夜が深くなった。しかしエ・ランテルの街が暗闇に包まれることはない。主要な通りには一定間隔で魔法の明りを灯す街燈が立てられている。昼夜を問わずして街の治安を守るデスガードが警邏している。偉大なるアインズ様がもたらしてくださった恩恵である。他国には恐れる者がいるやも知れぬが魔導国の国民たちは最大限の敬意を払って止まない。ナザリックに属する者達だけでなく、人間の国民からもである。
故に女だけで街を歩いても危険に晒されることは決してない。アインズ様の居館を辞したソリュシャンお嬢様は、メイド教官を引きつれて帰路についていた。尤も、たとえ治安が悪い土地であろうとも夜道に臆するソリュシャンではないが。
歩みは非常に遅い。それと言うのも十歩と歩かない内にメイド教官がソリュシャンお嬢様を小突いて歩みを止めるからだ。
偽装である女主人と召使の関係であるが、偽装を抜きにしてもプレアデスのソリュシャンと一般メイドとではソリュシャンの方が格が上になる。建前としてはナザリックのシモベは全て平等となっているのだがそれはそれ。
メイドの態度は不敬であるが、ソリュシャンは咎めるどころか礼を言った。
「ソリュシャンお嬢様」「……ありがとう」
またも繰り返す。
十歩も歩くとソリュシャンの輪郭が崩れてしまい、メイドはそれを注意していた。
ソリュシャンは美しい女性の姿をしているが正体はスライム。余りにも気を抜き過ぎるとスライムの本性を取り戻し人の姿から不定形のスライムとなってしまうのだ。
滅多にあることではない。なのに十歩ごとにふにゃふにゃしてしまうのは、心がビュンビュン! して多幸感に包まれているからだった。
今日のソリュシャンはとても充実してとても実りある一日を過ごせていた。
まず、現在はアインズ様の居館からの帰路であるが、そのちょっと前まではナザリックにいた。なんと、アインズ様がついでだからと送り迎えしてくれたのだ!
ソリュシャンはずっとエ・ランテルにいて偶にはナザリックに戻り他の姉妹たちに会いたいだろうとのアインズ様心である。
ソリュシャンは感激した。泣いた。同席していたメイドたちも泣いた。セバス様はぐっと涙をこらえた。
ああなんとお優しいアインズ様アインズ様偉大なるアインズ様と始まるアインズ様賛歌は5番まである。
ナザリックでは久しく会っていない姉妹と語らうことが出来たし、ナザリックでしか飲食出来ないとても美味しい食事をとることも出来た。とても美味しかったけれど、お兄様と一緒に食べられたらもっと美味しいに違いないとソリュシャンは思った。
しかしソリュシャンがフニョンフニョンしている最大の理由はセバス様との会談である。
お兄様が読み切った通り、会談は大成功を収めた。
セバス様はソリュシャンからの言葉を一々頷きながらお聞きくださり、賛成してくださったのだ。
『とても良いアイデアであると思います。そのアイデアはあの青年からでしょうか?』
『いいえ、私からの発案でございます。何かと頼りになる方ですが、ナザリックに関わることに口は出させません』
『なるほど、ソリュシャンからの……。まさかソリュシャンが人間の男性と結婚を考えるとは思ってもみませんでした』
『私のことではございません。ナザリックのシモベ全ての事でございます』
『そうでしたね』
『ナザリックのシモベと人間とで婚姻関係を結ぶ。誰しもが望めば適用される。そうなればと考えております。但し、ナザリック内部から余り出てこないシモベにはそれほど関係のないこととなってしまいます。そのため、まずは人間と接する機会が多い者達がどのように考えているか。アインズ様へ上申する前に皆の意見を参考にしたいと存じます。寄せられた意見の結果次第では取り下げるべきかと』
『希望者だけに適用される制度なら止める必要はないのではないでしょうか?』
『プレアデスの私が大それたことを考えているのですから当然であると存じます』
『私はそうは思いません』
『ありがとうございます。セバス様のお言葉を頂き、力が湧いてまいりました』
『私の言葉でよいのなら幾らでも。言葉だけでなく積極的に協力したいとさえ思います』
『ありがとうございます。それではお手数ではございますが、エ・ランテルに滞在している一般メイド或いはナザリックでメイド教習を受けた者達がどのような意見を持つかセバス様からお聞き頂けないでしょうか?』
『その程度は何の苦でもありませんよ』
まさに狙い通り。
セバス様から尋ねられれば、セバス様とセバス様が救った人間の女ツアレとの婚姻であると誰もが思うに違いない。
ナザリックのランドスチュワートの望みを妨げるメイドがいようものか。ただでさえペストーニャ様は、ツアレはセバス様がご自身の伴侶とすべく連れ帰ったと思っていらっしゃる。
言わば形に名を与えるようなもの。反対意見は絶対にない。
そうして情報の共有、つまりは根回しを終えた後でアインズ様に上申すればお認め下さるのは間違いない。
そうなったら適用される第一号はセバス様とツアレだろうか。
別に何番目でも構わない。
しかし遠からず自分の番がやってくる。
その時になったら『お嬢様と若旦那様』から『旦那様と奥様』へ。
お兄様はアルベド様のものであることは間違いないけれど、形の上では私の夫となる。
上手くいきすぎて心がピョンピョンしている。お兄様のお知恵のおかげで勝ち確なのだ。
これほどまでの幸福感はアインズ様からお褒めの言葉を頂いたときに匹敵する。上回っているかも知れない。これ以上となればヘロヘロ様にご帰還して頂かなければ得られない。
しかし確実に今以上が待っている。
お兄様と結婚するときはもちろん結婚式を挙げるつもりだ。
ソリュシャンは花嫁さんになるのだ。
ウェディングドレスを仕立てて袖を通す。
お兄様のお嫁さんになるのだ。
確実に到来する未来を思うとふにゃふにゃになってしまう。
これはいけない。ふにゃふにゃの花嫁さんでは格好がつかない。幸せいっぱいの美しい花嫁さんにならなければ。
「うふふ……」「ソリュシャンお嬢様」「……ええ、ありがとう」
スライムであろうとソリュシャンはやっぱり女の子。
お嫁さんには憧れがあった。
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ルプスレギナが来ると聞いて少し心配していたが杞憂だったのも安堵の材料。
ルプスレギナの性格なら絶対にお兄様にハマってしまう。どうやって嫌わせようかと考えていたくらいだ。
それが何をするまでもなく、互いに距離を置いてくれた。
ソリュシャンの野望を阻むものは何もない。
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幸せいっぱいるんるん気分でエ・ランテルの大きなお屋敷に戻ったソリュシャンだったが、戻った直後に打ち砕かれた。
「ソーちゃんソーちゃんお帰りっす! あのおにーさんのことっすけど、すっごい性悪でデミウルゴス様がお認めになる悪魔みたいな人間っすけど、頭はすっごい良いし顔もすっごい良いしセックスがもう滅茶苦茶上手くてメロメロになっちゃったっすよ! だから私のお婿さんになってもらうっす! 丈夫な赤ちゃんいっぱい産むっすよーっ!!」
「ふざけないで!!!!」
「のわっ!? …………ちょっと今のはシャレにならないっすよ?」
「シャレにならないのは貴女の方よ!」
「へえ……? やる気っすか?」
ソリュシャンとルプスレギナは激突した。
これは姉妹喧嘩ではない。
女の闘いすら超えている。
恋は戦争である。
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突如始まったプレアデス同士のマジバトルにメイド教官は慌てふためいてしまいました。
しかしこんな時であっても若旦那様は平常運転です。
「メイドたちへ外に出ないよう指示してください。何か聞かれたら冒険者へ中庭を貸して夜間訓練でもしていると言っておけばいいでしょう」
元凶なのに自分には関係ない他人事とか思っているので冷静でいられるのです。
たとえ関係あると思ってもアルベド様からのご命令以外はガン無視するつもりです。
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ソリュシャンはショゴスにしてアサシン。
ルプスレギナは人狼にして神官。
どちらもサポートに徹するクラスであり、攻防は一進一退。
ソリュシャンが多少のダメージを与えてもルプスレギナは一瞬で回復してしまう。ではルプスレギナが有利かと言えば違って、神官であるルプスレギナは攻撃魔法に乏しく攻撃手段は物理攻撃が主だったものになるが、ショゴスであるソリュシャンには物理耐性があり有効打を与えられない。
屋敷にいるメイドたちに二人を止める手段は皆無。
若旦那様はすごいなあと見てるだけ。
何だ何だとデスガードが集まってくるが争っているのはナザリックのシモベ二人。手の出しようがない。
延々といつまでも続くかと思われた争いは突然途切れた。
「何をしている!」
偉大なる御方の気配を感じたからである。
ソリュシャンとルプスレギナは装いこそボロボロになってあちこちが薄汚れているが、共にダメージらしきものは負っていない。
瞬時に争いを止めてアインズ様の前に跪いた。
恋は戦争をグーグル翻訳でフランス語にしたらサブタイのが出てきました
読めません
感想よりラムール・エ・ラ・ゲールとのこと
感謝です