるつもりはなく、宿に置いてきたガガーランも気に掛かる。イビルアイが帰ってきたら絶対にこちらへ顔を出すようにと言付けて宿へ帰っていった。
屋敷の屋根の上からラキュースたちを見送ったイビルアイは、ようやっと中に戻ってきた。
「お体が冷えたのではありませんか? 湯浴みの準備が整っております」
「体を冷やす吸血鬼がいるか」
部屋では男が待っていた。
ミラも同席している。
日中のお馬さんごっこでは席を外してもらっていたが、血を振る舞う際は間違いがあってはいけないと昨夜も同席していた。
イビルアイが長い髪をかき上げ背中に流し、定席となった椅子に座る。何を言うまでもなく、男がテーブルにカップを置いて小さなグラスを温め始める。
イビルアイはテーブルのグラスを見て、ワゴンの上の多様なグラスに目を走らせる。
「イビルアイ様も慣れてきましたようですので、今夜は多めにお召し上がりください」
ペニーグラスをミラに取り出させ、代わりに湯に沈めたのはショットグラス。こちらも小さなグラスだが、上げ底されているペニーグラスに比べれば三倍以上の容量がある。
ミラの爪で昨夜より深く指を傷つけ、ショットグラスへぽたりぽたりと血を垂らす。
血に濡れた指はミラに舐め取らせる。
血を湛えたグラスをイビルアイに差し出した。
「ふん」
イビルアイは乱暴に受け取ってやりたかったが、血を溢してしまうのは流石に勿体ない。顔だけの気に入らない男であるが、血液だけは絶品なのだ。
笑みを浮かべる男の顔から目を逸らしてグラスを両手に持ち、唇をつけて傾けた。
とろりと至福が流れ込んでくる。
この時ばかりは男への苦々しさやこの世の憂いを全て忘れ、恍惚とした思いに浸ることが出来る。
思いを飾るのは今日も昨日もたっぷりと話したモモン様のこと。
「ああ、モモン様……。早く帰ってきてください……」
吸血鬼の白い肌を薄っすらと染め、夢見心地に愛しい英雄の名を呟く。
直後、横殴りに夢から叩き起こされた。
「はい、モモン様の婚約者の方もお待ちでございますから。モモン様も早くお会いになりたいことでございましょう」
目を閉じて、表情を窺わせないミラがイビルアイに答えるともなく答えた。
イビルアイの手の中で、小さなグラスが砕け散った。
「ミラ? どうした?」
「モモン様の胸中をお察ししたまででございます。ご主人様もそのように思われませんか?」
「まあ、そうだな」
モモン様の正体はアインズ様である。そして現在のモモン様はパンドラズ・アクターが担っている。
その上、アインズ様とアインズ様の正妃に立候補していらっしゃるアルベド様は毎日顔を合わせているはずだ。
内情を知っているはずのミラの言葉は、男にはいささか不可解であった。
「そんなわけがあるか!」
しかし、イビルアイは何も知らない。ミラの言葉の表面だけを受け取った。モモン様はご自身の婚約者に早く会いたいのだろう、と受け止めてしまった。
モモン様に恋い焦がれているイビルアイだ。傍らに立つ男に一時惑わされたが、女に節操がない不埒な色魔だ。到底受け入れられるものではない。
イビルアイにはモモン様しかいなかった。
そのモモン様が、自分以外の女に想いを向けているとは信じたくない。嘘に決まっている。嘘を吐かれている。モモン様は騙されている!
もしもイビルアイが冷静であったら、動揺を誘われても表面上は冷静を保つことが出来ただろう。
吸血鬼泣かせの血を飲んだ直後の今はそうもいかない。しかも昨夜の倍以上を飲んでいる。
至福に弛緩してしまった心は、現実を認めなかった。
「モモン様は騙されているんだ! どうせその婚約者とか言うのは誰にでも股を開くアバズレに決まってる。そんな女はモモン様に相応しくない!」
イビルアイの慟哭に、男は片眉を跳ね上げた。
イビルアイにモモン様の婚約者について話したことはあったが、名前までは伝えていない。イビルアイに面識はないはずである。理性的にそう考えるからこそ、それだけの反応で済ますことが出来た。しかし、
「アルベド様を愚弄するなんて!」
悲鳴じみたミラの叫びが轟いた。
「は? アルべっ!?」
突然出てきた魔導国宰相の名にイビルアイが怪訝に聞き返そうとしたところ、頭部に軽い衝撃があった。
衝撃は頭骨内を乱反射して視界が真っ赤に染まる。平衡感覚が消失する。
常人ならそのまま彼岸に旅立つ一撃だが、イビルアイは国堕としの異名を持つ強大な吸血鬼だ。椅子から崩れ落ち、床に倒れる前に体の制御を取り戻し手をつこうとして、首に何かが巻き付いてきた。体の自由が失われ、無様に倒れた。
「何をする!? 私に何をした!?」
イビルアイが最後に見たのは、自分の顔に近付いてくる真っ赤な包帯だった。
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「アルベド様を愚弄するなんて許せないっすよ! こいつは生かしておけないっすね!」
「お兄様のお怒りはよくわかっております。ご安心ください。生きながら溶かして最大限の苦痛を与えて差し上げますわ!」
「お前らどこから出てきた」
怒りの表情を見せるも目が笑っているソリュシャンとルプスレギナが部屋に飛び込んできた。
二人して床に転がったまま何かしらを喚くイビルアイを爪先で小突き、サディスティックな笑みを浮かべる。
「そんな事よりこれの処遇についてです。処刑方法はお任せください」
「生まれてごめんなさいって言わせてやるっすよー!」
ここ数日の不機嫌はどこへやら、二人はとってもいい笑顔である。
「イビルアイの言葉は許せるものじゃないが、それでもアルベド様の危険を払った功績は無視できない」
「それじゃどうするんすか?」
イビルアイを生かしておくと知って、ルプスレギナは不満そうに唇を尖らせた。
男は冷たい目でイビルアイを見下ろし、うつ伏せに倒れているのを足で仰向けに転がした。
「二度とバカな事を言えないよう作り変える」
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就寝のために男が部屋を離れると、ソリュシャンとルプスレギナはハイタッチ。快音を響かせた。
イビルアイがアルベド様への貢献で色々な無礼を許されるなら、アルベド様への非礼で罰を与えさせようと目論んだのだ。
吸血鬼であるイビルアイの聴力では聞こえ、若旦那様からは聞こえない距離で、モモン様が婚約者をどれほど強く想っているかを繰り返し語る。
同時に、男心を捉える女とはどのような女かも語る。男に人気がある女とは男好きをする体で、ベッドの上では乱れに乱れ、経験多数で、誰が相手でも厭うことなく受け入れて。
ここで細心の注意を払わなければならないのは、モモン様の婚約者と男心を捉える女は全く別の存在として語ることだ。もしも同じものとして語ってそれが若旦那様の耳に入るととても大変なことになる。それに、二人はアルベド様を悪し様に言おうとは思ってもいない。ちょっぴり怖いと思うことがあるくらいだ。
但し、イビルアイの中で二つが結びつくのは問題ない。
じっくりとイビルアイに刷り込み、ミラにトリガーを引かせた。
策は見事に成って、イビルアイは言ってくれたのだ。
さーてこのメスガキをどう虐めてくれようかと愉悦する二人は、若旦那様がイビルアイを構っていた時間をお仕事に振り分けられるようになったことに気付かなかった。
若旦那様が一時間仕事すると二人で半日掛かる。二時間すると丸一日掛かる。半日は精々5・6時間だが、丸一日は24時間である。
準備や片付けの時間が半分になるし、続けることで効率も上がるからだ。
いくら高レベルなソリュシャンとルプスレギナでも食事や睡眠を取らずに働き続けることは出来ない。
それなのに三時間仕事をされるとどうなるか。
それを毎日続けられるとどうなってしまうのか。
ソリュシャンとルプスレギナが本格的に書類の海に溺れる日がやってきたのだ。
どこかに黒幕がいるのかと思うレベルでアンケートが絶妙に拮抗してる
どうすればいいのだ
エントマは
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可愛いので癒やし枠
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きっとぴゅあなので癒やし枠
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肉食なので(性的に)食べに来る
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可愛いので(性的に)食べられる
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まかせる