※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

201 / 268
7kくらいで収まると思ったら10kを超える不思議


テストの目的

「私も時期尚早と判断します。しかし、貴方の意見に頷けない訳ではありません」

 

 ヴァンパイア・ブライドたちを第九階層に待たせ、第七階層に来ていた。第七階層『溶岩』は文字通りに溶岩の川が流れ、所々にマグマが噴出する灼熱の地である。

 

 階層の一角には神殿が建っており、そこが階層守護者であるデミウルゴスの住居となっている。しかし、かつては神殿であっても今の主は神ではなく悪魔。悪魔に簒奪された時に破壊されたのか残酷な時の流れに依るものか、かつての荘厳さは失わずとも廃墟のようでもあった。

 朽ち掛けた神殿の中央部にはデミウルゴスが座るべき白い玉座があるが、二人が相対しているのは別室。床も壁も天井も黒一色の広い部屋は、デミウルゴスの趣味の結晶である。

 どこもかしこも真っ黒なのは知れたこと、デミウルゴスの趣味である人骨アートが映えるようにである。

 

 デミウルゴスに招かれた男が人骨チェアを勧められた時、デミウルゴスの側近たちは興味に目を光らせた。

 人間の男である。勧められているのは人間の骨で作った椅子。果たして彼は座るのかどうか。デミウルゴス様に勧められて座らないわけがないだろうが、かつての同胞の変わり果てた姿を尻に敷いて思うことはないのだろうか。

 彼ら彼女らの興味を知らぬ男は、あっさりと椅子に座った。座るなり、座り心地の良さに目を見張った。

 

 座面も人骨で出来ている。人骨は削ったり繋いだりしないと板状に出来ない。そのため、太く長い骨を幾本も並べて座面にしているわけだが、座ったらゴツゴツして痛いんじゃなかろうかと思っていた。

 それが何ともしっくりとくる座り心地。体重の分散をしっかり計算している。

 ほほおと唸りながら肘掛けに手を置いてまたもびっくり。とても滑らかだったのだ。入念に磨いてある。それどころか、一本一本の滑らかさが違う。パーツによって磨き加減を調整してあるようだ。

 趣味とは言え、力を入れすぎだった。ここまで凝るのだから時間が幾らあっても足りなくなるのは当然である。

 

 というような事を素直に述べたらデミウルゴスは深く頷いた。そこまで気付いたのはこの男が初めてだったのだ。

 側近の悪魔たちはじぇらしーだが、自分たちは気付けなくて、この男は気付けたのは確かな事実。

 しばし趣味の話で盛り上がり、力を入れるとは、こだわりとは云々をデミウルゴスが軽く語って本題に入った。

 ナザリック一忙しい男を捕まえて、まさかお宅訪問したかったわけではない。真面目に相談したいことがあったのだ。

 

 テーマは魔導国における金融について。砕けて言えば、金が必要なところへ如何に融通するかだ。そのための銀行業についての是非である。

 アルベドの意見は時期尚早。

 一応は相談役なので主神が時期尚早とした理由を考えた。

 

 銀行から信用創造を行えば、利用者たちは大いに恩恵を被る。しかし信用創造はこの地において新しい概念であるため、始めは躓くことが多いだろう。利用者たちに適切な教育を与えることも重要だ。

 一番の問題点は、金の流れが疎外すること。

 疎外とは、作った物が作った者の手から離れて独自に動き出し、逆に作った者を支配する力となってしまうことを指す。つまりは内に大きな獣を育てるようなものである。獣が穏やかでいる時分は良いが、牙を剥いたら大事だ。

 それでも、全く制御不可能な訳では無い。

 制御のための方策、いわゆる金融政策はデミウルゴスから与えられた課題図書に幾通りも載っていた。専門書を読み解けば様々な事態に対処することも可能だろう。難しくはあっても、得るものが多いと思われる。

 

 という意見を男が述べ、デミウルゴスが肘掛けに頬杖をついて軽く頷いたところである。

 なお、デミウルゴス側近の悪魔たちは話を振られないことを祈っていた。

 

「魔導国は加速度的に勢力を拡大している最中。忙しくはなるでしょうが、国力を高めるのに有用な政策であるのは確かです。それでも時期尚早と判断するのは優先順位の違いです。これからまだまだ大きくなる魔導国ですが、現在の人口はさしたるものではありません。供給しても需要が足りない。それらを支える生産もまだ不十分。ここまでは貴方も飲み込めているはずです」

「仰せのことは理解しております。当面は好不況の波が激しいことでしょう。仮に需要が絶え一時的に活力が下がったとしても、魔導国の生産力であれば飢えるものは出ないはずです。お言葉ですが、時間が解決する問題でございます」

「その通り。ですから私も貴方の意見に頷けないわけではないのですよ。先も言ったように優先順位の違いです。私は貴方が知らないことを知っている。それだけのことです」

「と、仰りますと?」

「一つ聞きましょう。貴方はナザリックの富とは何だと思いますか?」

「知識です。知識を形にした技術。技術を扱う技能。これらがあれば、富を築くのに必要なのは時間だけとなります」

「貴方らしい答えです」

 

 思った通りの答えに、デミウルゴスはふと笑った。

 

「答えからいいましょうか。ナザリックの富とは、金貨そのものです」

「金貨、でございますか」

 

 ナザリック一の知将語るには些か俗な答えである。

 

「その反応も予想通りです。ナザリックにおいて金貨とは、商品を交換する手段となるだけではありません。売ってないものを手に入れることも出来るのです」

 

 当たり前のことだが、売ってないものは金貨が幾らあっても買えないのだ。

 

「例えば、エネルギーに変えることも出来ます。アイテムに魔法を付与することも可能。アウラは金貨を使ってペットの食料を取り出しているようですね。勿論制限はありますが、ナザリックでは金貨から実に様々な事を行えるのですよ。万能の資源。そう言い換えてもいいでしょう」

 

 ここ第七階層では侵入者にダメージを与えるギミックが幾つも施されているが、現在は機能していない。機能させるには金貨がいる。一度死んでしまったシャルティアが復活したのも金貨の力によるものだ。

 兎にも角にも何をするにも金貨が必要になる。割と世知辛い。

 

「なるほど。そのようなことが……」

 

 信用創造によって金の流れを加速させ、人々の生産活動に活力を入れても、金貨の絶対量が増えるわけではない。

 増えるのは帳簿の数字だけで、銀行に収まる金貨の量はそのままだ。

 魔導国は豊かになっても、ナザリックの富は変わらない。それならば急ぐことではないと判断するのは分からなくもない話だ。

 

「貴方へ簡単に金貨の価値を教えましょう。確か、ペストーニャから耐炎耐氷のブレスレットをもらっていましたね?」

「こちらです」

 

 言って、左手を上げる。袖から覗いた手首に、赤と青の宝石が埋まった金のブレスレットがある。

 これがあるからこそ、第七階層でも熱く感じることなく快適でいられる。真冬の氷月の下でもシャルティアと青姦が出来る。

 

「それの価値はざっと金貨五万枚ということころでしょうか。この地で流通している金貨ではありませんよ。ユグドラシル金貨です」

 

 重量換算で現地金貨の倍はあるユグドラシル金貨である。このブレスレット一つで黄金の輝き亭が四軒建つらしい。ますますペストーニャに逆らえなくなってしまった。

 

「今度は右手を上に」

 

 ブレスレットを嵌めているのは左手首。言われた通りに右手を掲げる。

 デミウルゴスは口角を上げると、右手の人差し指を立てた。指の上に火球が現れ、指が振られると男へ向かって飛んでいく。

 火球が命中した右手は、手首から上が綺麗になくなってしまった。

 

「今のは物理を伴わない純粋な火炎属性の攻撃です。もしもそのブレスレットが炎への完全な耐性を備え今の攻撃を防げるのならば、金貨にして五百万枚の価値は軽くあるでしょうね」

「そこまで届くのですか!?」

 

 ユグドラシルのゲームシステム的な話であって、希少な装備効果を持つほど価値が跳ね上がる。

 しかし、ユグドラシルのプレイヤーにとっては高価すぎるとまでは言えない。一度の狩りで数百万枚の金貨を得ることは十分可能だったし、熟練のプレイヤーなら個人資産で金貨億枚を軽く超える。アインズも例に漏れない。

 いずれにせよ、この地からは遠い世界の話である。

 

 手首がなくなったにも関わらず顔色一つ変えない男にデミウルゴスは微苦笑して、配下の悪魔に回復魔法を掛けさせた。

 

「参考までに、このブレスレットに魔法的効果がない場合の価値はどれほどになるのでしょうか?」

「二百から千と言ったところですね。ああ、言いたいことはわかります。美的価値を考慮すれば千。しかし、素材だけを見れば二百。ナザリックには素材を金貨に変換するマジックアイテムがあるのですよ。不用品や加工するのに手間が掛かり過ぎる物はそうして金貨に変えています」

 

 今になっても不思議のナザリックである。ナザリックには本当に何でもあるらしい。

 金貨に変換するマジックアイテム、エクスチェンジボックスで効率的に金貨を得る方法は現在試行錯誤中である。

 

「それにしても相変わらず痛みには強いようですね。そこまでの傷を受けて痛がる素振りを見せない人間は、いえ悪魔であっても貴方くらいですよ。ところで出血が全くありませんね?」

 

 傷口が焼かれたにせよ、血が滲みもしないのは不思議だった。

 今度は男が微苦笑する。以前、ソリュシャンがデミウルゴスのところへ出張する際に手足を収穫し、その時に血流を操作する技を編み出したのだ。

 

「……貴方はそれでいいのですか?」

 

 ナザリック守護者統括相談役の大任を担う前の話であるが、かなりあれな扱いである。

 今のソリュシャンはもう欲しがったりしないが、代わりにエントマがやってきた。ポーションを対価にあげる約束をしている。

 

 デミウルゴスの言葉を聞いた男は驚きに目を見開いて、穏やかな微笑を浮かべた。以前、同じことを言われた事があった。彼女とデミウルゴスとでは色々な面でかなり異なるが、仲間となった者へ向ける気持ちは近しいのだろう。

 改めてナザリックの一員と成ったことを実感する。

 

「以前、シャルティア様も同じことを仰られました」

「!?」

 

 これでもかと趣味に情熱を注ぐデミウルゴス製の人骨チェアだが、突然肘掛けがぐらついたらしい。デミウルゴスは前につんのめり、スマートな黒縁メガネがズレた。

 デミウルゴスはゴホンゴホンと咳払いしてから座り直す。肘掛けを確認しても、別に壊れてはいなかった。突如として不思議な力に襲われたようだ。

 その意趣返しではないのだが、あえて伝えなかった一番重要な事を教えてやった。

 

「最後に一つ教えておきましょう。今の状態で銀行業にまで手を伸ばせば、アルベドが倒れますよ」

「私が浅慮でございました!」

 

 ただでさえ忙しいアルベドである。

 そこへ経済のコントロールまで加わると、適正な人材がいないこともあって出来る者たちへ負担が集中する。つまりはアルベドの負担がとっても増える。

 アルベドであっても、一日三十時間の矛盾を五人分やれと言われたら倒れてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 第七階層から第九階層へ。

 

 デミウルゴスとの対談はとても実りあるものだった。

 中でも意外な収穫は、ヴァンパイア・ブライドをお姫様抱っこしても腕が疲れていないことである。

 

 ヴァンパイア・ブライド一班のお姫様抱っこは何とかこなして、デミウルゴス様との対談中は休むことが出来たが、ログハウスで潰した時間を合わせても二時間程度だ。それだけの時間では疲労が抜けきらなかった。

 しかし、手首がなくなって回復魔法を掛けてもらったら、腕の疲れが綺麗に抜けた。

 一秒後には死体になる肉片だって健康体にしてしまう回復魔法である。疲労が抜けるのは当然だった。

 ということは、疲れたら回復魔法を掛けてもらえば良い。とはいえ、ちょっと疲れたからお願いしますではペストーニャ様であっても難色を示されるだろう。頂いてしまったブレスレットの価値を再確認してしまった後なのだから、ご迷惑はなるたけ掛けたくない。

 であるならば、ペストーニャ様が回復魔法を掛けたくなる状態になればいい。

 

 そんな事を、第九階層のレストランでヴァンパイア・ブライドたちに食事の世話を焼かれながら考える。

 二班は時間を割くことを対価に抱っこを逃れたので現在は第三班。

 なお、一班のリーダーがパム。二班がシリー。以降、順にルル、エマ、ペニーとなっている。命名は全てシャルティアである。

 三班が終わっても残りが二班もあるのだ。その度に疲労をリセットするには、回復魔法が三回必要となる。一度や二度なら何とかなるだろうが、三度目となると難しい。

 

「アルベド様とアウラ様への伝言は?」

「完了いたしました」

 

 ナザリックに来たのだからアルベド様へ挨拶するのは当然だ。しかし、現在お姫様抱っこ中。

 過日、シャルティア様を伴って挨拶をしたら、アルベド様はとてもご気分を損なわれた。お姫様抱っこしながら挨拶を出来るわけがない。

 顔を出すよう言われたアウラ様も同じである。

 お二方へは、シャルティア様からテストを受けているためご挨拶に伺えない非礼を伝えた。

 全ては明日以降である。

 ネムちゃんにカルネ村の一時滞在施設管理をお願いする件でアインズ様にも拝謁したいのだが、こちらは急ぎではないのでエ・ランテルに戻ってからでも良い。

 当面はシャルティア様からのテストを如何に乗り切るかが問題だ。

 

 レストランでは椅子に座れるため、ヴァンパイア・ブライドを抱いていても腕の負担が軽い。なるたけゆっくりと食事をとって時間を掛ける。デミウルゴス様のところへ先に顔を出したので遅い昼食となっており、食事に長く時間をとれるのはまず良かった。

 

 その代償に、周囲から奇異の目で見られている。いつぞやシャルティアの地位失墜を狙ってろくでもないことをした報いかも知れない。不幸中の幸いながら、取り巻いているのがヴァンパイア・ブライドであることからシャルティアが関わっていると察してもらえている。

 何をしていてもシャルティアがしている事なら仕方ないと納得されるのはナザリックの良識である。

 

 副料理長を務めるピッキーに脱毛剤の件で礼を述べ、静かに近付いてきたシズからそっと「借りたものには利子がつく。利子はトイチ。十分で一割」と囁かれたのは聞かなかったことにして、レストランを後にした。

 

 

 

 第三班はレストランで楽をしつつクリア。腕の余力はまだまだ残っている。

 続く四班を抱き上げて向かうのは第十階層の最古図書館。ナザリックに来たからには絶対外せない場所である。

 まずは司書長のティトゥスに論理学のテキストを見せてもらい、学習する順序や他に参考となる文献などを案内してもらう。

 GMDH(グレートモンドダウンヒル)は現在34巻が貸出中だった。借りているのはコキュートス以外にないだろう。50巻までは読んだので、51巻から60巻を借りていくことにする。コキュートスが追いつくのを待つ選択肢はない。

 続いて経済学のテキストを幾つか抜き出し、閲覧室で読み始めた。しかし、ページを捲るのはヴァンパイア・ブライドである。その上専門用語がとかく多い。以前借りた大人向けの日本語辞書にも載っていなかった単語がやたらと出てくる。

 語感や文脈から意味の推察は可能だが、始めの一歩を間違えると大変なことになってしまう。専門用語の辞典と並行して読むことにする。

 すると、先に読み始めたテキストの解説書を発見。その隣にはまた別の解説書が。

 テキストのタイトルには「原論」とついていたので基本的な文献と思われたのだが、時代を経るに連れ様々な解釈がされてきたようである。

 素人がどれが良いと判断することは出来ないため、一通り読むことにしたのだが、たった一冊の書物に十数冊もの解説書が出ているのは不思議だった。

 

 そんなこんなで腕が辛いながらも第四班をクリア。いよいよ最後の五班である。

 第十階層と第九階層を繋ぐ大階段の上に五班のヴァンパイア・ブライドたちが待ち構えていた。

 

 三班、四班でのテストは椅子に座っている時間が長かったため、一班ほどきついものではなかった。とは言っても、お姫様抱っこしながらあちこち歩き回ったので両腕は相当に疲れている。五時間ぶっ通しのお姫様抱っこはとても辛い。美女の柔肌が、などと抜かしている余裕は皆無。

 回復ポイントを使わなければならない。

 

 大階段の一番上まで来た男に、五班のヴァンパイア・ブライドがテストのために近付いてくる。

 その時、男の体がふらりとよろめいた。

 

「おおっと足が滑った!」

「ご主人様!?」

 

 ミラの叫びを置き去りにして、男は踏み出し駆け出し全てを追い越してファーナウェイ!

 

「とーーーーーッウ!」

 

 大階段の一番上から跳躍した。

 

 その気になれば上空3,000㍍から落下しても無傷で着地できる男である。ナザリック製ジャケットの防御力もあって、階段から落ちた程度で怪我をする訳がない。

 しかし、それは着地時の姿勢による。

 両腕を前に突き出し指も真っ直ぐに伸ばして腕から着地すれば、ジャケットからはみ出ている部分は粉砕骨折が確実。最悪でも突き指は避けられない。

 怪我を負えば心優しいペストーニャ様なら回復魔法を掛けてくれるはず。勝率十割であった。

 怪我さえ出来れば、の話であるが。

 

「なっ!?」

 

 第十階層の真っ赤な絨毯が近付いて、あと半秒もあれば着地すると思われたその瞬間である。落下地点に漆黒の球形が現れた。

 闇の扉からは闇色のドレスをまとった乙女が飛び出し、床と正面衝突しようとした男を宙で抱き止めた。

 乙女はふわりと浮いて落下の勢いを殺し、音もなく床に足をついた。

 

「階段から落っこちるなんて案外おっちょこちょいでありんすね」

「シャ……シャルティア、様…………」

 

 突き指しようとしていた男を救ったのは、お仕事から帰ってきたシャルティアだった。

 第五班が最後になったのは、シャルティアの仕事に付き添っていたからだ。五班のメンバーが居るということはすなわち、シャルティアも居るという事である。

 

「ありがとう、ございます……」

「ま、テストで疲れたでありんしょうから足が滑ることもありんしょう。でもテストは終わりじゃありんせん。最後のあいつらを抱っこしなんし」

「…………かしこまりました」

 

 シャルティアに手を引かれて大階段を登り、ミラたちから大いに心配をされてお姫様抱っこ再開である。

 

 第五班は他の班より人数が少なく、七名である。二桁から一桁になったので計算出来るようになった。7掛ける15は105。一時間と四十五分。

 回復していれば何とでもなったろうが、既に五時間連続抱っこ中である。腕はきついや痛いを越えて麻痺してきた。動かそうにも動かせず、抱っこの形で固まっている。

 その上、今度は座ることが出来ずシャルティアに付き従う事になった。

 

 まずはお仕事終了をアインズ様にご報告。抱っこ中の男は外で待たされた。

 報告を終えたシャルティアは早速第二階層へ向かおうとしたのだが、第二階層に行ってしまうとペストーニャと会うことが出来ない。

 良い時間になってきたので食事の必要を訴えて再度レストランへ。

 シャルティアを始めとする吸血鬼たちは食事を取らない。男一人がまたも食事の世話を焼かれる。紅茶をゆっくりと味わっていたシャルティアもあーんをしたがって、抱っこされているヴァンパイア・ブライドをハラハラさせたのは余談である。

 食事が終わっても男は様々な話をシャルティアにねだって時間稼ぎ。

 そうしてようやく最後の抱っこが終わり、今度こそ第二階層へ向かう前に、男はシャルティアに断って少しだけ待ってもらうことに成功した。

 食事中、視界の端にペストーニャを発見したのだ。

 

「疲労ですね。寝て起きれば治ります、わん」

「そこを何とかならないでしょうか?」

「自然治癒に任せるのが一番です。魔法に頼ってばかりではいけませんよ? わん!」

「わかり、ました……」

 

 奇跡そのものである回復魔法は、エナジードリンクの代わりにはなってもマッサージの代わりはしてくれないらしい。

 男は痺れる腕を前に突き出した異様な姿勢のまま、ナザリック地下大墳墓第二階層「墳墓」にあるシャルティアの住居「屍蝋玄室」に連れてこられた。

 

 

 

 

 

 

「テスト結果でありんすが、7人抱っこ出来たから十分でありんすね」

「なん・・・です、と・・・」

 

 7人で十分ならどうして47人も抱っこさせたのか。

 10人はパスして実際に抱っこしたのは37人。途中で回復魔法を掛けてもらったため、連続抱っこは実質27人。27掛ける15は405。6時間と45分。

 対して7掛ける15は105。1時間と45分。5時間も余計である。

 頭を使わなければ47掛ける15の705になっていたはずで、11時間と15分。9時間と30分も多い。

 

「そもそもテストの目的は何だったのでしょうか?」

 

 椅子に掛ける男の前で、シャルティアはヴァンパイア・ブライドたちを使って衣装直しをしている。重厚なドレス姿から裸身を彩るセクシーな下着姿に変身中だ。

 右脚に透け感のある黒いガーターストッキングを履かせながら、眩い銀髪にブラシを入れさせている。

 シャルティア本人は、ヴァンパイア・ブライドたちに幾つものコルセットを持たせ、どれを着けるか選んでいるところだ。

 

「駅弁でありんす」

「駅弁、でございますか?」

 

 駅弁の意味は日本語辞書で学んでいた男だ。

 駅とは様々な交通機関の乗り合い場所、あるいは停留所。弁とは弁当の略で、外出先で食事をするための携帯食を指す。

 双方を合わせた駅弁とは、駅で売っている弁当のこと。

 お姫様抱っこが駅や弁当とどのように繋がるのか全く見当がつかない。

 

「駅弁の意味は先だって日本語辞書から学びました。しかし、本日のテストとの繋がりがわかりません」

「ほーほー? 色々知ってるお兄ちゃんでありんすが、知りんせんこともあるようでありんすねぇ?」

「当然でございます。どうかご教示していただけないでしょうか?」

「仕方ありんせんねぇ」

 

 シャルティアは腕を伸ばし、薄手のドレスグローブを嵌めさせる。

 ガーターストッキングは左右両方を履き終えた。ストラップで吊るさず、ガーターで留めるタイプらしい。

 

「ちょっとそこのお前たち、見本を見せてやりなんし」

 

 シャルティアに命じられた二人のヴァンパイア・ブライドが立ち上がって向き合った。

 一人が片膝を上げ、もう一人が上げられた太ももを抱え持つ。

 脚を上げた方がもう一人の首に腕を回してぶら下がるような姿勢となって、もう一方の太ももも上げてこちらの脚も抱え持たれた。

 最後に抱き上げた方が抱え直して体を密着させ、駅弁完成である。

 

「あーして抱っこしながらセックスするのを駅弁って言うんでありんす!」

 

 駅弁の立ち売りは、弁当が入った箱を首に掛けた紐に吊るして固定した。駅弁売りに似ている体位であることから、男が女を抱え持つ体位を駅弁と呼ぶのだ。

 如何に大人向けの辞書であっても、性交時の体位が載っているわけがなかった。

 

「ずっと抱っこするから体力が必要でありんす。そのためにお前をテストしんした」

 

 男が知らないことを解説出来ているシャルティアは得意満面である。

 選びぬいたセクシーコルセットは、透けているのは当然のことながら、ブラジャーのカップが取り外し可能なもの。シャルティアのちっぱいであっても、コルセットの締め付けが手伝って乳房が強調される。シャルティアのセンスが光った。

 しかし、男の目からは光が消えた。

 

「したッ……! 駅弁しました!!」

「ほえ? そうでありんすか?」

「駅弁はシャルティア様としたことがあります。シャルティア様と過ごした時のことは全て覚えております。間違いありません!」

「そ、そうで、ありんすか……」

 

 シャルティアの目が泳ぎ、白い肌が薄っすらと染まったのを男は気付かなかった。ナザリックでの貴重な一日を無為に付き合わされたのだから怒って然るべきなのだ。

 あれはジュネがジュネの名を持つ前のSVB№26であった時のこと。48人もいるヴァンパイア・ブライド全員を抱くように命じられ、ジュネの前に割り込んだシャルティアを抱いた体位が駅弁だった。

 駅弁をしていた時間は十分少々で、11時間15分どころか1時間45分も必要ない。

 

「それじゃ早速駅弁を試しんしょう!」

 

 お着替え完了。今夜の髪型は珍しく二つに分けて暗赤色のリボンでくくっている。黒でまとめたセクシーランジェリーと統一感があり、このあたりはさすがのシャルティアだった。

 しかし、やはり男の目は死んでいる。魅惑のシャルティアを前にして、皮肉げに自嘲した。

 

「残念ながら腕が動きません。日中、腕を使いすぎたせいです。ペストーニャ様に回復をお願いしましたが、寝て起きれば治ると言われてしまいました」

「貧弱でありんすねぇ」

「お言葉ですが、11時間以上もずっと同じ姿勢でいれば固まるのは当然です」

 

 こうして話している今も、男の腕は不自然に突き出されて自分の膝に乗せている。

 手指は何とか動くのだが、肩と、特に肘関節が凝り固まって動かない。動かそうとすると痛い云々の前に、兎にも角にも動かない。

 

「むぅ……。仕方ありんせん。駅弁は次にとっておいて、今夜はマッサージをしてあげりんしょう!」

「うへあ!?」

 

 シャルティアの合図で、二体のヴァンパイア・ブライドから手を引かれて立たされた。

 腕は痛いが耐えられない痛みではない。しかし痺れているので、言葉にし難いくすぐったさがある。

 肘や肩からゴキュとかグリとか、異音が鳴るのも不安にさせられる。

 

「安心しなんし。じーーーーっくりマッサージしんすから明日には快調快適でありんす」

「……お手柔らかに」

 

 手を取られたまま寝室に連行された。

 同行しているヴァンパイア・ブライドは7人。第五班のメンバーで、シャルティアの仕事に付き添った者たちだ。

 マッサージは彼女らへのご褒美を兼ねているらしい。

 

 大きなベッドの真ん中に寝かされて、吸血鬼たちによるマッサージが始まった。




まだ生きてるエントマのアンケート(177〜183話)は性的がちょっとリード中
どっちであれ反映するのは10話以上先だと思います、たぶん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。