※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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間に降りた魔

「まさか八本指と仕事するとは思わなかった」

 「むしろ生きてた事に驚き」

「それはこっちのセリフね。私もアダマント冒険者と仕事するなんて夢にも思わなかったわ」

 

 王都に向けて出発した一行は馬車移動です。

 依頼者が魔導国宰相閣下相談役とは言え密かに潜入しての作戦ですから、魔導国の馬車を使わせるわけにはいきません。目立たないように行商を装っています。三人がいるのは幌付きの荷馬車の中でした。

 

 三人の内二人がティアとティナ。いつもの忍ばない忍者スタイルは封印して、行商人の見習いっぽい簡素な衣服に着替えました。二人とも長いスカートが落ち着かず、着替えてしばらくは難しい顔をしていました。

 顔は出したままにする予定です。フードなどで隠してしまうと逆に悪目立ちしてしまうのです。

 そのため、顔立ちの印象を変えるためにいつもと違ったお化粧をします。まだしていません。王都リ・エスティーゼはまだまだ遠いのです。急いでも一日や二日の距離ではありませんから。

 お化粧は自分たちではなく専門家に任せるつもりです。折角その道の熟練がいるのですから使わない手はないでしょう。

 

 三人の内最後の一人がその道の練達者、ヒルマでした。

 ヒルマは二人より重要な使命を帯びています。絶対に失敗は許されません。仕上げた三人は不慮の事態を想定して、一応全員連れてきています。その三人はこの三人とは別行動です。ヒルマの部下たちが厳重に注意して輸送しています。勿論、この三人が乗る馬車の御者もヒルマの部下です。少々露骨な話をしても問題はありませんでした。

 

「向こうについてからの行動を相談しておきたい」

 「拠点確保はヒルマを使えとボスから言われてる」

「私たちは私たちでする事がある」

 「そっちの仕事はすぐ済む?」

「二人の仕事が終わってからが私の出番よ。拠点は相談役様から指示があったわ。二人も見てたでしょうけど」

「あれは異常」

 「正直言うとボスは顔と体で成り上がったと思ってた」

「アルベド様がそんな事で取り上げるわけがないでしょう」

 

 本当はティナの意見が正解なのですが、それを覆してしまえるほど若旦那様は異常でした。ヒルマが取り出し、木箱の上に広げたのが異常の証でした。

 

「十年以上前って言ってたけど王都はほとんど変わってない」

 「私も知らない道が結構書いてある」

「八本指の拠点は違うわね。大火事があって色々変わったから。でも今でも十分使えるわ」

 

 王都全域の地図です。主要な通りはおろか、無数にある家々まで書き込まれています。その地図を、若旦那様は三人の目の前で何も見ずに書いたのです。魔導国宰相閣下相談役の称号は伊達ではないと思わせる一幕でした。

 拠点を作る予定の高級住宅街は更に細かく書き込まれています。地図自体が精緻なのも凄いですが、当時の所有者が誰であったかも書いてあるのです。

 

「印の所を出来れば確保しろと言ってた」

 「割と散らばってる。郊外のは無視していいらしいけど一応調べる?」

「そっちは私の部下を使うわ。何もないところだから行って帰ってくるだけになりそうだけど。それよりも屋敷の確保よ。印が付いてる屋敷は絶対に押さえておきたいわ。資金はあるけど持ち主が手放すかどうかが問題ね」

 

 作戦のために、ヒルマは若旦那様から活動資金を預かっていました。ずっしり重いので部下たちに運ばせたかったのですが、万が一にも紛失されたり持ち逃げされたりすると死んでも済みません。持ち運びしやすいように手持ち鞄に入れてありますが、重いものは重いのです。

 枚数はティアとティナがソリュシャンお嬢様からの頼まれごとに際して前払いされた活動費と同じです。但し、あちらは金貨。こちらは白金貨です。金貨の十倍の価値があるのが白金貨なのです。

 若旦那様から受け取った時、ヒルマは震えました。八本指でバリバリ活動していた時はこれくらいのお金を動かすことも見ることもありましたが、間違ってもポンと渡される額ではありません。作戦の重要さをこれでもかと叩き込まれました。本当に絶対に失敗するわけにはいかないのです。

 

「……多分大丈夫」

 「王国も色々あった」

「街屋敷を手放した貴族は多い」

 「ほとんど領地に戻ってる」

 

 王都は我らがアインズ様がやっつけたヤルダバオトの襲撃を受けて大変な目に遭いました。それから帝国との会戦で万を超える兵を失いました。貴族たちは王都で権力争いに耽るよりも、自分たちの領地に戻って運営に精を出す方が大切です。色々と消耗が激しくて街屋敷の維持が出来ない者だって多いのです。

 

「それなら何とかなりそうね。相談役様がしばらく過ごされるそうだから中にも手を入れたいわ」

「その辺は頑張って」

 「私たちより大変そうだけど頑張って」

「言われるまでもないわ。絶対に失敗できないのよ」

 

 八本指の幹部の一人と元王国のアダマンタイト冒険者。

 かつては激しく対立して血が流れる事も稀ではありませんでした。それが今や共通の目的のために力を合わせています。かつての彼女たちがそんな未来を思い描くことは決してありませんでした。なんとも数奇なものです。

 折角一緒に仕事をする事になったのです。無理に仲良くする必要はありませんが、仲良くして悪い事もありません。そのための一歩をティアが踏み込みました。

 

「ヒルマ、ちょっと下を向いて」

「急に何よ?」

「いいから」

 

 ヒルマはずっとつんと顎を上げているのです。お高くとまっていらっしゃる、と二人は思ったのですが、真摯に仕事に向き合う態度を見ると、どうにもそうではないようなのです。

 観察する内に、ティアは答えに至りました。

 

「いやよ」

「そ」

「!?」

 

 言下に断られたのをティアはあっさり流します。代わりにさっと手を伸ばしました。

 現役のアダマンタイト冒険者と元高級娼婦では相手になりません。ヒルマがティアの手を避けられる道理はありませんでした。

 

「ぷにぷに」

 「私も触ってみたい」

「!?!?」

 

 ティアが細い指で摘まんだのは、ヒルマの顎の下のお肉です。ぷにっと摘まめるくらいになっていました。

 続いてティナが摘まんだのはお腹のお肉です。ヒルマは体形を隠すゆったりとした服装でいましたが、昼間から厚着をするとまだ暑いので重ね着はしていませんでした。割とかなり摘まめてしまいました。

 ヒルマは顔こそシュッとしているのに、そこかしこがふくよかになっているようなのです。

 

 言うまでもなく特製甘々ドリンクの効果でした。

 今年の始めは骨に皮を張り付けたような有様だったヒルマは、いまやちょっとふくよかなご婦人に変身したのです。

 元が女を売りにした高級娼婦のヒルマですから、現役を引退した今でも顔や体には気を遣っています。体はもう少し絞りたいところなのですが、支給された特製甘々ドリンクを飲まないわけにはいきません。なにせアルベド様が手ずから持ってきてくださるものなのです。廃棄など以ての外。毎日一本飲まなければなりません。エ・ランテルから離れた現在も、予想される所要日数以上の本数を与えられて持ってきています。

 始めこそやせ細った体に肉がついていくことを喜んだヒルマでしたが、これ以上はちょっと、というところを越えてしまいました。

 若旦那様に経過報告をする際に減らして欲しいようなことを口にしたら「アルベド様のご厚意を要らないと言うのか?」と異様な迫力で返されました。以降、口にした事はありません。口にするのは甘々ドリンクです。

 

 ティアが踏み込んだ甲斐あって、三人は和気あいあいと旅路を行くことが出来ました。

 ヒルマは若干キレ気味でしたが、元敵対者同士の壁は綺麗に粉砕されたようです。

 

 

 

 

 

 

 三人が王都で色々な仕事を終えたら若旦那様も王都に入る予定です。

 誰が同行するのかで割と揉めたのですが、若旦那様は一人で行くつもりでした。移動はいい機会ですからアウラ様にお願いして了承を得ました。アウラ様のドラゴンは二人乗りなのです。王都ではティアたちと合流してこっそり行動して帰ってくるだけですので、危険は何もありません。

 なのにミラだけは同行を譲りませんでした。常にご主人様をお守りする事がミラが授かった天命なのです。何日も何日もご主人様から離れてよいわけがないのです。ですがアウラ様のドラゴンは二人乗り。別の移動手段が必要です。いつも使ってるナザリック製の馬車は目立つので却下。王都まで走る事も考えました。そこでなんと、シャルティア様が送ってくださると仰ってくださったのです!

 

 若旦那様がエ・ランテルを離れるのはシャルティア様も聞いています。週に一度のご奉仕日に関係するので若旦那様が直接話しました。アルベド様のお許しが出てると云う話ですので、シャルティア様が待ったを掛けるわけにはいきません。危険はないでしょうが、それはそれでこれはこれです。ミラをお守りに付ける事にしました。

 

 アウラ様やシャルティア様に件の話をしているのですから、毎日訪れている帝都のお屋敷の面々にも当然話を通しています。十日くらいは帝都のお屋敷を訪れない予定です。

 ソフィーだけはちょっと頬を膨らませましたが、おおむね快く受け入れてくれたようです。

 

 しかし実を云うと、フィースだけは色々あってちょっと複雑でした。最近は若旦那様に迫られてばかりのフィースですから、しばらく会えなくなることにちょっと思う事があるのです。そのちょっとが色々複雑なのです。

 若旦那様が些細な事を褒めてくれたり感謝してくれたりするのは悪い気分ではありません。それが段々と距離を詰めてくるのも悪い気分ではなかったりします。

 挙句の果てにはシクススから、

 

『フィースが帝都に来る事になったのは若旦那様の悪だくみだったみたいなの』

 

 とか、

 

『若旦那様はフィースが来てくれて本当に喜んでるみたいね』

 

 とか言ってくるのです。どういうわけか若旦那様は前々から自分に目を付けていたらしいのです。フィースには心当たりがあったりしました。

 

 割と昔のことです。アインズ様がアゼルリシア山脈へ遠征される前に出征式が行われました。若旦那様も参加していました。偉大なるアインズ様の遠征を祝う出征式ですから、おかしな格好で参加する事は許されません。若旦那様はどのような装いで参加するべきか、ペストーニャ様が音頭をとってメイドたち皆で若旦那様に相応しい服を選んだのです。

 その着せ替え大会にフィースも参加していました。

 人間ではありますがアルベド様がお認めになっていますし、ナザリックにも稀な美貌の男です。若旦那様に興味を持ったメイドはたくさんいました。その中にフィースも入っていたのです。

 

 アルベド様のお許しを得た上でペストーニャ様が主催してくださった着せ替え大会です。メイドたちは割とかなりはっちゃけました。参加したメイドはたくさんいましたので、少々過激な事をしてもわからないよね理論です。

 着せ替えるのですから若旦那様を脱がせます。逞しい裸身にぺたぺたと触れるメイドがいました。採寸のついでに抱き着いて男性の体が逞しい事を実感したメイドもいました。

 事に寄ったら香水も使って装う必要がありそうでした。それならば体臭を確かめなければなりません。色々なところをくんかくんかするメイドもいました。

 多分おそらく多人数で着せ替えをさせていたから大胆になってしまったのでしょう。悪戯心でおっぱいを押し付けるメイドもいました。

 腕の長さを測る時に手を伸ばさせて、わざとおっぱいを触らせるメイドだっていたのです。

 

 フィースはその全部をやっていました。集団心理でちょっと暴走したかなあと反省しましたが、それなりに楽しい思い出です。

 もしかして自分がした事に気付いて覚えられていたとしたら、若旦那様が勘違いしてしまうのも仕方ないかなと思うのです。そしたら本当に覚えていたようで、二人きりになった時にその事を耳打ちされました。フィースは顔を真っ赤にして逃げ出しました。

 その時は逃げられても帝都のお屋敷に勤めていたら若旦那様を避け続ける事は出来ませんし、若旦那様に声を掛けてもらうのは悪い気分ではないのです。もしかしたら若旦那様との関係がもう少し深くなってしまうかも知れません。

 そんな事を考えていると、ちょっと幸せな気分になれることにフィースは気付きました。

 

 ですが。ですが、です。

 

 帝都のお屋敷には自分以外の女性がたくさんいます。

 現地で雇ったメイドたちは除外しても若旦那様に近しい女性が何人もいます。

 若旦那様とシクススを同時に見かけなくなり、一時間くらいするとシクススがどこかのぼせたようになってる事が何度もありました。

 お屋敷のお嬢様で若旦那様直属でアルベド様をお母様とお呼びする事を許されたソフィー様は遠慮なく若旦那様に密着します。その上若旦那様が帝都のお屋敷にお泊まりする際は必ずソフィー様の寝室を訪れる事をフィースは把握しています。

 そのソフィー様のお付きのようなジュネも一緒です。ジュネはフィースより小柄で胸もそれほど大きくないのですが、色々とあれなんです。ジュネが若旦那様に向ける笑みを何かの折にフィースが向けられると、同性なのに思わず赤面してしまいます。そのようにふと見せる表情や所作の一つ一つが、何と云うかあれと云うか、なんだかエッチなのです。

 カルカは一応対外的な若旦那様の奥様なので一応人目があるところではカルカ様と呼んでいるフィースです。カルカがぽおっとして他の何も目に入らないような有様で若旦那様を見つめるのはいつもの事です。

 帝国騎士のレイナースはお屋敷に日参します。近いうちに正式に魔導国に籍を移すと聞かされました。そうなったら若旦那様直属になるそうです。そのレイナースですが、どうやらソリュシャン様が若旦那様の第六夫人に薦めたらしいのです。フィースはシクススからそう聞かされました。人気が無いところで二人が抱き合ってるのを目撃しちゃったこともあります。

 

 近しい女性がいっぱいいるのに、若旦那様はフィースに迫ってきます。

 フィースは悪い気分ではないのですが、やっぱり色々複雑です。いっそシクススに聞いてみようと思いはするのですが聞けていません。まだそこまで踏み切れないのです。聞いてしまったら取り返しがつかなくなってしまうような気がしないでもありません。

 とりあえずあれもこれも保留です。

 若旦那様にはちょっと複雑なフィースですが、帝都のお屋敷にはアインズ様が頻繁にいらっしゃってお言葉を賜れる機会がとても多いのです。広いお屋敷ですからメイドのお仕事も遣り甲斐があります。結論として、とても良い職場なのは間違いありません。

 若旦那様の悪だくみでナザリックから帝都のお屋敷に移ったのだとしても、自分の選択は大正解だったと満足しているのです。

 

 その若旦那様はしばらく帝都のお屋敷に来れなくなるそうです。

 フィースはちょっと寂しいと思わなくもないです。アルベド様が関わる重要な案件らしいので、元よりメイドなフィースに何かを言う権利はありません。ただ、何とも複雑なのです。

 

 それはそれとして、今日の若旦那様は帝都のお屋敷にお泊りです。

 今頃はソフィー様のお部屋にいるのかなあと思いながらフィースはベッドに入りました。色々と複雑なわけですが、充実した一日の心地よい疲れが深い眠りに誘います。いつだって全力のフィースは、あっという間に眠りに落ちました。

 

 

 

 フィースが思った通り、若旦那様はソフィーの寝室を訪れていました。

 大人になりきれてないソフィーは大好きなお父様のミルクを飲むとふにゃっとなってしまうため、ミルクの時間は夜と決まっているのです。反対から見ると、お父様がお泊りでない時はミルクを飲めません。そこだけは不満なソフィーです。

 ですが、先日の謹慎の最後の日。お父様に色々可愛がってもらうことを覚えました。ミルクの夜はいつもいっぱい可愛がってもらってふにゃふにゃになっところでとどめを刺すかのようにごっくんします。

 お父様がお泊りだと幸せな眠りが確定しているソフィーです。

 

 何度も達して最後は果ててしまったかのような裸のソフィーの隣で、ジュネを抱く若旦那様です。

 ジュネの技はますます磨きが掛かり、アルベド様には及ばずとも影を踏める域にまで高まってきました。やはり覚醒サキュバスの転生体と若旦那様が再認識するのはいつもの事です。この夜も三回絞られました。

 ジュネがソフィーを敬う気持ちは確かなようで、口に出してもらった時はごっくんしないで眠るソフィーに口移しで与えます。ソフィーの初ミルクはジュネからの口移しでしたから、知ったところで悪く思う事はないでしょう。

 

 すっきりさせられた若旦那様は、そのままソフィーの部屋で眠ったりはしません。

 ソフィーの部屋はアルベドのシークレットプライベートルームと、アルベドのお食事部屋の両方となります。なのでかなりの広さがあります。お食事部屋のベッドは七人で暴れても大丈夫な大きさです。

 それでも若旦那様がソフィーの部屋で眠らないのは自分の寝室がちゃんとあるからです。ヴァンパイアブライドなので睡眠不要のジュネがソフィーに尽くすのを邪魔したくない気持ちもあります。どのように尽くしているか見た事もあります。ジュネを抱いたばかりなのにもう一度の気分になって邪魔をしてしまった事がありました。やはりジュネは覚醒サキュバスの転生体に違いないでしょう。

 

 素肌にナイトガウンだけの若旦那様は、寝室に戻る前にいつでも使えるお風呂で色々な汁を軽く流しました。この時だけは一人でお風呂に入れるため、割とリラックスが出来るのです。

 お風呂から出たら髪の毛を適度に乾かして、体の水気はナイトガウンに吸わせます。寝る時は裸の事もありますし、部屋には他のナイトガウンが何着もあります。今着てるのがびしょびしょになっても構わないのです。

 

「あれ?」

 

 寝室に入った若旦那様は首を傾げました。ベッドには先客がいたのでした。

 先客自体は全く構いません。双子幼女のウレイリカとクーデリカは若旦那様が抱き枕にするために買ったのです。日中はお勉強したりおままごとのようなお仕事をしたり一応カルカの専従なのでカルカお姉さまに付いて回ったりしていますが、若旦那様がお泊りの日は抱き枕に戻ります。二人の強い希望で若旦那様も望むところですから、二人は若旦那様のベッドで寝ていてもいいのです。

 それなのに若旦那様が首を傾げたのは、

 

「「ご主人さま、おはようございます!」」

 

 双子が起きているからでした。

 若旦那様が双子を奴隷市場で買ってからそれなりの月日が流れました。双子は快適な生活と美味しいご飯ですくすく成長しています。ですが、まだまだ幼女。歳は幼女から少女になりつつあるネムちゃんの半分くらいでしょうか。

 ネムちゃんだってお眠の時間です。双子が起きていられる時間ではありません。それなのに双子は起きていたのです。朝の挨拶が出てきましたから一度眠ってから起きてしまったのでしょうか。健やかな成長のためには余りよろしくありません。

 

「二人とも起きちゃったのか? もう遅い時間だから一緒に寝よう」

「まだ平気です」

 「今日はお昼寝いっぱいしました」

 

 そうは言うものの、双子のパッチリしたお目目は眠そうです。ところがお返事をする間にも表情に生気が戻り、お目目はパッチリして、柔らかそうなほっぺが赤らんできました。

 若旦那様が部屋の灯りをつけたせいで目が覚めてしまったのかも知れません。若旦那様はちょっと困ったように苦笑しました。

 

「寝坊したらシクススに怒られるぞ」

「シクススお姉さまはたまになら休んでいいって言ってくれました」

 「カルカお姉さまもがんばってるごほうびでねぼうしてもいいって言ってくれました」

「いや、俺が怒られるんだ」

 

 帝都のお屋敷ではお嬢様のソフィーが一番偉いように思えて影の権力者がメイド長のシクススだったりするのです。特に若旦那様はシクススのご機嫌を損ねると、なんやかんやあった末に孤独に死にます。絶対に逆らえません。

 若旦那様は魔導国宰相閣下相談役で割と重みがある地位にいるのですが、権力に興味がない本人の性格のせいで偉そうになれないのです。若旦那様のクラス構成を密かに把握したアインズ様が「どこまで隠れるのが好きな男なんだ」と思うだけはありました。自業自得だったり周囲の女性が強すぎたりする影響も大いにあります。

 

「がんばって起こします!」

 「クーもがんばります!」

「……頼りにしてるよ」

 

 双子幼女にここまで言われてしまったら無下には出来ません。ソリュシャンを始めとして色々な者たちが見抜いたように、子供には甘い若旦那様なのです。

 

「それなら少し二人と話そうか。二人とも俺が戻るのを待っててくれたようだね。何か話があるのかな?」

 

 ベッドから降りたウレイリカとクーデリカは顔を見合わせました。鏡写しのようでした。

 二人はよく似た双子です。金色の髪も髪型も、青い目も顔かたちも、体付きもほとんど同じです。身長と体重は僅かな違いがありますが、成長期なので誤差に過ぎません。

 それでも日中ならリボンやスカーフなどの装飾品の色で区別が出来ます。今は就寝のために二人とも膝丈のネグリジェを着ているのでどちらがどちらか全くわかりません。ティアとティナ以上にそっくりな双子です。

 

「起きてる時にご主人さまに抱っこして欲しかったんです」

 「ご主人さまは遠くに行っちゃって、お泊りする日もソフィー様だから」

 

 エ・ランテルに戻る前の若旦那様は、それなりの期間を帝都のお屋敷で暮らしていました。帝都では冬を過ごしましたから、体温が高い双子幼女を抱き枕にして眠る夜がとても多かったのです。

 エ・ランテルに戻ってからも毎日帝都のお屋敷を訪れ、週に一度はお泊りします。お泊りの夜はソフィーのお食事があって、その後でジュネを抱き、時にはシクススの部屋に忍ぶ若旦那様です。その後はきちんと自分の部屋に戻るのでちゃんと双子を抱き枕にしているのですが、いつだって遅い時間になってしまうため双子幼女は夢の中です。

 朝も双子の意識がはっきりするまえに目を覚まします。

 双子としては若旦那様に抱っこされてる実感が全くありません。

 

「……そうだな」

 

 健気な双子に若旦那様の頬が緩みます。

 

「それなら今夜は二人が眠くなるまで抱っこしようか」

「「はい!」」

 

 双子幼女は輝く笑顔でお返事をします。

 小さな女の子の笑顔だけでも効果は抜群でしょう。そこに加えてウレイリカとクーデリカは顔立ちが中々整っています。お屋敷で働くメイドたちの中には、双子を指して天使みたいと言う者がいるほどです。

 

「それじゃあ……」

 

 双子を伴ってベッドに入ろうとした若旦那様が突然止まりました。双子はこてんと首を傾げます。そんな様もとても可愛らしいです。

 ベッドへ向かう代わりに若旦那様の足が向いたのはクローゼットです。ハンガーに吊ってあるジャケットのポケットに手を入れました。

 若旦那様は稀有な現状に、ふと思いついてしまったのです。魔が差したと言ってもいいでしょう。

 

「二人は俺との秘密が守れるかい?」

「ぜったいに守ります!」

 「カルカお姉さまにも話しません!」

 

 双子は命に代えても若旦那様との秘密を守る覚悟です。

 尤もまだまだ子供ですから、何かの拍子でぽろっと言ってしまうかも知れません。若旦那様はあんまり期待していませんでした。とりあえず言っておいただけです。出来れば知られたくなかった方には知られてしまった事なので、どうしても秘密にして欲しいわけではないのです。

 

「二人にこれをあげよう」

 

 若旦那様がジャケットのポケットから取り出したのはキャンディーポット。中には青いキャンディーがいっぱい入っています。

 クレマンティーヌがアインズ様から下賜された不思議な青いキャンディーは若旦那様が管理しているのです。

 

 双子幼女は不思議な青いキャンディーを一度だけ舐めた事がありました。シャルティアがどこかで見たような顔と云うものですから、キャンディーを舐めさせて大人の姿にして確かめたのです。その結果、双子の姉はナザリックに侵入した事が判明したわけですが、それについてはアインズ様が双子を罪に問うことは絶対に許さないと仰いました。

 その時舐めさせたキャンディーはキャンディーポットから取り出して日数が経っていましたので、効果時間は十分もありませんでした。今若旦那様が取り出したキャンディーは新鮮です。十分な効果時間を発揮できます。

 日中に舐めさせてしまうと、大人になった双子を多数の者が目撃する事でしょう。後は寝るだけの今なら問題ありません。

 

「一度舐めた事があったな。少し苦いらしいけど口から出しちゃダメだぞ」

「「わかりました!」」

 

 若旦那様の言葉にはいつだって元気なお返事の双子です。

 それぞれお一つずつ不思議な青いキャンディーを受け取りました。

 

「舐めていいよ」

 

 若旦那様のお許しを得てからほいっと口に放り込みます。

 

 不思議な青いキャンディーは大人の味。ちょっとだけほろ苦い。

 

 一瞬で効果を発揮しました。




埋まるところでしたが。。。さんとうおみさんのおかげで這いあがる
多大な感謝を

幹が朽ちると枝葉も落ちると確信したのでしばらくこちらに注力
クライムイベントを走りきる予定
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