「出迎えが遅くなり申し訳ありません。ようこそお出でくださいました」
「もしかして取り込み中でしたか?」
「来客がありました。ですがモモン様のご来訪に優先すべきものは何もありませんよ。この際ですからエ・ランテルでの滞在場所を本邸に移されては如何です?」
「ありがたい申し出ですが私にも色々付き合いがありまして」
「差し出がましい事を申しました」
「いえいえ。それより来客というのは……アルベド、お前か」
「モモン……どうして貴方がここに。いえ、それは野暮なことね」
お屋敷の客間にて。
漆黒の英雄に歓迎の意を伝えた若旦那に続いて現れたのは黒髪黒翼の美の化身。アルベド様である。
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アインズとアルベドの関係は言うまでもなく主従である。アインズの姿を認めたアルベドの心中は、くふーーーーっ!! アインズ様はわざわざ私に会いに来てくださったのね! これは偽乳小娘なんかよりも私をお選びくださるという意思表示に違いないわ! ごめんなさいシャルティア、アインズ様のお心はもう私でいっぱいなのよ、ああアインズ様アインズ様、言ってくださればこのアルベドたとえ火の中水の中、いいえ違うわよアルベド、アインズ様はわざわざ私にこの私に会いに来てくださったのよ、そう! 会いに来てくださったの! 殿方に恥をかかせてはダメ、アインズ様がこれほどまでに私を求めてくださるという事は二人が結ばれるのはこれすなわちU・N・ME・I☆ アインズ様アインズ様アルベドの準備はもう整っております!
飢えた獣の如くマジでアインズに飛びかかる5秒前なのだが獣は鎖で繋がれている。今のアインズ様は漆黒の金属鎧に全身を包むモモン様であるのだ。
モモンとアルベドの関係は少し面倒くさい物になる。
その前に、若旦那様が住まうエ・ランテルのお屋敷の役割を振り返ります。
アルベド様のご飯である男を囲う屋敷であり、アルベド様のお食事処。ナザリックのシモベ全体に周知されているわけではありませんが、隠されているわけでもありません。少なくとも、アルベド様にとってそこそこ大切な場所と言うことは知られています。お屋敷の真の役割は表だっては完全に秘されています。
次にエ・ランテルのアインズ様の館へ送るメイドたちの研修場。表立って振れ回っているわけではありませんが、ある程度の頭があり目端が利く者なら見当がつきます。
最後に公的な役割。
お屋敷の女主人であるソリュシャンお嬢様の実家は早くから冒険者のモモンを支援してきました。当然、モモン様とナーベ様とは懇意にしております。一方、エ・ランテルに大きな屋敷を構え拠点としてることから、当然の事ながらエ・ランテルの主に話を通しています。エ・ランテルは魔導国の所領であり、魔導国の王はアインズ様です。ここで問題が一つ。アインズ様は人間ではないのです。人間ではないため、住民である人間たちからは畏怖や戸惑いを抱かれているのです。アインズ様はアンデッドであり、アンデッドは命ある者を憎むとされています。住民たちの懸念は尤もなのです。
そこの緩衝材、あるいはカウンターとして、人間たちの大英雄漆黒のモモンが登場します。
もしもアインズ様が人間たちに牙を剥こうものなら、漆黒の大英雄が命に代えても討ち取る。そのような了解があるため、住民たちは安心して日々を送ることが出来るのです。
そしてアルベド様は魔導国の宰相としてエ・ランテルの住民たちに知られています。
つまりまとめると、エ・ランテルのお屋敷は人間たちの希望であるモモン様と魔導国の支配者たちの間に立つ政治的に絶妙なポジションにあるのです。
そのため、アルベド様が屋敷を歩いても不審に思われないし、モモン様が来訪されてもおかしなことではないのです。
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モモンとアルベド。ナザリックの者たちからすれば我らが支配者であり何の変哲もない光景であるが、モモンとアインズが同一人物であると知らない者たちからすれば敵対とまではいかないものの対立関係にある雲上の上位者二人であり極度の緊張を余儀なくされる。目に見えてメイドたちの表情が強ばっていった。
「私は昼食がまだなんだ。軽いものでいいから用意してくれないかな。手が汚れないものがいいな。でもって美味しいの」
モモン様とナーベ様にアルベド様まで微妙に緊張している中で若旦那様だけはマイペースです。春風駘蕩と言われるだけはあります。
現地で雇ったメイドたちに命令を下し、給仕にはメイド教官だけが残った。
ナザリックの者だけになった客間にて、さりげなく口を開いた。
「そう言えばアインズ様?」
「なんだ?」
「やはり今日はモモン様ではなくアインズ様としていらしたのですね。アルベド様にお会いに来られたのだとお察しします」
「んなっ!?」
「くふーーーーっ!! (以下略)」
獣が解き放たれた。
アインズに飛びかかるアルベド、にこやかな若旦那、ソリュシャンとナーベラルは思わず顔を見合わせてから男の様子を窺った。シクススははらはらと様子を見守っている。
「すげぇモモン様の鎧がギチギチ言ってる……。失礼しました。私たちはあちらで過ごします。ナーベラル様、森の賢王に会わせていただけませんか?」
「え? ……ええ」
「いやいや待て待てアルベド控えよ! 私はこんなことをしに来たわけでは」
「アインズ様のお心はわかっております全てを仰る必要はございませんわ全てアルベドにお任せくだされば万事つつがなくですのでアインズ様は楽になさってくださってもむしろアインズ様から求めてくださってもアルベドは全てを受け入れますゆえに(以下略)」
美女姉妹を伴って退室しようとする若旦那へメッセージの魔法が届いた。待て! アルベドをどうにかしろ! 私は本当にこんなことをしに来た訳じゃないんだぞ!?、ですが私たちにアルベド様をお止めするのは不可能かと、頭を使え頭を! お前なら出来ると信じてるぞ!、アルベド様の行動を妨げるのは心苦しいのですがかしこまりましたアルベド様はシャルティア様に非常に強い対抗心をお持ちのようですのでシャルティア様を評価するかいつぞやの失態を挽回する任務を与えると仰せになれば冷静さを取り戻されるかと、それだ!
シャルティアの名を口にした瞬間にアルベドの瞳が凄絶に光り、間近で見ていたアインズは思わずぞっとした。ともあれアルベドに冷静さを取り戻させることに成功し、アインズはモモンに戻ることが出来た。
(そう言えば何でこいつはシャルティアの失態を知ってるんだ? ソリュシャンかシャルティアが話したのか?)
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中庭のテーブルに用意されたサンドイッチをパクつく。ささっと食べ終えると厩舎に回しておいた森の賢王がモモンに連れられてやってきた。アルベド様は別室に向かわれたのでメイドたちも安心して偉大な魔獣を鑑賞する。皆が皆偉大な魔獣の姿に感嘆の声を上げた。
「これは可愛いですね!」
「むむむ! 殿と同じ事をいう人間でござるな」
現地の魔獣にしてはそれなりだけど可愛いかしら、とは屋敷の窓から覗いているアルベド様。
アウラ様のペットに及ぶわけがないにしても可愛い?、モモン様と同じ事を!?、あんな凄そうな魔獣を可愛いだなんて若旦那様はやっぱりどこかずれてるわねそんなところも可愛いんですけど。
アインズは一度感情抑制を発動させてしまってから声が震えないように気を付けて口を開いた。
「可愛いですか? どこが可愛いと思います?」
「まずでかいのに丸いところですね。目もまん丸で愛嬌がありますし」
そこまで言って自分に突き刺さる視線に気が付いた。照れ臭そうに頭を掻いて弁明する。
「長く病床にあったものでどうやら美醜などの感覚が一般からずれてるみたいです。勿論勇壮な魔獣と思います。大きいし尻尾長いし」
「いやいやいやそうですよね可愛いですよね! 良かったなハムスケ! お前のことを可愛いと言ってくれる人がいたぞ!」
「殿が喜んでいるとそれがしも嬉しいでござる」
「触ってもいいでしょうか?」
「好きなだけ触ってください!」
森の賢王。偉大な魔獣として王国では広く知られているが、アインズから見れば大きいジャンガリアンハムスターであり可愛いとは思うものの偉大とか強大とか言う言葉とは無縁。なのにナザリックのシモベを含めて誰しもが「凄い! 強そう! 理知的!」などととんでもない感想を抱く。美的感覚が周囲と違いすぎることにがっくり来ていたアインズだが、遂に同じ感想を抱く者に巡り会えたのだ!
「それではハムスケさん、少し失礼を」
感情抑制を発動するほどはしゃいでいるアインズを余所に、ハムスケに触るなり男の目が死んだ。
「硬い……。もふもふだと思ってたのに硬い……」
ふわふわの毛皮に見えるハムスケだが触ると硬いのである。
目が死んだのは数瞬。顔を上げた男の目には決意があった。
「モモン様、ハムスケさんの毛を何本かもらってもいいでしょうか? 何とかして柔らかくなるように研究したいと思います」
「そんなこと出来るんですか?」
「わかりません。ですがやってみせます。この見た目で毛が硬いなんて裏切りですよこれは!」
「裏切りとか何を言うでござるか! それがしが殿を裏切るわけがないでござる!」
「ハムスケさんの存在が裏切りなんですよ!」
「人間! 貴様はそれがしの敵だったのでござるな。覚悟するでござる!」
「待て待て待て!」
(アウラもハムスケの毛皮が硬いのに面食らってたよな。今度引き合わせてみるかな?)
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色々あったりなかったり。
アルベド様はモモン様へ一言残してからお帰りになりました。
モモン様とナーベ様も日が落ちる前に。
お屋敷の若旦那様にぶつくさ文句を言うハムスケをモモン様が宥め叱っている間に、ナーベ様は真顔で若旦那様を物陰に引き込み熱い抱擁と熱い口付けを。
いつものお屋敷に戻り、夕食を終えて人心地付いている時、ソリュシャンはアインズ様から確認するよう命じられたことを尋ねる。
「あなたはどうしてシャルティア様の失態のことを知っていたの? 私が知る限りシャルティア様はそんなことを口にしていなかったわ」
言われた男は二度まばたきした。
「聞いてはないけれど違いましたか?」
「違わないわ。どうして知ってるのか聞いてるの」
「見たらわかりました」
「……どうしてわかったの?」
現地の人間にはタレントと呼ばれる異能がある。もしや見ただけで何かを看破する異能を持っているのではとソリュシャンの目が細まった。
「大したことではないと思いますが」
そう前措いて語った。
現在のシャルティア様は少々時間を持て余している様子。ナザリックの方々を見るに少々不自然。シャルティア様の活用に慎重にならざるを得ない事態があったと推測できる。シャルティア様は知識労働を好まれないようなので与えられる任務は戦闘に絞られる。シャルティア様はご自身に自信を持っている方なので油断を突かれ不測の事態があった。
「と思ったのですが違いましたか?」
「…………その通りよ」
デミウルゴス様がお認めになるのは伊達ではない。ソリュシャンは改めて男を見直した。
そのシャルティア様の活用をアインズ様に提案するに至った流れは計画通りである。
アルベド様の望む通りにしたかったが、アインズ様がモモン様の時は都合が悪い。二人が一室にこもればよからぬ噂が流れないとも限らないし、そうなるとエ・ランテルにおけるモモン様の魔導王への抑止としての役割に疑問符がついてしまうかも知れないのだ。
シャルティア様が読み聞かせ教室にかこつけてあれこれしたがるのは欲求不満に鬱憤が溜まっていると思われる。アインズ様からのご命令で功績を立てる機会を得られれば満足されるだろう。
シャルティア様と事に及ぶのは、あちらはよいかも知れないが、きついと言うよりも狭い。締め付けがきつすぎて痛みがある。頻度を落としてくれると大変ありがたい。
あちらを立ててこちらも利を得る。アインズ様に不利益はなく窮地を逃れることが出来、アルベド様は自身の子飼いが自分推しであることを確認できた。
一石四鳥である。
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その夜半。
男は一人で床につき深い眠りに落ちていた。
ソリュシャンはいない。今日はアルベド様にたっぷり絞られているはずなので、薄くて量が少ないみるくを味わうより一晩眠って回復したところをいただこうと思っている。一日くらい我慢できる。
夜が深まり日付が変わる。
街は眠り、屋敷は静まりかえっている。
幽かな音を立てて男が眠る寝室のドアが開いた。開錠(物理)である。
そっと忍び込んできたのは黒髪黒翼の美の化身、アルベド。
アルベドがアインズ様から賜ったマジックアイテムはユグドラシルでは初心者に配られただけあって面倒な使用制限があった。使用できるのは一日一往復だけである。一度使用するとユグドラシル時間で日をまたがないと再使用できない。時間はこの地でも同じに進んでいる。
しかし日をまたいだとしても夜が明ける前ならまだ同じ日であるというアルベド理論。週に一度と言うアインズ様のお言葉を違えない。
男はよく眠っている。
あどけない寝顔を見下ろし、アルベドはくふふと淫蕩に笑った。
サキュバスとは夢魔でもある。
夢魔らしく男が夢を見ている間に美味しくいただこうと考えた。
夜這いである。
台風のせいでメガネとかSSとか言ってられんかった
生まれて初めての大雨特別警報に避難勧告
被害にあわれた方、お見舞い申し上げます