本話16kちょい
ルプスレギナはものすごく既視感を覚えた。
「お兄様! ああ、こんな……酷い……。何というお姿に……。シャルティア様、これはどのような事態でございましょうか!?」
エ・ランテルの大きなお屋敷の書斎にて、ぽいっと放られたのは白いシーツに包まれた若旦那様。シーツからはみ出た顔はシーツに負けず劣らずに白い。いつぞやと違って意識はないようだ。
そんな若旦那様を目の当たりにして、ソリュシャンは舌鋒鋭く言葉の刃で斬りつけた。
言葉の刃と言えど、相手は階層守護者。尋常ならざる覚悟があった。
愛しのお兄様が傷付けられればソリュシャンは黙っていられない、と言うのはソリュシャンの姉としても男の女としても、ルプスレギナにはよくわかる。
が、そこまでの事か、とも思う。
この男が色々絞られてヘロヘロになるのは初めてではない上に割とよくある。上位者に食って掛かる根性を発揮するよりも回復させる方が先ではないのか。今までのソリュシャンだったらそうしていたはず。
ルプスレギナは内心で首を傾げながら男へ回復魔法を掛けるべく近付こうとして、ソリュシャンから手で制された。
ルプスレギナが何故と思うより先に、ソリュシャンは男に巻き付けられたシーツを捲る。
男の首筋には、刺し傷のような小さな傷痕が並んで付いていた。傷と傷の間隔は狭い。それはまるで吸血鬼が噛みついた痕のような。
驚愕とともに男の顔を見れば白いシーツと同じ色。血の気の失せた土気色。
まつ毛や唇が時折震えるので死んではいないと思ったし、何よりもシャルティア様が守護者統括相談役を害する理由がない。死んでないのだから、多少絞られても回復魔法を掛けてやれば、と思っていた。
しかし、回復魔法が利かない状態にあるとするならば。
吸血鬼に吸血され、吸血鬼に転化したしまったのだとすれば。
アンデッドの気配はない。しかし、アンデッドの気配を隠すアイテムが存在する。
もしも守護者統括相談役がシャルティアの吸血によって吸血鬼に転化してしまったのだとすれば、尋常ならざる一大事であった。
しかし、当のシャルティアは問題が生じたとは感じていないようだ。ソリュシャンの態度も気にしていないようである。
「ちょっと血を吸いんしたが心配いりんせん。そいつは人間のままでありんす。なにせアインズ様公認でありんすからなーんにも問題なしでありんす!」
「アインズ様が!?」
「それよりソーちゃん、おにーさんの体調チェックっすよ」
「そ、そうね……」
ソリュシャンは慌てて男の首筋に手を当てる。
体温は低い。が、低いに収まる範疇でアンデッドの冷たさではない。紫色になっている唇を捲れば歯並びは良く、犬歯は伸びていなかった。どうやら人間のままであるようだ。
なお、シャルティアは昨夜から今に掛けて、アインズ様に拝謁出来ていない。
それなのにどうしてアインズ様公認との言葉が出たかと言えば、この男はアインズ様から下賜されたアイテムで不老不死となった。そのアイテムの効果によって吸血による転化を防いだ。すなわちアインズ様がシャルティアの吸血を見越してアイテムを下賜されたに違いないとの結論が得られるのだ。
このように現実認識を自分に都合よく改変出来る能力こそがシャルティア力とも言うべき楽しい吸血鬼生を送る才能である。
「ですが、ここまで吸血する必要はないのではないでしょうか? 相談役殿でしたらシャルティア様の要請に応えて血を献じる事を厭わないと思われます」
アインズ様公認とはいえ、限度があって然るべき。お兄様にはいつも健やかにいて欲しいソリュシャンである。
言われたシャルティアは、白い美貌に苦さを滲ませた。三者から目を逸らし、窓の向こうを見やる。
「あれはとても苦しい戦いでありんした」
絶世の美少女が物憂げに遠い目をするのはとても絵になるように思えるがシャルティアである。
ソリュシャンとルプスレギナは似合わないと思ったのだが、口にはしなかった。
「ともかく何の問題もありんせん!」
強く言い切った。とても苦しい戦いの詳細を語るつもりはないようだ。
シャルティアは書斎から出ると、ゲートの魔法を発動して扉の向こうに姿を消してしまった。
■
昨夜、ダミーナザリックの小屋から屍蝋玄室へ男を拉致したシャルティアは、アウラの要請に従って徹底的に絞りきるつもりでいた。
アウラがやってくれと言ったのだ。何が起ころうと何を言われようと自分は無罪である。無罪カードを手に入れたシャルティアは無敵である、はずだった。
男をベッドに押し倒し、両手を拘束させて上に乗る。
自分一人だけであったら数度で満足してしまうが、ヴァンパイア・ブライドは47もいるのだ。その上、男の手を押さえて絶大な攻撃力を封じれば生かすも殺すも自由自在。圧倒的なアドバンテージの元に完勝できるはずであった。
一番乗りは当然シャルティア。文字通りに上に乗って腰を使い、繋がっている部分以外はヴァンパイア・ブライドたちに愛撫させる。
シャルティアが騎乗位しながらヴァンパイア・ブライドたちに男へアナル舐めさせる超変則的な体位は、他では得られない快感であろう。小屋で後ろの穴を使わせた時よりも早かった。
次に乗ったのはヴァンパイア・ブライド・エリートシックスのパム。余力を考えずに激しく腰を使うが出させる前に力尽き、選手交代。次の次で男は達した。
その次に出させるには5人を要した。回を重ねるごとに時間が掛かるようになるのはシャルティアも承知している。
合間合間には最低5人からなる全身リップ。ヴァンパイア・ブライドたちは常日頃の訓練の成果を十二分に発揮し、力をなくした男はあっという間に元気になった。
順番待ちのヴァンパイア・ブライドたちは隣同士で絡み合う。
広い寝室のそこかしこから嬌声が響き、シャルティアは一層盛り上がってきてもう一度上に乗った。
それが間違いであった。
最初に乗った時と違って、男はシャルティアに合わせて下から突き上げる。
シャルティアの快感は段々深くなり、体も段々と前に倒れて男の美顔が近付き、無意識に唇を重ねた。そこで舌が差し込まれるのは良い。拙かったのは、血の味がしたことである。
男は自身の舌を噛み切り、シャルティアに飲ませたのだ。
吸血鬼にとっては至高の血であり、男の血をよく知るミラに言わせれば、「味覚を幾つも超越した超次元における味覚が存在するのなら美味と評しても良い」となる。
そこへ下から深く突き上げられ、シャルティアの精神は肉体から乖離した。
シャルティアが気を飛ばしていたのはどれほどの時間だったか。
意識を戻したシャルティアが目にしたものは、ベッドに倒れ伏す女たち。ある者は仰向けで大股を開いたままで、ある者は尻を高く持ち上げて、誰もかれもが股を濡らしている。
あーーーっ! と叫び声が響き、反射的に目を向ければ、叫び声の発生源より床上の惨状が目に入った。
床の上もベッドの上と似たり寄ったり。あちらこちらで所狭しと女たちが倒れ伏し、股を濡らしていた。白い汁を零している者も多い。精液にしては粘性が低いように見えるので、大半は本気汁と思われた。
愕然としながら現状を把握したシャルティアは、改めて悲鳴の発生源を見た。ヴァンパイア・ブライドの一人が、後ろから男に腰を打ち付けられていた。
女はいつぞやのように壁に手をついている。突き出した尻には男の股間が重なる。それだけでなく、男の手は後ろから女の体をまさぐっているようだ。
豊かな乳房を揉みしだき、結合部へ伸びる手は下腹を撫でているのか陰核を擦っているのか。
女の声は悲鳴にしか聞こえなかった。それが突然止んだのは、男の指が女の口に差し込まれたからだ。
指が口から抜けると、鮮やかだった悲鳴が掠れたものになる。
男が幽かに呻いて動きを止め、女の悲鳴は甘くくぐもったものに。
男は女を振り向かせると、唇を重ねた。
ややあって女の全身から力が抜け、その場にどさりと崩れ落ちた。
男は血に濡れた唇を舐め、次の獲物を見定める。
狙われた女には怯えと、怯えの枷を食い破る愛欲があった。
何が起こっているのかシャルティアにはわからなかったが、とても不味い事になっているのはよくわかった。
ヴァンパイア・ブライドは47もいたのに、今や自分の足で立っているのは片手の指に満たないのだから。
シャルティアが手段を選ばず男を絞り切ろうとしたのと同様に、男も手段を選ばなかった。
シャルティアが意識を失ったら、まずは自身を押さえつけるヴァンパイア・ブライドたちを言葉巧みに惑わした。
『このままでは皆を抱きしめることが出来ない。シャルティア様が私の腕を押さえるよう仰ったのは女性上位の体位を楽しむため。だけど、皆が皆上に乗るのが好きなわけじゃないだろう?』
むしろ上に乗られる方が好きな者が多い。
そうして自由を取り戻した男が使ったのは、己の血であった。
並みのヴァンパイア・ブライドならスプーン一匙で気を失う。単なるヴァンパイア・ブライドから逸脱したミラであっても、直飲みしてしまえば強い陶酔感と酩酊感で立っていられない。彼女らの上に立つシャルティアも同じで酩酊感からの復帰がやや早い程度。
時に口移しで、時に彼女らの爪を使って肌を傷つけ滲む血を舐めさせる。
力で押さえつけられるなら男の勝ち目は薄かった。
しかし、ヴァンパイア・ブライドたちは主目的を知らず、男はシャルティアを除いたSVB47には完勝したことがある。そこへシャルティア曰く吸血鬼泣かせの血を用いれば、何度か絞られた後であろうと勝ち確である。
シャルティアが呆然としている間にも、また一人崩れ落ちる。
勝ち確だと思っていたのに、このままでは完敗してしまう。焦燥に駆られたシャルティアは、男の背後から飛びついた。
首筋に牙を立て、ちゅうちゅうと吸えば心身に満ちる多幸感。しかし、このまま幸せになってしまうと負けてしまう。
もはや、アウラの要請で男を懲らしめると言うのは頭から抜けていた。
ヴァンパイア・ブライド全員を率いて自分にとても有利な条件で始まった戦いなのに、完敗してしまうのは我慢ならなかった。
『おっおっ、おまえたちもぉ……、てつだえぇ……!』
あへあへしてるのに必死の声を絞り出すシャルティアの姿は、ヴァンパイア・ブライドたちの胸を打った。
幸せの国で揺蕩っていたが、一人、また一人と起き上がって男に食らいつく。牙を突き立てるどころか滲む血を一舐めするだけで退場してしまうが、一つ一つは小さな力でも束ねれば大きな力となるのだ。
女たちの海に飲み込まれた男は懸命に抗ったが、多勢に無勢である。
最後には順番が来ていなかった女たちが乗って、力尽きた。
シャルティア陣営は辛くも勝利を収めた。
血を飲み過ぎたかやられ過ぎたかして、ヴァンパイア・ブライドの8割以上が倒れたままだ。
本当に苦しい戦いであった。
なお、正々堂々勝負すれば、シャルティア+SVB47+ミラでも男に勝算がある。
そこへジュネを加えると男の負け確となる。
シャルティア+ジュネでも男に負けの目が出てくる。
最弱のヴァンパイア・ブライドであるのにバランスブレイカーな女である。
ちなみにであるが、いつぞやのシズのように寸止めをしてやれば、シャルティアは労せず勝利を収めたはずだった。
しかし、ヴァンパイア・ブライドたちに初体験を味あわせてやった時は勝利している。
その時はジュネがいたから勝てたわけだが、たった一度の成功体験はシャルティアの戦略を誤らせてしまったのだ。
▼
シャルティアが去った書斎には、一時静寂が戻った。
兎にも角にも若旦那様を回復させるのが最優先。ルプスレギナは改めて若旦那様に近付こうとしたら、またもソリュシャンに制された。
「今度はなんすか? おにーさんは割と丈夫っすけど早く回復してやった方がいいっすよ?」
「お兄様の症状は過度の疲労と貧血ね。噛みつかれた痕が幾つもあるけどそれ以外に外傷はないわ」
「それがなんなんすか? 早く回復させればいいじゃないっすか。明日からは今日みたいにいかないんすよ?」
「それはわかってるけど……。回復魔法やポーションを使わなくても、栄養ある物を取って温かくしていれば大丈夫よ」
「煮え切らないっすね。だから一体なんなんすか?」
ソリュシャンは、はあと息を吐いて頭を振った。ルプスレギナは神官なのに意外と鈍い。それとも神官だからこそと言うべきか。
あからさまにバカにされて、かっちーんと来たルプスレギナは、妹をとっちめるべきか男を回復させるべきかしばし悩み、ソリュシャンが言った。
「お兄様を看病したいの」
ルプスレギナの目から鱗のようなものがはらりと落ちた。
手が取れても足が取れても体に大穴が空いても、睡眠不足でも肩凝りでも諸々の体液が足りない時でも、とりあえず回復魔法を掛ければ全快する。
だからこそ、ルプスレギナは癒し手である神官なのに看病する選択肢を知らなかった。
「お兄様の体力なら明日には元通りになるわ。私が看病するからルプーは回復魔法を掛けたりしないでちょうだい」
「待った! それ私もしたいっす!」
「ご飯は私があげるわよ?」
「それじゃ私は温めるっす!」
看病する発想がなければ、動けない若旦那様に尽くす発想もなかった。回復魔法を除けば、ルプスレギナはいつも尽くしてもらう側なのだ。
シーツに包まれた若旦那様の上半身をソリュシャンが持ち、両脚をルプスレギナが持って若旦那様の寝室に運ぶ。
そんな光景を、幾人かのメイド見習いに目撃された。そんなだからお屋敷における若旦那様の立場や扱いが微妙なものになるのだが、今更の事である。
「お兄様、お目覚めになって。そのままでは体を損なってしまいます」
ベッドに寝かされた若旦那様は意識を失ったまま。
ソリュシャンとしては栄養補給におっぱいを飲んで欲しいのだが、これでは吸ってもらえそうにない。
若旦那様のこけた頬を撫で、乱れた髪を手櫛で整え、色の失せた唇に口付ける。
「んっ……れろ……」
しっかりと唇を重ねたら、舌を差し込んで口を開けさせる。
薄く開いた隙間へ流し込むのは、とろみのあるソリュシャンエキス。
ソリュシャンは日々の食事やティータイムで飲食したものから適量の甘味や栄養を分離して自身の体液とブレンドし、栄養たっぷりのソリュシャン汁として保存しているのだ。
それと云うのも愛しのお兄様に飲んでいただくため。
いつもはおっぱいから飲んでもらう。今回は舌で押し込む必要があるため口移し。
とろとろと甘い汁を流し込み、舌で押しやれば男の喉が僅かに上下する。
手ごたえを感じたソリュシャンは、少しずつ量を増やしていった。
「それじゃ私はこっちっすね」
ルプスレギナはベッドの中に潜り込む。
男に掛けられた毛布の中へ頭から足まですっぽり入り、中でごそごそ。ややあって毛布の中から出てきた手は、ルプスレギナ専用改造メイド服を握っていた。
冷え切った男の体に自身の体を密着させ、脚には脚を絡めて両手は男の手を握る。
男の頬へ頬ずりまでしたいところだが、首から上はソリュシャンの担当。
甘いものが胃に入ったのと体が温まってきたのとで、男が薄く目を開いた。
「うう…………、そるしゃん?」
「はい、お兄様。どうかそのままで体を休めてくださいませ」
「私もいるっすよ!」
ルプスレギナが毛布から頭だけ出す。すると、ソリュシャンがドレスの襟を引き下ろして豊かな乳房をこぼれさせていた。
「お兄様はもう少し栄養を取る必要があると存じますわ。どうかソリュシャンのおっぱいを飲んでくださいませ」
「それよりかいふくまほうを」
「私がいるからって回復魔法に頼りきりじゃいけないっすよ?」
「む……」
前回ナザリックを訪問した際、ペストーニャ様から魔法に頼ってばかりではいけないと言われたばかりである。
ソリュシャンは男の体から力が抜けるのを察すると、男の頭を持ち上げて膝枕に移行。ルプスレギナの頭が邪魔なので、毛布の中に追い返した。
「お兄様、あーんしてください♡」
ソリュシャンは体を倒し、あーんと開けられた口へ乳房の先端を近付けた。
男の顔が乳肉に埋まり、ピンクの乳首が紫色から赤みが増してきた唇に食まれる。ちゅうと吸われれば、滲むようにソリュシャン汁が分泌する。
乳首から出ても母乳とは違うので、汁の出方はソリュシャンの自由自在。強く吸われれば吸われるだけ量が増えていく。
変幻自在のスライムであるソリュシャンだが、乳首の表面から分泌しているのとは少し違う。そうすることも可能でも、おっぱいを飲んでもらう時は変えている。まず人間の肉体を模して、母乳が出る乳腺らしきところにソリュシャン汁を溜める。そこから汁が通る乳管を乳首へ通じさせ、乳首の微小な穴から分泌する。
口付けられている感触は別として、滲む程度ならソリュシャンが感じる程でもない。薄く汗をかくようなものだ。それが男の喉が何度も上下して嚥下する量になると、体の中に溜めた汁が外へ出て行くのを強く感じる。
「ああ、お兄様ぁ。もっと飲んでください♡」
愛しのお兄様のミルクがソリュシャンの滋養となり、ソリュシャンが分泌するソリュシャン汁がお兄様の滋養となる。自分がお兄様を支えてお兄様の一部になっていることを強く感じられる。
ソリュシャンは、お兄様におっぱいを飲んでもらうのが大好きなのだ。
おっぱいが出せないルプスレギナはちょっぴり悔しい。
代わりに、猫がマーキングするかのように男の胸板に頬ずりをした。
「るぷー、おもい。おりろ」
「重いってなんすか! おにーさんをあっためてるんすよ!?」
女性に向かって重いと言ってはいけない。シズから教えられていた男だが、気を回す元気がないのだ。
「温かくて気持ちいいけど今はおりてくれ。たのむ」
「むー、わかったっす」
ルプスレギナは素直に上から下りて、横から男に抱き着いた。
もう少し食らいつきたい気持ちはあったけれど、弱っているおにーさんは何だか素直でかわいいのだ。
大きな乳房を男の脇腹にむにゅんと押し付け、伸ばした手は男の体を温めるべく、胸板を優しくさすり始めた。
「おっぱいはもういいから、水を」
「はい、ただいまお持ちします」
ソリュシャンが部屋から出て行く。
毛布に潜っていたルプスレギナはもう一度顔を出し、今度こそ頬と頬を擦り合わせた。
「このままおにーさんをあっためてあげるっすから。早く元気になるんすよ?」
「……ああ」
返事はあったものの、眠そうな声だ。
「そのまま寝ちゃってもいいっすよ? ルプーがおにーさんをずっとずっと温めてあげるっすから♡」
「……ああ」
「だから、おにーさんはルプーに優しくしないとダメなんすからね? 今日だけじゃなくて、明日も明後日も、ずーっとっすよ?」
「…………ああ」
返事の間が段々と開いていく。
激しく色々されるのも良いが、こんなのも悪くない。安心しきって体をゆだねる男が、ルプスレギナにはとても可愛くて思えた。
瞼を下す男の顔へちゅっちゅと唇を落とし、へにゃりと笑う。
ぎゅっと抱きしめたいところだが、そうすると起こしてしまうかもなので、男の腕を引っ張って腕枕で許してやることにした。
水を持ってきたソリュシャンは口移しで飲ませ、ルプスレギナの反対側に潜り込んだ。
▼
看病なのか玩具にしているのかわからないが、男は昼過ぎに目を覚ました。とはいえ、本調子には遠く、気だるげにベッドへ身を横たえている。
体は動かなくても頭は動く。
ソリュシャンは男へ一枚の紙片を差し出した。シャルティアが去り際に置いていったものだ。アウラからの伝言であるらしい。折りたたまれただけの紙だが、ソリュシャンもルプスレギナも中身は読んでない。無防備で無造作でも、上位者の私信を勝手に読んではいけないのだ。
男が紙片を開くと、
『あんたが悪い』
とあった。
二人から何をしたのかと詰め寄られる男だが、何が悪いのか全く分からない。
昨夜、アウラ様にしたことと言えば、アナル開発の予習。自習のための練習。
罰と云う名目ではあったが、どうしても嫌なら拒否すればよい。階層守護者へ嫌な事を無理強い出来るわけがない。
であるならば、アナルセックスを楽しんだシャルティア様が羨ましかったのだろうか。
昨夜は誤解から始まったシャルティア様への罰だったわけだが、罰なのにシャルティア様は大いに楽しんでいた。そこに不満を持ったのかも知れないと推測できる。
それはそれとして、その後はとても苦しい戦いであった。
ヴァンパイア・ブライドが10や20なら何とでもなるが、やはりシャルティア様が指揮をとるフルメンバーは難敵であると云うことか。最後がどうなったか全く記憶にないが、いつの間にかエ・ランテルの屋敷で寝ていたことを思うと、負けてしまったと思われた。
同じことが起こらないよう、次の機会があったらヴァンパイア・ブライドを一人ずつ徹底的にやってしまおうと思うも47もいる。
やはり数の力は大きい。
と、近いようで遠い事を考えつつ紙面を読み進めれば、男がサラマンダーの鍛冶師に注文した道具を明日マーレが持っていくとあった。
アクセサリ加工のための彫金道具その他はそろそろ出来上がると思っていた。それをマーレ様がわざわざ持ってきてくれるとなると、例の件が何とかなったようである。
こちらはアルベド様の許可が出ている話だ。油断なく慎重に事を進めなければならない。
緊急ではないのでその件は明後日以降にして、明日マーレ様がいらっしゃるなら、エ・ランテルの街を一緒に散策することを予定に加える。
「いよいよ指輪造りが始まるんすね!」
私信を覗き見たルプスレギナは目を輝かせる。
「お兄様がどんな指輪を作ってくださるのか楽しみにしております」
ソリュシャンは男を信頼しきっている。愛しのお兄様が自分のために結婚指輪を作ってくれるのだから、おかしなものを作るわけがないのだ。
しかし、ルプスレギナはそこまで盲目的に思えない。
「どんなの作るつもりなんすか?」
「どんなって言われてもな。デザインは幾つか頭にあるが……、二人こそどんなのが欲しい?」
ナザリックの最古図書館で宝飾品について色々読んできた男だ。指輪のデザインも様々なものが頭に入っている。
ソリュシャンとルプスレギナの髪や目の色に合わせて宝石を選び、それをどのように魅せるべきか。
「じゃ、ちょっと描いて欲しいっす」
ルプスレギナがベッドテーブルにノートを広げ、ソリュシャンは男へペンを手渡す。
字は下手だが絵は上手い男なのだ。不安定な場所だろうと真円も直線も自由自在。
次から次へと描かれる指輪の絵は、大きな石を強調するものから小さな石を幾つもちりばめたものに、さらに小さな石を使って極小のモザイク画を作るものまで。
さらさらと走るペン先に、二人の女の胸は高鳴った。
これもいい、あれもいい、それもいい、どれも良すぎて選べない。
すっとぼけた所を多々見せる男であるが、女心にクリティカルを出す時も多々あるのだ。
まして今回は結婚指輪。
女心がときめかないわけがない。
なお、作成予定者は指輪はただの指輪だと思っている。事の始まりは、ラキュースに作ってやった体毛製ブレスレットを二人がずるいと言い張ったからなのだ。
それでも指輪を左手の薬指に嵌める意味はさすがに知っている。結婚はまだ先になる予定なので婚約指輪になるのだろうが、体毛製ブレスレットと同等品を婚約指輪にして良いものかどうか。もちろんちゃんと作るつもりだが、やはり体毛製ブレスレットがきっかけと云うのは。
この男にしては珍しく良心が働いたと言えよう。しかし、外部には現れないので、ないも同然とも言えよう。
「二人はどれがいい? 指輪を作ったことはないから製作期間は何とも言えない。何個か試作するつもりだし、ずっと掛かりきりになるわけにもいかない。まあ、何か月も掛かる事はないだろう」
「そうですわね」
「そうっすね」
二人は聞いてるようで聞いていない。
二人とも栄光のナザリックに仕える戦闘メイド「プレアデス」の次女と三女であり、帝都で皇帝主催の夜会に出たこともある。必要となれば様々な宝飾品が無制限に提供される。ナザリックの宝飾品はどれも素晴らしいものばかりだ。
しかし、これはそれらとはわけが違う。結婚指輪カタログである。
結婚指輪を作ってもらう。
愛しい男から手ずから左手の薬指に嵌めてもらう。
それを思えば、精神が未来に旅立って幸せになってしまうのだ!
ぽややんしている二人は選べない。
夢見るような声で、お兄様にお任せします、とソリュシャンが言う。ルプスレギナは無言でこくこく頷き、ソリュシャンと同意見であるようだ。そこでずっと夢見ていれば良かった。
ふと我に返ったソリュシャンが、
「お兄様も同じ指輪をつけてくださいね?」
「俺も?」
「もちろん私の指輪と同じ指輪っすよ!」
「つける指は私と同じ左手の薬指でお願いします」
「私の指輪も左手の薬指につけるんすからね?」
「……俺の左手の薬指は一本しかないんだが」
一本の指に指輪を重ね付けするのは、なくもない。そのようなデザインの指輪も当然ある。
しかし、二人の指輪はそれぞれ全く違うデザインにする予定だった。二つを一本の指につけるのは少々不格好である。今しがたスケッチした指輪はどれも不適なので、違うデザインを考えなければならない。
この時の発言をソリュシャンがとても悔やむのは先の話である。
男がベッドから起きたのは夕食時になってから。
体力はとっくに回復していたが、ソリュシャンとルプスレギナがベッドから出してくれなかった。
ベッドの上であれやこれやをしている時に、ルプスレギナから明日からもこれまで通りにちゃんと相手をして優しくするようにと注意されたのは不思議である。これにはソリュシャンも追随し、明日以降も日に一回以上ミルクを提供することを約束させられた。
さらに不思議なのは、夕食の給仕にリファラとキャレットが加わっている事である。
シェーダの親しい同僚であった二人は、ナザリックにいたはずだった。それが昨日からエ・ランテルのお屋敷勤めに変わったのだとか。
それと並行して、交代制であったメイド教官が二人に固定するらしい。エ・ランテルの大きなお屋敷は、メイド研修所を兼ねているのだ。
二人は意味ありげに、これからよろしくお願いしますと頭を下げた。
日中色々絞ったからか、夜になってソリュシャンかルプスレギナが忍んで来ることはなかった。
それならミラを抱き枕にしようと考えた男だが、朝方のご主人様を思いますと今夜は体を冷やさない方がよろしいのではないでしょうか、と辞退された。暑くなってきたので、吸血鬼のミラを抱き枕にすることが多い今日この頃である。
それなら今夜はこのまま寝ようとして、今日は帝都に顔を出してない事を思い出した。一昨日向こうに泊まったばかりだからいいだろうと判断し、男はそのまま眠りについた。
▽
昨夜は就寝が早く、夜に疲れるようなことをしなかった。その甲斐あっていつもより早く目が覚めた。爽快な目覚めである。
今日は幸せな一日となると思えるのは、目覚める直前の夢見がとても良かったからだ。
良い夢なら目覚めずに続きを見たくなるところだが、目が覚めても気持ちよさが続いている。
体の上には柔らかく心地よい重み。昨日ぐったりしていた時はルプスレギナに乗られて重かったが、元気な時なら大歓迎である。
重みよりも感じるのは、ぬめる温かさ。暑い季節なので温かいものは遠慮したくなるが、そこは別である。誰かが股間で頑張ってくれているらしい。
手でも気持ち良いが、感じる温かさが違う。では上の口か下の口か、難しい問題だ。どちらでも全体を包まれて温かい。
おそらくはソリュシャンが口を使っている。
ソリュシャンの寝フェラはほぼ日課。朝からソリュシャンの口に出すことで、気だるい心地よさと共に目を覚ますことが出来るのだ。
されている最中に目を覚ますのは珍しい。珍しいどころか、記憶を辿ると一度もない。一度口に出してから、それでもソリュシャンの口が離れないと云うことは何度もある。
股間に滾る熱さから、まだ出していないと感じた。
「んっんっ……じゅぷ、じゅぷっ……、んっふうぅ♡ ちゅっちゅっあむぅっ……、ちゅるる……。じゅるる……」
戻ってきた聴覚が卑猥な水音を捉えた。やはり上の口を使っているようだ。下の口ではこうは鳴らない。
寝起きの逸物は固く勃起し、柔らかな粘膜に根元まで包まれる。
先端だけに口付けされ強く吸われる間も、竿が上下に扱かれている。
扱かれるのが良ければ吸われるのも良い。包まれる時も吸われているようで、逸物全体が満遍なく柔らかな粘膜に触れている。
ソリュシャンは絶世の美女だが正体は不定形の淫乱スライム。
スライムテクによるフェラチオは初めてされた時から良かったものだが、日々進歩しているのを感じていた。具体的には早くなって量が増えた。こちらは気持ちよく、ソリュシャンも満足。ウィンウィンである。
今朝のフェラチオはそこから一段階昇ったらしい。
今にも出してしまいそうな快感が上ってきているのに、甘い刺激を徐々に溜めていくかのような絶妙な舌使い。
高めるための前戯とは違う。射精させるための激しさとも違う。
どちらも際限なく高めていく狂おしさと気持ちよさ。
昨日の午後は指輪の話をした後、ソリュシャンに乗られて絞られた。その間、ルプスレギナは顔の上に乗ってきた。
二人は場所を交代してルプスレギナが乗ろうとしたが、残念ながら打ち止め。何とか起き上がれるようになっても疲労と貧血で寝込んでいたのだ。ルプスレギナが頑張っても元気にならなかった。
そこで光るのが回復魔法。
回復魔法に頼りきりはいけないと言ったくせして、失った血液の回復には使わなくても精液の回復には使うらしい。やはりルプスレギナは発情狼である。
それはさておき、昨日されたばかりのフェラチオと違い過ぎる。
たった一晩でソリュシャンは一体何に覚醒したのか。
そう思って重さが消えつつある瞼を持ち上げると、白く張った布が目に入った。
布は縦に細長く、幅は指三本程度か。両サイドの縁には補強のための縁取りがある。
白い布は柔らかな何かを覆っているようでふっくらとしていた。
布以外の部分は肌色。
それが何を意味するのかが意識へ浮上する前に、手が伸びていた。
「あんっ。……んふふ♡ あーんっ、ちゅるっ、れろぉ……。くちゅくちゅ……、じゅぷぷっ…………。うふっ♡」
白い布は顔の間近だ。肌色部が顔の両脇へと伸びているため、邪魔になって手が届かない。
手が届いたのは、布地が視界から消える向こう側。
丸く柔らかく、しっとりとして肌に吸い付く。触っているだけで幸せになり、撫でていると勃起している逸物に一層血が通ってしまう。
触ってから、尻であると気が付いた。
三桁を越えて四桁は触っているソリュシャンの尻ではない。
初めて触ったカルカの尻を同定した尻ソムリエの名に懸けて、ソリュシャンの尻を間違えるわけがない。
誰の尻であるかは答えが出た。
しかし、その御名を上げてはいけない。
期待が裏切られたら、と消極的な事とは正反対。期待を高めに高め、喜びを強めるためだ。
「うふふ、あなたのおちんぽをしゃぶっているだけで……」
空気を揺らす音がここまで美しくなれるのだと天上天下に知らしめる美声である。
それもそのはず。
声の主はいと高き彼方より美の何たるかを衆生に教えるために降臨為さったお方なのだ。
「んっ……」
「おお…………!」
男が見つめる白い布に、ほっそりとした三本の指が現れた。
指はふっくらしている布地を押しながら上下に動き、真ん中の指は他の指より深く沈む。
指が往復する度に布地はふっくらとした何物かに張り付いて、小さな光点が見え始めた。
光っているのは光を反射しているからだ。
点だったものは縦に長く、筋状へ姿を変えていく。段々と広がっていく。
男の鼻へ艶めかしくも生々しい雌の匂いが届いてきた。
「んっ! んっ! じゅぷっ、じゅるるるるるぅっ……! んぅうっ、じゅぷぷっ……ちゅうぅうううぅぅ……。あっ、はうぅんっ♡」
「くっ!」
指が往復する速さに同期して、逸物への快感も加速していく。
上に乗る女は、夏の夜に寝汗をかいたままで寝起きの男の体を、男が小便を出す排泄器を。宝玉の例えさえ不敬な汚れなき珠玉の唇で咥えている。
白いショーツに広がるシミはますます広がっていく。
口淫をして、自身で慰めて、ショーツから滲むほどに愛液を溢れさせている。
いまや薄布はぴったりと秘部に張り付き、欲情して開いてしまった雌の形をあらわにしていた。
「っ!」
「んっ? んっ、んっ、んんんんっ! んうぅぅ………………。んっ……んっ……。こく……。んっ……」
女の口へ、どぴゅどぴゅどくどくと吐き出した。
昨夜は出さず、寝起きで濃厚なフェラチオによるファーストショット。
度重なる経験とレベルアップで多めになっている量が、ボーナスの如く割り増しになった。
女は頬が膨れるほどに吐き出された精液を、喉を鳴らして飲み込んだ。
いつもなら口中で舌で転がして味わうところ、余裕がなくなるくらいに量が多かった。
精飲したらお掃除フェラ。
もう一度深く咥えて竿を綺麗にしたら、尿道口に唇をつけて強く吸う。尿道に残っている精液を吸い取るためだ。
しかし、不要であったらしい。
「んんっ!?」
射精してから竿を数度往復する間に、少し柔らかくなってきたのを女は感じていた。
出せばそうなるのをよく知っている。
出しても固いままにさせる方法もよく知っている。朝一なので、その手の技は使わなかった。
だからであろうか、弛緩した尿道を本来の液体が流れる。寝起きに催してしまうのは仕方ない。不可抗力である。ソリュシャンにもいっぱい飲んでもらってきた。
「んーーーーーーーーーーっ! んっんっんっ……」
お掃除フェラで吸ってあげようとして、亀頭を咥えたままだ。
その状態で、口の中へ勢いよく放尿された。
口の中に温かい液体が溜まってくる。出された端から飲まないと零してしまう。何度も喉を鳴らして飲み干した。
舌で感じるのは精液より塩気が濃く、水のようにさらりとして、ほんのりと温かく。
「あひぃっっっっん♡」
男が僅かに頭を上げて白い布地に顔を埋め、女は逸物から口を離して鳴いてしまった。
丁度全部飲み終えたところだったので、一滴も零していない。
そう思っていたが尿道口に雫が見えた。唇だけで触れてちゅっと吸い取った。
「こぼしてしまうところだったでしょう?」
内容こそ男を叱るものだが、声音には悦びが溢れている。
声の主は男の上で前後を入れ替える。輝く美顔に笑みを湛え、男を上から見下ろした。
「おはよう。朝から元気ね。とっても美味しかったわ♡」
ああ、何と云うことであろうか。
朝目が覚めて最初に見るのがアルベド様のお顔なのだ。
創生から終末に至るあらゆる過程において、これ以上に幸せな目覚めはない。
己は至高にして究極の目覚めを手にしたのだ。
今日は絶対いい日である。
「おはようございます。この上なく良い夢を見ておりました。目覚めた今も夢の続きを見ているのかと思うほどに幸せに満ち溢れております。朝からアルベド様にお会いできる光栄を頂けましたことを心より感謝申し上げます」
「もう、あなたったらいつも大袈裟ね。でも、私も朝からあなたに会えて嬉しいわ。ちゅっ♡」
二人の顔はアルベドの長い髪が降りて囲み、外からは見えない。互いに互いの顔しか目に入らない。黒髪の檻は高さを下げ、檻の中の二人は幾度も口付けを繰り返した。
口付けに飽きる二人ではないし、繰り返す内に男の男に血が通うのを、アルベドは困ったように笑った。
「続きをしてあげたいけど今はお預けね。朝食にするからあなたも身だしなみを整えなさい。私はその後でナザリックに戻るわ」
アルベドの言葉に異を唱える男ではない。
しかし、アルベドの言葉は重大な事実を示唆していた。
ナザリックに戻るなら、お食事部屋に設置した狩場直行君を使用すると思われる。シャルティア様が移動の手伝いをするのは少々考え難い。
狩場直行君には使用制限があり、一度起動したら日を跨がないと再使用することが出来ない。アルベド様は朝のこの一時だけのためにナザリックからいらした、と云うことになる。アルベド様に救われてからこの日まで、一度としてなかったことだ。
それ以外にもう一つの可能性がある。ナザリックへお戻りになったアルベド様がもう一度エ・ランテルにいらっしゃる場合だ。
前述したように狩場直行君には使用制限があるため、一日の内に行って帰ってもう一度行くことは出来ない。可能なのは、行って帰るだけだ。しかし、もしもアルベド様が今日中にエ・ランテルに再訪なさると仮定すると、アルベド様がエ・ランテルにいらっしゃったのは日を跨ぐ前、と云うことになるのだ。
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果たして答えはどちらであるのか。
可能性としては後者に重きがと思いつつ朝食の席に臨めばアルベド様がいらっしゃる。早速給仕を、と思ったところで座らせられた。アルベド様の給仕には昨日来たばかりのリファラとキャレットが付くらしい。
お屋敷ではお嬢様として通っているソリュシャンと、時に守護女神になるルプスレギナも朝食を共にする。
いつものメンバーにアルベド様が加わった状態だ。
朝食の場では他愛ない話の他に一日の予定を擦り合わせることが多い。
メイド見習いがいる時もあるのでナザリックに関する具体的な話はしないが、そこはわかる者同士の認識で補完できる。
どうやらアルベド様はナザリックにお戻りになって必要な事をこなした後、再度エランテルの屋敷にいらっしゃるらしい。シャルティア様が移動を助けるではなく、狩場直行君で移動するようである。
と云うことは、アルベド様は昨夜からこのお屋敷にいらしていたと云うことになる。
一体何が起こっているのか。
男としてはアルベド様がお傍にいたのに奉公できなかったのは痛恨の極み。
それ以上にアルベド様がエ・ランテルの屋敷に滞在してくださるのは喜ばしい。
「ついてきなさい」
「はっ」
朝食を終えれば、さして休むことなくアルベドは席を立ち、男を伴ってお食事部屋に向かう。
朝食の後に次のお食事を、ではなくて、ナザリックに移動するための狩場直行君はお食事部屋に設置してあるからだ。
「さあ、入りなさい」
「これは……」
部屋のドアはアルベドが開ける。
何度も入っているお食事部屋に通され、男は目を見張った。
アルベドは悪戯が大成功した幼子のように、あどけない笑みを浮かべた。
お食事部屋は広い部屋。ダンスホール並みとは言わないが、先ほど朝食をとったダイニングより広い。四方は分厚い石壁に囲まれ、中央に大きなベッドが一つ。黒曜石から削り出したテーブルに椅子が二脚。寝心地抜群の長椅子。
月日が経つに連れ、壁に棚やチェストの収納スペース。一人掛けから三人掛けまでの座り心地抜群のソファに、それに合わせたローテーブル。
細かな物が増えはしても減りはせず、けどもとても広い部屋なので閑散とした印象は否めなかった。
それが、様変わりしていた。
一番は部屋が狭くなっている事。
よく見れば、壁と同色のカーテンで仕切っているようだ。
カーテンで仕切られたドア側の空間には、先述したテーブルセットに書類棚が囲む。
「こっちはクローゼットにしたわ」
アルベドがカーテンを開いた空間は入口部分の空間より狭く、所狭しと美しいドレスが吊るされている。
「ここは下着ね。私に着て欲しいのをあなたが選んでもいいのよ?」
細かく区切られた純白の衣装棚から一つ引っ張ると、春の花園に蝶が舞うかの如き色とりどりの小さな布地が丁寧に収められている。
「そしてここは……」
アルベドが更にカーテンを捲って奥に進む。
一番広い空間を占拠するのは天蓋付きの大きなベッド。アルベドがサキュバス的お食事をする秘密で特別な空間だ。
「これはいったい……どのような事でございましょうか?」
男は呆然とアルベドに問いかけた。
様変わりしたお食事部屋。
おそらくは昨夜から屋敷に滞在しているアルベド。
合わせれば答えが出るが、高まりすぎた期待が答えを出させない。
寝起きの時とは違う。
喜びを高めるために曖昧にしているのではなく、期待が裏切られた時の落胆が恐ろしい。
だけれども、状況はそれを指している。
「ふふ、わからないの?」
アルベドは、悪戯のネタ晴らしをする子供のように笑う。
揶揄いたくて笑っているのではなく、喜びが抑えきれずに笑みが零れてしまう。
「わかるような気がいたします。ですが間違っている可能性を思うと軽々に口にすることが出来ません」
「仕方ないわね。それじゃあ……、教えてあげる♪」
アルベドは、すっと男の体を寄せ、男の耳元に艶やかな唇を近付けた。
(わたし、今日からここで暮らすことにしたの♡)
アルベドの宣言に数秒沈黙した男は、輝かんばかりの笑顔を見せた。
もうすぐ10月なのになんでこんなに暑いのか
暑い最中にも投稿してる方はいっぱいいて、みんな富士山の山頂や南半球に住んでるんじゃなかろうかと思うことしばし