これくらいが読みやすいと思いますがいつもできてないです
「もうエ・ランテルに帰って来てもいい時間よ。あなたは一体どこにいるの? は? わからない? ふざけてるの? えっ…………アウラ様が? ちょっと待ってて。……相談役殿はアウラ様がお連れになったそうです。如何為さいますか?」
「アウラにメッセージを飛ばしなさい」
「はっ! ……アウラ様、ナーベラルでございます。失礼ながら突然メッセージの魔法を使用したことを何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます。火急の件がございます。アルベド様の相談役殿をアウラ様がお連れになったと……シャルティア様でございますか? 相談役をお連れになったのはアウラ様ではなくシャルティア様なのでしょうか? 僭越ながら、いったいどのようなご用件でございますか? …………はい、かしこまりました。仰せの通りに。……相談役殿はシャルティア様がお連れになったそうでございます。お二方は行動を共にしているようでございました」
「シャルティアが? 時々貸してあげてるのに何か勘違いしたようね。シャルティアにメッセージを。すぐに返しなさいと伝えなさい」
「はっ! ……シャルティア様、ナーベラルで…………っっ! いえ、そのような事は……。アルベド様が相談役殿の行方を…………っっ! そう仰られましても、アルベド様はすぐに返すよう…………っっ! ………………、メッセージが切られました。シャルティア様は……、激しい感情をお見せになりまして、私の言葉を受け取ってくださらないご様子です。相談役殿は明日中にエ・ランテルに戻すと仰せでございました」
「シャルティアが癇癪を起してるの? あの子はうまくシャルティアを扱っていたと思ったのだけど」
アウラとシャルティアが一緒に行動しているのは不思議ではない。
時折口や手が出ることはあっても、創造主が姉弟であるからか、表面上はともかく深いところでは通じ合ってる。
しかし、シャルティアは癇癪を起しているという。アウラがそんな時のシャルティアに付き合うのは意外だ。率先してシャルティアを窘めるか、口や手が出るか、はたまた相手にしないだろう。
それでも付き合ってやるのは、シャルティアに弱みでも握られたのだろうか。
シャルティアが癇癪を起した理由も気になる。
あの淫乱吸血鬼は、自分がいない時を選んで彼と度々会っているようだ。こちらとしてもそれくらいは認めている。自分の前でプレイしていた時は殺意すら抱いたものだが。彼は大いに反省したようなので、同じ過ちは繰り返さないだろう。
自分が知る限り、彼がシャルティアを怒らせるようなことを仕出かした事はない。
自分が知らない事ならその限りではないが、聞いてもない事まで報告してくるあの子が自分に隠し事をしているとは思えない。あの女の事だけが唯一の例外で、あれは腹立たしいすれ違いだった。
あの女はともかく、彼がシャルティアについて自分に隠していることはないだろう。
彼に付き従っているヴァンパイア・ブライドのミラからも、彼とシャルティアの関係は良好であると聞いている。
シャルティアとアウラがどんな要件で彼を連れて行ったのか見当がつかない。
彼をシャルティアに貸すくらいなら構わないが、どうして今夜を選んだのか。
評議国の件で予定がずれにずれていたのがようやっと形なったのだ。今夜は彼が驚く顔を楽しみにしていたというのに。
シャルティアが癇癪を起したのなら今夜の彼は責められるかも知れない。
しかし、精神は異常にタフで、肉体は少々の疲労があってもルプスレギナに回復魔法を使わせれば万全となる。
一日延びるのは残念でも、演出を考える猶予が出来たと思えば悪くない。
さて、帰ってくるのは朝か夜か。
アルベドが思索に沈む傍らで、ナーベラルが表現しがたい顔になった。
いつものいい子ちゃんな真面目顔に、不安が浮かぶのはわかるが不満を見せるのはアルベド様の御前だというのに如何なものだろうか。
「何か言いたそうな顔をしているわね?」
「申し訳ございません! けしてアルベド様のご判断に意見があるわけではございません!」
「ナーベラルもしばらくこの屋敷に滞在するのでしょう? 私がいるからってずっと肩肘を張っている必要はないわ。ルプスレギナを見習えとは言わないけれど、もう少し肩の力を抜きなさい」
「そうっすよ。せっかくアルベド様がこー仰ってるんだし、ナーちゃんはもっと楽を覚えた方がいいっすよ?」
ルプスレギナはふにゃりと笑う。
アルベドは、シャルティアほどではないが上下関係に厳しい。ただし、プライベートは別である。形式を重んじない場で格を毀損しなければ、砕けた態度を許している。
そう思われていないのは、シャルティアと違って常に言葉遣いと所作が美しいからだ。
砕けた態度で良いと言われても、アルベドの前に来ると背筋が伸びてしまう者は多い。いい子ちゃんで真面目ちゃんなナーベラルはその筆頭である。なお、ゆるゆるの筆頭がルプスレギナである。
「い、いえ! アルベド様に申し上げたいことがあるわけでは……」
「私じゃないのなら誰に言いたいのかしら? ソリュシャンやルプスレギナたちになら言えないわけないわよね。メイドたちも違う。パンドラズ・アクターが相手ならわかるけど、ここでする顔じゃないわ。すると、残るのはあの子ね?」
「そ、れ、は…………」
さすがのアルベド様である。ナーベラルが何かしらを言いたい相手を一瞬で探り当てた。
「ナーちゃん、言っちゃったほうがいいっすよ? この前も私たちにぐちぐち言ってたじゃないっすか」
「ナーベラルが言えないなら私からアルベド様に伝えてもいいのよ? 知られたくないのなら言わないけど、そうじゃないわよね?」
「うう…………。実は……、アルベド様の相談役殿のことなのですが………………」
ナーベラルはたっぷり10秒溜めてからこう言った。
「私が傍にいると……、胸が痛むと口にするようになりまして……」
「胸が痛むぅ!?」
あの男に痛む良心があるのだろうか。いや、ない。
あり得ないことを言われたのだから、アルベドが驚くのも無理はなかった。
胸が痛んだ現場に居合わせたソリュシャンが苦笑を浮かべ、説明を始めた。
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ナーベラルのお悩み相談の原因となった男は、どことも知れない場所に囚われていた。
ナザリックのシャルティアの守護階層である「屍蝋玄室」なら、噎せ返るほどの甘ったるい香りが充満している。それ以外の場所では「墳墓」特有の乾いた臭いがある。しかし、いずれもない。
アウラの守護階層である「ジャングル」でも、空気の湿度と匂いだけでわかる。しかし、こちらも違う。
屋内であるのはわかる。
部屋の中は暗く、細部まで見渡せない。見える範囲において、掃除が行き届いているらしく散らかってはいない。ただし、それほど豪華な部屋ではない。それどころか、質素と言ってもよいだろう。
はっきりと見える足元は単なる板張りの床。これと言って磨いてはない。床板が見えるのだから敷物もない。
果たして、ナザリック内にこんなにも質素な部屋があるだろうか。
ナザリックを隅から隅まで知っているとは言えないので、絶対にないとは言い切れないが、可能性は低い。
第九階層にある緊急時用のシークレットルームでも、床はきちんと磨き上げられていた。それ以前に材質が違う。ナザリックでは木製の床が少ないのだ。
どこかの階層で木造小屋あるいは部屋を新設したとも思えない。場所はいくらでもあるだろうが、空気が違う。室内に忍び寄る空気は夏の夜気。
ナザリックの外に建てられた小屋であると推測できる。
それがどこであるかは、候補地がありすぎて見当がつかなかった。
「せめてほどいて頂けませんか? このようにされなくともどこにも逃げません。そもそも逃げられません」
足元しか見えないのは動けないからだ。椅子に座らせられ、体を背もたれに縛り付けられている。
縛っているのは長い鞭。
「私もそうしてやりたいんだけどね。言っても聞いてくれなくて」
暗い室内で、仄かに光る幼い美貌。帝都の屋敷で己を拘束したのはアウラである。
アウラ単独の行動なら、魔獣を使って移動したと思われる。が、使ったのはゲートの魔法。アウラが使える魔法ではない。
ゲートの魔法を使用するのは、まずアインズ様。しかしアインズ様の命令で連れてこられたのなら、拘束時に「ごめん」と謝る必要はない。アインズ様のお名前を挙げてついてこいと言えば済む話である。
必然的にもうお一方になる。
「シャルティア様は私がこの場から逃げるとでもお思いですか?」
「……………………」
アウラの態度から、用があるのはシャルティアだと察せられた。
そのシャルティアは姿を見せない。ただし、気配はある。椅子の後ろにいるようだ。椅子に縛られながら限界ぎりぎりまで振り返ると、仄白い影が見えるような気がした。
この距離でシャルティアに聞こえないわけがない。視線でアウラに問うと肩を竦ませた。
シャルティアが何を思っているかわからないが、アウラの言葉さえ届かないなら自分の言葉が届くわけがない。アウラの言葉が届かないほどに、何かしらの感情が高ぶっているらしい。
ミラとジュネから聞いたところによる以前のシャルティアは、些細なことで癇癪を爆発させてその度にヴァンパイア・ブライドたちの首を物理的に飛ばしていたとか。
今のシャルティアがそこまですると思いたくないが、扱いを注意するに越したことはない。己の命はアルベド様のものなのだ。シャルティアの気分で失うわけにはいかない。
「それではこのような姿勢ではありますが、お話を拝聴させていただきます。私をこの場に連れてきたのはどのようなご用件でございましょうか?」
話があるなら普通に帝都でもエ・ランテルでも、どちらかの屋敷を訪問してくれればいい。それを帝都にいる時に拉致されたのだから、間違いなく声を大にしては語れない話。
シャルティアとアウラの気質は大分素直だと思っていたので、このような内緒話は少々意外に思えた。
「ほら、シャルティア」
「………………」
「連れてこいって言ったのシャルティアじゃん。いつまでも黙ってたんじゃわかんないでしょ? そりゃ、私があんな話をしたせいかも知れないけどさ」
「アウラ様がシャルティア様にどのようなお話をなさったのでしょうか? 私が関わる話なのですね?」
「まあ……そうなんだけどね」
アウラの歯切れが悪い。
本人不在の場でシャルティアに話をしてしまったことを後ろめたく思っているらしい。アウラが善良である所以である。もしもシャルティアとアウラの立場が逆だったら、シャルティアが悪びれることは絶対にないだろう。
「私の事で、アウラ様がわざわざシャルティア様にお話為さるような件がございましたでしょうか?」
「わざわざって言うか。もののついでに話したって言うか」
アウラの歯切れはやはり悪い。わざわざ時間を作ってシャルティアと話をする場を設けたのだ。
件の話を聞いた翌日の朝にシャルティアのところを訪れたのだが、その日は寝坊してしまったため生憎の空振り。考える時間が出来てしまった。
シャルティアに話すか否か。話したところでどうにかなるとは思えないしどうにかしたいのかもわからない。
散々悩んだ末に悩むのが馬鹿らしくなり、思い切ってシャルティアに話したのが数時間前。
シャルティアの決断と行動はとても迅速だった。
「あんた、結婚するとか言ったでしょ?」
男の背後で気配が動いた。
「申しましたが、それが何か?」
「私に話した時色々言ってたじゃん。それと同じ話をシャルティアにしてやって。わかりやすくね」
「かしこまりました」
先日ナザリックを訪れた折、アウラから誰と結婚するのかと尋ねられた。
複数人の名を挙げ、どうしてそうなったのか、そんなことが可能なのかと重ねて問われ、解説した。
同じことをシャルティア向けに嚙み砕いて話をする。
「私との結婚を求めたのは、順番にソリュシャン、ルプスレギナ、ユリ、ナーベラルの四名です。帝国ではデミウルゴスさまから頂いたカルカを対外的な妻として扱っています。もうじき帝国から魔導国に移るレイナースを第六夫人にしてはどうかとソリュシャンから提案されていますが、レイナースの意思もあるため、これは未定となっております」
「…………」
背後の気配が揺らぐ。
シャルティアの顔は未だ見えず、シャルティアの顔が見えているアウラは頬を引き攣らせた。
「複数人との結婚は魔導国では禁じられておりますが、この件に関しましてはアインズ様から一任されております。アルベド様からのご了承も得ております」
アインズ様はどうにかしろと仰ったのだから、解決する方策を一任するということである。
アルベド様に一連の件について報告したら各々の事情を問うだけで否定は為されなかっただから、許可を出したということである。
「勿論すぐに、というわけではありません。アインズ様は最低でも一年は熟慮せよと仰せでございましたが、実際に婚姻関係となるのは更に先となりましょう。まずは婚約となると思われます」
シャルティア向けの話なので細かいところは割愛する。
割愛した部分を述べると、セバスを動かしてナザリックのシモベたちが結婚出来る制度に道筋をつけた。
順番から言えば、新制度が適用される第一号はセバスその人になるだろう。セバスが副官としているツアレと憎からず思う仲であるのは周知なのだ。セバスが先であることは、結婚を一番に言い出したソリュシャンも納得している。
結婚するのが先の事だとしても、それまで何もないのはソリュシャンたちがうるさいと思われる。破るつもりはないが、現状では口約束しか交わしていない。
結婚する約束を確かなものにするために婚約をするのだ。安心材料を与えてガス抜きをするとも言える。
「様々な方が興味をお持ちなのは、結婚後の生活だと思われます」
「……」
「……うん」
無言のシャルティアをアウラが代弁する。アウラ自身も大いに気にかかる部分だ。
「アウラ様には簡単にお話したことですが、結婚以前と大きくは変わりません。結婚すると申しましても、私がソリュシャンたちを妻として所有するわけではないからです。むしろ私の方がソリュシャンたちに共有される事になります。中でもアウラ様がお気になさっていた性生活については」
「わわわわわたしはそんな事言ってないでしょ!?」
「左様でしたでしょうか? 私が思い違いをしていたようです。ですが、折角ですのでそちらの話をさせていただきます。こちらも今までと変わりはありません。こちらを制限されますと、私の存在意義がなくなります。アウラ様もシャルティア様もご存知の通り、私はアルベド様の給仕係です。サキュバスであるアルベド様に精液を提供、つまりはセックスですね。アルベド様とセックスすることが私の最優先すべき役割ですので、結婚したからと言ってそちらを制限されるわけにはいかないのです。であれば、アウラ様とシャルティア様との関係もこれまで通りに」
「別に私は…………」
アウラは赤い顔で横を向く。
結婚云々の話を聞かされた直後に激しく抱かれているアウラである。
「わかりんした」
ずっと黙っていたシャルティアが、初めて口を開いた。
アウラは色ぼけた顔を元に戻した。
男の向こうでシャルティアが嗤っていた。
「アウラからお兄ちゃんが結婚がどうのと聞いて、つい話を聞きたくなったんでありんす。お兄ちゃんの話はよーっくわかりんした」
「わかっていただけたのなら幸いです。それではこれをほどいて頂けませんか?」
「もう少しそのままでいなんし。すぐ終わりんすから」
「何を為さるのでしょうか?」
「だからすぐに終わりんす」
背後からシャルティアの手が首筋に触れた。愛しむように優しく撫でられ、冷たい肌が心地よい。
「ちょっとシャルティア!? 何するつもりなの!?」
「黙りなんし。アウラが私に話したのはこーいうことでありんしょう?」
色を成すアウラに、シャルティアは取り合わない。
男が着るジャケットとシャルの襟の下に手を差し入れたが、このままでは邪魔だった。
ジャケットは左右に引っ張れば良いとして、シャツはボタンを外して襟を広げた。肩まで露出させたいところだが、腕もろとも椅子に縛り付けてあるのでこれ以上は脱がせない。破るのと汚れるのでは、汚れる方がマシだろう。
「それはまずいって!」
「黙れええぇぇえ!!」
「うわっ!」
止めようとするアウラの手を、シャルティアは力任せに打ち払った。弾き飛ばされたアウラは、宙で一回転してから着地した。
シャルティアの目からは赤光が漏れ、赤い唇からは吸血鬼の白い牙が覗く。
ここにいたって、男もようやくシャルティアがしようとしていることに察しがついた。
それは、かなり、不味い。
かつては僅かながらに考慮することもあったが、今となっては絶対に避けるべきことなのだ。
「シャルティア様! 私の話がわかっていただけたのではないのですか!?」
「よーーーーーーっくわかりんしたよ? こーするしかないって事が」
プライドの高いシャルティアだ。ナザリックで一番親しいアウラであろうと言えないことがある。
シャルティアはアインズ様の正妃に立候補している。図々しいことにアルベドも立候補している。
己の勝利を疑わないシャルティアだが、勝者が出れば敗者も出るのが道理。
その時、負けた方はアインズ様の第二夫人になるのか、それ以外の道があるのか。
それ以外の道として、シャルティアは目を付けた男がいた。
絶対に誰にも言えない事だが、もし万が一に何かの間違いが起こったら、この男を夫にしてもよい。密かにそう思っていた。
そしてその時のアルベドはアインズ様の正妃になっているのだから、有無を言わせるつもりはない。
だというのに、自分を差し置いて、他の女と結婚するという。
そんな事は道理が狂っている。許してはいけない事だ。正さなければならない。
「お待ちください! 私が結婚してもシャルティア様とはこれまで通りに」
「はいはい、ぜーんぶわかりんした。すぐ終わるから大人しくしなんし」
「私はアルベド様直属です! アルベド様と、そしてアインズ様にどうお話するおつもりですか!」
「それは後でお前が考えなんし。私のために喜んで知恵を振り絞るようになりんすから」
この男は、アルベドとデミウルゴスが認めるほどの能力がある。自分には全く思いつかないが、この男なら正当な理由をどこからか捻り出してくるだろう。
「まっ…………」
「シャルティア!!」
男の声にも、アウラの声にも耳を貸さない。
シャルティアは男の首筋に口付ける。
鋭い牙が皮膚を破き、頸動脈に穴をあける。熱い血潮が口内に溢れかえった。
シャルティアは、至高の美味に喉を鳴らした。
一週間先まで最高気温が38度くらいでどこを訴えればいいのかわかりません