※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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氷穴からのさるべーじ

 魔導国が建国し、それなりに時間が経っている。当初はアルベドがとても大変だった内政も随分と余裕が出来てきた。

 勿論、大変だったのはアインズもである。

 アインズは好奇心を抑えきれず、周囲の制止を押し切って冒険者のモモンとして活動を始めてしまったため、一人二役を熟さなければならなかった。絶対君主になったのに、平社員だった時よりも忙しくなったくらいである。アンデッドの体になっていなければ、間違いなく心身が持たなかっただろう。

 が、やはり限度はあった。

 アインズがどんなに頑張っても一日の長さは変わらない。忖度し続ける悪魔と違って、アインズの一日は30時間ではなく24時間であったのだ。どうしても犠牲になるものがあった。

 

 犠牲が言い過ぎであれば、優先順位の低さにより後回しにしてきたことと言うべきか。後回しに出来るだけあって、放置しても問題はない。現にそんな事があった事を、アインズすっかり忘れていた。

 放置していたあれやこれやは、アインズが忙しくなり始めた頃に集中している。具体的には、アインズが扮する漆黒の英雄モモンの名が広まり始めた頃だ。あの時は立て続けに様々な事が起こり、アインズは心身ともにとても大変だった。アンデッドの体でなければ心か体のどちらか、あるいは両方を損なっていたのは間違いない。

 大きな事が起こってしまったので、ついつい忘れてしまっていたとも言う。

 

 その点、今はとても余裕があった。

 デミウルゴスは本人の熱意が溢れているので仕方がないとしても、アルベドが他のシモベたちと同じように週休一日を満喫出来るくらいの余裕ができた。

 ナザリックで忙しいランキング上位常連のアルベドに余裕ができたのだから、アインズだって余裕がある。アインズの影武者を勤めるパンドラズ・アクターにも余裕がある。あいつは余裕過ぎて毎晩ナザリックに戻ってマジックアイテムに頬擦りしていた罪があったが、たまになら笑って許せるくらいに全ては順調である。

 パンドラズ・アクターの功罪はさておき、時間的余裕を手に入れたアインズは、後回しにして忘れていたものをこの機に片付けようと考えた。

 

 

 

 

 

 

 甘い香りが漂っている。

 仄かな芳しさには清涼感があり、野に咲く花々が優しい夜風に身を任せているかのようだ。

 

「さすがはアインズ様ですわん。見事なお手前でございました。ですがアインズ様にこうも見事なお手前を披露されますと、私の存在意義がなくなってしまいますわん、よよよ……」

 

 視界が霞んでいる。大柄な何かが身を捩っているように見えるが、それが何かまではわからない。代わりに耳はしっかり仕事をしているようだ。すぐそこで話す声は、口調に反し男のものに聞こえた。

 

「仕事をとってすまんな。効率的な記憶操作を試したかったのだ。だが……ふむ。処分せずにとっておいて良かった。こんなところに情報源があったとは」

 

 聞き覚えがある声。これは誰の声なのか、胃の腑が焼けてくる。

 

「法国出身と聞いてもしやと思ったが、やはり家族の仲は悪いのか」

「たったのそれだけで家族関係すら把握してしまうアインズ様の叡智は私如きには到底はかり知れません! ああ、アインズ様! そんなに素敵でいらっしゃって一体わたしをどうするおつもりなのかしらん!」

「……どうもせん。それよりもまだ目覚めないのか?」

「いいえ、とっくに目覚めているようですねん。もう、寝たふりなんかしちゃってなんて悪い子なのかしらん。アインズ様をお待たせしちゃいけないわよん?」

「待て待て。折角無傷で全てを終えたのだ。最後まで貫こうではないか」

「初志貫徹を徹底なさるなんてさすがはアインズ様でございますわん。この子ったら秘薬の効果で朦朧としているようでございますからん、トーチャーに回復させてはいかがかしらん?」

「そうだな」

 

 倦怠感が消え去った。

 まだ目は開かない。その前に状況把握。

 空気の流れと冷たさから、屋内であるとわかる。広さまではわからない。確実に閉じた部屋。目の前にあれとでかいのと他に複数。

 体の重さが消え力が戻る。気付かれないように、軽く握ったままの拳に力を入れる。手首に違和感。拘束されている。

 腕は吊るされても足は床についている。爪先に力を入れ、蹴り上げようと思ったが届く距離ではなさそうだ。

 諦めて目を開いた。事前の覚悟で、無様な声を上げずに済んだ。

 

「あーらら、死んだと思ったけど生き返された?」

「その通りだ。自分に何が起こったか把握しているようだな」

 

 あれが答える。

 死ぬ直前に見せられた兜の内側。

 皮も肉もない頭蓋骨が喋っている。

 

「お嬢ちゃん? アインズ様にそんな態度はいけないわよん? わたしが色々教えてあげようかしらん」

 

 こっちは青ざめた蛸を乗せた水死体。アンデッドでなければ悪魔だろう。

 

「ふーん? 私ったらこれから色々教え込まれちゃうんだ。しかもこんなところに連れ込まれて。モモン様にこんな趣味があるなんて知らなかったなー」

 

 表情がない骨の顔は動じない。代わりに周りが色めきだった。

 早速色々教えられるのかとわが身の不幸を嘲笑う。挑発しようが従順でいようが、これから起こることに変わりはない。だったら好きなようにさせてもらうまで。

 しかし、あれが右手を上げると、周りが沈黙する。

 どう見ても超一級品のローブを着ている事から、あれが頭だと思っていたらその通りであるようだ。

 

「威勢がいいのは結構な事だ。万全に回復したようだな。だが、軽口を叩くなら時と場合を選ぶべきだな。今この場ではお勧めしないぞ? 予定を変更してニューロリストに任せることになる」

「そんなこと言ってー。そっちのタコさんにチョメチョメさせちゃうんじゃないの? 油断させる作戦だとしたらちょっとありきたりだねー」

「そっちを選びたいならそうさせてやろう」

 

 あれが尖った顎を傍らへしゃくった。

 ざっと周囲を見渡せば、壁には得体のしれない器具が幾つもぶら下がっている。

 

(どれを使われちゃうのかなー、でも簡単には音を上げないからねー。うわお、あれとかすごっ。うわー……。あー…………。……クソクソ、クソがあっ! …………あれ?)

 

 しかし、タコはどれも手に取らず、両手を吊るす手枷を外した。

 思いがけずに拘束を解かれ、反撃も逃走も選べない。ずっと手枷をされていた手首は思ったほど傷んでいない。擦り傷もない。少々赤くなっている程度で痣も残りそうにない。

 まさかこのまま自由にするわけがない。

 死ぬ前の自分は、あれと致命的に敵対したのだ。あれがアンデッドでさえなければ、確実に命を奪っていたはず。

 疑問が尽きない。

 どうして自由に、とか、何をさせるつもりなのか、とかではない。もっと別の根本的なもの。

 

 あれが異様に大きいのだ。顔を見るには、首が痛くなるほど上を向かなければならなかった。

 あれは確かに大柄な戦士の姿をしていた。しかし、見上げるほど大きかったわけではないはず。これではまるでオーガのアンデッドだ。

 でかいアンデッドは幾つもいるが、人型で肉がない骨の姿をして、ここまで大きかったものはいない。新たに発生した新種なのだろうか。

 

「そう警戒するな。取って食うわけではない。一応言っておくと、取って食いたい奴は幾らでもいる」

「……私って美味しそう?」

「知らん。食うなとは言ってあるが、目に余るようだと考えが変わるかも知れんな」

「…………気を付けるね」

 

 判断がつきかねた。

 生存の可能性があるなら全力で媚を売るのも吝かではない。それが通じるか否かが問題だ。

 少なくとも、今すぐこの場でどうにかされることはなさそうだった。

 

「暇をしている者がいてな。そいつにお前の教育を任せようと考えている。本来ならお前程度の者はいてもいなくても構わんのだが……、まあ退屈しのぎというやつだ」

「わざわざそんな事してなくても助けてくれるなら何でもしちゃうよ? とりあえず靴でも舐めよっか?」

「ははは、それはいいな。だが、私はお前がどんな人間だったかよーっく覚えているぞ? 残念だがそう簡単に信用するわけにはいかん」

「チッ……、忠誠心テストでもするつもり?」

「無論、目安はある。言っておくが教えるつもりはない。それではテストの答えを教えるのも同然だからな」

「それじゃ私は何をすればいいの?」

 

 悪態をつきたくなるが、我慢する。

 どんな教育をされてどんなテストをされようとも、ここから逃げ出せれば勝ちだ。拷問に耐えに耐え、あちらが飽きるまでチョメチョメされるのに比べたら天国と地獄の差。

 当分は大人しく従順になった振りをして、どこかの暇人の相手をしながら待ち続ける。自由になる機会は絶対にある。なくても作る。絶対に自由になる。

 

「何をさせるかはあいつ次第だ。それと言い忘れたが、お前の戦闘能力は中々だった。自分ではそれなりに出来ていたつもりだったが……、力任せだけでは駄目だな。あれは良い学びになった。尤も、今の私が相手ならわからんがな」

「……それはどーも」

「そんなお前をそのままにさせておくわけにはいかん。戦闘能力は封じさせてもらった」

「は?」

 

 得体の知れない場所で拘束されているのだから、武装は何一つない。愛用のスティレットは返して欲しいものだが、言ったところで無駄だろう。それを指して戦闘能力と言われたと思ったのだが、違ったらしい。

 

 タコさんが大きな鏡を持ってきた。

 正面に置かれた。

 どうやら自分が映っている。

 鏡に映る像は、どうやら自分の動きに合わせて腕を上げ下げする。

 頬を抓ってみた。痛い。鏡の中の自分も頬を抓っている。間抜け面に涙が出そうだ。出そうだではなく、本当に出てきた。

 

「と、いうわけだ」

 

 モモンなのかアインズなのか、あれが言う。どうやら巨体なアンデッドではないようだ。

 

 鏡を見て、あれを見上げて、自分の体を見下ろす。

 体が勝手に震え始めた。

 

「はああああぁぁぁああ!?!??! なっっっっっっ…………なんじゃこりゃああぁああああああああああああぁぁあああああぁぁああああああーーーーーっっっ!!!!!」

 

 鐘が割れ響くような叫び声。

 演技ではない素の声は、とても甲高かった。

 

「ははははっ。その顔が見たかった。成ったと思ったら元に戻す事を考えてやろう」

 

 アインズの笑い声はとても楽しそうだった。




いつも前書きに字数表記するのは、PSPで読む際に字数多いと1ページで表示出来ないのでページ移動をしやすくするためだったのです
PCやタブレットやスマホよりPSPの方が読みやすいものでして
で、本話は4K
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