5kくらいで終わりそうで短くなりすぎるかもと思ったらこの文字数
アインズは、この男に寿命がなくなったのを知っている。確証はないが老化も止まっているはずだ。アウラが色々してきた事をアインズは知らないので、寿命が伸びたという話ではない。種族も人間のままである。不老と寿命の克服はクラス特性に依るものだ。
ナザリックでは人間でありながら不老不死の存在が一人だけいる。不老不死の人間はありえないではない。
「不老不死を望むというのか? お前がそれを望むとは思わなかったが、心変わりでもしたのか?」
「アルベド様に、アインズ様に、そしてナザリックへ長く尽くすためでございます」
アインズ様の御前であるのに、相変わらずアインズ様が二番目にくる男である。
男は先だってジュネと交わしたやり取りを説明した。
ジュネには千年先まで使える技能を仕込むつもりでいるが、それならば万年先まで使える技を持っている己の命を長らえさせるべきとやり返されてしまった。もしも果たせない場合には,シャルティア様の牙を受けヴァンパイアに転化すべきとも。
ヴァンパイアになることに抵抗はないが、そうするとシャルティア様に絶対服従となってしまいアルベド様への忠義が曇る可能性がある。世界の真理たる美の光を翳らせないためにも絶対に取れない手段である。
「ふむ……、そうだな……」
男がいつの間にか得ていた隠しクラスの特性を教えるだけで済む話ではある。
しかしそうすると、別の褒美を与えなければならない。それはそれで構わないのだが、折角知らないでいるのだから知らないままにさせておいた方が良いのではないだろうか。
「よかろう」
「おお! ありがとうございます!」
鷹揚に頷いたアインズ様に男は快哉の声を上げ、跪いていたソリュシャンとルプスレギナは内心でガッツポーズ。ミラは書斎の外で出入り口を守っているので聞こえていない。
なお、ミラがナザリックへ送り届ける予定だったシリーは、明け方になってシャルティアと一緒に帰還した。守護者統括と階層守護者と一緒に帰還するのはアンデッドでありながら寿命が縮む思いだったようだ。
「ついてこい」
「はっ!」
アインズがゲートの魔法を発動する。暗い球形の扉に、アインズに続いて男も姿を消した。
扉が完全に消え去ってから、ソリュシャンとルプスレギナは立ち上がった。向き合い互いに右手を高く上げて打ち合って、パァンと高い音を響かせた。
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大規模MMORPGであったユグドラシルには、実に様々な種族と職業(クラス)があった。中には取得条件が公開されていない隠しクラスもある。アインズが取得している「エクリプス」はその一つ。種族をオーバーロードにした上で死霊系魔法を極めて初めて取得出来る。死者の魔法使いロールをしていたアインズが偶然取得できたクラスだ。
アインズは思うことがありこの男のクラス構成を調べたことがある。ギルドマスターであるアインズ直々にナザリックに受け入れることを決定した男なので、玉座の間でのみ使用可能なマスターソースで男の情報が閲覧できた。
男のクラスには隠者だとか大隠遁だとかが並び、どこまで隠れるのが好きな男なんだと思ったものである。その中に見覚えのないクラスがあった。わからない事は調べるのが一番である。早速百科事典を開いた。
全てのユグドラシルプレイヤーに与えられる百科事典は遭遇したモンスターの情報が自動で書き込まれるものだが、アインズが開いたのはそれ以外の情報も書き込まれるアーカイブのようなものである。
そこで男が得ていたクラスの詳細を調べたアインズは、実に久しぶりにユグドラシル運営を心の底から罵倒した。
ユグドラシルにおいて、プレイヤーやエネミーの強さは数値で表される。代表がレベルだ。それ以外の数値ではHP・MP、物理・魔法それぞれの攻撃力・防御力。素早さ。状態異常等への耐性があった。
しかしユグドラシルのデータ分析班(有志のプレイヤー集団)は、それらは最終数値であって奥に隠された数値があると推測していた。
アインズはゲーム内でロールプレイするくらいなのだからデータ分析に過度の興味は持たなかったがマスクデータの存在は感じていた。マスクデータがわかったところで最終的な強さが変わるわけでない。所詮は趣味の範疇である。それでも公開されてる情報なら調べちゃうのがユグドラシル愛に溢れたアインズ様である。
データ分析班によれば、ユグドラシルも伝統的なゲームと同じようなステータス構成をしているらしい。表に現れる数値はレベルを除外して9個だが、実際には十以上あるのだとか。
例えば、力が上がればHP微増、物理攻撃力増加、物理防御力微増。体力が上がればHP増加、物理防御力微増といったように。
マスクデータなので各々の名称は違う可能性が高いが、便宜的に魔法に関わるステータスを魔力・知力・精神力とする。魔法に関わるステータスなのだから、魔法が使えなければ話にならない。
ところがアインズが百科事典で得た情報を意訳すると、あの男が得たクラスを取得するには魔法を封じた上で知力と精神力を一定以上に高める必要があるとあった。高い知力が空間の秘密を解き明かし、高い精神力が秘密の衝撃に耐えるとかなんとか。
そこまでなら多数のプレイヤーがいたユグドラシルだ。酔狂なプレイヤーがロールプレイしていた可能性は大いにある。問題は「深い思索」と「生まれ持った才」である。ユグドラシル内での「深い思索」はフレーバーテキストに過ぎなかったろうが、「生まれ持った才」は大問題だ。
ユグドラシルにおいて、アバター作成時の初期ステータスは同一ではない。個体差がある。ダイスを振って決められていたわけだ。
つまりどういうことかというと、スタート時に「隠れているステータス」で「才」と称されるほどの数値を得て、全く意味がない酔狂なロールプレイをした末に取得できる可能性があるクラス、ということになる。
隠しクラスの存在を確信していたとしても、初期ステータスからマスクデータの高低を推測するのは不可能だ。分が悪すぎる賭けである。
これを知ったアインズが「バッカじゃねえの!? もうほんとバカぁ……。わかるわけねーだろこんなもん! このクソッ! クソ運営があぁぁぁああああぁっ!!」となったのは無理からぬことであった。
取得難易度が高過ぎる代わりにクラス性能は異常の一言。チート(不正改造)を越えてデバッグモードレベルではと思わされた。
強さは全くない。ステータスは魔法職寄りだが魔法の使用は不可。ならば物理と行きたいところだがステータスは魔法職寄り。戦闘では使いようがない。真価は情報収集である。空間の秘密を解いたのだから、距離もあらゆる障壁も無視して情報を得ることが出来るのだ。
もしもかつてのギルドメンバーであったナザリックの軍師ぷにっと萌えがこのクラスを取得していたら、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」はユグドラシルで不動のNO1ギルドであり続けたことだろう。人間種にしか取得できないクラスらしいので無理な前提ではあるのだが。
「そう言えばアルベドが言っていたな。お前は分野によってはアルベドやデミウルゴスを凌駕しているとか。お前が得意とするものでアルベドやデミウルゴスを越えていると言えるものが何かあるか?」
「アルベド様にデミウルゴス様を越えるとは恐れ多いことでございます。ですが皆様に驚かれた例を上げますと、数を数えるのは得手でございます」
「どんなものを数えたのだ?」
「アウラ様とマーレ様が起居されているツリーハウスがつけている葉の数を数えたことがあります。以前数えた際は387万飛んで66枚の葉をつけていました。先日訪れた時は10万と108枚増えておりました。温かくなってきましたので木々の力が増してきたのでしょう」
「…………そうか」
アインズも、アウラとシャルティアと同じ感想を抱いた。すなわち「やばいなこいつ変態だ」である。
二人が歩いているのはナザリック最下層。第十階層「玉座」に至る広い通路である。今になっても、アインズは男へクラス特性を告げるかどうか悩んでいた。
情報チートクラスであるが、情報収集なら他の魔法で代替可能なのだ。特にこの世界においては情報系魔法に対する防御が弱い。覗き見に対するカウンターも容易だ。しかし、それらを凌駕する性能は魅力的。己の命を躊躇なく捧げるこの男ならナザリックを裏切ることは絶対にないことであるし、と思ったところでアインズは決断した。
(やっぱり止めておくか。こいつが忠誠を捧げてるのはアルベドだからな)
ついさっきもアインズの上にアルベドを置いたばかりの男である。伝えられたクラス特性をアルベドに報告するのは間違いない。アルベドはクラスの性能を思う存分に使わせることだろう。
アルベドがナザリックを裏切る可能性もないが、アルベドの興味の矛先がアインズに向く可能性は大いにある。ないわけがない。すると、誰にも見られてはならないあれやこれやが露見する可能性があるのだ。
具体的には、アインズが考えた支配者っぽいセリフや振る舞いを書いたメモ帳である。
異空間収納ボックスことインベントリの中にダミーを噛ませて仕舞ってあるが、空間の秘密を解き明かしたとかわけわかんない事が書いてある相手だ。絶対とは言い切れない。
アインズはとても慎重な性格をしているのだ。もしもこの男のクラス性能が必要な事態になったら、その時に明かせば良い。それまで先送りである。
「これを飲むと良い」
「これは?」
「不死を与える秘薬だ」
玉座の間にてアインズと男の二人だけとなり、アインズがインベントリから取り出したのは金の杯。清浄な光を発しているのは杯ではなく、内に満たされた液体であるようだ。
「一息に飲み干すのだ」
「はっ! 頂戴いたします」
秘薬自体も杯と同じく金色をしている。
男は言われるままにアインズから受け取った秘薬に口を着けた。赤と青の目が大きく見開かれた。
「はっ!?」
男が気付いた時には、杯は空になっていた。
アインズから杯を受け取り、口を着け、杯を傾けたところで記憶が飛んでいる。確かに飲んだはずなのだが、どのような味をしていたのか全く覚えていない。
「うむ、ちゃんと飲み干したな。それでどんな味だった? 私はこの体だからな。飲食物を味わうことが出来んのだ」
「それが……覚えておりません。アインズ様がお目にしたのですから私が飲んだのは確実だと思われるのですが、私の主観ですと気付いた時には杯が空になっていたとしか申せません。口内にも後味は全く残っておりません」
「……そうか。いやなに、気にするな。単なる好奇心だ」
クラス特性により、すでに不老不死を得ている男だ。
不老不死を与えるアイテムは幾つかあるが、それらを今更になって与える意味はない。種族を変更したわけでもない。そのようなアイテムも多数あるが、人間種限定クラスなのだから変えてしまうわけにはいかない。
アインズが今与えた秘薬は、「とても美味しいドリンク」である。効果はアイテム名から察せられる通り、とっても美味しいのだ! それ以外は特にない。お使いイベントで入手したはいいが、使いみちが全くないアイテムである。
男が望むものは既に持っているので適当なアイテムで誤魔化しても良かったのだが、それでは忠実な部下に対して詐欺を働くも同然。かといって真実を告げるのは躊躇われる。
折衷案として、ナザリックの誰もが味わったことのない美味しいものを与えたのだ。
アイテム名に「とても美味しい」と付くくらいなのだから本当にとても美味しいのだろうが、飲んだ当人は味を全く覚えていない様子。あまりの美味しさに夢中になって美味しさを覚えておくことすら出来ないようである。
「これでお前は不老不死を得たことになる。種族が変わったわけではないので今までと変わったところはないはずだ。大丈夫だとは思うが、もしもアイテムの効果が不十分で老いが見えたとしても若返りのアイテムがある。その時はそれを使えばいいだけだ」
「はっ、アインズ様のご慈悲に感謝いたします」
内心では、効果が不十分? と疑問に思わなくもなかったが、アインズ様が仰せなのだからこれでいいはずである。
ところで。
ソフィーのレベル上げを監督していたアインズは、ソフィーのレベル構成を把握している。
種族レベルはアルベドが創造したからか、創造主であるアルベドに似通っている。
クラスレベルはアサシン構成。その中に「余剰次元の住人」とあったのを、アインズは珍しいクラスだ、としか思わなかった。最初から持っていたクラスなので創造時にアルベドが工夫したか、アルベドの設定に引きずられたかしたのだろうと判断した。
存在する次元をずらして物をすり抜けたり転移したりは普通に魔法で出来ることなのだ。ソフィーは魔法が使えないため、クラススキルで代替しているに過ぎない。
が、アインズがもう少し考察していれば、あの男のクラスとソフィーのクラスの共通点に気付いたかも知れない。
気付いたとしても、我が安寧のために頑張るのだ! と応援するに留めただろう。
なお、アインズは玉座の間から宝物庫に向かい、マジックアイテムに頬ずりをしているパンドラズ・アクターに説教を噛ましてナザリックへの帰還を十日間禁止するのは余談である。
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アインズ様にエ・ランテルへ送り届けたもらった男は、ソリュシャンとルプスレギナから熱烈な歓迎を受けた。
ナザリックのシモベたちは、寿命がある者よりない者の方がずっと多い。見た目は傾世の美女だが、実態は異形種であるソリュシャンとルプスレギナも例に漏れない。
しかし男は人間だった。いずれは老いて朽ちる定命の者。いつかの別れが確定していた。
それが覆ったのだ。アインズ様がお認めになった上で。
二人の喜びようは一通りのものではなく、くっついて離れないのを説き伏せようにもどうにもならず、男の腹が鳴ったところでようやく朝食になった。
昨夜はアズスからの情報抽出で一晩中掛かりきりだった。夕食だって食べてないし一睡もしていない。そんな時に活躍するのがルプスレギナの回復魔法である。
奇跡そのものである高位の回復魔法は、エナジードリンクの代わりになれば眠気覚ましにも使えるのだ。
朝食の席ではナザリックでのお土産話。
カルネ村のエンリ大将軍と契約を交わし、エンリ大将軍が直々に薬草をエ・ランテルまで運んでくれることになった。日帰りでは厳しいので、訪問時は一泊していく予定。ルプスレギナが将軍は色を好むんすねえと感心する。
デミウルゴス様と有意義な会話が出来たのだが、聞き役の二人は興味がない様子。
シャルティア様からはヴァンパイア・ブライドたちを一日中お姫様抱っこする課題を与えられ何かと思ったら駅弁のテスト。ソリュシャンから朝食の席で上げて良い話題ではないと叱られる。今度自分に試すべきとも付け加えられた。
アウラ様のご厚意で、マーレ様から第六階層を案内してもらう。コキュートス様とリザードマンたちとの訓練に参加できたのは運が良かった。
シズさんに借りを返すとか何とかで一日捕まる。
「そこで俺は生まれ変わったんだ」
「それ昨日も言ってたっすよね。何か覚えたんすか?」
男はニヤリと笑った。
「クラシックギターを覚えた」
「へー」
「まあ」
ルプスレギナは適当に流し、ソリュシャンは驚いたような声を上げるが演技なのが丸わかりである。
「まあ、後で聴かせよう」
ナザリックオーケストラのヴァイオリニストであるセシルの視聴に耐える出来である。二人は感嘆することになるのだが、それはまだ先の話。
続く話が二人にとっての本題である。
「彫金道具はサラマンダーの鍛冶師たちに作ってもらえることになった。ただ数が多いから納品に時間がかかるらしい。急ぎじゃないから全部出来たらまとめて送ってくれと言っておいたよ。半月くらいで出来るみたいだ」
彫金道具云々は二人がアクセサリーを作ってもらいたがったからである。
ラキュースだけブレスレットを貰うのはずるの依怙贔屓である。たとえ素材があれな毛だとしても。自分たちにも何か素敵で素晴らしいのを贈るべきなのだ。
「で、二人に希望はあるか? 材料次第だけど大抵の物は出来ると思うよ」
二人は顔を見合わせてから男へ顔を向け、
「「指輪!」」
異口同音に強く言い放った。言われた男は渋い顔。
「指輪? もっとこう大きさがあって存在感があるやつの方が良いんじゃないか? ルプーだったら狼をモチーフにしてブローチを作るのも面白いな。ソリュシャンは金髪が映えるようにサークレットやティアラが似合いそうだ」
「とても嬉しい提案ですが、私がお兄様から頂きたいのは指輪です」
「何でもいいんすよね? だったら指輪でもいいじゃないっすか」
「うーん、指輪かぁ……」
「指輪を作ることに何か不都合がおありですか?」
「ないけど、指輪なぁ……」
「煮えきらないっすね。何が気に入らないんすか」
「どうせ作るならもっと凝ったの作りたい」
寝落ちするまで最古図書館にこもってアクセサリーについて調べたのだ。アクセサリーとは指輪以外に様々な種類があると知った。知ってしまったのだから有効活用したくなる。
「では凝ったデザインの指輪にしてください」
「そもそもおにーさんは指輪なんて作ったことないっすよね? 本当に作れるんすか?」
「二人のを作る前に何個か試作するよ」
試作品の行方に関して揉める者が出てくるのだが、それもまた先の話。
朝食の場で一日の事を話し合ったら、男は狩場直行君を起動して帝都へ。
シクススとジュネとソフィーにアインズ様から不老不死を授かったことを報告して、性悪姉妹と同等以上に喜ばれた。
ソフィーは満面の笑みでお父様に抱きつき頬ずりをしていたのだが、続く言葉で固まった。
「ティトゥス様からジュネ用に統計を学ぶためのテキストを複製して頂いた。ソフィーも一緒に学ぶように」
ソフィーは逃げ出した!
余剰次元の住人であるソフィーは、三次元世界から余剰次元に移動して姿を消したり物をすり抜けたりすることが出来るのだ。頻繁に叱られているのに中々止められない窓や壁からの出入りに、角と翼を任意に消せるのもこの特性に依る。
「きゃん!」
「こら逃げるな」
しかし、次元移動のスキルは父のクラスから派生したものである。子が親に敵う事なく、あっさりと首根っこを掴まれた。
「なんでお父様はソフィーが捕まえられるの!?」
「なんでソフィーは逃げるんだ。どうせいつも遊んでるんだから勉強くらいちゃんとしろ」
「むっかーっ! ソフィーは遊んでるだけじゃありません。毎日ちゃんとしています!」
「ソフィー様の仰る通りでございます。マイスターはずっと帝都にいらっしゃるわけではございませんからご存知ないのは無理からぬことと存知ますが、ソフィー様はマイスターがいらっしゃない無聊を怠惰に過ごすことなくマイスターに代わって帝都の市井を熱心に観察されておりまして、時にはカルカ様をお連れになることもございます。先日は正体を隠して闘技場へお出かけになり闘技場のチャンピオンである武王に挑もうとしたところをレイナース様に止められる一幕がございました」
人、それを遊び回ってると言う。人ならずアンデッドや悪魔でも遊び回ってると言うだろう。
「ジュネはなんで言っちゃうの!?」
「ソフィー様はご自身の為さり様を誇れないではないと考えておりましたのでマイスターにご報告することに問題は何もないと判断しておりましたがソフィー様のお言葉を考えますとマイスターにご報告することでソフィー様に不都合が発生するのでしょうか? まさかソフィー様がマイスターの意にそぐわないことをしているとは想像も出来ませんでしたので」
「だからジュネは話が長いの!」
「……レイナースには後で礼を言っておく。ソフィーはジュネと一緒に俺の講義を聞くように。後でテストするからな。それともアルベド様にお時間を割いていただくべきか?」
「……お母様にはご迷惑をお掛けしたくないのでお父様に習いますぅ……」
ソフィーの反抗期はまだまだ続いているらしい。
男は二人に数学の授業をし、カルカからは美容品の生産や配布について報告を受ける。美容品はそろそろお金になってきたようだ。
シクススへは、もしかしたらフィースが応援に来るかも知れないと伝えておく。シクススは、若旦那様がフィースにも手を出したのかと目を釣り上げた。
その気になれば幾らでも言葉を弄して誤魔化せる若旦那様だが、基本的に嘘は言わない。聞かせては不味いこともポロポロ喋ってしまう。その若旦那様が、フィースとはそのような関係にないと断言したので、シクススは一先ず信用することにした。
それはそれとして、シクススは後でちょっとした相談があるという。ご主人様と呼びかけられたので大きな声で言えないことなのかも知れない。
帝都のお屋敷では大半をジュネとソフィーへの講義に費やした。
統計を学ぶための数学的素養を身につけるためなので、基礎を教えたらひたすら演習である。アインズがかつて存在していた世界の過去における高校生が夏休みの宿題に出される分量の課題を一晩でこなせと言ったところ、ソフィーから大いに反発された。ジュネは不満こそ言わなかったものの、時間的に不可能である可能性が高いと言う。
数字の問題は見るだけで答えが出せる男が、自分を基準にして出した課題である。ジュネもソフィーも素質は高いのだが、無理なものは無理であるらしい。
半分の半分でもまだ多いので、更に半分の半分にして、ソフィーはようやく納得した。
昼食は帝都でとったので、夕食はエ・ランテルで取る。
この日はアルベド様のお食事日。ナザリックでの滞在はアルベド様のお食事日に合わせたのだ。
ところがアズスから色々な情報を抜き出してしまったため、アルベド様はとても忙しくなってしまった。じっくりお食事をする時間がない。
「ルプスレギナ、この子を回復させておいてちょうだい」
「かしこまりました」
かと言って、お食事をしないわけではない。サキュバス的に少々はしたないが、雑に精気と生気を吸ってしまったのは時間がないので仕方ない。
半死半生となった男をルプスレギナに渡し、ルプスレギナが早速回復魔法を使おうとしたのを止めた。
「わかっていると思うけど、例の話はこの子には内緒よ。後で驚かせたいの」
「承知しております」
アルベド様が奥の間にお戻りになるのを見届けてから、ルプスレギナは男を書斎に連れ込んだ。
そろそろ虫の息が止まりそうである。
ルプスレギナの心境はちょっぴり複雑だ。
おにーさんが晴れて不老不死となったのはとても喜ばしい。指輪を作ってもらえるのも期待に胸が高鳴っている。
しかし、アルベド様の計画が形になってしまうと、今まで通りに過ごせない可能性が大である。恒久的なものではないようなのが幸いだが、帝都で過ごした日々が懐かしく思えてならない。あの頃はソリュシャンもおらず、おにーさんを独り占めできたのだ。
そして今。ルプスレギナはおにーさんを独り占めする権利を持っている。
もう少し寝かせて利子を膨らませても良かったが、そろそろ回収しないと機を逃してしまう。
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「ここは……書斎か。アルベド様はお帰りに?」
「帰ったっすよ。当分はお忙しいみたいっすね」
「まあ……仕方ないか」
対応を誤ればナザリックの存続が危ぶまれる可能性がある問題である。ナザリックの頭脳が忙しくなるのは当然だ。
だとしても、アルベド様とお会いできる時間が減るのはとても悲しいことだ。叶うならば守護者統括相談役として事に当たりたいのだが、アルベド様はお許しにならない。昨夜の情報抽出に同席したのは特例である。
ふうとため息を吐いた男を、ルプスレギナは小突いた。
「なんだ? そろそろ寝ようと思うんだが」
「なんだじゃないっすよ。おにーさんは私に借りがあるのを忘れてるんすか? 利子はヒサン。おにーさんは計算得意っすよね?」
「…………あ」
ソリュシャンとルプスレギナに頼んだ帝国貴族の一次情報についてのまとめである。二人が頑張った結果、翻訳清書作業は一通り終了した。後はこの男が確認してから提出するだけである。
その際、頑張ったのだからご褒美が必要ということになり、ソリュシャンは一晩丸呑み。ルプスレギナはヒサンの利子をつけて寝かせておいた。
ヒサンとは日に三分。十日で一割のトイチより遥かに凶悪な利率である。参考までに、ヒサンで十日経つと元本の1.34倍になる。
「誤魔化そうとしてもダメっすよ。ちゃーんと計算したんすから!」
手書きの計算ノートを突きつけた。
ところどころで都合がいいように四捨五入したり計算の都合で一週間が八日になっていたりするが、最終結果は一割と違っていない。
「大負けに負けて四倍でいいっすよ? 本当はあと一年くらい寝かせても良かったんすけどそーするとおにーさんが大変っすからやめといたっす。いやー、私って優しいっすねー。感謝していいっすよ?」
ヒサンの利子を一年放置すると、元本の5万倍弱になる。訴えたら確実に勝てる悪徳金利であるが、訴える先はどこにもない。
「待て。支払うには他の支払いがどうだったか参考にする必要がある。エントマさんには左腕と両足。ソリュシャンには一晩丸呑みされた。ルプーは手足なんていらないだろうからソリュシャンを参考にしよう。その時の俺は左腕両足がなかった。つまりいつもの四分の一。丸呑みされてた時間は約八時間。四分の一を八時間で二時間だ。その四倍をルプーに支払うとして、正味八時間がルプーに支払える時間となる」
「なんすかその無茶苦茶な計算! おにーさんは私にご褒美あげるのがそんなにイヤなんすか!?」
口にした直後、ルプスレギナは凍りついた。軽口を叩いていた男の顔が、突如真剣なものになったのだ。
まさか図星を突かれて表情を変えたのだろうか。
今日まで、男とは良好な関係を維持してきたと思っていた。
昨日もそうだったように、時々貫通属性があるルプーブローを食らわせてしまったりもするが、ちゃんといつも回復させている。初対面時に全身複雑怪奇骨折させてしまっても気にしてない様子だったので、ついやってしまっている側面は大いにある。
しかし、表に出さないだけで本当は不快だったのだろうか。
確かに事あるごとに貫通させられれば面白くないや不快を通り越して怖がるところだろうが、この男にそんな素振りは全くなかった。それはないと思いたいのだが、ないとは言い切れない自分がいる。もしも逆の立場だったら、自分は好意を抱くどころか絶対に近づかなくなるだろう。
未来のお婿さんにする予定で、既に婚約は確定済みのつもりで、指輪まで贈ってもらえる事になっているのに、本当は嫌われているのだとしたら。
男が口を開くまでの数秒が、ルプスレギナにはとてもとても長かった。
「わからない」
「!?」
「ルプーに利子がどうこう言われたら反射的に値切っていた。ルプーにはいつも感謝してるし借りを返すのもご褒美をあげるのも嫌じゃないが、利子がどうのと言われると……こう、なんだろう? 何かに負けた気がして値切らなきゃならない気になって」
「紛らわしいことするなーーーーっ!!」
ボッグハァッ!!
昨日とは違ってナザリック製のジャケットを着ていない。ルプーブローは貫通属性を見事に発揮した。
「わかったわかった。ルプーちゃんはご褒美が欲しいんだな。ちゃんと利子をつけたのをあげるから心配しなくていい。ソリュシャンに倣って時間でもいいし、俺があげられる物ならそれでもいい。ルプーちゃんはエントマさんみたいに手足が欲しいわけじゃないよな?」
「なんすかそのルプーちゃんって。バカにしてるんすか?」
嫌われてるかもと言うのが杞憂だったのは一安心だが、バカにされるのは面白くない。
眉間に皺を作って抗議するが、男は呆れたように言った。
「ルプーちゃんは自分で言ったことを忘れたのか? 子供扱いされたいんだろ?」
「……………………あ」
そもそもにして、ルプスレギナたちがご褒美を貰うことになったのは、エントマが子供扱いされているのを見て自分たちにもと訴えたからだ。
その際、ルプスレギナは自分の口で「ルプーはまだまだお子様だから」と言っている。子供扱いされることがご褒美を貰う条件なのである。
「それとも止めておくか?」
「ルプーちゃんでいいっす。その代わりちゃんと四倍っすからね?」
「わかってるよ。ほら、ルプーちゃんこっちにおいで。抱っこしてあげるから」
「はーい♪」
ルプスレギナはお子様のルプーちゃんになりきって、ソファに座る男に正面から抱きついた。
くっつけば頭を撫でられ背中をさすられる。愛おしさを感じる愛撫に体温と体臭が心地よい。
「それで、ルプーちゃんが言ってた紛らわしい事って何だったんだ?」
変に鋭くて変に鈍い男だが、反省すべきは反省できる男でもある。過ちがあったのなら省みなければならない。
「それは……」
男に頬ずりをしていたルプスレギナは口籠って逡巡する。
いつものルプスレギナなら、そんな事はどうでもいいと流すところだが、今のルプスレギナはお子様のルプーちゃん。照れくさいことでも、子供になりきっていると驚くほど抵抗なく口から滑り出てきた。
「おにーさんが私を嫌いになったからご褒美あげるのがイヤなのかなって思っちゃったんすよ」
「俺がルプーちゃんを嫌うわけがないだろう」
「!」
肩を押されて密着していた体を少しだけ離され、顎に指を掛けられ顔の向きを固定される。
赤と青の目に、強制的に向き合わされた。
「ルプーちゃんにはいつも回復してもらってるしとても感謝してるよ。素直な性格だからあまり気を遣わなくていいのも肩が凝らなくて助かってる。セックスだって何回もしてきただろう? ルプーちゃんは口も中も温かくてとても気持ちいいんだ」
「おにーさん……」
内心では自分にも気を遣えと思わなくもなかったが、子供の振りをしても本当は大人なルプスレギナは口にしなかった。
「ご褒美の手始めに、今夜はルプーちゃんを隅々まで可愛がってあげるよ」
「あ……」
背中をさすっていた手が下りて、スカートのスリットから内側に忍び込んできた。
顎に掛けられた指が頬を掴み、引き寄せられる。
ルプスレギナは目を閉じた。
子供扱いされてるはずなのに、大人のキスが降ってきた。
クレマンティーヌの絵を生成しときながら本作では名前すら出てない
原作でも行方不明のまま完結しそう
需要は間違いなくあるんだろうがどう扱えばいいかさっぱりな人