※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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ナザリックにようこそ

「…………それで、お前たちはどうして争っていたのだ?」

 

 アインズ様の前にひれ伏すバカ二人。深く首を垂れ、しかし小さく肩を震わすばかりで答えようとしない。

 

「アインズ様ノゴ質問ニ答エヌカ!!」

「……全ては私たちの愚かさゆえでございます」

「いかな罰とて甘受いたします」

 

 神妙な二人へアインズ様は溜息を吐きたくなりました。もしも溜息を吐こうものならコキュートスが八つ裂きにしてしまいかねないのでぐっと我慢です。コキュートスのみならず、他のシモベ達も厳しい視線を二人へ送っています。さてどう裁いたものかと困り果てておりました。

 迂闊な裁きは下せません。

 もしも二人が争っていた原因がエ・ランテルに置いているあの男の取り合いだとしたら、アルベドが大切にしているご飯で、話していて楽しい男であっても処分しなければならないかも知れません。しかし二人がガチバトルをするほど想っている男を処分してしまえば悪影響があるに決まっています。それにソリュシャンは兎も角、ルプスレギナが男と会ったのはほんの数日前なので、幾らなんでもそんな事はないんじゃないかと希望的観測にすがっています。

 もっと最悪なのは、争いの原因が深いところにあった場合です。それは内紛の兆しに他ならないのですから。もしもこちらであったら、シモベ達が自分へ忠誠を抱いていようといずれ大きな争いが起こる可能性を否めないのです。

 アインズ様は今でこそ大魔法使いですが、かつては人間の魔法使いでした。女心の機微などわかりませんし、多数のシモベを従えることだって自分には分不相応と思わなくもないのです。

 最悪の最悪の場合はナザリックを捨ててどこかへ隠れ潜むことすら考えています。

 玉座に腰かけ肘置きに頬杖を突いて睥睨しているように見えても内心は物凄くガクブルなアインズ様でした。

 

「それではお前はどうだ? 二人がどうして争っていたか何か知っているのだろう?」

「……………………」

「どうした? 答えられないのか?」

「人間ノ分際デアインズ様ノオ問イ掛ケヲ無視スルトハ許セヌ」

 

 シルバーメタリックの蟲王が怒気と共に冷気を吹き上げます。

 寛大なアインズ様ですが真っ向からの質問を無視されれば面白くありませんし、これ以上はシモベ達の怒りを抑えきれません。

 非常に残念なことですが、止む無しです。

 

 しかしその時、何かに気付いたソリュシャンがハッと頭を上げて自分たちの後ろに跪いている男を振り返りました。

 

「体が凍り付いて動けないようです。話をさせる為に回復の許可をお願いいたします」

 

 伏して願い出ました。

 

 

 

 

 

 

 たかが人間がなんて図々しいと言う嫌悪の目、あれがアルベド様の子飼と言う好奇の目。

 

「皆さま、お初に御目文字致します。かくも偉大なる地に身を置ける光栄を与えられましたことを謹んでお礼申し上げます」

 

 男が立っているのはエ・ランテルのお屋敷ではなく、ナザリック地下大墳墓にて最も荘厳な場である玉座の間。

 階上の玉座にはアインズが深く腰掛け、傍らにはアルベドが静かに佇む。

 その両脇には守護者各位が並んでいる。ソリュシャンとルプスレギナの上司であるセバスも階上に。デミウルゴスだけは遠くへ出張中でありこの場にない。

 更には多数のシモベ達がひれ伏すソリュシャンとルプスレギナと、そして立ち上がった男を囲んでいた。

 アインズが本件をどれだけ重要視しているか知れると云うものである。

 そのような場において、男は臆することなく口上を述べた。仰々しく腰を折るも、荘厳な玉座の間では過剰には映らず相応しい所作に見えた。

 

「お二方の心全てをわかっているとは申し上げられませんが、察するところはございます。お二方がアインズ様へ何も申し上げられないのは、アインズ様にご理解いただくことが困難であると考えているからと存じます」

「アインズ様ヲ愚弄スルカ!!」

 

 猛るのはヴァーミンロードのコキュートス。他のシモベも似たり寄ったり。アインズ様を侮辱されて許せるものはこの場にいない。アインズが指を振れば直ちに然るべき運命を与えてやろうと意気込んでいる。

 瞬きする間に己を千殺する殺意を向けられても男の態度に揺るぎはない。初めてなら面食らったろうが、幸か不幸か今を凌駕する灼熱の殺意を間近で浴びたことがあった。

 

「コキュートス様でいらっしゃいますね。コキュートス様は剣を得手としていると伺っております。アインズ様の剣として日々弛まぬ鍛錬に励んでおられると推察します。ではアインズ様から剣術の指南を受けたことがおありですか?」

「ム……、アルワケガナカロウ」

「何故です? コキュートス様が思うアインズ様は全てをご存知なのではないでしょうか? であれば剣理にも深く通じておられるはず」

「アインズ様ハ魔法ヲ使ワレル。剣デハナイ」

「その通りです!」

 

 男は大仰にコキュートスの言葉を肯定した。

 

「アインズ様に剣は必要ない、或いは必要なかった。アインズ様の英知が他に類するものがないことは私もよく知るところでありますが、アインズ様に必要ない知恵も知識もまた存在するのです。それら全てをアインズ様に知っていて欲しいと言うのはコキュートス様の我儘に他なりません」

「ムウ……、確カニソノ通リダ」

「お判りいただけたようで幸いです。お二方が話せないのはアインズ様にご理解いただくには余りにも愚かしい事が原因だったのです」

「フム…………。マルデデミウルゴスト話シテイルヨウダ」

「デミウルゴス様であれば一言二言で伝えられることを、私は十や二十も重ねなければなりません。私が及ぶべくもない方です。ですが、これ以上の評価はありますまい。ありがとうございます」

「ウム、続ケヨ」

「はっ」

 

 守護者の一であるコキュートスをあっさりクリアー。

 男は滔々と話し始めた。

 

「例えるならば、片や足の速さを誇り片や絵の上手さを誇る。そして両者が競いたいのは料理の腕でした。しかし足の速さと絵の上手さで競えるものではありません。そのくらいはお二方にもわかっています。わかっていてなお競おうと思ってしまいました。それが原因です」

「………………なんだそれは?」

 

 アインズのみならず、聞いている者全員が同じ感想を抱いた。

 

「それがどれほど愚かしく理解しがたい事か、アインズ様にお伝え出来たかと存じます」

「理解出来ないのはわかった。しかしそれでどうして争うことになる?」

「女のプライドです」

「………………………………………………」

 

 それは問答無用で男を黙らせるパワーワード。

 

(お姉ちゃんわかる?)

(まあ……、わからなくもないけど……。シャルティアだってもちろんわかってるわよね?)

(わわわわかるでありんすよ? 女には譲れないものがあるでありんすからにして女のプライドが掛かった戦いなら仕方ないでありんしょう?)

 

 そして女を納得させてしまうマジックワード。

 

 

 

 

 

 

 今や御骨となった大魔法使いであり、かつては人間の魔法使いであったアインズ様には手も足も出ない分野でした。

 しかしここで「はいそうですか」とは言えません。

 そんな事を言おうものならこんな場を設けてしまった自分の沽券に関わりシモベ達に呆れられてしまうかも知れないと考えています。

 

「そもそもお二方は自分たちの争いがこのような騒ぎになるとは思ってもみなかったのだと存じます。私が知る限りでも、アルベド様とシャルティア様は度々意見を異にしておられます。その結果、相互理解のためにぶつかることが少なからぬかと。ソリュシャン様とルプスレギナ様の衝突はその範疇。お二方は姉妹喧嘩の域を出ていないと思っておられるでしょう」

 

 アルベド様とシャルティア様はそっと目逸らし。

 アインズ様も守護者各位もプレアデスも一般メイドもその他のシモベ達も、この場にいる全員がアルベド様とシャルティア様のキャットファイトを一度ならず目撃していました。

 それを言われてしまうと、あれはよくてどうしてこっちはダメなんだとなってしまいます。ダブルスタンダードはよろしくありません。

 あちらは偉い方たちだからと言う事にしても、偉い人の真似をした初めての過ちで厳罰を与えるのは誰が見ても行き過ぎです。

 

「…………アルベドとシャルティアのは単なるじゃれ合いだろう。しかしソリュシャンとルプスレギナはスキルも魔法も使用していた。同列には扱えん」

 

 アインズ様がご覧になっていた僅かな時間でも、ソリュシャンとルプスレギナはスキルと魔法をフル活用した全力全開のバトルを繰り広げていました。あれは間違いなく相手を殺傷するための攻撃です。

 男の言葉に納得しかけましたが見逃せません。

 

「それこそが互いを深く理解し信頼し合っている証左に他なりません。例え相手を全力で攻撃しようと傷つけることが出来ないと理解した上での争いです。もしも本当に傷つけようと望んだとしたら違う方法を考えたことでしょう。例えば、エ・ランテルにはナーベラル様が滞在しておりました。ナーベラル様の助力があればどちらへも転び得ます」

「…………お前はただの姉妹喧嘩と見做すのか?」

「喧嘩と呼ぶよりはより深い相互理解のための衝突と思っております。現にお二方には傷一つありませんし」

「………………ふむ」

 

 一々尤もで反論のしようがありません。だけれども、何かが引っかかるのです。

 アインズ様は石橋を叩いて渡るどころか、安全マージンを十分とった橋を新設して他の誰かに試しで渡らせてから自分が渡るくらい慎重な御方です。

 性格的に気掛かりを放っておくわけにいきません。

 そしてその気掛かりは男の口から得られました。

 

「ただ…………、もう少し周りを見て欲しかったと言いましょうか場所を選んで欲しかったと言いましょうか、屋敷の庭が……まあ、それは酷い有様になってしまいまして。メイドたちには冒険者に場所を貸して夜間訓練を行っていると言い含めてきましたが……。夜間であることが幸いして目撃者はおりません。ですが中庭の復旧作業が夜明けまでに終わるかどうか。そこだけは私から注意しておくべきだったと反省しております」

 

 アインズ様の気掛かりはそれだったのかも知れません。

 ルプスレギナが人狼パワーで暴れた結果、立派な庭木が何本もへし折れてしまいました。

 ソリュシャンがスライムスキルを惜しげもなく発揮したおかげで小さな毒沼が幾つも生まれています。

 現在、デスナイトの方々が夜通しの復旧作業に勤しんでいる最中です。

 アルベド様とシャルティア様がキャットファイトをしてもメイドがちょちょっと掃除をすれば済みますが、こちらはその比ではありません。

 

「そうだな。姉妹喧嘩もいいが後の事を考えよ」

 

 バカ二人、首を一層深く垂れて元気よくお返事しました。

 お許しの言葉やったぜでございます。

 

「後の事はアルベドに任せよう。女同士の方が話しやすいこともあるだろう」

「かしこまりました」

 

 そして地獄行き決定の裁決が下されました。

 

 アルベド様はアインズ様のお傍に侍っているのでたおやかな笑みを浮かべてはおりますが、内心は煮えたぎっていました。

 本日は特別なお食事の日だったのです。

 当初の予定では、今頃エ・ランテルのお食事部屋でエロエロでれろれろのぐっちょぐっちょに濃厚なすぺっしゃるディナーを楽しんでいたはずなのにこのような沙汰になっているのです。

 ナザリックにおける慈悲と慈愛の聖母であられるアルベド様であってもちょっと許せません。

 でも大丈夫です。多少やり過ぎてしまっても回復魔法のエキスパートであるペストーニャがいます。

 リザレクションが大活躍です。

 

 

 

 

 

 

「ところでお前がナザリックに足を踏み入れるのは初めてだったな。何か感想はあるか?」

 

 アルベドの心中を知らず、心で泣いてるソリュシャンとルプスレギナも知らず、アインズ様は男へ問いかけました。

 蓋を開けてみればただの姉妹喧嘩だったのに大袈裟にしてしまった照れ隠しです。ナザリックは素晴らしいところだろうと自慢したい気持ちも大いにあります。

 

「ここは人が足を踏み入れてよい場所ではありません。ナザリックからいらした方々から話だけは聞いておりましたが、私の想像からは隔絶しておりました」

 

 実を言うと玉座の間に連行されて最初に思ったのは「天井すげえ高いな」だったのですが、さすがにそれは子供っぽすぎる感想と我ながらに思うので言い繕いました。

 

「私は王都に長く、王城や宮殿を見知っております。ですがナザリックとは比較になりません。広い、その一事であっても人が作り出せるものではありません。ナザリックの素晴らしさは言葉に尽くせるものではないでしょう」

「うむうむ」

 

 ナザリックを愛しているアインズ様です。

 とりあえずナザリックを褒めとけば好感度だだ上がりなちょろいお骨なのです。

 

「しかしだからこそ! 美しく荘厳であり、これまでに、そしてこれからも二度と存在することがないであろう素晴らしい場所であるだけに、決定的に欠けているものがあると愚考します」

 

 

 

 場が静まり返った。

 アインズ様のご裁決により落ち着き始めた空気がたちどころに張りつめた。

 破裂寸前まで充満されたのは怒りである。

 ナザリックを侮辱されて許せるものはこの場にいない。

 しかし、シモベ達の怒りは形をもって振るわれることなく張りつめたまま。

 

「………………何が足りないと言うのだ?」

 

 アインズ様である。

 ナザリックを愛しているアインズだ。

 しかしだからこそ、ナザリックを侮辱するものは誰であろうと許しはしない。

 ナザリックは、今はもう会えない掛け替えのない友たちと創り上げた青春の結晶なのだ。

 ナザリックへの侮辱はアインズへの侮辱を遥かに超え、ギルメンたちへの友情と青春の年月を汚すに等しい。

 あれがアルベドが大切にしていようがソリュシャンとルプスレギナが惚れ込んでいようが知ったことではない。

 死が慈悲となるほどの苦痛に叩き込まなければ気が済まない。

 せめて最後の言葉を吐かせてやろうと猶予を与えた。

 

「これが王宮や帝都の宮殿であればただ素晴らしい美しいで終わりです。しかしナザリックは違います。存在しうる最上の美を擁するべきなのです!」

 

 静かに最後の言葉に耳を傾けるシモベたちの中で、ソリュシャンだけはまさかと思った。

 

「……ほう? お前が考える最上の美とは何だ?」

「アルベド様の像です!!」

 

 男は力強く言い放った。

 ソリュシャンは、お兄様ってほんとお兄様と天を仰ぎたくなる気持ちを押さえた。

 

 アインズは何も言えなかったし何も出来なかった。

 誰も動かない何も言わない。ああそうか誰かがタイムストップを使ったんだな俺は時間耐性あるから皆が止まってるのはおかしくないし。

 

「ナザリックに欠けている最後のピース。それはアルベド様の美神像です!!」

 

 止まっているはずの時間の中で、男の声が高く響き渡った。




今回のユニイベは俺一人で良かったんじゃないかくらい頑張ってました
前回ちょっとさぼったもので
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