※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

180 / 268
今更ですが180話とか凄い長いです
合計文字数は1.5M超
50話ごとに分割したい


ご褒美と諸問題

 翌朝、朝食の席。

 女たちのジトッとした視線を気付いても動じない男はゆっくりと食事を摂り終えたら口元をナプキンで拭い、口の中をさっぱりさせるために炭酸水を喉へ流し込んだ。炭酸水は果汁を絞って風味をつけてあるだけで甘味ゼロのビターテイストな大人の味。

 朝食を共にする女たちも食事を終えた。男は今日の予定を話そうと口を開きかけたところで、

 

「お兄様はあのちびっ子に何を為さったのですか?」

 

 ソリュシャンに先んじられた。

 もしもソリュシャンたちの言葉に耳を貸さなければ、この先の展開はもっと違ったものになったかも知れない。

 しかし、ここでソリュシャンたちを無視してしまうと後々とても面倒なことになるのは確実である。聞かない選択肢はなかった。

 

「何のことだ?」

「お兄様がちびっ子に施した処置のことです。一体どういう事ですか?」

「拘束して目と耳を封じただけだ。それがどうした?」

 

 カルカのラッピングに使われていた血染めの包帯は目を覆えば光を、耳を覆えば音を完全に遮断する。解こうと思えば誰でも解けるので安眠のお供に最適である。

 

「あんのちびっ子は叩いても蹴っても何してもちゃんと反応しなかったんすよ。あれって首に巻いてるやつの効果っすか?」

 

 昨夜の極悪三姉妹は動けなくなったイビルアイを取り囲んでレッツパーリィイ! だったのだ。

 一番手を譲ってもらったエントマが背中から蜘蛛の大足を生やしてとりゃーとイビルアイの手足に突き立てるが刺さらない。

 ルプスレギナが腕をブンブン回していくっすよーと全力ストレートを叩き込んでも椅子から落とすことすら出来ない。

 取りのソリュシャンはイビルアイを飲み込んで溶かそうとするが、飲み込めたのは体の末端を僅かだけで髪の毛一筋すら溶かせない。

 ここまで来たらもうやっちまおうっすかね、とルプスレギナがアンデッドには禁忌の回復魔法を掛けても無傷。

 イビルアイが中々の強さを持つと知っている三人だが、三人の攻撃を完全に無効化するのは異常であった。

 

「ルプー正解。アルベド様から授かったお力で封じている。指一本くらいは動かせるだろうけど自力で起き上がるのは無理だな。前にソリュシャンを拘束したことがあっただろ? あれと同じだ」

「おにーさんは人間辞めたと思ってたんすけどマジックアイテムだったんすか」

「そういう事だ。エンゲージリボン・ウィズ・サキュバスブレッシングと言う。俺がアルベド様から授かった非常に貴重なアイテムだからおかしなことは絶対にしないように。エンゲージリボンで拘束された女は精液がないと解放されない。それと同時に絶対の防御を誇るようになる。髪の毛一本だって切ることが出来ないはずだ。三人で頑張ってもイビルアイがどうにもならなかったのなら効果の検証は十分だろう」

「……お兄様はその事を隠して私を拘束したのですね」

「知られたら対策されるからな」

「む……」

 

 と、一瞬だけ眉間に皺を寄せたソリュシャンだったが、頭の回転はそこそこに速いし男との付き合いは長い。言外の意味を汲み取った。

 知られたら対策されることを知らせたと言うことは、対策しなくても良くなったと言うことである。秘密があったことはちょっぴり不快でも、信頼が深くなったと感じるのは中々に良い気分だ。

 

 実際にソリュシャンの思う通りで、元々の用途はソリュシャン封じであったエンゲージリボンである。

 けども最近のソリュシャンはこっそりちゅぱちゅぱもとろとろもしなくなった。教えても問題ないと判断した。

 

「えぇ〜、せっかくあいつボコボコにしようと思ったのにぃ」

「エントマさんの不満はわかるけど我慢してください。あれでも一応アルベド様に貢献したんですから」

「むぅ……、おにぃちゃんがそう言うならわかったぁ……」

 

 なんかおにーさんてエンちゃんに甘くないっすか?、子供っぽいからなのかしら?、エンちゃんはシズちゃんとお姉さん争いしてるみたいっすけどこりゃシズちゃんがお姉さんすかね。

 

「それよりエントマさんはお掃除頑張ってください。明日で前回アルベド様がいらしてから丁度一週間になります。今日中に完了させてくださいね」

「えぇええ! 無理だよ! だってすっごく広いし色々置いてあるしベッドの下とか絨毯の下とか床も壁も天井も全部キレイにしてるんだしぃ! そんなの一人で終わるわけないもん!」

「無理?」

 

 あっこれかなりまずいっすね、エントマを手伝ってあげたかったけれど私達にも仕事があったのだから仕方ないわよね、そうそう仕方ないっす一応エンちゃんが叱られたら援護して、私は嫌よお兄様に叱られたくないもの、でもこのままだとエンちゃんが泣かされちゃうっすよ、そうねルプーが泣いてるときほど面白くなさそうだし、ソーちゃぁああん!

 

「頑張ってください。後でご褒美あげますから。どうしても一人では終わらせられないようでしたら手隙の者に手伝ってもらえばいいんですよ。ソリュシャンが仕事をしてる間はシェーダの手が空くでしょうし、今日のメイド教官に頼んでみるのもいいでしょう」

「異議あり!」

 

 ルプスレギナがバーンとテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「なんでそーなるんすか!? おにーさんならもっと鬼畜に責めると思ってたのに優しいじゃないっすか!」

 

 アルベド様のお部屋のお掃除なのだ。それを終わらせられない一人じゃ出来ないと言い張ったのだ。おにーさんブチ切れ確定案件のはずなのだ。

 ルプスレギナの予想だと、掃除如きがどうして終えられないのだとこんこんと冷静に如何に無能であるかを解説され、エントマが泣きながら無能を認めたところで無能であることがわかっているのにどうして改善しなかったのだと怠慢を詰られ、無能で怠慢な存在は許されるのかと答えようがない問を突き付けられ、自己否定の渦に叩き込まれるはずだった。

 それが何という事だろう。優しく励まして、頑張ればご褒美があるという。泣かされた事があるルプスレギナは納得がいかない。

 

「人聞きの悪い事を言うな。子供にそんな事したら可哀そうじゃないか。子供だから出来ないことがあるのは仕方ないさ」

 

 やはり男の中でエントマは子供枠だったのだ。

 当のエントマは長い袖に隠れた腕を振って「わたしこどもじゃないよぉ!」と主張するが、その仕草がもう子供である。

 

「子供じゃないなら与えられたお仕事をしっかり頑張ってくださいね。出来るなら今日中。どんなに遅くても明日の昼前までにお願いしますよ」

「はぁい……。それじゃご褒美絶対だからねぇ?」

「わかってます」

「わーい! 今日は手だけじゃなくて足もほしいなぁ♪」

 

 エントマはこてんと小首を傾げる。表情は変わらなくても仕草はとても可愛らしい。

 

「異議ありぃい!!」

 

 ルプスレギナがまたも異議を唱えた。一度目よりボルテージも声の大きさもテーブルを叩く強さも強い。ルプスレギナ的にとても理不尽な事態なのだ。

 

「それ滅茶苦茶贔屓じゃないっすか! エンちゃんは失敗のフォローしてるんすよ? 私は真面目にお仕事してるんすよ? それなのにエンちゃんにはご褒美があって私には何もないなんておかしいっす!」

 

 つまり自分にもご褒美を寄越せである。

 ボルテージの高いルプスレギナとは対照的に、男は冷ややかだった。

 

「ルプスレギナが言いたいのは自分も子供扱いしろってことか?」

「うっ……」

 

 エントマがご褒美を貰えるのは子供扱いされてるからだ。

 大人は真面目にお仕事するのが当然なのにご褒美を求めるのは、エントマと同レベルの扱いを求めるに他ならない。つまり子供扱いである。

 瞬間怯んだルプスレギナは、にんまりと笑ってみせた。

 

「そうっすよ? ルプーはまだまだお子様だからご褒美をたっぷりもらわなきゃお仕事がもう頑張れないっす♪」

 

 ルプスレギナはプライドを捨てた。たっぷりご褒美を貰うためならば、一時子供扱いされるくらい何の苦でもない。

 お手本が目の前にいる。

 この男はイビルアイの機嫌を取るためにお馬さんになったのだ。それに比べたら、ルプスレギナちゃんはがんばってまちゅねぇ、程度は軽いもの。むしろされたいくらいである。

 

「むむ……」

 

 ルプスレギナの意外な反撃に男は圧された。

 

 ルプスレギナが看破した通り人並みの自尊心がない男である。お馬さんになるくらい難しいことは何もない。アルベド様のおっぱいを吸うためなら赤ちゃんにだってなれる。前者は8年前に通った道だし、後者は5年前に通った。

 アルベド様のご命令なら素っ裸でエ・ランテルを一周することだってしてしまえる。異界の歴史書にて、夫の命令で素っ裸で町内を横断した伯爵夫人の逸話を読んだことがある*1。先駆者に出来て自分に出来ない道理はない。

 

「ルプスレギナ姉様が子供扱いされるなら妹の私にもご褒美があって然るべきです」

 

 ソリュシャンが追撃した。

 お兄様第一主義のソリュシャンだが、勝馬が目の前を走ってるならとりあえず乗っておくのがマナーである。

 

「そもそも私達はお兄様の部下と言うわけではありません。私達はお兄様の身分を確かなものとするためであったり、護衛であったり回復役であったり、また妻の役を担っているわけですが、お兄様のお仕事については『手伝っている』わけです。無償で働かせるのは如何なものでしょうか?」

「むむ……、しかしアインズ様のお役に立つ仕事なんだぞ?」

「ええ、わかっております。ですが、それはそれです」

 

 付け加えると、アインズ様のお役に立つであろうお仕事なのは確かでも、アインズ様から命じられたお仕事ではない。言ってしまえば男の趣味の延長である。

 

「ソリュシャンもルプーも俺といる事で色々プラスになることもあるだろう?」

 

 ソリュシャンの夜討ち朝駆けだったり、ルプスレギナのストレス解消であったりするアレのことである。

 

「あるっすね。でもやっぱりそれはそれっすよ」

 

 それはそれ。これはこれ、である。

 それもこれもあれも一緒にカウントしてはいけないのだ。

 

「わかったよ」

 

 男は肩を落として敗北を宣言。ソリュシャンとルプスレギナはハイタッチ。

 喧嘩することもあるけれど、基本的にはとても仲が良い性悪姉妹である。

 

 

 

「それで今日の予定だが」

 

 凄く遠回りをしてから、ようやっと本題を切り出せた。

 

「イビルアイの方が一旦落ち着いたから俺は帝都に行ってくる。まだ一回も行けてないからな」

「毎日行くと仰ったのにまだ一度も行っていないのですか?」

「行ってもまとまった時間が取れなそうだったし」

「それはまずいっすよ。一瞬で行ってこれるんすから五分でも行くべきだったっすね。シクススもソフィーちゃんも怒ってると思うっすよ〜?」

「エ・ランテルに戻ったばかりで慌ただしいとあいつらもわかってるだろ?」

 

 ソリュシャンとルプスレギナは顔を見合わせて異口同音に、

 

「「甘い!」」

 

 と言い放った。

 

 

 

 

 

 

『イビルアイは放置でいい。外に出したり包帯とリボンを解いたりしないように』

 

 男はそう言ってから、書斎の机に設置した狩場直行君に手を乗せた。

 転移の光に包まれ、眩さが消えたら薄暗い部屋にいた。仄かに魔法の明かりが照らしている。

 帝都のお屋敷の書斎は主が不在であるため、窓にはカーテンが閉められていた。開けると穏やかな春の日差しが差し込んでくる。

 書斎は屋敷の主の砦である。お屋敷の三階の眺めが一番良い場所にあり、窓からは屋敷のエントランスと大きな門が正面に見える。その門が開いていた。

 誰かが出入りするなら通用門がある。正門が開いているという事は、帝国の然るべき貴人がやってきたのかも知れない。

 視線を下げれば、出迎えのためか長い金髪をなびかせたメイドの後ろ姿が見えた。

 見ている内に彼女が振り返る。シクススだ。

 シクススが顔を上げこちらに気付くと、男は手を振った。シクススはぽかんと口を開いた。

 

 遠目にも、シクススが目を釣り上げたのがわかる。

 こちらを指差し、手を広げて何かを押さえるように下げる。そこで待っていろとのジェスチャーであるらしい。

 ソファに腰掛けのんびりとシクススを待つ。

 大きなお屋敷である。お屋敷のメイド長であるシクススは廊下を走ったりしないのだ。しばらく待たされ、書斎の扉が開かれた。

 シクススは扉を後ろ手に閉めると駆け寄ってきた。詰め寄ってきたとも言う。

 

「若旦那様は毎日来ると仰ったのにどうして来なかったんですか! 毎日の意味がわからないんですか? 毎日っていうのは昨日も今日も明日も一昨日も毎日って言うことなんですからね!」

「エ・ランテルじゃ色々慌ただしくて時間が作れなかったんだよ」

「でしたらその旨を連絡するべきです! たったの五分の余裕もなかったとは言わせませんからね!」

「うっ」

 

 ソリュシャンとルプスレギナが正解だった。たとえ五分であろうとも顔を出すべきだったのだ。

 アインズ様だって報告連絡相談のほうれんそうは大事だぞと仰っておられる。

 

「わかった。これからはそうするよ。今日は時間が出来たからこっちに来たんだ。向こうのあれこれはまだ終わってないから泊まってはいかないけど、今日はシクススの傍でゆっくりしていくよ」

「私は若旦那様に付きっ切りでいられるほど暇ではありませんから」

「全く時間がないわけじゃないだろう?」

「それは! …………そうですけど」

 

 ぐいと迫られ、怒りに紅潮していたシクススの頬が違う意味で赤くなった。

 あれこれを想像してしまい男の顔を見られなくなったシクススは、赤くなった顔を俯けた。しかし、何かを思い出したようにはっと顔を上げる。

 色惚けた気配はなく、真剣な顔である。

 

「そんな事より大変なんです!」

「大変?」

 

 エ・ランテルではエントマの訪問から始まったG-Shockとイビルアイの接待があったように、帝都のお屋敷でも何かしらの問題が発生してしまったらしい。

 

「ソフィー様が家出してしまわれました!」

「ソフィーが家出ぇ?」

 

 

 

『お父様は毎日来るって言ってたのに全然来ない……。お父様のバカバカ嘘つきカイショなし! 待ってるの飽きた! もうこんなところ出てってやるんだから!』

 

 そう叫んでから、ジュネを連れて馬車に乗って出ていったらしい。出発はほんの数分前だったとか。

 男がさっき窓から見下ろした正門が開いていたのは、ソフィー達が乗った馬車が出ていったからだ。

 エ・ランテルでの朝食の席にて、ソリュシャンたちに捕まらなければソフィーが出ていくのに間に合った可能性が高い。

 しかし、もう行ってしまった。

 

 とは言え、従者を連れて馬車に乗って家出。

 それは一般的にお出かけと言うのではなかろうか。

 

「ソフィー様にもしものことがあったら……」

「いや大丈夫だろう。ソフィーもジュネも危険かどうかの判断くらいつく。それよりも帝国の民に迷惑を掛けないかどうかが心配だ」

 

 ジュネはヴァンパイア・ブライドにてぶっちぎりの最弱である。

 一方のソフィーは、レベル的に父と母を足して二で割ったくらいはある。その気になれば一人で帝都を砂漠にするくらい簡単だろう。されてはとても困ってしまうが。

 プレアデスよりは強いソフィーである。例え守護者が相手だとしても、勝利は絶対不可能でも逃げることは十分可能だ。心配するだけ無駄である。

 ジュネがついているのなら、その内帰ってくることだろう。

 

 

 

 ソフィーたちは放っておくことにして、午前はのんびり過ごした。カルカと近況を軽く話し合い、カルカの専従メイドである双子幼女を構ってやる。

 

 午後はレイナースがカルカを訪ねてきた。

 呪いが解けて女を取り戻したレイナースは、美容にとても熱心になったのだ。その道の第一人者であるカルカにあれこれを教授してもらっている。

 レイナースが帝国から魔導国に移るのはもう少し先になるらしい。帝国四騎士の一だったのだから引き継ぐべきことがいっぱいあるのだ。所領をどうするかも問題である。それらについては、レイナースが魔導国の民となったら生活の基盤は全て男が整えるので着の身着のままで来てくれても問題ない。帝国では然るべき地位にいるレイナースなので身の回りを世話する者が必要になるだろうが、これについてもエ・ランテルのお屋敷でメイド研修を行っているため気に入った者を選んでもらえば良い。帝国で使っている者をそのまま連れてきても良い。

 

 レイナースはアフタヌーンティーをして帰っていった。

 周囲から見えないようこっそりキスをしたのは、レイナースがねだってきたからだ。

 

 夕暮れが少しずつ遅くなっている。

 暗くなりきる前に、前倒しで仕事を終えたシクススが書斎を訪れてきた。

 

「ご主人様はちゃんと毎日来ないとダメなんですからね?」

 

 シクススが「ご主人様」と口にするのは、今は子猫ちゃんメイドですよアピールだ。

 この日は朝一でソリュシャンの朝駆けを受けただけ。子猫ちゃんの子猫ちゃんをたっぷり可愛がってやった。

 

 シクススが身嗜みを整える時間が必要になったので夕食が少し遅い時間になった。

 一週間振りにカルカと食事を共にし、シクススの給仕を受け、これからは毎日来るようにする、とあくまでも確約せずに努力を宣言して、男は書斎から狩場直行君を起動してエ・ランテルに帰っていった。

 見送りのシクススは満足そうに、今日も何もされなかったカルカはちょっぴり寂しそうに。

 

「今お父様がいらしてた!?」

 

 男が帰った直後である。

 一体どこから入ってきたのか、息を荒げたソフィーが書斎の窓際に立っていた。

 シクススが家出と言ったソフィーのお出かけは、本当にただのお出かけだったのだ。

 

 生まれてからずっと帝都のお屋敷にいるソフィーである。ジュネを連れ回して帝都の市場を見て回るだけでも楽しめた。

 お昼はかつての男とアウラがしたように屋台で食べ歩き。これは不味いこれなら食べられるこれはお父様が好きそう。生憎吸血鬼であるジュネは固形物を口にしない。今度は飲食できる誰かを連れてこようと心に決める。

 夕食はアインズ様がお泊りしたこともある帝都一の宿泊施設のレストランで。予約はしていないが、魔導国の紋章を掲げた馬車に乗る傾世の美少女に一般人が物を言えるわけがない。己の美しさと身分の高さを盾にする我儘お嬢様である。にも関わらず、我儘を言われた方が喜んでいるのだからなんともはや。

 そうして帝都のお屋敷に戻り、ただいまーと馬車から飛び降りたところで三階の書斎から強い光が漏れているのを目撃。

 あれは転移の光と慌てて飛び込んできたのだ。

 

「たった今お帰りになったところです。朝方もソフィー様がお出かけになった直後にいらっしゃいました」

「そんな……!」

 

 ソフィーはがっくりと膝をついた。

 

 あからさまに落ち込んだソフィーをどう慰めようかとシクススとカルカは逡巡した。

 すぐにでも「明日もいらっしゃるようです」と言えれば良かった。

 しかし、二人が口を開くよりもソフィーの行動の方が早かった。

 

「今日会えなかったらまた来週? そんなのイヤ! 私、エ・ランテルに行ってくる!」

「ソフィー様!?」

 

 立ち上がって宣言するや否や、ソフィーは窓を目掛けて駆け出し勢いよく飛び上がった。

 窓は閉じたままだ。

 ぶつかる!

 ソフィーは無事でも窓が壊れる。

 後片付けを覚悟したシクススだったが、ソフィーがぶつかった窓は壊れていなかった。ソフィーの姿もない。

 

 書斎に残った二人が窓を開けて見下ろせば、手を振るソフィーが馬車に乗り込むところだった。

 真っ黒なドレスに身を包むジュネが一礼して御者台に乗る。馬車が反転し、正門向けて走り始めた。

 今にも「若旦那様は明日もいらっしゃいます!」と大声で伝えればジュネの耳に届いたかも知れない。

 しかし、この場にいるのはシクススとカルカである。大声を張り上げるなんて品のないことは出来ないのだ。

 

 嵐のような数十秒が過ぎ去った書斎は、酷く微妙な沈黙に満ちていた。

 

「明日、若旦那様にお伝えします。カルカ様はお休みください」

「え、ええ……。そうさせていただきます」

 

 二人は彼の男に丸投げすることにした。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、当の若旦那様はエントマにご褒美を収穫されていた。

 とっても頑張ったエントマは、お食事部屋のお掃除を完了させたのだ。

 

「今日まではエントマさんにご褒美をあげます。でも今度からは有料ですからね」

「有料!? お金とるの!?」

 

 これにはソリュシャンとルプスレギナも目を瞬かせた。

 金銭欲には程遠い男だと思っていたのだ。

 

「有料と言ってもお金を取るわけじゃありませんよ。対価はポーションです」

「私が回復させるんだからいらないんじゃないっすか?」

 

 以前は定期的にポーションが供給されていた。

 しかし、ルプスレギナが派遣されてからはゼロになった。使えば減るポーションと違って、休めばいくらでも回復魔法が使えるルプスレギナがいるのだから当然である。

 そもそもとして、ポーションを使う事態にならないのが一番だ。

 外敵から一度も傷を負ったことがない男であるが、ナザリックの仲間からは何度となく致命傷を与えられていたりする。

 今だって男が血流を操作する技を覚えたので出血はないが、然るべき処置なく放置すれば数分で失血死する重傷であったりするのだ。

 

「こっちじゃルプーがいるけど帝都じゃいないからね。向こうに置いておくつもりだ。それにエントマさんが言ったら貰えると思うようになっても困る。そんなに甘やかしたらエントマさんの成長に悪影響がある」

「そんな事ないよぉ!」

「そういう言葉が出てくる時点で悪影響が窺えますね」

「う〜〜」

「唸っても泣いてもダメです」

「……はぁい」

 

 厳しい言葉を厳しい口調で口にしても、二足歩行出来ない状態なのでソリュシャンに支えられている現状では全く様にならない。

 そのソリュシャンは、抱えている男の向きを反対にして自分と向かい合わせた。

 いつの間にかドレスが脱げている。すぐに全裸になりたがる淫乱スライムである。

 

「それでは私へのご褒美は…………。お兄様に私の中にいらしていただけませんか?」

「……? いつもしてるじゃないか。それに今の俺はこんなだし」

「そういう意味ではありません」

「えぇ……」

 

 男はソリュシャンが言いたいことを汲み取った。

 最近はなかった丸呑みのことである。

 

「けっしておかしな風に溶かしたりしませんわ。意図的に痛みを与えないこともお約束しますから」

「まあ……、そういう事なら」

「うふふ、おにいさまぁ……♡」

 

 男の顔がソリュシャンの豊かな乳房に押し付けられ、そのまま沈んでいった。

 十秒としない内に男の体全てがソリュシャンの中に飲み込まれてしまった。

 

「ああ、お兄様が私の体の中に……♡」

 

 女の悦びに目覚めてもやっぱりスライムである。

 ソリュシャンは自分の体を抱きしめると、妖艶に体をくねらせた。

 

「ルプー、ソリュシャンどうしちゃったのぉ?」

「ソーちゃんは遠いとこに行っちゃったんすよ……」

 

 ルプスレギナがソリュシャンを見る目は遠かった。

 

 

 

 

 

 

(今夜は私の中でお眠りくださいね♡)

(動けないけど苦しくはないし、まあたまにはいいかな)

(お兄様がお望みでしたらソリュシャンを幾らでも自由にしてくださって構いませんわ)

(それなら明日以降も資料の清書を頼む)

(それはそれ、これはこれですわ♪)

 

 それはそれ、これはこれ。

 すごい便利な言葉である。

 

(一つだけお聞かせください。お兄様がイビルアイを封じるのに用いたマジックアイテムは以前の私に使ったものと同じものなのですね?)

(そうだ)

(イビルアイをいつ解放するのですか?)

(早速二つになってるじゃないか。明日は無理だな。アルベド様がいらっしゃるかも知れない。いらっしゃらなくても解放の予定はない。包帯を解いて様子見くらいはするだろうけどね)

(どんなに早くても明後日以降なのですね)

(そうなる)

(左様ですか)

 

 ソリュシャンは考える。

 以前エンゲージリボンで拘束された時、時間が経つに連れて体が熱くなっていった。あれは明らかにエンゲージリボンの効果だった。

 アルベド様から下賜されたマジックアイテムだと言うのだから、女を欲情させる効果があっても不思議はない。アルベド様はサキュバスなのだ。

 あの時拘束されていたのはざっと十時間。体が熱くてもどかしくて切なくて、欲しくて欲しくて堪らないのに与えられなくて、苦しさに涙を流すほどだった。

 

 イビルアイは既にその倍以上の時間を拘束されている。

 明日も開放する予定はないらしい。

 イビルアイは一体どれほどの苦しさの中にいるのか。考えるだけで口元が緩んでしまう。

 妹を傷つけ、お兄様にあのようなことをさせたのだから当然の報いだろう。

 

 ソリュシャンの中で、イビルアイの事は過去になった。

 今は自分の中にいるお兄様だ。

 

(おい、ソリュシャン……。俺を寝かせるんじゃないのか? 何してる?)

(お兄様は楽になさってください。全部ソリュシャンにお任せしてくださればいいのですわ♡)

 

 ソリュシャンは中身スライムである。

 今までも飲食した甘い飲み物を体内でブレンドして、お兄様におっぱいを飲んでもらったことが何度もある。日課であるとさえ言える。

 体の中でも自由自在なのだ。

 

 男はエントマにおかしなものを見せないよう丈の短いズボンを履いていた。

 ズボンの隙間から、ソリュシャンが入り込んできた。

 

(ソリュシャンの顔が見えないのは少し味気ないが)

(嬉しいことを仰ってくださいますこと。目を瞑っていると思ってください。こうして私の声は届くのですから、私の声を聞きながらいっぱい気持ちよくなってくださいませ♡)

 

 しばらく封印していたスライムテクは、久々に開放したら進化していたらしい。

 ソリュシャンは体の中で何度もミルクを放たれ、とても満足いくご褒美を受け取った。

 

 一方の男は手も足もない身動きできない状態で何度も絞られ、一睡も出来なかった。

 翌朝開放された時は疲労困憊である。

 薄ら笑いするルプスレギナから回復魔法を受けて万全となり、とりあえず朝から仮眠を取ることにした。

*1
ゴダイヴァ夫人のこと。チョコレートメーカー「ゴディバ」のモデルになった




アウラがそうだったようにロリ枠は長くならざるを得ないようです

エントマは

  • 可愛いので癒やし枠
  • きっとぴゅあなので癒やし枠
  • 肉食なので(性的に)食べに来る
  • 可愛いので(性的に)食べられる
  • まかせる
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