「はあああぁぁぁ………………」
アインズ様はくそ馬鹿でかいため息をお吐きになりました。
「お前には心底呆れたぞ……」
頭痛が痛い幻痛すら感じています。痛みは感じないはずなのに痛い三重奏です。
「お恥ずかしい限りです」
跪いたままぽりぽりと頭を掻くのはエ・ランテルのお屋敷の若旦那様。
もしもナザリックのシモベたちがアインズ様に呆れられようものなら自裁待った無しですが、若旦那様は違います。誰彼からもかしづかれ最上級の敬意を一身に浴びるアインズ様にとっては好ましい態度です。だからと言って呆れが止むわけではありません。余りの馬鹿馬鹿しさに感情抑制が発動して欲しいなあと思うくらいです。
今朝方、アインズの元へソリュシャンからメッセージがあった。数量が限られている魔法のスクロールを用いての報告である。かつてソリュシャンからのメッセージでセバスに裏切りの可能性があることを報告されたことがあり、大いに身構えた。
もしもあの男が裏切ったのだとしたら。
デミウルゴスを感心させるほどの頭脳が敵に回れば面倒なことになるのは間違いない。ナザリックが彼の男を受け入れてから今日までの間にどれほどの災厄の種が蒔かれたことか。考えるだけで身が震える。
しかし報告の内容は全く違った。
屋敷内にて流血事件が発生。被害者は屋敷の若旦那様。ただし無傷。文書で報告するほどの事ではないと思われますが一応はお耳に入れるべきと判断した次第でございます。
大きな問題ではなさそうなので後回しにし、空いた時間でとりあえずアルベドに伝えた。生きているのなら何の問題もございません、このようなことでアインズ様のお手を煩わせてしまい大変申し訳ございません、私から厳しく伝えておきます。
アルベドにとっては大切なご飯だろうに案外ドライなんだな、やっぱり人間だからだろうか。
問題はないようでも聞いてしまった以上お優しいアインズ様は無視出来ませんでした。
何があったかちょちょっと聞く位なら大した時間はとられないだろうと魔法で屋敷に移動してみると、若旦那様はソリュシャンお嬢様に足蹴にされていました。
とりあえず流血事件について聞いてみたらかくの如し、頭痛が痛くなりました。
「メイドに手を出して返り討ちにあうとか……もうお前という奴は…………」
メイド見習いを寝室に引っ張り込み、ベッドに押し倒したら鼻を痛打され昏倒。鼻血でベッドが血の海になったとのこと。あまりにもアホすぎる。
ちなみにアインズ様が訪問されたときに足蹴にされていたのはそれとは別件であり、ソリュシャンやメイドたちの前で、おっぱいが揉みたいと呟いたとか何とか。
アインズ様は人間であった時分に魔法使いとなり、いまやお骨となって大魔法使いとなり、同時に性欲もゲットアウトしてしまったが女性の前でそんなことを言うのが不味いことくらいわかる。しかしこの男にはわからなかったらしい。
「まあ……なんだ。メイドに手を出すのはいけないがお前も若い男だからそういう欲求があるのはわかる。しかしエ・ランテルには男の欲求を発散できる場所があるだろう?」
アインズ様は冒険者モモンをしているときに、そのような場所へ連れて行かれたことがありました。もちろん何もありませんでした。
「ソリュシャン様に話したらしばかれました」
「いやお前それはダメだろう。どうしてわざわざ話すんだ?」
ソリュシャンはナザリックのシモベであり、その正体はショゴス。しかし女性である。女性の前で娼館がどうこう言うのが不味いのは大魔法使いであるアインズでもわかる。
「私一人での外出は許可が出ませんし、財布の紐を握っているのはソリュシャン様で私が自由にできるお金は銅貨一枚ありません」
「財布の紐って夫婦か! あ、いや、言葉の綾だから気にするな」
ソリュシャンは跪いたまま無言で一礼した。
「はあ………………」
アインズはまたもでかいため息を吐いた。
この男、頭はよくても、もしかしたらバカなのかも知れないと思い始めた。
しかし、アインズとて男であり、かつては人間の男であった。男の欲求には理解がある。
若い男を屋敷に閉じこめ美しいメイドたちを侍らす。けども手を出すのは許されない。欲求不満が溜まるのも無理はないだろう。
「まあ……なんだ。エ・ランテルの治安に問題はない。子供が夜道を歩いても何の心配もない。アルベドの命令なのはわかるが大の男が一人で歩いても心配することは何もない」
エ・ランテルは魔導国の所領であり、治安維持のためにデスガードなるアンデッドが警邏している。王国最高峰の冒険者チームが男の誘拐を企てても絶対に不可能。
「それにお前はタダ飯食いと言うわけでもない。セバス経由で帝国の書物を要約したものは私も目を通している。十分役立っているぞ」
「光栄です」
「それが無給というのは私の沽券に関わる。アルベドの食餌の対価がここでの生活なら、お前の働きへは私から報酬を出そう」
「アインズ様、それでしたら私から必要なお金を渡すようにいたします」
「そうか。小遣い制ってますます夫婦みたいだな……」
ソリュシャンが伏せた目をキラリと光らせたのをアインズ様は気が付きません。
「まあ……そういうことだ。これからは適度に発散してバカな事をするんじゃないぞ?」
「はっ、かしこまりました」
殊勝に返事をするも、小さな声でやったぜとガッツポーズ。
ソリュシャンの目がギラリと光り、アインズはあっちゃーと額を押さえた。
「ああ、その、なんだ。ソリュシャンよ、気持ちはわかるぞ。だがそいつはアルベドのだから…………、最後にはきちんと回復させておけ」
「かしこまりました。……お兄様、少しこちらへ」
ソリュシャンがドレスの襟を引き下ろし、豊かな乳房を露わにする。アインズ様の御前であるが、アインズ様にもソリュシャン風呂を味わって頂いたことがあり、そもそも人前で裸を晒すことに抵抗は少ない。
半裸を晒し、愛しいお兄様の手を自らの乳房に導いた。
触れた手はソリュシャンの乳房に沈み込み、腕まで飲み込み、肩まで来ると頭も消えて、上半身がソリュシャンの体と一体化したかと思えば下半身も。
男の体全てを自身の体に飲み込んで、ソリュシャンはドレスの襟を上げた。
成人男性一人を飲み込んでもソリュシャンの外見には全く変化がない。
「うふふ……、お兄様ぁ、ソリュシャンの中は如何ですか? ずっとソリュシャンの中にいてくださっても構いませんわよ?」
胸を撫でながら語りかけるソリュシャンに、アインズ様は率直にソリュシャンこえぇと思いました。
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血の海で眠るお兄様を発見し、無傷であることに胸をなで下ろし、アインズ様へご報告する前に事情を問いただした。
残念ながら何も覚えていなかった。
けども男から提案があった。
この屋敷へ外部からの侵入は不可能。間違いなく内部犯。メイドたちに寝室の扉を解錠(物理)は不可能。ナザリックに属する何者かに限られ、二者に絞られる。どのような事情があったのかわかりかねるが無傷であるため大事にしたくない。
しかしながらもしもシャルティア様であれば出血量が多すぎる。シャルティア様ならこぼさず飲んでいると思われた。となればアルベド様しか考えられない。良い夢を見たような気がするが全く覚えていない。何かご機嫌を損ねることでもしてしまったのか。だとするとわざわざ回復させるのが少々疑問。との推理は話さなかった。
ソリュシャンは全てをお話しすべきと主張したが再度の提案。
デミウルゴス様も小さな失敗を幾つもしているはず。失敗が言い過ぎであれば計画の修正。それら全てをアインズ様に報告して判断を仰いでいるだろうか。いいや、アインズ様のお手を煩わせることなく、自らの判断で軌道を修正しているはず。デミウルゴス様にはその能力がある。自らの裁量と責任でもって行動しているのは間違いない。だと言うのになんの損失もない小さな事柄でアインズ様の判断を仰ぐのは責任の放棄にほかならない。もしもソリュシャン様が本件を丸めて報告することに重みを感じるとすれば、それは責任の重さである。重みを背負うのが嫌だからアインズ様に背負わせようと言うのか。
ソリュシャンはかつてセバス様の裏切りの可能性をアインズ様に報告したことがある。
今もって報告したことは正しいことだと思うし、デミウルゴス様の知謀により結果としてアインズ様が大きな果実を得られたのは間違いない。しかし、お手を煩わせてしまったとも思う。男の言葉通り、ナザリックに弓引くような大それた問題ではないのは確か。しかしながら男が傷ついたことを面白くないと思う気持ちは伝わらなかった様子。
結局、男の提案通りに大した問題ではないとご報告した。
結果、アインズ様がいらしたのは思いも寄らないことだった。
そこでまさかお兄様が娼館通いの許可をもぎ取ろうとは想定外。
もしかしたら、そこまで読み切った上で泥を被ったのではないか。
アインズ様のお言葉で素晴らしいアイデアを閃いたが割と頭に来た。
▼
「うう……、ヒドい目にあった」
「お兄様がおかしなことを言うからいけないんです」
たっぷり半日はソリュシャンの中で溶かされ、ようやっと吐き出されたときは頭と胴体しかなかった。
そんな様でも治癒のスクロールを使用すれば元通り。
もしかして回復さえさせれば定期的に溶かしてしまっても問題ないのでは。
「おかしなこと考えてるね。そんなことになったら配置換えしてもらうから」
「……私はこの屋敷の女主人として留まっているのよ? 代えようがないわ」
「俺が違うところにいけばいい。エ・ランテルでアインズ様の館に勤めるよう願えば」
「無断で溶かしたりしませんからそんなこと仰らないで」
「許可があれば溶かすのね……」
半死半生の目に遭わされたと言うのにソリュシャンと交わす言葉に気負いはない。
そうでなければ壁の染みにされかけたシャルティア相手に、この淫乱吸血鬼めもっと蹴って欲しいのか、とかやれるはずがない。
色々と無神経な男だった。
今日はみるくを味わってないけども、半日もお兄様のお肉をトロトロ味わったおかげでソリュシャンお嬢様はご機嫌です。
けどもご機嫌でない者もいます。
神経が無いのか死んでるのか、何を考えてるかわからないようで何も考えてない若旦那様ではありません。
アインズ様がいらした時、人払いをして屋敷のメイドたちは一人も同席していませんでした。しかしナザリックのシモベなら同席させることに何の問題もありません。
静かに佇み、流血事件の顛末を聞いていたメイド教官がいました。
▼
少々よろしいでしょうか、と連れ込まれたのはいつもと同じで客間の一つ。一度も使われたことがない客間であっても掃除や調度品の手入れは完璧である。
「なにかな? シクススも聞いてたとおりアインズ様から花遊びのお許しが出た。今までみたいなことはしてもらわなくても大丈夫だよ」
「………………」
シクススは答えない。
代わりにドアを施錠して窓にはカーテンを二重に閉める。
外はもう薄暗い。全ての部屋に備えられている魔法の灯りをともす。
「……なにかな?」
シクススは無言無表情で男へ詰め寄った。
たちまち壁へ追い詰められる。
「……私がいるのに……」
「?」
「私がいるのにどうしてメイドの子たちへ手を出したりしたんですか!?」
「!」
美しい顔を赤い怒りが彩った。
シクススは知らないのだ。
男がメイドに手を出して返り討ちにあったというのは、男とソリュシャンで作り上げたストーリーである。それというのもアインズ様へ余計な面倒をお掛けしないため、アルベド様を庇うため。
しかしシクススは知らない。
知らなければ、若旦那様がメイドに手を出したのが真実となる。
今までいっぱいおちんちんをしゅっしゅしたりぺろぺろごっくんしてあげてたのに、若旦那様はメイドへ手を出した。
ベッドに引きずり込んだ。
エッチなことをしようとした。
私がいるのに。手でしてあげたのに、お口で咥えて飲んであげたのに、キスまでされちゃったのに、お尻を触られておっぱいまで揉ませてあげたのに。
だと言うのにメイドへ手を出した。
これは、裏切りだ。
「わっ……わたしに、あんなに……、色々させたのにぃ……」
ソリュシャン様ならいい。プレアデスのお一人でありとても美しい方だ。
しかし人間のメイドへ手を出すのは訳が違う。それでは自分が人間たちより劣っているようではないか。
あまつさえ娼館へ行けることを喜んでいる。
悔しくてたまらない。
「……私の何がダメなんですか?」
目元を拭わず正面から訴えた。
訴えられた男は困った顔をした。
ダメも何も、メイドに手を出したというのは偽装である。娼館へ行くのは男の欲望的なものではなく、様々な女性を知って経験を詰みアルベド様にお喜びいただくための修行である。
正直に理由を話すことはやぶさかではないのだが、今日だけで何度も無神経やらデリカシーがないやらと、アインズ様とソリュシャンから散々叱られた。言っては不味いような気がした。
男の無言にシクススはダメな理由を確信した。
男からは言えないことに、シクススは心当たりがある。
「………………わかりました」
濡れた頬と目元をハンカチで拭い、男の手を引く。
靴を脱ぎ、ベッドに上がった。
「いつかこんな日が来るかなって思ってたんです」
男の手を強く引く。
シクススを潰さないよう男はベッドへ手を突いた。手と手の間にシクススの顔がある。目元がほんのり赤く、頬もほんのり赤い。
「今日は…………」
顔を見ながらでは恥ずかしく、シクススは男の頭を抱いた。
ふっくらとした唇を男の耳へ寄せ、小さな声で囁く。
「今日は……私のおまんこを使ってください」