※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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本話10kちょい


私が姉でそっちが妹

 固まっていたシズがこう言った。

 

「顔が変」

「はア?」

 

 エントマの声は尻上がり。ホワイトピンクになりつつあった空気が固まった。

 

 プレアデスの姉妹は基本的には良好な関係を保っている。が、シズとエントマは時として対立することがある。どちらが末妹かを争っているのだ。

 シズもエントマも、自分が姉であっちが妹と譲らない。事あるごとにぶつかって、それでもやっぱり仲良しなので仲直りも早い。この時も、何事も無ければすぐに仲直りするはずであった。

 余計な男が余計な口を挟まなければ、この後の悲喜劇は避けられたかも知れない。

 

「今のはシズさんの言葉が足りなかったですね。シズさんは、そして私も、エントマさんが可愛く笑ってたので驚いたんですよ。その顔は仮面なんですよね?」

「仮面だけどぉ……。こっちの顔も本当の顔って言ったのはおにぃちゃんでしょぉおお!」

「そうでした」

 

 数日前、エ・ランテルからナザリックに向かう馬車の中で話したこと。エントマの本当の顔を見たいがためにあれこれ言い募った。とはいえ、口にしたことは本心でもある。エントマと自分の顔の違いは、取り外しが可能であるか否かだけと思っている。今は整っていると評価される自分の顔も、すぐ下には爛れた顔があり、その下には頭骨がある。

 長く灼かれた顔でいたこの男ならではの価値観だ。

 

「だからぁ、ティトゥスとかに手伝ってもらって幻術で色々工夫したのぉ。ずっとは無理だけど、一回掛ければ一日くらい平気ぃ」

 

 以前から幻術を使い、物を食べる時は仮面の口から食べているように見せる事があった。それを少し応用して、感情に相応しい表情が出るようにしただけである。

 アインズはモモンとしての顔を見せる際、お骨のお顔に肉のある顔を映して様々な表情を見せる。それに比べれば、仮面の表情を変えるくらいは難しいことではない。

 アインズは卓越した魔法使いなのでさらりと幻術を使うが、蟲使いで符術が専門のエントマはちょっと頑張らなければならなかったが。

 

「とても可愛らしいですよ。エントマさんが笑うとそのようになるんですね。皆さんもエントマさんの笑顔で心を癒されるに違いありません」

「えへへ、そうかなぁ〜?」

「そうですとも」

 

 エントマは、仮面であることを特に意識しないでいた。仮面の下の顔を皆に見せても、ナザリックは異形種に溢れているのだから何か言われるわけがないし思われる事もない。

 それが、仮面もエントマの本当の顔と言われた。仮面であってもエントマの創造主である源次郎から与えられた顔なのだ。紛うことなきエントマ自身の顔である。

 自分の顔なのだからもう少しお手入れを、と。男がカルネ村にいた一昨昨日に幻術を完成させ、ナザリックにいる皆に見せて回った。男が言ったように大好評であった。アインズ様からも「うむ、いいぞ」とお褒めの言葉を授かりエンちゃん大満足である。

 

「それでねそれでね? ポーションももらってきたよぉ! ピッキーにおねだりして下級ポーションが3つだけだったけど。でもでもおにぃちゃんならこれで回復するよね? ねぇねぇ、お肉ちょーだい♡」

「まあ、約束しましたからね」

 

 とっても可愛いエントマが、満面の笑みを浮かべて、おねだりしてくるのは人肉である。見た目と発言のギャップに男は苦笑した。

 

「ですが、エ・ランテルに戻るまで待ってください。ナザリックでは手足を落としても回復できませんから」

「えぇええええーーーーーーーーっ!! ペストーニャがいるもん! ルプーよりすごい回復魔法使えるんだよぉ!?」

「エントマさん、ちょっと考えてもみてください。もしもペストーニャ様に、「お肉食べたいから手足もぎました。回復してください」なんて言ったら何と言われると思いますか?」

「………………あ」

 

 ナザリック最後の良心にして、ナザリックのメイドたちを束ねるメイド長にして、ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」の管理を担う高レベル神官にして、可愛いわんこのペストーニャ様である。

 かくかくしかじかで回復してくださいと言おうものなら絶対に怒られるのが目に見えていた。

 特にこの男は、ペストーニャからは魔法のブレスレット(黄金の輝き亭四軒分)をもらったり、超高級ポーション(贅沢なことに破瓜の痛み止めになった)をもらったり、何度も回復魔法のお世話になったり、ロイヤルスイートで行き倒れたのを助けてもらったり、果てはリザレクションもかけてもらったりと、返そうにも返せない借りが大量にある。

 そこへ新たな項目を重ねるのは、叶うならば避けたい。

 エントマもペストーニャに怒られるのを予想したようで、ぷんぷんしたお顔が固まった。

 

「うーーーー、じゃぁエ・ランテルに戻るまで我慢するぅ……。我慢するから、戻ったら左腕だけじゃなくて足も欲しいなぁ?」

「わかりました。手足を三回分ですね。回復するまでの間隔を一時間以上空ける必要がありますから、その時の都合次第で少し時間がかかるかも知れません。そこは留意しておいてくださいね」

「はーい♡」

 

 ちょっとしょんぼりして上目遣いになったエントマは、目を輝かせ太陽のように明るい満面の笑みを見せた。

 今までは声だけで感情を伝えてきたエントマだったが、表情を表すようになると実にコロコロと変わって可愛らしい。ニコニコしているエントマを見ると、見ている方もニコニコしてしまうのは仕方ないことだろう。

 しかし、もう一人の人物はニコニコしていなかった。

 笑ってはいる。嗤って、の方が適切かもしれない。

 

「おにく………………。ふっ」

 

 シズが鼻で笑った。無表情ながらに口角をわずかに釣り上げ、肩を微かに震わせる。

 

「………………なに?」

「別に。お肉で喜べるエントマが羨ましいだけ」

「……おにぃちゃんがくれるって言ったんだもん」

「そこには興味ない。私の興味は別にある」

「何のこと?」

「エントマにはまだ早い」

「………………はア?」

 

 平坦なシズの言葉と違って、エントマの声はまたも尻上がり。

 シズは口角を上げたまま男の腕に腕を絡めて引き寄せる。エントマと似たような身長なのに、大上段からこう言った。

 

「私が摂取するのは動物性タンパク質」

「お肉のスープでも飲むのぉ?」

 

 これでは伝わらないかと、シズは言い直した。

 

「これから一緒にお風呂に入る」

「!?」

「体を洗いっ子したりする」

「!?!?」

「隅から隅まで全部洗う」

「!?!?!?」

「もちろん私も洗ってもらう」

「ししシズどうしたのぉおお!?」

「子供じゃない大人の時間」

 

 シズの口角が更に上がる。シズはニヤリと嗤った。エントマはピタリと固まった。

 シズは言葉を伴わずにこう言っているのだ。

 

『私が姉でそっちが妹』

 

 男はマズイと思った。このままではシズとエントマの仲が危うくなってしまう。咄嗟にフォローした。

 

「シズさんはああ言ってますが、一緒にお風呂に入ったからと言って大人とは限りません」

「……おにぃちゃんはそう思うぅ?」

「ええ、勿論です。エントマさんは十分素敵な大人の女性ですよ」

「………………」

 

 男はデリカシー(偽)を発動した!

 

 先程、エントマとシズが衝突しかかったのを止められたのは、自分にデリカシーが備わってきたのだと自画自賛してたのだ。一度出来たのだから、もう一度デリカシーを発揮してエントマを宥めなければならない。

 しかし、それは全くの勘違いである。デリカシーを覚えたのではなく、飛び火を恐れた保身であった。

 

 エントマが自分のことを子供だと思って落ち込まないよう言葉を尽くす。

 心から思っていることでも言葉にしなければ伝わらない。一方、全く思っていないことでも言葉にすれば相手に伝わる。ソリュシャンから押し付けられた数多のロマンス小説から、男は学んでいたのだ。ロマンス小説から引用した美辞麗句でもってエントマが如何に大人の女性であるかを賛美する。

 

 男が言葉を続ければ続けるほど、エントマの顔から表情が抜けていく。コロコロ変わって愛らしかったエントマの顔は、元の仮面のようになった。

 エントマの顔は更に変わり、ぱっちりしたお目々は細められ、愛らしい小さな唇は固く結ばれる。柔らかそうなほっぺたはヒクヒクと引き攣った。

 

 子供子供言われるのは、まだいい。

 彼は大人の男性だ。彼から見て自分が子供に見えるのは仕方ない。

 しかし、大人だ大人と言われるのは頭に来た。どう考えても絶対に大人だと思われていない。いつぞや、ソリュシャンとルプスレギナを交えてご褒美の話になった時、直接ではなかったが暗に、子供扱いしている、と言われている。甘やかしたら成長に悪影響、なんて言うのは露骨な子供扱いだ。

 思ってもいないのに、素敵な大人の女性と言ってくる。

 凄く凄く頭に来たが、彼の顔を見ればからかっているのではないことはわかる。多分おそらく自分を慰めてくれているのだろう、致命的に間違っているが。ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」で、史上初の傷害事件を発生させるのは何とか耐えられた。

 しかし、このまま言われっ放しなのは自分の矜持が許さない。シズではなく彼に、自分は子供っぽいだけじゃないと主張しなければならない。

 気付けばこんな事を言っていた。

 

「私も一緒にお風呂入るぅ!」

「えっ」

 

 驚く男の傍らでは、シズが頭を振って嘆息した。

 

「お前やっぱりバカ」

「失礼な。撤回を求めます!」

「おにぃちゃんのバカ!」

「エントマさんまで!?」

 

 やっぱりバカであるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 スパリゾートナザリックの天然神造温泉は地上もとい地下の楽園である。男女が一緒に入るのだから、選んだのは当然混浴露天風呂だ。

 いつぞや述べたように、混浴露天風呂を使うのはアルベドだけである。シズとリファラとキャレットがスパリゾートを利用した事で他のシモベたちも時々利用するようになったが、女性たちは混浴するのが恥ずかしいし、男性たちは混浴に入って有らぬ誤解を受けては堪らぬと敬遠している。

 脱衣所は男湯・女湯・混浴湯でそれぞれ分かれているため、中で鉢合わせる事はない。

 先に入った男は、今回も開放感溢れる広い風呂を独り占めした。

 

 じゃぶんとかけ湯をして、静かに大きな露天風呂に浸かる。風呂の縁石に頭をもたれ、ふいーと手足を伸ばした。

 ふと思うことがあり、じっと手を見る。小指から人差し指へ順に動かし、次は逆に動かす。五指を滑らかに動かして湯面を叩いた。風呂に入る前より動きが軽やかに滑らかになっている。ナザリックの神造温泉には傷を癒やす効果があるのだ。

 この日は朝からずっとギターを弾いていたので、気付かないうちに手指が炎症を起こしていたらしい。慣れない筋肉を酷使しすぎたのである。自覚症状はなかったが、隣で聴いていたセシルは気付いたのだろう。セシルが続けての練習を止めたのは正解だった。

 クラシックギターをもらった事もあり、セシルへの感謝を深くしてから記憶の宮殿に埋没する。

 

 イメージトレーニングは誰しもすることだが、この男は極地の一つに達している。

 風呂に浸かりながらも譜面を広げてクラシックギターを掻き鳴らす。残念なのは、ギターを幾ら弾いても音がしないことだ。左手でフレットを押さえ右手でフィンガリングするのは実際にしているのと変わらないが、音だけはしない。音感が致命的なのである。

 音が鳴らなくても運指の練習は可能。南のソナチネの五線譜を見ながら、どこを押さえてどう弾けばいいかを試行錯誤。明日にはシズを満足させる演奏が可能だろう。

 

 運指を把握して二度弾き通した頃、ようやく女性脱衣所の戸が開く音が聞こえた。お風呂に入る時も、女の子の準備は時間が掛かるものらしい。

 

「待たせた」

「先に楽しんでいましたからお気になさらず。シズさんは…………。ええと、何といいましょうか……」

 

 風呂の中で振り返った男の先に、シズが男らしく仁王立ちしていた。前回と同じく水着姿である。今回はスクール水着ではない。とてもコメントに困る水着だった。

 

 シズの両肩から細い紐が伸びている。紐は胸元でクロスして申し訳程度に幅を増してから乳房の中央を通って背中に消える。それと入れ替わるように背中から現れた二本の紐は股間へ向かって合流する。角度は非常に鋭く、面積も極小。

 シズがくるりと回転すれば、後ろはまんまXY。背中の真ん中でクロスして、腰骨の上から尻の割れ目に向かう。フロントは生地らしきものが少しはあったのに、バックは完全に紐だった。

 とてもセクシーな水着である。しかし、着ているのはシズである。腰はくびれて健康的な色っぽさが少々あるものの、色々なボリュームが絶対的に足りてない。とてもコメントに困る水着である。着替えたシズを見たエントマは「シズの変態エッチさん!」と叫んだ。ちなみに色は濃紺だ。

 

「とても洗練されたデザインの水着ですね」

「判断が遅い!」

「わぷっ」

 

 シズは、手にした桶でじゃぶんと男の顔にぶっ掛けた。

 

「それでエントマさんは……」

「うぅ………………」

「服を着たまま入るんですか?」

「服じゃないもん浴衣だもん! お風呂は浴衣着て入ってもいいの!」

 

 エントマは服を着たままだった。いつも来ている装束と構造が似ている。男が知っている衣服で言うと、ナイトローブの丈を詰めて薄手にしたようなもの。

 手は依然として長い袖の中に隠れているが、脚は膝から下が見えている。エントマの脚はほっそりとした少女の脚だった。

 

 

 

 エントマはアラクノイドである。別名が蜘蛛人であり、人の形をした蜘蛛である。

 当初のエントマは蜘蛛人の名のごとく、蜘蛛を人の形に押し込んだ姿をしていた。体色は蜘蛛と同じ黒や茶や黄色に緑の斑模様。全身に繊毛がびっしりと生え、蜘蛛らしくところどころに結節があった。

 しかし、アインズが今もなお折に触れて焦がれる懐かしき時代に、とある勇者が訴えた。

 

『源次郎さん! それじゃエントマが可愛そうでしょうどうして蜘蛛のままなんですかエントマはプレアデスの一人なんですからそのままじゃダメですってこのままだと姉妹から仲間外れされちゃいますよ考えてもみてくださいもしもいつかプレアデスが全員でお風呂に入ったら皆はちゃんとした女の子なのにエントマだけ蜘蛛ってありえないでしょうちょっとこれはないですよおかしいと思いませんか思いますよね? ね? ね? こんなの絶対間違ってますって大丈夫大丈夫擬態って設定がちゃーんとあるんですからエントマが人間になるわけじゃなくてアラクノイドのままです見た目がちょっといい感じになるだけですから問題はまったく何もありませんしいつもは割烹着の下に隠れてるんですから見た目が変わるわけじゃありません全くおんなじです気分の問題なだけなんですからいいですよね? ね? ね? ね? 俺たちみんな仲間ですもんね固い絆に結ばれちゃってますよね? ね? ね? ね? ホワイトブリムさんとか折角スゴい人がいるんですから手伝ってもらわないなんて勿体ないって思いますよね? ね? ね? ね? ね? よっしゃ!! みんなー源次郎さんのオーケー出たからエントマの外装いじるの手伝ってー』

 

 彼は鳥の姿であるのに、全ての女の子の味方であった。

 

 

 

「そう言えば辞書の一つで読んだことがあります。湯浴み着と言いましたか。着たまま風呂に入るための衣服だとか。浴衣は入浴の浴に衣と書きます。浴衣は湯浴み着の一種だったのですね」

「そうなの! だから着たままでいいの!」

 

 エントマは細い腰紐を固く結んで、襟をしっかり合わせている。しかし袖口も裾も襟も広く、丈が短いのもあって入浴に適していると言われたらそうなのだろう。

 生地は薄手で色は白。透けて見えても良さそうだが、どんな服でも魔法がかかってるナザリック製の衣服は、目的外で透けさせることはけしてなかった。

 

 シズは腰を折って湯を汲んだ。

 エントマは両膝を揃えてその場に屈む。浴衣は丈が短く膝上なので、しゃがまれると奥が見えるのではと期待してしまうのは男の性。残念ながら、上品にピッタリと太股を合わせているので、膝頭しか見えない。

 シズがじゃぶんと湯を被る。

 エントマは静かに肩から掛ける。浴衣が湯を吸って肌に張り付き、エントマの体のラインが浮き出てきた。薄手なのもあって、細かな凹凸も見えそうだ。

 

「おにぃちゃんのエッチ! こっち見ちゃダメ!」

「わぷっ」

 

 シズに続いてエントマからもお湯を掛けられてしまった。

 エントマは怒ってる顔もとても可愛い。

 

 掛け湯をした二人も風呂に入った。

 100人同時に入れる広い風呂である。シズは男のすぐ隣に。エントマはやや離れたところに。

 

 色々なことをしてきたシズは裸のお付き合いは歓迎するところであるが、エントマとしてはやっぱり恥ずかしい。お風呂なので彼は裸だし、自分は浴衣を着てはいるものの入浴用なので生地が薄いわ丈は短いわで恥ずかしい。浴衣の下には下着なんてつけていないのだ。

 風呂はとても広い上に一人用浴槽も複数あるので、どうしても恥ずかしくて嫌ならば離れて入ったり別の浴槽に入ることも出来る。しかし、露骨に距離をとったら彼を避けてるようで心を傷つけてしまうのではと考えた。

 エントマはお肉大好きでも、カルマは中立よりである。性悪姉妹に極悪認定されてる男よりよっぽど思いやりに満ちているのだ。

 

「エントマさんは昨日も一昨日も私を探してくれていたんですね。さっき話したように、今日はシズさんに付き合って楽団員のセシルさんからクラシックギターを習っていました。昨日は一日中アウラ様のところにお邪魔して、一昨日は色々動き回っていましたからすれ違ったようです。デミウルゴス様に時間をとって頂きまして、シャルティア様からのご恩返しを少々」

「おにぃちゃんギター弾けるようになったのぉ?」

「中級者にはなれたと思います。明日は明日で色々忙しいですけど、ギターを貰えることになりました。エ・ランテルに戻ったらお聞かせしますよ」

「へーーーーーっ! それじゃ楽しみにしてるねぇ♪」

「ご視聴に耐える腕前になっておきます」

 

 他愛無い会話で緊張がほぐれてくる。

 一緒にお風呂と言っても、体の隅から隅までを見せたり触ったりする必要はないのだ。いつもよりちょっと無防備な格好でお湯に浸かっているだけ。恥ずかしくて緊張していた自分が子供っぽさを証明してるようでちょっぴり恥ずかしくなってきた。

 お湯の中に半分顔を沈め、ぶくぶくとあぶくを湧かせた。

 

 平和になったエントマの隣は少し大変になっていた。

 

(ちょっとシズさん! 隣にエントマさんが入ってるんですから!)

(だから?)

(だから、じゃないですって。風呂から出たらシズさんの部屋に行くんですから、それまで我慢してください)

(我慢できてないのはそっち。ちょっと立ってきてる)

(触るからですよ)

 

 丸一日でフル装填可能な男である。様々な経験によってそちらの回復力が凄いのだ。

 そこへナザリックの神造温泉。癒やしの効果で失ったものが回復していく。更にその上、この日は朝から一度もしてない。ギターに夢中になって、そんな事は思いもしなかった。思いはしなくても体は別。体感的には一週間禁欲を続けたようなもの。シズの手に逞しく反応しつつある。

 

(このままではまずい!)

 

 シズにはいつも好き勝手されている。

 どういうわけかいつの間にか上下関係が形成されて、これまたどういうわけかシズが上になっている。

 そこへ一石を投じなければならない。

 力づくでシズの手を跳ね除けるのは不可能。

 言葉でどうにかなるなら困ってない。強く言えば聞いてくれるかも知れないが、それではエントマに気付かれる。

 そこで男は、はたと閃いた。この場にはエントマがいるのだ。

 

「エントマさん、ちょっといいですか?」

「なぁにぃ? 浴衣は脱がないよぉ?」

「そうじゃありませんよ。ポーションを頂いた先払い、と云うのは少しおかしいですが、今ならちょっとかじってもいいですよ」

「えっ!」

 

 エントマは大きな目をぱちりぱちり。目を丸くして男を見つめた。

 

「エントマさんは知りませんでしたか? この温泉には癒やしの効果があるようです。少しくらいの傷ならすぐに回復するんです」

「そうなのぉ?」

 

 エントマは、女湯には入ったことがある。そちらでも癒やしの効果を含め、様々な効能がある。が、怪我をした状態で風呂に入ったことはない。怪我をすればポーションなり回復魔法で回復する。療養を目的に風呂に入ったりしないのだ。

 

「まずは試しに少しだけ。とれたりするようなのはダメですよ?」

「はーい。それじゃ、ちょっとだけぇ……」

 

 エントマは男のすぐ隣に来て、男が伸ばした左腕を両手で掴み、前腕をちょこっとだけパクっといった。齧ったところからは少々血が滲むだけで流れ出たりはしない。

 男は湯の中に腕を沈め、十秒経過。

 

「おぉ〜〜〜〜!」

 

 湯から上がった腕は元通りになっていた。

 しかも、ポーションや回復魔法と違って瞬間的に回復するわけではなく、いわゆるリジェネ効果で時間経過によって少しずつ回復するため、お腹に入ったお肉が消えた感覚はない。

 

「色々試してみましょう。今度はもうちょっと多めにどうぞ」

「はーい♡」

 

 風呂に入ったばかりの緊張は完全に消えていた。喜色満面でわーいと男の腕をぱくりぱくり。

 今度も十秒で傷は跡形もない。

 続いて二口。更に二口。段々お腹に溜まってきた。

 

(うーむ……。あまり痛くない。これがソリュシャンだといい気付けになるんだが)

 

 痛みを与える目的でじわじわ溶かすソリュシャンと違って、エントマは鋭い牙でサクッと齧り取る。鈍らな刃で傷つけば痛いが、鋭いと痛いよりも熱い。痛みには強い男であり、その上負った傷はすぐに回復してしまう。

 痛みでシズの手に対抗するのはいいアイデアに思えたが、順調とは言い難かった。

 

「あっ!?」

 

 突然エントマが声を上げ、背中を向けた。

 

「どうしました? もっといいですよ?」

「ご飯食べた後だもん。もうお腹いっぱいになっちゃったのぉ」

 

 お肉大好きなエントマだが、ソリュシャンと違って人一人を丸呑みできたりはしない。小柄な体格相応、よりもちょっと多目かもしれないが、大食漢と云う訳ではないのだ。

 お腹が膨れたエントマは、美味しいお肉以外に目を向けることが出来た。出来てしまった。

 

 夜である。

 露天風呂は外の時間と同期して周囲は暗くなっている。夜空を楽しめるように眩い光はなく、仄かな間接照明が辺りを照らす。

 それでも長時間暗がりにいれば目が慣れてくる。白い湯煙の下が薄っすらと見えてくる。暗視のスキルがなくても、エントマは男より夜目が効く。

 エントマは見てしまった。

 

 湯の下で男が脚を伸ばしている。

 脚の付け根の股間のあたり。何かが動いていると思ったのは、ずっと静かでいたシズの手が動いていたからだ。

 シズの手が何かを握って、上下に動かしていた。何を握っているか、察しがついた。ついてしまった。

 子供扱いされて我ながら子供っぽいと思う時はあるけれど、あれが何であるかの知識は持っている。

 恥ずかしくて堪らなくて見ていられなくて、しかし距離を取る選択肢は思いつかなかった。

 

 

 

(俺の都合で食べ過ぎちゃったかな?)

 

 エントマが見たものを知らない男は、そんな事を思っていた。

 気付けのために何度もパクパクさせてしまった。一回あたりの量は少なくても、合計した体積は腕一本を越えただろう。腕一本とは言え、重量にすれば4キロを越える。

 普通に夕食を食べた後で、お肉を4キロも食べれば明らかに食べ過ぎだ。エントマは食べ過ぎてお腹が苦しくなってきたのかも知れない。

 折角お風呂に入っているのだから、苦しい思いをさせるのは申し訳ない。

 

「ふあぁぁっっ!? なななななななななにぃ!?!?」

「エントマさんに無理をさせちゃったみたいですね。こうすれば少しは落ち着くんじゃないですか?」

 

 男の脳裏には、エントマとのこれまでが過ぎっていた。

 エントマとの初対面時、頭を撫でてあげたのは反応が今ひとつだった。それ以前に食べ過ぎで頭を撫でるのは意味不明である。

 食べたものが溜まるのはお腹。エントマのお腹を撫でてあげたら、リラックスした気持ちの良さそうな声を出していたのを覚えている。

 

 男が左腕を伸ばし、エントマの脇腹を掠めて前に回って、優しく撫で始めたのは以前撫でた場所と同じところだった。

 固く結ばれた腰紐より下。食べたものが溜まるところよりも少し下。エントマの下腹だった。

 

 お湯の中でエントマはバタバタしていたため、浴衣の裾が揺らいでいた。

 男の手は、たまたまふわりと浮いた裾の下を通ってしまった。

 五指を広げてエントマの下腹にピタリをあて、優しく撫で回す。

 

 本当にそれだけであったら、エントマから緊張が抜けさえすればリラックスの効果があったかも知れない。

 しかし、身を寄せたシズが負けてなるものかと大きくさせようと頑張っている。

 ちょっとだったのが湯の上からエントマに見られるくらいになり、固さを増してきた。

 そんな気分が手指に乗っている。

 

「あ…………ふあぁ……。んっ……、んぅ…………」

 

 エントマの声に艶が出てきた。

 湯の中でピッタリと閉じていた太股が、少しだけ開き始めた。




拮抗してましたがアンケートの結果と、覚悟までしてる方がいましたのでこうなりました
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