※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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色々ざくざく書いたつもりなのに文字数が多いのは何故かと思ったら色々書いたせいでした
本話12k


アウラの欲

 ナザリック地下大墳墓第九階層「ロイヤルスイート」のレストランは、朝早いこともあって閑散としていた。

 あと一時間もすればメイドたちが食事にやってくるだろうが、この時間ではホールの片隅で食事する男に注目する者はいない。

 

「申し訳ございません! 私はご主人様の付き人として選ばれたにも関わらずご主人様の安眠を守ることが出来ませんでした!」

「三回目だぞ。もう気にするな。彼女たちとは早々会えないんだからどの道こうなってたさ。それよりお代わりを頼む」

「ご主人様、なんとお優しい……! 直ちに持って参ります!」

「こら走るな」

「はっ、申し訳ございません!」

 

 ミラが空いた皿をトレイに乗せ、小走りで厨房に向かう。飲食を続ける男は、ようやく人並みの顔色になってきた。

 

 レストランに来た時は全身から血の気が失せ、ただでさえ白い顔は紙の白さになっていた。

 たかだか一夜の寝不足ではこうはならない。休むまもなく悪戯をされていたが、口に含む者はいても一度も出さなかった。それなのに死にそうな顔でレストランに担ぎ込まれたのは、朝一で採血されたからだ。

 いつぞやの大量採血では、収穫部位からの採血で本体は無事だった。加えて一時間ごとの回復魔法。失った部位も血液も瞬時に元通り。

 今回は回復魔法の使い手がおらず、ひたすらに採血されてしまった。

 シャルティアやヴァンパイア・ブライドたちにそのあたりの加減がわかるわけもなく、あとコップ一杯分も採血されていたら安らかな眠りについてリザレクションのお世話になっていたことだろう。

 そのため、失った血液を回復すべく、ひたすら飲んで食べてしている最中である。

 

「うーん、それにしても美味い。濃厚なのは当然としても舌触りがこうも滑らかになるとは。裏漉しするだけでこんなにクリーミーになるんだろうか?」

「ご主人様、持って参りました! どうか給仕は私にさせてください」

「じゃあ頼むよ」

 

 ご主人様が食べているのはレバーペーストである。

 各種香味野菜と適量のミルクとレバーを一緒に煮てから潰し、丹念に裏漉しして滑らかにしたレバーのペーストである。臭みがあるわけがなく、肉の旨味と深い滋味。後味にすっとハーブが香る。

 お代わりしたのはミラが自身の力不足を詫びた回数と同じ三回目だ。

 小さなクラッカーにスプーンで山と盛り付け、ぱくりとやってから数度咀嚼。最後はフレッシュミルクで流し込む。

 レバーペーストもミルクも、そろそろキロ単位で消費しようとしている。重量換算すれば失った血液と釣り合うだろう。

 

「昨日は一日潰れたようなものだが、シャルティア様からの借りを返せたから、まあ良かったのかな。今日はまずアルベド様にご挨拶をして、アウラ様にお会いしなければ。時間の指定はあったか?」

「いいえ、アウラ様は必ず来るよう仰っただけで時間の指定はございませんでした」

「うーむ……」

 

 そういうのが一番困る。

 エ・ランテルにいる時ならいつでもよいが、ナザリックでは他にやりたい事としなければならない事が盛り沢山なのだ。

 

 アルベド様とアウラ様の優先順位を一番上に置くとして、彫金の道具についてサラマンダーの鍛冶師たちと打ち合わせしなければならない。その前にどのような道具があるのか調べておく必要がある。ということは最古図書館に行かなければならない。

 永久脱毛剤は既にピッキー様から受け取ってジャケットの内ポケットに大切に仕舞い込んだ。使われる予定のラキュースは毛量がかなり多いが全て脱毛する必要はないので少し余りそうである。ティアの無駄毛を処理してやるのもいいだろう。シャルティア様からツルツルにされたティナをちょっぴり羨ましそうに見ていたのを覚えている。とくれば、ティナの茶色い乳首をピンクにしてやらねば不公平かも知れない。

 コキュートス様へのご挨拶にも伺いたい。出来ればコキュートス様が直々に鍛えているらしいリザードマンたちとの鍛錬風景を見学したい。

 そして、アインズ様。なんとか拝謁して不老の件を申し出たいと思っていたのだが、手土産となるモモンズ・ブレイドアーツの新技を開発できなかった。モモンズ・ブレイドアーツはブレッヒェン・ロンブスが要であり、全てはそこから派生している。つまり、ブレッヒェン・ロンブスを修得してしまったアインズ様には、どのような技をお見せしても新味がないのだ。右から斬りつけていたのを左からにしたので新技です、などと戯けたことをアインズ様へ申せようものか。どこからかアインズ様がお喜びになるお土産が降ってこないだろうか。

 

 そんなことを考えながら今日の予定をミラと話していると、いつの間にか近付いてきたシズが静かに囁いた。

 

「利子の発生から780分が経過。利子の発生は78回。勿論複利」

「待ってください! 昨日はシャルティア様に拘束され、今日はアウラ様から伺うよう言われているんです。明日はシズさんに付き合いますから」

 

 1割の利子が78回発生すると、元本の1,692倍になる。1.692倍ではない。一千六百九十二倍である。複利とは恐ろしいものなのだ。

 

「他にも埋め合わせと責任と心の修復処置が残っている」

「……明細を要求します」

「うっ……、それは、色々」

「覚えていないんですね?」

「そんなことない! 私におちん」

「シズさんストップここでしていい話じゃありませんわかりましたから明日まで待ってください!」

「……わかった」

 

 一体何を借りて何を返せばいいのかわからないが、明日はシズに付き合うことになってしまった。

 

 ナザリックのメイドたちをも凌駕する食事を終えて食休みをしている内にレストランが賑わってきた。

 ここで待っていればアルベド様がいらっしゃるやもと思うが姿は見えない。朝食は別室でお取りになっているのかも知れない。

 

「シリーたちは明後日だな。全員一緒だと多いから三人ずつ。3322で分けるか、3331にするか、どうするかは任せる。俺が行くとまた捕まるかも知れないからこっちに来るように伝えてくれ。詳細は明日以降。大変だと思うが連絡を頼む」

「はい、かしこまりました」

 

 SVB第2班の10名に作った借りの事である。

 ヴァンパイア・ブライドたちの仕事にはナザリック第一から第三階層までの警邏とシャルティアの世話があるが、47人もいるのだから屍蝋玄室に待機している時間が割りと長い。その時間を私的に使うのはシャルティアが許していることである。

 

 とりあえずすべき話が終わり、食休みもほどほどにとって顔色も戻った。

 忙しくなってきた料理長とピッキーに軽く礼をしてからレストランを辞した。

 

 

 

「執務中よ。あなたに手伝ってもらうことはないわ。わざわざ挨拶に来なくてもいいのよ?」

「失礼いたしました。お目にかかれただけで光栄でございます」

「多分わかってないと思うから言っておくけれど、私のところには来なくていいと言っているのよ」

「……それは拝謁をお許しにならないと仰っておられるのでしょうか?」

「兎も角今は忙しいの! 挨拶を終えたのだから早く出てきなさい」

「…………かしこまりました。おおせのとおりに、でていきます」

 

 アルベド様とはどこでお会いできるのかと執務室に向かったら、早くも書類の山と格闘しエルダーリッチたちへ矢継ぎ早に何事かを指示していた。

 本当にお忙しそうで、お仕事を手伝えない自分が邪魔となるのは理解できるが、「来なくていい早く出ていけ」と言われるのは寿命をヤスリがけされるようだ。アルベド様の執務室を訪れる度にこんなである。

 

 ガックリと肩を落として背を向ける男を憐れんだのか言葉が足りないと思ったのか、アルベドは執務中の厳しさからかけ離れた優しい声音で言った。

 

「少し考えてることがあるのよ。今は教えてあげられないけど、そうね。次の次か、その次にエ・ランテルに行く頃には、ね?」

「承知しました。その日をお待ちしております」

 

 お仕事をしている凛々しいアルベド様をずっと見ていることが出来ないのは残念である。

 しかし、アルベド様から優しいお言葉を頂ければ10年は戦える。

 

 第九階層からアウラ様の階層へ向かおうとしたところ、メイドのリファラとキャレットに遭った。

 二人は風呂での件からアルベド様のお側付きをすることが多くなったらしい。

 二人によると、一昨日と昨日のアルベド様はナザリックにいなかったようなのだ。ナザリック表層部から外に出たのならヴァンパイア・ブライドたちの目に留まるはず。それがなかったということは、狩り場直行君を使ってエ・ランテルに転移していたのだと思われる。

 自分がエ・ランテルにいない時を選んで何を為さっているのだろうかと思うが、待てと仰られたのだから待つべきだ。

 

 それはそれとして、二人から時間が取れないかとそれとなく打診されたのは考えておくと言葉を濁した。

 二人からは言葉を濁して逃げられたが、ログハウスで会ったメイドのフィースはそうもいかない。出来ることなら何なりと、と言質を与えてしまっている。

 フィースはペストーニャ様主催の着せ替え大会には参加していたが、シェーダ主催の鑑賞会にはいなかった。ヴァンパイア・ブライドたちのように時間を少々、の可能性は低いだろう。無茶振りされないことを祈るばかりである。

 

 

 

 ナザリックの昼型たちは朝食の時間なので、そこからは誰かに捕まることなくスムーズに第六階層に着いた。

 アウラ様たちも朝食の最中だろうが待たせてもらうことにして、と思っていたのに不在。

 留守を預かっているエルフメイドたちによると、いつもより早い時間に出発なさったのだとか。早めに戻るつもりなので、己が訪れたら引き止めておくよう命じられたらしい。

 それなら空いた部屋で昼寝でもさせてもらおうとしたところ、ミラがエルフメイドたちを叱りつけた。

 

「ご主人様はアルベド様の相談役です。それなのに、お前たちの態度は!」

「待て。偉いのはアルベド様であって俺じゃない」

 

 エルフメイドたちが男を見る目は、嫌悪が込められた鋭いものだったのだ。そんな目でご主人様を見られることを、ミラは決して許容しない。

 真ん中にいる男はどんな目で見られてもいーじゃねーかと思っているが、それでは沽券に関わりますとミラは譲らず、エルフメイドたちは拝謁することすら叶わぬ上位者の名と間近に迫る暴力に怯えきってしまい、話が中々進まない。

 どうしてこんなことにと思いつつ男が仲介をして、金髪のエルフメイドが目に涙を溜めて言い放った。

 

「マーレ様の貞操は私達がお守りします!」

 

 彼女の言葉は、ミラのキャパシティを越えた。

 マーレ様は男の子である。ご主人様は男性である。ご主人様は同性ではなく女性を好まれるのは自身の身をもってよく知っている。ご主人様を取り囲む女性を数えればそんな事はありえないと断言できる。しかし、アルベド様の名に怯える外から来た無力なエルフが決死の覚悟を持って訴えた言葉には、真実の光が煌めいていた。

 ミラはほんの少しだけ、一秒後には蒸発して痕跡も残さない微量の疑念を抱いてしまった。

 疑念を抱いたまま、ご主人様の顔を見てしまった。

 

「そんなわけがあるか!」

 

 あらぬ疑いを晴らすべく、ミラを使って証明した。

 ミラは倒れた。

 

「それに二人を抱いたことがあったでしょう?」

「えっ!?」

 

 その時、三人のうちの一人はマーレのお供で第九階層に赴いていたのだ。

 青色をした癖毛のエルフメイドが仲間の二人に詰め寄って、二人が認めたことで証明を続行することになった。

 

 

 

 

 

 

「あっ、お兄ちゃん!」

「マーレ様!」

 

 昼を幾分過ぎた頃、アウラとマーレが第六階層のツリーハウスに戻ってきた。

 出迎えた男を認めたマーレは駆け寄って、

 

「部屋の中で肩車するなって言ったでしょ!」

「「……はい」」

 

 揃ってお姉ちゃんに怒られてしまった。

 

「アウラ様とマーレ様のお帰りをお待ちしておりました」

「うん、ちょっと話したいことがあって。あんたもマーレに何か話があるんでしょ?」

「はい。急ぎではないのですが、マーレ様にお願いしたいことがございます」

「僕に?」

「紹介していただきたい者がいるのです」

「そーゆーの後にして。お腹空いてるんだから」

 

 アウラは言葉少なく中に入ってダイニングテーブルにつく。

 急なお戻りとなった可愛いご主人さまを持て成すべく、エルフメイドたちが慌ただしく立ち回る。

 そんな三人を見てアウラはすんすんと鼻を鳴らし、小首を傾げ、何事かに思い至ると鋭い目で男を睨んだ。

 

 

 

 男は食事を終えたマーレに第六階層の案内をしてもらう。

 闘技場では、コキュートスと選ばれしリザードマンたちの訓練時間に当たったのは幸いだった。

 男も参加させてもらい、リザードマンたちとの模擬戦でモモンズ・ブレイドアーツを披露。外骨格であるため、モモンズ・ブレイドアーツを修得できないコキュートスから激しい嫉妬と羨望を向けられた。

 ミラも参加して大人気なくリザードマンたちを叩きのめし、通常のヴァンパイア・ブライドを越える強さをコキュートスに感心されていた。

 

「それじゃマーレは仕事に戻んなさい」

「……はーい」

「返事は伸ばさない!」

「…………はい」

「それではマーレ様、例の件をよろしくお願いいたします」

「うん。本当にアルベドさんの許可があるんですよね?」

「勿論です。確認していただいても構いませんよ」

「わかりました。それじゃ、えーっと」

「いつでも構いませんが、私は帝都にいることもありますので、前日までに連絡を頂けると幸いです」

「はーい」

「だから伸ばすな!」

「……はい。行ってきます」

「「「行ってらっしゃいませ!」」」

 

 エルフメイドたちに見送られてマーレは仕事に戻っていった。

 アウラの仕事は魔導国領域内の警戒である。この男が様々な形で協力したため、アウラの労力はとても少なくて済むようになった。どこかで事有らば、速やかにアウラの耳に入るようになっている。

 対してマーレのお仕事は天候管理。マーレだけに可能なドルイドマジックの行使が必要であって、誰かに代わってもらえるものではない。他にもエ・ランテル近郊に作ったダンジョンの管理のお仕事もあって、こちらの代役を探すのも困難だ。

 ナザリックはホワイトな組織を目指しているので、魔導国建国間もない今はまだマーレの負担が大きいが、いずれはアウラのように楽ができるようになる、はずである。

 

「今度は私に付き合ってもらうわよ」

「そのために朝からお待ちしておりました」

 

 

 

 

 

 

 第六階層は地下にあるにも関わらず、日が差している。日没までは間があるが、直に西の空が染まってくるだろう。

 

「それじゃこっち来て」

「話ならここでも出来るのではないでしょうか?」

「誰かに聞かれるかも知んないでしょ。いいから早く」

 

 アウラお気に入りの魔獣の背に乗って、鬱蒼と木々が生い茂る区画に連れてこられた。ツリーハウスからもリザードマンの住居とも離れている。

 ちなみにマーレ君に第六階層を案内してもらった時は、ずっと合体したままあちこちを歩き回っていた。それを見たエルフメイドが「本当に大丈夫なのですよね?」とミラに念押しをしたのだが、ミラは曖昧に頷くことしか出来なかった。

 

「フェンは誰も近付けないようにして」

 

 魔獣を森の外に置いて、深い木々の中へ入っていく。

 木々の密度は高い反面、下生えは少なく、案外歩きやすい。

 数分ほど歩き、このあたりでいいかな、と先を歩いていたアウラは振り向いた。

 

「私にどのようなご要件でしょうか?」

「この前聞きそびれたこと。あんたが空から落っこちて、ビーストマンを食べてみたいとか言うから。……もうビーストマン食べたいとか言わないよね?」

「…………言いませんよ」

 

 言わなくても、実行するか否かは別問題である。

 

「じゃ、そんな事しないようにミラに言っとくから」

「…………」

 

 アウラは逃げ道を塞いだ。

 ミラに伝えれば、ソリュシャンやルプスレギナたちにも伝わる。

 男の傍には常に誰かしらがついており、彼女らの目を掻い潜ってビーストマンを味見するのは困難だ。

 

「って、話したいのはそんな事じゃなくて」

 

 青と緑の目が男を貫く。

 逃げることを許さない真剣な眼差しだ。

 

「誰かと結婚するとか言ってたよね。誰とするの?」

 

 眼差しと同じく、鋭く切り込んだ。

 

『私が大人になったらお婿さんにしてやってもいい』

 

 アウラ一世一代の告白を、この男は近く結婚すると返したのだ。

 その時に問い詰められなかったのは、空から落としたり森の中で探し回ったりショートカタナブレイドを向けられてキレそうになったと思ったらビーストマンを食べるとか言い出して本当はバカなんじゃないかと思ったり、色々ありすぎて問い詰める気力を根こそぎ奪われてしまった。

 ずっと気になっていたが、勢いがないと口に上らせ難い話題である。

 アウラは少しずつ気力を練り上げては霧散させ、この男がナザリックを訪問すると聞いて覚悟を決めたのだ。

 

「ソリュシャンです」

 

 先の告白同様、口にするにはスゴイ覚悟が必要な質問だったのに、男は至極あっさり答えた。

 

「ソリュシャン、か……」

 

 ソリュシャンは、この男の遠縁のお嬢様として一緒に暮らしている。

 長く共に過ごすうちに何かしらが育っていったのかも知れない。

 そしてソリュシャンは戦闘メイド「プレアデス」の三女。プレアデスは一般メイドと違ってセバスの指揮下となる。今ではそれぞれがそれぞれの役割を担っているのでセバスがプレアデスの指揮を取ることはなさそうだが、ソリュシャンとセバスの距離は、以前は同じ任務についていたこともあり、割と近いと言って良い。

 

「セバスがナザリックのシモベと人間との結婚についてアインズ様に何か言ってたみたいなんだけど、それってあんたが何かしたの?」

「ソリュシャンから相談を受けた際、セバス様のご意見を伺っては、と提案したことはありました」

 

 脚本を書いたのはこの男だが、動いたのはソリュシャンであり、エ・ランテルに詰めるナザリックのシモベたちへ人間との結婚をどう思うかとアンケートをとったのはセバスである。

 セバスは慎重にアンケートを集め、デミウルゴスに皮肉を飛ばされながらもアインズ様へ上申。アインズ様のご様子はセバスの意見に前向きなようである。

 

「ふぅん…………。あんたから言ったんだ」

「結婚を口にしたのはソリュシャンからです。他に、ルプスレギナ、ナーベラル、ユリさんからも結婚しろと言われています」

「…………………………………………はあああぁぁあああ!?」

 

 アウラは、結婚は一対一でするものだと思っていた。

 それなのに、何故かソリュシャン以外に三名の名が挙がる。

 

「帝国では、デミウルゴス様からプレゼントされたカルカを対外的な妻として扱っております。近々帝国から魔導国に移る帝国四騎士の一人であるレイナースを第六夫人にしてはどうかと言ったのはソリュシャンです」

「だいろくうぅ!? なんで六なの!?」

「それはソリュシャンに聞いてください。なお、ソリュシャン、ルプスレギナ、ナーベラル、ユリさんとの結婚についてはアルベド様とアインズ様にお伝えしてあります。アインズ様は最低でも一年は熟慮せよと仰せでございましたので、妻帯するのは早くて年内と申し上げました」

「ちょ……ちょっと待って……」

 

 アウラは渋面を作り、額を押さえた。

 頭痛が痛くなったのだが、押さえた程度では和らがない。

 訳が分からない話なのに、アルベドとアインズ様が了承済みとは一体どういうことなのか。

 

「あんた…………六人と結婚するつもり? 結婚をなんだと思ってるのよ。それにさっきも……」

 

 マーレは気付かなかったようだが、アウラはエルフメイドたちの体から女の匂いではない匂いを嗅ぎ取った。

 匂いが移るような事をしたのだ。

 

「これはソリュシャンたちにも伝えたことですが、私が皆を妻にすると言うよりも、私が皆の共有物になると言ったほうが正確だと思われます。考えてもみてください。私がソリュシャンたちをどうにか出来るとお思いですか?」

「うっ……。それは、そうだけど……」

 

 プレアデスは「戦闘」メイドと言うだけあって、皆が皆とても強いのだ。

 この男が力づくでどうこうするのは不可能である。

 

「そして結婚についてです。魔導国で結婚する場合、当然のことながら魔導国の法に縛られます。ですがナザリックで結婚する場合はどうでしょう? 結婚する前と後で何か変わりますか?」

「えっ?」

 

 それは、アウラが全く考えなかったこと。

 結婚とは親しい男女の想いが高まって一緒になる。その程度の認識しかない。

 

「魔導国の場合、これは帝国や王国でもいいのですが、まず財産の共有があります。妻のものは夫のもの、夫のものは妻のものとなるわけですね。

 他にも税の扱いが変わります。

 ああ、夫か妻のどちらかに合わせて居住地の移動も可能になるでしょう。ところによっては居住地を変えてはならないとの法がありますので。

 一番は子供です。妻が産んだ子供は夫の子供と見做すのです。当たり前のことですが、結婚しなくても子供は出来ます。しかしそれを無闇矢鱈にされると管理が複雑になります。

 夫、妻、子供、これらをひとまとめにした家族という単位は国家が民を扱いやすくするために作り出したアイデアなのです。

 他にも様々な事がありますが、男女が一緒に暮らすことを宣誓する程度の理解で構いません」

 

 アウラはぽかーんと口を開いた。

 結婚とはもっとなんというか素敵でハートフルドリーミングなロマンチックだと思っていたのだが、なんということだろう。

 

「ではナザリックでの結婚はどうでしょうか? 一つ一つ先に上げたことに照らし合わせますと、まず私有財産は認められています。結婚することによって両者の財産を共有するかどうかは、その時々に依るでしょう。制度で縛ることなく、両者の話し合いで解決出来ます。アインズ様のお心を私が推し量ることは出来ませんが、話し合いのお許しを得ることは難しくないと存じます。

 税や居住地については、特に申し上げることはありません。

 子供につきましては、ナザリック全体で育てるのか、それとも父と母が育てるのか。これもその時々に依ると思われます。

 こうも自由なことが出来るのは、アインズ様がナザリックのシモベ一人ひとりをよくご存知でいらっしゃるからです。言い換えますと、如何にナザリックの方々が強力無比であっても総数は少ない。結婚が可能な方々は百を越えるでしょうが千には遠く満たないかと。

 そのために個別の対応が可能であると思われます。ゆえにナザリックでの結婚は細かな制度を定めていないのでしょう」

 

 乱暴に例えれば、一人暮らしの食事と兵士一万人の食事。

 一人暮らしの食事なら、ありもので適当に済ませるのもよし。手間をかけて豪勢な食事にするのもまたよし。

 しかし、食事をするのが一万人もいるとそうはいかない。適切な分量の糧食を仕入れ、決まった時間に調理を始め、決まった手順で調理を行い、決まった場所で食事をとらなければならない。そうしなければ一万人もの食事は用意できない。なんとなくでどうにかなるものではないのだ。

 ナザリックには結婚可能な者が少ないので様々な融通を効かせられる。だからこそ細かな精度を定める必要がない。

 

「で、でも! その……、結婚した相手以外と、えと…………、あれをしちゃいけないでしょ!」

「あれとは何のことでしょう?」

「だから…………!!」

 

 言い淀むアウラは、段々と顔が赤くなっていく。

 色々と経験してシャルティアには結構ぶっちゃけているが、シャルティア以外に話すのは恥ずかしい。そんな事を口にしたら自分のイメージに傷がついてしまう。シャルティアとは違って、アウラは節度ある常識人と思われているのだ。

 

「だから……、さっきのあんたがメイドの子たちとしてたこと!」

「ああ、セックスのことですか?」

「はっきり言うなバカ!」

 

 セックスと言われるのは恥ずかしく、エルフメイドたちとしていた事を認められるのは何だか頭にくる。

 多情を叱りつけてやろうと思ったが、男が続けた言葉は結婚の話と同じで実に理路整然としていた。

 

「アウラ様は私に任じられた役職をご存知のはずです」

「知ってるけどそれが何だって言うのよ」

「確認したく思います。仰っていただけませんか?」

「アルベドの相談役でしょ。それが何?」

「一つ抜けております。給仕係も兼任しております」

 

 給仕係とは、食事の世話をする者を指す。

 アウラが食事をとる場所はツリーハウスがほとんどだが、第九階層のレストランに行くことも稀ではない。今日の朝がそうだったように、アルベドもレストラン以外で食事をとることが多い。

 そんな両者だが、同席したことが何度かあった。

 アルベドの食事の世話を、この男がするのをアウラは一度も見たことがない。

 そもそも普段はナザリックにいない男だ。出来るわけがない。

 

「続けてお聞きします。アウラ様はアルベド様の種族をご存知ですね?」

「サキュバスでしょ」

「それではサキュバスの食事となるのは何でしょうか?」

「それは………………、あっ」

 

 サキュバスは男の精を、言ってしまえば精液を食餌とする。

 

「私をアルベド様の給仕係としたのはアインズ様がお認めになったことです。そして、私がアルベド様と結婚することはありません」

 

 アインズ様の正妃に立候補しているアルベドである。

 

「加えて、私に結婚をどうするのかとお尋ねになったのはアインズ様です。その際に、ソリュシャン、ルプスレギナ、ナーベラル、ユリさんの名を挙げました」

 

 ここまで来れば、アウラにもわかった。

 そこへ踏み込む前に、確認しておくことがある。

 

「それじゃ、シャルティアだけじゃなくて、その…………アルベドとも?」

「はい」

 

 誤解や勘違いではなく、本当にアインズ様公認である。

 尤も、アインズ様から見ればセーフティ。

 セーフティが外れると、自慢のお骨をボリボリされてしまうのだ。

 

「ええと、じゃあ…………」

 

 アウラなりにわかったことを整理する。

 

1.結婚相手以外とセックスするのはいけないことだ。

2.この男はアルベドとセックスしている。サキュバスであるアルベドの食事なのだから仕方ない。アインズ様がお認めになった給仕係である。

3.この男がアルベドと結婚することはない。

4.アインズ様は、この男がソリュシャンたちと結婚することをお認めになっている、らしい。

 

 2と3は絶対だ。2はアインズ様の決定であるし、3は守護者統括が人間と結婚するわけがないのは当然だ。

 そこで4が発生する。これもアインズ様がお認めになったことだ。

 しかし、4が発生しても2は継続する。

 しかしそうすると、明確に1と反する。それでは1と2・4はどちらが重いだろうか。

 1はアウラの考え。2・4はアインズ様がお認めになったこと。後者が重いのは明確だった。

 

「結婚しても名前が変わるわけでもなし。何も変わらないと愚考します。それに結婚相手以外と関係を持つのは、王国や帝国でも珍しいことではありません。現に私はそうして生まれました」

「………………そうかも知れないけど」

 

 アインズ様の言葉に則ればその通りになってしまうのだ。

 しかしアウラは、結婚はもっと神聖で汚れない愛の結晶的な何かを象徴するものだと思っていた。

 胸中に、言葉にしがたいもやもやとしたものが湧き出てくる。正体は不明だが、はっきり言って不快である。この鬱憤はどうやったら綺麗に晴れてすっきりするのか。

 目の前の男を叩きのめせばいいのか。そんな事をしてもアインズ様のお言葉が覆るわけがないのだが。

 

 悶々としているアウラの前に、男は恭しく跪いた。

 

「色々と申し上げましたが、アウラ様のお気持ちは嬉しく思います。我が身には有り余る光栄でございます」

「えっ! べべべべべつにそんなんじゃないんだけど!?」

 

 ここに男と女の非対称があった。

 

 女が興味も関心もない男から想いを寄せられても迷惑なだけだ。直接的な手段に出られるかと思えば、いっそ悍ましく感じることだろう。

 反面、男が興味も関心もない女から想いを寄せられれば、程度の差はあれど興味を持つ。

 事実を述べるとすれば、男は同時に百人の女に自分の子を孕ませることが出来る。百人の男がいても、一人の女が孕めるのは一人の男の子だけ。二人以上の男の子を孕むのは非常に稀だ。

 

「ですが」

 

 男は、ふと嗤った。

 

「私にはアウラ様がお美しく成長なさった姿を見ることが、叶いません」

 

 アインズ様への手土産にしようと思ったモモンズ・ブレイドアーツの新技を開発出来なかったのだ。

 ここを何とかしないと、シャルティア様の牙を受けることになってしまう。何としても避けたい。しかし、妙案が思いつかない。

 己の愚かさを嘲笑う自嘲の笑みだった。

 

「そんなこと……」

 

 しかし、顔が良いのは得だった。

 アウラの目には、とても寂しそうで、悲しそうな顔に見えてしまった。

 寂しくはないがシャルティア様に絶対服従する吸血鬼になってしまうのは悲しいことなので、全くの勘違いというわけでもない。

 

 そして、その問題は既に解決済みである。

 アウラが男に気付かせないよう、不老や長寿化の効果がある果物を色々食べさせていた。

 その事を伝えるだけで男の憂いは払えるのだが、アウラは言わなかった。

 

「アウラ様?」

「見てよ。私は大人になったらこうなるんだから」

 

 アウラが自分の口に放り込んだのは、ちょっぴりほろ苦い大人の味がする不思議な青いキャンディー。

 アインズ様直々に下賜されたマジックアイテムであり、服用者の姿を一時的に大人にする効果がある。

 幼女をなんとか脱しようとしているアウラは、妖艶な美女となった。

 

 男を立たせ、向き合った。

 子供の姿だと、頭の天辺が男の胸まで届かない。今は顎まで届く。少し背伸びをして、向こうに下を向かせれば高さが釣り合う。

 

「気持ちが嬉しくて。それで?」

 

 自分では言えないことを言わせたい。

 もっと顔を見ていたい。

 もしも食べさせた果物の事を教えてしまえば、この顔が見れなくなってしまう。それは少し残念だ。いつかは明るみになるだろうが、自分だけの秘密としてもうしばらくの間はとっておきたい。

 

「お気持ちにお応えしたく思います」

 

 半歩の距離を男が詰め、括れた腰に腕を回した。

 アウラは、んっと小さく声を漏らす。我ながら恥ずかしいことをしてしまったと、頬を染めて俯いた。

 覚悟を決める間もなく顎に指を添えられ上を向かされて、唇を塞がれた。




ヒルマって需要あるんでしょうか?
アンケートにすべきか
いや多分書くような気がしないでもないのですがそうすると話数が嵩んでただでさえ進まない話が更に進まなくなるのは今更なんですが飛ばすべきなら飛ばしてもいいような気も
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