出血が多い。すぐに止血しなければ命に関わる。もしも外傷によってもたらされた出血なら相当な深手になっているはずだ。
傷を癒やすならポーション作りの第一人者であり魔法を修めている薬師のリィジーが適任だが、ンフィーレアを傷つけた存在がまだ近くにいる可能性がある。故に己を呼んだのだろう。さすがのエンリ大将軍は取り乱していても判断を誤らない。
「ンフィー君! 俺の声が聞こえるか?」
「うぅ…………」
まだ息がある。
倒れ伏すンフィーレアに近付いても異臭はない。毒を盛られて吐血した可能性もあったが、現状が否定している。となれば、すぐ傍に覇王エンリがいたのに何者かが不意を打ったことになる。
果たしてそんな事が可能なのだろうか。
ナザリックにほど近いカルネ村で、多数のゴブリンが昼夜問わずに警護しているのを潜り抜け、恐るべき血塗れの連れ合いに攻撃を加える。
可能か不可能かで言えば可能。ナザリックの方々なら容易いだろう。
しかし、ネムから聞かされたところによれば、ンフィーレアは今までになかったポーションを開発した功績により、アインズ様直々にナザリックに招かれている。
アインズ様がお認めになった者をナザリックのシモベが攻撃できるかと言えば絶対に不可能である。アインズ様からお褒めの言葉を授かったものを妬ましく思えども、危害を加える愚か者はいない。シャルティア様だってハンカチを噛むくらいで済ませるだろう。
「んん?」
「ンフィーは大丈夫なんですか!? 一体どうしてこんな事に!!」
「いや、そういうわけではなくて、ですね。部屋を明るくしてもらえますか?」
寝室にあるのは小さなランプが一つ。
言葉を受け、エンリに指示されたジュゲムがランプを持ってくる。
明るくなった寝室で、男は首を捻った。
「ンフィー君…………、出血してる割にかなり血色がいいですよ」
横臥しているンフィーレアの首筋に触れる。脈拍がやや早い。体温は高めだが正常な範疇。
顔の前にも手をかざし呼吸を確かめる。こちらは正常より大分荒い。全力疾走をした後のようだ。
「うああ……」
「眩しいかな?」
瞼にそっと手を当てればンフィーレアの呻きが止まった。
それよりも、明るくなったことで出血箇所が明らかになった。
ンフィーレアの上半身は血の海に浸っているが、下半身にまでは広がっていない。頭部は特にひどく、長めの金髪が血を吸い上げて赤く染まっている。
どうやら頭部から出血しているらしい。
「出血はまだ止まっていませんが、ンフィー君の体に問題はなさそうです。しかし、この出血量は異常です。ひとまず血の汚れを落とします。少し移動させるので、エンリさんは汚れてもいいシーツを。ジュゲムはンフィー君の足を持ってくれ」
「すぐに!」
「わかりやした」
寝室なので、エンリはベッドからシーツを剥がす。
ンフィーレアの隣にシーツを広げ、まずはシーツの上に移動させる。
男はンフィーレアの頭と肩を押さえながらシーツの上に転がし、ジュゲムは両足を持ってシーツの上に乗せた。
横臥していたンフィーレアが仰向けになったことで、明らかになってしまった。
「えー、なんといいやしょうか……」
「ンフィー君、元気だな……」
「…………………………」
反応は三者三様。しかし、緊迫していた空気が霧散したのは確か。
とりあえず、出血箇所は判明した。ンフィーレアの鼻から温かい血がとろりとろりと溢れ続けている。
衣服に傷らしい傷はなく、体に損傷はないようだ。
ンフィーレアの出血は、全てが鼻血であるらしい。
「うっ、うぅ!!」
鼻血で溺れないよう顔の向きを変えようとしたところで、ンフィーレアが眩しさに呻く。
明かりを消すわけにもいかない。男は遮光効果がある真っ赤な包帯を巻いてやった。
「うっ!!」
ンフィーレアが大きく呻く。
男の手が顔に触れたからか、たまたまタイミングがあっただけか。
二人の男は後者であると思いたいのだが、肝心なのはエンリがどう思うかである。
「………………………………………………」
エンリはさっきまで夫の惨状に取り乱していたのに、今は冷めた目で見下ろしている。
何も言わないのは慈悲であった。
「え、ええと、出血は止まったみたいですね。綺麗にしてから着替えさせようと思うのですが」
「私がします。二人は床掃除してください」
「「ただちに!」」
ンフィーレアの出血は止まった。代わりにズボンの一部が湿りつつあった。
仰向けにした時、その部分が膨らんでいるのを三人は目にした。ズボンの内側に棒でも入れてるような膨らみ方である。
それが呻きと同時に萎み始め、同時に湿りだした。今やズボンに何かを入れてるようには見えず、その部分だけが円形に湿っている。
ンフィーレアは暴発してしまったのだ。
その時、男は何かがキラリと光るのを見た。
(あれは!?)
ベッドの下に小瓶が転がっている。
見覚えがある小瓶だ。その瞬間、どうしてこうなったか全てを察した。
エンリに見られては不味い。
幸いにもエンリは着替えを取りに行き、ジュゲムは拭き掃除の用意をしている。
男はベッドの傍で屈み、腕を伸ばす。握りしめた小瓶をポケットに隠せばミッションコンプリート、になるはずであった。
「あれ? 兄さん、そんなところで何してるんですか?」
ジュゲムの仕事が早かった。片手に水の入ったバケツを吊るし、片手には雑巾の束を持って寝室に戻ってきた。
ジュゲムは男の姿勢に首を傾げるだけで不審には思っていない様子。手のひらに隠した小瓶にも気付いていない。
「いや、何でもないよ。何か落ちてるかと思ったけど気のせいだった」
「そうですか」
男は何でもなかったかのように立ち上がる。ジュゲムは男の態度を気にせず、掃除を始めようとしたところで、
「何を持っているんですか?」
「!!」
覇王の呼び声である。
隣室からンフィーレアの着替えを持ってきたエンリは、男の手がきらめいているのを見咎めた。
手のひらに隠せる小さな小瓶だが、部屋を明るくしていたのが裏目に出た。指の僅かな隙間からガラスの小瓶が光を反射してしまったのだ。
着替えをベッドに置いたエンリは、男から小瓶を受け取る。
矯めつ眇めつ小瓶を検分して眉根を寄せた。
「これ………………、ンフィーが使ってる瓶じゃない」
エンリの視線に、男は縫い止められたように動けなくなった。
■
惨劇の数時間前、昼尚暗い森の中で。
彼はンフィーレアと誰にも知られず密談するために、村の外での採集を提案したのだ。
「ンフィー君は回復ポーションの改良ばかりでこういったものには手を出してなかったんじゃないか?」
「そうですけど……。本当にそんな効果があるんですか?」
ンフィーレアに手渡されたのはポーション用のものより一回り小さい小瓶だった。中には乳白色の液体が詰められている。
「効果は私の体で検証済みさ。精根尽きてもう出来ないと思っても、それを飲めばまた戦えるようになる。失礼を承知で言うが、ンフィー君は華奢で体力が足りてないんじゃないかと思うんだ。それで血塗れの異名を持つエンリさんのお相手は大変だろうと思ってね」
「あ、あはは、はは…………」
ンフィーレアは乾いた声で笑った。前髪に隠れた目はちょっぴり虚ろだ。
血塗れは誤解であるが、指摘された通りにエンリは凄くて満足させられていないのではと思っていた。
自分なりに頑張っているつもりではいるのだが、結果を伴っているかと言えばわからない。事実として、終わった後の自分は精根尽きて動けなくなってしまうほどなのに、エンリは元気でいる。
「私も色々忙しくて用意できたのは三つだけだ。レシピは確立しているから全部渡しておくよ。気に入ったならンフィー君が作ってくれていいし、売ってくれてもいい。俺には必要ないからね」
「必要ない……。そんなに凄いんですか?」
「ん? 他のもので稼ぐ手段が見つかったからね。申し訳ないけどこっちは秘密だ。上手く軌道に乗ったら完成品を格安で譲るよ」
「そ、そうですか。……ありがとうございます」
ンフィーレアが凄いと言ったのは精力の事だったのだが、行き違いがあったようだ。誤解を正す気にならず、ンフィーレアは三つの小瓶をポシェットに仕舞った。
小瓶の中身は、彼が作った強壮剤であるらしい。
強壮剤とは別名を精力剤。
男性機能を向上させるお薬である。
そして皆で囲んだ夕食の後、ンフィーレアは貰ったばかりの強壮剤を服用することを決断した。
彼のお客様は、去り際にンフィーレアに向かって拳を突き出し親指を立てた。頑張れのサインである。
皆が思い思いに帰宅して夫婦二人きりになったンフィーレアに向かって頑張れというのだから、何を指すのかは知れたこと。
エンリの態度も気になった。
彼のお客様は、男であるンフィーレアであっても長時間直視してしまうと我を忘れかねない美貌である。そんなお客様を、妻であるエンリがちらちらと盗み見ていた。
ンフィーレアは、エンリと彼の仲を疑ったことがあった。けども疑いは晴れ、エンリの方から自分との結婚を口にしてくれた。
エンリは自分の奥さんになってくれたのだ。
エンリが満足しているかどうかは別として、夫婦の生活もきちんと送っている。
だからたぶんおそらく大丈夫なんじゃないかなと思いたいが、祖母のリィジーが「十年若かったら」と血迷ってしまう人である。リィジーより云十年若いエンリはどうだろうか。きっと大丈夫だと信じている。
信じてはいるのだが、不安になってしまうのはどうしようもない。
心に巣食う不安を打ち消し、エンリは自分の奥さんなんだぞと天地に知らしめるためにンフィーレアは燃えた。燃え盛った。
あの人が自分を応援してくれるために強壮剤を作って持ってきてくれたのだ。活用しない手はない。
精根尽きても飲めばまた戦えるというのなら、始める前に服用すれば長く戦えるのではないかと考えた。
エンリが満足してないように見えるのは、自分が早いからなのではと思うのだ。その上、続けて出来るほどの体力がない。
満足出来ないのを二回より、二倍になった一回を。
エンリと一緒に寝室に入ったンフィーレアは、見えないように強壮剤を一息に飲み干す。
直後、湧き出た精力は体中を駆け巡って、鼻から迸った。
▼
少し前は皆で賑やかに囲んでいたテーブルだが、今は重い空気が漂っていた。
圧に打ち勝ったジュゲムが椅子から立ち上がる。
「ジュゲム? まさか行くつもりか?」
「あっしには関わりのねえ事でござんす」
「ジュゲムーーーッ!!」
男が伸ばした手は届かない。ゴブリンジュゲムはクールに去った。
本当に自分には関わりのない事なのだ。そんな事でエンリの姐さんから怒られるのは真っ平御免である。元凶だけが責任を負うべきだ。
男が伸ばした手は宙を掻き、元あった場所に戻った。
ジュゲムが座っていた椅子と閉められたドアを眺めてから、おもむろに立ち上がる。
「ネムちゃんが心配ですから私も戻ろうかと」
「カルネ村に心配なことなんてありません。それに私からの話が終わってません」
「………………はい」
ジュゲムと違って圧に負け、座り直した。
今度は寝室に目を向ける。
「ンフィー君の様子は」
「よく眠っています。本当にぐっすりと。明日になっても起きなかったらどうにかしてくれますよね?」
「呼吸も脈も体温も正常。症状としては疲れて眠っているだけです。明日になっても目が覚めないようでしたら疲労回復のポーションを試します。それでも目が覚めなかったらエンリさんも知ってるルプスレギナに回復魔法を使わせますので心配いりません」
「……そうですか」
ンフィーレアは本当に深く眠っていた。
血の汚れを落とすために、濡れた布巾で顔を拭かれても反応しない。ズボンを脱がして汚れてしまった下半身を綺麗にされても反応しない。当然のことながら、下半身はエンリが綺麗にした。
余りに反応がないのでエンリは心配になったのだが、目に巻いた赤い包帯を取れば眩しさに呻く。
ンフィーレアの快眠のため、遮光遮音包帯を一晩巻いておくことになった。
「それで、この薬はあなたがンフィーに渡したんですね?」
エンリの手は中身が入った小瓶を摘んでいる。
もう一本と空の小瓶はテーブルの上に。
「確かに私がンフィー君に渡したものです。ですが、精力を増強させるだけで体に害があるものではありません」
「せいりょっ………………。それじゃどうしてンフィーはあんなになっちゃったんですか!」
「それは…………」
ンフィーレアには聞こえないとわかっているようで、エンリの声は激しい。
「保存の魔法は掛けていませんが、暗所に保管していましたし劣化はしてないはずです。未開封ならそのままでも一年は品質を保つはずです」
「はず、ですよね。絶対じゃないんですね?」
「開発してから一年は経っていないため、実験はしていません。計算では問題ありませんでした。ただ……」
「ただ? やっぱり何か問題があるんですね?」
男はすぐに答えられなかった。
デリカシー云々に関わる事柄ではなかろうかと思ったのだが、必要なことであるためやむを得ないと判断した。
恥も衒いも躊躇もなく、真っ直ぐに問いかけた。
「エンリさんがンフィー君と最後にセックスしたのはいつですか?」
「そっ…………そんなの言えるわけないじゃないですか!」
エンリはテーブルを叩いて立ち上がる。
顔は真っ赤だ。
夫婦生活の込み入った話は、誰であろうと聞かせたくない。
「ンフィー君の症状を把握するために必要なことなんです。特に知りたいのは、ンフィー君が最後に射精したのはどれくらい前か、です」
「しゃっ、しゃせい!?」
エンリは何か言おうと口を開くが言葉にならず、立ち上がったままパクパクと口を開閉した。
これがただいやらしい話をしたいだけだったのなら覇王の一喝で黙らせる所存であるが、男の態度は真剣そのものである。
糸を切られたように音を立てて腰を下ろし、明後日の方向を見ながら消え入る声で答えた。
「…………………………五日前、です」
「五日前!?」
衝撃的な答えに、男は思わず叫んだ。
「失礼しました。量はどうでしたか?」
「何の量ですか?」
「精液の量です」
「せいえっ…………!! そんなの普通です! そんなの比べられるわけ………………」
言いながら、比較対象があることに気が付いた。
「私が言っているのは、ンフィー君のいつもの量と比べてどうかです」
「あ………………、そそそ、そうです、よね。ええっと…………、普通、だと思います。普通っていうのは、その……、いつも通りと言いますか…………」
誰かとの比較ではなく、ンフィーレアのこれまでについてだ。
いつも通りだったと思うのだが、確信を持ってそうだとは言えない。手や口にだったら兎も角、中に出された量なんてわかるわけがない。
それでも、エンリが知ってる唯一の比較対象と比べれば割と少ないのでは、と思う。初夜で驚いてしまったのが記憶に残っている。
色々なことに思いを馳せているエンリと違って、男は真面目に考えていた。
「五日前、か。ンフィー君には薬が強すぎたのかも知れません」
自分が五日も出さなかったら、シクススに折檻されてルプスレギナに土下座する羽目になるのは確実だ。ンフィーレアは本当に限界ギリギリまで溜めていたようだ。
そこへ強壮剤を飲んだものだから器から溢れ、溢れたものは生命力となり、生命力は血液となって、鼻奥の粘膜を突き破ってしまったのだろう。
もっともらしい推論を立てても疑問は残る。
「ですが、あれほど出血する事はないはずです。ンフィー君に渡した完成品を見るまでに何度も実験しましたが、鼻血が出たことは一度もありませんでした」
アルベド様に救われてから、五日も溜めたことは一度もない。ソリュシャンが来てからは乾く暇もない。
実験のためにソリュシャンを説き伏せて何とか二十時間確保してから服用したところ、量と持続力はいつも以上で、これといった不調はなかった。勿論鼻血は出ていない。
限界まで溜めてなかったと言われたら返す言葉がないが、やはり出血してしまうのは異常である。アルベド様のミルクに比べたら、効果は細やかなものなのだから。
「だったらどうしてンフィーはあんなになったんですか?」
「ンフィー君の体調が悪かったか、体質が強壮剤と合わなかったか。考えられるのはそのくらいなんですが、体調が悪かったらむしろ回復するはずですし、体質についても効果が強く出過ぎただけと言えます」
「その薬に異常はないんですか?」
「ありません」
ンフィーレアに贈るために調合したのだから、丁寧に慎重に事を進めた。むしろ今までで一番良い出来である。魔法が使えない素人錬金術師として異常はないと断言出来る。
「だったら……」
エンリは男へ拳を突き出した。手の中には中身が入っている小瓶がある。
男は反射的に受け取った。小瓶にはエンリの体温が移って温まっている。
「異常がないって言うなら飲んで証明してください」
「私が、ですか?」
「そうです!」
エンリの目は据わっていた。
望んでしたことではなさそうだが、夫をあんな目に遭わされたのだ。
もしもンフィーレアと同じような症状が出た場合、薬が異常だったことになる。と同時に報復が完了する。
症状が出なかった場合、ンフィーレアがああなったのは偶々で、無罪の証明となる。
実際に被害が出ている以上、どちらかになってくれなければ気が済まない。
「…………わかりました」
男は真摯に頷いた。
五千ものゴブリンを従える血塗れの覇王エンリ大将軍の要求である。
内心では腕の一本や二本引っこ抜かれることを覚悟していたのだ。それに比べたら強壮剤を飲むくらい大した事ではない。強壮剤に異常はないはずだが、最悪でも鼻血を噴いて前後不覚になるだけだ。
「それでは」
男は小瓶の蓋を開け、乳白色の液体を一息に飲み干した。
「!」
瞬間、手が震える。
努めて冷静に、空になった小瓶をテーブルに戻した。
「だ、大丈夫ですか?」
今更ながら、エンリが顔を曇らせて傍に寄った。
復讐心に駆られて無茶なことを要求してしまったが、冷静になれば自分がしてしまったことに罪悪感が湧いてくる。
「問題ありません。強壮剤は想定通りの効果を発揮しました」
「え……、それって……?」
男が立ち上がる。
エンリは見た。
「あっ、いやっ!!」
エンリは男の腕に囚われた。
強く抱きしめられ、男の股間が下腹に押し付けられる。
見てしまったものは錯覚ではなかったと伝えてくる。
「私をこうさせたのはあなたですよ?」
「ちっ、ちがっ……、わたしそんなつもりじゃ…………」
頭上から情欲を孕んだ声が降ってくる。
男の体を押しのけようにも、エンリの力ではびくともしない。
それどころか、腰に回った手が上がって下がって。
尻を撫でられると、下腹に感じるものと合わせて甘い官能が滾ってきた。
「わかるでしょう? このままでは眠れません」
「でも、でもぉ…………」
男の人がああなってしまうと、落ち着かせないといけないのをエンリは知っている。
そのためにどうすればいいかも知っている。
しかし、今の自分はンフィーレアの妻である。出来ることではない。していいことでもない。
「ひゃんっ!」
尻と腰の中間あたりをギュッと押され、キュンと来た。
自分の体に驚き目を上げれば、間近に美しい顔が迫っている。
「エンリさん」
「あ…………あ…………」
強壮剤は想定通りの効果を発揮し、いきりたってしまった。ンフィーレアに過剰な効果が出たのは、この男は自分の体を基準に作ったからだ。
帝国四騎士と打ち合え、条件次第では王国のアダマンタイト冒険者に伍すると言われ、何よりも様々な経験を経てレベルアップしてきたこの男と、少々魔法が使えても工房に籠もっていることが多いンフィーレアとでは、体の出来が違いすぎたのだ。
つまりは薬が強すぎた。
明日になればどうせシャルティア様に捕まるので今夜はしないつもりでいた男だが、こうなってしまったらどうにもならない。
ネムちゃんにしてもらうのは不適。絶対に不可能とまでは言えず、一度や二度なら手や口でしてもらえるだろうが、それ以上となると無理をさせる。
ミラがいたら可愛がってやれたのだが、今夜はそのつもりがなかったのでナザリックに先行させてしまった。
カルネ村は来ること自体が久々で、他に知人がない。若い女性はいるかも知れないが、今から探して相手をしてくれというのは不可能だ。
しかし、目の前にエンリがいる。
エンリの想定の一つと思われた。
エンリの言葉を覚えている。
「子供が出来るような事があっても大丈夫。エンリさんはそう言ったでしょう?」
「そ、それは…………」
前回会った時、別れ際にエンリがこっそり告げた言葉だ。
あの時は初めての経験に舞い上がって、熱に浮かされた勢いで言ってしまった。
今は夫がいる。
豊かとは言えないが、夫と安定した生活を送れている。夫のある身でして良いことではない。
「言いましたけど……、でもそれは……」
「それは?」
安定した夫婦生活を送っていると思うが、満足しているかと言われたら即答できない。言葉に詰まってしまうかも知れない。
もしもンフィーレアしか知らなかったら、こういうものなのだと受け入れていた。
しかし、エンリは知っている。
その上、ンフィーレアは良くも悪くも研究馬鹿。食事や睡眠を後回しにすることが頻繁にある。当然、夫婦生活の優先度はその下だ。
ンフィーレアなりに頑張ってくれていると思うが、頻度や回数は多くなかった。
「本当に、出来ちゃったら……」
「大丈夫ですよ」
「えっ?」
彼は何を持って大丈夫と言うのか、エンリは怪訝に見返した。
男はどこか皮肉げに笑った。
「私の髪は今でこそこうですが、生まれた時は金色でした。目の色も本来は両目とも青です。左目の赤は血の色が浮かんでいるんです。金髪と青い目。大丈夫でしょう?」
「あ………………」
エンリが遺伝の法則を知る訳がないが、子が親に似るのは経験的に広く知られている。
顔貌は似ないこともあると言えても、髪や目の色は決定的だ。
栗毛色の母と金髪の父から、銀髪の子が生まれることは早々ない。
だけれども、本当は金色の髪だと言う。
目の色も、本当は両目とも青だと言う。
体の深いところから湧いてきた熱が、最後のハードルを超えてしまった。
「こっちを向いて」
「……………………はい」
男の胸を押している手から力が抜け、言われた通りに上を向く。
「口を開けて」
「はい…………。あっ……」
少し前、妹が言われたのと同じこと。
薄く開いた健康的な唇は、尻肉を掴まれて甘い息を漏らす。
吐息を吸い取るように男の唇が近付いた。
「ちゅっ……、あむぅ……、んっ、ちゅるる……、れろ…………ん、ふぅ…………んんっ……」
妹と違ってキスを知ってるエンリは、最初から舌を伸ばした。
男の口へ舌を入れ、舌と舌とを絡ませあって互いに吸い合う。
尻を揉んでいた手が、夜着にしている簡素なシュミーズを手繰り寄せ、素足に外気が触れてくるのも気にならない。
一度目のキスが終わった時には、二人の唇は相手の唾液で濡れていた。
乾かない内に二度目三度目。
「あんっ!」
シュミーズは腰まで捲られて、男の長い腕が太ももを撫でた。
エンリは口を手で押さえた。思わず上げてしまった声は割りと大きかったのだ。
ドアを隔てていても、その向こうでンフィーレアが眠っている。
エンリの危惧を察した男は教えてやった。
「大丈夫ですよ。ンフィー君はよく眠っているし、目と耳に巻いてる包帯は光と音を完全に遮断します。すぐそこに雷が落ちても聞こえません」
「そ、そうなんですか…………」
エンリの声は上擦っている。
背徳感と、約束された秘密が高ぶらせてくる。
エンリが見たドアへちらりと視線を向けた男は、心の中で自身の不手際をンフィーレアに詫び、今夜は代わりにエンリを満足させることを約束した。
いきりたっているものをどうにかしないと眠れないし、エンリの体は火照って愛欲に潤んだ目で見詰めてくる。
双方の利益のためとは言え、体を持て余している人妻を慰めるのは実父がしていたことと同じで、不思議な感慨を呼んだ。
「あの……?」
「失礼しました。何でもありませんよ」
黙ってしまった男に、エンリが不安そうに声を掛ける。
エンリの不安を解きほぐすべく、男は柔らかな笑みを浮かべた。
「ひゃあっ……、あ、あの…………。これ…………」
太ももを撫でていた手が、服の下で背筋を這う。
もう一方の手はエンリの手を取り、自身の股間に導いた。
エンリの手は触れてしまったものから離れず、包むように手を開いて上下に撫で始める。
「それでは、子供が出来るような事をしましょうか?」
「…………はい♡」
エンリは背伸びして、自分から口付けた。
NTR( ゚∀゚)o彡°
大好物あるいはダメ絶対の人がいるでしょうか
今更といえば今更なんですが