※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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本話6k強


低すぎる人間率

 その夜、クレマンティーヌは美味しい夕食を一人で食べて、清潔で広いお風呂に一人で入ることを許されて、ふかふかの大きなベッドを独占することが出来た。

 

 状況が全く分からない中で精神的な緊張を強いられた一時は中々に手強く、場当たり的な対応しか出来なかった。

 様々な肉体的欲求を最高品質で過不足なく満たされた今は、頭を回す余裕が出来た。

 短くなってしまった手足を大の字に広げて高い天井を見上げる。

 

「一体どうなっちゃうのかなー……。てかここって何なんだろ?」

 

 気が抜けて内心を口にしてしまってから、監視の可能性に気が付いた。

 苦々しく顔を歪める。シーツを頭まで被って寝たふりをした。

 

(あんのお骨様は何が目的? 思想の変遷がどうのとか言ってたけど、このクレマンティーヌ様が簡単に変わると思ってたらお笑いだね。そりゃこっちに鞍替えした方が色々お得みたいだけど。あーーーーしくったなー。あの骨がすっごいお骨様だったなんてねー。つーか魔導国って何! 私が死んでる間に勝手に国作ってんじゃねーよ!)

 

 クレマンティーヌは法国の生まれだ。色々あって国を捨て、特大の土産を持って秘密結社に合流した。土産は法国の至宝の一つで、それを使って死の螺旋を引き起こした、ところまでは良かった。

 そこでモモンが現れたのが全ての間違い。

 あそこでモモンが正体を見せて自己紹介してたら秘密結社を抜けてそっちに行っていた可能性がかなりあったはず。

 戦士としてのモモンは自分に食い下がるくらい強かったのに、実はアンデッドの魔法使いだったとは何の冗談か。おそらくは、法国の六大神に匹敵する存在。ぷれいやーである可能性が高い。ぷれいやーの存在を僅かでも知っていたら、敵対するのは愚の骨頂。

 しかしそうはならず、見事なまでに踏み台にされた。

 

 それから大分時間が経ったらしい。

 自分たちが死の都にしようと目論んでいたエ・ランテルは、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の首都になっていた。

 

(アインズ・ウール・ゴウン魔導国。で、お骨様はアインズとか呼ばれてたっけ。自分の名前を国の名前にするなんてどんだけ目立ちたがりなのかね)

 

 生き返らされ、子供の姿にされた自分が連れてこられたのは、エ・ランテルの大きなお屋敷。

 生前と云うか、前回エ・ランテルを訪れた時は、共同墓地がある外周部と市民が生活する内周部での活動が多かった。秘密結社が共同墓地を拠点にしていた関係もある。

 お屋敷が位置するのは最内周部。つまりは行政区画だ。普通の市民は用もなく近付けない。そこにあるお屋敷は、重要な場所なのだろう。

 その屋敷の責任者が重要な人物でないわけがない。

 自分が預けられるのはその人物なのだ。

 

(あいつ……絶対に人間じゃない)

 

 モモンことアインズはアンデッドだった。自分が生き返らされた場所にいたのは異形種ばかり。モモンがアンデッドと知ってパートナーをしているナーベラルも怪しい。

 連れられた屋敷でも、アルベドと言った女はまさに魔性の美貌。部分部分は人間に見えても角と翼がある。

 ならば残る男がそうだったとしても不思議はない。

 

(悪魔か何かかな? あれって絶対に魅了系の何かを発動してる。そうじゃなきゃ……)

 

 この自分が、言われるがままに初対面の男の膝上に座ってしまったのだ。抗う意思が全く湧いてこなかった。

 男の姿を思い出しただけで頬が赤らんでくる。あんな美貌がただの人間なわけがない。

 魅了系の魔法かタレントか何かを掛けられたのだろうが、何の抵抗も出来なかったのは地味にショックだった。抵抗できたとしても、アインズの隣よりそっちを選んでいただろうが。

 

 それよりもショックだったのは、生き返らされた場所でいい匂いがしていた事。爽やかな花のような匂いだった。

 あそこには色々な器具やら拘束具やらが揃っていたことから、拷問などに使われる場所だろう。臭い消しにしてはセンスがあると思ったものだ。しかし実は、あの匂いはタコさんの匂いだった。

 これから花を嗅ぐ度にタコさんを思い出してしまいそうだ。本当に真剣に止めて欲しい。拷問する場所なら悪臭むんむんでも良いだろうに。

 

(ともかく、ここがどんな場所なのか把握しないと。まずは屋敷と敷地の間取りを確かめて。それから……)

 

 一人になれた時間を利用して自由になる算段をする予定だったが、幼くなった体が休息を欲している。

 お客様用のベッドに横たわっているうちに、いつしか深い眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、お屋敷の主要な面々が朝食を取った食休み中に、若旦那様がクレマンティーヌを紹介した。アルベド様はナザリックに赴き、モモン様とナーベ様はお仕事に行った後である。

 

「アインズ様がモモン様としてお連れになった。詳しい経歴は聞かされてない。アルベド様とナーベラルは知ってるようだったが、アインズ様は口外不要と仰っていたからね。多分、聞いても教えてくれないだろう。自己紹介できるか?」

「はい。クレマンティーヌといいます。モモンさまにつれてきてもらいました。これからよろしくおねがいします」

 

 幼女クレマンティーヌはぺこりと頭を下げる。とてもお行儀が良い。

 しかし、聴衆の反応は冷めていた。

 

「ソーちゃん、知ってるっすか?」

「ナーベラルが口にしたのを聞いたような気はするのだけど……、何だったかしら?」

「ナーちゃんが? いつ頃っすか?」

「…………ダメ。思い出せないわ。覚えてないんだから大したことじゃないはずよ」

「ナーベラルはモモン様のパートナーを務めている。クレマンティーヌはモモン様が連れてきたのだから、ナーベラルが知っていても不思議じゃない」

「ふーん」

 

 ルプスレギナは、自分から聞いておきながら反応が薄い。聞いてみただけで大して興味はないようだ。

 姉より頭を使えるソリュシャンが続けて訊いた。

 

「人間のようですね?」

「はい。そうです。にんげんです」

「人間の子供を、モモン様がわざわざお連れになった? それにモモン様がアインズ様だと知っているわけですね?」

「クレマンティーヌの前で、モモン様はヘルムをお脱ぎになったよ。前から知ってたんだろうな。ああ、リファラとキャレットは仕事に戻ってくれ」

 

 二人合わせて白金のメイドは、メイド教官のお仕事をこなしながら見習いメイドたちを駆使して広いお屋敷の維持管理を担っているのだ。

 もう一人の黒いシェーダはソリュシャンの専従なのでこの場に残る。

 

「私が留意しておくことは何かございますでしょうか?」

「敷地の外に出さないようにしろ。アインズ様からのご命令だ」

「かしこまりました。警護の者たちへ周知しておきます」

 

 わきまえているミラは余計な事を訊かない。

 

「かってにでていったりしません。だいじょうぶです」

「それは良かった。皆が余計な仕事をしなくて済みそうだ」

「……それでは周知しなくてもよろしいのでしょうか?」

「余計な仕事って言うのは、外に出そうなクレマンティーヌを捕まえることだ。周知はちゃんとしておいてくれ」

「差し出がましい事を申しました! すぐに周知して参ります!」

「あっ」

 

 という間にミラは飛び出て行った。

 

「……ほんとうにだいじょうぶですよ?」

「それは良かった。俺がいつまでクレマンティーヌを預かるのか知らないが、余計な仕事が増えないのはいい事だからな」

「…………そうですね」

 

 若旦那様は健気さを見せる幼女に取り合わない。

 期待をするのと有事に備えるのは両立する。

 

 そんなに簡単にいくわけがないかと、クレマンティーヌは内心で毒づいた。

 そうして気を張らないと、変な笑いが出てきそうだった。

 

 まず、お嬢様と紹介されたソリュシャン。人間なのかと訊いてきた。人間ではないものが多いような言い方だ。本人もそうなのだろう。

 そのソリュシャンをソーちゃんと愛称で呼ぶ神官のルプスレギナ。暫定で人間ではないソリュシャンと同等のような口の利き方。

 この場にはいないナーベラルは、モモンのパートナーであるナーベの名前らしい。ナーベが偽名だとしたら安直すぎる。そのナーベは、自分がモモンと戦っていたあの夜に、スケリトル・ドラゴンを相手取っていたはず。

 スケリトル・ドラゴンは骨の竜。竜だけあって巨体で、魔法に絶対耐性を持つ。魔法詠唱者であるナーベには天敵だったはずなのに、ナーベは今日も無事でいる。スケリトル・ドラゴンを下せる魔法詠唱者が真っ当な人間なわけがない。

 そんな三者の共通点として、タイプこそ違えど三人とも絶世の美女だ。

 クレマンティーヌは、昨夜会ったアルベドを除くと三人ほどの美女を見たことがない。美貌を謳われる王国の黄金とローブルの至宝と比べてどうなのだろう。並べても見劣りするどころか、あちらが引き立て役になりそうな存在感がある。

 一人でも稀な美貌が幾人も揃っている。偶然でなければ必然だ。

 

 三人のメイドはわからない。が、人間のように見えておそらく違う。こんなに顔が似通った美女が揃うわけがない。三つ子だとしたら髪の色が違いすぎる。

 さっき部屋を飛び出た女はあからさまに吸血鬼だった。

 どれも見た目は華やかなのに、人間率が低すぎる。

 

「アインズ様は良いように育てろと仰せだった。クレマンティーヌの経歴を知る必要がないって事は知らなくていいって事だ」

 

 お嬢様と赤毛の神官が幼女を見る目は胡乱である。

 クレマンティーヌの素性を測りかね、どう扱えばいいものか思案している。

 

 誰も気付いていないが、クレマンティーヌにとってとても幸運な勘違いが起きていた。

 この場にいる者たちは、クレマンティーヌを連れてきたのがアインズであることを重要視している。人間の子供とは言え、アインズが直々に連れてきたのだ。経歴を探らないようにと念押しした上で。アインズはクレマンティーヌを重要な何かだと捉えているのだと察せられる。

 が、真逆である。アインズが直々に足を運んだのは、若旦那様に顔を見せるためだ。先日の理論武装の件で苦労を掛けた労いである。クレマンティーヌがおまけなのだ。

 アインズがクレマンティーヌの存在を思い出し、生き返らせて情報を抜いたところで、クレマンティーヌは不要となった。有効活用しようにも、モモンを手こずらせる程度の力量では用途が限られる。いてもいなくても構わない。

 そんなクレマンティーヌの力を封じた上でお屋敷に連れてきたのは、ラキュースの考えをあれだけ変えさせた男ならクレマンティーヌもどうにかなるかも知れないと考えたのもある。男が暇そうだったので暇つぶしの玩具提供の意味もある。割と大きな理由は、子供にしたクレマンティーヌの驚く顔が見たかったからだ。

 モモンと敵対していた時のクレマンティーヌは随分と小憎たらしい態度を取った。言わばささやかな意趣返しである。

 

 アインズは若旦那様を気にかけての訪問だったが、そういう心遣いがよくわからない男である。気遣いのアインズ様がわざわざ口にすることはなく、受け取る当人が理解不能である以上、重視されているのはクレマンティーヌだと判断された。

 判断したのは若旦那様自身であり、その若旦那様がそのつもりでクレマンティーヌを紹介するのだから、皆もそのように思うしかない。

 

 無論、アルベドはわかっていた。アインズが気晴らしにこの男と話すことがあるとは聞いていた話だ。クレマンティーヌの存在が重要なわけがないとわかっている。

 わかっていたのだが馬鹿な男が馬鹿な事を言ったために荒れに荒れ、その夜は夜通し乱れに乱れて貪り続け、双方が限界を迎えるまでいったところで爽やかな朝を迎えた。

 クレマンティーヌの事を脳裏から追い出したアルベドはいつも通りである。

 

「アインズ様がモモン様として連れてきたわけだが、クレマンティーヌがアインズ様の隠し子ってわけじゃない。特別に気に掛けることはないだろう」

 

 食堂の空気が凍り付いた。

 皆、ぎょっとして男を見る。得体の知れない怪物を見る目だ。

 ソリュシャンが勇気を振り絞った。

 

「あの……お兄様? まさかその事を…………。アルベド様にお話になってはいませんよね?」

「昨夜はアルベド様も同席された」

「なんてことを…………」

 

 ソリュシャンは頭を抱えた。ルプスレギナも頭を抱えた。シェーダは瞑目し、心の目で窓の向こうを眺めた。

 

「言っておくけどな。俺に話すつもりはなかったんだ。アインズ様がいいから言えと仰ったから止む無く」

 

 本人はそう言い張っても、思ったことが顔に出過ぎた時点で駄目である。

 

「すっごく聞きたくないっすけど。それ聞いてアルベド様はどうしちゃったんすか?」

「アインズ様は口外厳禁と言い渡された」

 

 口外不要であるなら、喋ったとしても注意で済む。それが口外厳禁になると、喋ったが最後重大なペナルティが発生する。

 ナザリックにて序列第一位と第二位があんな無様を晒した事を吹聴されては堪らない。当然の処置である。

 

「クレマンティーヌも昨夜の事は絶対に話さないように」

「わかってます!」

 

 クレマンティーヌの中で、アルベドは絶対に逆らってはいけない怒らせてはいけない暫定1位になった。

 あれは凄まじく物凄い迫力だった。あれは法国のアンチクショウより上かも知れない。勝つとか負けるとか逃げるとか以前に、絶対に敵対してはいけない存在だ。

 そのアルベドを、あのお骨は言葉で諫めていた。本当は凄いお骨様なのかもと改めて感じた。

 

「ああ……お兄様は本当にいつまで経ってもお兄様で……」

「げ」

 

 男が呻く。

 クレマンティーヌは釣られて男の見るものを見て、目を剥いた。

 

 痴女だ。痴女がいる。

 

 ちょっと目を離した隙に、お嬢様がドレスを全て脱ぎ捨てていた。上乳見せドレスで見せつけているように、やっぱりおっぱいが凄く大きい。

 自分の平坦な体を見下ろし、ない胸が僅かに痛んだ。

 

「待てソリュシャン! こんな所でそんな恰好になってどうするつもりだ。今日も忙しいんだぞ!」

「イソガシイ? キョウモ? お兄様が? だとしてもご安心ください。私はお兄様を支えるだけですから」

「なんだその言い方は! まさか俺が暇をしてるとでも思ってるのか?」

「実際暇してるじゃないっすか」

 

 男の正面から抱き着いたソリュシャンは、愛しい男の体を自分へ僅かに癒着させながらするりと背中に回る。

 さわさわと男が着るシャツのボタンを外し、めくりあげた。細身に見えて、しなやかに鍛え上げられた割れた腹筋が現れる。

 ルプスレギナは男の前に立ち、右手で拳を作ると大きく後ろに引く。

 

「どうかご理解ください。私は本当にこんな事をしたくないんです。でもこのままにしておいては、私たちがアルベド様からお叱りを受けてしまいます」

「ほんとーに何で言っちゃうんすかねー? 不味いってわからなかったんすか?」

「だから話すつもりはなかったって言っただろうが!」

「それでも、っすよ。ま、ちょっとくらいなら成長を認めてやってもいいっすけど、話しちゃった時点でダメダメっすよ」

「アインズ様のお言葉だったんだぞ?」

「でしたら、アインズ様だけにお聞かせすれば良かったのです。事情があるなら、アインズ様は耳打ちする無礼をお許し下さったのではないでしょうか?」

「その手があったか……!」

「なんで気付かないんすか」

 

 相変わらずデリカシーに乏しい男だった。

 発言を躊躇した事から成長が認められなくもないが、ダメなものはダメである。体に教え込まなければならない。

 ボッグハッ!

 貫通属性のルプーブロー。肘まで行った。

 

 拳は背中から出てるはずなのに、男と密着しているソリュシャンは痛がる様子を見せない。クレマンティーヌの推察通り、人間ではない事が確定した。

 

 その後、ルプスレギナが回復魔法を掛けて大穴を塞ぎ、ソリュシャンが男の衣服を直す。めくったおかけで服に穴は空いてない。

 ソリュシャンがくっついたのは、食堂に飛び散らせないためである。

 男はしみじみと言った。

 

「……朝食取ったばかりだってのに、もう一度か」

 

 朝食は体の一部と共にルプーブローで吹き飛ばされ、ソリュシャンに吸収されてしまったのだ。

 

 瀕死から復活して第一声がそれなのかと、クレマンティーヌはこいつもやっぱり人間じゃなかったと確信した。




字数短めがしばらく続くような気がします
迷走しながらあちこちにぶつかってうっすら道が見えてきたような気がしないでもないです
Cl編が何話続くかはわかりません
wって打つと予測変換でWパイズリが出てきて面喰います
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