「帰りは遅くなりますので後のことはよろしくお願いします。ルプー姉様、お兄様と仲良くお願いしますね。それでは行って参りますわ」
心にもないことを言ってソリュシャンお嬢様はメイド教官を伴ってお出かけになりました。
目的地はエ・ランテルにあるアインズ様の居館です。常駐しているセバス様に例の件を相談しようと思っているのです。お兄様をお連れした方が話は早いのですが事はナザリックの内側に関わることです。お兄様もナザリックの身内と言えるのですけれど先ずは然るべき者から話をするべきなのです。
ソリュシャンお嬢様とメイド教官がいなくてもお屋敷は平常運転です。厳しい人たちがいないからと言って手を抜こうものなら後がとっても恐いのですから。
若旦那様も平常運転です。ソリュシャンお嬢様を見送るなり書斎に籠もってぼーっとし始めました。
そしてルプスレギナ様。平常運転も何もお屋敷に来たばかりですので、これと言ってすることがありません。一番の仕事は若旦那様が傷ついた時の回復役ですが、ソリュシャンお嬢様やナザリックからの賓客がない限りそんなことは滅多にありません。ですのでメイドたちの邪魔にならないよう好きに過ごせばよいのです。しかしルプスレギナ様にそんな余裕はありませんでした。
原因は若旦那様です。
若旦那様を何とかしないと自分の未来には無限の暗黒しか広がっていないと思い込んでいます。
好きでもない嫌いでもない興味がない、破滅に追いやるのは簡単なこと。こんなことを言われて放っておけるほどルプスレギナ様は図太くありませんでした。今はまだ興味がないとしても、もしも嫌われたらナザリックからの放逐が待っているのです。つい先日半殺しにしてしまったばかりなのですからマイナス印象に決まっています。ゼロどころかマイナスからのスタートです。
いつぞやのソリュシャンが考えたのと同じように物理的に喋ったり動いたりしないようにしたいところですがやってしまったら最後、破滅どころか消滅確定です。何とかして若旦那様に取り入るしかありません。
ルプスレギナ様は薄氷を踏む思いで書斎の扉を開きました。ちなみに薄氷を踏み抜くと下には地獄が広がっている思い込んでいます。
「お邪魔するっすよー」
「はいどーぞ」
控えていたメイドを追い払い、ルプスレギナ様は若旦那様と二人きりになりました。
「この前はビックリしちゃったっすけど、今日はじっくりおっぱい触らせてあげるっすよ?」
「間に合ってます」
ルプスレギナ様は早くも挫けそうになりました。
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大きな机に向かって座り心地の良い椅子に深く腰掛け、ぼんやりと虚空を見上げている。デミウルゴス様から貸与された書物は開いていない。机の片隅に積まれている。ただし山の高さは一昨日の半分になっていた。
昨日、夢中になって読み過ぎたのだ。ソリュシャンといちゃいちゃした後、6時間ぶっ通しで読み続けていた。気付けば山の高さが半分になり、休む間もなくページをめくっていた右手は酷使されすぎて炎症を起こした。40000ページは読んだのでその半分の20000回はページをめくっていた計算になる。炎症を起こすのも無理はない。
ポーションを使うまでもなく、よく冷やして適切なマッサージで無事に回復したわけだが、ソリュシャンから「あなたって頭がいいのかバカなのか本当にわからないわね」と言われてしまった。
それよりも問題なのは半分も読んでしまったことである。
「おっぱいだけじゃなくてお尻もいいっすよ?」「だから間に合ってます」
読書とは人であれば誰しもが持つ好奇心を満足させてくれる。危険を冒さずに未知を征服する冒険に似ているのだ。冒険とはとても心躍るものである。夢中になって読んでいた時間は至福の時であった。
しかし気付けば半分に。無限にも思えた未知の世界が半分に。心躍る冒険を半分も終えてしまったのだ。
これでは十日どころか今日中に読み終わってしまいそうである。流石にレポートの執筆には時間がとられるだろうが、それとて半日あれば済んでしまうだろう。
もう少しゆっくりと、せめて一日一冊で我慢しなければならない。それにまたも読み過ぎて手指に炎症を起こそうものなら、ソリュシャンにバカにされるくらいなら兎も角、アルベド様を御満足させる手技を発揮できないかも知れない。最悪である。
「……直にいいっすよ?」「結構です」
これらの書物は、どうやら一人の人物が複数人物からなる著作を編纂したものであるらしい。分野を大雑把にくくれば人の営み。日本語辞書から言葉を拾えば社会科学とでも言うべきか。
書物には抽象的な論理だけでなく、論理を導くに至った具体的なエピソードが多々散りばめられている。
さて、これらのエピソードが意味するものとは何か。辞書を読んだ際に至った考えを補強してしまった。
デミウルゴス様はそれらをご存じなのだろうか。それとも知らずして読めと仰ったのか。おそらくはどちらでもない。
いずれであろうと何が変わるわけでなし。ただし好奇心が刺激され、考えを推し進めることは出来る。何がわかったとて何もする気はないわけであるが。
「…………色々しちゃってくれてもいいっすよ?」「ふん」「!?」
かような書物を簡単に貸与してくださる。
ソリュシャンから課題図書として渡された小説。シクススが言っていた異本も気になる。分野がてんでばらばらなそれらの書物がもしも一カ所からもたらされたのだとすれば。そこはとんでもない蔵書量を誇っているに違いない。
そこを自分が自由に利用できるとは思えないし、いずれそうなるとも思えない。しかし今回のような機会がないとも限らないのだ。
「くっくっく……」「ヒッ……」
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若旦那様はルプスレギナ様の言葉を聞いているようで聞いていませんでした。
考えに没頭して、傍目からはぼーっとしているように見えるのです。
こんな時、メイドたちは「また若旦那様がぼーっとしていらしゃってるわ」と微笑ましく思っています。メイド教官はちょっぴり厳しい目を向けます。中でもシクススは「若旦那様にはお耳がないんですかー? これはなんですかー?」とか言いながら耳を引っ張ります。ソリュシャンお嬢様はもっと酷くて、「ぼーっとしてる今なら溶かしても気付かないのでは」と考え麻痺毒を応用した部分麻酔を掛けつつのトロトロに成功。そんなことをするからポーションやスクロールが枯渇するのです。
しかしルプスレギナ様はそんなことを全く知りません。せめてメイドたちから「あれはいったい何やってるの?」とでも聞けば答えが得られたでしょうが、そんなことにまで気が回りませんでした。目の前のことにばかり気を取られてと叱られたばかりなのに全く活きていません。
(これはイジメっすか? イジメっすよねやっぱり怒ってるじゃないっすかソーちゃんのうそつき!)
とても人聞きが悪いことを思っています。
自分に怒っているから無視されて苛められていると思い込んでしまったルプスレギナ様は捨て身の策に出ました。
「私のことを好きにしていいっすよ!」
「えっ?」
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気が付いたらルプスレギナが隣に立ってとんでもないことを口走っていた。
何を焦っているのか、顔が強ばっている。
考えに没頭しながらも受け答えをした記憶がある。言葉を思い返すと、おっぱいやお尻を触って欲しいらしい。断り続けていたら自分のことを好きにしていいと仰った。
「それはルプスレギナ様の体を自由にしていいと言うことですか?」
「そ……そそそ、そう言うことっすよ?」
おっぱい、お尻、体全てを自由に。つまりはいやらしいことをして欲しいようである。
突然どうして、と思ったところで気が付いてしまった。ルプスレギナは快活な人間の美女に見えるが、人ではなく人狼である。人狼特有の生理があると察せられた。いやらしいことを求める本能。
おそらくそれは、発情期。
男はそっと嘆息した。ポーションは量産出来ていると聞いているのに、高位の神官であるルプスレギナが派遣されたことはいささか疑問だった。どうやら発情してしまったルプスレギナを鎮めよと言うことだったようだ。さすがのアインズ様は無駄なことをなさらない。
明日はアルベド様がいらっしゃるのでソリュシャンも禁欲日に設定しているというのに。しかしそのために配置換えされたルプスレギナに帰れとは言えない。適度にお相手をして発散していただくしかなかった。
「それでは私の寝室でよろしいでしょうか?」
「よろしいっすよ!?」
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部屋に入るなり、ルプスレギナは帽子を壁に引っかけて覗き穴を塞いだ。ソリュシャンがいないので覗かれる可能性はないのだが気分の問題である。
「ああ、その帽子は耳隠しだったのですね」
ルプスレギナの頭にはふわふわの赤毛に覆われたケモ耳がピョコンと立っている。普段は人間に偽装しているので、人外と知られないよう帽子で隠していた。
「ハムスケさんと違って見た目通りに柔らかい愛らしい耳です」
断りもなく耳を撫でた。誰とも知らない人間の男にそんなことをされたら撲殺待ったなしのルプスレギナだが、そんなことを出来るわけがなく、好きにしていいと言ったばかりである。何をされようと涙をのんで耐えるしかない。
「それでは早速始めましょうか」
男はペロリと右手の中指を舐める。第二間接まで滴るほどに唾が塗りつけられた。
唾に濡れた汚い指でどうするつもりなのか。まさかその指で触るつもりなのか。
「!!」
ルプスレギナはプレアデスの正装である自らの改造メイド服を誇りに思っている。至高の御方々がデザインされ、己が創造主である獣王メコン川様が選んでくださったものなのだ。しかし今日初めて、このようなデザインであることを恨めしく思ってしまった。
男の手は、サイドに深く入ったスリットから内側へ忍び込んできた。
一昨日のように尻を撫でられるのかと思ったが違った。後ろではなく前。
男の手は器用にも薬指だけパンツに引っかけてずらし、濡れた中指をルプスレギナに突き立てたのだ。
「あ……ぁ…………」
体の中心に異物感。何かが入ってきた。男の指に決まっている。汚い唾を体の内側に塗りつけられている。
(これ……おまんこに入っちゃったっすか!? ばっちい唾をおまんこの中に…………。うぅ……、ひどいっす……。私はじめてなのにいきなりこんな……ぐすっ……。でも泣いちゃダメっす! ここで言っとかないともっとひどいことされちゃうっすよ!)
「ゆ……指は、いいっすけど……。その……ちんちんは入れないで……欲しいっす……」
涙目のルプスレギナを、男は正面から見た。
表情はいまだ硬い。もっと固いのが指が入っている場所。
発情して慰めて欲しいというくらいなのだからとっくに濡れていると思ったが、ルプスレギナは乾いていた。それに加えて狭い、きつい。まさかと思ったが処女であるらしい。
処女なのに男を求めてしまうほど発情期による欲情は強いのだろうか。
「構いませんが……、ルプスレギナ様はそれで満足できますか?」
「!」
(それって指じゃ満足できないってことっすか……。一昨日はシャルティア様とあんなにしてたのに今日は私となんて! ……こいつは人間じゃない色魔かなにかっすよ! はっ!? だからサキュバスであるアルベド様はこいつを大事にしてるんすね!? アインズ様が私をここに派遣したのもこいつの相手をせよと……。でもちんちん入れちゃったら……赤ちゃん出来ちゃう…………)
「どうなんですか?」
「…………ちんちんも……入れて……欲しい……です」
ルプスレギナは、はらりと涙を落とした。
心を絶望に食われてしまったのだ。この男に処女を捧げて満足させなければならないのだから。それがアインズ様のお望みであるのだから。
(ルプスレギナ様……。涙を流すほど発情期とはお辛いものなのですか……)
こちらもこちらで勘違いしていた。
明日はアルベド様のお食事日。出来れば指だけで済ませたかったが、泣くほど辛いのを放置できない。ルプスレギナ様は自分の回復役としていらしたのもそうだし、密かな同士でもある。
アルベド様に叱られた同士。そして恥ずかしいことを屋敷のメイドたちに知られてしまった同士。夢精プークスクスとおもらしプークスクスである。メイドたちにルプスレギナのおもらしを触れ回ったのはわざとだった。
ソリュシャンに語った通りルプスレギナ様にこれと言って興味はなかった。ところがデミウルゴス様からの課題図書はちょっとお預けにしなければならず時間が空いてしまった。しかし目の前にあれば読んでしまう。空いた時間の暇つぶしというのは流石に失礼が過ぎるが、今日一日たっぷりと時間を掛けてルプスレギナ様を満足させるのはやぶさかではない。
明日のアルベド様に備えた練習にもなる。
(全力でご満足させましょう)
男はデリカシーを覚えたのでルプスレギナへ「発情期辛いですね」なんて無神経なことを言わなかった。
ルプスレギナは何度も叱られたりきついことを言われたりで珍しく頭を使い、口には出さない男の要求を察してみせた。
バカにバカを掛けても利口にはならず、喜劇しか生み出さないようである。