クレマンティーヌは、子供にされたことをアインズ様につくづく感謝した。子供でいるとおにーさまが優しいのだ。
お勉強の時間はお膝に抱っこが基本。そこにお茶の時間が来ると、おにーさまが手ずからお菓子を食べさせてくれる。美人姉妹の視線をビシバシ感じる。
「チビちゃんの取り柄はちっこいことだけっすからね?」
「お兄様はとってもお優しい方なの。勘違いしないようになさい」
「もちろんちゃんとわかってます」
実力行使に出られたらひとたまりもないが、皮肉が飛んでくるだけなら大したことではない。それどころか大歓迎であった。上面では神妙な顔をしながらも、内心ではによによしている。
始めこそ新顔が優遇されてるのが気に入らないのだろうと思っていた。しかし、二人がおにーさまのお嫁さん候補と知れば真意を察せる。
簡単に言えば羨ましがられてる。こちらの優位を認め嫉妬している。嫉妬である。
絶世の美女の形容ですら不足に思える美女姉妹が嫉妬しているのだ。
物凄く気持ちいい。
法国にいた頃も漆黒聖典の座を羨まれたが、それよりも圧倒的に『あれの妹』扱いの方が多かった。絶対に越えられない壁もあった。そもそも雑魚に羨望されてもウザいだけ。
美人姉妹は雑魚どころか最上級の極上レベル。法国にこの姉妹ほどの美女は一人もいない。それどころか建国史上一人もいなかった。いたら歴史に残ってる。
そんな美女が自分を羨んで嫉妬している。一言で言って最高だった。二言で言って超きもちい。
嫉妬が心の栄養になる事を初めて知った。
ギターの練習も楽しくなってきた。単音を弾く練習と並行してコード(和音)の練習が加わった。
おにーさまが弾きたい曲はAパートとBパートに分かれており、当初は自分がBパートを担当する予定だったらしい。Bパートにコードはなく、単音を鳴らすだけだった。が、テンポが速く、右手が忙しければ左手も大変だ。
対するAパートはコードが幾つもあり、押さえるのが大変だがゆっくりだ。
総合してAパートの方が難易度が低いらしい。と云うわけで、曲に使われてるコード以外も覚えることになった。
コードはそれだけで聞ける音になる。ジャカジャカとリズムを刻んで気持ちよい。アルペジオ(分散和音)で弾いても様になる。
今までのギター練習の楽しさが10だとしたら、一気に50くらいにレベルアップした感じだ。
魔窟で処刑を待ってると思い込んでいた時に比べたら毎日がとても楽しくなってきた。
尤も、立場が立場なので自分が加われない話は幾らでもある。少々疎外感を覚えるも、下手に首を突っ込まない方が良いくらいの処世術は弁えていた。
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「ずーっと思ってたんすけど、ちょっといいっすか?」
週末の安穏とした午後に、ルプスレギナが切り出した。
ずっと思っていたのに今まで何も言わなかったのなら大したことではない、と判断した男は顔を上げるだけ。膝にはクレマンティーヌを乗せている。
ギターの練習に熱が入りだしたクレマンティーヌに一層の指導をするため、神聖語を教え始めた。
単に演奏技術だけを教えるなら口頭と実演で何とかなっても、様々な曲を弾くには譜面が必須。譜面に書かれた音階の読み方はもちろんの事、曲のタイトルや歌詞も読めた方がいい。タイトルや歌詞は神聖語で書かれている。日本語だけでなく、アルファベットもある。
文字とは絵と違って見るだけでわかるものではなく、形が意味するものを覚えなければならない。まずは表音文字の書き取りから始まった。
クレマンティーヌの書き取りノートを見たソリュシャンとルプスレギナが「あっちより上手い」と言ったのは、男には少なからずショックだった。
「毎週来させることないんじゃないっすか? 仕上がったら知らせろで十分だと思うんすけどね」
言われた男は、きょとんと目を瞬かせた。
「それを言うなら時間を掛け過ぎではないでしょうか。あの界隈の事は全く知りませんが、研修に何か月も掛けるものではないことは想像がつきます」
ソリュシャンが続く。
男はちょっとだけ眉間に皺を寄せた。
言われたことがわからないわけではない。二人の言葉が自分も知らなかった自分を指したことに、軽い驚きを覚えていた。
ヒルマの事である。
ヒルマにはクライムにあてがう女の教育をさせている。経過を週に一度の頻度で報告に来る。
しかし、娼婦の教育に何か月も掛けることはない。研修などあって一日。安い店ならその日から客を取る。これが高級店なら行儀見習いとして、しばらくは先輩の姐さんのお付きをするだろう。それはあくまで客を取れない子供の話。客を取れる体ならそこまで時間を掛けない。時間を掛けて仕込むのは、クライムを溺れさせる技を身に着けさせるためだ。
それでも週に一度の報告は多すぎる。
最近は実際に娼館に出て実地で教え始めたらしい。処女である事が望ましいため、客を取っても手や口まで。秘薬のお店は若旦那様が通っているため、トロトロの蜂蜜の方を使っているようだ。なお、蜂蜜娼館の正式名称は『琥珀の蜂蜜』である。
娼婦の仕上がり具合に詳しい者はお屋敷にいない。その道の熟練者であるヒルマに任せるのが一番だ。それなのに週に一度の報告を求めるのは合理的でない。
男は少しだけ考え、答えと思われることに思い至った。
「ふむ……。どうやら俺はクライムと再会するのが楽しみらしい。昔馴染みなんて、生きてるのは多分あいつだけだろうからな」
ラナーに囚われる前の事。
幼くして路上を我が城としていた男は、自分より年下の子供たちを使って食糧を集めた。自分の存在を悟らせず情報を撹乱させる意味が大きかったが、子供たちを使い捨てにすることはなく、安全には気を配った。自分がいた頃に脱落者は一人もいなかった。
それから十年以上が経過している。安否が明らかなのはクライムだけだ。当時餌付けしていたクライムは、いずれ食糧収集に使うつもりでいた。結局、一度も使えずに終わった。
ラナーに拾われ命を繋いだクライムは幸運だった。それ以外はどうだろう。
大の大人とて、仕事にありつけず路上で住み暮らしていれば末路が見えている。まして幼い子供たちが。
男がちょっとだけしんみりしているのに、性悪姉妹は目を見張った。
「おにーさんにそんな人間みたいな心があるなんて……」
「お兄様はそれらを探しにエ・ランテルを離れるなんて仰いませんですわよね!?」
「そんな面倒をするわけがないだろう。するんだったらとっくにやってる。それと、俺は人間だ。クレマンティーヌもそう思うだろう?」
「はい、おにーさまはちゃんと人間です!」
「よしよし、クレマンティーヌはいい子だなあ」
膝上のクレマンティーヌの頭をなでなで。
ルプスレギナの目はとっても白い。反対にソリュシャンの目には熱がある。嫉妬の目だ。
クレマンティーヌが来る前は、休憩やお茶の時間にイチャイチャべたべたが出来ていた。おっぱいも飲んでもらっていた。それが、出来ていない。
先日までは書類仕事でとても忙しかったから仕方ない。終わったら甘い日々が再びと思っていたのに、小さいのが邪魔をしている。
帝都にいた頃、ウレイリカとクーデリカの扱いから子供には甘いと思っていた。あちらは使用人だったからまだいい。こちらはアインズ様が目を掛けていらっしゃっており、お兄様が世話をすることになってしまった。
そこをどけと言ってやりたい。しかし、あんな子供に本気で嫉妬するのはプライドが許さない。震えながら睨みつけるのが精一杯だ。
とは言え、このまま現状が続くといつか耐えきれなくなるのがわかっていた。そうなってしまったらみっともなくプライドを捨てるか、実力行使に出るか。後者はアインズ様が目を掛けているので実行不可。必然的に前者になる。
そうはならないよう、ソリュシャンは手を打っていた。
自分に出来ない事なら、出来る者にさせればよいのだ。
「おにーさまの昔馴染みですか? それじゃおにーさまの妹は」
クレマンティーヌが口を挟んだ直後である。
書斎の扉が、ノックもなしにバーンと音を立てて開かれた。
お屋敷内で、書斎に入れる者は限られる。事前の許可なく入れる者は更に限られる。ノックもなしに入る事を許されるのはアルベドだけである。そこにナザリックの守護者以上の者なら加えても良い。
その中で、乱暴に扉を開けるのはシャルティアか何かしらで気分が高ぶっているアウラか。
闖入者はいずれでもなかった。黒髪をなびかせる少女は男を鋭く睨みつけた。
「お父様! その子供は何ですか! どーしてそんなの抱っこしてるんですか!!」
「一人で来たのか? 昨日は何も言ってなかったじゃないか」
「そんな事はどうでもいいんです! それよりそのちっちゃいのなんですか!」
書斎にずかずかと入り込み、声を荒げるのは黒の美少女。ソフィーだった。
夏なのに黒いドレスなのはジュネの影響か。黒でも生地が薄くて胸元が大きく開き、開き過ぎておへそまで見えてるから涼しいのだろう。外で着て欲しくないドレスである。前面の露出に対して背中はきちんと覆っているため、翼は仕舞ってあるようだ。翼に合わせているつもりなのか、角も出してない。一見するととても綺麗なだけの女の子に見える。
一見が数秒になると、長い黒髪の先端やドレスの袖や裾が不自然に揺らめいているのがわかる。揺れているのではない。陽炎のように見えたり見えなかったりしている。
異形の部分を見せていないのに真っ当な人間でない事がすぐにわかった。
「ちっちゃいのってクレマンティーヌの事か? と言うかだな。こっちに来るなら昨日言ってくれたらよかったじゃないか」
「言ったら警戒されてました。現場を押さえるためです!」
「現場」
ソフィーの言葉は男の理解を越えた。
男はクレマンティーヌが来てからもきちんと帝都のお屋敷に日参している。昨日も行ってソフィーと会った。その際にエ・ランテルに来るとは聞いてない。それが現場を押さえるためと言われても、何のことだかさっぱりわからない。
「だからそれの事です! 私だってあんまり抱っこされてないのに、どうしてそんなの抱っこしてるんですか!?」
男はクレマンティーヌの事をソフィーに話してない。わざわざ話すまでもないと思っていた。ほうれんそうが出来てない男である。
ソフィーはソリュシャンから聞いたのだ。
ソリュシャンは、お兄様が幼女を可愛がってる事が面白くなかった。それを自分から指摘してしまうのは嫉妬丸出しでみっともない。まして相手は幼女。幼女に嫉妬しているとでも思われたらとても恥ずかしい。
そこで思い付いたのがソフィーである。
ソフィーは自身の名付け親であるお兄様の事を、実の父のように慕っている。サキュバスなので美味しいお食事で餌付けされたのだろう。
そこにぽっと出の幼女が可愛がられてると聞かされたら嫉妬するのは必至。
クレマンティーヌへの牽制にソフィーを利用したのだ。
「そんな事のためにわざわざエ・ランテルまで来たのか? 昨日まで帝都にいたのに」
「昨日までじゃなくて今日のお昼までいました」
高馬力で不眠不休で飛ばせるアンデッド馬の馬車でも一昼夜掛かる帝都とエ・ランテルの距離を、ソフィーがそこそこ頑張ると一時間である。
知らせず一人エ・ランテルに急行したのは、お父様がぽっと出を可愛がってる現場を押さえて言い逃れさせないためであった。
「そんな事よりそれです! 私とそれとどっちが大事なんですか!!」
「そんなのは決まってるだろ。それは……」
猛るソフィーを目の前にして、若旦那様のお膝にいるクレマンティーヌは首をすくめながらソリュシャンをチラと見た。
おにーさまがマジックアイテムを使って毎日帝都に行ってるのは知っている。話の流れから、おにーさまが帝都にいた少女に自分の事を話したのではないと察した。
でなければ、先日帝都に行っていたらしいソリュシャンしかいない。
ずっとソリュシャンからは無視されてきた。けども実際のところは割と意識されていたようだ。何ともこそばゆい満足感が湧いてきた。
そのソリュシャンは第六感が働いた。
ソフィーをぶつけるところまでは上手く行った。このままクレマンティーヌを糾弾してくれればなおよい。しかし、問いの立て方が悪いと感じた。
お兄様との付き合いが長い。ソフィーに何と返すか予想できる。
下手な返事をしてお兄様が痛い目を見るなら後で癒してあげる。クレマンティーヌが巻き込まれるのは望むところ。けれども、ソフィーが癇癪を起して飛び火すると大変だ。
ソフィーはあれでとても強い。もしも暴れられたら、止められる者はこの場にいない。
スライムエクスパンドパンチ! グハッキャアッ。
中身スライムであるソリュシャンは、手足を自在に伸ばすことが出来る。
目にも留まらぬ速さで伸びたソリュシャンの腕は男の脇腹を打ち、そのまま服を掴んで自分のところまで引き寄せた。クレマンティーヌが椅子から転げ落ちたのはどうでもよい。
「お兄様は今何と答えようとしたのですか? いえ、仰らなくても構いません。答える前に私からの注意を聞いてください。お兄様はいつも結論だけを仰います。ですがそれだけではお兄様が本当に仰りたいことが伝わらないのです。どうしてそのような結論に達したのか、過程を説明してから結論に移ってください。順を追ってお話いただきたいんです」
「……結論だけで十分だろう?」
「ですから、その過程が必要なんです。ええと、何て言えばいいのかしら……。ソフィーは納得が欲しいんです。お兄様から正論を押し付けられたいわけではないんです。いいですか? ちゃんと結論に至った過程を説明してください」
「わかったよ」
男は打たれた脇腹をさする。手加減してくれたようで穴は空いてない。凄く痛いだけだ。ルプスレギナが痛いの痛いの飛んでいけをしてくれた。
「まず、クレマンティーヌは子供だ。見た通りの子供だ。それはわかるな?」
「子供だから何なんですか! それだったら私はお父様の子供です!」
「誤解を招くからお父様は止めろ」
ソフィーが実の娘なのは、娘本人と父と母しか知らない事である。ソフィーはアルベドが多大な代償を必要とする限定スキルを使用して創造した、と云うことになっている。
「子供と言ってもソフィーは強い。この前何てビーストマンを百匹は一人で片付けてたな。あれは綺麗に処理してくれたから助かった」
「あれくらい簡単です。百匹が百億匹になっても余裕ですよ?」
「いや百億は無理だろ。一秒で百匹片付けても三年以上掛かるぞ」
「物の例えですぅ!」
少数が相手なら理不尽に強いソフィーは、対多数は苦手である。負けることはなくても、片付けるのに時間が掛かってしまうのだ。
「……数学の演習問題をちゃんとやってるのは知ってる。後でテストするからな」
「うっ……。そ、そんな事より子供だから何ですか! 子供だから甘やかすんですか!?」
「それはあるかも知れないな」
男が真っ当とは言えないけども曲がりなりにも社会生活を営んでいた頃、周囲に置いたのは自分より年下の子供ばかりだった。その影響はとても大きく、今になっても大人より子供の方が距離が近い。
「勿論それだけじゃない。クレマンティーヌは子供だから、同じ子供でもソフィーと違ってとても弱いんだよ。弱いから守ってやらないとすぐ死ぬ。ソフィーはそんな事ないだろう? 俺はソフィーを信じてるから一人にさせておける。ソフィーが大事なのは当然だ」
アインズ様から「信じる」の使い方を習ったばかりの男である。
効果はそれなりにあったようで、プンプンしていたソフィーが沈静化してきた。頬は赤いままでも表情が和らぎ、目を泳がせた。
「ふ……、ふーん。マスターがちゃんと私を大事にしてくれるならいいです。でもこの……えっと、なんとかティーヌ?」
「クレマンティーヌ」
「クレマンティーヌがマスターのお膝に抱っこされるのは」
ソフィーは椅子に座り直したクレマンティーヌを、足元から頭のてっぺんまでじろじろと睨めつける。露骨な品定めである。品定めされる方は面白くない。もしもケムキチにされていたら足が出ていた。ソフィーが相手ならそうはいかない。
気圧されるほどの美貌だ。目の色は真っ黒なのに煌めいているのは何の不思議か。その上、ビーストマン百億匹が余裕とは尋常な強さではない。人間ではなさそうな事から、彼女もあちら側と察せられた。
突然、ソフィーはクレマンティーヌに顔を寄せ、すんすんと鼻を鳴らした。
目を吊り上げ、クレマンティーヌを指差しこう言った。
「こいつお父様とセックスしてるーーーーーーーーーっ!!!」
「「「「!?!?」」」」
ソリュシャンとルプスレギナは、直立不動のミラに黙々と給仕していたシェーダも、驚きに目を見開いた。
アルベドは挿入した逸物の履歴を知ることが出来る。ソフィーは父がセックスした女を知ることが出来る。
母娘共にとてもサキュバスらしい特技であった。
「いやそれ………………マジっすか? ソフィーちゃんが嘘言ってるとは思わないっすけど、チビちゃんじゃ無理っすよね?」
クレマンティーヌは幼女である。アウラよりちょっと大きいくらい。お胸はシュッとして腰つきはストンと来る。そんな体に男が興奮するか否か以前に性行為が可能な体ではない。
しかし、ソフィーは険しい顔のまま首を振った。
「こいつからお父様の匂いがしてるんだもん。絶対に間違いないよ!」
「チッ」
クレマンティーヌは事態の推移に狼狽え、周囲は驚愕の事実に驚愕して物も言えない。
肝心の男は、真実を見抜かれたことに舌を打った。
クレマンティーヌとすることをしたと知られるのはどうでも良い。問題なのは、出来ないことが何故出来たか知られることだ。
不思議な青いキャンディーの存在が露見すると、いつかアウラに知られるかも知れない。知られたらアウラの機嫌が悪くなるのは想像に難くない。その結果、自分にペナルティが降って来るであろうことを予想できる。叶うならば避けたい。避けなければならない。
どうやって避けるか考えてる間に、ソリュシャンが動いた。
「キャッ!? ……そっそっ、ソリュシャン、さま?」
ソリュシャンは椅子に座ったクレマンティーヌを立たせ、後ろから抱きついた。
「あっ、あの? あのっ!? あっ!? あっ、やっ、やぁぁぁああああっ!!」
可憐な悲鳴が響き渡った。
クレマンティーヌの装いはシンプルなワンピース。夏用なので裾が膝上のショート丈。ソリュシャンの手は、ワンピースの裾から内側へ入っていった。
細い太ももを這い上がり、指先がお子様パンツに触れたら容赦なく内側へ滑り込ませる。未成熟な割れ目に割って入り、小さな穴を探り当てた。
「やっ、やめぇ……、やめてったらぁああ!!」
穴に入った指はヌルヌルと伸びていく。
一番奥に辿り着いたら細くなり、更に進んだ。幼くても女の体が備える小部屋を隅から隅まで入念に探った。
「…………間違いないわ。クレマンティーヌの中にお兄様の残滓がありました」
「うぅ…………」
同性に大事なところを探られたクレマンティーヌは、べそをかきながら床に尻もちをついた。
「それともう一つ。クレマンティーヌにお兄様のおちんちんは入りません。狭くて無理です」
奥を探りながら穴を測っていた。ソリュシャンが体で覚えている大きさと比較して、不可能と断言できる。
それでも男は怯まない。胸を張って言い切った。
「無理やり突っ込んだ。凄く興奮したと言っておこう! 多少裂けたがポーションで回復した。クレマンティーヌは痛いほうが好きなんだ!」
「なにいってんのぉおおぉお!?」
男の繰り出す捨て身の特攻に、クレマンティーヌは吠えた。
痛くしたかったと言ったのは確かだ。しかし、それはそういう意味ではない。誤解を解かずにいると「チビちゃんは痛いの好きっすよね」とかやられる気がしてならない。
「おにーさま、じゃなくて若旦那様とセックスしたのは本当。でもこの体じゃなくて、大人の体に戻ってしたんです!」
「あっ、バカ!」
クレマンティーヌは本当のことを言ってしまった。男が何としても隠したかったことだ。あらかじめ注意したのに、残念ながら意識の差があったらしい。
「先に言っておくと、アインズ様のおかげです。アインズ様は厳重に管理しろって言っただけで秘密にしろとは言わなかったでしょ? もういいじゃん。皆に黙っててって言っとけば」
「くっ!」
唯一の味方が敵に回り、何故か男が包囲された。
男が口を閉ざしても、クレマンティーヌがペラペラ話す。
男はガックリと項垂れ、ジャケットのポケットからキャンディーポットを取り出した。
「これの効果だ。舐めれば一時的に大人の姿になる。絶対に他言しないように! アウラ様もこれと同じ品をアインズ様から下賜されている。俺が管理してるわけだが、クレマンティーヌも貰ったって知ったら快く思わないのはわかるだろう?」
「……アウラ様も同じものを持っていらっしゃるのですね?」
「その通り。とりあえず実演するか。クレマンティーヌ」
「はーい♪」
幼女があーんと口を開く。
男が青いキャンディーを放り入れると、一瞬で大人の姿に戻った。
「ま、こーゆーわけ。この姿の時にいっぱいセックスしてもらっちゃったのよね」
大人の姿になったのだから男に甘えようとして近付こうとしたところを、誰かに襟首を掴まれ引き倒された。
「チビちゃん、じゃなくてクレマンティーヌ? 何やろうとしてるんすか?」
「ひっ!? でもでも私はアインズ様に期待されたから子供にされて大人になるアイテムも貰ったんですよ!?」
「……ま、とりあえずいーっすよ」
「へ?」
ソフィーとクレマンティーヌを除くこの場の全員が、重要な事実に気付いた。
アウラ様のお体はまだまだ幼い。クレマンティーヌ以上に無理である。
そこに大人になれる不思議な青いキャンディーが現れた。アウラ様がキャンディーを持っている事を、若旦那様が知っている。アウラ様は若旦那様の前でキャンディーを使用して大人の体になったと思われると云うことは何があったか察するに十分すぎた。
「そうだ!」
ひとまず見逃されて安堵したクレマンティーヌと違って、ソフィーはキャンディーについて考察していた。そして、閃いてしまった。
「待て!」
書斎にアインズ様が魔法を掛けてくださっていなければ、ソフィーは壁なり床なりをすり抜けていたかも知れない。幸いにもすり抜け不可の書斎である。
ソフィーが部屋を飛び出る前に、男は少女の腕を掴むことに成功した。
「どこに行くつもりだ?」
「アインズ様のところです」
「アインズ様? 何のために?」
「そっちのティーヌがもらえたんなら私だってもらえるはずです」
「管理してるのは俺だ。どうしても使いたければ俺に言えばいい」
「チッチッチ。そうじゃないんです。お父様も、皆にもわかんなかったかなー?」
「……わからなかった。ソフィーは何がわかったんだ?」
「それは大人になれるキャンディーです。だったら子供になれるキャンディーもあるはずです。それをアインズ様におねだりに行くんです!」
「バカ!」
「バカ!? どうして私がバカなんですか! バカって言った方がバカなんですよ!」
ソフィーの推察は筋が通っていても、絶対に他言無用と言ったばかり。言われた直後に秘密を話すというのだからバカ呼ばわりも仕方ない。ソフィーはアインズ様も知ってる事と反論する。しかしアインズ様に話してしまったら相手によっては秘密を話すと云うも同然。
話し合いはしばし平行線を辿り、最終的に男が折れた。
ソリュシャンたちがソフィー側についてしまった。納得してないソフィーが後で話すかも知れないと言われたら、先に手を打った方がマシだった。
止む無く顛末書を作成し、ソリュシャンが清書する。
やったーと書類を掲げたソフィーは、窓を開けて飛び去った。
顛末書の内容はソリュシャンとルプスレギナの意見を取り入れ、クレマンティーヌが大人に戻っていたところをソフィーが壁抜けして露見してしまった、と云うことにした。
クレマンティーヌがセックスをどうのこうのは全て割愛した。その辺りの事を記してしまうと、ソリュシャンたちが寄ってたかって事実を追求したことが明るみに出てしまう。アウラ様の不興を買いかねない以上、リスクは避けるべきなのだ。保身に走ったとも言う。
「はあ……。まあ、仕方ない、か。ソリュシャンもルプーも、ミラもシェーダも絶対話さないように。クレマンティーヌもだぞ?」
諦念交じりの男の言葉に、皆は思い思いに返事をする。
「折角キャンディーを使ったんだから今日は大人用のギターを使って……、なんだ?」
「そんなのは後でいいじゃありませんか。お兄様がいらっしゃらない時もあるのですから、一人で練習することも覚えなければなりません」
男の腕に、ソリュシャンが絡みついてきた。
「それはそうだが。ここから出したら誰かに見られる」
「それなら見せてやればいいではありませんか♡」
「だからそれがダメだって……」
「ななななな!」
驚いているのはクレマンティーヌ一人だけ。
ミラは瞑目し、シェーダは深い息を吐いて、ルプスレギナは様子を見ている。
「子供の教育に悪いと配慮していましたが、子供ではないなら構いませんわよね?」
ソリュシャンのお嬢様ルックは、いつでも上乳見せのセクシードレス。襟をちょっと引っ張ればたわわな乳房がぽろんとこぼれ出る。
愛しのお兄様の手を自分の乳房に誘導しながら、自分の手はお兄様の股間に触れ、さすり始めた。三度上下したところで膨らんでくるのを感じた。
男は、ソリュシャンがクレマンティーヌの情操教育を気に掛けていたことに嘘だろと思いつつ、流れに任せた。
本当は子供ではないのだから、情操教育を気にする必要はない。さっきルプスレギナに回復魔法を掛けられたおかげで色々回復してしまった。アインズ様に提出する文書が仕上がったので、急ぎの要件は特にない。強いて言うならアルベド様の武器だが、考察する材料が不足しているので保留中。次にナザリックに赴く機会があったら、その辺りを調べてこようと考えている。
「きゃんっ♡」
ソファにソリュシャンを押し倒し、仰向けになってなお豊かな乳房に顔を埋めた。
乳肉を鷲掴みして乳首に吸い付き、空いた手で立ち並ぶ者たちへ手招きする。
「クレマンティーヌにキャンディーの効果が出てる間はドアを開けないように」
シェーダが退室する前に、ミラは施錠した。
クレマンティーヌは、冗談で言ったおにーさま淫魔説は真実ではと思わされた。
▼
「アインズさまー! これ見てください!」
「帝都からナザリックまで飛んできたのか? 何があった? それは何だ?」
ナザリック第九階層にあるアインズの執務室に、ソフィーが飛び込んできた。エ・ランテルのお屋敷とは違って、ちゃんとノックしてメイドに取り次いでもらってからの入室である。なお、ソフィーはナザリックに来る前にエ・ランテルのお城にも寄っていた。お城でセバスからアインズ様の予定を聞いてからの訪問である。
アインズはソフィーを一目するなり、その格好はどうなんだと思ったがアルベドが創造したのだから当然かと思い考えるのを止めた。
「マスターに書いてもらいました。アインズ様だけに読んで欲しいんです」
「うむ? むむむ……」
ソフィーが見せた文書は、不思議な青いキャンディーの存在が露見してしまった次第を書いた顛末書である。
丁重極まる謝罪の言葉と共に、ソフィーが一時的に子供になれるアイテムを求めている事も記してあった。
「ちっちゃいからって甘えられるのはずるいです! アインズ様はそういうアイテムをお持ちじゃないですか? もしもお持ちで、いっぱいあるんでしたらちょっとだけでいいからお借りしたいなあって思うんです」
ソフィーのおねだりに、アインズ様当番のメイドはちょっぴり目じりを上げる。
アインズの方はと云うと、仕方ないなあと思っていた。
アインズにとって、ナザリックのシモベたちは仲間が残した子供たち。我が子も同然と言える。しかし、シモベでもある。アインズを我が君と称え、我がままなんて言語道断。甘える事すらない。アインズの方が気遣って優しい言葉を掛けると感涙されてしまう。下手な事を言ったら、既に限界を越えてる忠誠心が更に限界突破しそうだ。それと同時に今でさえ過剰な自分への評価も限界突破しそうで怖い。アインズにハードルを上げる趣味はない。
その点ソフィーは、アルベドがナザリックのリソースを使わずに創造したためか、ナザリックへの帰属意識と忠誠心はしっかりと持っていながら緩いところがある。言葉を変えれば子供っぽい。子供らしい素直さを発揮して、今のように甘えてくることがあった。
そこがアインズには割りと嬉しい。
頑張ってくれてる子にはご褒美をあげたくなるもの。しかし迂闊にあげると忠誠心が(以下略)。
ソフィーに心配は要らないだろう。
アインズ的には孫娘がお小遣いをねだってるようなものである。
「あるにはある。不思議な赤いキャンディーという。但し、悪戯に使うんじゃないぞ?」
「わあああーっ! アインズ様だいすきー♡」
「こらこら、止めないか」
ソフィーはふわりと浮いてアインズの首にすがりつくと、お骨の顔にちゅっちゅとキスの雨を降らせた。
このようなスキンシップを取れることがソフィーの強みである。他のシモベ達ではとてもではないが出来そうにない。想像すら出来ない。
されてるアインズは、言葉では窘めてもお骨の顔でなければゆるゆるに緩んでいた。性欲がどこかに行ってしまったのでソフィーに女を感じるわけではなく、孫娘や子猫がじゃれついてるようで可愛いのだ。
アインズ様当番のメイドもソフィーの喜びように、仕方ないわねと苦笑で済ませた。
しかしナザリックには、ソフィーの無体を絶対に許さない女がいた。彼女は入室するなり、大きく目を見開いた。黄金の瞳は縦に裂けた。
「ソフィーーーーーーーーーーーー!!!! あなたはアインズ様に一体何をしているの!! 即刻離れて謝罪しなさい!!!!」
「お母さま!? じゃなくてアルベド様!」
アルベドである。
いずれアインズ様の正妃になると確信しているアルベドである。誰であろうとアインズ様に過剰なスキンシップを取る事をけして許さない。ましてそれをしているのが実の娘となれば何をいわんや。
「あっ、アルベド!? いやこれはだな!」
アインズは浮気の現場を妻に目撃された夫のようだ。
どうして俺が言い訳せねばならんのだと思う間もなく、ともかくアルベドを鎮静化させなければならない。隠し子がどうのと言われた時より遥かにマシだが、ほっぺにちゅうは事実である。
「アインズ様! どうかソフィーを甘やかさないようにお願い申し上げます。アインズ様のお優しさはよくよく承知の事でございますが、未だ幼いソフィーはアインズ様のお優しさを取り違えることがございましょう。……ソフィー、最終通告よ。すぐにアインズ様から離れなさい!」
ソフィーは未だアインズの首にすがりついている。
アルベドの美顔に微笑はなく、黒髪がうねり始めた。
「まだ子供なんだからそこまで厳しく言うことはないだろう?」
「いーえ、子供だからこそ厳しく躾けなければならないと愚考いたします!」
アインズがアルベドの注意を引いた瞬間である。
「隙あり!」
ソフィーはアインズが取り出したキャンディーポットの蓋を開け、取り出した一粒のキャンディーをアルベドの口めがけて放り投げた。
アルベドのお口が大きかったのか、ソフィーの狙いが良かったのか、キャンディーは見事にアルベドの口に届いた。
赤いキャンディーはとっても甘い。子供は大好きイチゴ味。
「えっ…………?」
キャンディーは一瞬で効果を発揮した。
突然視界が低くなったアルベドは、呆然と自分の手を見て、頬を抓り、体を見下ろした。ストンとしていた。震える手で恐る恐るあるべきものがあった部分に触れてみる。
何もなかった。
「きゃーーーーーーーっ!? みっ、みないでください! こんなみすぼらしいすがたをアインズ様にお見せするわけにはまいりません!!」
叫んでその場に蹲った。
アルベドは、子供の姿になってしまったのだ。
豊満な体はどこへ消えたのか。胸がストンとしていれば腰はシュッとしている。凹凸はない。アウラより小さな幼女である。着用していた白いドレスは魔法が掛かっているため、幼女になっても脱げなかったのが不幸中の幸いだった。
着てるものが同じなだけ、いつもとの差異を感じさせた。
「わーーーーっ! アルベド様かっわいいっ!」
「そっそふぃー!? こら、やめ、やめなさい!」
「えっへへ、私でも抱っこできちゃう♪」
「お、お、おろしなさいぃい!」
ソフィーの外見は十代半ばから後半に差し掛かるところ。今のアルベドは、四捨五入するならなんとか十歳。ソフィーが見た目通りの少女だとしても、脇に手を入れて持ち上げるのは何ら苦ではないサイズと重さだった。
「アインズ様! 私、皆にお裾分けしてきますね!」
「う、うむ?」
アインズが答えられない内に、ソフィーはアインズ様当番のメイドにもキャンディーを舐めさせた。ちっちゃくてかわいくなった。
アルベドは蹲ってめそめそしている。
ソフィーは執務室を飛び出て行った。
混乱が始まった。
ソフィーは第九階層を隅々まで回り、出会った者全員にキャンディーを振舞った。アインズ様から下賜されたキャンディーと聞いては、ナザリックに断る者はいない。
第九階層を制覇したソフィーは、玉座や図書館がある第十階層は選ばず無人の第八階層を飛ばし、デミウルゴスがいる第七階層へ。
「デミウルゴス様! これ見て見て! アインズ様に頂いたんです。皆にいっぱいあげたけど食べても減らないみたいだから、デミウルゴス様にもお裾分けに来ました!」
「それは羨ましいですね。私が頂いてしまってもよろしいのですか?」
「もちろんです! この前の特訓じゃデミウルゴス様のところの皆にいっぱい協力してもらいました。だから代表してデミウルゴス様が舐めてください♪」
過日の特訓で、無償で湧いてくる悪魔たちをひたすら潰していった。無論、アインズ様監修である。
「そういう事でしたら、喜んでいただきましょう」
デミウルゴスの口にも赤いキャンディーが。
「こ、これは!?」
「わっわっ!? でっ、デミウルゴス様がこんなにかわいく!?」
でみうるごす君5歳である。
ソフィーは心行くまでなでなでした。
第七階層の次は第六階層。アウラとマーレは大きなツリーハウスに住んでいる。
ツリーハウスの前では、黒い毛並みの大きな狼が丸まっていた。
「えっと、アウラ様のとこのフェンだっけ? アウラ様いる? あ、フェンもキャンディー舐める? アインズ様にもらったの」
フェンは面長の顔を自分の体に埋めたまま少しだけ目を開き、ソフィーを一瞥するとまた目を閉じてしまった。
「いらないの? それじゃまた後でね。アウラ様とマーレ様いるかなー?」
ツリーハウスの入り口で、アウラ様とマーレ様いらっしゃいますかーと元気よく声を掛けると、姿を現したのはマーレだけだった。
「ソフィーこっちに来たの? お姉ちゃんに何か用?」
「マーレ様にも会いたかったんです。アインズ様からキャンディーもらったんです。だからお裾分けに来ました!」
「えっ!? いいなぁ……」
「いいでしょー。はい、どーぞ」
「うん……、ありがと。あ……、あまくて美味しい……」
マーレ君はキャンディーを舐めてもマーレ君のままだった。
子供が舐めても姿は変わらないようだ。使用して効果を発揮させるには、実年齢ではなく肉体年齢制限があるのかも知れない。
「アウラ様はいないんですか?」
「え、えっと。お姉ちゃんはちょっと……どこに行ったのかなあ?」
「ふーん……。アウラ様にも会いたかったけどいないんなら仕方ないかなあ。残念だけど。また来ますね!」
「はーい」
ソフィーの姿が消えてしばし。
「お姉ちゃん、ソフィーいなくなったよ」
マーレの言葉で、丸まっていたフェンが立ち上がる。フェンの足元には、アウラが座っていた。
壁でも床でも何でもすり抜けるソフィーが相手だと居留守は不可能。アウラは丸まったフェンの中に隠れていたのだ。
立ち上がったアウラは、難しい顔をして頭を掻いた。
「ソフィーが嫌いなの? 悪い子じゃないと思うんだけど?」
「嫌いじゃないしいい子なのも知ってるけど。でもソフィーってこう……賑やか過ぎじゃない? そこがちょっと、ね?」
「うーん、そうかも」
「そーでしょ?」
ソフィーとシャルティアのマシンガントークに、ちょっと引いたことがあるアウラである。
この場合のちょっとは「ほんの少し」ではなく「かなり」の方のちょっとである。
ソフィーは更に進んで第五階層へ。
「コキュートスさまー! コキュートス様ってキャンディー舐めれますか? かじるのでも大丈夫ですよ?」
「ヌウ? 食ベレナクモナイ。一体ドウシタ?」
「アインズ様にもらったキャンディーをお裾分けに来ました!」
それは全ナザリックに通用する殺し文句。
「ヌオオオオ!?」
「幼虫じゃなくてそのままちっちゃくなるんですね! 不完全変態って言うんですよね? あ、じゃあじゃあコキュートス様って脱皮とかしたんですか? 抜け殻とかあったり?」
「ソンナモノハナイ! 早ク元ニ戻セ!」
「えーっと。時間が経ったら戻るみたいです」
「ナンダトオ!?」
「わわわっ!? 失礼しましたー!」
慌てて第五階層を後にしたソフィーは静かな湖畔の第四階層を飛ばしてナザリック最上層部へ。
第四階層から第三階層に移動すると、転移門をくぐって第二階層に来ることが出来る。シャルティアが住処としている屍蝋玄室はすぐそこだ。
「シャルティア様いらっしゃいますかー?」
「ここまでよくきんした!」
「遊びに来ました。シャルティア様は今日もとっても可愛くてとっても綺麗です! それでですね、実はアインズ様から」
「ちょっと待ちなんし! ソフィーを連れて行きたいところがあるんでありんす」
「えっえっ? どこですか? ゲートの魔法使うんですよね? 楽しみだな~」
「うっ……。まっ、まあ、すぐわかりんす」
シャルティアの魔法で闇色の扉が現れた。
「先に行きなんし。私は後からついていきんすから」
「はーい!」
ソフィーは元気なお返事をして、球形の扉をくぐった。
扉の向こうはには荘厳な廊下が広がっていた。さっきまでいたナザリック第九階層である。しかし、ソフィーはどこに転移したかわからない。周囲の様子よりも、真正面の圧力に絡めとられた。
「ソフィー。私が怒ってるの、わかるわよね?」
「あ、あるべど、さま……」
アルベドがたおやかな微笑を浮かべて待ち構えていた。ソフィーがあちこち冒険してる間に、キャンディーの効果が切れたらしい。
ソフィーは反射的に後ずさりしたが、下がれなかった。
「シャルティア様!?」
「アインズ様のご命令でありんす。大人しくお縄につきなんし」
「うぅ……わかりました…………」
ソフィーの冒険は終わってしまった。
▼
「謹慎一週間」
「はい……。寛大なご処断を、まことにありがとうございます。……ぐす……」
玉座の間にて、ソフィーへの罰がアインズから言い渡された。
「あなたはアインズ様のお優しさがわかってないようね。本来なら内乱罪を適用して極刑相当となるのを謹慎でお許しくださっているのよ? 死すらなまぬるいところを大した罰を与えることなく謹慎でお許しくださったの。アインズ様のお優しさに最大限の感謝を捧げなさい!」
「……はい。アインズ様のお優しさでこの身を永らえさせるお許しを頂けたことに、深く、深く感謝いたします……。ひっく……」
玉座にはアインズが座り、その右斜め前方にアルベドが立つ。玉座の周囲は階層守護者たちが並んでいる。跪くソフィーの両脇には、メイドや男性使用人たちが囲む。一番前はペストーニャだ。ソフィーからキャンディーをお裾分けされた者たちである。
誰もかれもが難しい顔をしていた。
ソフィーによってナザリックが一時混乱したのは確かだ。しかし、ソフィーに悪意はなく、アインズ様から頂いた品をお裾分けしたかっただけである。怒るに怒れない。怒っているのはアルベドだけである。
一番の年少で可愛いソフィーがぐすぐすしてるのはとても可哀そうで「怒るのはそのくらいにして」と、アインズも言ってやりたいのだがアルベドが怒っている。何を言おうとアルベドの怒りに油を注ぐだけで、誰も何も言えないでいた。言えるのは空気を読まないバカだけである。
「寛大なお言葉に感謝いたします。ソフィーを監督しきれなかった責を負い、ソフィーの謹慎期間中は私が監視いたします」
ソフィーが仕出かした事は速やかにエ・ランテルのお屋敷にも伝わり、ソフィーの直属の上司が呼び出されていた。元はと言えばこいつが悪いのだが、幸いな事にどこにも伝わっていなかった。
更に幸いな事に、ナザリックの最古図書館に用が出来たところだ。まさに渡りに船であった。
「ソフィー、もう一度アインズ様に感謝を。そして皆様に謝罪の言葉を」
「はぃ……。アインズ様、ありがとうございます。それと……、ご迷惑をお掛けしてごめんなさい!」
玉座に向かってペコリ。玉座の左右にそれぞれペコリ。右を向いて左を向いて後ろを向いてもペコリ。
「謝罪はそこまででよい。それ以上されると、ソフィーを止めなかった私も頭を下げることになりかねん」
「ああ、アインズ様! ソフィーにそのようにお優しい言葉を頂けるとは!」
感激したアルベドが跪き、守護者たちに居並ぶ使用人たちも続く。
そして合唱されるアインズ様賛歌。
ソフィーによってナザリックが一時機能不全に陥った。しかし、誰もかれもがちっちゃくてかわいくなり、アインズ様はちょっと楽しかったのは内緒である。
▼
ナザリック総幼児化事件から数日。
第六階層の円形闘技場に、複数のモンスターが放たれていた。ナザリックの外で捕らえたものがあれば、使用制限が緩いスキルで召喚したものもある。どれも極度の興奮で狂乱し、目前の小さな人影を圧し潰そうと駆け出した。
小さな人影はアウラである。
魔獣の供はなく、愛用の鞭も構えていない。手にしているのはY字形の棒である。二股に分かれた先端にはゴム紐が張ってある。スリングショットだ。水着のスリングショットではなく、武器のスリングショットである。パチンコの俗称の方がわかりやすいかも知れない。
アウラはスリングショットのゴム紐を引き、赤い球を撃ち出した。
「おお!」
闘技場の観客席から幾つかの歓声が上がる。
アウラが撃った球はモンスターたちの口の中に命中し、即座に効果を発揮した。
どれもこれもちっちゃくて可愛くなったのだ。
アウラが使用した弾は不思議な赤いキャンディーである。守護者たちにも効果を発揮するのだから、それより遥か格下のモンスターに通用しないわけがない。どうやらあらゆる耐性を無視して効果を発揮するようだ。
口の中に入れなければならないにせよ、どんな相手でも一撃で無力化してしまう。
ユグドラシル時代はイベントでしか使えなかったが、使用制限がなくなったことで最強のアイテムになってしまった!
と思えたのは短い間。
不思議な赤いキャンディーを使用したものは例外なくとても可愛く思えてしまい、どんなに頑張っても攻撃を加える気になれなかったのだ。
しかし、話し合いに持っていくための無力化や、緊急時の危険回避には有用であった。
なんだかんだとアインズは満足いく知見を得られた。
もどるはここまで
始続終余はメジャーな兄弟で、戻は字面からして妹でしょうか
もどるがエ・ランテルに戻って始まってクレマンティーヌが戻って終わるとは思いもせず
章が進むごとに話数が増えるのは何故だろう