色々詰めて11k字
一睡も出来ずに夜が明けた。
明けたはずである。ナザリックは地下大墳墓であるため、日の光が差さない。あちこちに据えられた照明は昼夜で明るさが変わるが、基本的にはいつも明るい。時間を知るには時計を頼るのが確実だ。
ベッドの枕元に置かれた目覚まし時計(指定時刻になるとアラームが鳴る時計)は朝の5時過ぎを指していた。しばらく前に太陽は顔を出したはず。
ナザリックに滞在できるのは明日の昼まで。夕刻にはエ・ランテルに着いている必要がある。ナザリックからエ・ランテルにまで移動するのに必要な時間は、馬車を飛ばせば二時間。乗り心地を無視して周囲を驚かすことを良しとすれば一時間でも可能。ナザリックを発つのは、無難なところで15時。ギリギリまで粘って16時。
ナザリックでの滞在時間は、最大で35時間残っている。
しかし徹夜明けである。昨夜はシズとエントマを構い通しだったのだ。
「もう時間?」
「うぅ……、もうあさぁ? わたしまだねてるぅ……」
ベッドの上にはシズとエントマが。
オートマトンであるため睡眠不要のシズは、気だるい雰囲気を漂わせながらも起き出した。もう一方のエントマは枕に埋めた顔を少しだけ見せたと思ったらすぐに目を閉じてしまった。
シズは男との時間を、エントマにおすそ分けしていた。
シズちゃんは心優しくて慈悲の心に満ちていると言いたいところだが、この男を一人で相手するのは手に余ると思っただけである。それだったら早い時間に開放するか、睡眠の時間を与えても良かったはず。しかし、寝ずの奉仕を求めた。債権を振りかざし、債務を最大限に取り立てたのだ。アインズ様に倣っているのか、割と吝嗇家である。
アインズ様は先を見据えて消費を効率化しているのに対し、シズのはただのケチである。けちん坊に姉の資格なし。ではエントマはというと、彼女には残念だが無謀な挑戦としか言いようがない。
男は二人に先んじてベッドを降りた。
「夜明けです。シズさんへの借りはこれで精算できました。私は今日もすべきことが詰まっているので、着替えたら失礼いたします」
「もっとゆっくりしていっていい。寝たいなら私の部屋を使うのも可」
「……ありがたい申し出ですが。一先ずシャワーをお借りします。このままでは外に出れませんから」
「だったら私も付き合う」
「本当にシャワーを浴びるだけですからね? 本当に時間がないんですから」
「わかってる。あれだけ絞ったんだからまだ出るとは思ってない」
「……挑発には乗りませんよ?」
一度寝たら生半なことでは起きない男である。
もしもこのままシズのベッドに潜ってしまったら、まず十時間は起きない。すると35引くことの10で25。
ヴァンパイア・ブライドのシリーたちの相手もある。
10人を4班に分けて、各3時間ずつ。密会の場所をロイヤルスイートのセーフティルームにしたため、一度入ると3時間は出られないのだ。そうすると、4掛けることの3で12。25引く12をしてしまうと、残りはなんと13時間!
空間の秘密はある程度解き明かしたつもりでいる男だが、時間の秘密とはなんと難解であることか。
各種細工道具を注文するためにサラマンダーの鍛冶師たちと相談しなければならない。その前に図書館で調べものをして、音楽室でギターも触りたい。13時間ではどうにもならない。どうせどこかで誰かしらか何かしらに時間を取られるに決まっているのだ。
「やむを得ない、か……」
案の定、シャワーではシズに絡まれた。
5分で出るつもりが1時間近くも取られた。13時間が早速12時間に減少。寝るのを諦め、昨日エントマからもらったばかりのポーションを飲み干す。瞬時に疲労が消えて体力が回復し、色々な力が漲ってきた。
外に持っていけば神の血の如き貴重なポーションが、ナザリックではエナジードリンクである。これぞナザリッククオリティ!
シャワーを終えて着替えてから向かったのはレストラン。時短のために、朝食はまたもシズ専用特製ドリンク。
シズですらストローを使って飲むドリンクをゴキュゴキュと喉へ流し込み、朝食に要した時間は僅かに30秒。すぐに席を立ち、まずは最古図書館へ向かおうとしたのだが、早速掴まった。
「相談役殿はこちらにいらしたんですか。もう、どこにいたんですか。探しましたよ? それで、ですね。決まりました。ここじゃちょっとあれですから、私の朝食が終わるのを待っててください」
「随分と朝が早いのですね」
「メイドですから」
昨日見た楽譜の中に『亜麻色の髪の乙女』という曲があったのを思い出した。
亜麻色の髪の乙女であるフィースには、口止めのために出来ることなら何なりと、と言質を与えてしまっていた。
フィースに限らず、ナザリックのメイドたちは見た目に依らず健啖家ばかりである。
大きなプレート皿に色とりどりの料理が盛り付けられ、片端からフィースの口の中に消えていく。
「そんなにじっと見ないでください!」
「失礼しました」
大食が恥ずかしいのか、食事風景を見られるのが嫌なのか、フィースは顔を赤くしてフォークを突きつける。男は軽く謝罪して、朝の紅茶を楽しむことにした。
どうして時計の針は回るのだろうか。自分が身を任せている時間は動的時間と静的時間のいずれなのか。巡る太陽に支配されるのは静的時間と思えなくもないが同じ日は一度としてやってこない。一瞬も止まることなく動き続ける思考は動的時間に属している。しかし、静的時間は確実にある。ミクロとマクロに現れ、その間は揺らいでいる。やはり時間の秘密は難解だ。
答えが出ない問を問い続け、時計の長針が半周。
エ・ランテルに戻っていたミラが帰ってきた。
「ご主人様、おはようございます。昨夜は私事で時間をいただき、申し訳ございませんでした」
「いや、いい。それより用事は済んだのか?」
「……今夜もお時間をいただけますでしょうか?」
「どうせ寝てるか他の用事があるかだから構わない。明日の昼までには確実に戻っていてくれ」
「かしこまりました!」
ミラの私事に興味はない。すべきことをこなしてくれれば、空いている時間に何をしていても構わない。が、なんとはなしに察するものがあった。
メイドのリファラとキャレットによれば、ここ数日のアルベド様は夜になるとエ・ランテルに転移しているらしい。ミラは夜を選んでエ・ランテルに戻っている。ミラの私事とは、おそらくアルベド様が関わる事柄。
アルベド様が為さることを勘ぐるのは不届き千万。いつか必要となれば自分の耳にも入れてくださることだろう。
「それで、ですね。これは相談役殿でも難しいと思います。というかほとんどダメ元ですからそのつもりで聞いてください。出来ればすっごく嬉しいんですけど」
朝食を終えたフィースに別室へ連れられ、要求されたのは恐れ多いものだった。他のメイドたちに聞かれたら非難轟々となるのは確実。
フィースの望みは、あろうことかアインズ様当番を増やすことだったのだ!
メイドたちのアインズ様当番とは何か。
その日一日をアインズ様に付き従い、服装のコーディネートやアインズ様が移動する際の扉の開閉や、来客の取次や、お休みしているアインズ様を見守るお仕事である。メイドたちはアインズ様当番のために働いている、とまで言うと過言だが、アインズ様当番の前日はしっかり休んで英気を養ってから挑むほどに最重要視している。
それを増やせというのは、守護者統括相談役の手に余る。はずだった。
「どのような任務であるかはシクススやシェーダたちから聞かされています。メイドたちのシフトはペストーニャ様のご担当でしょうから、私が口を挟むのは困難です。ですが」
「ですが!?」
無理めな注文と思っていたのに思いもよらない言葉が出てきて、フィースの目は輝いた。
「現在のシクススが帝都の魔導国公館でメイド長を担っているのはご存知でしょうか?」
「知っています。フォアイルたちには時々手紙が届くらしいですけど、ずっと行ったきりですよね。ちょっと可愛そうかな、って」
ナザリックのシモベたちにとってナザリックこそが至高であり、それ以外は全て下に位置する。そのナザリックに中々戻ってこれないシクススを哀れんでいるのだ。
「シクスス本人も指導するなら兎も角、自分にメイド長は向いてないと言っていました。ですが、ナザリックやエ・ランテルへ帰還の希望を出すことなく、帝都に留まっています」
この男が帝都への左遷を解除された時、シクススはお屋敷のメイド長なのだから帝都に残るよう告げた。
しかし、この男にメイドたちへの人事権はない。要請は出来てもシクススがイヤだと言えば通らないし、ナザリックのメイド長であるペストーニャが呼び戻そうと思えば可能である。そうはなっていない以上、帝都に残る明確なメリットがあるのだ。
「ここだけの話ですが」
男は思わせぶりに周囲を見回した。
無人の休憩室だ。ドアは閉まっており、誰かに聞かれる心配はない。
「アインズ様は時折帝都を訪れていらっしゃるご様子です」
「アインズ様が!?」
本当である。
G-Shock事件以降、毎日帝都へ顔を出しているこの男も、帝都のお屋敷でアインズ様と行き合わせたことがあった。
シクススやソフィーによれば、週に2・3度はいらっしゃるらしい。滞在するのは精々2・3時間だそうだが、シクススによると常のアインズ様よりだいぶ気を抜いてリラックスしていらっしゃるご様子だとか。
帝都の公館でナザリックのシモベというと、シクススとヴァンパイア・ブライドのジュネ、それにソフィーの三者しかいない(三者以外にも実は他数あるが、それらは口を開くことなく屋敷の警備に従事しているので数に含めない)。中でもソフィーはアルベドが創造した(ということになっている)存在であるため、他のシモベたちのようなガチ過ぎる忠誠を主張しない。アインズにとっては孫のようなものである。
そのため、アインズは肩肘を張ることなくリラックスして心を休めることが出来るのだ。アインズ的に帝都のお屋敷の貴賓室は、ナザリックの自室の次に気を抜ける場所になっていた。
「朝からアインズ様に侍ることは叶いませんが。シクススたちはアインズ様からお言葉をいただくことも多いとか」
幾らでも湧いてくるヴァンパイア・ブライドの中でもぶっちぎりの最弱であるジュネも、アインズ様からお声を掛けていただいて感涙したことがある。
「シクススが望まない限り立場を交換することは出来ないでしょうが、応援という形でフィースさんが一時的に帝都の公館に赴くことは可能ではないでしょうか?」
「それは……………………かなりイイですね!」
フィースの赤い目が爛々と輝いている。瞳孔も開き気味だ。どうやら、男の提案がとてもお気に召したらしい。
予定外に時間を取られたがミッションクリアである。
そして続くミッションで引っかかった。
「こんなに道具があるのか……」
最古図書館へ移動し、彫金のための道具を調べ始め、思わず唸った。
貴金属に細工を施すのだから、当初は細かい彫刻刀の類があれば十分だと思っていた。甘かった。
彫金用の彫刻刀は勿論必要だがそれ以外に、金属を切るための道具。細かなパーツをつまむためのピンセット。ロウ付け等の加工で火を扱うため、熱したパーツを掴むやっとこ。加工時に対象を固定するための道具各種。宝石を嵌め込み、あるいは外すためのヘラ。磨くための道具も必要だ。そこへ計測器等も必要になるのだが、ここだけは目測で十分。
宝石細工や指輪等のアクセサリ加工のテキストへ一通り目を通し、必要と思われるもの全てを頭に叩き込む。と同時に左手でペンを握り、必要な道具の図面を書く。
字は下手だが絵は上手い男だ。直線も曲線も真円も自由自在。寸法は数字で記せばよいため、少々下手でも判読可能である。
「ご主人様、こちらがティトゥス様に選んでいただいた教本です」
「ああ、そこに置いて……そんなにあるのか!」
書物を抱えたミラを一瞥し、二度見して抱えている本の量に目を見開いた。
こちらはジュネへの参考書である。論理学にばかり気を取られて、統計について叩き込むことを忘れていたのだ。統計学に必要なテキストを司書長のティトゥスに選んでもらったのだが、統計学を学ぶにあたって前提とする書物がやたらと多い。
ジュネに自主学習させるわけにはいかず、教師となるこの男もテキストの内容を修めておかなければならない。
「ご主人様、時間でございます」
「もうそんな時間か!」
ヴァンパイア・ブライドたちへ口止め報酬を支払う時間である。これについてはさくっと行くのは不可能。最低でも3時間必要となる。今更ながら、密会の場所を他にすれば良かったと思うのだが時遅し。
「ミラは俺が書いたメモを鍛冶師たちのところへ持っていってくれ。3時間経ったら俺も行くから」
「ですが、私はご主人様のお傍にいた方が」
もしもご主人様がヴァンパイア・ブライドたちに吸血されたらレッサーヴァンパイアに転化してしまう。万が一に備えて同行しようと思うミラだが、所詮建前。並のヴァンパイア・ブライドなら吸血しようにも血が舌に乗った時点で酩酊するし、そこへご主人様の魔技が合わさればシャルティア様だろうと抗えない。
「不要だ。また後で」
「……かしこまりました」
近くを通りかかった司書の一人に、また来るので広げた本の山はそのままにしていて欲しいと伝え、第九階層へ。
時間よりも早く待っていた三人のヴァンパイア・ブライドは、あまり足を踏み入れないロイヤルスイートに落ち着かない様子ながら、期待を隠せないようだった。
彼女たちを伴ってセーフティルームへ。
セーフティルームの存在はシズしか知らなかったが、本来の目的を思えば周知しておいた方が良い。そうなっていないのは、有事の際の混乱を避け、シズが避難誘導を担うからなのだろう。但し、メイド長のペストーニャだけは知っておくべき。シズに会ったらそのように提言することを決め、女の腰を抱いた。
これから3時間は時間を忘れて彼女たちを楽しませ、自分もまた楽しむべきなのだ。
3人の合わせて9つの穴を全て使い、心地よい疲れとともにロイヤルスイートに帰還。
ヴァンパイア・ブライドたちは幸せそうな顔をして床にへたりこんだが、後の事まで面倒を見ていられない。セーフティルームを出る前にシャワーだけは浴びさせた。色々な匂いはさせていないから問題ないだろう。
早足で鍛冶師たちの工房へ移動。
「図面にこれだけ詳しく書いてあるなら問題ありません。ただ数が多いですから納品に時間がかかります」
サラマンダーたちは炉を使うことなく、口から炎を吐いて自前の火力で鉄を熱する。工房の中は凄まじい熱さだが、デミウルゴス様の階層と比べたら涼しいもの。それに少々暑かろうとペストーニャ様から頂いたブレスレットが効果を発揮している。
代わりにミラは少々辛そうである。
ミラに頼んだメモは、打ち合わせの下敷きにするつもりでテキストに載っていた工具を片端から書き写したものだ。そこから必要となるものを絞っていく予定だった。
ところが、全ての工具を作ってもらえるらしい。打ち合わせに使うつもりだった時間が丸々余ってくれた。
これでナザリックを訪問した目的が全てこなせたことになる。
ようやく回ってきた自由時間である。
当初は最古図書館へ籠ろうと思っていたが、ギターを知ってしまった。というわけで音楽室へ。ミラには最古図書館へ向かわせて散らかした本の後片付けをさせる。
そろそろ昼食の時間になるが、朝食のシズ専用特製ドリンクのおかげでお腹は全く減ってない。
音楽室では昨日と同じ青いワンピースドレスに身を包んだセシルがいた。
「譜面は複製を用意しましたのでお持ち帰りください。ギターの教本とコード表は私と楽団帳の名義で借りてあります。こちらもお持ちください。但し、期日までに返却していただきます」
「ありがとうございます。譜面はありがたく。ですが、教本とコード表は全て暗記しました」
「本当ですか?」
セシルの赤い目も疑わしいと言っている。
試しにクラシックギターの手入れやマイナーなコード(短調のことではなく、あまり使われない方のマイナー)を聞いてみれば全てに正答する。
人間の身でありながら守護者統括相談役に取り上げられたのは伊達ではないと、セシルはいたく感心した。
「相談役の滞在は明日の昼までと伺いました。基礎的な演奏技術は一定度身についたと思われますので、今日は表現の幅について説明します」
「お願いします」
教本を丸暗記したのだから、音楽記号は全て把握している。しかし、本を読んでもわからないことは幾らでもある。強弱記号が代表の一つで、mf(メゾフォルテ)のやや強くとはどれくらい強く弾けばいいのか。そのあたりは実際に曲を聴くなり弾くなりして確かめなければならない。
練習中にミラが戻り、暇そうなシズとエントマも顔を出した。
昨日、イメージトレーニングした南のソナチネを弾き通し、シズちゃん大満足と思われた。が、
「これとこれは?」
「カンポ・アンダンテとフィエスタ・アレグロ・コン・ブリオですね。相談役殿が弾いたのは一番のカンポ・アレグレットです」
「!」
なんと、南のソナチネは三番まであった!
果たしたと思ったシズちゃんのオーダーがまだ残っていたことを意味する。とは言え、ギターを弾くのは男も望むところ。セシルの指導もあり、二番のカンポ・アンダンテが視聴に耐える出来になるのは早かった。
エントマは盛大に拍手する。シズちゃんは自分が弾いたわけでもないのに得意げである。やはりシズちゃんに姉の座を任せるのは止めたほうが賢明であろう。
「もうじき夕食の時間になりますね。相談役殿はどうされますか?」
「いえ、私は」
「またギターを弾き続けるおつもりですか?」
「そうしたいところですが、最古図書館で作業が残ってるんです」
「……そうですか」
昨日とは違って食事を一緒に、のお誘いだったのだが、ほのめかしは理解しない方が多い男である。
セシルは重ねて誘うことなく、レストランへ向かった。シズとエントマも一緒に行く。プレアデスの二人とロイヤルスイートの廊下を歩きながらセシルは思う。
教本やコード表を丸暗記されたのは誤算だったが、罠はもう仕掛けてある。気付いた時には大いに苦しみ、ナザリックの音楽室に戻ってくることだろう。
息をするように悪を為す。
それがナザリックの悪魔なのだ。
最古図書館ではジュネ用のテキストに一通り目を通して中身を把握。部下に学習させるので複製を用意してもらえるよう司書に依頼する。
そしたら次は好奇心が赴くままにと行きたいところ、した方が良いことが残っている。ソリュシャンとルプスレギナにアクセサリーを作ることになってしまったので、どのようなアクセサリがあるか調べることにした。
指輪であれネックレスであれ、大きな宝石が映えるデザインが多い。小さな宝石を幾つも使っているものも多い。彫刻が美しいものも多数。どこに着けるかによってデザインが違う。目的によっても違う。調べれば調べるほど無数に出てきた。
アイアンワークが楽そうで良いが、間違いなく怒られるので止めておくことにした。
アイアンワークのアクセサリーは文字通りに鉄製のアクセサリー。型を作れば幾らでも量産できる。気の利いたデザインで色を付ければ裕福でなくても手が届く値段に抑えられ、そこそこに需要があるのではと思うが、金稼ぎは一先ず美容品のみに絞ることにする。
「ご主人様、もうじき時間になります」
「ああ、わかった」
シャルティアから懐中時計を下賜されたミラはずっと時計係である。
ヴァンパイア・ブライドたちをお相手する時間がやってきた。これが二度目。あと二回残っている。
すでに日が落ちているからか、三人のヴァンパイア・ブライドは生き生きとしていた。先に体験した者たちから話を聞かされ期待が高まっているのかも知れない。
一度目の時は一人ひとり順番に三往復したが、二度目は趣向を変えて三人同時に。三人を並べて尻を突き出させ、交互に突く。入れてないものへは指や唇で。
一度目から時間が経っており、十分に回復していた。それに三人同時と言うことは、三人ともずっと可愛がられていることになる。
なお、一度目と違って二度目はミラが同席した。ミラは時計係なのでお預けである。一人でずっとスカートの中に手を差し込み、あえいでいた。
二度目の三人もとても満足したようで、セーフティルームを出るなり床の上にへたりこんだ。ミラが担いでどこかへ運んでいった。
ミラはそのままエ・ランテルに戻って朝方に帰って来るらしい。
図書館に戻った男は様々な種類のアクセサリーが載った図鑑を広げ、ユグドラシルに存在したマジックアイテムの図録も広げ、ついでに古今東西に存在した宮廷事情の読本を読み漁り、気付いたら知らない天井を見上げていた。
「起きましたか。図書館で居眠りする者はおりましたが、眠りこけた者はあなたが初めてです。ナザリックでの滞在がとても心ゆくものなのはわかります。ですが、あなたはアルベド様の相談役なのですから、もう少し品位を気にすべきです。わん!」
「ペストーニャ様!? ここは? 私は寝ていた? 時間は? ……ペストーニャ様にはご面倒をお掛けしてしまいました」
「運んだのは私ではありません。それと、あなたはもう少し身だしなみに気を付けるべきです、わん」
この男の記憶にはないが、寝かされていたのはいつぞや運ばれたメイドたちの休憩室のソファ。何故かシャツのボタンが外されて胸元がはだけている。
服が乱れているのはメイドたちの悪戯だが、それはそれとして図書館で寝落ちした男はぐっすり眠ってしまった。睡眠時間はきっかり10時間。そろそろ昼時だ。
昨夜、ヴァンパイア・ブライドたちの相手をしたあとにポーションを飲んでいれば体力回復して夜通し活動出来たろうが、アインズ様に倣って吝嗇を発揮した結果、ナザリックでの貴重な滞在時間が10時間目減りしてしまった。シズといい、この男といい、素人はアインズ様の真似をすべきではないのである。
「ご主人様、お目覚めでございますか? その、申し難いのですが……、時間が……」
「わかった、急ぐ。ペストーニャ様にはまたもご面倒をおかけしてしまい、まことにありがとうございます。ペストーニャ様へはもう少し感謝を表したいのですが生憎所用が詰まっておりまして」
「構いません。これからは規則正しい生活を送るよう望みます、わん」
所用といっても、ヴァンパイア・ブライドの三度目のお相手である。一時間は遅れてしまったが、ヴァンパイア・ブライドたちは警備シフトぎりぎりで設定したわけではないのでまだ余裕はある。
男は顔だけ洗って食事はまたもシズ専用特製ドリンクで済ませ、ヴァンパイア・ブライドたちを伴って三度目のセーフティルームへ。
三度目のヴァンパイア・ブライドは三人いた。ということは、最後はシリー一人だけとなる。どうやらシリーが一人だけを望んだわけではなく、他のヴァンパイア・ブライドたちがシリーと組むのを遠慮したらしい。ヴァンパイア・ブライド・エリートシックスの一であるシリーは、アインズ様からお褒めの言葉を授かったこともあるまさにエリート・ヴァンパイア・ブライドなのだ。他のヴァンパイア・ブライドからすれば憧れ的な位置にあるらしい。シャルティアにとってはどんぐりの背比べではあるけれど。
三番目は前回前々回とも趣向を変え、三人で一人を責めることにした。
責められてる一人は、挿入されながら舐められ吸われ揉まれてとても良い思いが出来る上に、男の負担がやや軽くなる一石二鳥の策。
しかしながら、二人目を相手する時は最初の一人がダウンしてしまい、四人同時となるには復活を待たなければならなかった。
そうして三度目の相手を終えたが、寝過ごしてしまったために四度目の時間がなくなってしまった。
馬車を駆り立てればナザリックとエ・ランテル間は一時間の距離なのだが、そうすると積み込んだ荷物、特にクラシックギターが痛む可能性があるのだ。無難な15時より前にはナザリックを発つ必要がある。荷物を積み込む時間も必要だ。各所に挨拶もしなければならない。
最終日こそ余裕をもってと思っていたのに、時間は全く足りなかった。
「それでは私はミラと一緒に相談役殿をエ・ランテルまでお送りします。今夜のうちには戻ります」
そう言って、シリーも馬車に乗り込んだ。シリーの相手は馬車の中で。時間の秘密が解けない以上、どこかで工夫せねばならないのだ。
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「おにーさんおっかえりー………………」
ボッグハッナゼ……。
エ・ランテルのお屋敷に戻り、馬車から降りた男を出迎えたルプスレギナは、男へ近付くなり眉間に皺を刻み、渾身のルプーブローを叩き込んだ。
人狼であるルプスレギナは鼻が利く。男からプンプン匂い立つ女の匂いに、つい手が出ちゃっても仕方ないのである。
だからお屋敷での若旦那様はメイドたちから甘く見られるのだが、これはもう今更で挽回は不可能であった。
「おにーさんがいない間も色々あって大変だったんすよ? 変な客も来るし」
「それは俺には関係ないだろう」
「おおありっすよ!」
ミラが馬車から荷物を運び出す。同じく馬車に乗っていたシリーはアンデッドであるくせして幸せな夢の中。動けるようになったらミラが馬車でナザリックまで送る手筈になっている。
「とりあえず着替えてくるよ。ナザリックでの話は夕食の時でいいだろう。俺は生まれ変わったんだ! ルプーも皆も驚くといい」
「はいはいっす」
お屋敷のメイドたちは久々の若旦那様を盛大に出迎えた。
ソリュシャンはルプスレギナと一緒に外へ駆け出したかったが、一応はお嬢様ポジションなので愛しのお兄様が帰還の挨拶をしてくれるのをおしとやかに待つ。
「ルプーが言ってたように何かあったみたいだな?」
「それは直にわかりますわ。招かれざる客が何度も来ているのもありますが」
ソリュシャンもルプスレギナと同じことを言う。
招かれざる客なら物理的強制力でもって叩き出せば良いが、それはしていないらしい。
「申し訳ございません!」
「だから何のことだ?」
ラキュースからは勝ち気な素振りが消えて、ひたすら頭を下げてくる。
「それは……」
「若旦那様、お客様がお見えになりました」
ラキュースが話しだそうとした時に、メイドの一人が来客を告げた。
ルプスレギナはつまらなそうに深く息を吐き、ソリュシャンの美貌には険が走る。どうやら原因であるらしいラキュースは美顔を固まらせ、冷たい汗をかき出した。
男にはわけがわからずも、目当てが自分であるらしいので会うことを告げ、応接間に通すように言う。
ソリュシャンとルプスレギナは付き合うつもりがないらしい。代わりにシェーダを同席させ、ご主人様とはいつも一緒のミラと、何故か平身低頭のラキュースもついてくる。
ラキュースがついてくる理由はわからないが、断る理由はなく、そもそも誰が来たのかも聞いていない。話からすると、自分が不在の間に何度も来ているようだ。
「お前がここの坊っちゃんか」
「はい。魔導国宰相閣下であられるアルベド様の相談役に取り上げていただき、この屋敷の管理を任されております」
応接間で待っていたのは中年の男だった。なんともチグハグな印象を与える男である。
厳しい顔つきに引き締まった肉体。装いは冒険者のように思える。しかし、立つ姿、座る姿にどことなく気品がある。冒険者にしては品があり、貴族にしては野卑が過ぎる。間をとって没落貴族かと思えたが、それにしては虚栄心を感じさせず、自信に溢れているように見えた。
はて誰だろうと思ったところで、その全てに当てはまる女性がすぐ傍にいることを思い出した。
「ラキュースの叔父上であるアズス・アインドラ様ですね。私にどのような御用でしょうか?」
「俺からの用件は一つだ。ラキュースを返してもらう」
王国が誇るアダマンタイト冒険者チーム「朱の雫」のリーダーであり、ラキュースの叔父であり、ラキュースが憧れ冒険者を志す発端となった男が、単身で乗り込んできた。
次回はアズス回でその次は何を書くつもりだったのか
本作はどこに着地するんだろう?
書いてる自分がわかりません