※この作品はR-18です。

アルベドのお食事   作:dolph

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女たちの法廷

 そして夜が明けた。

 

 ナザリックはアインズ様の遠征のための準備に戻り、エ・ランテル組もアインズ様の居館へ或いはメイド研修所となったアルベド様のお食事処へ戻っていった。

 ソリュシャンやルプスレギナら異形種は数日程度は不眠不休で活動可能だが人間はそうもいかない。

 連行された三人の内唯一人間であったお屋敷の若旦那様は屋敷に戻るなりベッドに直行し、起き出したのは昼近くになってから。一昨日と全く同じパターンで生活リズムが夜型になりつつあるのを気にしている。

 食事をとったら書斎で読書。デミウルゴス様からの課題図書を一息に片付けるつもりでいた。

 提出するレポートの作成に一日かかるとして、明日は一日ずれたアルベド様のお食事日となったので明明後日にはナザリックの最古図書館に行けるはずである。

 物凄くワクワクしながら右手の指が腱鞘炎になるのも構わず凄い勢いでページを捲っている。もしも腱鞘炎になったらルプスレギナに回復してもらえばよい。ルプー最高愛してる。

 

 ちなみに荒れた中庭の復旧はちょっぴりイメチェンしたがなんとか夜明け前に間に合った。いい仕事をしたデスガードの方々へ特別手当を出したいところであるが彼らはアンデッドであるためそのような気遣いは無用であった。

 

 

 ルプスレギナは、若旦那様のすぐ傍でにっこにっこしながら読書風景を眺めている。

 お婿さんになってもらって赤ちゃん産むっすよーと宣言するくらいなのだから好感度は非常に高かったがこのたび上限に達した。

 セバス様に根回ししてお兄様のお嫁さんになろうと考えていたソリュシャンなどは限界突破してしまった。

 

 昨夜の一件の影響である。

 派手に姉妹喧嘩をしてアインズ様に止められ、事情聴取のためにナザリックへ連行される寸前、お兄様は「私もいた方がいいでしょう」と手を挙げたのだ。それだけでなく、アインズ様からは見えないように二人へ向けて目配せし唇の前に人差し指を立てた。

 自分が弁明するので二人は黙っているようにとのジェスチャーであると誤解することなく受け取った。

 二人はアインズ様へ偽りを申し上げるつもりは微塵もなかったが、自分たちよりも頭が良ければ口も上手いお兄様にお任せした方が誤解のない正しい情報を伝えられると判断した。

 その結果、アインズ様からお許しの言葉を与えられた。

 アルベド様からは厳しい叱責を与えられると覚悟していたが、こちらも「姉妹喧嘩をするならあの子に迷惑を掛けないようにしなさい」と非常にお優しいお叱りの言葉で終わってしまった。その時のアルベド様がどれほど優しかったかと言うと、色々あってアウラ様とのキャットファイトに敗北したシャルティア様がその様子を見て、「気味が悪いでありんすね」とこぼされるほど。

 その後にアルベド様とシャルティア様の戦いが始まるのはいつもの流れである。

 

 喧嘩の原因となったのは兎も角、わざわざ二人の弁護をする必要はなかった。

 アルベド様が大切にしている御食餌であろうと、無力な人間であるお兄様にはソリュシャンが気付いただけでも5回以上は命の危険があった。

 そんな危険を冒してまで自分たちの弁護をしてくれたのだ。

 人狼であってもスライムであっても胸キュンしちゃうのは無理もない。

 

 ちなみに大演説が終わった後、回復魔法のお世話になっていたのを姉妹とお茶をしていた二人は知らないでいる。

 誰かに危害を与えられたのではなく、ナザリックにはそこにいるだけでダメージを負ってしまう場所が幾つもあるのだ。男を連れ回していたコキュートスとマーレがペストーニャから叱られてたりするのは余談である。

 

 

 ソリュシャンは、ぽーっとしながら愛しのお兄様が本のページを捲っているのを眺めている。

 本なんかではなく自分を見ていて欲しいが邪魔をしたくないジレンマ。

 しかし、己のつまらぬ葛藤よりアインズ様からのご命令を優先しなければならない。

 お兄様につまらないことを訊かなければならない。もちろんアインズ様のご命令がつまらないわけではなくてどうして今になって自分がそれを訊かなければならないのかと言う事だが自分がお兄様と一番親しいと思われているからこそ自分に下った命令であって云々。

 意を決して尋ねた。

 

「お兄様は人間をどう思っていらっしゃるのですか?」

「人間は人間だと思ってるよ」

 

 安定のお兄様クオリティ。ルプスレギナは思わず顔を引きつらせたがソリュシャンはこんなことで負けはしない。

 

「もう少し詳しくお願いします」

「牛馬や犬猫と同じ生き物の一種だと思ってるよ」

 

 ページを捲る手は止まらず、問いかけてるソリュシャンの方を見もしない。しかしソリュシャンはまだめげない。

 

「それでは人間に好意を持っていますか?」

「相手によるね。メイドの子たちには世話になってるし、この前店を開いたパン屋のウィットニーさんは尊敬に値する。あんな質の低い小麦粉であれほど美味しいパンを作れるんだから。魔導国から提供される上質な小麦粉を使えばどんなのが出来るのか楽しみにしてるよ」

「ああ、あのパン屋の。確かに王都で食べたものよりも……いえそうではなくて、ああもうなんて聞けばいいのかしら……」

 

 質問力は非常に重要。疑問とは知識の山に突き立てるスコップのようなものである。

 

「それじゃ人間が苦しんでたらどうするっすか?」

「それも相手によるね。さっき言ったようにメイドの子たちだったら何とかしたいと思うよ。そうでなければ別にどうでもいいかな」

 

 ルプスレギナにバトンタッチ。しかし相変わらず木で鼻を括ったような素っ気ない返事。

 割と二人が望んでいる答えに近いような気がしなくもないがなんか違う。

 

 

 二人へこのように面倒な命令をアインズ様が下したのは昨夜の大演説の後が原因です。

 ソリュシャンとルプスレギナは姉妹とお茶をして長女のユリ・アルファ様からお小言をもらったりしていましたが、若旦那様はシャルティア様に拉致られようとしたところをアウラ様に助けられマーレ様に匿われコキュートス様と意気投合してナザリックを案内してもらっていました。

 ちなみにシャルティア様が拉致ろうとしたのは配下のヴァンパイア・ブライド達へ若旦那様から舌や指のテクを教えさせようと思ったのですが、吸血鬼がねぐらへ人間を連れこむとなれば吸血するに決まっていると思ったアウラ様によって「あんたなにやってんのー!」と正義のドロップキックによって阻まれたのでした。

 若旦那様はコキュートス様とマーレ様の案内でコキュートス様が守護しているナザリック第5階層「氷河」に連れていかれて凍死しかけ、ペストーニャ様のお世話になったのは先述したとおりです。

 なんとか事なきを得て、凄い凄いと連発する若旦那様にコキュートス様とマーレ君もにっこりでした。マーレ様からマーレ君になったのは、ここから若旦那様がマーレ君を肩車したからです。「子供扱いは止めてください!」とマーレ君からクレームがありましたが、「マーレ様が大人でもしましたよ」とあっさり受け流します。大人が肩車されていけない法はナザリックにもないのです。

 そういうことならとマーレ君は受け入れて、いつもより高い視線に割とはしゃいでいました。なんだかんだとカルマ値が中立よりなマーレ君ならではです。

 先導しているコキュートス様はヴァーミン・ロードの凶相にも関わらずカルマは中立から善よりです。なんだか楽しそうだなとほっこりしながら眺めていました。

 そこで事件、というほどのものではないのですが、あるものを若旦那様が目撃したのが発端です。コキュートス様の守護階層には先だってゲヘナ作戦の折りに捕獲した王国民を冷凍保存してあったのです!

 それを見て若旦那様は一言。

 

『衛生的でいいですね』

 

 嫌悪も恐怖もない言葉で、むしろ感心した様子でした。

 コキュートス様とマーレ君は若旦那様の態度にこれと云って何も思いませんでしたが、報告を受けたアインズ様は違いました。あいつは人間なのに一体何を考えているんだ。

 若旦那様の真意を探るべくソリュシャンとルプスレギナに命令を下したのでした。

 

 

 二人がどう聞くべきか思いあぐねているのをシクススがじとーっとした目つきで見つめている。

 数日振りにメイド教官が回ってきたと思ったら何故かルプスレギナ様がいて、若旦那様にとても馴れ馴れしい。昨夜の顛末をほとんど知らないシクススからすればとても不思議と云うより不審である。

 若旦那様が恥ずかしい思いをしないようにお手伝いを始めたのは遊び半分好奇心半分だったというのに、意外と一途で重い女の子なのかも知れない。

 

 三者がそんなことになっているのを知らず、知ったとしても構わずに本を読み続け、最終ページを読み終えた男はようやっと視線を机から上げた。

 読書中だったので生返事だったが、何を聞かれたかは記憶にある。折角目を上げたのでもう少し詳しく話すことにした。

 

「俺は子供の頃に酷い火傷を負わされずっと狭いところに閉じこめられていた。そんな生活が続いて色々と諦める羽目になったけど子供の頃は助けて欲しいと思ってたよ。窓の外にも壁の向こうにも人がいっぱいいるのは知ってたから。でもそんな日は来なかった。今振り返ると俺は奥深いところに隠されていたから仕方ないとは思う。しかし仕方ないからと言っても考えが変わるわけじゃない。だから、俺は人間になんの期待もしてないよ。何か期待されても応えるつもりはない。こんな答えでいいかな?」

 

 いつものルプスレギナなら、へーっと流すところだが、未来のお婿さんがそんな目にあわされていれば許せない。

 

「誰がやったんすか?」

「アルベド様はご存知だよ」

 

 アルベド様のお名前を上げたと言うことは全てはアルベド様にお任せしていると言うこと。ルプスレギナが出る幕はない。

 

「憎くはないのですか?」

「ないことはないけれど、もしも復讐なんてしたら、あれは何をされても喜ぶだろうし余り興味ないかな。そんなつまらないことよりもどうしたらアルベド様にもっと喜んでいただけるかの方がずっと大切だよ」

 

 アルベド様のお名前を上げられると何も言えない。ソリュシャンとて自身の復讐心よりアインズ様がお喜びになることを選ぶのは間違いないのだから。

 

「ありがとう」

 

 シクススが出してくれた甘いお菓子を口に運び、次の一冊に手を伸ばした。

 

「そのおかげでアルベド様にお会いすることが出来たし、アルベド様にお悦びいただける技術も身に付けられた。悪いことばかりじゃなかったかな」

 

 本を開き始めた若旦那様は空気が一変したのに気付きませんでした。

 お兄様がアルベド様にお悦びいただくために何をしているのか見てはいないが察してはいるソリュシャンお嬢様です。

 

「女性だったのですか?」

「そうだよ」

 

 読書に戻ったので深く考えることなく生返事。

 

「……美人だったんすか?」

「まさか。アルベド様とは比べるべくもない貧相な小娘だよ」

 

 比較対象にアルベド様が上げられる時点で相当な美貌なのだと察せてしまう。

 

「閉じ込められていたのはどのくらいの期間だったのでしょうか?」

「十年はあったと思うな。子供の頃は暦なんて知らなかったから正確じゃないけど」

 

 三人は若旦那様から離れてひそひそと若旦那様の罪について話し合った。

 

 ソリュシャンはお兄様がかなり女体慣れしていることを随分前から気付いていた。

 ルプスレギナはおにーさんの滅茶苦茶上手なセックスでメロメロになってしまった。

 シクススはそうでもないかも知れないけど、挿入してちょっと裂けちゃったところへポーションと一緒に再挿入されて若旦那様専用に作り替えられてしまった。

 

 三人寄れば文殊の知恵。知力がそれなりでも三人集まればいい知恵が出てくるという意味である。

 三人がたどり着いた結論は、この男は何年間も絶世の美少女とセックスしまくりだったと云うこと。

 

 こいつはかなりのギルティである。

 

 

「お兄様」

「なにかな?」

 

 書物に目を落としたまま、振り返りもせずに答える。

 しかし今度は読書を続けさせてくれず、ソリュシャンに肩を掴まれスライムパワーで椅子から立たされた。

 ソリュシャンの美しい微笑を見て、ドレスを脱ぎ捨てた一糸まとわぬ姿でいるのを見て、何をしようとしているのか察してしまった。

 

「待て! 止めてくれ! 俺が悪かった! 謝るからそれだけは止めてくれ!」

「聞きません。お兄様はアルベド様からあれだけお叱りの言葉を頂いたのに何も反省なさらないのですね」

「くそっ、ソリュシャン謀ったな!? ルプー! シクスス! ソリュシャンを止めてくれ!」

 

 若旦那様の必死な様子にルプスレギナとシクススは思わず顔を見合わせて、ソリュシャンに溶かされるのがどれほど痛いのか昨日味わったばかりのルプスレギナはちょっと可哀想かもと思ったが時遅し。

 

「うわーーーーーー………………」

「うふふ……、お兄様はソリュシャンの中でしばらく反省してくださいな♪」

 

 若旦那様はソリュシャンお嬢様の体に丸飲みされてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンがお兄様を吐き出したのは日が落ちてから。

 いつぞやと同じように頭と胴体だけの体にさせられ、回復のために同席したルプスレギナはかなり引いた。ちょっとショッキング映像なのでシクススには遠慮してもらっている。

 そんな様でも回復魔法で元通り。

 しかし、完全に元の姿に戻ったというのにお兄様は床にうずくまったまま動こうとしない。

 やりすぎてどこか壊れちゃったのかもとルプスレギナは心配になったがやっちまったソリュシャンは動じない。

 

「うう…………、今日は一冊しか本が読めなかった……」

「それっすか!?」

「一日一冊しか読めないと死ぬまでに100万冊しか読めないんだぞ!」

「いやそれ何年生きるつもりなんすか……。そりゃ長生きしてくれたら嬉しいっすけど」

「反省なさいましたか?」

「…………………………はい。反省しました」

 

 心の中では俺は絶対に悪くないと思っているが、女心にそんな道理は通用しないと気付き始めていた。

 

 そんな風につつがなく一日を過ごし、夜を迎えた。

 回復魔法で万全になったが体調は最高に整えておく必要がある。

 美味しい夕食をとり、食休みをして、しばしとろとろとうたた寝し、湯を浴びて身を清める。洗い立ての清潔なナイトガウンを羽織り、その時を待つ。

 

 

 

 

 

 

 そして日付が変わった。

 アルベド様がいらっしゃる夜である。

 

「お待ちしておりました」

 

 日付が変わってから十も数えていない。

 エ・ランテルの大きなお屋敷の一等豪華なお食事部屋に、影すらも美しいお方がお出で為された。




モモンに扮したパンドラがとか考えましたがそれやると今度こそ人死にが出そうなのでやめました
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