ヴァンパイアブライドとは名前通りの吸血鬼である。
ナザリックのモンスターでは珍しく非常に美しい成人女性の姿をしている。吸血鬼であることからわかるように、真祖の吸血鬼であるシャルティアのシモベである。シャルティアとは対照的に胸も尻も豊かである。そのことを指摘するとシャルティアによる大虐殺待った無しなのでアルベド以外に口にする者はいない。
彼女たちもナザリックの一員ではあるが、至高の御方々に創造された存在ではなく地下大墳墓ナザリックの不思議な力によって自然と発生する存在であるため扱いは割と酷い。それでもナザリックのシモベであることに変わりはなく、彼女たちは至高の美の何たるかを知っている。先だってアインズ様が仰せになられたように、ナザリックは美しいもので満ちているのだ。
そんな彼女たちの目からしても、シャルティアが連れてきた男は鑑賞に耐えうる。造形の妙を感じざるを得ない艶やかな美貌は、許されるならば時を忘れて見入っていたくなるほど。剥製にするにせよ氷像にするにせよ、美貌を保ったまま飾っておけば部屋の豪華度が100単位で上がるのは間違いない。
飾るのではなくシャルティア様がご褒美の血袋として持ってきたのならば、彼女たちの忠誠心は容易く三段階は限界突破する。近くにいるだけで美味しそうな好い匂いが漂ってくる。あの美しくも瑞々しい肌に牙で傷を付け、滲み出る鮮血に舌を這わすことを想像するだけで口内に唾が湧いてくる。あんなの美味しいに決まってる。
しかし、である。
『この者共へお前の手マンとクンニを教えてやってくんなまし』
ヴァンパイアブライド達はシャルティアのシモベであると同時に、同性愛者でもあるシャルティアの愛妾でもあった。
シャルティア様のお言葉は人間の男へ肌身を許し、体を任せよと云うこと。シャルティア様のご命令に抗ってよい法はない。命令には従わねばならない。しかし下等な人間の男なのだ。栄えあるナザリックの一員として屈辱は甚だしい。もしや何か御不興を買ってしまったのではと勘ぐってしまう。
この場にいる六名のヴァンパイアブライド達はアインズ様の遠征に付き従うよう命じられた、謂わばエリートヴァンパイアブライドである。シャルティア様からのご命令による困惑は即男への反感となって、殺意寸前の鋭い視線を男へ投げ掛けさせた。
どうしてこうなっていると言わざるを得ない。きっと誰もが賛同してくれることだろう。
エ・ランテルの屋敷からシャルティアの魔法によって連れられた場所は、カルネ村から北東に少し離れたナザリック表層部。出迎え用のログハウスから慌てて顔を出す美しいメイドへシャルティアは軽く言葉を交わし、徒歩でナザリック内へ。
しかし男はガウンを引っかけただけの姿。素足である。シャルティアに抱っこされ、内部へ入ったら再度ゲートの魔法。そこはナザリック第二階層にあるシャルティアの居室「屍蝋玄室」であると聞かされた。
古い時代の神殿を淫靡に染め上げた空間はナザリックの階層守護者に相応しく豪奢であった。むせかえるほどの甘い香りに少々目眩を感じたものの、すぐに慣れることが出来た。
そこで迎えたのはシャルティア同様の青ざめた肌を持つ女性たち。おそらくは吸血鬼。十数名はいたであろう彼女たちは跪いて恭しくシャルティアを迎え、内の六名を残して後は部屋の外へ追い出された。
はて何だろうと思ったら手マンとクンニリングスと来た。彼女たちの視線が鋭くなる。当然である。
如何に上位者からの命令であろうと、見知らぬ男からそんなことを教えられたくないだろう。言葉で教えられるものではないため実技が必要となる。と言うことは実技の対象に彼女たちのいずれかが選ばれると言うこと。
彼女たちはされたくないだろうし自分だってしたくない。さっきまでシャルティア相手に散々やってきたばかりで、美しい女性を見ても中々そんな気分になれない。
よって、シャルティアを説き伏せることにした。
「お言葉ですが、此方の方々よりも私の技術が優るとは思えません。技術の伝達は必要ないと具申します」
「あ? どうしてお前にそんなことがわかる? された私がそう言ってるんでありんすよ?」
跪くヴァンパイアブライド達はされてんのかよと思ったが口にはしなかった。
「技術ではなく知識が必要なことだからです。私は今までの経験からシャルティア様がお悦びになるところに見当がつきました。此方の方々はシャルティア様と過ごされた時間が私よりも長く、また女性であることから繊細な手付きでシャルティア様に触れるのだと思えます」
「……………………ふむ。じゃあどうしてお前の指の方が気持ちいいでありんすか?」
「知識の他に必要なことがもう一つ。それは、心遣いです。どのようにしてお悦びいただくか、真摯に考え続ければ自ずと手付きが変わってくるものです。おそらくはそこが一番の違いかと愚考します」
「…………つまり、こういうことでありんすか? こいつらは、私への心遣いが足りないと? 私を悦ばそうと思ってないと? こいつらは、私を、軽んじていると。………………そういうことでありんすね? 貴様ら……、よくも私をおおおおおぉおおぉお!!!!」
ヴァンパイアブライド達は深く平伏し、額を床に擦り付けた。とんでもないことを言ってくれた男へ怒りを覚えるどころか、シャルティア様の殺意を伴った怒りに体が勝手に震え始める。
自分たちは間違いなくシャルティア様から殺される。せめて殺される前に誤解を説きたいのだが殺意に絡め捕られて舌が回らない。
「シャルティア様、それは全くの反対です。彼女たちの忠誠が揺るぎないのは初めてお会いした私にもわかります。彼女たちの心ではなく、シャルティア様のことなのですよ」
「………………ほえ? ど、どういうことでありんすか!?」
シャルティアの怒りは霧散し、代わって困惑を誤魔化す咎めの声が男へ向けられた。
「少したとえ話をしましょう。アインズ様がおじいちゃんになってシャルティア様に肩叩きを頼んだとします」
「お前は知りんせんようでありんすが、アインズ様のお骨はとっても若々しいでありんすよ?」
ネクロフィリアでもあるシャルティアは骨だけの姿であろうと骨密度から大体の年齢を察することが出来るのだ。お骨だからおじいちゃんと思うのは素人である。
なお、肩叩きは「君クビね」の隠語である。アインズが聞いたら遠い目をしてお空の彼方を見つめたことだろう。
「そんな元も子もないことを言わないで下さい。たとえ話と言ったでしょう。それともなんですか? シャルティア様はアインズ様とのスキンシップを放棄して肩こりは魔法で癒せばよいと仰いますか?」
「そそそそんなことは言ってないでありんしょう!?」
「でしたらもう少し聞いていて下さい。シャルティア様はアインズ様の肩叩きをします。ところが力加減が強かったようでアインズ様からお叱りの言葉を受けてしまいました。では問題です。次に肩叩きを頼まれたとき、シャルティア様は強く叩きますか? それとも弱く叩きますか?」
「お前はバカでありんすね。弱くするに決まってるでありんしょう」
「ぶー。不正解です」
「なんだと!?」
男はやれやれと言わんばかりに首を振った。
自信を持って答えたのに不正解と言い渡されたシャルティアは色々なボルテージが上昇している。
「重ねてお聞きします。シャルティア様が弱く叩こうと思ったのは何故ですか?」
「アインズ様は強く叩かれるのを好まれないからでありんす。叱られたくないでありんすから」
「そう。そこが問題なのですよ!」
男は大仰に手を振った。芝居じみた言葉と仕草にヴァンパイアブライド達も思わず頭を上げる。
「アインズ様のお望みは弱く叩かれることではなく肩凝りの解消です。そこでシャルティア様が勝手に萎縮して弱く叩くのではいつまでたっても肩は凝ったままです。おわかりでしょうか? お叱りの言葉を恐れるのではなく、アインズ様が真にお望みのことを考え続けることが正解なのです」
「なん・・・だと・・・。でも、それじゃアインズ様にまた叱られちゃうでありんしょう!?」
「それを恐れるなと言っています。ですが、何度も叱られれば萎縮するのは道理。シャルティア様の先の振る舞いから、此方の方々を厳しく指導するのは頻繁であると推察します。それでは思い切ったことが出来なくなってしまいます」
おそらくはアインズも男の言葉に賛同する。曰く、部下は誉めて伸ばせ、である。
「我が事になりますが、私もアルベド様へのご奉仕に決断した事が幾度かあります。無論熟慮の上ですが、まかり間違えば死を賜ったことでしょう。いえ、正直に申しましょう。もしも間違えたとしても、お優しいアルベド様ならば厳しい罰は下されないであろうと甘えがありました。私がアルベド様を信じることが出来たのはアルベド様がいつもお優しかったからです」
「むむむ………………」
おバカおバカと言われるシャルティアであっても、ここまで言われたらわからざるを得ない。
つまり、シモベをもっと優しく扱えと言うことである。
シャルティアは自身の気性が激しいことを自覚しているし、ヴァンパイアブライド達は例え死んでも勝手に湧いてくる。自然、扱いはかなり荒くなった。
「シャルティア様が寛恕をほんの少し示すだけで彼女たちの手付きは自ずと変わってきます。わざわざ私が指導する必要はありませんよ」
「………………むう」
シャルティアは完全に言いくるめられていた。色々と自覚があったからこそ納得してしまった。
どうやらこれで一件落着。
それじゃ図書館に連れてってもらおっかなーと男が考え始めた矢先である。跪くヴァンパイアブライドの一人が決意の眼差しで顔を上げた。
「恐れながら申し上げます。その者の言葉は尤もであるかも知れません。ですがシャルティア様が私どもを不足と思われたでしたら、それもまたその通りであると思われます。私どもの技術を磨くために、どうか手マンとクンニの実技指導を賜りたく。先ずは私の体にお願いいたします」
(なにぃ!?)
それもまた道理である。
シャルティア様から惨たらしく殺されることを覚悟していたら免れる事が出来た。さらには自分たちの扱いをもう少し優しくすべきと具申し、シャルティア様は一考しているご様子。
そこまでされたらつまらないプライドで、たかが人間の男に、と吐き捨てることは出来ない。シャルティア様は、この男は自分たちより上手であると思っておられることでもあるし。
男はシャルティアを宥めることだけを考えていたため、その過程でまさかヴァンパイアブライド達からの好感度を稼ごうとは思ってもみなかった。だから頭がいいバカと呼ばれるのだ。
「そっ……そうでありんすね。それはそれでありんす。そうだったとしても練習は必要でありんすから!」
「……かしこまりました」
シャルティアに促され、先ずはヴァンパイアブライドの一人が十人は同時に眠れるような広い寝台に上がり、続いて男が。
ヴァンパイアブライド達は誰もが似た薄衣に身を包んでいる。簡素でありながら美しく扇情的な装いで、乳房の中央部を帯が覆い、下半身はスカートではなく前後に幅広の帯を垂らした形。帯は腰から前後に分かれているため、横から見れば太股どころか腰まで見える。もちろんへそも見える。肩に鎖骨はむき出し。服と言うより帯とか布と呼びたくなる。
どこから見ても下着らしきものは見えない。着けてないようである。
「……お願いします」
仰向けに横たわって両膝を立てるM字開脚。自分の手で股間を隠す前垂れをめくり上げる。やはり着けてなかった。
蒼白の肌をこの時ばかりはうっすらと染め、真紅の瞳はぷいと逸らした。
やるしかなかった。
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「火急にて斯様な無礼をお許し下さい」
窓から飛び込んできた二人の姉妹にナーベラルは面食らった。
ここにいるのは漆黒の英雄モモンと美姫ナーベ。しかし、二人の前でプレアデスのソリュシャンとルプスレギナが跪いている。
「……モモンとナーベではなくパンドラとナーベラルに用がある。そう言うことですか」
「はっ」
この場にいるのはモモンに扮するパンドラズ・アクター。アインズが直々に創造した存在であり、ナザリック内にてアルベドとデミウルゴスに伍する頭脳を持つ。二人の振る舞いようからある程度のことを察していた。
パンドラの推測を補足するようにソリュシャンが説明する。
エ・ランテルに囲っていたアルベド様のお食餌がシャルティア様に連れられてしまった。もしも吸血されて転化してしまえばアルベド様のお食餌としての役割を果たせなくなる。何としても避けたい事態であるため、マーレ様に連絡をして男の保護をお願いしたい。
「私はその者に会ったことはありませんが、アインズ様から中々に面白い男だと聞いております。アルベドが大切にしているとも聞いていました。シャルティアが目を付けたのならきっと血液も美味なのでしょう」
「かねてアルベド様が味見を許した際に、自分に欲しいと飛びかかったと聞いております」
「……アルベドとシャルティアが対立したら割って入るのはかなり骨です。何とかして防がないと面倒なことになりますね」
モモンの姿のまま思案するパンドラを余所に、彼の男の危機と聞きナーベラルは落ち着かずに体を揺らした。あの男はナーベラルも割とかなり気に入っているのだ。
「私からアウラにメッセージを飛ばしましょう。ナーベラルはマーレへ、アウラに従ってその男を匿うよう伝えなさい」
「はっ、直ちに」
何とかなりそうな目途が付き、ソリュシャンとルプスレギナは一息付いた。しかし、まだ予断を許さない。
二人はパンドラの指示の元、連絡係としてナーベラルを伴い屋敷に戻ることになった。
一方そのころ、四人が助けようとしている男は四人目のヴァンパイアブライドをよがらせていた。
さぶたいてきとうですんません