クライムに宛てがう女が仕上がった。どうやってクライムに引き合わせるかは若旦那様の仕事である。まずはクライムの正確な所在を掴まねばならない。
話を聞かされた二人は難しい顔をした。おまけでついてきた一人はいっそ厳しい。
「で、どうしてキーノがいる?」
おまけでついてきたのはちびっ子吸血鬼のキーノ。呼び寄せた二人が連れて来たわけではないようだ。
キーノは男の問い掛けに答えない。代わりにポロポロと涙をこぼした。幼さが残る美貌をくしゃくしゃに歪め、掠れた声で叫んだ。
「ご主人は私のことなんて要らないんだ!」
ご主人は女の涙に心を揺るがす訳が無い若旦那様である。ぎょっとしているのはティアとティナに若旦那様のお付き。とうの若旦那様は首を傾げた。
「今回の依頼は人目を引かない行動が必要なんだ。キーノには不向きだろう?」
「そんなんじゃない!」
「じゃあ何だ?」
互いの掲げる主題が違うのは男にも分かった。キーノが何を掲げているかは分からない。泣くほどなのだから余程大きな事だろうとは察せる。
果たしてキーノが叫んだ言葉は、男には全くの予想外だった。
「ここに来てもご主人はぜんぜん会ってくれないじゃないかあ!!」
キーノが王国から魔導国に移ったのは吸血鬼である事を隠さなくて済む事よりも、お屋敷の若旦那様がこれからは幸せになるべきだと言ってくれたからだ。キーノの幸せには若旦那様が絶対に必要である。だと言うのに、若旦那様に会う機会を尽く潰されていた。
元蒼の薔薇のメンバーでは、ガガーランは精神を漂白された後に復活を果たしたものの過去の記憶には曖昧な部分があり、現在は美味しいお酒を飲めば幸せになれるようになっていた。エ・ランテルは若旦那様がお酒にこだわる事から様々な酒が集まるようになり、酒飲みの天国となりつつあるのもガガーランには嬉しい。
ティアとティナは大きな目的に向けて日々を送る。今日は若旦那様からの依頼以外にも、これまでの収穫をするつもりでいた。
ラキュースは言うに及ばず。次なる位階を目指して邁進中だ。
キーノだけが幸せへの道を掴めないでいた。
「キーノはエントマさんに会いに来てたんじゃないのか?」
「そんなんじゃない! エントマちゃんがいっつも邪魔するんだ!」
若旦那様だけでなく、こっそり聞いてるルプスレギナもそう思っていた。
ルプスレギナは完全不可知化の魔法で姿を隠し、書斎の隅に佇んでいる。話が気になるなら堂々と同席しても良いのだが、姿を隠して盗み聞きしてるのは悪戯心だ。
この場にルプスレギナの魔法を破れる者はいない。それなりの魔法使いであるキーノもルプスレギナの存在には全く気付いてない。
なのだけれど、おにーさんと頻繁に目が合う。一度や二度なら偶然で済ませるが、三度目は必然だ。挙げ句、目配せや身振り手振りで静かにしているよう伝えてくる。確実に気付かれている。思い返せば、おにーさんにはそんな不思議なところがあった。
帝都にいた頃、無断で拝借したディルドを使って一人遊びに励んでいたら突然声を掛けられた。秘密の事をするのだから自室のドアは確実に施錠したのに、である。その時のおにーさんはミラが駆る馬車に乗っていたはずで、おにーさんが逃げ出したと勘違いしたソリュシャンはミラを酷く責めた。
アウラ様から差し入れられた葡萄は皮を破かず中身の果肉だけを取り出した。
上位者であろうと事前の備えがなければ見破れないはずの完全不可知化の魔法を事もなく見破ったことといい、何か秘密がある。
とは言え隠しているようには思えず、必要がないから話さないのだろう。面倒に首を突っ込んでややこしい事に巻き込まれるのは御免である。そんな事よりエントマだ。
キーノが来る度にガルルグルルとやり合うエントマは、「キーノちゃんなんて大っきらい!」と言って憚らない。エントマは本当に心底キーノが嫌いなのだ。あの者に逃れ得ぬ死を、とか言ってた時に比べたら大違いである。
キーノがいなくなったところでエントマが寂しく感じる事はあり得ない。が、物足りなさは感じるかも知れない。
今のエントマは、以前よりも活き活きしている。キーノとの些細な諍いが生活にメリハリを与えているのだ。
なのだからキーノも似たようなものに思われ、お屋敷に来るのはエントマに会うためと思われていた。が、とうの本人は違うつもりでいたらしい。だとしても疑問が残る。
「そうは言うが、エントマさんと遊んだ後はすぐに帰るだろう?」
「うっ……、確かにそうなんだが……」
「俺に用があるんだったらそう言えばいいじゃないか」
「でも……だって……」
「だって? 逆説の助詞だな? 何か理由があるのか?」
キーノはエントマとの勝負に勝とうが負けようが、決着がつくと早々に帰ってしまう。それなのに若旦那様に会いに来てると言い張っても説得力がない。
本人にも自覚があるようで、わーわー零した涙が止まり、弱気な素振りで若旦那様から目を逸らす。答えるのは自身の弱さを告白するようで恥ずかしい。が、若旦那様からの追及を下手にかわそうとすると泣く羽目になるのを目の前で見た。エントマと同じ愚は犯さない。
「エントマちゃんが勝つとすごく煽ってくるのが嫌で悔しくて……」
「ふむ」
勝利を収めたエントマは『無様な負け犬のキーノちゃんは恥ずかしくないのぉ? 私だったら恥ずかしくて恥ずかしくて人前に顔を出せないなぁ』と、言葉を尽くしてキーノを煽る。涙目にされたキーノは居た堪れなくなって、逃げ出すように屋敷を後にする。
そのくらいいいじゃないかと男は思うものの、悔しさや恥ずかしさはわからないでもない。口を挟まず続きを待った。
「反対に私が勝つと、エントマちゃんはお嬢様や神官様に泣きついて、それで……。すごく居づらくなって……」
「ふむ」
勝負に負けたエントマは、えーんえーんとソリュシャンやルプスレギナに泣きつく。苛められて泣かされた女の子が保護者に泣きつくようでもある。問題となるのが、お屋敷でのソリュシャンとルプスレギナの立場だ。二人ともお屋敷において、表向きでは最上位者と言ってよい。その二人がキーノに厳しい目を向けると、自然とメイドたちの態度もきついものとなってしまう。ご主人さま方が厭う者を使用人たちが喜んで持て成せるわけがないのだ。
これについてもそれくらいいいじゃないかと思う男だが、歓迎されずに早く帰れと言葉を伴わずに伝えられたら寛げないのは理解出来る。元凶の片割れをジロリと睨んだ。
(げ)
若旦那様が何もない部屋の隅を睨むのを一同は怪訝に思うが、そこには姿を隠したルプスレギナがいる。睨まれた彼女は冷たい汗をかいた。しかし、可愛い妹が泣かされたら放っておけないのは姉の性。しかし、あれがエントマの嘘泣きとわかっている姉でもある。
「キーノの話はわかった。ソリュシャンとルプスレギナには俺から言っておこう」
「……うん!」
「キーノがエントマさんと色々あるのは知ってる。仕方ない面もあるだろう」
エントマとキーノの因縁は深い。一時はキーノの死を熱望していたエントマであり、それがゲームで勝負するほどに改善したのは誤解と偶然が織り成す奇跡である。とは言え仲良しからは程遠い。顔を合わせればいがみ合うのが常である。
「それなのに、キーノはエントマさんがいる時を選んで屋敷に来るだろう? だからエントマさんに会いに来てると思ってたんだが?」
「違う! 私はエントマちゃんがいつお屋敷にいるかなんて知らない! むしろエントマちゃんが私が来るのを待ち伏せてるんだ!」
キーノとエントマはとても仲が悪い。連絡を取り合うわけがない。なのだから、キーノはエントマがいつお屋敷に居るのか知る手段はないし、反対にエントマはキーノがいつお屋敷に来るのか知るわけがない。だと言うのに、二人はいつもかち合う。二人は運命で結ばれているので必然である、と言いたいところであるが偶然である。
エントマは外で勝手にパクパクする恐れがなくなったため、エ・ランテルに居ることが多くなった。エ・ランテルではお屋敷にいるか、お城に詰めるかのどちらかである。後者の場合、キーノが来たら誰かしらがエントマに連絡を入れる。
そもそもキーノはお屋敷に来る頻度が高くない。すごく立派なお屋敷であり、エ・ランテルでは重要な施設或いは機関であるため、気軽に足を向けにくいのだ。
「俺も二人の勝負を煽ってたからな。俺がキーノに会いたくないというのは誤解だよ。これからはエントマさんとの勝負に勝ったら部屋に招こう」
「……負けたら?」
「キーノがエントマさんに何を言われても気にならないなら堂々と会いに来ればいい」
「くっ!」
エントマのドヤ顔を見ながら屋敷に居座るのは、キーノにはとても難しいことだった。
「まずは今までの勝ち星を清算しよう。こっちにおいで」
「うん!」
若旦那様と三人は、ローテーブルを挟んで座っていた。ティアとティナの視線を横顔に受けながら、キーノはえへへと笑み崩れて立ち上がり、若旦那様の隣にちょこんと座る。二人きりではないので遠慮を発揮し、拳二つ分の距離を空けて。
「あっ!」
しかし、人目を気にしない若旦那様である。キーノの腕を取って自分の膝の上に引き倒した。キーノは若旦那様の太ももへ仰向けに倒れ、頭は柔らかなクッションで受け止められた。キーノの視界には高い天井と、穏やかな顔で見下ろす若旦那様。さっきまで隣に座っていたティアとティナに、若旦那様の後ろに控えるお付きの二人は見えなくなった。
「キーノの話はこれで片付いたな。二人に頼みたいことはさっき伝えた通りだ。王都に潜入し、クライムの行動を探って欲しい。二人に遅れて俺も王都に入る。そのあたりの細かい話はまた今度にしよう。まずは準備を進めてくれ。二人には一週間以内に王都へ入って欲しい。何か疑問はあるか?」
ティアとティナは、若旦那様の言葉にすぐ応えられなかった。二人は目を皿のように見開いて若旦那様の上に横たわるキーノを見ている。
キーノは赤くなった顔を両手で隠し、けども指の隙間から若旦那様の顔を覗き見る。キーノを乗せた若旦那様はと言うと、右手はキーノの金髪を優しく撫で、左手はキーノの脚を撫でる。右手と左手は徐々に距離を狭めている。元々レズビアンであるティアは、シャルティアから調教されて女の良さを知ってしまったティナは、キーノから目が離せない。
「ないのなら」
「ある!」
若旦那様に確認されて、二人は断腸の思いでキーノから視線を引き剥がした。千金に値するキーノの艶姿だが、目にする機会はこれからもあると信じて。
「クライムならよく知ってる」
「ラナーの使いで何度も会った」
二人の目はキーノへちらちら。男が右瞼を震わせたのは気付かない。
「戦闘訓練を見てやることもあった」
「悪い奴じゃない。出来れば殺したくない」
男はもう一度瞼を震わせた。
「どうして俺がクライムを殺す。お前らは俺を何だと思ってるんだ」
「鬼畜」
「外道」
「神の化身よ」
若旦那様の後ろに控えるミラは、はっとして隣を向いた。ラキュースが胸を張りつつも、呆れてるようでもある。どうしてそんな基本的な事がわからないのか、と。ミラは悔しそうに下唇を噛んだ。
一方のティアとティナは目を見張る。戯れではなく本気で言ってるらしいのが恐ろしい。
「化身じゃなくて下僕にしろ」
「……わかりました」
「クライムを害する予定はないよ。そうするなら俺まで王都に行く必要はないだろ」
話題の若旦那様は冗談と思ったらしい。ラキュースの言葉を軽く訂正して話を戻した。
ちなみにであるが、ミラが同席するのは若旦那様直属の部下であり護衛を担う大義名分があるため、クレマンティーヌが感じたようにいつだって若旦那様にくっついている。
ラキュースが同席するのは、同じチームにいたティアとティナに会うから、と言うわけでもない。実を言うと、誰もが羨む偉大な勝利を収めていた。
若旦那様はお屋敷に来た時から若旦那様であるが、当初はお嬢様の客人扱いだった。専属の使用人はおらず、本人も必要としなかった。
魔導国宰相閣下相談役となってからも本人の態度は変わらない。雑事はご主人様命のミラが買って出るため、やはり専属の使用人はつかなかった。適当な人員が見当たらないのも要因の一つである。
現地で雇ったメイドはどこから紐が伸びてるかわからない、と云う以前にソリュシャンが許さない。ならばナザリックの一般メイドと行きたいところだが、エ・ランテルのお屋敷ではメイド教官としての仕事がある上に、教官の役割はローテーションだった。現在はリファラとキャレットで固定したが、二人はアルベド専従である。シェーダはソリュシャンの専従だ。若旦那様の専従メイドはシクススが一番近かった。が、現在は帝都のお屋敷でメイド長。
若旦那様は偉くなってしまったので専属の使用人がいた方が良いには良いのだが、力仕事はミラ、事務仕事はソリュシャンとルプスレギナがいる。そもそも我儘を言わず手が掛からない若旦那様である。いた方がよくとも差し当たって必要がない事もありずっと席が空いていたところに現れたのがラキュースである。
ラキュースがエ・ランテルに来ることになったのはソリュシャンが発端である。一番煩いであろうソリュシャンはこの時点で何も言えない。
貴族の令嬢であったため、様々な作法が始めから備わっていた。そこに改めてシェーダから熱心に学んでいる。
若旦那様がラキュースを色々と使う事も多く、なし崩し的に専従メイドのようなものになっていた。
ラキュースは無上の喜びを甘受する日々である。
ラキュースにとっての若旦那様は、自分を更なる位階へ導くために降臨為さった上方世界の賢者なのだ。若旦那様を指して「神の化身」と呼んだのは本気も本気である。ラキュースが本気で言ってるのは、長くチームを組んでいたティアとティナにはわかった。
二人は若旦那様に色々わからされて屈服したが、そこまでは思えない。鬼畜か外道、或いは淫魔か淫獣と思っている。大体ルプスレギナと同意見である。
そんな二人は、若旦那様からとある人物の動向を探れと言われれば、良からぬ企みのためとしか思えなかった。
「クライムとは旧い仲だ。子供の頃の話だが、多分クライムも覚えているだろう。会ったら持て成すつもりだし、その準備もしてる。二人が気になるなら同席しても構わないよ」
同じ顔をした忍ばない忍者二人は同じ顔を見た。多くの情報が詰まった言葉だった。
子供の頃にクライムと知り合ったなら男は王都に暮らしていたわけであり、孤児であったクライムと近しかったなら男の身の上も似たようなものと考えられ、と至ったところで考察を打ち切った。
そこからどのような経緯を経て魔導国宰相閣下相談役になったのかは激しく気になるが、聞いてよい事ではないし重要でもない。それに下手な事を口にすると、男の後ろに控えるミラが怖い。現に、すぐに色よい返事をしない二人に厳しい視線を送ってきている。男がいなかったら手が出てくると思われた。
尤も、仮にクライムを害するためだとしても強く言われたら二人は拒否できない。それが再会を願い持て成すためと言われたら断る理由はなかった。
「ボスからの依頼はわかった」
「私たちは王国から魔導国に移ったばかり。のこのこと王国には入れない」
「姿を隠して入るなら準備がいる。一週間以内の王国入りはギリギリだと思って欲しい」
「ボスは公式訪問じゃなくてお忍び? ここは超重要」
「お忍びだよ。勿論、アルベド様のお許しは得ている。どこで何をするかも報告済みだ」
「了解した。二人で王国に入り、クライムの動向を掴んでくる」
「ボスも後から来るなら滞在場所も確保しておく」
「頼んだ。そのあたりは後で別の者を紹介する。便利に使ってくれ。それ以外に必要なものがあるなら言ってくれ。報酬とは別に用意する」
報酬の話がでたところで、二人の目が煌めいた。
「今日は前の報酬を貰いに来た」
「ラキュースも聞いてた話」
「私も?」
「何の話だ? 二人への報酬は……」
二人がラキュースをエ・ランテルに連れてきたのはソリュシャンからの依頼である。この報酬は男が先払いした。ビーストマンの毛皮収穫ピクニックのお手伝いも支払い済み。
それ以外となると、男には思い当たるものがあった。
「ボスは言い値を払うと言ってた」
「ミラもいた。覚えているはず」
「私も、ですか? ご主人様が二人にした依頼は……あ」
ラキュースはピンと来ないようであるが、ミラは思い出した。そしてどうやら、依頼を達成したと判断してもよい材料があった。
「ウィットニーさん」
「ウィットニーさんのパン屋は週の半分は開いてる」
「売り子募集中」
「いいのがいたら教えて欲しいってボスへの口利きを頼まれてる」
「パン屋の売り子はイヤじゃないけど周りの目が痛い」
「アダマンタイト冒険者がパン屋の売り子はちょっと」
二人が口にしたのは伝説の名であった。
男が二人にした依頼とは、冒険者に復帰してしまったウィットニーさんをパン屋に戻す事である。
伝説の凄腕シーフであったウィットニーさんの本業はパン屋であるが、己が培った技術を閉ざす事を良しとせず、後継者を求めて冒険者の育成に励んでいた。
そこに現れたのが現役のアダマンタイト冒険者であるティアとティナである。二人の技量はウィットニーさんの目に適い、二人を後継者と見做して持てる限りを叩き込んだ。半年の半分に満たない期間であるが二人の上達はウィットニーさんを満足させ、再びパンを焼くようになった。
しかしながら職人気質なウィットニーさんはとても厳しく、パン屋に戻ったはいいが売り子が見つからない。今は弟子であるティアとティナが臨時で売り子をしているわけだが、二人とも売り子を続けるつもりはない。ウィットニーさんも望まないだろう。
ウィットニーさんのパン屋の売り子確保は問題であるが、二人が男からの依頼を達成したのとは別の問題である。
男は二人へ件の依頼をする際に「報酬は言い値を払う」と言っていた。男自身に覚えがあるし、その場にいたミラとラキュースが証人である。男に報酬を踏み倒すつもりはない。二人の言葉に軽く、しかし承諾の意思を込めて頷いた。
「わかった。売り子の件は何とかする。二人にも言い値を払うと確かに言った。幾らだ?」
相談役殿としてのお給金以外に帝都で始めた美容品販売が順調である。ラキュースに色々試させて研究を重ね、近々エ・ランテルでも廉価品を売りに出す予定である。黄金の輝き亭の建て替え費用を出しても、二人に数千枚単位の金貨を支払う余裕があった。
「金貨は要らない」
「欲しいのは別のもの」
しかし二人は首を横に振る。
王国から魔導国に移籍してもアダマンタイト冒険者の看板は伊達ではない。エ・ランテルで目いっぱい贅沢をしてもなお余裕がある財が二人にはあった。そもそもにして、ラキュースをエ・ランテルに連れてきた報酬だけで数年は遊んで暮らせる。
元々高額報酬ばかりを請け負っていた二人は、かつてのリーダーと同じで金銭的報酬ばかりを求めない。金は既にあるのだから、達成感の方が重要だ。冒険者になる前は暗殺者であったため、かつてのリーダーと違って名誉は不要である。
そんな二人は、是非にも得たい報酬があった。
「報酬はボスの女になる事」
「具体的には定期的にセックス」
「あなた達ねえ……」
かつての仲間たちがとんでもない事を言いだした事に、ラキュースは重いため息を吐いた。しかし二人に言わせれば、お前が言うな、である。
ラキュースのスタイルが以前とは微妙に違って女らしい丸みを帯び、所作のそこかしこが何とも艶っぽいのを見逃さない二人である。ラキュースが変わった原因はすることをしているからだ。間違いない。
「それくらいなら別に構わないが……」
「んぅっ♡」
男が言葉を止めて視線を落とすと同時に、甘い鳴き声が響き渡った。
男は二人と言葉を交わす合間も時々視線を落としていた。手の隙間を広げるキーノと目線を合わせるためだ。キーノはずっと男の膝上に横たわっている。
キーノの脚を撫で頭を撫でていた両手は距離を狭め、右手は頬を撫で首筋を這い鎖骨をなぞってワンピースの襟元から内側へ。左手は太ももを撫で内側へ落ち脚の付け根にまで来たら手のひらが向きを変えて優しく揉みほぐし、時に小さな円を描く。
キーノの脚は自然と開き気味になって、右脚がソファーの上から床に落ちた。男の手がワンピースのスカート部を押し上げる上に対面のソファーと挟むテーブルは低いものだから、ティアとティナが背筋を伸ばすと男が触れている部分が見えそうで見えない。そこにキーノの押し殺した声が響くものだから、二人は男との会話に集中するため非常な努力を必要とした。
「キーノ」
「あ……うぅ……」
ワンピースの内側を這いまわっていた手が、キーノの後頭部を支えてゆっくり持ち上げる。
幼げが抜けきらない白い美貌は興奮と羞恥と快感とで紅潮し、赤い目は潤んでキラキラと輝いている。男の顔が近付き、キーノは期待と予感で恍惚と目を閉じた。
「んっ……、ふぅっ!? んーーーーーっ♡」
幼い唇を覆った。薄く開いて開かせて、舌を差し込むのは始めから。キーノの舌が感じたのは、艶めかしい柔らかさと温かさ。それに、味と匂い。
唾に味も匂いもない。唾を甘露と感じるのは特殊な性質を持つか訓練された一部である。キーノはどちらでもない。但し吸血鬼である。吸血鬼にとって至上の美味が口内へ注がれてきた。
口が幸せになるなら下半身はとろけている。湿っていたのが染み出したのはずっと前。尻はソファーにも男の膝にも触れてなかったのが良かったのか悪かったのか、いつの間にかずり下げられた。直に触れられ割れ目から汁を掻き出され、小さな穴をほぐされていたのが中で折れ曲がった。執拗に高められていたのがついに突き崩されたようで、腰が跳ねて指をきつく締め付けると、ひくひくと痙攣しながら溢れさせた。
どちらか一方だけでも忘我の縁へ誘うのに、両方となればキーノが留まれる道理はなかった。腰の震えが治まると、男の腕の中でぐったりと全身を弛緩させた。
キーノの意識は遠くへ旅立ったが体は男の膝上にある。最中に下着をずらされたのか、それともインナーの生地が薄いからなのかはわからないが、ワンピースの上からでも乳房の先端がちょこんと尖っているのが見て取れた。
「ミラ、キーノを向こうのカウチに運んでくれ。起こさないよう静かにな」
「かしこまりました」
ミラが運んだ先は窓が近い寝椅子である。ルプスレギナのすぐ傍だ。
ミラはキーノを寝椅子に寝かせると、眩しくないよう顔にハンカチを掛けてやった。隠される前にルプスレギナが見たキーノの顔は、とてもだらしなかった。
「二人の希望はわかった。俺の都合もあるからいつでもとは言えないが、月に一度くらいなら時間を作れるだろう」
二人は目を血走らせてキーノの姿を追っているのに、男は何事もなかったかのように話を戻す。そういうところが鬼畜外道と言われる所以だが、二人を驚かせたのはラキュースだ。
断腸の思いでキーノの艶姿から目を引き剥がした二人が見たものは、男が掲げる左手をハンカチで拭うラキュースだった。何をしたか知ってる左手だろうに、あのラキュースが何を言われるまでもなくハンカチで丁寧に拭っている。ラキュースは本当に色々な事をされてきたのだと悟らせる光景であった。
何をしているのか突っ込んでやりたい二人であるが、話はまだ終わってない。
「多い方が嬉しいけど月一なら可」
「勿論二でも三でもいい」
「あとはまだ前の話が残ってる」
「私とティアは別。だけど一緒に約束した」
「二人と約束? 俺がか?」
今度は男もすぐに思いつかなかった。話を知らないミラは首を捻る。ラキュースも知らない話だ。ラキュースがお屋敷に来る以前、帝都での話なのだから知らないのは当然だ。
ティアとティナは顔を見合わせ、一つ頷いてから片腕を上げた。ティアは右腕、ティナは左腕。体をやや捻り、男へ脇を見せ付ける。
それぞれを単独で見れば何のことだかわからないが、並べて見せられ、男は思い出した。
「私の脇。ボスは綺麗に脱毛してくれるって言った」
「私はシャルティア様のところで下もされてる」
「下はいいから」
ティナはつるつるである。一方のティアは細かな砂を振ったようだ。少しだけ顔を出した脇の毛である。
忍ばない忍者スタイルのティアであるが、生えかけた脇毛を見せるのは恥ずかしいらしく顔が赤らんでいる。
「私は脱毛じゃなくて脱色。ティアみたいに綺麗な色にしてくれると言った」
ティアは乳首や股間に沈着した色素を男から除かれていた。日々見せられるティナはとても羨んだ。ティナもつるつるの脇を羨まれていたのでお相子である。
男はどちらも解決すると、帝都で二人を解放する前に約束していた。
「確かに約束したな。どっちの準備もしてあるから安心してくれ」
二人は鏡合わせのように上げた手でぐっと拳を作った。
「それならラキュースも一緒にするか」
「え?」
二人の要望に呆れていたラキュースであったが、突然矛を向けられた。
「忘れたのか? その内脱毛してやると言っただろう。ちゃんと手入れをしてるから忘れてたよ。すまなかった」
「え、あ、その……いえ、ですが……あの……。えぇっ……」
しどろもどろになって答えられないラキュースは、いつかの約束を思い出してしまった。思い出すと同時に顔へ血が上ってきた。
ラキュースの体毛は、豊かな頭髪と同じく豊かであった。毛質が柔らかいのでまだ良かったが、長く、そして密である。濃いと言ってよい。若旦那様の前で初めて下着を脱がされた時、露骨に落胆されたのは心に傷を作った。
その時は全部剃られた。以降は自身の手で丁寧に整えてきた。際どいショーツを穿いてもはみ出ないように剃って、三角地帯の茂みはカットの失敗を何度も指摘されながらも自分で揃えた。切ってやると言われたが、そこの処理をしてもらうのは乙女の矜持が許さなかった。
脇だって毎日手を入れている。若旦那様の手を煩わせなくても、ヘアのお手入れくらいラキュースは一人で出来るようになったのだ。
しかし、お手入れを習得する前。若旦那様から不要な部分は脱毛してやろうと言われていた。
「私はしなくても」
「ボスは忙しいから一緒にやるべき!」
「私たちも暇じゃない。今すぐやるべき!」
「それもそうだな」
「!?」
きちんと手を入れているから必要ない。ラキュースはそう続けるつもりだった。しかし、目を血走らせたティアとティナが石火の早さで言葉を被せ、若旦那様は了承してしまった。
若旦那様の言葉は割とかなり絶対であるが、ラキュースは素直に頷けない。脇ならまだしも下の毛である。乙女の尊厳を守らなければならない!
「私はしなくても大丈夫よ! 毎日丁寧に処理してるもの。あなたはしっ……」
「……なんだ?」
ティアとティナが目を爛々と輝かせている。その二人の前で若旦那様は知ってると言ってしまえば、何をしているか知られてしまう。
ラキュースが続きを搾り出す前に、若旦那様が口を開いてしまった。
「色素吸着薬は俺が作ったものだが、脱毛剤はお願いして特別に調合していただいた大変貴重な品だ。無駄遣いは絶対に出来ない。使用感の報告もしたい。ラキュースはうってつけ、と云うかそのためにお願いしたわけだからな」
「断るのはシツレイ」
「感謝して脱毛されるべき」
「その通りだ」
ラキュースは反論したかったが言葉が出てこなかった。パクパクと口を開けては閉じて、顔が段々紅潮していく。
「二人とも今から始めて構わないか?」
「もちろん!」
「来る前に風呂を使ってきた」
「それなら……」
書斎に色素吸着薬を常備しているわけがない。ミラをアトリエに走らせた。
脱毛剤は男が肌身離さずジャケットの内ポケットに入れている。内ポケットはアルベドから下賜された品を入れておく場所だ。男はそれほどまでに脱毛剤を貴重な品と認識していた。
ルプスレギナは退室する機を逃した。覗くのが好きなのはソリュシャンであって、自分の好みではない。見るより自分でする方がずっと良い。しかし今更姿を現し難い。おにーさんからは静かにしていろと伝えられているし、ミラが出て行くのに合わせて改めてこちらを見ながら口の前に人差し指を立てた。
ラキュースは硬直した。
色々な事をされてきたし自分からもしてきたし、先日はアルベド様から大変光栄なお誘いを頂いた。あれは大変に意義ある学びの場であったと、最中の興奮を脱した今になってもそう思う。しかし、脱毛は違う。乙女の矜持や尊厳に関わる問題だ。それをティアとティナの前でされてしまう。体が勝手に震え出し、火照ってきた。叶うならば逃げ出したい。窓から飛び降りるのでもいい。が、出来ない。若旦那様の厚意を踏みにじって逃げ出したらとても大変なペナルティがあろうことは想像に難くない。
ティアとティナは、座ったまま背中の後ろで固く手を握り合った。
ラキュースである。
今は何故かメイドになってるラキュースは蒼の薔薇のリーダーだった。見た目の美麗さに反して行動力と勢いが凄まじく、ティアとティナはラキュースを指して鬼リーダーや鬼ボスなどと呼んでいた。
そのラキュースを脱毛。話の流れからして、脇の下以外にも。
キーノの艶姿を凌駕する。万金を溶かしても悔いがない。
それが今まさに目の前で、始まろうとしていた。
elonaをeronaにしてました
elonaplusは立ち絵を設定できるのが良くない(とても良い)
プレイ時間を見て、こんなにも時間を絞り出せるのかと驚愕
続いてjavardryに手を出したかったのだけども自制しました