※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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本話9kちょい


新プロジェクト始動!

 輝く笑顔にアルベドの胸はトゥンクと高鳴り朝食を取ったばかりにも関わらずサキュバス的食欲が高まるもこれからお仕事であるからにしてそんな時間はない。代わりにいってらっしゃいのキスをもらおうと思ったがそうするとサキュバス的食欲が(以下略)。

 

「行ってらっしゃいませ。お帰りを心よりお待ちしております」

「……ええ。行ってくるわ」

 

 男からキスされそうになるのを断腸の思いで制し、アルベドは狩場直行君を起動してナザリックの自室に転移した。

 

 アルベドを見送った男はキスを拒否されたことに一瞬だけ寂しさを浮かべたが、すぐに気を取り戻す。今日中にまた会えるのだ。それに比べたら、しばらく会えない事なぞ何の苦でもない。

 男が上機嫌でお食事部屋を出ると、部屋の外ではソリュシャンとルプスレギナが待っていた。

 

「アルベド様はナザリックに向かわれた。お帰りの時間は仰らなかった。今日だけお泊りになるなら兎も角、アルベド様はこの屋敷でお暮しになると仰られた。お帰りになるまで待機している必要はないだろう」

 

 一拍おいて、男は柔らかく笑った。

 

「ルプーにはこれからも世話になる。頼りにしてるよ」

「ふにゃっ!?」

 

 ルプスレギナの不意を打つような滑らかな動きでそっと抱き寄せ、張りのある頬へちゅっと唇を鳴らす。

 目を白黒させるルプスレギナから離れると、次はソリュシャンを抱き寄せる。

 

「今朝はアルベド様がいらっしゃった。ソリュシャンは物足りないだろう? 後で頼むよ」

「は、はい! お任せください!」

 

 ソリュシャンは力強く返事をする。

 

 男が崇め奉るアルベドがエ・ランテルのお屋敷に住む暮らすことになったのだ。信徒たる男はアルベドのためだけに全てを注ぎ、その他の事は少々おざなりになるのでは、と危惧されていた。

 危惧していたのはソリュシャンとルプスレギナだけではなく、アルベド自身もである。

 アルベドとしては歓迎すると思われるかもしれないが、ナザリックに於いて慈悲と慈愛の象徴であるお優しいアルベド様である。男へ心を砕き尽くしてきた女たちを哀れに思った。

 よって、自身がエ・ランテルに移る前から女たちを集め、話し合いの場を設けてきた。丁度、男がナザリックを訪問していた時期である。夜毎にミラがエ・ランテルに戻ったのは話し合いに参加するためだった。尤もミラに発言権はなく、聞いているだけであったが、守護者統括が主催する場に臨席させていただくだけでも大変な名誉である。

 

 しかし、懸念は良い方に大外れした。幸いなことに、男の視野はそれほど狭くなかったようである。

 なにせアルベド様と一つ屋根の下に。それはとてもとても幸せな事だ。

 流れ星を見かけて願い事を唱えようとしたら唱えている間に流星群が100以上流れるようなもの。それは吉兆ではなく凶兆かも知れないと云うのは措いておく。

 つまりは願い事の成就が確約されたも同然。幸せと喜びと悦びと期待に満ちた日々が始まるのだ。機嫌が良くなるのは当然である。

 機嫌が良くなれば周囲への当たりは柔らかくなり、優しくなれる。幸せのおすそ分けと云うやつだ。

 それに、男がソリュシャンとルプスレギナに日々感謝しているのは本当である。感謝を形にしてもよいと思えてくる。いつもは面倒だからしないのだ。

 

 但し、万事と万難を押しのけてアルベドが第一に来るのは変わらない。

 この日から、夜の予定が遥か先まで決定したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 魔導国アインズ・ウール・ゴウンの首都エ・ランテルの上空に大きなドラゴンが姿を現したのは、太陽が高くなってきた頃でした。

 魔導国では飛行するモンスターを利用した航空便が実用化しているので、ドラゴンが飛んできたくらいで騒ぐ者は余りいません。大きなお屋敷のメイドたちはよく訓練されているのもあって、ドラゴンが中庭に降り立とうとしているのを見ても恐れも叫びもせず、メイド教官の指揮のもとに外に出て整列します。

 若旦那様が知る二人のメイド教官はちょっと色惚けていると云うか欲求に素直と云うか、そんな姿しか見ていなかったので教官なんて務まるのかと思っていましたが、けして急がせるわけでもなく声を荒げることもなく、むしろゆったりとした動作で声も穏やかに聞こえるのに、声か姿勢か理念のどこかに筋金が入っているかのようで威厳すら感じさせる優雅さがあり、それをリファラとキャレットは鏡写しのように行うのですから、超が付く一流であることに疑いを持てようはずがありません。

 ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」でメイドを勤めていたのは名だけの事ではないようです。

 

 メイド見習いたちが外に出て整列しているのは、本日は貴人が来訪されると事前に知らされていたからでした。

 出迎えの先頭は、お屋敷の責任者である若旦那様。

 

 今までは名だけの責任者であった若旦那様ですが、アルベド様がお越しになったのだからこれからは指導力を発揮してアルベド様が過ごしやすいようにお屋敷を大改革しようと思ったのですが、自分が何もしなくても今までは上手く行っていたのだから何もしない方がいいだろうと判断して結局何もしていません。

 下手の考え休みに似たり、どころではなく、下手が口を出すと害悪にしかならない事を知っていたからです。若旦那様は自分の無力をよく知っていました。下手なのに口を出したがるのを俗に馬鹿と呼びます。若旦那様は割と賢いのです。

 

 お屋敷の平穏が保たれたのは措いておき、ドラゴンに乗ってエ・ランテルまでやってきたのはナザリックからのお客様です。

 ドラゴンの背からひょいと顔を出したのは、美貌の幼いダークエルフ。色々と大人っぽくなってきたアウラちゃんではありません。きょろきょろと周囲を見下ろし、若旦那様を見つけると心細そうな顔をぱあっと華やかせたのは、アウラちゃんの双子の弟、マーレ君でした。

 

「マーレ様!」

「お兄ちゃん!」

 

 マーレ君はドラゴンの背中から飛び降りました。空中でくるっと一回転してから細い足を下へ向けます。足がちょっと開き気味なのは、着地する場所が地面ではないからでした。目指すのは若旦那様の肩の上です。若旦那様の首筋にお股を乗せるつもりなのです。

 さすがのマーレ君ですから狙いは外れません。しかしこのまま接触してしまうと、マーレ君のお股にダメージ必死です!

 しかし、そこは慣れてる若旦那様。

 マーレ君のお股が首筋に触れると同時に足首を折り、膝を曲げ、接触の衝撃を極限まで殺します。マーレ君のお股はダメージを受けるどころか、ふわふわクッションに飛び込んだような感触だったことでしょう。

 若旦那様は見事にマーレ君を受け止めると、ゆっくり立ち上がりました。合体完成です。

 ここでは口うるさいお姉ちゃんはいませんし、仮にいたとしたって屋外なのですから怒られることはないはずです。

 

「え? え?」

 

 肩車が成るなり、パチパチと拍手の音が鳴り響きます。どうして拍手されるのだろうと、マーレ君はやはりきょろきょろして、若旦那様にすがるような目を向けました。

 

「マーレ様を歓迎しているのです。お手数でなければ手を振ってやってください」

「う、うん。これでいい?」

「はい。皆、マーレ様をお迎えできたことを喜んでいるのです。もちろん私もですよ?」

「うん。えへへ!」

 

 マーレ君はとっても純心で可愛いのです。

 尤も、皆が拍手しているのはマーレ君の歓迎のためではなく、飛び降りて肩車をきめた見事な技へ対してです。

 若旦那様は手を振って拍手を止めました。それを見計らっていたかのように、リファラとキャレットがメイドたちへ指示を出します。メイドたちはマーレ君に一礼してそれぞれのお仕事に戻りました。

 

「今日のご予定を伺う前に、マーレ様にお運びいただいた品を預かってもよろしいでしょうか?」

「首に吊るしてあるのがそうだよ」

 

 ドラゴンの首には、大人が二人は詰め込めそうな大きな箱が吊るしてありました。

 若旦那様がサラマンダーの鍛冶師たちに注文した趣味の細工道具一式です。注文した道具は数があっても一つ一つは小さいのですが、火を扱うための炉も注文したので嵩張るようです。

 

「確認は後ほどさせていただきます。ミラ、そのままアトリエに運んでおいてくれ」

「私が運ぶっす!」

 

 いつなんどきも若旦那様の三歩後ろを歩いていたいミラが「かしこまりました」と返事をするより早く、ルプスレギナが手を上げました。

 若旦那様としては、運んでくれるのが誰であろうと構いません。ルプスレギナに運んでもらうことにしました。

 

 若旦那様にとっては趣味の道具ですが、ルプスレギナにとっては結婚指輪への道そのものです。譲れません。

 如何にも重そうで実際すごい重い箱を、ルプスレギナはひょいっと持ち上げました。ルプスレギナは力持ちなのです。ソリュシャンでも可能でしょう。プレアデスの姉妹なら全員、と言いたいところですが、ちっちゃくて可愛いエンちゃんだけはお友達を召喚しないと難しいかも知れません。重量は100キロや200キロでは効かないのですから。

 

「それともう一つ。以前、マーレ様にお願いした件はどうなったのでしょうか? 本日はそのためにお越しくださったのだと思っておりました」

「あっ!」

 

 マーレ君はしまったと言わんばかりに両手で口を押えて、上を向きました。青空が見えました。

 

「ちょっとドラゴンの方を向いてください」

 

 若旦那様は言われた通りに振り向きます。おっきなドラゴンが行儀正しく座っています。

 

「降りてきてくださーい!」

「で、で、ですが!?」

 

 頭上から声が聞こえます。女性の声のようです。

 ドラゴンは座っていても見上げるくらいに大きいので、若旦那様たちからは背中の上が全く見えません。

 

「……降りて来てくれないと困るんですけど?」

「!!」

 

 マーレ君の声がちょっぴり低くなると、ドラゴンの背中の上から激しく動揺した気配が伝わってきます。

 

「あっ」

 

 呆けた声は若旦那様です。

 ドラゴンの上から、先ほどのマーレ君のように誰かが飛び降りてきました。

 

「ギャーーー!」

 

 しかし着地失敗!

 足から着地したことだけは良かったのですが、着地時の衝撃で足首が変な方に曲がり、バランスを崩して前方に倒れとっさに手を突き出したものの手首も変な方に曲がり、転倒を堪えきれずに顔面を地面に叩きつけてしまいました。

 

「うぅ、ぐぎぃ…………!」

「えぇ…………」

 

 若旦那様は変な声が出ました。

 

 とりあえず回復させようと思いましたが、ルプスレギナは荷運び中。ソリュシャンが残っていたので、ルプスレギナに回復させたら適当な部屋で待たせておくよう言付けます。

 気を取り直して、改めてマーレ君に今日の予定を尋ねました。

 

「夜ご飯までには帰りますけど、それまではこっちにいてもいいですか?」

「もちろんですとも! 昼食はお済みでしょうか?」

「まだです。たまには違うところでご飯にしようかなって。前にお兄ちゃんがツリーハウスで食べたご飯が美味しかったって言ってたし」

「そのことですか。マーレ様と初めて食事を共にした時の事ですね。よく覚えております」

 

 若旦那様が初めてナザリックを訪問、もといシャルティア様に拉致られ、ナザリック第六階層のツリーハウスでマーレ君と一緒にご飯を食べた時の事です。マーレ君にとってはいつものご飯でしたが、若旦那様は絶賛しました。その際、「マーレ様も様々な経験をすると日々の食事がどれほど素晴らしいかわかるようになります」と言っていました。

 マーレ君は古い言葉を覚えていてくれたのです。若旦那様はちょっと感激しました。

 とは言え、ツリーハウスの食事の素晴らしさを知るために、マーレ君に美味しくないものを食べさせるのは言語道断です。とっても美味しいものを食べてもらわなければなりません。

 答えは一つです。

 

「マーレ様のお好みはアウラ様に近いと考えてよろしいでしょうか?」

「お姉ちゃんが好きなのは大体僕も好きですよ」

 

 双子だからというよりも、まだまだ幼いお子様舌だからでしょうか。マーレ君も甘いものが好きなようです。

 

「ミラ、厨房に行ってAセットとピクニックセットを持ってきてくれ。すぐに出るから急げ」

「はっ、かしこまりました!」

 

 AセットのAとは、アウラ様のAです。

 ミラが戻る前に、もう一度ソリュシャンに言付けます。アウラちゃんに献上予定の地図をマーレ君に持って行ってもらうので、その用意です。それと、帝国の一次情報を清書した資料がようやく完成し、若旦那様の最終確認を終えたので、こちらはエ・ランテルにあるアインズ様のお城に持っていくよう頼んでおきます。

 

 

 

 この日の午後になりますが、帝国マル秘情報をお届けされたアインズ様は「なにこれぇ」と困惑しました。

 机の上の紙束は、背が高いアインズ様の頭より高く積まれたのです。それが二つも。

 ちらっちらっと紙面を流し見たアインズ様はそれ以上手をつけず、デミウルゴスに任せることにしました。これをよこした男には、内容を百分の一に、いや千分の一に要約したものを寄越すよう命じることにします。

 なお、資料を渡されたデミウルゴスは、アインズ様が帝国の情報をこれほどまでに深く広く調べ上げたことに尊敬の念を増々深めるのは当然の事でした。帝国は完全に掌の中です。

 

 

 

 若旦那様はマーレ君を肩車したまま屋敷の端っこにある天幕まで歩きます。

 

「ケムキチ、出てこい。散歩に行くぞ」

「はいただいまー!!」

 

 毛皮製の天幕から出てきたのはビーストマンのケムキチです。

 外が騒がしいのでひょいと覗いてみたらドラゴン襲来。顎が外れるほど驚いて、逃げようとしましたが逃げ場などどこにもなく、下手に逃げようものなら若旦那様に躾けられてしまいます。出来るのは天幕の中で蹲って丸くなるだけでした。

 そこで勇気を発揮してドラゴンに立ち向かっておやつになっていたら楽になれたかもしれませんが、怖いものは怖いのです。

 

「これってビーストマンですよね? お兄ちゃんが飼ってるの?」

「ええ、この前捕まえたのを飼うことにしました」

 

 若旦那様がアインズ様にビーストマンの毛皮を献上するのはもう少し先の事です。毛皮加工の手順はちゃんと確立しているのですが数が多く、時間が掛かるのです。現在は屋敷の裏手で陰干しています。

 

 ケムキチはドラゴンの襲来にガクブルで、若旦那様に呼び出されたことでまたもあの恐ろしい特別訓練が始まるのかと思いましたが、それは昨日までです。これからはアルベド様が滞在するのですから、アルベド様を悪く言う訓練が出来るわけがありません。訓練は一昨日が最後です。

 そのことを、ソリュシャンもルプスレギナもミラも、誰も若旦那様とケムキチに伝えていませんでした。報告連絡相談のほうれんそうがなっていません。お屋敷の責任者である若旦那様が色々と雑なので、うつってしまったのでしょう。

 

「ご主人様、持って参りました!」

「ご苦労様。それを持ってついてきてくれ」

「はっ!」

 

 マーレ君を肩車した若旦那様を先頭に、バスケットを持ったミラと、丈夫な手袋をしたケムキチでエ・ランテルの散策に出発進行です。

 

 

 

 

 

 

 一行の中ではビーストマンであるケムキチが一番体が大きく強そうに見えますが、実際は一番弱いです。

 一番小っちゃくて可愛いマーレ君が最強だったりします。それどころかナザリックにおいて階層守護者の序列二位だったりします。広範囲殲滅最強とまで言われています。滅茶苦茶強いのです。

 ナザリックの外にはあまり興味がないマーレ君ですが、エ・ランテルはアインズ様が魔導国の首都にしたこともあって、少しくらいは関心があります。

 それと、エ・ランテル近郊にある魔導国冒険者御用達初心者研修用ダンジョンの管理運営はマーレ君のお仕事だったりしますので、エ・ランテルの冒険者ギルドとは割と関りがあったりします。エ・ランテルでも知る人ぞ知るのがマーレ君なのです。

 

 若旦那様は冒険者ギルドには用がありません。目的はお昼ご飯の確保。目的地はウィットニーさんのパン屋さんです。

 ティアとティナの仕上がりはウィットニーさんをそこそこ満足させているようで、時々パン屋の営業をしてくれるようになったのです。先日、竜王国にピクニックに行った時もそうです。

 ウィットニーさんのパン屋さんは果たして、大盛況でした。

 お嬢様でお姫様のソフィーの舌を満足させ、ナザリックのレストランで出しても問題がない極上のパンをお求めやすい価格で売っているのですから、人気になるのも当然です。これでは店の中に入るのも一苦労です。

 ですが、そこはエ・ランテルで知られている若旦那様。ビーストマンのケムキチに驚いて身を引いてしまう者もいます。怯えさせるなと若旦那様が軽く一瞥すれば、意を酌んだミラが軽く小突きます。軽くとは言ってもミラですので、当たり所が良ければ昏倒するくらいの弱さです。ミラは、ケムキチが若旦那様に攻撃を仕掛けたことを未だに許していません。絶対に許しません。永劫に許しません。隙あらば蹴飛ばします。

 ケムキチとしてはいっそ楽にして欲しいのですが、若旦那様にそのつもりはありませんでした。最低でも、毛皮が生え変わる冬と夏をそれぞれ二度以上過ごさせて経過を見る予定でいます。

 

 ケムキチの未来が暗澹としているのはどうでもよい事です。

 パン屋の中では肩車をするわけにはいかずにマーレ君を降ろし、あれやこれやと売り子をしているティアに注文します。

 ウィットニーさんがパン屋をしている時、ティアとティナは修業を受けられないので、パン屋のお手伝いをするようです。どういうわけかウィットニーさんは売り子を雇いたがらないので、二人が手伝わなければ店が回らないのです。

 世界広しと言えども、アダマンタイト冒険者に売り子をさせるのはウィットニーさんだけでしょう。さすがは伝説の凄腕シーフにして最高のパン屋さんであるだけはあります。

 しかしティアとティナが免許皆伝したらどうするつもりなのでしょうか。メイド村のメイド族みたいな都合の良い種族がいればよいのですが、残念ながら未発見です。

 

 美味しいパンを確保したら散策続行。次に目指すのは黄金の輝き亭です。

 

 色々やって爆破解体した黄金の輝き亭は、現在、解体作業がほぼ完了したところです。これもアインズ様が貸し出したデスナイトたちが昼夜問わずに働き続けたおかげです。

 一等地なのに広い空間が開けているのは何ともアンバランスな可笑しさがある光景です。マーレ君もちょっと物珍し気にきょろきょろします。

 現場で作業している偉い人に許可を取り、座り心地が良さそうな廃材の一個をケムキチに運ばせて、と思ったら重くて持ち上がらないようで、ミラに運ばせます。

 ケムキチは乾いた声で笑いました。ビーストマンブレイバーの誇りとか矜持とか意地とかはもう全部どこかに行ってます。あの時気合が入っていたのは、死ぬのが確定していると思ったからなのです。死にたいとは割とよく頻繁に思っているのですが、やはり生きてる間は生きていたいのです。

 

 廃材の上にピクニックセットから出したレジャーシートを敷いて若旦那様とマーレ君は並んで座り、ウィットニーさんのパン屋さんで買ったパンを出します。

 そのまま食べても美味しいのですが、ここで光るのがAセット。Aセットの中身は、アウラちゃん好みの甘々ジャムセットです。素材はナザリック提供で、レシピ開発は何と若旦那様。料理とは手順と分量をきちんとすれば何とかなるものですから、やろうと思えば料理が出来ちゃう若旦那様なのです。

 

 ウィットニーさんのパンに甘々ジャムをたっぷり塗ったパンにかぶりついたマーレ君は、大きな目を真ん丸に見開きました。

 若旦那様から「お味は如何です?」と問われたら、真顔でぶんぶんと頭を上下に振ります。どうやら美味しかったようです。若旦那様もニッコリでした。

 

 

 

 

 

 

 そのように散策組はとても楽しく過ごしていたが、突然エ・ランテルに連れられ一人残された女は地獄だった。

 

「なんすかこの女?」

「まさかお兄様がまた新しい女を……、なわけないわね。こんなのを相手にするとは思えないわ。お兄様もこれのみすぼらしさには驚かれていらっしゃったようだし」

「あう……その……、治療を、していただけると……」

「あ?」

「ひいっ!? ななななななんでもございません! 申し訳ございません!」

 

 マーレが連れてきた女は客室の一つに放り込まれ、二人の美女から詰め寄られていた。

 女は美女たちの怒りを和らげるべく、居住まいを正して額を床に擦り付けようとしたが、膝を曲げて座りなおすことが出来ない。両足は床に投げ出されたまま動かせそうにない。

 両膝を折って座れたにせよ、両手を床につくことが出来ない。両手首はおかしな方へ曲がったままで、指も関節とは逆方向に曲がっているものがある。

 顔は苦渋に歪み、鼻は潰れて額は擦り切れ、脂汗をたらたらと流している。酷い形相だ。それよりも、やつれ果てたが過言でない痩せ具合が目を引く。

 

 ソリュシャンは若旦那様から、この女をルプスレギナに回復させて待たせておけ、と言付かっている。ルプスレギナもソリュシャンからその通りの言葉を聞いた。

 が、すぐに回復しろとは言われていない。若旦那様が帰ってくる時までに回復させればよいのだ。

 その間折れたところはずっと痛いままだろうが、その程度で死にはしないので全く問題ない。

 

 ソリュシャンとルプスレギナは、若旦那様が新しい女を増やすことに積極的な反対はしない。

 ソリュシャンは多妻を勧めたくらいで、愛しのお兄様が満足するなら不満はあっても幸せでいられる。

 ルプスレギナは人狼であって、感性や価値観がやや野生側に触れている。変な女にかまけて自分を雑に扱うなら怒るが、そうでなければどうでもよい。

 しかし、何事にも限度はある。そして節度があって欲しいと思っているがこちらはとうに諦めた。それに男が積極的に増やしているわけではなく、ほぼ全員から迫られているのが事実である。例外は蒼薔薇の三人くらいだ。それも必要に迫られてである。

 

 新しく現れた女は、どう見ても美女には程遠い。可愛らしさもない。若くもない。見どころはない。怪我だらけなので醜女と呼ぶのは迷うが、異相であるのは確かだ。

 

 

 

(どうしてこんなことに!!)

 

 女は昨日まで真面目に仕事をしていた。

 そこへ十日ほど前に、今の仕事を引き上げエ・ランテルに向かえと命令を受けた。これまでの仕事は一端凍結するのだとか。

 仕事先で築いたコネクションなどが壊れないよう丁寧に後処理して再利用出来る形にしたのが何とか昨日の夜。

 明けた朝は恐れ多くもマーレ様とドラゴンに同乗し、今に至る。

 

 仕事が凍結された理由はわからない。

 エ・ランテルに連れてこられた理由もわからない。

 何もわからないのに、両手両足が折れた状態で美女二人から責められている。

 

 自分が一体何をした、と言いたくなったが今まで散々してきたことを思い出し救いの神はない事を確信し、はらりと涙を流した。




風邪をひく
不幸中の幸いだったのは休み直前だったこと
三日で50時間眠り何とか復帰
これというのも寒暖の差が云々、こないだまですごい暑かったのに云々

ヒルマが頑張ると多少話数が膨れますが本作は大きなストーリーを追ってるわけではなく横道は今更なので気にしない事にしました
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